【砂輝】あいぼう なう
マスター名:龍河流
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 10人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2011/05/26 02:12



■オープニング本文

 それはアル=カマルの、とある街のことでした。

『退屈‥‥』

 そうお顔に書いたような相棒の皆さんが、街外れの木の下で涼んでいました。
 だって、他のところに比べて、アル=カマルは暑いのです。
 特に今日はお空の太陽がきらきらしていて、とってもとっても暑くてたまりません。

『涼しいところはないかなぁ』

 誰かがそう言ったかもしれません。
 涼しいところがあるなら、そこに移りたいですよね。
 だって開拓者の皆さんは、相棒の皆さんをおいて、街の中で何か楽しい事をしているです。
 なんてずるいんでしょう!

『川なら涼しいかも?』

 またまた誰かが言いました。
 なるほど、近くにある川なら水浴びが出来て涼しそう。

 どうする?
 行っちゃう?
 すぐ戻ってくればいいよね?
 ていうか、ここにいなかったら川にいるくらい分かるんじゃない?
 うんうん、川くらいしか行くところないし?

『よし、行こう!』

 ちっとも帰って来ない開拓者の皆さんのことはさておいて、相棒の皆さんは川に行くことにしました。
 ところが!

『む?』
『あれはもしや‥‥』

 なんということでしょう!
 せっかく辿り着いた川には、とんでもない先客がいたのです。
 川の中から川岸まで、ぎっちり埋め尽くしたその先客は、どう見てもアヤカシ!
 だって、魚の姿をしているのに陸地もうろうろしているし、牙もいっぱいだし、

『あんなこ憎たらしい顔、アヤカシ以外にはありえないぜ!』

 皆さんの声が聞こえたのか、魚のアヤカシが『キシャー』と唸り声を上げました。
 こんな奴ら、素早く退治です。

 だって、水浴びがしたいんだもん!


■参加者一覧
葛切 カズラ(ia0725
26歳・女・陰
礼野 真夢紀(ia1144
10歳・女・巫
珠々(ia5322
10歳・女・シ
アルネイス(ia6104
15歳・女・陰
リューリャ・ドラッケン(ia8037
22歳・男・騎
村雨 紫狼(ia9073
27歳・男・サ
御陰 桜(ib0271
19歳・女・シ
不破 颯(ib0495
25歳・男・弓
アーニー・フェイト(ib5822
15歳・女・シ
霧雁(ib6739
30歳・男・シ


■リプレイ本文

 ある日ある時、アル=カマルのとある場所で。
「あっつ〜い!」
「乾燥しているわね」
 人妖さんが二人、お休みをしています。お日様がきらきらしすぎなので、日よけにアル=カマルの人っぽく布を被ったりしていますが、それも暑くて嫌になってきたみたいです。
 人妖さんが日射病で倒れたりするかは、二人とも倒れたこともないので知らないようですが、眩しいし、空気もからからで、天儀より暑いのは分かるのです。
「‥‥死ぬ」
「貴殿は少し絞れていいのではないか?」
 その人妖さん達の横では、猫又さんが二人(?)で横になっています。でっぷり体型の猫又さんは、さっきから伸びきっていますよ。
「ど、どうしてこんなに暑いのだー!」
 叫んじゃっているのは、ジライヤさんです。じたばたしても涼しくはなりませんが、じっとなんてしていられません。
『そうですよね? みんな暑いのですよね?』
『言うなー!』
『言っても言わなくても暑い』
 行儀よく座った駿龍さんも、街の周りをぐるりとしている柵に止まった迅鷹さん二人(?)と、そんなお話をしているみたいです。寒いのやお天気が悪いのよりはいいかもしれませんが、慣れない場所のお天気はなかなかの難敵なのです。
『皆、元気がないですね』
 一人(?)だけ元気なのは、忍犬さんです。このくらいなら全然平気と、砂地を走って足腰を鍛えちゃったりしています。じめじめ暑くなくって、過ごしやすいんじゃないなんて思っているかもしれません。
「宝珠が熱暴走しそうです〜」
 しくしく泣いているのは、人っぽい格好の土偶さんです。もちろん土偶さんなので涙は出ませんが、それでもしくしく泣いているのです。
 だって、他の相棒さん達もそうだけど、ご主人様達ったら街の中に行っちゃったんですもん! きっと今頃、美味しいものを食べたり飲んだり、素敵なものを見たり、可愛い女の子を追いかけたり、お昼寝しちゃったりしているに違いありません!
 なんてことでしょう、相棒の皆さんがこんなところで『待て』をしているというのに! こんな横暴が許されていいのでしょうか?
「くうっ、ミーアは夫の理不尽に耐えるヨメなのです!」
 おや、土偶さんちはご主人様はご主人様でも、旦那様だったようですね。土偶さんがお嫁さんとは、珍しい開拓者さんです。
 でも、それはさておき。
「やっておれん! 水浴びに行くのだ!」
 ジライヤさんが叫んだのを切っ掛けに、皆さんは川に水浴びに行くことにしたのでした。

 そりゃあもちろん、ここで待っていなさいと言われたのですから、本当は勝手に動いたらいけません。後で開拓者の皆さんが戻ってきた時に、困ってしまいますからね。
 だけど、暑いんだし。
「この砂だらけの身は何とかしたいものであるし‥‥」
 きっと開拓者さん達もすぐには帰ってこないよねって考えて、猫又のベールィさんは皆さんとお出掛けすることにしました。ご主人様ならぬ手間の掛かるお嬢さんであるところのアーニー・フェイト(ib5822)さんも、他の開拓者さん達と一緒に街の中なら、きっと問題なんか起こさないのです。そう期待しましょう。
 それに、やっぱり砂まみれは嫌です。いつも綺麗でいたいですよね。
 でも同じ猫又さんのジミーさんは、面倒くさいので動きたくないみたい? 歩く時にもおなかが地面とくっつきそうなので、痛いのかもしれません。そういえば、移動するときにはジミーさん言うところの下僕・霧雁(ib6739)さんに担がれたりしていましたよ。
 汚れているのと暑い中を歩くのだったらどっち? と質問なくても答えが分かりそうですが、駿龍の鈴麗ちゃんが人妖さん達を乗せているのを見たら、すたすた歩き始めましたよ。
「あら、一緒に乗せてもらう?」
「‥‥そなたは遠慮せい」
 人妖さんの初雪さんと鶴祇さんが、ちゃんと乗りやすいように場所を作ってくれましたが、鈴麗ちゃんにはジミーさんはちょっと重かったみたいです。っていうか、羽を踏ん付けて乗るのは止めましょう。鈴麗ちゃん、身体が傾いてますよ。
 いやいや、ジミーさんもじたばたしているから、足が滑ったのかもしれません。でも鈴麗ちゃんがばたばたしているのを見たら、礼野 真夢紀(ia1144)ちゃんもびっくり仰天したことでしょう。
「ミーアが抱いていってあげましょう!」
 そこで手を上げたのは土偶さんのミーアさん。マスター・村雨 紫狼(ia9073)さんが女の子に優しいので、ミーアさんもきっと同じなのです。鶴祇さんとこの竜哉(ia8037)さんはともかく、鈴麗ちゃんとこの真夢紀ちゃんも、ベールィさんとこのアニーちゃんも大事にしなくては。初雪さんとこの葛切 カズラ(ia0725)さんは、ご機嫌でないと悪戯されそうです。ご機嫌でも、悪戯されそうです‥‥
「ムロンは?」
 ジライヤさんのムロンさんは、流石に無理。自力で歩いてもらわなくてはいけません。アルネイス(ia6104)ちゃんが可愛い女の子でも、ミーアさんがムロンさんを抱えるのは絶対無理。
 その頃には、迅鷹の珠々(ia5322)ちゃんとこの嶺渡さんと不破 颯(ib0495)さんちの玻璃さん、それから御陰 桜(ib0271)さんのところの忍犬・桃さんは、川に向かっていました。人がいたりしたら、離れた場所に行かなきゃ悪いですからね。
 そうしたら。
「ギー!」
 あれあれ、嶺渡さんが大きな声を出していますよ。何に怒っているのかな?


 大きさは、一番大きいのがムロンさんの手のひらくらい。
 色は色々。形も普通っぽいのと変なのがごろごろ。
 そしてなにより、数がいっぱい!
「‥‥おんしらはアレか、魚のつもりをしたナニカか?」
 水から飛び出て、相棒さん達に向かって牙をむいてくる変な生き物に、鶴祇さんが嫌そうに話しかけています。別に変な生き物とお話したいわけではなくて、きっと『こんなアヤカシがいていいのかなー』と思ったのが、口から出ちゃったのでしょう。
 でもだけど、そこにいるのです。どう見たってアヤカシです。こんなのが普通の魚だったら、アル=カマルってすごーく変なところ!
「おのれ! この暑いのに僕の水浴びを邪魔するというのなら、跡形もなく全滅にしてくれる!」
『あんなのがうろうろしてたんじゃ、開拓者の相棒の名折れよ、名折れ! さくさくさくっと片付けるに限るわ!』
 アヤカシの群れがいるので水浴び出来なくて、初雪さんが怒鳴っています。お隣に降りてきた嶺渡さんもキイキイ鳴いていますが、きっと言いたいことはこんな感じ。だんだん地面を踏んで、殺る気十分なところを見せています。
 そうかと思えば、ぷるぷるしているのはムロンさんです。一番怒っちゃいそうですが、震えているのはアヤカシがいっぱいいるから?
 いえいえ、怖いからではありません。せっかくの水浴びを邪魔されて、やっぱり怒っているのでした。
「ぐぬぬぬぬ! ムロンの水場に勝手に入り込むとは良い度胸なのだ。さぁ今すぐココから出ていけー出て行かねばぶっ飛ばすのだー!」
 やっぱり地面をだんだん踏みつつ、ムロンさんも怒り始めました。アヤカシも怒鳴られているのは分かるのでしょう、牙をむいて『キシャー!』と威嚇してきます。
「水浴びをと思えばこれであるか」
「だがアヤカシが出たとあっちゃ、見過ごすわけにはいかんな」
『まったく水浴びのつもりがアヤカシ退治になるなんてついてないなぁ』
『いっぱいですねぇ、どうやって退治したらいいんでしょう?』
『どういう攻撃なら通用するか‥‥いい訓練になりそうです』
 あんまり殺気だっていない相棒さん達は、けっこう注意しながらアヤカシの群れを見ています。そんなに大きくはないけれど、もしかしたら強いかもしれません。せっかく一仕事した後に、痛い思いをするのは嫌なのです。
 それに、こういう時って開拓者さん達に報告したほうがいいのかも? 言葉は通じなくても、アヤカシを怒鳴っている相棒さん以外の皆さんが顔を見合わせて、なんとなく通じているような通じていないような相談をしていたら、ミーアさんが。
「マスター達に頼るのは良くないのです。自立志向なのです!」
 ドリルで退治しちゃうもんねと、言い出しました。
 ムロンさんと初雪さんと嶺渡さんが、両腕とか両羽を振り上げて賛成しています。つられて鈴麗ちゃんが羽をばさばささせました。桃さんは、うんうん頷いています。
 別にベールィさんとジミーさんと玻璃さんと鶴祇さんも、アヤカシ退治は嫌いではありません。でも一応作戦くらいは立てたほうがいいよねって思ったけど、それを言う前にムロンさんが威勢良く叫びました。
「今からあそこに居る魚アヤカシどもを殲滅するのだー! 皆やっちまえーなのだー!」
 あぁ、つられて走って行っちゃった人がいますよ。
「一人で向かっては駄目なのだ」
 ベールィさんが言いながら、皆さんを追いかけていきます。玻璃さんは空から、鶴祇さんは鈴麗ちゃんに乗っかって、アヤカシの近くまで。
「よっこらせっと」
 ジミーさんだけは、よたよたしながら歩いていきますよ。

 魚っぽいアヤカシは、陸でも平然とうろうろしています。小憎たらしい奴なのです。
 でもでもだけど。
『わーい、踏んだら消えました〜』
 尻尾を振り振り、鈴麗さんがご機嫌に鳴いています。小さいのを選んでえいえい踏んでみたら、あらまぁびっくり、アヤカシはあっさり消えてしまいました。
「こんな弱いなら、数も気にしなくていいかもっ」
「囲まれんようにはせんとな」
 すぐ近くでは、初雪さんと鶴祇さんの人妖さん二人組で、アヤカシを斬ったり蹴ったり削ったり、たまに悪口言ったりしながら、アヤカシの群れを端っこから減らしています。真ん中に入っちゃうといっぺんに襲い掛かってきそうなので、ちゃんと用心していますとも。
 でもアヤカシが弱いから、どんどん減らして、ずんずん進みますよ。鈴麗ちゃんより前に出ちゃうと、羽根をばたばたさせた時に危ないから、それだけは気をつけて。
 そうかと思えば、別のところでは。
『突付き足りない、抓り足りないっ』
『行くぞー、当たるなよ』
 嶺渡さんと玻璃さんが、二人掛かりでアヤカシ退治を頑張っていました。玻璃さんが両足に一匹ずつアヤカシを捕まえて、えいやと飛び上がります。そこからぽいっと地面に放り出すと、アヤカシが『キギャー』と悲鳴を上げて地面にべっちゃり落ちるので、嶺渡さんが突付きまわすのです。
 もちろんたまには技だって使いますけど、あんまり弱いから使わなくても倒せちゃうのです。それなら、水浴びの邪魔をされた憂さ晴らしに、突付き回してやってもいいはず。
 途中から、二人仲良く突付いて突付いて突付きまわして、逃げるアヤカシを追いかけて蹴り飛ばし。川の中に逃げたアヤカシがいたら、釣り上げてみたりします。
 釣り上げられちゃったアヤカシは、ぽぽいって陸地に上げられて、
「ふふふふふふふっ、ひっさぁぁぁぁつ!」
 ドリルを煌めかせたミーアさんから、怖い笑い声を上げつつ、ぶすぶす刺したり、ごんごん殴ったりされてしまいました。もちろん瘴気に還っちゃいますとも。
 そうでなければ、器用に地面に座り込んだムロンさんが、大きなお手手で地面を叩きまくりです。
「‥‥食えんのか」
 呟きが、そこはかとなく悲しそうですが、アヤカシは食べられないに決まっています。うっかり口に入れたら、おなかの中から食われちゃいそうですよ。
 なんとなくおっかない二人とは反対に、桃さんは楽しそうです。びちびちしているアヤカシを素早く追いかけたり、的目掛けて蹴飛ばしたりするのはいい訓練になるからです。もちろん油断はしませんけど、一回だけ咬まれたときもほとんど痛くなかったから、訓練相手にちょうどいい感じ。
 ちなみに的になっているのは、ジミーさんがえっちらおっちらよじ登った石の前。そこに蹴飛ばしたアヤカシは、ジミーさんが鎌鼬でずんばらりん。アヤカシが跳ねて石の前から逃げちゃうと、今度はベールィさんが鎌鼬でざっくりざん。
 あんまり大きくないのは、皆して蹴飛ばしたりして、えいやえいやと退治中。
『もうちょっとですね』
「あー、疲れた」
「この程度で疲れてどうする」
 こちらもどんどこアヤカシ退治中。
 そうこうしているうちに、アヤカシの数が減ってきて、最後の一匹になってしまいました。
「僕がっ」
「最後を飾るのが主役なのですぅ」
『突付いて捻る‥‥』
 何人かが取り合いをしています。他の相棒さん達は、早くも毛繕いしたり、とっとと川に飛び込んだり、ちょっとは汚れを落としてからにしなさいと怒られたりしています。
『ぴぎゃっ』
 ぼこぼこ攻撃されたアヤカシは、哀れっぽい悲鳴を上げて消えましたが、別に誰も同情したりはしないのでした。
 だってアヤカシなんだもん。


 アヤカシがいなくなって、すっきりとした川で、水浴びをしている相棒さん達がいます。
 もちろん、一通り退治した後には、開拓者さん達を見習って周りにアヤカシが残っていないかを確かめましたとも。大丈夫だったので、のんびりしてもいいのです。
 でも、後で念のために開拓者さん達に報告しておかないといけません。忘れないようにしなくては‥‥うっかりしたらいけません、えぇ、いけません。
 すでに忘れ果てて泳ぐのに邁進している大きい方や、お水だけ飲んで寝てしまった方や、川の中でお水の掛け合いをしている方とかいますけど、きっと誰かが憶えているでしょう。
 お願い、誰かが覚えておいてね。皆でそう思っているかもしれません‥‥
 それはそれとして、もう一つ大事なことが、いや、二つ三つ。
 例えば、他の相棒さんが持っていた武器とか防具が羨ましいからおねだりしようとか、皆が種族が違うから気にしないって言ったって女の人の近くでは水浴びしないとか、今度は水練の修行しなきゃとか、色々大事です。
 だけど、今一番大事なのは、きっとこれ。
『むー、視線を感じる』
 玻璃さんが取ってきたお魚を、誰かが羨ましそうに見ています。
 そう。こんなに働いちゃったんですから、おなかが空きました。お魚とか、珍しい果物とか、丸々太った鼠とか、あれとかこれとか‥‥

 今夜はいっぱいご飯を食べさせてもらわなきゃ!