|
■オープニング本文 ※このシナリオはパンプキンマジック・シナリオです。オープニングは架空のものであり、DTSの世界観に一切影響を与えません。 その日、アル=カマルの開拓者ギルドでは悲鳴が響いていた。 悲鳴に色を付けることが可能なら、主に黄色。 「デザートゴーレムが出たーーーーーーっ」 最初の悲鳴染みた報告はそれ。 続いたのが、黄色い悲鳴で、特に女性のものが多かった。 「種類は?」 「大きさも重要よっ」 「何体いるの?!」 報告した者を皆で小突き回しかねない勢いだが、相手は皆が欲しい情報をきちんと心得ていた。 「数は十五体から二十体。大きさはいずれも最上級。種類は色々!」 「「「「「「「よっしゃー!」」」」」」」 この報告に、握り拳を宙に突き上げて威勢良く叫んだ者は、多分開拓者ギルドにいた全員だろう。 そう、係員達も浮き足立って、普段は貸し出しを渋るような装備も色々持ち出してきている。 「はい、砂龍の貸し出し札、早い者勝ちで〜す」 「お土産期待してますよ〜」 「「「お・み・や! お・み・や!」」」 事情を知らぬ者が見たら、一体何事かと思う状況だが、ここにいる者達は全てを了解している。 そして、次々と出発しようとしている中、最初の報告をもたらした者が、『あ』と膝を打った。 「そういえば、中に何体か、今まで見た事がない黒っぽいのがいたよ」 「黒?」 「うん、こってりした黒」 なんだ、それとか口々に言いつつ、皆の足は止まらない。 久し振りのデザートゴーレム狩りである。遅れることなどあってはいけない。 その頃、デザートゴーレムの姿を発見した天儀出身の開拓者は。 「うーん、粒かこしか。そこが重要だな」 新種のデザートゴーレム『あんこ』を眺めて、唸っていた。 |
■参加者一覧
礼野 真夢紀(ia1144)
10歳・女・巫
アルネイス(ia6104)
15歳・女・陰
十野間 月与(ib0343)
22歳・女・サ
ティア・ユスティース(ib0353)
18歳・女・吟
プレシア・ベルティーニ(ib3541)
18歳・女・陰
エルレーン(ib7455)
18歳・女・志
雨傘 伝質郎(ib7543)
28歳・男・吟
熾弦(ib7860)
17歳・女・巫 |
■リプレイ本文 ●あまいもの、こわい? アル=カマルのとある砂漠で、雨傘 伝質郎(ib7543)は唸っていた。 「こわいこわい、たァ饅頭こわいってなもんだが‥‥」 はっきりきっぱり、前方をうろうろしている巨大饅頭積み重ねデザートゴーレムはそんなに怖くない。殴られたら痛そうではあるが、それよりは中身が零れてあんこ塗れになりたくはないと言うのが正直なところ。 そして、なにより。 「デザートゴーレム〜♪」 「おおおお〜〜〜!! ものすごく美味しそうな匂いがいっぱいするよ〜!!」 「やったぁあ! ひさびさのでざーとごーれむだ!! えへへ、この間は食べられなかったから、今度はたっくさん食べちゃうんだからね!」 飛び跳ね回りそうな勢いで、いや一部は実際にそうしながら、歓声を上げているお嬢さん達の方が迫力がある。別に礼野 真夢紀(ia1144)も、プレシア・ベルティーニ(ib3541)も、エルレーン(ib7455)も、顔立ちや体格に他者を圧倒するものなどない。いずれも可愛らしいお嬢さん達だが‥‥珍しい甘味を前にした彼女達は、下手をするとアヤカシ相手より気持ちが盛り上がっていた。 中には外見といい、態度といい落ち着いて見える娘さん方もいるのだが。 「今日はまた見事なデザートセットだねぇ〜」 「倒すのは大変ですけど、これだけの数のゴーレム達なら町の人達にも十分お土産をお届けできそうですね」 こちらも、うふふふふと楽しげに笑い交わしている。十野間 月与(ib0343)、ティア・ユスティース(ib0353)共に、外見に似合わぬ経験豊かな開拓者であることを考慮しても、強敵を前にした緊迫感とは別物の、楽しそうな会話と笑顔だ。 甘味好き、恐るべし。と、雨傘が今更なことを思っていると、彼の横を小柄な影が走り抜けていった。少しばかり高くなっている砂丘の上に仁王立ちしたのは、アルネイス(ia6104)だ。 ものすごい勢いで砂を駆け、凛々しい立ち姿を披露した彼女は、これまた勇ましく、正面を指差した。 「アレは伝説と言われるキング水羊羹ゴーレム!? その食感と完璧にコントロールされた甘味はゴーレムハンターがその生涯を賭けて追い求める事があると言われるキングゴーレムの1種‥‥まさかそんなレア種に出会えるとは!」 この叫びに、周囲からどよめきが起きたが‥‥主に『いやぁん、嬉しい』的な響きを内包している。 「新種、伝説‥‥少しは興味があるけれど、味わうにもまずは倒すところから」 落ち着いた風情の者がいるかと思えば、呟くことはこれである。しげしげとデザートゴーレムを観察している熾弦(ib7860)も、目的はどうあれ甘味を追い求める一人のようだ。 饅頭もちょっと怖いが、娘さん達の方がもっと怖い。 実はたいして甘味を欲しない質の雨傘は、心の中でそう呟いた。いっそ一足先に帰ってしまいたいが、ここで戦線離脱をしたら、何を言われるかも恐ろしい。 「刀があんこで鈍らねぇといいですがねぇ」 今度は口に出したら、デザートゴーレム運搬用の容器の山を傍らにおいている真夢紀が、キッチンペーパーを数枚くれた。準備は万端である。 アルネイスも紙を取り出したが、こちらは呪縛符だ。もちろん、最初の狙いはスーパーレア・キング水羊羹ゴーレム! 「えいっ♪ カエルさん達、あのゴーレムを捕獲しなさ〜い!」 練力の続く限り、どこまでも追いかけてやると言わんばかりの呪縛符大量投入。符が変化したカエルさん達が、一斉にキング水羊羹に殺到する。 それに遅れることなく、わーっと得物を構えた甘味狩人達がデザートゴーレムの群れに走り寄る。出足が鈍いのは、雨傘のように物見遊山気分や人に頼まれてやってきた、本人はあんまり甘味に興味がない人々だが‥‥ 「アイスゴーレムの保冷はお任せください!」 真夢紀はじめ、氷作成要員としてやってきた巫女達の声援を受けたら、行かねばなるまい。 ●スーパーレア・ゴーレム 巫女であっても、直接甘味を確保しようと頑張る者も、もちろんいる。熾弦は経験を積む目的もあって、デザートゴーレムの群れに近付いた。流石に直接的な攻撃は不得手ゆえ、力の歪みで足元を狙おうと思うのだが、さてどれを狙ったものか。 「運良く倒れたとして、誰かを巻き込んでもいけないし‥‥」 デザートゴーレムの数も多いが、ギルドが空になる勢いで飛び出してきた開拓者の人数も少なくない。案外と余裕がありそうだと、技の出しどころを考えていると‥‥背後に立った者がいる。 「伝説のゴーレムなんですよ〜」 「は?」 「キングゴーレムの、しかも水羊羹! 倒せるなら、倒してください!」 自分も頑張るから、協力して。 目をきらきらさせつつ、アルネイスが熾弦の背中に張り付いていた。手には斬撃符を持ってはいるものの、一人で前線に出るのは少しばかり抵抗がなくもない陰陽師。スーパーレア・ゴーレムの確保に、熾弦を巻き込もうとしているらしい。 なにしろ、スーパーレアでも呪縛符で行動力低下中。足が鈍った水羊羹より、他のゴーレムの足止めをと、うっかり皆して他のゴーレムに行ってしまった。呪縛符の効果が切れる前に、アルネイスとしては絶対に確保したい獲物なのに。 「私も足元を崩すくらいしか出来そうにないけど」 「デザートゴーレムは、核を壊すと行動が止まるのです。水羊羹ゴーレムの核は、大抵あの栗ですから、転倒させてくれればこれで」 指し示されて良く見ると、胸の辺りに黄色いものが埋まっている。栗と言われれば確かにそれっぽいが、大きさはアルネイスの頭くらいありそうだ。 「栗‥‥ねぇ。あのまま取れれば、随分たくさんの人が食べられそうだけど、どうなのかしら」 ギルドの職員はじめ、門まで見送ってくれた街の人々にもご馳走したい熾弦が、なかなか美味しそうな核について悩んでいると、事前の情報収集がばっちりのアルネイスが断言した。 「砕いてから、拾えば食べられます!」 でも出来るだけ砕け散らないように、気を付けなきゃ。 二人の目的は一致して、熾弦の力の歪みがキング水羊羹の足元に炸裂した。 ●プリン、ぷるぷる デザートゴーレムは、どれもとっても美味しいけれど、人にはそれぞれ好みがあって‥‥ エルレーンが大好きなのは、プリンだ。普通にお店で売っているプリンだって美味しいが、デザートゴーレム・プリンはどこの店でも真似できない絶妙のぷるぷる感がたまらない。 「あぁ、こんなところで待っててくれたのね」 前回デザートゴーレムが出現した時、エルレーンは遠方にいて、討伐隊にもその後のお茶会にも参加出来なかった。それはもう悔しくて悔しくて、今回はたくさんいただいてあげようと思っていた。 ゆえに、最初からデザートゴーレムの群れからプリンを探していたところ、ようやく発見したそれは、これまたレアなプリン・ア・ラ・モード・ゴーレム! 肩のアイスも、二の腕のウエハースも、当然胴体の大きなプリンに、頭のカラメルソースたっぷりプリンも素敵過ぎる。 ここは一つ、手足を落として、ゆっくりと切り分けて差し上げようと、手にした刀で渾身の一撃を見舞ったけれど‥‥退治するまでは固いアイス部分は、ぷるぷるんっとその刃を弾いてくれた。 プリンのくせに、むかっ。レアだからって、生意気な。 そんな気分にさせてくれる出来事だが、やはりプリンは彼女の口に入る運命だったようだ。 「熱せられた刃物なら、切り分けしやすいわよ」 大薙刀を閃かせた月与が、にっこり笑顔でプリンゴーレムの腕を切り落としてみせた。なるほど確かに、ちょっと温まった刃物だったら、するりと入っていきそうだ。 だが、エルレーンが使った炎魂縛武は熱を発しないはずだ。戦っているうちに、刃が程よく温まったとみえるが、まあ細かいことなど誰も気にしない。カラメルソースがいい具合に焦げて、美味しそうな匂いが漂っているから尚更だ。 だから、なんで焦げたのかとか、気にしたらいけない。 「手足を落として、コアを断ち切るのがいいと思うんだけどね」 「頭と胸のサクランボの、どっちが怪しいかな? とりあえず両方切ってみる?」 「そうね。まだレアチーズケーキも待ってるし」 おそらくデザートゴーレムは攻撃されるのを待ち焦がれてはいないが、月与もデザートゴーレムを見ると嬉しい人の一人だった。退治さえしてしまえば、後は回収班が次々持ち帰りの準備をしてくれる。ここは速度が大切だ。 なにしろ、まだレアチーズケーキも、シュークリームも、チョコレートも、あれもこれも、お持ち帰りされるのを待っている。デザートゴーレムの考えはさておき、月与の頭の中では待たれているのだ。 切り落とした肩のアイスが溶けないうちに、核らしいところをどんどん攻撃、退治して行こうと目顔で相談をまとめた月与とエルレーンは、まだ残っているプリンゴーレムの輪切りパイナップルな両足目掛けて、手にした得物をぶんと振った。 「ちゃんと持ち帰りしやすい大きさに切ってあげるからね〜」 月与の気持ちよさげな声は、ゴーレムではなく回収班に向けられているはずだ、多分。 ●あ・い・す! あ・い・す! デザートゴーレムが群れて出現した砂漠には、甘い香りが漂っている。たまにしょっぱいのもうろうろしているが、やはり人気は甘いの。 その中でも、今回新発見のあんこ亜種のおはぎ・ゴーレムの腕に、プレシアが吹っ飛ばされていた。 「でっかいおはぎ‥‥美味しい」 気持ちいいほど吹っ飛んで、すごい勢いで砂の中に埋もれかけたプレシアを、雨傘が引き摺りあげてやったら、狐耳の彼女はそう呟いた。口の周りが真っ黒なのは、おはぎに齧りついたからだ。おはぎ・ゴーレムはその程度の傷、とっとと治ったのだろう。どこが齧られたのだが、注視しても分からない。 「地べたを歩いているものを齧るとは‥‥」 アリじゃないんだからと雨傘は思うが、プレシアは幸せそう。 「次はアイスクリームだーっ!」 ぴょこんと立ち直ると、前のめりに、これまたすごい勢いで飛び出していく。砂丘の上まで行ったところで、向こう側に転がり落ちていた。雨傘が止める暇などありはしない。 娘さん達の言動は良く分からんと首を捻りつつ、雨傘は目の前にいた三段重ねのてっぺんに人形付きケーキを一人でずんばらりん。可愛らしい人形部分を丹念に切り刻んで、次の平段、蝋燭付きのケーキに向き直っている。 「これは火をつけたほうがいいいのかねぇ。おーい、誰か、火を貸してくんな」 なんだか普段の自分には縁がない、縁起物のケーキに似た奴ばかり来るなぁと、律儀に蝋燭に火を灯しつつ、雨傘は思っている。でも結局、火を灯した後にずんばらりんするのだが。 やれやれと、貰ったキッチンペーパーで刀を拭っていたら、背後からまたプレシアの声がした。 「うわ〜ん、アイス、強いよー」 声はどんどん近付いてきて、ついでに重々しい足音もついてくる。 「氷柱、あんまり効かなかった!」 アイスのゴーレムに追われるプレシアは、泣きべそをかきつつ辺りに訴えるが、巻き込まれた方は堪らない。出来るだけ綺麗に切りたいとか贅沢を言っている暇はなく、ともかくも攻撃に次ぐ攻撃。 その間に気を取り直したプレシアも、今度は斬撃符の準備をして、改めてデザートゴーレムに向き直った。狙うとしたら、きっとおなかの氷玉がいい。そんな気がする。 「ボク、全力でやっちゃうもんね〜!」 しばらく後、核を失って倒れてきたアイスの山に潰されかけて、幸せそうなプレシアと、あんまり幸せそうではない雨傘が回収班に助け出される事になる。 ●おみやはおまかせ 近年まれに見るデザートゴーレムの大発生。それはもちろん嬉しいことだが、ことアイスクリームをはじめとする冷菓系統のゴーレムが多数いる場合、問題も発生する。 いかに手早く冷菓ゴーレムを退治して、溶けないように街まで運搬するか。一体だけなら、退治した者特権でその場で食べてしまうところだが、複数いるならお持ち帰りも必要だ。主に、今後の円滑な人間関係とか、色々な事のために。 それはさておいても、美味しいものは皆で食べたほうがより美味しい。食べ物の恨みは怖いし。 そんな訳で、真夢紀はせっせと氷を作って、皆が手分けして運んできた箱、樽などに詰め込んでいた。そこに別の入れ物に収めた冷菓ゴーレムを乗せるのだが、そちらは砂を被るとよろしくない。溶けたアイスに砂が被ると、流石に混ざってしまうのだ。食べられるところが減るなんて、とんでもない! 「冷菓は喉越しも命ですからね。こちらの布で覆っておきましょう」 真夢紀が悪戦苦闘していると、練力の底が見えるまでびしばしゴーレム退治に参加していたティアが戻ってきた。吟遊詩人は喉が命と、飲み物を用意したり、口元を覆ったりの事前準備が完璧なティアは、運搬道具にも目を配っていたようだ。 「今回のアイスは色継ぎ接ぎに見えたんですけど‥‥味はどうでしょう?」 ピンクに黄色、白に黄緑‥‥あの色が全部違う味だと嬉しいなぁとの、真夢紀の期待はどうやら裏切られることはない。切ったついでに味見もしているちゃっかり者達の情報で、多彩な味が楽しめると聞いた真夢紀もティアも、うきうきと入れ物を抱えた。 あいにくと、ゴーレムがまだ残っているうちは砂龍やラクダで回収に乗り入れると危ないので、気合を入れて入れ物を持ち歩かなくてはならない。氷の入った箱は、回収班参加の男性陣が抱えている。 よぅし、片っ端から回収だ! 別に掛け声が掛かったわけでもないけれど、回収班は一斉に飛び出して、手近のアイスケーキに取り付いた。手にした槍で、すぱすぱとアイスケーキを切り分けるティアの姿は、先程まで吟遊詩人らしく演奏しながら支援の技を繰り出していた人とは別人だが、戦士ではなく料理人のよう。周りでは、真夢紀達がそれを次々と入れ物に納めていく。 切り分けられたアイスケーキを入れた箱を乗せる前に、氷に塩を入れて混ぜた真夢紀は、更に上にも氷を被せる。うっかり甘味と塩が混ざるといけないから、こちらの氷には塩はなし。溶けたら、残った練力総動員で追加を作るつもりだった。そのために戦闘に参加していない‥‥というか、これが彼女達の戦いである。 「あんこは冷やす必要はないけど、入れ物どうしよう?」 「こちらの最中っぽい皮に詰めて、布で包んで担いでいきましょうか」 キング水羊羹は、熱狂的なファンの希望で冷たく保管。 プリン・ア・ラ・モードも、熱烈希望があって綺麗に箱に詰める。 レアチーズケーキはちょっと崩れたけど、とにかくぎっちりたっぷり。 アイスは混ざっちゃっても美味しいってことで、入るだけぎゅうぎゅう。 途中、回収班の前に立ち塞がったおかきゴーレムはうっかり炸裂技で砕いちゃったが、最後に皆でちまちま拾い集めた。 地面に散らばっちゃったけど、大丈夫。デザートゴーレムは傷みにくいし、砂も付かないし、味も変わらないから。味見をしたら、ほぅら美味しい。 でも色々頭を働かせると、色々と『う〜ん』な事になるから、難しいことは考えない! 「箱に入らない南瓜のタルトとスイートポテトは、包んで背負います」 「半分持つわね。戻ったら、美味しい香草茶といただきましょう」 でも、何をどうしても持って帰れない分は‥‥皆で味見。だって、美味しいところを持ち帰るためには必要だよって、月与さんが言ったから。 ●れっつ ぱーりー!! 近年まれに見るデザートゴーレムの収穫に、街全体が甘い香りに包まれていた。 「私は味見もしたので、皆で食べてもらって構わない」 「えー、働いた人は一番食べていいのよ。ついでに、お話聞かせて」 自分が背負える分の甘味を貰い受けた熾弦は、お土産を首を長〜くして待っていた開拓者ギルドの人々に差し入れに出向いて、そのまま身柄拘束されている。皆で楽しんでくれれば、自分はもう食べなくてもいいと考えていたけれど、皆の武勇談も聞きたい人達を前に、一人だけ食べないのでは周りも遠慮してしまう。よって揃ってお茶会開始だ。 でも食べきれない分は、また後で別のところに差し入れよろしくとか言われつつ、熾弦がギルドの皆さんに捕獲されている頃。 「あ〜ん♪」 キング水羊羹を食する会場と化しているどこだかで、アルネイスが何口目かのスーパーレアな味を楽しんでいた。甘さだけでも誉め言葉がだだ漏れのこの味、とやかく言っていられたのは最初のうちだけで、今はもう止められない、止まらない。 彼女の心の声が、『太る、もう食べたら駄目』と叫んでいようと、体は言うことを聞いちゃいない。手が勝手に、キング水羊羹を切り分けて、口に運んでしまうのだ。 「はぁ、こしあんの滑らかな舌触りがたまりませんなの」 お隣では、プリン・ア・ラ・モードから始めて、一通りの甘味を制覇したエルレーンが、幸せに煮溶けた笑顔で、並べた椅子の上に横になっていた。抱えている壷には、まだ焼きプリンが入っている。 なにやら寝言を呟いたが、それが『美味しく生まれて来てくれてありがとう』。デザートゴーレムもこの一言で報われるのかどうか。美味しく食べられてしまった方には、何か言いたいことがあるかもしれない。 だが、食べている側はそんなことなどもちろん考えず、 「ん〜〜〜〜! どれもみぃ〜んな美味しいのぉ〜〜♪」 プレシアのように、どこに入るのだか分からない調子で食べ続けている者が大半だった。ちなみに彼女は、先程からこれしか言わない。何を食べても、もう感想は一緒。 なにしろ食べることの方が大事だから、色んな事に頭や口を使っている場合ではないのだ。飲み物がなくなると、カップをテーブルの目立つところに出して、おかわりを求める態度である。 ありがたい事に、月与が豆にお茶淹れて回ってくれているから、おかわりにも困らない。後でお礼を言わねばならないが、とりあえず今は頭だけ下げておく。なにしろ口の中には食べ物が入っているから、おしゃべりしたら無作法なのだ。 「アイスとお菓子に、熱いお茶の取り合わせもたまらないですよ〜」 節を付けた口調で、なにやら新しいお皿を配り始めたのはティアと真夢紀で。 「自信作です!」 断言した真夢紀の声が耳に入ったのか、エルレーンががばと起きた。プレシアはそれより先に、ちゃっかりとお皿を受け取り、キング水羊羹の呪縛に捕らわれているアルネイスも視線はこちらに向いている。 「あら、これは南瓜? スイートポテトと、何かしら?」 「南瓜のタルト、スイートポテトと、アップルパイにバニラアイスの基本の組み合わせと、口直しにレモンシャーベット。ちょっぴり大福に苺のアイス、チョコアイスと最中の皮、色々盛り合わせてみました」 もうあるだけの甘味の素敵取り合わせを試した真夢紀が、ようやく持ち上げている大きなお皿には色とりどりの甘味が綺麗に盛り合わせになっていた。ティアは暖かいぜんざいを持っていたりする。 だが。 「あー、味が違うと、また進んじゃう〜」 「この大福、こしあんがいいなぁ」 新たなる甘味の登場に群がった人々は、多分説明は半分くらいしか聞いていない。 アルネイスは『もう駄目』を繰り返しながら、手が止まらず。 エルレーンはプリンを保持したまま、こしあん大福を探している。 熾弦も、結局足りなくなった甘味をギルドの職員達に補充するべくやってきた。 プレシアは、両手に持った甘味のどちらから食べるか、悩み中。 ティアは、なぜだかお茶を淹れるのに忙しくて、まだゆっくり食べられず。 真夢紀は虎視眈々と周りに狙われている自作パフェを抱え込んでいた。 「うーん、やっぱりこれは包丁じゃ無理ね」 月与は持ち帰った巨大サクランボや輪切りパイナップル、栗などを切り分けるのに、大薙刀を持ち出していた。周りの人々は、出し物よろしくやんやの喝采だ。 そんな中。 「‥‥‥‥渋いお茶が、一杯こわい」 なんとか確保した柿の種を摘みつつ、必死に街中の甘い匂いに耐えていた雨傘がそう呟いていた。 彼の前には、地元の誰かが持って来てくれた、珈琲が置かれている。 それはアル=カマルでは男女共に多数の人に好まれる、砂糖たっぷりの甘い甘〜い珈琲だ。 |