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■オープニング本文 神砂船を巡って幾つかの勢力が争った後、人の間に残ったのは以前から存在する都市住民と遊牧民との軋轢だった。 長年くすぶり、時に小競り合いの元になっているものだが、遊牧民側でジャウアド・ハッジが反王宮を掲げるようになってからは、とみに衝突が増えている。 神砂船でも様々な衝突が発生したものの、今回は王宮に楯突く行動をした遊牧民が多数捕虜になって、王宮側勝利と呼べる状態で収束した。とはいえ、その後の捕虜の解放・引き渡しの交渉でまたもめているのだが、なんとかようやく遊牧民側と王宮派の話し合いが始まったところだ。 「名簿の確認が済んだ。怪我人の治療はちゃんとやってんだろうな」 「やっとるわい。その分の手間賃も身代金に加えさせてもらうぞ」 「けっ。じゃあ、今この連中にやらせてる仕事の報酬分は差し引きやがれ」 「‥‥おぬしら、なんで最初から喧嘩腰なんじゃ」 始まったが、話し合いはそれらしい様を取り繕うこともせず、角を付き合わせている状態だ。捕虜の解放条件が決まるには、まだしばらく掛かるだろう。 そして、当の捕虜本人達とその身柄を確保している都市住民達も、実はとある場所できいきいぎゃあぎゃあと言い争っていた。 「砂漠の歩き方は俺達に任せろってんだ!」 「任せてるだろうが! 周りと歩調を合わせろって言ってるだけだ!!」 「足の遅い奴らに合わせてられねー」 「そんなので護衛が務まってたのかよ」 「あっ、侮辱しやがったなっ」 「てめえら、捕虜らしくおとなしくしてろー!」 捕虜をただ繋いで置いていると、食べさせるだけでも大変なことになる。 それで、解放まで時間が掛かると見た各都市では、捕虜にした遊牧民達を力仕事に駆りだした。長らくの放置とアヤカシとの戦いでぼろぼろになった神砂船の外装修繕に使用する木材はじめ色々な物を運ぶ運搬隊を組織したのだ。 隊長は都市住民、道案内は中立の遊牧民、相手が捕虜なので見張りを兼ねた都市住民と中立遊牧民混成の護衛に、ラクダを引いて荷物を背負った捕虜達でぞろぞろと資材を運搬する。方法に格別問題はなく、捕虜達も畑仕事をさせられるよりはよほどいいと、最初はうまくことが運んでいたのだが‥‥ しばらくすると、些細なことで言い争いが起き始め、捕虜と主に都市住民とが衝突する。中立の遊牧民が取り成すと、今度は双方から『どちらの味方だ』と攻撃されてしまう。 都市住民と遊牧民の対立と言うは簡単だが、実際は都市同士、遊牧民同士でも利害の対立があり、都市と遊牧民の間にも商業的な繋がりや友好的な行き来もある。全体で見れば、都市の定住民と遊牧民との諍いが起きやすく、また様々な習慣の違いで禍根を引き摺りやすいというだけだ。 その縮図が、神砂船への資材運搬隊の中で起きていた。それも頻繁に。 もしも運搬隊の中で暴力沙汰が起き、怪我人でも出てしまうと、捕虜解放の話し合いもまた止まってしまうだろう。そうならないための人選が話し合われ、都市と遊牧民双方から第三者となる開拓者ギルドに運搬隊の護衛の依頼が持ち込まれたのだった。 |
■参加者一覧
梢・飛鈴(ia0034)
21歳・女・泰
ルオウ(ia2445)
14歳・男・サ
ティア・ユスティース(ib0353)
18歳・女・吟
ニクス・ソル(ib0444)
21歳・男・騎
門・銀姫(ib0465)
16歳・女・吟
将門(ib1770)
25歳・男・サ
沖田 嵐(ib5196)
17歳・女・サ
コトハ(ib6081)
16歳・女・シ
ルシフェル=アルトロ(ib6763)
23歳・男・砂
ミカエル=アルトロ(ib6764)
23歳・男・砂 |
■リプレイ本文 「まったく男連中ってのはどうしてこう‥‥」 普段より低音、珍しく訛りなし、どういうわけかもふらの面がいつも以上にすっぽり顔を覆っている梢・飛鈴(ia0034)の呟きに、『男』ではあるものの、一応『連中』からは外してもらえるはずの開拓者仲間達は一様に嫌そうな表情になった。 その中でもルオウ(ia2445)やルシフェル=アルトロ(ib6763)のようにあからさまに『一緒にするなー』と主張する向きと、ミカエル=アルトロ(ib6764)、ニクス(ib0444)、将門(ib1770)達の態度で違うと言いたげの二派に分かれるが‥‥ なんにしても。 「節度がない殿方には、やはり警告も必要でしょうか」 無表情に、連れてきた忍犬・ロンが人の輪に飛び込もうとしたのを素早く蹴り倒し、足元でぴくぴくさせているコトハ(ib6081)に対しても、とやかく言う勇気ある男はここにはいなかった。彼女の忍犬が何かというと女性に飛びつこうとする悪癖があり、その度に殴られたり蹴られたりしているのは散々目撃されていたが、今の一撃は何かが違う。 そう、今回ばかりは何かが違っていた。 「あ・れ・ほ・ど! 破廉恥行為は厳禁だって言っておいたのに!!」 背後にどっしりと炎龍・赤雷を置いて、いつもはにこにこと愛嬌ある顔付きの沖田 嵐(ib5196)までもが、半眼で拳を握り締めていた。その拳がぷるぷる震えているのは、絶対に見間違いではない。 その傍らでは、これまた甲龍・フォルトが『どうしたの?』とでも言いたげに首を傾げる視線の先で、ティア・ユスティース(ib0353)が深々と溜息をついていた。こちらの表情は物悲しげだが、なぜだか眼光だけはひどく鋭い‥‥ような気がする。 「皆様がお疲れなのは承知しておりますが‥‥」 「あは、あはは〜♪ ここは一つ、謝っちゃうのが良策だねぇ♪」 女性陣の声がいずれも地を這うような中、一見すると少年で女性だとは思われていない門・銀姫(ib0465)の軽い調子の歌声に、睨まれていた『男連中』は救いを見出したようだ。 『離せ〜っ』 「すみません、ごめんなさい、もうしません!」 飛鈴の人妖・狐鈴の悲鳴に弾かれたように、十数名の『男連中』が這い蹲るように詫びを入れ始め、他の者達は腰が引けた様子でそれを眺めている。 「女って、おっかねぇ」 誰かがそう呟き、聞いていた半数から同意の頷きを、残り半数から『そんな当然のことを今更』と返されたのは、資材運搬隊が出発して一日目の昼だった‥‥ 神砂船修理のための資材運搬という重要な仕事の護衛兼内在する二派の仲介という名の緩衝材として集まった十人の開拓者達は、予想外に低俗なやり取りに頭痛を覚える羽目になった。先に耳にした事情では、それこそ長年積もり積もった諍いが原因の揉め事のはずだが、 「お前のその服は趣味が悪いんだよ。今時そんなので女にもてるかっ」 「てめえの狭い了見でほざくな! そっちこそ色合わせが最悪じゃねえか」 実際の彼らのやり取りは、子供の喧嘩のようなのだ。子供が使わない単語が混じっていても、態度はたいして変わりない。 「まあ大人でも苛々するのは仕方ないね。今の時期は暑いし」 「喧嘩したって良いことないだろうに‥‥」 確かに暑く、太陽が高い時間帯は移動をせずに休憩するのも当然の季節だが、それにしたって見苦しいことこの上ない。エルフの双子で砂迅騎のルシフェルとミカエルでさえ『暑い』と言うのだから、苛々しやすいことは理解するが‥‥低俗すぎて、突っ込みにくい。 「どしたどした、また喧嘩かー?」 何が原因だと駆け付けたルオウが尋ねているが、言い争いの原因は『風上で砂を蹴ったから迷惑した』とか、仲間内ならもめないようなことばかりだ。それがここだと言われた側が反論したりするので、仲間が加勢して大騒ぎになってしまう。 その度に誰かしら開拓者が話を聞いてやるのだが、事前に別の依頼で遊牧民側過激派のジャウアド・ハッジやその周辺の様子を見てきた銀姫や嵐から色々聞いていなければ、大人のくせにと呆れ果ててしまっただろう。時として、そのくらいに子供染みている。 まあ、著しく生活習慣が違う人々の間で、長い間に起きた色々な軋轢が積もり積もって、その嫌悪感が幼少時から記憶と態度に植え付けられている者同士が角突き合わせる状況になるとこういう事態との見本市だ。ジャウアドのような旗印が出てきたので、そういうところが表面化したとも言えそうだが。 ただ、ミカエル、ルシフェルの双子がいても、基本どこの氏族、勢力にも属していないとの触れ込みの開拓者が双方の話を聞くと、ちょっとした揉め事はそれだけで解決するようになった。どちらが正しいとか、そういう判断をすることもない。要するに鬱憤を吐き出して、すっきりしたらどちらも仕事に戻れるわけだ。くだくだしい愚痴が延々と続いたりするので、楽とは言えないが‥‥無闇と拳で語り合われたりするよりはいい。 これには、出発してすぐの言い争いに将門が、 「くだらんことで噛み付くのは自分の価値を下げるぞ。思うところがあっても、それを弱い立場の者に向けるのも格好悪いしな」 こう言い聞かせたのが、捕虜と護衛双方の自尊心をくすぐったこともあるようだ。それでも言い争いは頻発するのだが、以前は掴み合いも珍しくなかったようだから、それなりに自制しているらしい。あまりそうは見えないのが難点だが。 加えて、最初にニクスがラクダや皆の服装を珍しがり、護衛のみならず捕虜からも興味深げに話を聞き、なにくれと感心していたことで、双方からの開拓者への警戒心が緩んだのも大きかったろう。立場が中立と言われても、実際の態度のほうがものを言うものだ。 ただし。 「ほう、ラクダの毛を刈り込んで模様を入れるとは、なかなか洒落ているな」 一見して洒落た装備を着けているニクスの一言で、幾つかの氏族から集められたり、捕虜が連れていたものが流用されたりと、こちらも出自が様々のラクダの外見問題での争いは起きている。こちらはもう自慢合戦なので、開拓者も揃って拝聴し、言いたい人には満足してもらっていた。ラクダにも能力の他に外見での優劣があるのだが、これは好みや文化の違いもあるから誰が正しいというものではない。聞く人がいて、言い合いにならなければ、問題にならない程度のことだった。 「やはり四肢の太さが均等で、毛艶が良く、離れて見た時の姿勢がこういう風なのが良いラクダだな」 「力がありそうな動物ですね」 一行の中でも、ラクダに見るからに手を掛けた敷物を載せて鞍代わりにしている案内人が、休憩中に飴を進めに来たコトハとの世間話で珍しく熱っぽく語っていたくらいに、ラクダが重要な家畜であることは間違いない。他にもラクダレースが各地で盛んだとか、どこそこの街のラクダ市はとても賑わうのだとか、そういう話が大抵の人々から出てくる。 ルオウやニクス、銀姫とティアがこちらの風俗、文化に興味を示し、隊長始め、捕虜にも分け隔てなく、ものを問うときには丁寧な態度で色々聞かせてくれと言うから、移動の中でも休憩中でも、大きく立場が違う捕虜と隊長達とがいがみ合う時間も減っていた。お互いに役目はともかく、それ以外では開拓者の顔を見ているほうが気が楽だというのもあるのだろう。 そうしたこととは別に、同じアル=カマル出身の気安さで特に捕虜の中に入り込んでいたルシフェルは、四十人の捕虜が大雑把に三派に分かれているのを確かめていた。うち二つは反王宮派でも急進的なジャウアドに近しい勢力で、残る一派はジャウアドと距離はあるものの都市住人のほうが更に相容れないという立場のようだ。 「分かっちゃいたけど、ややこしいね〜♪ じゃあ〜、この間のあった大将の話はあそこにはしないようにしないと〜♪」 「うんうん、そうして。いやぁ、しかし俺達も仕事熱心だなぁ」 何を言うにも、大抵は節をつけて歌もどきに仕上げる銀姫が、ルシフェルの見立てを聞いて苦笑していた。色々な氏族がいてくれれば話を聞く側は楽しいのだが、やはり話題は選ばなくてはならない。気分屋の雰囲気が会話の端々に見えるルシフェルも、その点は弁えていて、他の者にも観察して気付いた事は知らせていた。 ただ捕虜にも護衛にも話しかけるのに忙しいから、説明が足りないところはミカエルが補足して回っている。ミカエルは捕虜とよく話して、その会話の端々から分かる習慣を、他の儀の仲間に説明もしていた。 「は? ルシフェルの方が社交的だと? 単にお調子者なだけだ」 比べられるとお互いに自分の方が何につけても優れていると主張したりもしていたが、最初の挨拶で隊長から見分けが付きやすいようにしてくれと頼まれた事に配慮したりと、確かにしっかり者の様子は見せている。 こうした情報を元に、皆が配慮しながら目を配っていても、揉め事が起き易いのは仲の悪さから仕方ない。最初の出来事は、運搬隊が出発して半日もしないうちだった。 ラクダの一頭に積んでいた荷物が崩れて、落ちた。幸いにして怪我人も出ず、ラクダも資材も無事で、積み直してすぐに出発できるはずだったが‥‥誰が積んだ荷物かでもめ始めている。要するにいい加減な仕事をした奴がいるから、余計な仕事が増えたというわけだ。 「町の連中はろくな仕事が出来ないくせに、偉ぶりやがって」 「待て、確証もないのに言い掛かりだろう」 そんな会話で、開拓者一同が『なるほど、こういうことか』と納得した始まりようだったが、実際誰が積んだ荷物だかは良く分からない。それでもやいのやいのと始めた捕虜と護衛が、険悪な状態になった時、最初にその状況を変えたのは将門の甲龍・妙見だ。妙見のみで上空を飛ばせ、敵がいれば知らせるようにと厳命しておいたが、揉め事発生で慌しく動いた将門の様子を認めて降りてきたのだ。続けてルシフェルの甲龍・ロムルスやミカエルの鷲獅鳥・ヘカテ、嵐の炎龍・赤雷と降りてきて、それだけでもめていた者達も驚いていたところに、 「そんなに暴れたいなら、後で俺が相手するぜ?」 剣気を使うほどではないが、将門が少しばかり凄んで見せると、龍や鷲獅鳥に囲まれて気を呑まれていた人々は暴れるより荷物を積みなおして進むことを選んだ。もめていたって予定が遅れるばかりで、いい事がないのにようやく思いが到ったらしい。 「そうそう。資材は大事にするアルよ」 一般人の男がよいしょと抱えるものを、軽々と持ち上げて、飛鈴が言い聞かせていた。ジンだと分かっていても、年若い女性の見せた力にも改めて驚いたか、一部の捕虜は腰が低くなっている。後でジンには特に敬意を払う氏族出身だと分かったが、そういう態度は他にも伝播する。 更に、揉め事の最中にも周辺への警戒や、他の者達の様子確認に勤めていたニクスの態度には、護衛達が頼りになると感じたようだ。捕虜にも普段は隊商護衛を勤める者も少なくないから、開拓者達の力量をきちんと推し量ってもいる。それで、揉め事が起きても仲裁がうまくいく切っ掛けにはなった。 それで揉め事がなくなれば一番だったが、どうしてもぐだぐだと嫌味の応酬をしたり、言い争ったりはなくならない。だが隊長が『今までの十倍まし』だというから、まあ状態は改善していたようだ。 「十倍悪いって、何してたんだか」 迅鷹・ヴァイス・シュベールトを譲ってくれと捕虜の一人からうるさく迫られて、休憩中には抱えて歩いていたルオウがぼやいたが、さぞかしろくでもない事が起きていたのだろう。彼が迅鷹を狙う捕虜に付き纏われるくらい、やはり迅鷹・銀姫を連れてきた吟遊詩人の銀姫が追い回されるよりはいいに決まっている。 銀姫が追い回されたら、確かに口調は荒い隊長が猛烈に怒るのはこれまでの経験で捕虜達も分かっていて、ルオウが被害にあっていると護衛の一人が教えてくれたが‥‥女性に親切なだけで、捕虜から女好き呼ばわりされている隊長に、この場合は同情すべきだろうか。 まあ、この隊長と開拓者も一悶着あって。 「なんで俺が奴らの言い分聞かにゃならねぇんだ」 これでも捕虜に対するよりは柔らかい物言いの隊長は、飛鈴が遊戯で優劣を競って、捕虜が勝ったら隊長が一つ言うことを聞いてやるのはどうかと持ちかけられて、即座に拒否してくれた。正論だが、じゃあと飛鈴が丁半博打でもするかと言い出したら、そんなことに手を染めるなと説教まで始まる。 ティアや銀姫の吟遊詩人の腕前披露には文句もないが、遊戯はともかく賭け事は良くないと喧しい。ついでにティアの衣装にも、注文が細かかった。基本、捕虜の前で肌は見せるなと言うのだ。バラージドレスなど、見せたら怒鳴られそうである。 「あらまあ、でもこちらの踊り手の皆様も、衣装には凝っていらっしゃる様子。何か理由があるなら、お聞かせいただけませんか」 「捕虜生活なんかしてると、下品になる。危ねぇから駄目だ」 同じく賭け事は喧嘩になるから駄目。最初からそう言えばいいのにと、思ったのはティアばかりではない。話の弾みで、娘がいるとも口にしていたから、女性の扱いにうるさいのはそのせいだろう。 だが、隊長は口喧しいと同時に声が大きく、最初の休憩中のこの話はあっという間に捕虜にも広がっていた。当然、またぶうぶうと文句を垂れるのが出てくる。 そして、開拓者側で額を付き合わせて、相談をした結果。 「いっかー? サボりが出たら、いいことなんもなし。予定通りに進めたら、歌姫登場。遊戯であんたらが勝てば舞姫も登場。隊長が勝ったら、舞姫なし。俺達が勝ったら、飯の準備はあんたらだぞ」 と、ルオウが発表している。 護衛からも『目の保養は大事だよね』と意見が出ていて、案内人が隊長とそちらの間を取り持ち、最終的には飛鈴やミカエルが持ち込んだ道具で、就寝前に開拓者も交えて順位を競う事になった。捕虜が最下位なら、何もいいことはなくひたすら働くだけ。ある意味当然の待遇だが、勝てばちょっといいことがあるので、文句も言わずに進むようになった。 これには、女性陣がにこやかに、普段は表情があまり変化しないコトハも微笑を振り撒いての、美味しい飲み物や軽食を配るのが特に効いたようだ。 そしてなにより、一日目の昼の‥‥ 「へぇ、こんな小さいのに、ちゃんと下も着てるや」 狐鈴がちょろちょろと捕虜の間を巡っていたのを摘み上げて、服をぺろりとめくった者の台詞に、大爆笑した『男連中』への女性陣の豹変振りが絶大な効果をあげた。 それでいて、飛鈴が教えた籠に鞠を投げ込むお遊びには、ご褒美目当てに必死になっていたりするので、反省が続いているのかどうか。男衆だけだと、開拓者も交えての他の儀の女性談議やら何やらで盛り上がっていたようだし。まあ、女性陣も不埒な言動を直接仕掛けてこない限りは、そ知らぬふりをしてあげたけれど。 結局、歌姫は三日間連続、舞姫は二日目だけ登場と相成った。それでも余興があれば気持ちも安定するようで、三日目はさくさくと移動が進み、予定より二時間ばかり早く目的地に到着できた。その分ゆっくり休めるし、相変わらず捕虜と護衛はよそよそしいが、ルシフェルとミカエルを挟んで少しばかりは話をしたりし、それぞれに開拓者とは自分の出身地の話題で盛り上がったり出来た。 特に盛り上がったのは、銀姫と嵐がもたらしたジャウアドの様子だったが、これはやはり一部の捕虜に関してのみ。だが神砂船まで別便で到着していた飛空船からの情報だと、捕虜解放の話し合いは徐々に進んでいるという。 「戻ったら、仕事に活かしたいからね」 「お役に立つといいのですけれど」 ティアは道中にふるまった飲み物の作り方を捕虜の一人に尋ねられ、親切に教えていたが‥‥途中で、相手が『抜け駆けだー!』と仲間に連れ去られた挙げ句に、他の者達が我も我もと寄ってきたので、思わず技能の使いどころかと考えた。 「お一人では大変ですかしら」 でもコトハが気を利かせて来てくれたので、口笛などの出番はなく、案外勉強熱心な人々に二人して色々と教えている。合い間にコトハがティアに近付くロンを引っ叩くのには、もう皆慣れた。 そうした様子に、護衛達は将門やニクス、ルオウに手合わせを頼んで来て、飛鈴と嵐も加わり、銀姫の音楽を添えての賑やかな訓練にもなっている。 こっそりとダイスを転がしている双子と少数の捕虜もいるが、もめなければ大丈夫。 そんなこんなの帰り道、飛空船の甲板で。 「「「「「「うおーっ」」」」」」 何にもつれてこなかったのかと今更のように尋ねられたニクスがアーマーを披露して、アーマーケースから出ると三メートル余という不思議な巨大鎧に大興奮した人々が、立場に関係なく感嘆の声を上げたが‥‥最初に飛びついたのがルオウだったのは、きっと居合わせた人々が家族に披露する話題の一つになることだろう。 |