|
■オープニング本文 その依頼は、どう考えても緊急性は薄かった。 内容は簡単だ。遊牧を主とする氏族の領域内、必ず行き来する谷の道を塞ぐように存在する大岩を砕いて運び出して欲しいというもの。あまりに硬い岩で一般人では道具を揃えてもなかなか砕けず、ジンならばということで話を持ってきたという。 道が塞がれているなら緊急ではないかと思うだろうが、依頼に来た人々はあっさりと口にした。 「え? 岩が落ちたのはいつかって? 二十年くらいになるかな?」 不自由しつつ、二十年近くも放置していたに等しい岩を、今更排除しようと考えたのは、仮設開拓者ギルドの噂を聞いたからだ。 「隣の氏族にジンはいるが、がめつい奴らで要求が多すぎる」 氏族にジンがおらず、また近隣の氏族から来て貰うには諸々の条件が合わないというか、隣近所とやや折り合いが悪いために、大岩を放置せざるえなかったのだろう。 それが、伝手もしがらみも関係なく、費用はそれなりでも手を借りられると聞いて、彼らはやってきたわけだ。依頼料を携えて。 「羊毛の糸じゃ駄目か。絨毯はどうだ? ほら、華やかで綺麗な柄だろう? それとも塩がいいか? なんだ、ラクダか羊を連れてこないと受けてくれないのか? まさか金銀以外は駄目か?」 普段は物々交換で万事を賄っているらしい氏族の人々に、出来るだけ現金でお願いしますと受付の係員が頭を下げ‥‥一時間ほどで、彼らは現金を持って再度現れたのだ。 さっそく所持品を売り払って金銭を作った手際は見事だが、そこから先もかなり独特で。 「氏族の女達が一月かけて縒った糸と、族長が半年かけて織った絨毯を売ったんだ。まさか土産の一つも買わずに帰れないだろう?」 受付の前にどっかりと腰を下ろして、値引き交渉に入る依頼人は滅多にいない。 仕事は簡単だが、受付の係員は憔悴していたという。 |
■参加者一覧
鴇ノ宮 風葉(ia0799)
18歳・女・魔
天河 ふしぎ(ia1037)
17歳・男・シ
滝月 玲(ia1409)
19歳・男・シ
喪越(ia1670)
33歳・男・陰
ルオウ(ia2445)
14歳・男・サ
嵐山 虎彦(ib0213)
34歳・男・サ
フィーネ・オレアリス(ib0409)
20歳・女・騎
セシリア=L=モルゲン(ib5665)
24歳・女・ジ
凹次郎(ib6668)
15歳・男・サ
ソレイユ・クラルテ(ib6793)
18歳・女・巫 |
■リプレイ本文 二十年も前から谷底に居座っている大岩を壊して避けて。 気が長いにも程がある依頼を請けた十人の開拓者のうち、龍を連れてきたのは三人。他に移動に向いているのは霊騎が一頭で、残りは依頼人達が預けていったラクダを利用する事になった。 「はっはぁ、このラクダちゃんが俺を美人のところに連れてってくれるわけだなっ」 「これだけ色々取り揃ってて、まだ不満かしら?」 そのラクダを前に、いきなりなにをしに行くつもりか悩ませる発言は喪越(ia1670)のものだ。それを混ぜっ返したセシリア=L=モルゲン(ib5665)に、困惑の表情を浮かべたのはソレイユ・クラルテ(ib6793)のみ。鴇ノ宮 風葉(ia0799)はかなり露骨に、フィーネ・オレアリス(ib0409)はやや控えめに、でもどちらも『そういう話題に自分を巻き込んでくれるな』と表情で物語っている。 何にしても喪越の発言とは裏腹に仕事、それもかなり地味な仕事をしに行く一行は、びっくりするほど大雑把な案内図を貰って出発した。 「ほとんど方角しか書いてねぇな‥‥」 「ヴァイスー、道案内ーって、無理だよなぁ、これ」 子供の落書きみたいな地図を片手に、滝月 玲(ia1409)が首を傾げている。一応目印の地形も書いてあるので、ルオウ(ia2445)がつれてきた迅鷹のヴァイス・シューベルトに呼びかけたが、言われた方はそ知らぬふりでゆったりと空を飛んでいる。滝月の相棒で同族の雷璃も一緒に、地上のことなど気に留めた様子はない。気に留めていたところで、人並みに知恵があっても理解しがたい地図ではあったのだが。 『暑いにゃ、我輩は砂の上など歩かないにゃ』 「籠でも吊るしておいてやろう」 猫又のスヴェトラーナの我侭に鷹揚に応じている嵐山 虎彦(ib0213)は、自分がラクダに乗っても大丈夫だろうかとちょっとばかり心配そうだ。乗ってみれば、他のラクダよりは立ち上がる際に嫌そうな素振りをしたものの、しっかり歩いてくれるので一安心できた。お上品な猫又だと自己主張するスーは、『揺れるにゃ!』とご機嫌麗しくないが。 「上からの景色も楽しんでみたいけどな〜」 「目的地が谷ですから、上に登れるところがあるかもしれませんよ」 今回はアーマーを持参したので地上を進む組の天河 ふしぎ(ia1037)が、騎龍で舞い上がったソレイユ、喪越、セシリアの三人を羨ましげに見やった。その背中に声を掛けた凹次郎(ib6668)は、自分の霊騎・ハリールの馬首を地図に示された方向に向ける。 遊牧生活の経験があるソレイユが先行する形で一行が出発したのは、実は夜が明けるより前。ようやく空が白み始めた頃だ。 「今日は風が強そうだから、昼間は井戸の近くでやり過ごしたほうがいいかもしれません」 彼女の言い分に、『どこに井戸が描いてあるんだ』と悩んでしまったのは一人ではない。ぽんと点を打ってあるのが井戸だとは、到着してから示されても、汚れに見えた者もいる。 だが、途中まで依頼人達が賑やかに迎えに来ていたので、一行は道に迷うこともなく目的地に到着したが‥‥ 「めんどくさい、帰りたいっ」 「まあまあ、歓迎してくれてるのに、そんなこと言わないの」 口喧しいほどに話しかけてきて、同性同士は抱き合ったり、ぺたぺた触ってきたりする挨拶に、すでに風葉が音を上げかけていた。天河が宥めているが、仕事をしないうちに疲れている。 習慣の違いにあっさり馴染んだのはルオウで、サムライとはどういうものかなどと説明しては、先方から感嘆の眼差しを向けられている。時々説明に詰まっても、凹次郎が補足してくれるから、会話は弾んでいた。 なぜかフィーネと嵐山の周りは、それぞれ異性がやや遠巻きにしているのだが、当人達は全員に分け隔てなく挨拶をして、行き先や土地の風俗について尋ねている。 「あぁ、退屈‥‥」 そうした光景を眼下にして、上空でぼやいているのは、もちろん喪越である。 さて、そうして辿り着いた枯れ谷では、幅六メートル程度のところに、どでんと大岩が鎮座していた。ど真ん中にあるので、両脇を通ろうにもラクダはなかなか苦労しそうだ。 「こちらの方は気長なのですね」 ここを通るのは年に二度だと言うが、羊やラクダ、少数の馬に人間も通り抜けるのは一日がかりの苦労を二十年もしてきた族長に、フィーネが八割がた感心した調子で口にした。残り二割は、まあ色々と混じっている気配だ。 「急いで行かなきゃいけないところなど、滅多にないからね」 年配の猫アヌビス女性の族長は、からからと笑って返した。大らかと言うか、のんびりしすぎと言うか、判断に悩むところだ。フィーネと一緒に挨拶に来た滝月も、いささか反応に困っている様子だった。 何はともあれ、作業用の道具を借りて、危ないので近くには寄らないようにと注意を徹底してくれるように願って、作業を開始すればいい。滝月が願った中で借りられなかったのは、そもそも大きな木が育たない地域では手に入りにくい丸太だけ。後は使い古した楔や金槌、荒縄に皮ひも、皮の袋などがちゃんと用意されていた。 ついでに、枯れ谷の上、大岩を見下ろすに良さそうな辺りに絨毯を敷いて、すっかりと見物準備まで整えていたのに、嵐山とルオウは声を上げて、他は大半が苦笑気味に笑ったが、風葉は頭痛がするとぼやいていた。 ついでに到着した途端にも、まずは遠くから来たのだから茶を飲め、コーヒーも淹れる、食べ物はこれでいいかと仕事を依頼してきた側とは思えない供応を展開してくれたが、ソレイユの説明ではよくあることらしい。受けないのは失礼だし、なにより不審な連中扱いされかねないと聞かなくても、昼も過ぎていて飲食の提供はありがたいことだったが‥‥ 「茶と言うよりは、汁物だな。次は俺が持ってきた茶を飲んでくれ」 酒もあるが、ここの皆はいける口かと、羊の乳と茶を混ぜたような塩味の利いた飲み物の杯を傾けつつ嵐山が尋ねて、何人かと楽しそうに酒談議に突入していた。スーはその騒ぎが嫌になったか、単に子供達に尻尾を引っ張られるのに疲れたか、あちこちさ迷った挙げ句に族長の膝の上で丸くなっている。 そんな猫又ほどではなくても、迅鷹も相当珍しいと見えて、鷹匠扱いの滝月とルオウも何人かの男女に囲まれて質問攻めにあっていた。迅鷹どころか普通の鷹も入手する伝手や予定がないのに、妙に熱心に訓練の仕方を知りたがるのが面白い。ルオウが話を向けたのもあって、都市や他所の部族に売る商品の絨毯や飾り物など広げ出し、模様の動物が、植物が、あれかこれがと始まった。 しまいには、ラクダの毛も綺麗な模様に刈り込んであるのがいると連れて行かれそうになったが、流石に仕事に取り掛からねばならないので、それはまた後ほどとなった。 ちなみにこの間、薄着も極まるセシリアが、日差しがきつくなるから何か羽織らねば駄目だと女性陣に言い募られ、渋々何か借りると口にさせられていた。確かに岩を砕いている間に、欠片で傷でも作ったら嫌だから、まあ短時間なら好みと違う格好も我慢できるのだが不思議な点が一つ。 「なんだか私、若い人に嫌われてるかしらね?」 正確には若い女性達が寄ってこないだけで、男性陣は上着を使ってくれと次々やってくる。ついでに家族構成というか、要するに結婚しているかどうかなど、結構突っ込んだことを質問してくるのだが、この辺は適当に受け流せるからセシリアは問題にしない。 まあ、男性陣の注目を浴びて、同性に敬遠されるのはよくあることかとあまり気にしないことにしたが、細かい事情は後で判明した。 いささか過剰なもてなしを受けて、一行が仕事に取り掛かったのは夕方に近い時間だった。依頼した部族の面々は、放牧中の羊の群れを見張っている少数以外は、十メートルほどある谷の上に陣取って、様子を眺めている。そうしながら、女性の大半は羊毛から糸を紡ぎ、男性は天幕の繕いなどに手を動かしていた。子供もそれらを手伝いながらの見物だ。 ただ見物している側には残念なことに、初日はほとんど見て楽しい出来事はなかった。いや、初っ端に喪越が『地道に撤去もつまらねぇ』と焙烙玉を取り出したのだが、滝月と天河が『事故になる』と速攻却下を食らわせて、派手な爆発はお預けになっている。この二人が大岩の『目』を探し出せば、壊すのも簡単だと調べているから、他は出番待ちだった。岩の『目』は要するに亀裂が入りやすい箇所だ。 それこそ縞模様でもあれば簡単に探せるのだが、一見した大岩にはそういうものはなく。天河が上のほう、滝月が下のほうにへばりついて、地道な確認作業に入っていた。他の者は判断基準が今ひとつ分からないので、周りで見守っている。 ちなみにここの部族の人々は、『岩の目ってなんのこと?』状態で、適当に削ろうとして無闇に労力をつぎ込んでいたらしい。 「ぱぱっと終わらせたいんだけど‥‥」 『若いうちは苦労を買ってでもするもんじゃきぃ』 何とか早く終わらせたいと、周辺地理を知り尽くした部族の子供達に追い回されている風葉は、管狐の山門屋つねきちにガツンと崩す手伝いをしろと迫ったが、つねきちは昼寝に忙しいと突っぱねている。彼女が逃げなければ、子供も追いかけてこなかったかもしれないが、すでに興味を引いてしまっている現在は何をどうしても追いかけてくるだろう。 早く精霊砲をぶっ放せる状態になるといいのにと、風葉は谷底から五メートルの狭い岩棚に座り込んでいる。 そうかと思えば、率先して見物の輪の中に入り込んでいる者もいて。 「これが泰国の服で、こちらが天儀の」 他の儀の名前もよく知らない部族の人々に、そのあたりの説明も交えつつ、色々荷物を広げて見せているのはソレイユだ。つれてきた駿龍・トゥールは若者達に撫でられているが、性質が穏やかなので目を離しても心配はない。とはいえ、すぐ近くにはいるようにしているが。でもセシリアの炎龍・蛇龍とも並んで日向ぼっこしていたくらいだから、どちらも人に危害を加える行動などしないだろう。 龍といえば、喪越の甲龍・鎧阿は背中に植物が生えている珍妙な外見で、風葉と子供達の人気を二分している。こちらなど、背中に誰かが乗ってもすやすや寝ている状態で、すっかりと放置されていた。 というか、喪越当人がそれどころではない状況だ。原因は、天河達の調査待ちの間に、近くにいた女性に声を掛けたことによる。 「妻問い婚‥‥とも違いますわね。本当に大らかな方々ですこと」 「それはあれか? 私らが夜這いしても許されるのか?」 「いえ、客人が女性だと、指名された殿方が忍んでいっていいようで‥‥もちろん指名しなくても、まったく問題ありませんよ」 喪越が『ボクと愛を語り合いましょう!』と声を掛けた女性が、『じゃあ、夜になったら行くから』と返してきて、あまりにあっけらかんとした返答に喪越も首を傾げてしまった。だが、どうもこの部族は女性側に恋愛ごとの主導権があるらしい。客人との一夜の恋も、決まった相手がいない女性なら問題ないとする風俗で、嵐山と凹次郎もあちこちから熱い視線を送られて困ったのか、族長の近くから動かないでいる。 セシリアは自分が敬遠されるのが、部族の男性の興味を引いているからだと分かってすっきりした様子で、明らかな値踏みの視線を巡らせている。反対に、フィーネはそういう話には興味がないと、きっちり態度で示すことにしたようだ。 「部族内で血が濃くなるとよくないからでしょうね」 ソレイユは案外落ち着いて、他所では部族外の人とは結婚しないところもありますよなどと説明している。 「喪越殿の取り合いで喧嘩など起きぬといいのですが」 「女衆の喧嘩はおっかねぇからなぁ」 凹次郎と嵐山の色々困り果てている会話の横で、両者が持参していた香や煙草の香りを楽しんでいた族長は『そんなことで喧嘩はしないよ』と笑っている。 それとは別に、同年代の少年達と四方山話に興じていたルオウは、年長者達の苦労を横目に‥‥多少複雑だったようだ。でも、ここの部族の大胆な女性達の目には、彼はまだまだお子様を脱皮しかけた少年で、頭を撫でたくなる存在だったらしい。 とは申せ、性別が外見で分かりにくい天河はともかく、年頃はたいして変わらない凹次郎や滝月には興味を持った女性がいるあたり、顔立ちだけの問題ではないかもしれない。 『人間どもは大変だなぁ』 猫又スーのぼやきが、けだし至言であった。 翌朝、喪越は天幕前での言い争いの仲介に夜の間忙しく、ちょっと寝不足。他の者はなんら問題なくすっきりと起きてきて、ようやく大岩の破砕が始まった。 そして、昼過ぎに終わる。 なにしろここを突けば割れるだろうという点が調べ上げられて、まずはそこにアーマー・X3『ウィングハート』を使って楔で穴を開けた天河が、焙烙玉を上手にはめ込んだ。そこに、菜食主義者と初めて出会った部族の人々が、肉を食べずに倒れたら大変と豆料理と干し果物を山と積んでしつこく勧めてくれたのでおなかが苦しい風葉が、腹ごなしとばかりに精霊砲を打ち込んだ。 これで、岩の四分の一がころりと落ちた。 更に喪越提供の焙烙玉を、滝月が穴を開けて、また破裂させる。これで残りが大体半分に。 フィーネのアーマー・ロートリッターも、X3同様に楔を打つ作業に加わって、こちらは地道に割り砕いていく。ついでに少し離れた場所に転がすのも、アーマーの役目だ。避けているのではなく、他の者が作業しやすいように広げている。 どちらも日よけだと上着を着せられたセシリアと嵐山が、自分の背丈ほどもある岩を割っていく。セシリアはわかりやすく術を使って破壊し、嵐山は術で強化した筋力で作業をこなすが、割れた断面だと『岩の目』らしいところが二人にも見えるから、まったく割れないことはない。 凹次郎とソレイユは、飛び散る破片が上に向かわないかとしばらく観察していて、危険がないと判断したところで、砕かれた岩の破片を指定された場所に運ぶべく集めだした。二人でも抱えあげられないものは、凹次郎がせっせと楔を打って割り砕く。派手にやってもいいのだが、運搬に従事しているハリールやトゥールに破片が飛ぶと可哀想なので、ここはわざと術は使わない。 相手が動きも抵抗もしない岩だから、作業はさくさく進んで、最後のほうは何人かが訓練代わりに暴れてみたような様子で、派手に岩を叩き割ったりしていたが、見ていた人々はそれが楽しかったようだ。 ちなみに、一つ一つの技については、色々開き直って皆さんと仲良くすることにした喪越が説明していた。勝手に動き回らないように注意していたと、ものは言いようである。 「なんか、物足りなくない?」 二十年も放置せざるえなかった岩にしては簡単すぎると唸ったもの数名。だが岩の砕き方など知らない一般人と、技術も持ち合わせたジンの違いはそこまで大きい。 ただ、それでも素手で岩を割るのは無理があったようで‥‥ルオウが手をぷらぷらさせていたが、幸いちょっと腫れたくらいですぐに治るだろう。 その日のうちに出発すると野宿になって危ないからと、一行は翌日まで引き止められた。夜には羊肉料理を中心に色々と料理が供され、各地の酒と茶が並んだ。 「相変わらず逃げるし‥‥はい、パンらしいよ、これ」 「だって、羊の頭が嫌だよ」 見慣れない上に食べられない料理に席を外した風葉は、天河と二人で木の実を練りこんだパンを分け合っている。天河はアーマーケースを子供達が弄るので、こんな時だが背負ったままだ。 宴会になった食事の席では、やはりアーマーケースを傍らにしたフィーネが、明日の出発前にもう一度アーマーを起動してあげると子供の一人と約束をしている。 その横では、滝月がアーマーや龍の姿を模した飴細工を披露して、大人にも喝采を浴びていた。叶うならそのまま取っておきたいと口々に誉められるが、ここの陽気ではすぐ崩れるので、しばらくしたら誰かの口の中だ。おかげでまた作ってくれとねだられる滝月の雷璃の分まで、ルオウが貰った肉を切り分けて、ヴァイスと一緒に与えている。どちらも獰猛とされるケモノだけあって、十分食べるまでは余所見など許さないと言うような勢いだ。それを眺めている者もいるが、さすがに手は出してこない。 外では三頭の龍と霊騎の四頭がのんびりと休息していたが、その相棒たる人々は忙しい。嵐山は酒の味比べに、料理の味批評、更に菓子まで狙うと言った様子だ。甘い菓子は、明日にしたほうが酒の味がよくわかるかもしれないが、好きなものを我慢するのは難しい。 凹次郎はそこまで過ぎることなく、天儀の様子を話し聞かせて、のんびりとしていた。ここの部族はエルフも多く、彼が同族だと知った人達が集まってきて、四方山話に花を咲かせている。たまにハリールを譲れとか言い出すのがいて、うっかり頷いてばかりもいられないけれど。 そうした種族とは無関係に、なぜだか妙にもてている喪越は、とうとう皆と踊りだしていた。動きはまったくこちらの踊りと合っていないが、あちらこちらに流れるように動いていくので、いつのまにか追いかけっこのようになっている。 『騒がしいにゃ』 相変わらず、どうも馬が合うらしい族長の膝の上でうたた寝を決め込んでいた猫又・スーは、踊りの音楽に目を覚ましてぼやいたが、ソレイユが見た事がない形だと借りて回していた糸車の動きに気付いて、思わず飛びついている。そのまま糸でぐるぐる巻きになって、ソレイユに助けられていた。 昨日の艶っぽい様子とは打って変わって、そうした様子をセシリアはゆったりと眺めている。こちらの葡萄酒は何か色々加えてあって、ちょっと刺激的な味だ。 たまには、こういう仕事も悪くはない。 |