【神乱】対決ジスー(略
マスター名:龍河流
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 易しい
参加人数: 10人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/03/31 23:11



■オープニング本文

●対決! ジスーセイゲーン!!

「またあそこかっ」

 下士官からの報告に、隊長が声を荒げている。下士官が大きく頷いたのは、同じ事を考えていたからだ。
 彼らは帝国軍に所属する、主に伝令を担う部隊だ。あらゆる戦地で、味方同士の連絡の一手段として、地上を移動するあらゆる手段を講じて伝令に走る。龍や飛空船、グライダーの飛行手段、犬、伝書鳩などの動物を使う別の部隊も存在するが、彼らが使うのは主に騎兵だ。足が速い馬を操って、どこへでも向かっていく。

 もちろん今回の南方の反乱でも活動しているのだが、移動に便利な経路の一つにアヤカシが現われたとの情報があがってきた。ケルニクス山脈の中、細いが深く切り込んだ谷で、風向きの関係か冬季にも積雪が少ないので人馬の移動が便利な道だ。風も弱く、休憩するにもありがたい場所である。
 しかしこの谷は反乱の前から度々アヤカシが現われることでも知られていて、退治してもまた別のアヤカシが出る。春から秋にかけては隊商等も使用するから、それを狙ってのことだろうが‥‥今この時期に出て来られるのは非常に困る。
 この谷が使えなかったら、届けるべき情報の何割かが届かない事態も予想されるのだ。

「なんだってあそこはいつも‥‥ジスーセイゲーンの谷め」

 結局、伝令部隊の隊長はアヤカシ退治は開拓者ギルドに任せることにしたのだった。


■参加者一覧
栄神 望霄(ia0609
16歳・男・巫
秋霜夜(ia0979
14歳・女・泰
倉城 紬(ia5229
20歳・女・巫
由他郎(ia5334
21歳・男・弓
氷那(ia5383
22歳・女・シ
浅井 灰音(ia7439
20歳・女・志
ジルベール・ダリエ(ia9952
27歳・男・志
アーシャ・エルダー(ib0054
20歳・女・騎
ブローディア・F・H(ib0334
26歳・女・魔
櫻吏(ib0655
25歳・男・シ


■リプレイ本文

 ジスウセイゲーンの谷。そこは事前情報に違わぬ、とてつもない場所だった。
 そして戦いは、
「ファイトー!」
 秋霜夜(ia0979)の叫びと、
「いっぱーって、えええぇぇ〜っ!」
 アーシャ・エルダー(ib0054)の途中から驚愕に変わる声とで、一時中断となった。

 地名、ジスウセイゲーン。
 地形、谷。
 出てくるアヤカシ、あれとかこれとか。
「なんだか嫌な響きの名前です」
 出発前、情報収集に動いていた中での栄神 望霄(ia0609)の一言は、多くの者が感じていたことだった。
 地名は今更どうにもしがたいが、ここにアヤカシが始終現われるのには、何かしら理由があるのではないか。そう考えて、由他郎(ia5334)や浅井 灰音(ia7439)、ジルベール(ia9952)、アーシャと霜夜はあちらこちらにこれまでの事情や谷の様子を聞いて回っていた。ただし、これといってアヤカシが湧いて出るような原因は見付からない。祠も洞窟も、谷にまつわる伝承も何もない。
 元々アヤカシが多く出る地域に近く、冬季以外は人通りもそれなりにあって、一本道で襲いやすいことから根城にするアヤカシが多いのだろうと、そういう推測が主だ。
 ただ、今回は何かが違っていた。
「今回は伝令さんやけど、特に文を持ってなくても襲われるみたいやね」
 ジルベールは手紙に原因があるのではと疑ったようだが、そういうこともない。けれどともかく、量が多いのだ。
 そう聞かされて、谷に向かった一行は、
「ここはまだ谷ではありませんが‥‥依頼書に齟齬があることなどあるものでしょうか」
「滅多にありませんけれど」
「時間の経過で状況が変化していることは、考えられるのではないかしら?」
 櫻吏(ib0655)が疑問に思い、倉城 紬(ia5229)とブローディア・F・H(ib0334)が教えたように、状況の悪化に苦戦させられていた。
 なんとなれば、谷の手前からアヤカシがわらわらと出てくるのである。
 まったくもって鬱陶しいことに、次々と!

 これに対して、開拓者九名の作戦は明朗だ。
 栄神が神楽舞・攻の力をのせて舞う。続けて、紬が神楽舞「速」を。こうした支援の間に、ブローディアが思い切り良くファイヤーボールをこれまた歌い踊っているかのような派手な詠唱と動きを伴わせて、アヤカシ目掛けて撃ち放つ。
 炎の魔法で敵が動きを止めたところを、由他郎とジルベール、それに開拓者仕事は初めての櫻吏が矢継ぎ早に射立てて、まずは敵前線を崩す。敵味方の距離が縮まったら、今度は幾つもの武器を用意した灰音やグレートソードを構えたアーシャ、泰拳士の霜夜が突っ込んで、当たるを幸いそれぞれの武器でなぎ払う。突撃する三人以外は、彼らの横をすりぬけたアヤカシを相手取る。
 引き際を見誤って、敵中に一人取り残されるようなことさえなければ、この人数で多数の敵を相手にする方法は、皆の戦い方を考え合わせれば、これがよかろうとなって、実際に十分それぞれが実力を発揮していた。
 だがしかし、
「六百じゃ無理、七百、いや八百は見込まないと!」
 アーシャが叫んでいる通りに、谷から一匹だと雑魚呼ばわりされるアヤカシが、ちょろちょろちょろちょろ、徒党を組んで現われるのである。その総数たるや、一見しただけでは数えられないほどだ。ただしアーシャが、どうやって見えない位置にもいるはずのアヤカシの数を算出したのかは分からない。
 谷の手前では、当初の作戦でなんら問題はなかった。けれども、谷に入らないうちにアーシャが『うざっ』と呟いて、グレートソードを放り出しかけ、霜夜の掛け声で気合を入れ直したかとみるや、妙にちまちましたスノウゴブリンの群れにもみくちゃにされるという事態が起きて、開拓者一行は一度戦線を立て直すことにした。

 そして、谷を少し離れて。
「なんでだろう、血が騒ぐなぁ‥‥」
 灰音がどこか遠くを見る目で呟いている横で、
「ジスーセイゲーンとは何とも奇異な谷で御座いますな。アヤカシとは徒党を組むものでしたでしょうか?」
 櫻吏が肩を回してほぐしつつ、他の人々を見やっている。先達の貴重な意見を知りたかったわけだが、灰音以外も妙に自分の世界に浸ってぶつぶつ呟いている者が多くて、誰も返事をしてくれない。
「一時間以上かけて考え抜いた行動がそれは多すぎと言われて一回戻ったら全てさっぱり真っ白になっていたあの時の悔しさ思い出すだけでこう怒りが沸々と」
 これは多分、栄神がいつかの作戦打ち合わせで出した作戦案を練り直そうと家にでも戻った時に、着いてみたら頭の中が真っ白だったとかそういうことだろう。
「旧敵に挑む機会を与えられた事に、感謝している場合ではないか‥‥」
 由他郎は、谷から出てきたアヤカシのいずれかと、余程の因縁があるらしい。
「ジスーセイゲーンを抑えこまないと、帝国だけではなく開拓者にも大きな被害が出ます。早急に対応せねば」
 奇妙なほどに熱がこもっているのは、アーシャだ。相変わらず、地名とアヤカシ名が一緒くたになっている。
「いつでも何処でも現れて皆を困らせやがって!」
 ジルベールの言い分は、まったく持ってその通りだ。特に今回は、大量に現われすぎ。
「敵を削っても削っても終りが見えないのは、なんだか心の深い所を震撼させますよね‥‥」
 霜夜の一言は、聞かなかったことにするのがいいだろう。
「白湯ですけれど」
「こういうところで火を見ると、ほっとしますわ」
 この空気に乗り切れない紬とブローディアは、休憩のために焚き火でお湯を沸かして、依頼人が持たせてくれた焼き菓子を頬張っていた。一口大だが甘みが強くて、これからまた戦わねばならない時にも胃の負担にならずに元気が出てくる。硬いので、良く噛まないとならないが。
 他の人々もぼりぼりと菓子を食べ、白湯を飲んでいる間に火の始末をした櫻吏が、『アヤカシ退治とは、そんなに大変なものでしたか』と何気なく口にしたら、数人掛かりで『今に分かる!』と断言されてしまった。
 なんにしても、依頼を受けたからには全力を尽くさなければなるまい。

 霜夜が『わぁ壮観』と口にしたのはまだ控えめな表現で、ジスウセイゲーンの谷のアヤカシは、本当にどこかから湧いて出てくるようだった。
「アヤカシごときが、触っていいものではありませんっ」
 ブローディアが、気合一閃、アストラルロッドを横様に振り切った。長い杖の先から、ファイヤーボールがアヤカシの密集する地点目掛けて飛んでいく。百合の紋章が飾られる杖を一瞬赤く染めて見せる炎は、アヤカシを瘴気に返した。
 けれども、その炎が消える頃には、別のアヤカシがその瘴気の消え行く中を、開拓者達に向かって襲い掛かってくる。次の魔法攻撃までの間を繋ぐのは、由他郎とジルベール、櫻吏の三人が放ちまくる矢の雨だ。
 ジルベールと由他郎は弓術師ならではの即射に、普段はなかなか使えない乱射で一面敵ばかりの前方に、思う様に矢を射る。少し下がって、櫻吏は二人の矢を逃れたアヤカシを、一体ずつ念を入れて潰していた。
 普通、弓手は頃合を見て後方に下がるものだが、今回はその気配はなかなか見えない。一体でも多く自分が倒すといわんばかりに、弓術師二人が矢を射続けているのだ。開拓者ギルドで驚かれるほどに矢を貰い受けてきたが、もしかすると途中で足りなくなるかもしれない勢いだった。
 更に、短い合図の後にはブローディアが次の魔法を放つ。
 その後方では、巫女二人の神楽舞も。しかも二人共に近接戦闘にも備えて、それぞれに得物を手にしている。栄神が太刀、紬が薙刀だ。栄神に到っては、長時間の戦闘で太刀を取り落とさないように、包帯で握った手を固定までしている。
 徐々に敵との距離が近付いて、先程の雪辱に燃えるアーシャと、色々用意した武器を今度こそ本格的に使いこなして見せようと意気込む灰音と、
「ジスーセイゲーン谷の試練も、あの大合戦で鍛えられた開拓者は、必ず道を切り開きますっ!」
 おそらくは反乱軍との戦いを言っているのだろう霜夜とが、再度飛び出していった。
 相変わらず谷はアヤカシの群れに埋め尽くされているが、彼女達は谷へ踏み込んだのである。

 大小さまざま、どちらかというと小さいのが多い、特に通常の半分くらいの大きさが多いアヤカシどもを、灰音のダブルショートが切り裂いた。
「さあ、止められる物なら止めてみなっ!」
 どこか笑いを含んだ声に怒りを覚えたか、彼女目掛けて襲い掛かってくるアヤカシ多数。けれども次の一閃が届くより前に、アーシャのグレートソードが唸りをあげて、アヤカシを切り裂いた。
 人の獲物をと思ったかもしれないが、戦果を争わねばならないほどにアヤカシが少ないわけではない。灰音もアーシャも、その二人の背後を守るように位置を変える霜夜も、目の前からアヤカシが消えることはない。離れた位置の奴らは、遠距離攻撃担当の四人に任せて置けばいいから意に介さず、ともかくも次々現われるアヤカシを退治することに全力を注ぐ。
 灰音は次々と武器を変え、間合いも様々にアヤカシを翻弄する。アーシャと霜夜は、先程の気合を今度は邪魔されることなく叫んで、向かってくるアヤカシを千切っては投げ、千切っては投げる。
 三人はそうしてアヤカシの群れの中を突き進んで行き、次々と瘴気に還していく。三人とも、負傷がないわけでもないが、治療のために戻ることなど考えてはいなかった。体が動かなくなる寸前までは、戦あつもりだ。

 そんな様子を遠目に見て、当然巫女の二人は心を痛めている。だがこれだけの敵がいると、こまめの回復などやっていてはかえって危険だ。
 なにより。
「お気に入りの衣装が染みになったらどうしてくれる!」
「そ、それは嫌ですわね。そうでなくても、アヤカシは許すわけには参りません」
 前衛の三人がどれだけ頑張っても、どうしても取りこぼしは出る。おかげで二人は懐に飛び込まれると攻撃手段が乏しい四人の前で奮戦中だ。幸い背後から襲ってくる気配はないから、前方に集中して得物を振るう。
 舞で鍛えた足が軽やかに位置を変える様をのんびり眺める余裕はなく、守られる位置にいる四人とて攻撃の手は緩めていなかった。
「‥‥あと三百ってところか。少し厳しいな」
 由他郎が、やはりどうやって数えたのか不明な数字を口にしたが、今は誰も突っ込む余裕がない。一人二百本は矢を打ったし、ブローディアはそろそろ練力が心配だ。櫻吏はなぜだか、くつくつと笑っている。
「どしたんや?」
「いやぁ、いきなり厳しいところに来てしまったと思いまして」
 ジルベールの問い掛けに、櫻吏は口の端に笑みを引っ掛けたまま答えた。こんなに大量のアヤカシに、たった九人で挑もうなどとは正気の沙汰とは思えない。
 けれども。
「雑魚ばかりでよかった」
 誰かの一言は、このくらいならいつでも戦ってやるといわんばかりのもので。
 実際に、総時間五時間ほどで、ジスウセイゲーンからアヤカシは綺麗さっぱりと消え去ったのである。
 その後、一日掛けて谷をくまなく探してみたものの、どこにもアヤカシを引き寄せる要因になりそうなものは見付からなかった。

 それは、栄神の一言からだ。
 これだけアヤカシを退治した後では、土地にも瘴気が相当染み込んだ事だろう。ジルベリア帝国が普段どういう処理をしているのかは知らないが、清めの舞いの一つも奉じておこうかと栄神が言ったのだ。紬も異論はなく、他の七人にも反対する理由などないから、奉納舞いは楽の音もない中でだが行われた。
 舞いの後、帰還前にようやくゆったりと休息を取ることが出来た彼らだが、どうしても話題は『ここにはアヤカシが現われるのか』になる。原因はどうにも分からないから、人知を越えた何かがあるのだろうかという話になって‥‥
 ふと思い出した由他郎が、こう言った。
「そういや、やっぱりアヤカシがここみたいにちょくちょく出る峠があるって話も聞いたな」
 色々情報を聞き回っている時に、商人が似たような難所の一つとして教えてくれたのだ。地名がなかなか思い出せないでいたら、
「ゴッジダツージの峠」
 ジルベールが教えてくれた。彼も同じ話を聞いていたらしい。

 ジルベリアの大地は広く、アヤカシに悩まされる土地は他にもあるようだ。
 だが、ジスウセイゲーンの谷は、今は平穏を保っている。