対決!ジスーセイゲーン
マスター名:龍河流
シナリオ形態: ショート
EX :危険
難易度: やや易
参加人数: 10人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2011/10/04 00:13



■オープニング本文

「また、あそこかっ!」
「一年半余りも平和だったというのに‥‥」
「呪いだ、絶対に呪いだ」

 ジルベリア帝国某所、ジスーセイゲーンの谷。
 そこは普段は隊商や旅人の、また緊急の知らせを届けるべく駆ける伝令騎兵が重用する枯れ谷だ。冬でも積雪が少ないので、これからの季節は特にありがたい。
 一見したところでは、帝国内に幾らでもあるだろう枯れ谷の一つでしかないが、ここには他とは違う特徴があった。
 どういう理由だかさっぱり分からないが、頻繁に大量のアヤカシが出るのだ。
 それもまた、毎回毎回、これでもかというように小さいアヤカシが大量に!
 今回も、目撃者の証言は当初三百だったが、先程のは六百に膨れ上がっている。今もどんどん増加していることだろう。
 一体ずつなら一般人の兵士でも倒すのは難しくない弱いアヤカシだが、ここまで大量に出ると歯が立たない。

 そんなわけで、開拓者ギルドにアヤカシ退治依頼が出されたのだった。



■参加者一覧
水鏡 絵梨乃(ia0191
20歳・女・泰
葛切 カズラ(ia0725
26歳・女・陰
阿弥香(ia0851
15歳・女・陰
露羽(ia5413
23歳・男・シ
利穏(ia9760
14歳・男・陰
ユリア・ソル(ia9996
21歳・女・泰
フェンリエッタ(ib0018
18歳・女・シ
シャルル・エヴァンス(ib0102
15歳・女・魔
レオ・バンディケッド(ib6751
17歳・男・騎
イーラ(ib7620
28歳・男・砂


■リプレイ本文

 ジスーセイゲーンの谷は、前評判に違わぬ大混雑振りを示していた。
「六百‥‥じゃなかったっけ?」
「倍くらいはいそうだな。あれのうち、百くらい倒せば名声が上がって、一流騎士への道が近付くかもしれないぜっ!」
「ジスーセイゲーン攻略の心得は、必要以上におしゃべりさんにならないことです」
 谷、である。水は枯れていても、谷であるからには崖めいたものが両脇にあり、ここではその傾斜の底に道があると聞いていたが‥‥
「谷の名前が気に入らなかったのよね」
「あら、とってもやる気がわいてくる名前だわ」
 わさわさ。わさわさ。
 谷を埋め尽くし、溢れんばかりの、奇妙にちまちましたアヤカシの群れを目にして、開拓者一行は早くも意気を激しく上げ下げしていた。
 確かに水鏡 絵梨乃(ia0191)の言うように、依頼人からの事前情報はアヤカシ数六百だった。けれどもその前は三百だったと言うし、到着までの間に増加した可能性はある。倍増していても、手前に見えるのは吹けば飛ぶよな木っ端アヤカシなので、レオ・バンディケッド(ib6751)の気分が盛り上がるのも分からない話ではなかった。
 反面、利穏(ia9760)が外見に似合わぬ張り詰めた様子で呟いた言葉はいささか意味不明だが‥‥ユリア・ヴァル(ia9996)とシャルル・エヴァンス(ib0102)の意見が正反対なように、この谷には色々ないわれや謎を口にする者が多いのだ。ついでにシャルルの発言は、一部の耳にはなぜだか『殺る気』と剣呑な響きで伝わっている。
「初めて聞く名前に来る場所なのに、背後から漂う怨念渦巻く気配はなんだろうな‥‥」
 だから、イーラ(ib7620)が前方に谷を見つつ、不思議なことを言うのも多分おかしなことではない。
「肌寒いですね‥‥ここにいると少し憂鬱な気分になります。何故なのかは自分でも分かりませんけれど」
 露羽(ia5413)の感想も、ジルベリアの秋は天儀より早足に来るし、目の前の谷はアヤカシがぎっちりだから、別におかしくはないのだ、きっと。
「ネタに溢れた時に限って弾かれて真っ白に‥‥そういう恨みを込めて薙ぎ払うか」
「最近は忙しい分、効率良く対処できていたのだけど‥‥つい先日、順調に攻略してぴったり決まったかと思ったら‥‥弾かれたんです。そこからはもう!」
 葛切 カズラ(ia0725)とフェンリエッタ(ib0018)のぼやきもさっぱり意味不明だが、きっと彼女達の過去に存在した何か辛い出来事に関係するに違いない。ぶつぶつ続いているが、これこそイーラが感じている怨念の一部ではなかろうか?
「はっはぁ、最初聞いてた六百にするだけでも大変そうだなっ! だがあたしが空賊王になるには、貴様が邪魔だっ、ジスーセイゲーン!」
 滅茶苦茶威勢良く阿弥香(ia0851)が叫んだが、ジスーセイゲーンは谷の名前なのである。邪魔扱いされた谷に意識があれば、さぞかし理不尽だと感じたことだろう。
 でももう面倒くさいので、谷の正体不明の木っ端アヤカシの名前はジスーセイゲーン、もっと面倒な時はジスー。今回に限り、皆がそう連発するのでアヤカシ退治とか倒すではなく、『削る』に統一。
 さあ、目の前にうぞうぞしているジスーセイゲーンを削りに行こう!

 戦場では常に、一瞬の隙さえ許されない。努めて無駄なく、必要以上に饒舌になることなく、的確に当初の目的を達成するために邁進するのが重要だ。
「言葉の選び方一つで、何秒も違いそうですから」
 ぶつぶつ、ぶつぶつ。
 なにやら今回は独り言が多いが、戦場では口数は少ないのが重要と呟く利穏も例外ではなかった。分かっていても、口にせずにはいられない。そういう気分に陥っているのだろう。
 もちろんその間も、さくさくと武天長巻でジスーセイゲーンを削っている。バッタバッタと薙ぎ払いたいが、相手がちまちましているので、さくさく。
「こ、今度ここに来る時には、魔術師に転職もいいかもー!」
 利穏がうんうんと頷いた叫びは、ミミック・シャモージぶん回し中のフェンリエッタのもの。わさわさ逃げていくジスー削りは進まないが、ぶんぶん振り回している彼女は楽しそうだ。
「後方から魔法攻撃。ええ、魔術師はいいわよね。あ‥‥巻き込んだらごめんねー」
 思っていたより小粒のジスーセイゲーンどもに、重厚武器の使い手は苦戦しているが、シャルルはご機嫌で魔法を連発していた。なにしろ谷の入口も埋め尽くしているから、道を開くのに有益‥‥だと思われる。シャルルの鬱憤晴らしではない。
「うーん、まだ奥も見えないが‥‥たまにでかいのが混じってるって、その威力で俺の方向に撃つなーっ」
「ひゃっほ〜!」
 戦闘の基本である偵察をしようと、遠視の術で奥を覗いていたイーラは、これまた背後から飛んできた魔法に悲鳴を上げた。彼はもしかすると、今回は背後が危険なのかもしれない。その横を妙に嬉げな悲鳴と共に、レオが吹っ飛んでいった。思わず目で追ったイーラの視線の先数メートルのところで、ジスーセイゲーンをぶちぶち踏み削り、転げ削りして着地している。
「すげー威力だな。同じ開拓者とは思えないぞ!」
 騎士と魔術師では違って当然だが、いちいちレオに指摘しても耳には入らないだろう。早くもアヤカシの群れの中で、ダーククレイモアと一緒にぐるぐる回って当たるジスーを削りつくしている。
 直後、目が回ってふらふらし始めたレオの横で、また魔法が炸裂。今度は悲鳴なく、でもまた吹っ飛んでいく。
「身が軽いねぇ。負けてられないよ」
 勘違いだが当人は大真面目のユリアが、空中で姿勢を変えて、何とか足から落下しているレオを見やって‥‥元気に走り出した。
 目の前に谷があって、崖が切り立つのなら、それは駆けて行かねばならない場所だ。多分、きっと、そんな風に決まっている気がする。気のせいでも、まあいいや。
 魔法で抉れた気がする崖をだっだか駆け上がり、息も絶え絶えのジスーは容赦なく削った後、危機的状況が理解出来ているのか不明なわさわさしているジスーセイゲーンを片鎌槍のぐるりと一蹴で削り飛ばした。手応えがないことこの上ないが、まだまだ、まだまだ、まだまだジスーは存在するので手を抜いている場合ではない。
 同様に、ジスーセイゲーンの密集地域に飛び込んだ一人に、絵梨乃がいた。こちらは『崩震脚』で容赦なく削り抜き、古酒を取り出す余裕まで見せていたが‥‥
「後ろも見ずに逃げるとはどういうことっ!」
 乱酔拳の使い手らしく、古酒を煽ろうとしていた絵梨乃だが、うぞうぞしたジスーどもがすかさず逃げ出したので激昂した。手応えがないにも程があるというか、彼女にもやろうとしていた行動計画というものがあって。
「それを実行もしないうちに‥‥これは、せっかく考えた行動を減らす破目になった分ッ!」
 どっかんばりばり、ぷしゅ〜。
 こっちが頑張っているのだから、ちゃんと向かって来いとばかりに理不尽な怒りを爆発させた八つ当たりで、ジスーがどかっと削られた。でも挑発してやろうと思っていたのが実行できなくて、大変に残念。というか、怒りが収まらない。
 そして、ここにも意味不明なことを叫びつつ、ジスーセイゲーン削りに血道をあげる開拓者が一人生まれたのだが、そもそも依頼が依頼なので、何の問題もない。
 だが、しかし。
「削るたびに、私の存在が薄くなるような‥‥気のせいですよね?」
 開拓者として、これまでに幾多の難敵と戦ってきた実力の片鱗も使うことなく、ちまちま、ちまちま、地道にジスー削りをする作業に疲労を感じたのか、露羽がぽそりと呟いた。シノビの彼なら地道な作業もお手の物だろうが、この谷にはなにかこう、怨念が渦巻いているのだ。うっかりすると、自分を見失ってしまうと、そういうことかもしれない。
 怨念の主な発信源が、
「よぉし、今だっ! 名付けてクラゲのお蔵入り!」
「出直しなさい、出直さないなら白くなりなさい!」
 でろんと長〜い足のあるクラゲ風の砕魂符、どしゃーっ。
 蛇神がうねうね、くねくねして、するするする〜。
 両者がうっかり絡み合ったように見えつつ、周囲のジスーセイゲーンを削りまくる様子を、女陰陽師二人が高笑い付きで眺めている。高笑いはついてないかもしれないが、なにやら危険な風景に見えた。
「俺、この戦いが終わったら、師匠に会いに行くんだぁっ」
 にこやかに叫んだ阿弥香の手から、今度はでろんと長〜い呪縛符が飛び出した。先ほど黄金昆布と叫んでいたが、当の昆布には地名のようなものが書かれている。動きが速くてしっかり読めないが、すとか、うとか、らとかあったような?
 それとは別に、誰かの攻撃余波で吹っ飛んできた極小ジスーが口に入りかけて、阿弥香はげほげほしている。同じものはカズラのところにも飛んでいったが、
「触手以外に用などないわっ」
 大変に趣味に走った一喝と共に、握り潰された。

 ここまでは、びっくりするほど手ごたえなく、あっさりとやられ続けていたジスーセイゲーン達だが、半分くらいに削れたところで様子が変わってきた。固まっていると一度にやられるとばかりに、方々に散り散りと逃げ隠れし始めたのだ。
 おかげで削りに行くのも一苦労。崖を登り、ここだと思う場所に辿り着いたら逃げてしまったとか、そんなことが次々と。
 そして。
「まだかーっ。まだジスーは削れないのかーっ!」
 このままでは埒が明かぬと、利穏が咆哮の力を乗せた叫びを放つと。
 なんと、先ほどイーラが見付けていた大きな個体どもを真ん中に、集まったジスーセイゲーンどもは巨大な人型らしきものを作り出したのだ。
「ふふっ、たくさんいますね。これほどの数、どれだけ削れるでしょうか?」
 人型になったはいいが、別に歩くわけでも攻撃してくるわけでもないのを察した露羽の含み笑いには、何かが籠もっていた。ずっと手裏剣を使っていたのが、刀「血雨」に持ち替えたあたりも、何かを感じさせる。
 皆も同じことを感じたと見えて、それぞれが得物を握りなおし、術の準備をし直して、
「「「「「いっけぇ〜〜〜〜〜っ!」」」」」
 誰ともなく一斉に叫ぶと、表面がうぞうぞしている木偶人形に向かって、再度の攻撃を開始した。

 だが、しかし。
「一つ零すと、新たなジスーが一体生まれる‥‥どんな恨みの塊だって言うのよ!」
 ジスーセイゲーン木偶人形は、予想外に強かった。というより、ユリアの観察通りに増殖しているような、いないような?
「まだ駄目なの? これ以上、どこを削れって言うのよーっ!」
 シャルルの叫びは、皆の総意。
「削れないなら、角度を変えてみるか。全角から半角に狭めるとかな」
 イーラの作戦は、攻撃角度のことを言っているらしい。
「始めに纏めようとするアヤカシが要る筈だから、そいつから纏めて狩って、えっちな感じのジスーと、無駄に解説してくるジスーを除去ればお釣りが来るぜ。けけけっ」
 阿弥香の指摘は根拠不明だが、体の真ん中辺りにいる大きな個体を倒すと、確かに増殖も止まったかも。無駄に解説してくるジスーセイゲーンとは、鳴き声をあげている奴のことだろうか。えっちな感じって?
「先の見えない戦いは辛いし、気が滅入るだけだけれど、対処が分かれば‥‥浄化してあげます」
 フェンリエッタは、物静かな宣言がかえって恐ろしい。
「まずはそのふざけた姿をぶち壊します!」
 咆哮の結果か、自分を睨んでくるようなジスー木偶人形に、利穏が指を突きつけた。
「ネタがある時に弾かれると、それだけでへこんで作り直しが辛いのよ?」
 カズラのついさっきジスーに弾かれた呪符には、なにかネタが仕込んであったらしい。
「消えてください! このままだと、えーと色々困るんです!」
「そう。実際が八つ当たりだとしても、貴様は生意気だっ」
 露羽は、知性もないジスーにとやかく言って仕方ないと思いつつも言わずにおれず、適当に端折ったが、絵梨乃はきっぱりと本心を吐露した。
 だって、こんなにいっぱいなのに手応えがなくて、でも手間が掛かるなんて嫌な奴‥‥許していいものか、いや良くない。
 そう、ジスーセイゲーン許すまじ!

 カミエテッドチャージ、ぷすっ。
 サンダー、ばりばり。
 ショーテル「ズフル」、すらっ。
 らとうとすの昆布、べろん。
 巨大杓文字、ぶんぶん。
 武天長巻、ぐるんっ。
 アレがアレでアレな触手が、にゅるんっ。
 血の雨、ざぁざぁ。
 空の古酒壷、ぱりーん。

「これで終わりだ! スマーーーーーッシュ!!」
 レオが最後に残ったジスーを削って、谷の中は綺麗になった。


 その後、ユリアにちまちました怪我を治してもらい、ご機嫌になったシャルルが鼻歌交じりに淹れてくれたお茶とお菓子を摘みつつ、レオの『なんでそんなに強いんだ』質問攻めの合い間に、
「今回駆逐しても、また沸いてくるんだろうな。果てのない戦いになる‥‥気がするよ」
 イーラがうっかり呟いて、先輩達から『世の中には言わなくていいことがある』と教育されたとか、されてないとか。