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■オープニング本文 ジルベリアの開拓者ギルドの受付で、その青年はあっさり言った。 「叛乱討伐がしたい。抵抗したら殺して構わんから、その覚悟がある奴を寄越してくれ」 上級貴族の子弟で騎士だろうと、一目で分かる金が掛かって見栄えも計算されつくされた出で立ちだが、家名が分かるような代物を一つも身に付けていない。いて当然そうな供も連れず、人目も憚らないで『叛乱討伐』なんぞと口にされると、様々な依頼人相手に百戦錬磨の経験を持つ係員でも少しばかり返答が遅れた。 要するに、まだ春にはかなり早いが、『この若様は、英雄譚の聞きすぎ、読みすぎで、ありもしない叛乱を妄想しているかも』と思ったわけだ。 なにしろ、青年は体格もよろしく、顔付きも相当厳つく、掌には武術稽古で作ったろうたこも目立つごつい手をしていたが、表情がむやみやたらと明るかったのだ。『叛乱討伐』という言葉と、当人の表情がまったく噛み合っていない。 「武力制圧前提ということは、相手方の非が明白だと考えてよろしいですか?」 「おう。叔父貴の領内では、一定以上の武器輸送は事前申請と許可が必要だ。それに反する連中は叛乱準備の罪で捕まることになっている」 「‥‥それでしたら、兵士を動かされても問題はありません‥‥よね?」 「兵士も行くぞ。ただ武器がすでに街中に入ってるからな。それを使って抵抗されては住民も危険だから、事前に武器の保管場所を制圧できる人材がいないかと思って来てみた」 なんだかあっさりと『叔父貴の領地』と言われたが、口振りからすると街の規模は大きいようだ。どこの街ですかと尋ねて、簡単に地名だけ返された係員は、素早く記憶を探り‥‥ 「ドーの街の御領主といえば、皇子様の親衛隊長ではありませんか」 「おぉ、叔父貴もなかなか有名だな。そうそう、皇帝陛下の公式八人の子供の下の方の皇子の親衛隊長な」 「公式って‥‥」 「そうだろうが。陛下が皇妃様や側室を戦場に連れて行くわけはないが、戦地暮らしが長い。我が国には才色兼備に武勇まで備えた女騎士や何かも多数いる、な?」 相手が思いのほか高位の貴族の身内だと判明したものの、皇帝陛下に関する下世話な話題を振られても、愛想笑いも致しかねる。開拓者ギルドの受付であれば、皇帝の側室には実際に元騎士の女性なども含まれることは知っているが、そういう話はこっそりするものだ。 やっぱりこの青年、ちょっと危険なのではなかろうかと係員が内心困っていると、相手は『そういえば』と肩から提げていた鞄から何かを取り出した。 自分で鞄を提げるあたり、騎士らしいのか、貴族らしくないのかと思いつつ、係員が差し出された書状を丁寧に受け取ったところ‥‥ ど偉い方からの書状だと示す封蝋が押されていて、危うく取り落としそうになった。 「あのぅ、奥で詳しいお話を伺いますので」 「面倒だ。我は構わんから、ここで済ませろ。それも開けていい」 こんなの勝手に開けたら、後で上司に怒られる。いや、ギルドマスター直々にお咎めがあって、下手すりゃクビかもと畏れつつ、係員は恐々書状の封蝋をはがした。 内容は青年が話したのと大差なく、だが持ち込まれた武器が主に銃弾薬で、八十丁はあるとなると只事ではない。他にも、毒薬がある可能性があるという。 「手勢も武器の在り処は探しているが、兵士はそういうのに向かん。とっとと見付けて、ついでにその場の連中も無力化出来る開拓者を寄越してくれ」 「無力化のためなら生死問わずという条件で、よろしいでしょうか?」 「街の住人の方が大事だからな。叔父貴の了解は得てある。そうだ、街に不案内だろうから、我が案内を兼ねて武器探しも協力してやろう」 領主の甥が一緒なら、まあ普通の人間は手出ししてこないだろうが、相手は叛乱を計画しているらしい連中だ。かえって火に油を注ぐことになりそうだなぁとこっそり考えている係員は、今回は『それは開拓者と相談で』と愛想笑いを振り撒いた。 係員がどう言ったところで、青年が主張を変えることはなさそうだから、説得の手間は開拓者に丸投げしたのである。 |
■参加者一覧
柊沢 霞澄(ia0067)
17歳・女・巫
雪ノ下・悪食丸(ia0074)
16歳・男・サ
久万 玄斎(ia0759)
70歳・男・泰
鴇ノ宮 風葉(ia0799)
18歳・女・魔
リューリャ・ドラッケン(ia8037)
22歳・男・騎
ハイドランジア(ia8642)
21歳・女・弓
ウィンストン・エリニー(ib0024)
45歳・男・騎
ライオーネ・ハイアット(ib0245)
21歳・女・魔
フレイア(ib0257)
28歳・女・魔
ライ・ネック(ib5781)
27歳・女・シ |
■リプレイ本文 開拓者達が目立たぬようにドーの街に入り、依頼人達との顔合わせに臨んだ際、相手方はひどく不機嫌だった。 「開拓者を呼んだ事にも気付かず、この街が治められるものか」 一同には目立たないようにとの指示が出ていたが、開拓者ギルドの係員の話を聞く限り、依頼人のソーン・エッケハルトは相当目立つ様子で依頼をしていったはずだ。反乱鎮圧にふさわしからぬ振る舞いは、相手方が気付いて思い留まることを狙っていたのかもしれない。 この一言で依頼人に義侠心を感じたり、ジルベリア貴族の振る舞いとしては高位の者らしからぬと考えたりする者もいたが、別に情に篤いゆえの言動ではなかったようだ。 なにしろ、未遂なのだから死罪を減じることは出来ないかと口にした鴇ノ宮 風葉(ia0799)は、そのままつまみ出されそうになった。たまたま竜哉(ia8037)が、その指示が出ると同時に『叛乱で一番割を食うのは住人だ。計画しただけでも許されるべきじゃない』と言い放ったので、そちらに叱られる体になった風葉に部下達が手を出さなかったが。 「助けるべきは別だ。慈悲を与える相手を間違えるな」 「世のため人のため、こちらの法に沿っての捕り物と心得ております。ところで主犯の家族や使用人が無関係だったらどうなります?」 相手方が抵抗したら切り伏せるが、その後の処理はなどと確かめていた雪ノ下・悪食丸(ia0074)が、何人かが気にしていたことをさらりと尋ねた。無関係なら放免されると聞いて、柊沢 霞澄(ia0067)やハイドランジア(ia8642)も、心持ち表情が明るくなっている。 その後はソーンがとやかく言うことはなく、調査担当の武官や兵士が地図を広げ、地域ごとの説明が入ったり、久万 玄斎(ia0759)が求めた工作金やウィンストン・エリニー(ib0024)はじめ数人が要した着替え、集合場所の民家などが用意された。 「水源地の警備はどうなっているのでしょう?」 叛乱準備に毒まで用意されているので、ライ・ネック(ib5781)が地図に示された街の水路の取水口がある川の流域を気にしたが、そちらは元々兵士が置かれて周辺での水源を汚す行為を取り締まっていた。 「では、さっそく出掛けましょう。若君はお屋敷に戻られますか?」 意訳は『帰れ』のライオーネ・ハイアット(ib0245)の問い掛けに、ソーンは分厚い書類の束を片手に『この者と話がある』とフレイア(ib0257)を指した。 貧乏くじ‥‥と顔に表してフレイアを見た者は少なくないが、その中にドーの兵士や役人、騎士まで入っていたのは、開拓者達にもちょっと意外だった。 ソーンが誰かについていく気配なく、出るなら今の隙だと何組かに分かれて出掛けた開拓者達のうち、 「ほっほっ、ここはわし一人かと思っといたわい」 「三人じゃなくて良かったかもよ〜。あの態度、貴族ってバレバレだし」 貧民街に足を向けたのは、老人と孫に見えなくもない久万と風葉だった。道すがら情報収集用の菓子を買って、ついでに二人で口にしているところなど、よりいっそう雰囲気が出ている。 問題は。 「えっとー、仕事ないかなーと思って。港だと年寄りは相手にしてくれないしさ」 「なんじゃ、わしのせいか」 最近見慣れない人間が多数出入りしなかったか、また荷物が大量に運搬されたりすることは、といったことを尋ねるのは難しくない。だが『なぜ?』と返された時に即答可能な理由を用意しておかなかったので、大人は大抵が不審そうな顔でろくな返事をしてくれなかったのだ。 それに二人が地元の者ではないのは、顔立ちですぐにばれる。そんな二人連れが色々聞きまわっているとなると怪しいのか、途中からは誰かがついてきている気配もした。 「ぶちのめすかのう?」 「あんた、意外に過激だね」 ここは下手に警戒されないように、対象を子供だけに切り替えようと風葉が促して、子供を見付けては『声を掛けさせる』。一見好々爺と、見紛う事なき元気娘の二人連れが、よその街の話をして歩けば興味津々で見てくる子供は多いし、目を合わせてにかっと笑えば話しかけてもくれる。風葉は一緒になって遊びに興じたりもしていたから、追跡者はともかく、周りの警戒をひくこともなかったようだ。 そうして頃合を見て貧民街を出ると同時に追跡の気配も消えたので、二人は集合場所になっている民家に急ぐことにした。 民家には、貧乏くじを引かされたフレイアが、表向きは何事もなく、借りた書類をめくっている。彼女が考えた主犯の所有物件は最初に調査が入っていて、これまでのところそこに武器がないのは判明している。 「ニコラという名義の物件が随分ありますけれど、これは?」 「愛妾」 「あら、上品な呼び方ですこと。この人物が一枚噛んでいないかはお調べですの?」 「女を囲うには、金が必要だな。着服の原因の一つだろうよ」 書類や真っ当な店舗で確認できることは、フレイアが見た範囲でも調べ尽くしてあった。 「そんなことで役人が不正を行うとは、世も末ですこと」 「世は善男善女だけで構成されているわけじゃない。能があるなら使う。きちんと手綱を締めればいいだけだ」 予想以上に面白い人物のようだと、フレイアはソーンを見ている。未遂でも叛乱を企てれば死罪と拘るのは、他への見せしめだ。後は無関係の近親者などにどう対応するのか、観察してみたいところだが。 「ところでな」 開拓者ギルドの依頼内容に根掘り葉掘り尋ねられたフレイアは、自分達も観察されているのだと気を引き締めている。 倉庫街には雪ノ下とハイドランジアが向かっていた。広い場所のこと、別々に動く方策もあるにはあったが、ハイドランジアが一人でうろうろしておかしな奴らに付き纏われても厄介だ。 それで二人して『仕事を探している』と言いつつ、基本的に他者を警戒している気配が濃厚な倉庫や通りを中心に歩き回ってみたが、感触はあまり芳しくない。 「護衛の経験もあるんだがなぁ」 雪ノ下が事実を述べても、若年の外見ではあまり真剣に受け取ってもらえず。彼でそうなのだから、まったく荒々しいところがないハイドランジアなど、体を触られそうになることもしばしばだ。その度に、にっこりとその手をねじり上げて、実力の一端を見せ付けてはいたが。 「姉の仇を追っているの。でも先立つものはどうしても必要でしょ?」 多少危ない仕事でも、秘密厳守でもちゃんと働くんだけどと、不埒者の手をぎりぎりねじりながらの言葉に、実際幾つかの仕事の口利きの話はあったけれども、倉庫街でのものはない。 それなら直接当たってみたいから、最近人手を増やしたところを知らないかと雪ノ下もかまをかけたが、あいにくと二人はこれという目星をつけられないままだった。 「一応、倉庫があるところは一通り歩いたわよね?」 「人を置いて警備しているところは確認したから、持ち主を確かめてみるか」 時間を掛けて、倉庫の中で警備がいるところ、やたらと厳重に鍵が掛かっている建物などを確かめて、しっかりと場所を記憶してから、二人も他の者との情報のすり合わせに戻っていった。 港には、霞澄とライオーネが回っていた。 「寒い中、お疲れ様です。こういうお仕事って、夜もなさいますの?」 若い娘が二人、それも物腰上品なライオーネと物静かな霞澄では、港で仕事探ししているなんて嘘は通らない。よって、平然とライオーネが『乗る船を探している』と微笑み、霞澄が『よろしく‥‥』と頭を下げて回っていた。 揉め事があったような船、乗組員が臨時雇いばかりの船は道中が心配だから嫌。諸々の我侭な条件に、貨物船は大抵当てはまらない。貨客船なら上客と見て誘ってくるが、入港日や出航予定を聞いては検討するとの一言で済ませておく。 「そんなこと‥‥言ってしまって、大丈夫でしょうか‥‥」 「問題ありませんわ。また顔を合わせる事があったら、恩人が用立ててくれたと済ませますもの」 後でソーンに名前を借りる算段をしておきましょうと、ライオーネはあっさりしたものだ。貴族流の処世術の一つだというが、はてさて。 ともかく、霞澄も会話には参加しないが、嫌だとあげた条件に合致する船こそ怪しいと聞き漏らしがないように努めている。後は二人共、船を物色する視線で乗組員のうち、戦闘員らしきものが多数を占めている船がないかを探していた。 どこの街でもそうだが、ドーの街も商店が並ぶ界隈は喧騒の中にあった。人々が交わす声や雑多な物音から目的の会話だけ聴き取るのは、森の中で獣の足音を拾うより難しい。 竜哉が聞き込んでいるのは、武具の手入れ用品や解毒剤の買い入れがなかったかだが、一見の客がそんなことを尋ねても簡単に教えてくれる商家はない。何事だろうかと立ち去った後に店員が囁き交わしていたりする。 流石に感触が悪いことは竜哉も早々に気付いたが、別行動を装うライの超越聴覚が店内の会話も拾えるからと、敢えて尋ねて回っていた。ここまでに分かったのは、銃の手入れ道具も火薬も解毒剤も、目立って買い込む者はないことだ。 となると、そうした一式込みで運び入れていることになり、相応の荷物になっていることだろう。銃一丁は小柄なライでも扱えなくはないが、長期保存や運搬を考えれば個別に防水布で包むことも珍しくない。毒の他に解毒剤もとなれば、そちらも小さな包みでは終わるまい。 ついでに、人の口に戸は立てられないから、多数の人目に触れない保管場所が必要だ。知っていれば、どこかしらで口にしてしまう者が出てくるだろう。 そうした読みにもかかわらず、多数の商家を回っての反応はほとんどゼロだったが、港に近い薬問屋で、 「結構船で運ばれてくる薬も多いんだろうな?」 「そりゃ水運の街でもあるから。あの桟橋の並びは、全部うちと取引がある船なんだ」 竜哉がへえと感心したように眺めた方向に並ぶ三隻の船に対して、店主が後にこそりと呟いたことをライは聞き取っていた。 その頃、武器を求めるとの名目で別に商家を回っていたウィンストンは、仕事先もないものかと尋ねることを忘れなかった。いささかトウのたった年齢だが、体格もよい上、騎士と名乗るウィンストンをそれなりに稼げると見たのだろう。一軒の武器屋で人を集めているところを教えてくれた。なにしろ、志体持ちならそこらの傭兵とは雇われる時の前金からして違う。 「これほどの街なら、もっと働き口もあるかと思ったのだが」 仕事が少ないのは季節柄。勧める先も選抜が大変厳しいが、雇われれば相当の金額が貰えるらしいと熱心な店主に押されたように、ウィンストンはその雇用先とやらを確かめに行き‥‥経歴を適当に誤魔化して説明したところで、すげなく追い返された。 開拓者達が各所を探った結果、貧民街や倉庫街に武器を保管している場所がある可能性は薄くなっていた。書類でも、実際に回って聞いた話でも、陸揚げされて中身と行方が不明の荷物はない。 となれば船に目が向けられるが、技能を買われたライが向かったのはウィンストン絡みで目をつけられた一隻だった。 『用もないのに一月も停泊していたら怪しまれる。どこに運ぶのか、まだサファーから連絡はないのか』 まったくその通りのことで不審がられていた船内の証拠には不十分だったが、 「よし、まとめて縄を掛けろ。この時期に飛び込む馬鹿は滅多にいなかろうが、注意しておけ」 「戦場の皇帝陛下とて、本陣で采配を振るわれるものなのですよ」 主犯のサファーが件の船を訪ねたのを、船の周囲に張り付いていた開拓者が確認したとの報告に、ソーンがやる気十分で号令をかけた。留めているのは、部下達から視線で縋られたフレイアだ。 「そのために我らを雇ったのだろう? 後の始末の算段をお願いしたい」 「怪我して困るのは、あんたより‥‥他の人じゃない?」 「なるほど。我は安穏と待つのは嫌いだが、ぬし等の仕事を取ってはいかんな」 竜哉と風葉にも畳み掛けられ、霞澄が加護結界をと寄ってくる段になって、ソーンは勢いを引っ込めた。代わりの先陣は、一度だが船に入ったことがあるウィンストンをご指名だ。鎧が音を立てる兵士は、開拓者より後の突入になる。 「水源の汚染が罪でしたら、念のため転落者を回収出来るように小船を出していただけませんか」 飲用水の取水口は上流だが他の生活用水は港でも取っている。逃亡を図ったり、転落した者が氷混じりの川に沈んでは、街の者も後味が悪かろう。ライの申し出には、ドーの騎士が頷いている。 慌しく周辺の店舗や商家を徴用して兵士が待機し、まずはウィンストン、ライ、竜哉、雪ノ下と桟橋から船への架け橋を走り渡る。いずれも霞澄の加護結界が付与済みだ。出てきた連中はライ以外が叩きのめし、ライは架け橋が落とされたり、船が出航しないように桟橋と繋ぐ作業に入った。 桟橋では、その背後に迫る輩に容赦なくハイドランジアが弓弦を唸らせ、ライオーネやフレイアの魔法が眠りに誘っている。久万と風葉は、投げられた縄を桟橋の柱にきつく結んで、新たに架け橋を渡していく。 しばし甲板で騒ぎが起きていたが、それが船倉に入っていくと同時に、兵士も突入していく。その頃には魔法で眠った挙げ句に川に落ちた連中を、風葉と霞澄が棒で引き寄せ、引き摺りあげている。 「わし、腰が痛い」 「信じられるかーっ」 次々落下したものだから、落ちる原因を作った二人もあまり気乗りしない様子で棒を操っていたが、兵士達が駆け付けたところでそちらに任せていた。じたばた抵抗するのには、再び寝てもらっていたが。 船倉では、志体持ちに当たらないのを幸いどころか物足りないと考えていそうな三人が、次々と向かってくる相手を叩きのめしていた。殺さねばならない、つまりは手加減の余地がないほどの相手もおらず、制圧は兵士を待つまでもなく順調だ。 そうして、聞いていた通りの面相の男女、主犯とその愛人とを発見してあっさりと取り押さえ、こればかりは直接ソーンの元に引きずって行くと、 「利き手だけ離してくれ」 意外な要求をされた。 「妻子との離縁状と使用人の解雇通知に署名する時間をくれてやる。貴様の企みと無関係と知れたら、その証明はトゥナーダ・ガリの名で出してやろう」 書かねばこの場で切り殺すと続いた要求は脅し以外の何物でもないが、無実の証明を領主の名前で出すと明言したのなら、それは実行されるだろう。竜哉や風葉、霞澄などは、すこしばかり表情を和ませている。 その後は怪我人の治療や押収した荷物を検め、運び出したが、治療以外は開拓者の仕事ではない。野次馬達の一部は一同を見て、顔を合わせた時のことを思い出したか騒いでいたが、それは放置するに限る。 今は、 「ええカッコしいじゃのう」 「まったく」 久万と雪ノ下のしたり顔の会話に、苦笑したり、思い切り吹き出したりするのがいいだろう。 |