捕縛対象・子供四十人
マスター名：龍河流
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| ■オープニング本文 依頼は、貧民街に立て篭もった犯罪者集団の一斉捕縛手伝いだった。 「取り逃がしただと？」 「年少者を七人ほど保護しましたが‥‥」 「四十人もまだあの中でうろうろしているってことか」 場所はドーの街。水運で賑わう城塞都市だ。 特徴を言うなら、この地域を治める領主の館があり、その跡取りの甥が現皇帝の息子だという点だが、今回はその辺りはどうでもいい。 いや、今回の指揮官がその皇子だから、名前くらいは知っておいたほうがいいだろう。ソーン･エッケハルトという。 ところで、ドーの街の住人は書類上では五千人程度。 二百年の街の歴史の中で発生した貧民街の住人もこの数字におおむね入っているが、中には住人に数えられない者がいる。主に犯罪者、その管理下に置かれてしまった私娼や闇商人、後は孤児達だ。彼らは調査に協力しない、またはそんな方法を知らずに住人として認められないまま、だがそこに存在はしている。 この貧民街の存在は、ガリ家の統治開始後から長く悩みの種だった。だが五年ほど前に港の拡張計画が出てから、本格的に区画の整理と住人の移転計画が進められ、昨年の夏から多くの住人が城塞外に建てられた仮住居に引っ越している。今年の春から順次区画内の老朽建築物の撤去が始まり、二年から五年かけて、新たな住居や市場が出来て、希望者は戻る手筈である。 以上のように、計画はきっちり出来たが、予想外の展開が起きていた。 一つは、貧民街に多数存在していた小規模の犯罪集団が、頻繁に行われた摘発に対抗して集合、組織化したこと。 もう一つが、当初は単なる若年層犯罪集団と思われていたテュール二人が率いる子供の集団が、妙に強かったことだ。 前者には隠密担当の手勢を入れて情報収集と弱体化に努め、残る構成員を貧民街の一角に封じ込めるのに成功。これから大挙して捕縛に向かう予定だ。 後者はその騒動に巻き込まれないように、先に保護したかったが、大半が孤児か遺棄された子供ばかりの集団は大人に対する警戒心、敵愾心が強く、役人や地域の顔役の保護の申し出を受け付けない。説得がまったく通じないので、実力行使で捕まえる方策に出たものの、住人がいなくなった家屋を好き放題に使っていた彼らは、抜け道どころか侵入者撃退の仕掛けまで張り巡らせて、縄張りに入る大人を除けていた。 特に、テュール、天儀で言う志体持ちの少年二人が強敵で、一般兵士が相手と見るや力技で叩きのめしに来る。騎士などを向ければ、脱兎のごとく逃げてしまう。地の利が向こうにあるものだから、先程実行した大規模な保護という名の捕縛作戦もほとんど空振りで、特に小さな子供七人を保護しただけで終わっていた。 人数だけは確認が出来ていて、残りは四十人だ。年の頃は、おそらく五歳から十二、三歳くらいまで。問題のテュール二人が最年長だが、十歳以上は他に十人前後いる。 「練力惜しまず、人を投入すれば手間がなかったか‥‥？ だが、こっちも騎士崩れやら魔術師がいるし」 「向こうの保護は後日に延ばしますか？」 「あの区画にはもう食物も残ってないだろう。食わねば餓死より先に凍死する。すぐに新手を投入するぞ」 最初の依頼は、貧民街に立て篭もった凶悪犯罪者集団の一斉捕縛手伝いだった。 ところが、役割は変更らしい。 「事前の打ち合わせと違うが、子供だけでも一応すりとかっぱらいの常習集団だ。大至急で、現地に向かって、殴って、縛って、運んできてくれ。哀れんで軽く縛ると、テュールの二人は縄抜けするぞ」 「別に殴らなくても、逃亡しないように連れてきてくれれば、それで十分ですけれどね」 ソーンの言葉を、補佐役が修正している。 依頼は、貧民街に立て篭もり、多数の罠と抜け道を駆使して大人の手を逃れている子供四十人を一斉捕縛する、に変更された。 |
■参加者一覧
柚乃（ia0638）17歳・女・巫 
鈴木 透子（ia5664）13歳・女・陰 
ルエラ・ファールバルト（ia9645）20歳・女・志 
宿奈 芳純（ia9695）25歳・男・陰 
ライ・ネック（ib5781）27歳・女・シ 
アーニー・フェイト（ib5822）15歳・女・シ 
アルバルク（ib6635）38歳・男・砂 
羽紫 雷（ib7311）19歳・男・吟 
煌星 珊瑚（ib7518）20歳・女・陰 
エルシア・エルミナール（ib9187）26歳・女・騎 |
| ■リプレイ本文 出発前の鈴木 透子（ia5664）の問いに対する答えは、『もうない』だった。 「誰か、世話をしていた大人がいるはずでは？」 「あー、先に捕まえちまったんじゃね？ それに上前を撥ねる奴はいても、わざわざ孤児の世話する物好きはいねえよ」 だから子供だけで集団を形成しているのだろうと、ソーンや補佐役のノーチより先に、アーニー・フェイト（ib5822）が口を挟んだ。当たっていたようで、ノーチの返答は補足となる。 「この集団に関与していた大人は、先月捕縛しました。この集団から、他の組織に流れた年長者でしたね」 当然その背後には犯罪組織がいたが、そちらはこれまでの摘発で瓦解している。残党はいるが、自分達が狩られる寸前では子供に構っている暇はないだろう。そもそも縄張り内での活動を見逃す代わりに、上前を撥ねるだけの関係だ。 それでは、そちらからの使者を装うのは難しいかと、相手と年頃が変わらないことを逆手に取れないかと考えていた透子が表情を渋くすると、ノーチが薄く笑った。 「貧民街の住人を装うには、血色が良すぎますよ」 どうやっても透子も余所者にしか見えないと指摘されたが、子供らの一部でも油断する可能性は捨てきれないとも思ったようだ。透子が要求した食料は、あっさりと渡された。ついでに教えられたのが、地域の顔役だった闇医者の名前だ。使者を名乗るなら、まだこちらが有効らしい。 「お医者の説得も効かないとは、実力行使しかないほど頑なになっている訳でございますな」 「手荒な真似をしたら、そりゃ抵抗するだけだろうけどねぇ」 話の行く末を見守っていたエルシア・エルミナール（ib9187）と煌星 珊瑚（ib7518）が、実力行使止むなしと理解して嘆息していると、羽紫 雷（ib7311）が難しい顔で唸っている。何事かと皆が訝しんでいたら。 「栄養状態が悪い上に、兵糧責め同然となると、うかつなことをしたら骨折やそれ以上の大怪我になりかねませんね」 注意しなければと、医者の道も修めている者らしい心配を口にした。ところが。 「あやつらに骨を折られた兵士は、両手の指では数え切れんぞ。本当なら、それだけでも強制労働区送りにするところだ」 「あ、あの‥‥怪我された方が、いるなら‥‥閃癒を」 情けはかけるなと言いたげなソーンに、柚乃（ia0638）が最初は勢い込んで、途中からおずおずと怪我人の治療を申し出た。だが以前のことで、魔術師の治癒で対処したと告げられ、安堵の吐息を漏らしている。 その様子に微笑を見せつつ、念のためと宿奈 芳純（ia9695）が確かめたのは、今回も治癒の可能な魔術師はいるかということ。開拓者の自分達が大怪我をするとは思い難いが、あちらこちらに散っている最中に子供に重傷者が出た時に対処出来る者の有無は大事なことだ。柚乃以外には珊瑚の治療符があるが、二人とも手が塞がっていることもありえなくはない。 幸いと言うか、大人側の捕縛で相応の被害を見込んでいるのだろう。医者も治療担当の魔術師もいた。 「直接手出しするつもりはありませんが、念のために布でも巻いておきましょうか」 ちょっと殴ったら骨折するかもと聞いて、自分の得物では当たると危ないと考えたルエラ・ファールバルト（ia9645）が、借りた布で長柄槌「ブロークンバロウ」の先端を巻いている。古い割に妙に可愛らしい色だが、そもそもこんな大物を持参すればそのままでも目立つから大差はないだろう。 同様に可愛らしい色の布製の紐を渡されて、ライ・ネック（ib5781）は不思議そうな顔になって、ささやかな懐柔策だと説明されている。 「荒縄よりましはましだけど」 結局縛るわけだから、懐柔策にならないのではと思ったのは、彼女一人ではない。まあ、荒縄よりは気分的にましだけれど。 柚乃は保護した子供達を入れておく家屋に詰める事になったので、残りの八人が四方から該当地区に入っていった。 出発した八人を見送った柚乃は、すでに保護された五人がいる家屋に入り‥‥ 「‥‥ひゃ？」 いきなりふくらはぎを蹴飛ばされた。たいして痛くはないが、びっくりしたので抱えていたぬいぐるみがぼろぼろ床に落ちていく。 足元を見ると、彼女の腰までしかない子供が、扉に飛びついたところだった。子供なのは分かったが、この時期にどうしてと思う袖なし姿だ。 控えめに言っても汚れて真っ黒けの子供に呆然とした柚乃だったが、それは一瞬。 「外に出たら、寒いですよ」 この姿で外に出したら寒すぎると、状況からは少し外れた事に思い当たって、慌てて子供の腕を掴んだ。そのまま黙り込んでしまったのは、小柄な彼女の手でもがっちり掴み取れるほどの細く骨ばった腕だったからだ。 「だ、駄目です。外、寒いですから。えと‥‥甘酒、飲みますか？」 脱出を目指した子供は、先に保護された中では最年長らしい。他の四人は、それぞれ大人の女性に抱えられて、ぴーぎゃーと泣き喚いている。さっきも話し掛けても余計に泣くだけで、他の子供の名前を聞くところではなかったが、その比ではない。 柚乃が腕を掴んだ子供も、その場に足を踏ん張って号泣し始めた。どうしていいか分からず、柚乃は腕を掴んだまま、おろおろしている。 子供達の身柄確保に動く開拓者は八人だから、一人が五人を捕まえれば終わり。と、計算は容易いが、事がそう順調に運ぶはずはない。その中に、通称はアズとリーらしいテュールの二人も入っているのだ。 「見通しが悪いにも程がありますね」 足元に張られた縄を跨いで、宿奈が状況に似合わない上品な素振りで溜息を吐いた。その間にも、四方八方に足音が散っていく。人魂で追いかけようにも、彼の前にあるのは崩壊した家屋の残骸だ。 「いかがです？」 大柄な宿奈が目を引き付けている間に、子供達への接触を図ろうとしていた透子が、とても宿奈では通れない隙間から這い出してきた。幼児なら食べ物に釣られるかもと思って、潜っていったのだが、 「小さい子と大きい子が二人組だった」 『攻撃』担当は、十歳より上と思しき子供、それも男の子だ。同年代の女の子とそれより少し下の子供達は、更に小さい子供を抱えてものも言わずに逃げている。一見無秩序に逃げているが、どこかで合流する手筈はしてあるのだろう。 人魂も無目的に放ってもどうにもならないが、透子が目撃した逃げ道に通して、他に罠がないか確かめると‥‥傍らのあばら家の柱が半ば折れているのが見える。家も子供が通っている時に崩れなくて幸運だとしか言えないくらいに傾いていた。 「ふむ、よそからも大分追い込んでいるようですよ」 そのまま他の様子を見に飛ばした人魂からの情報を透子に伝えつつ、宿奈は結界呪符「白」で通りを塞いでいる。万が一どこか崩れた場合の盾にも使えるかと考えていた術だが、本当に崩れ始めたらこれでは防ぎきれないかもしれない。だから速やかに子供達を捕まえる必要があると、透子も廃材を掻き集めて、子供達が通れそうな隙間を埋めていた。一度は人魂に手紙を持たせて皆に知らせてから、一軒をわざと潰している。 制御のない状態で崩れ始めたら連鎖する可能性が高いと踏んだ二人のやりようは、遠慮も容赦もなかった。 狩りなら決められた方向に獲物を追い込むのだが、今回の保護は相手が罠を仕掛けて逃げ回っている。それが仕掛けた当人達を傷つける可能性も高いものだから、出来るだけ解除して回るのが作戦の中でも大事な事柄だ。 ただ、忍眼を必ず使わねばならないような複雑な罠は、一つもなかった。そういうものに詳しくない者なら気付かないだろうが、ライやアーニーのようにシノビの修行をした者なら、注意深く見ていれば察知は可能な出来栄えだ。でも数は多い。 「ほとんど会話がないのが不思議と言うか、不気味と言うか」 「声で辿られるからだろ」 超越聴覚で子供達の居場所や逃げる経路を知ろうとしていたライは、子供達が会話らしい会話をしないことに首を傾げていた。アーニーは貧民街の子供らしい逃げ様だと思っているが、一々説明するのも面倒で、せっせと礫を飛ばす罠を外している。ライも一定の高さより上を通る者があると落ちる網を、地面に引き摺り下ろしたところだ。 罠そのものはまあ稚拙だが、数はなにしろ多い。たまにあばら家一軒引き摺り倒す仕掛けも珍しくなかった。仕掛けの要所の縄を切って、手早くライが次の建物に移ると、礫がばらばらと飛んできた。 素早く避けて、飛んできた方向に目をやれば、離れた場所から投擲を繰り返す一団が目に入った。威力からしてテュールではないが、いい腕だ。 「なるほど、アーニーさん、その壁の裏です！」 突然目立った攻撃に出て来た子供達を不審に思ったライの耳に、小さな足音が聞こえた。アーニーが指摘の壁を蹴り倒すと、その向こうの細い道を逃げる子供が二人いる。うっかりライ達がいる場所に近付きすぎたか、隠れていた場所に近付かれたか。この二人が逃げる時間稼ぎに、礫が飛んできたらしい。 だがあいにくと、ここにいる二人は優先順序を弁えていて、すぐ近くの子供達から捕まえるのを躊躇わなかった。 罠の解除がある程度進むと、追い立て役の速度も変わってくる。もとよりほとんどが普通より体力のない子供だ。四方から障害物を立てて道を塞がれると、それを除けて外に逃げるのは難しい。 とはいえ、それはテュールの二人がいなければのこと。 「流石に、威力が違いますですね」 ものも言わず、テュールの一人が次々と投げてくる石を盾で防ぎつつ、エルシアが少しの感嘆を滲ませて呟いた。彼女にとって好ましいのは、他の子供を背後に庇って危険を顧みない態度だ。 本人にその気と、依頼人に受け入れる度量があれば、訓練次第でいい騎士になれるのではないかなどと思っていたら、石の一つが側頭部を掠めていった。驚いたのは、背後からの攻撃だったことだ。 「これはまた、いい動きだこと」 同様に盾で石を防ぎつつじりじりと足を進めていたルエラが、こちらも感嘆を口にしながら、素早く動いた。 全長二メートルのルエラの得物が、ぶんと音を立てて振られた。その踏み込みと同時に、エルシアも崩れるかもしれない瓦礫の上を走る。ルエラの得物には布が巻いてあり、エルシアが手にしているのは紐に鞠を結んだボーラのような代物だ。どちらも相手に怪我をさせる気はないとの意思表示も兼ねているが、後者は重さがないから役に立つまいとソーンに指摘された。投げ付けて跳ねさせ、驚かせるのが主たる目的だから構わないが。 ルエラも派手な風切り音はさせたが、テュールの体には当てていない。相手が元は何かの建物だった廃材の山の上にいて、後ろに避けたせいも少しはあるが、そもそもルエラに当てる気がない。彼女の全力なら、訓練を受けたことがないテュールでは避けられるはずもないのだ。 今回が開拓者としては初仕事のエルシアも、そこまでの腕はないが、単なるテュールに技で負ける程の若輩でもなかった。そして今回は先にガードを投げ、続いて鞠を投げつけている。 「あっと、ごめんなさいでした」 その鞠が庇われていた子供の一人に当たり掛け、謝っている間に他の開拓者が駆けつけた。エルシアとルエラはテュールの腕や足を掴んでいるから、子供達は他にお任せとなる。 子供は愛らしくて、繊細なものだ。というのは、誰にでも当てはまることではない。その程度は分かっていたが、これはまたとんでもない連中だったと珊瑚はほとほと呆れていた。 テュールの二人を縛り上げたら、流石に観念したのか付いて来たのだが、声を掛ければ歯をむき出して敵意を見せる。転んだ子供に手を貸そうとしたら噛み付かれると、ろくな反応がない。びいびい泣いているのも多いのに、誰かが慰めようとしたら蹴飛ばしてきたりと、反抗の態度も色々だ。 だが、それでも年上が年下を庇い、年下は年上を慕っている態度は明らかで、繋がりが深いのはよく分かる。 「そういう行動を、もっと他の道に使えばいいんだろうけどねぇ」 子供達はほとんど口を開かないが、開拓者は大半が頷いた珊瑚の独り言に、まるきり反応しない者が一人。縛り上げたテュールの片方を担いだ羽柴が、宿奈の担いだもう一人をしげしげと観察しているのだ。腕力なら前衛職の方が強いが、女性に少年を背負わせるのは双方に良くないとか口にしたもので、宿奈も巻き添えでじたばたするテュールの少年を担ぐ羽目になっているのだが‥‥ 「雷さん？ 足元は気を付けろよ」 転んで怪我するなら自分だけでと言い放った珊瑚に、いつもなら冗談交じりの返事を返してくる羽柴が無反応だと思ったら、突然こう言い出した。 「そちらの子、腰骨の位置がやっぱり女の子だよね」 今までに増してじたばたし始め、悪口雑言を並べだしたテュール二人に加え、歩いていた子供達まで羽柴を引っ掻いたり、叩いたりし始めた。この反応ではばらしているも同然だが、羽柴は全然へこたれていない。 「仲間のためにここまで必死になれるなら、もっと別の方向に動けば、いい結果に繋がるんじゃないかな？」 「周りの反応を見てから言ってくれよ」 珊瑚の言い分は、居合わせた開拓者全員の気分を代弁していたことだろう。 テュールの二人はどうにも暴れるので縛ったまま、他の子供は自由な状態で、保護先の家屋に入れて人数を数えると、先の保護された七人と合わせて、四十七人いた。それだけいれば結構広い建物でも狭くなりそうだが、子供達は部屋の一角にぎゅうぎゅう集まって座り込んでいるから、室内は妙に広い。 開拓者が差し入れた菓子や飲み物には手を出さず、警戒心も露わな顔で睨まれるのも楽しくないが、そういう緊張状態に子供達を置き続けるほうがより問題だからと、世話役の女性達に後を託した皆が屋外に出ると、ノーチが様子の確認に来ていた。報告は別の役人に済ませてあるから、そちらと話をしている。 と、アーニーが話の切れ目にノーチに何か言い、やおら拳骨を喰らっている。 「なんだよ、あんだけいたら金が掛かるじゃねえかっ」 「掛かりますとも。でも一時の感傷や温情で構われて、放置されたら余計に辛い。開拓者の貴女には、次の約束など出来ないでしょう？」 子供の養育資金に報酬の返上を申し出たアーニーが怒られるのは理不尽だと思う者もいたが、彼女は負けていなかった。 「ちゃんとしなかったら、あたしがあいつらを率いてやるからね！」 またドーの街に来たら子供達の様子を確かめてやると息巻いたアーニーは、柚乃や透子、エルシアと羽柴はじめ、開拓者達の有言無言の応援を受けて、担当役人から情報提供を受ける約束を取り付けた。 その頃には、仲間の助けを借りてようやく縄から抜け出したテュールの二人が、皆の差し入れた菓子を世話役は無視して分配していたのだが‥‥それが皆の耳に入るのは少し先のこと。 |
