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■オープニング本文 『お、開拓者でもふな。この世の修羅場、開拓者ギルドにようこそでもふ。ここのギルドで依頼を受けるのは初めてもふ? ふふふ、大丈夫もふ。最初は苦行でも、それが快感に変わり、いつの間にか依頼なしではいられなくなるもふ‥‥そうなる頃には、一人前の開拓者の完成もふよ』 そこでは、一頭のもふらさまが、含み笑いつきで出迎えてくれていた。そもそもの顔の造りが笑っているようだとは、言ってはならない。 場所はジョレゾの一角。入口には『うら・かいたくしゃぎるど』と丸まっちい字で書かれた看板が掛けられた、どう見ても倉庫っぽい建物だ。 確かに、位置は開拓者ギルドの正しく裏。 覗いてみれば、中には一応カウンターらしきものがあり、そこには見慣れた受付の姿は‥‥なかった。 『いよう、開拓者がや。覗いとりゃせんで、ずずぅっと中にへえれや。ちょんど、依頼が入っただよ』 いや、それっぽいものはいる。 どこの訛りかも分からぬ謎言語を操る土偶ゴーレムが、カウンターの向こうには立っていた。 依頼書らしきものを手にしているが、書かれているのは明らかに人語ではない。 と、土偶ゴーレムの背後から、すごい勢いで飛び出してきた影がある。 真っ黒艶やかな毛皮をまとったそれは、長い二本の尻尾を持っていて、どこからどう見ても立派な黒猫又だ。 『ギルドマスターの、げふっ』 裏開拓者ギルドのギルドマスター様は、紹介しようとするもふらさまを踏ん付け、真っ赤な口を開いて仰った。 『うちの子がいなくなった!』 それって、猫又の子供のこと? なんて確かめてみたかったけれど。 『なんもふっ、吹雪姐さんのところのお嬢ちゃんがもふかっ』 『おみゃあ達、さがずだよ!』 もふらさまと土偶ゴーレムも大騒ぎをはじめて、ちっともこちらの言うことなど耳に入っていない。 とりあえず『うちの子』は女の子ではあるようだ。 結局、捜すのは猫又でいいの? |
■参加者一覧
葛切 カズラ(ia0725)
26歳・女・陰
露草(ia1350)
17歳・女・陰
からす(ia6525)
13歳・女・弓
瀧鷲 漸(ia8176)
25歳・女・サ
ラヴィ・ダリエ(ia9738)
15歳・女・巫
ザザ・デュブルデュー(ib0034)
26歳・女・騎
イリア・サヴィン(ib0130)
25歳・男・騎
御陰 桜(ib0271)
19歳・女・シ
琉宇(ib1119)
12歳・男・吟
沖田 嵐(ib5196)
17歳・女・サ |
■リプレイ本文 その日、港の一角では。 「ほら、もう帰るわよ」 「やーだー」 甲龍・イフィジェニィと駿龍・ろんろんの昼寝の邪魔をするかのように龍舎の囲いにしがみ付いて騒ぐ女の子と、そろそろ家に帰りたい母親とが、同じ会話を繰り返すこと十数回。龍達はそろそろ疲れて、うつらうつらしていたが‥‥ 「かーえーらーなーいー!」 女の子の絶叫に、ひょこんと頭を上げた。騒ぎの原因が担がれて帰っていくのを見て、また昼寝に戻る。一時間もキャッキャッと騒がれていたので、流石にちょっと疲れている。 本日は依頼もないようで、お昼寝日和だ。 港に預けられている朋友達がお昼寝日和を満喫している頃。ジェレゾの開拓者ギルド裏に勝手に看板を掛けていると思しき『うら・かいたくしゃぎるど』では、真っ黒けの猫又が不穏にふうふう唸っていた。 『うちの子がっ!』 周りでは、土偶ゴーレムともふらさまとがぴーきゃーやかましく騒ぎ立てている。 その様子に、首を傾げている開拓者が三人ほど。 「ここのギルドってこんな感じだったかしら?」 「様変わりしていると思ったら‥‥裏?」 「‥‥来る場所、間違えたな、あたし」 忍犬・桃を連れた御陰 桜(ib0271)、ザザ・デュブルデュー(ib0034)、炎龍・赤雷が入口から覗いている沖田 嵐(ib5196)とは、自分がいる状況にどう納得したものか思案中だ。 この興奮状態の猫又に話を聞くのかと、三人でなくても困った気分になるところだが、不幸中の幸い。猫又達と顔見知りが、この場には存在した。 「へえ、ギルドマスターは吹雪さんって名前なんだぁ」 のほほんと口を開いた琉宇(ib1119)は、服のあちこちを探って、一旦手拭「竹林」を取り出したが‥‥おもむろに隣にいたイリア・サヴィン(ib0130)のブロードマントの端を握って、猫又・吹雪の前で振り出した。 「おいおい‥‥吹雪さん、落ち着いたかな?」 目の前で揺れるものにすかさず猫パンチを見舞った吹雪は、全然落ち着いたように見えなかったが、イリアの呼び掛けに歯は剥いても噛み付いたりしない程度の判断力は戻ったらしい。 ちなみにちっとも静かにならない土偶ゴーレムともふらさまは、 「つまらぬものを縛ってしまったわ」 うねうねした触手めいた呪縛符に絡められて、か細い悲鳴を上げていた。うぞうぞした感触が気持ち悪いらしい。 ちなみにそんな呪縛符の使い手の葛切 カズラ(ia0725)は、縛ったモノには不満があるが、式そのものはお気に入りらしい。つれている人妖・初雪は目の前の出来事が気色悪いのと可笑しいのとで、カウンターの上で身もだえしている。 『うちの子がっ』 興奮すると語彙が激しく不足する気配の吹雪は、顔見知りの二人に宥められても、なかなか要点を口にしない。その間に、もふらさまと土偶ゴーレムはカズラと瀧鷲 漸(ia8176)に無理やり水を呑まされていた。咳き込んで騒ぐ余裕がなくなれば落ち着くだろうという、無茶な話だ。 確かに騒がなくなったが、むせて話が出来る状態ではないのは誤算。とはいえ、恨みがましい目でこちらを見て来るので‥‥ 「吹雪殿にはお子がいたのかな?」 迅鷹・詩弩をカウンターに止まらせて、落ち着き払ったからす(ia6525)が尋ねた。頷くか首を振るくらいは出来ようというわけだが、反応は否。 「まあ、猫又のお嬢様ではありませんのね」 「あらでも、大変大変。どなたが迷子になったのかはわかりませんが、心細い思いをされているかもしれませんね」 猫又じゃなければなにかしらと、首を傾げたラヴィ(ia9738)と露草(ia1350)の表情での問い掛けに、土偶ゴーレムが『人間のお嬢ちゃん』と答えた。 なんで人間の子供が吹雪にとって『うちの子』かはよく分からなかったが、元気を回復したもふらさまが『姐さんは表のギルドマスターと仲良しだ』と胸を張って自慢したので、本来の開拓者ギルドマスターと面識がある何人かがこう推測した。 ジノヴィ・ヤシンは娘が二人いるから、そのどちらかのことでは? 『きーっ』 土偶ゴーレムともふらさまは頷いたが、肝心の吹雪がきいきい喚くばかりで役に立たない。イリアは尻尾で顔を叩かれ、琉宇は頭を踏まれ、また呪縛符を取り出したカズラは牙を剥かれて睨みつけられている。 漸が手を出したら噛み付かれそうになり、こんな時でも肉球が可愛いかもと思っている桜も引っ掻かれかけた。二人共に豊満を通り過ぎそうなむちむちの肢体を際立たせる服装で、腕や顔に引っ掻き傷はが出来るのはいただけない。 「まー‥‥多少面倒なことだな」 迷子がいるなら探さねばと、子供好きな漸は当然のように考えているが、情報源がこれでは話が進まない。桜の方は、桃が吹雪の攻撃的態度に警戒し始めたのを宥めるのに忙しい。 「ふむ、マーシャ殿とカーチャ殿だったか。どちらか片方がいないのか、それとも両方か?」 『カーチャはヴェラと一緒に買い物に行った!』 以前に花見の席で件の子供を見た覚えがあるからすが、記憶を探って名前を挙げたところで、ようやく吹雪が実のある返事をした。その際にちょっと動きが止まったのを逃さず、嵐ががっちりと体を両手で掴む。 「落ち着いて、必要な情報を出せ」 睨み合うことしばし。横から皆に背格好だ、よく行くところだ、好きなものだと尋ねまくられ、吹雪は猫又的視点でやっと幾らかまともな返事をした。ただしあくまで猫又的なので、身長が何センチとか、最後に見た時間が何分前とか、そういう具体的な数字は出てこない。 ともかくも、話をまとめるとマーシャが自宅からいなくなったのはせいぜい二十分前のこと。直前まで昼寝をしていて、吹雪も同じ部屋にいたのだが、鼠の気配に台所へ行った間にどこかに出掛けてしまったらしい。玄関扉の内側の閂は外されていたという。 家の庭は探したが見付からず、慌てた吹雪はもふらさまと土偶ゴーレムを捜索に駆り出すべく走ってきたようだ。そこに巻き込まれたのが、うっかりともふらさまに誘い込まれていた開拓者達ということになる。別に依頼ではないし、ギルドマスターに連絡だけして済ませてもいいのだが、迷子がいると聞いて帰ると言うほど情が薄い者はいなかった。 それに、桜に喉を撫でられてごろごろ言ってみたかと思えば、我に返ってまた騒ぐ吹雪にまともな捜索が出来るとも思えない。その辺で暴れられたら、開拓者と朋友全てに大迷惑だ。 捜索対象は二歳の女の子。ただし生垣や建物同士の間の隙間を見ると潜り込み、猫道ならぬ独自の散歩道を確保している相手だと聞いて、皆一様にこう思っていた。 表のギルドマスター、猫又に子守をさせるのは止めた方がいい‥‥ 『まぁまぁまぁっ! 私の助力をお望みですのね。しょうがありませんから、役に立って差し上げますわ。あとで褒め称えなさいッ! 撫でまくりなさいッ! 読書の時に膝に載せなさいッ!』 『おまえ、五月蝿いっ!』 露草が上空からの捜索用にと呼び出した管狐・チシャは、吹雪の上を行きそうな偉そう口調だった。その割に言う内容と露草の肩の上にべったりの態度が噛み合わないが、今は細かいことはどうでもいい。マーシャの特徴を説明されて、それに合致する女の子がいたらすぐ戻ってくるようにと言われて、 『そうですわね、私でなければ探せませんものねッ!』 と叫んで、背中を丸めた吹雪に威嚇され、慌てて小鳥姿に変化して飛んでいった。 管狐ほど細かい指示は飲み込めないが、この周辺にたくさんいるだろう開拓者なら目に留めてくれそうな迅鷹・詩弩には、からすが『マーシャしりませんか?ねこまたより』と書いた札をポーチに括りつけている。気の利いた者が見れば、なにかしら反応があるだろう。 それとは別に、ラヴィが取り急ぎといった様子で忍犬・シリウスに吹雪の匂いを覚えさせていた。同じ家に暮らしていて、直前まで一緒にいたなら、吹雪の匂いが付いている可能性は高い。すぐにマーシャの衣類などが手に入らないので、まずは吹雪の匂いを追わせてみるつもりだ。 反対に桜の忍犬・桃は、桜、カズラ、からす、ザザと一緒に本来の開拓者ギルドに出向く事になっていた。そこにいてくれれば話は早いし、そうでなくとも父親の協力が得られるだろう。そちらでマーシャの持ち物が手に入れば、ラヴィにも連絡をしてもらう事にする。 連絡手段は鷲獅鳥・ゲヘナグリュプスをつれている漸に探してもらう事になるので、ちょっと時間が掛かるが、捜索範囲が何十キロもあるわけではないからきっとなんとかなる。 「んじゃ、あたしはこっちを探しに行くよ」 「いや、最初に担当地域をちゃんと割り振ってからの方が行き違いがないだろう」 龍は今にも何か仕出かしそうな吹雪対策で置いていくと言い置いて、今にも飛び出そうとした嵐を止めたザザの言う通りなので、漸以外は開拓者ギルドに。 残ったのは、捜索担当でも外回りをチシャに任せた露草と、目をらんらんと光らせて、危険動物化している吹雪の相手をする羽目になった琉宇とイリアだった。 「ボンサイさん、どうして僕らが担当になっちゃったのかな?」 「‥‥我々が一番対応に慣れているからだろう」 琉宇と、なぜか裏ギルドが関係する時だけは呼び名が『ボンサイ』だというイリアの会話に、露草は『人がいいからでは』と思っている。 さて、ゲヘナグリュプスで空に上がった漸は、まず開拓者ギルドの建物を確かめた。そこから聞いた通りの方向にある家々を眺めて、ヤシン家の場所に当たりを付ける。子供の足で何キロも遠くにはいけない筈だから、見るべき場所は鷲獅鳥の移動可能距離からするとたいしたものではないが、ジェレゾの街ではあまりスィーラ城近くに寄ると、警備の騎士が乗った龍や何かが文字通り飛んでくる。これは要注意だ。 「隠れられそうな庭のある家が多いな‥‥まあ、何とかなるか」 魔神なぞと自称する割に、子供には親切な漸は、低空飛行で通りや各家の庭などを丹念に見詰めだした。目立っていたのは、霊騎・モーリエとなにやら買い物に忙しそうなイリアだった。 地上では、少しでも早く探し始めますと他と分かれたラヴィが、シリウスに吹雪の匂いを追わせつつ、出発点のヤシン家を目指していた。が、これがなかなか難しい。 「猫さんは塀の上を歩きますものねぇ」 なんとか匂いは追えているが、通れる道が違いすぎる。塀の上でなくても、人家の庭を勝手に通っては、ラヴィが怒られてしまうし‥‥致し方なく、途中からは人に道を聞きながら、彼女達はヤシン家に到着した。 「マーシャちゃ〜ん、いらっしゃいませんか〜?」 念のために、庭で声を張り上げてみたが反応はなし。植え込みの下も覗いてみたが、そこで寝ている事もない。 ついでにお隣さんが出てきたので尋ねたら、マーシャは植え込みの下を通り抜けて三軒向こうの門から飛び出すことが多いと聞かされた。もちろんそこから、また匂いを追いかける。 残され、ついでに吹雪の世話を買って出てしまったイリアと琉宇は、やはり『やめときゃ良かった』と思い始めていた。魚の切り身をぺろりと平らげ、少しは人心地か猫又心地のついた吹雪は、現在自分も探しに行くと言い出している。 すると、どういう絆か分からないが、もふらさまと土偶ゴーレムがこれまた一緒にと騒ぎ出し、見ていた二人の結論は『行かせたら駄目だ』だった。 「はいはい、これをあげるから恨めしそうな顔をしない」 「探しに行った人と行き違いになるから、出掛けたら駄目だよ」 もふらさまは『自分も何か食べたい』とねだる気満々で、解き放ったらそこらで問題を起こしそうだ。土偶ゴーレムはどうしてもマーシャと姉のカーチャが入れ違い、これまた探させても混乱しそう。もちろん吹雪の猫又心地は一瞬で、もふらさまと土偶ゴーレムと話し始めると一緒になってまた興奮してしまう。 『うちの子がーっ』 建物入口では赤雷とモーリエが、『ここ塞いでたら、後で自分達もいい思い出来る?』と問い掛けるような目で、中を覗いていた。 「自分の子でもないのに、うちの子っていうんだねぇ」 変なところが人間臭いと琉宇は呟いて、本日何度目かの猫キックを見舞われている。 そこに露草のチシャが一度帰って来て、まだ見付からないと報告したものだから、吹雪が暴れること。露草に噛み付こうとしたので、これは流石にいかんと、イリアがキャットニップを振りかけている。 そうして、開拓者ギルドでは。 「マーシャちゃん? さっき、そこを歩いてたよ。猫又の吹雪? あれが一緒だったから止めなかったけど」 と、訪ねた五人が聞かされていた。もしや父親を訪ねていないかと思ったが、どうも通り過ぎて別の場所に行ったらしい。 だが、吹雪が一緒ってどういうこと? 「変ねえ、吹雪ならここの裏にいるのを見たばっかりだけど。真っ黒な猫又でしょ?」 「真っ白じゃないの?」 なんだかおかしいと、初雪も加わってギルドの内外にいた人々に尋ねまわってみたところ、マーシャの顔をちゃんと知っているギルドの係員達が三人ほど、間違いなく前を通ったと断言した。 そして、それを目撃した全員が『真っ白の猫又と一緒だった』とこれまた断言。最初の証言者はそれが吹雪だと思っていたが、別猫又だ。 「実は猫又を使った誘拐事件でした‥‥とか? うふふ」 「やめてよ〜。そんな事になったら、開拓者だって疑われちゃうじゃないの」 カズラが思い付きを口にして、桜に嫌な顔をされている。本当に誘拐なら、家から出た時点で犯人が連れ去るだろうから、可能性は相当低い。 「この道を向こうに歩いて、右に曲がった? ありがとう、行ってみる」 「‥‥まずいよ、そこの道、曲がったところでまたすぐに十字路だった」 好みの異性だけ声を掛けたカズラや、相手のほうから寄ってきたのをあしらっていた桜とは別に、生真面目な聞き込みを続けたザザは数名から同じ情報を手に入れていた。マーシャは二歳児にしては驚異的な速度で、白猫又を連れにずんずん歩いていったらしい。 途中、何度か子供と猫又だけの様子に心配して声を掛けた者もいたが、当人が名前のようなものを言い、猫又がそこに行くと言い添えたので、同業者の子供だろうと見送ってしまったそうだ。 問題は、嵐が走って見て来てくれたように、マーシャの目撃最終地点のすぐ先の道がまた分かれていて、どの方向に行ったのかがさっぱり見当つかないことだ。それと、ジノヴィがギルド同士の会合に出掛けていて、後半時間ほど戻らないこと。 「戻って来たら、猫の従者が大慌て、と」 ひとしきり話を聞いたからすは、本物の吹雪がマーシャを探しているので、次に見付けたら留め置いてくれるように、なぜか小芝居風に係員達に伝言している。これだけ印象深ければ、皆して見張ってくれるだろう。 それから目撃最終地点から、まずは五人で分担場所を決めなおして、道をゆっくり辿って見る事にした。商店が立ち並んでいるので、順番に尋ねて歩くのも忘れない。 加えて、桜は桃に猫又らしい匂いを探らせて、それを追ってみる。場所柄匂いが入り混じっていそうだが、物は試しだ。 からすは随分前でも顔を見ているし、両親、姉も知っている強みで、道行く子供を確かめながら。 嵐は身軽に走りつつ、立ち並ぶ商店に次々と声を掛けていく。 ザザは商店出入りの仲買人らしい人や常連客と思しき、周辺に詳しそうな通行人に目星をつけては、地道かつ丁寧に聞き込みを続ける。 カズラも初雪と一緒に、妙に楽しげで迷子探しとは思えない風情で、でも道行く人に声を掛けていた。 特に言わないが、全員が家族に頼まれたわけではないから、あまり深刻にして騒ぎになってもいけないと、そのくらいは配慮していたのかもしれない。 そうやって手分けして、十分かそこら。 「あ、そこの猫又‥‥殿」 最初に件の白猫又を見付けたのは、ザザだった。香りからしてパン屋の前で、白猫又は毛づくろいに忙しそうだ。 『シンノスケ』 「そうか、シンノスケ殿か。探していたんだ」 滅茶苦茶偉そうな態度だが、とりあえずマーシャの居場所を聞くのに、丁寧に話し掛けたザザは、話に聞いていた通りの女の子がパン屋の中をうろうろしているのを見付けた。 「マーシャちゃん? 吹雪に頼まれて探しに来たんだが」 さてどのくらい通じるかと思いながら話し掛けたら、シンノスケの方が過激に反応した。 『吹雪の依頼か? あの女、どこだ? わざわざ探しに来たのに』 店の前で猫又大騒ぎの状況にパン屋の店主が出てきて、徐々に聞き込み結果で集まってきた開拓者を見て、困ったような顔になった。事情を話したら、吹雪も知っているので理解はしてくれたが、幼児を親以外に引き渡すのは躊躇われると、納得の言い分である。 ちなみにマーシャの言い分は、目が覚めたら吹雪がいなかったので、探しに来てあげた。吹雪はここのパン屋の倉庫で、たまにネズミ捕りをしているからだ。シンノスケは吹雪を訪ねてきて、いないと聞かされてここまで同行したとか。閂を開けたのはこやつらしい。 結局、嵐が率先して裏・開拓者ギルドに走り、引っ掻き傷だらけになっていた琉宇とイリアがキャットニップでへろへろの吹雪を抱えてパン屋へ。露草は漸とラヴィへの連絡をチシャに取ってもらって、それから合流した二人と一緒に嵐の案内でやはりパン屋へ。 「あ、ここのパンは美味しいんだよ。牛乳も買って来るね」 以前に吹雪の無茶依頼絡みで縁が出来たパン屋に到着した琉宇は、ご機嫌にパンを人数分買い付け、近くの店で牛乳も仕入れてきたが‥‥ 『寄るなー』 『吹雪、いい匂いするなぁ』 その間に、へろへろの猫又が二匹になっていた。 「元気な状態で会うと怖いから、これでよかったかな」 白猫又シンノスケが吹雪に言い寄っていて、それはもう激しく嫌われているのを目にしたことがあるイリアが呟いて‥‥腰砕けの猫又達から睨まれていた。 結局。 琉宇がどうしてもパンと牛乳を食べねばと主張し、皆の常識が『ここでマーシャを連れて行くのも確かに怪しい』と訴え、パン屋の店主が色々貸してくれたので、チシャがヤシン家にお使いに出向いて、母親に迎えに来て貰うことにした。その間、皆はマーシャを交えてお茶会である。 『助けろ〜』 初雪がマーシャにぎゅうぎゅう抱きしめられて悲鳴をあげたり、シリウスと桃がぐいぐい撫でるとも掴むともつかない扱いにじっと耐えたり、詩弩が迷わず屋根の上に移動したりを目撃したチシャはあっさりお使いに出掛けたが‥‥ 『あんまりですわ』 姉のカーチャにがっちり抱えられて、ひくひくしながら戻ってきた。手が離れた途端に、露草の手にしがみ付いている。 「ま、たまにはこういうのも悪くない」 「そうですね。でもマーシャちゃん、お母さんに言わずにおうちを出たらいけませんよ」 からすのお茶を楽しみつつ、カズラが朋友の悲鳴を無視して呟いたのに、同調したわけでもなかろうがラヴィも頷き、マーシャにクッキーをあげつつ言い聞かせている。母親のヴェラが平身低頭しているが、当人はお返事だけはいい感じ。 なにしろ桃とシリウスの尻尾を掴んで離さず、桜が忍犬達が痛くないように手元を押さえているのだ。カーチャは居合わせたモーリスに後ろから近付こうとして、イリアに抱き止められている。 「そんなに動物が好きなら、龍を見せてあげようか」 うっかり親切なことを言ってしまった嵐は、カーチャがザザと琉宇の龍を港で一時間も構いつけ、疲れさせていた張本人だとは知らない。 |