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■オープニング本文 「よう、開拓者でもふな。この世の修羅場、開拓者ギルドにようこそでもふ。ここのギルドで依頼を受けるのは初めてもふ? ふふふ、大丈夫もふ。最初は苦行でも、それが快感に変わり、いつの間にか依頼なしではいられなくなるもふ‥‥そうなる頃には、一人前の開拓者の完成もふよ」 そこでは、一人のもふらさまが、含み笑いつきで出迎えてくれていた。そもそも顔の造りが笑っているようだとは、言ってはならない。 場所はジョレゾの一角。入口には『ジルベリア開拓者ギルド』と美麗な字で書かれた看板が掛けられた、かなり大きくて立派な建物だ。 覗いてみれば、中にはカウンターがあり、そこには受付らしい者がいる。 「いよう、開拓者がや。覗いとりゃせんで、ずずぅっと中にへえれや。ちょんど、依頼が入っただよ」 どこの訛りかも分からぬ謎言語を操る、土偶ゴーレムがカウンターの向こうには立っていた。 依頼書らしきものを手にしているが、何が書かれているのかはよく見えない。 と、土偶ゴーレムの背後から、ゆらりと立ち上がった影がある。 ビロードのクッションに横たわっていた、真っ黒艶やかな毛皮をまとったそれは、長い二本の尻尾を持っていて、どこからどう見ても立派な黒猫又だ。 「ギルドマスターのお成りもふ」 「やいやい、マスター直々のご説明だじぇ。よんぐ聞げ」 開拓者ギルドのギルドマスターの吹雪様は、真っ赤な口を開いて仰った。 「おまえ達、この依頼にお行き」 依頼を選ぶ自由はないようである。 「うちの子供がーっ」 「おいらの息子もだ」 「わいの可愛い娘ももふ」 カウンターの別の場所では、人妖と土偶ゴーレムともふらとミヅチと鬼火玉と忍犬と猫又と龍とグライダーとアーマーとジライヤがいた。 口々に子供がと騒いでいるが、原因はアヤカシだ。 彼らの子供達が、住んでいる村の裏山中腹にある共同倉庫に、薪を取りに出かけたのだが、その近くにアヤカシが現われた。 多分今は共同倉庫の中に逃げているはずだが、村の人々もアヤカシが怖いので近付けない。 だから、アヤカシ退治はともかく、子供達を早急に助け出して、村まで連れ帰ってくれとそういう依頼だった。 緊急性が高いので、ギルドマスターが行けと言うのだろう。アーマーの親父がカウンターにすがり付いて泣くのが鬱陶しいからではあるまい。 |
■参加者一覧
カンタータ(ia0489)
16歳・女・陰
酒々井 統真(ia0893)
19歳・男・泰
乃木亜(ia1245)
20歳・女・志
喪越(ia1670)
33歳・男・陰
和奏(ia8807)
17歳・男・志
サーシャ(ia9980)
16歳・女・騎
アーシャ・エルダー(ib0054)
20歳・女・騎
ハンス・ルーヴェンス(ib0404)
20歳・男・騎
琉宇(ib1119)
12歳・男・吟
プレシア・ベルティーニ(ib3541)
18歳・女・陰 |
■リプレイ本文 子供達の危機に立ち上がった開拓者は十名。忍犬フーガ、人妖が雪白、光華、フレイヤ、甲龍鎧阿、駿龍ろんろん、ミヅチ藍玉、アーマーがシュヴァルツケーニヒ、ゴリアテ、ミタール・プラーツィだ。 「さあ行け、早く行け、ぐずぐずしない!」 誰ももたもたしてはいないが、ギルドマスターはせっかちだった。 「ほっほっほっ。ギルドマスター殿は恐ろしいのぅ。さて、戦道具を持つのも久し振りじゃが‥‥この名前が書いてあるのはなんじゃろうのう」 必要な物を色々、中には持ち合わせがなかった武器まで借りて、開拓者ギルドから子供達の親に引き摺られるように飛び出した開拓者達だが、鎧阿が借りた剛鉤爪には喪越(ia1670)と名前が彫り込んである。 「そんなこと気にしないのっ、子供達が危ないんだからね!」 「そうそう。まさに開拓者の出番だよね!」 気合みなぎるフレイヤ、藍玉と光華が背負っている袋には、プレシア・ベルティーニ(ib3541)、乃木亜(ia1245)、和奏(ia8807)という縫い取りが。フーガとゴリアテの背負ったアーマーケースにも同様にカンタータ(ia0489)とアーシャ・エルダー(ib0054)の文字。 シュヴァルツケーニヒの借りた望遠鏡にはハンス・ルーヴェンス(ib0404)、ろんろんの夢幻鏡にも琉宇(ib1119)、ミタール・プラーチィのギガントシールドにはサーシャ(ia9980)と墨痕も鮮やかだし、雪白の符には酒々井 統真(ia0893)と書き付けられている。 「開拓者ギルドも色々厳しいんでございますかねぇ」 中古品はないだろうとぼやいたフーガに、誰かが『しーっ』とやっている。 ともかくも、あと必要なものは子供達を乗せるそりだけだから、村まで行って貸してもらって、急ぎ現地に向かうのだ。 さて、現地への途中であるが。 「要救助者十五人、龍が三人、アーマーが二人で、後は一人ずつ、と。アヤカシの情報が不足しているのが難点か」 「でもお日様があるうちじゃないと、アタシ達も帰り道が危ないわよ」 裏山で道があるとはいえ、斜面。林もあるし、地理に不案内な開拓者が多数の子供を連れて移動するなら明るいうちがよい。雪白と光華がその点を確認しているのだが、それは村から借りたそりの上。ついでにフーガもフレイヤも藍玉まで乗り込んでいる。牽いているのは、馬でもトナカイでもなく、アーマーの面々だ。龍の二人は、超低空飛行中。 子供達の種族割合を確かめた一同は、まずアヤカシを小屋の周辺から引き離し、子供達の状態を確かめた後、可能であれば飛行可能な開拓者と子供とで手分けして、他の子供をそりまで運ぶ計画を立てた。幸い、龍やグライダーは子供といっても十二、三歳。猫又や人妖、忍犬なら十分運んでくれるだろう。 「登るのはなかなか厄介だが、これだけ雪があれば帰りは滑り降りられるな。今踏み固めたところがよかろう」 「アヤカシはワシ達がなんとでもするゆえ、後方は心配せずに急ぐがよい」 ミタール・プラーチィとゴリアテが、大変頼もしい言葉を寄せてくれる。シュヴァルツケーニヒは前方に注意を払いつつ、足元を踏み固めていた。これだけしておけば、少しくらい雪が降っても道を見失うこともなかろう。 「あやかしは 子どもたちを おそうために あらわれたんじゃないから、よそに 行ってないかな?」 問題の小屋までもう少しの場所に到着して、一旦降りてきたろんろんが首を傾げたが、アヤカシは人がいることに気付けば追うものだ。案の定、今の位置からは遠目で正確な数や種類は分からずとも、アヤカシが多数蠢いているのは見て取れた。 「空にも二体ほどいるな」 望遠鏡で周辺を確かめたシュヴァルツケーニヒが、ハーピーが飛んでいるのを指差した。極端に強い敵ではないが、遠ざけるか倒せなければ付き纏われて危険だ。地上のアヤカシも、小屋の壁を叩いたりしているのが分かる。 小屋は雪に備えてか堅牢で、今のところはどこかが壊れそうな気配もないが、子供達の安否も気に掛かる。それに人里近くでアヤカシがうろうろしているなど許せんという心持ちもあって、十人はすでに相談していた通りの分担で動き始めた。 「華々しく目立って、空の二体も引きつけてやるか」 「さして頭がよいアヤカシでもない。姿を見せれば、数を頼みにこちらに来るだろうな」 「じゃあ、僕がこっそり行ってくるね」 「うむ。危なくなったら、一旦離れて構わんからな」 ミタール・プラーチィとシュヴァルツケーニヒが戦闘準備も万端に、飛び出す機会を伺っている。藍玉は足音がしない利点を活かして、アヤカシ達に近付くつもりだ。どの位置にアヤカシをひきつけていくか、最後に確認しなおして、ゴリアテに無理をしないようにと念押しされている。 残る六人はアヤカシの姿が遠ざかったら、小屋から子供達を連れ出すために近付きやすい経路を目で確かめている。今いるあたりは降雪でいささか足元が危ういが、小屋の周りはアヤカシ達が踏み固めてくれているので走るのも容易だろう。とはいえ、実際に自分の足で走るのはフーガだけなのだが。後は翼か、人魂の技で飛んでいくことが出来る。 だが。 「あんまり高いところを飛ぶと、風も強いし寒いのう」 鎧阿が言うのももっともなので、素早く近付くには低空飛行が重要だ。アヤカシに見付かって戻って来ても大変だし。 そうして、藍玉がアヤカシの群れに近付いて、村とは反対方向に回ってから、自分の存在を見せ付ける。同時に、三人のアーマーが猛然とアヤカシ達を追いたて始めた。 ハーピーは、確かに扱いづらい。こちらは地上から動けないのを察して、上空背後から爪を立てようとやってくるのは煩わしいことこの上なかった。ハーピーにしたら、大きなアーマーは狙うのに容易い相手に見えることもあるのだろう。 それ以外にもゴブリンよりは大きな武装した鬼やら、あれやらこれやら、頑丈な小屋にこもった子供達が襲えずにいた連中が、新たな獲物だと群がり寄ってくる。 「ふん、ただのアーマーと思ったか。こんな連中なら、後の憂いにならぬように退治しつくしてやろうか」 漆黒の体に金の装飾が華々しいシュヴァルツケーニヒが、ギガントシールドを構えなおして呟いている。突撃を開始した位置から小屋を離れるこの位置まで、斜面だったのをいいことにシールドをそり代わりに滑り降りてきた。この勢いと煌びやかな姿にアヤカシどもが目を引かれ、追いすがってきたので、作戦通りと意気盛んだ。 ついでに、先程からやってみたかった雪乗りが出来て、その点でも上機嫌だとは秘密。こんな時に、そんなことを口にしたら何事かと思われてしまう。 何はともあれ、殺る気十分で追いかけてきたアヤカシどもと相対する。後方からは、他の二人がたいした距離も開けずに追いかけてきて、うまい具合に挟み撃ちに出来そうだ。 「これなら全滅させられるかもしれんなぁ。まずは何より、元来た道を戻さんことか」 豪快に雪を蹴散らして走ってきたゴリアテは、これまた野太い大きな声でアヤカシどもの視線を奪う奇声を上げた。続いて振り回した剣が、あたりの雪を巻き上げる。これでアヤカシからは小屋を見通すのは難しくなったことだろう。 なにより、ミタール・プラーチィも追いついてきた。 「この程度のアヤカシ、我らだけでも後れを取るものではないな」 聞こえよがしの大言は、もちろんアヤカシに聞かせるためのもの。わざと背中をがら空きにして、狙い降りてきたハーピーに剣を叩き込む。その悲鳴に、アヤカシどもの注意は一斉に三人のアーマーに向かっていた。 「あれれ?僕もいるのになぁ」 ハーピーの動きを水柱で止めて攻撃しやすくしたはずの藍玉が、まったく自分が注目されないことに首を傾げたが、体格差はいかんともし難い。それに集団で押し包まれると不利になる体型でもあるから、三人の補助に回るのは最初からの予定だ。 でもなんとなく不満‥‥と藍玉が思ったとしても、あいにくとアーマー三人がそれを汲んでいる暇はない。 ゴリアテの奇声に負けぬ音量で、アヤカシどもが口々に何か叫びながら、それぞれに攻撃を始めたのだった。 「結局は烏合の衆か!」 統率者もおらず、もちろん連携など意に介さず、なんとかして目の前のアーマーを捕食してやろうとするアヤカシどもに、なにやら余裕の一言を浴びせたのは誰だったか。 「向こうは大丈夫かな?」 ハーピーの動きを注視している藍玉がこそりと呟いたものの、それを聞いて理解するようなモノは近くにはいなかった。 子供達が隠れているだろう小屋の周囲からアヤカシの姿が消えるや否や、まずは人妖の三人が鳥に姿を変えて向かった。それでもアヤカシがこちらに注意を向けないのを見てから、フーガが走り出す。龍二人は、それからゆっくりと飛び上がった。 あいにくと建物には窓もなく、出入りするには扉を開けてもらわねばならない。いち早くそこに辿り着いた雪白が姿を戻して、扉を叩きながら声を掛けた。かなり分厚い扉だが、人語を話すようなアヤカシは見受けられなかったから、話しかければ助けが来たと分かってくれるだろう。 「おぉーい、助けに来たよ。アヤカシはいないから、開けておくれ」 懸命に大きな声を出すが、中の反応は鈍い。何人もが動いているのは気配で分かるが、開けていいものかどうか迷っているのだろう。 「ねーえ、開けてちょうだい。私達開拓者なの」 「おうちの人から頼まれてきたのよー」 フレイヤと光華も叫ぶが、まだ中では開けてくれる気配がない。三人でせっせと拳で扉を叩くが、アーマーにも対応した大きな扉を開くには、三人いても人妖では難しい。それにどうやら、中から閂をかけたか、何か積んだかして開かないようにもしてあるようだ。 「あれぇ、まだ あけてもらってないの?」 低空をこっそり飛んできたろんろんが、あっけらかんと言うものだから、人妖達の目が細くなってしまっている。出来るものなら、早く開けて欲しいのは皆一緒だ。 と、そこに追いついたフーガが。 『ワンッワンッ』 忍犬独自言語で、中に向かって話しかけた。今度は中からはっきりと、似た声が応えている。 「皆さんご無事ですか?開拓者ギルドの女将さんの言いつけでお迎えに参りましたよ」 お菓子も持ってきたので、まずは食べて元気を出して。そんな言葉に釣られたわけではなかろうが、これだけの人数で声を掛ければアヤカシの罠ではないことも納得したのだろう。ようやく扉の向こうでどたばた何かしている音がして、それでもそろそろと用心深く少しだけ扉が開けられた。 ちょこんと顔を出したのは、猫又の子供である。 「ほんとに開拓者の人みたい!」 本物なんだけど、とは言っても詮無いので口にせず、ようやく開けてもらった扉から皆が中を覗くと、薪や山で使う道具類に囲まれて、子供達が色々な表情でこちらを見やっている。まだ警戒心も露わなのもいれば、興味津々見上げてくる者もいるし、安心したのかべそをかいているのもいる。 念のため、中にアヤカシが潜り込んでいたりしないかも警戒していたが、そんな気配はなく、子供達も疲れてはいるがまったく動けないほどではないようだ。フーガや鎧阿、ろんろんが背負ってきた食料や水を与えて元気付けて、怪我がないかも確かめる。 「もー、おなかすいて辛かったんだぁ」 最年長のグライダーの子供は、これであっさりと元気を取り戻し、光華に大声は出さないようにと注意されている。年嵩の龍の子供達もしっかりした受け答えで、全員かすり傷程度しかないとはきはき返事をしていた。 人妖、猫又、忍犬、ミヅチ、鬼火玉の子供も、とにかく早く家に帰りたいと自力で動けるかと尋ねられれば頷いた。ここまでは、まあよかったのだが。 「ほんとにアヤカシいないもふ?ほんともふ?」 「追いかけられたら怖い〜」 「くらいのいやーっ」 「せまいのいやーっ」 「お前ら、図体でかいのに、本当に気がちっちぇな」 鬼火玉の子供がぼやいたように、もふらとジライヤとアーマーの双子が四人の子供達が、ここも怖けりゃ、移動も怖いと泣き喚きだした。見た目はグライダーや龍に勝るとも劣らぬ体格の持ち主達だが、いずれもがまだ五、六歳。もう少し年長の同族の子供は村で別の手伝いに駆り出されて、たいして技術も要しない薪運びに小さい子供が回された結果、こんな状態になってしまったらしい。 「あーまーの おじさんたちも こんなこと 言ってたのかな?」 「ほっほっ、志体持ちの男衆と、こんな小さい女の子達を一緒にしたら罰が当たるぞい。何、わしらが急いで往復すればよいだけのことじゃ」 流石に一日以上飲まず食わずだった子供に、村まで他の子供を背負って飛べというのは事故が怖い。そりがあるところまで行ってもらって、そこからは自分だけで飛んでもらったほうが安心だ。他の子供はそりに乗せて、踏み固めてきた斜面を滑り降りればたいした時間も掛からないだろうし。 鎧阿が二往復すれば何とかなると言うのには、ろんろんも異論はない。問題は。 「手前が向こうで警戒することにいたしやしょう。もうお一方、ご一緒していただければ安心ですな」 一往復目に、泣き虫四人組の誰を連れて行くかと、全員が避難するまでにそりのほうを誰が見ているかだ。アーマーの双子がアーマーケースに入ってくれれば、グライダーの背中に結んでまとめて運んでもらえるのだが、そんなものは見たこともない農村の子供は大泣きするばかりで話が進まない。 ゆえに、フーガと人妖が誰か一人、そりの側で警戒して、残る人妖二人が小屋に子供達と残り、鎧阿とろんろんの龍二人が急いで行き来しようと話がまとまったのだが、 「のこるのいや」 「いやもふ」 「やーっ」 「やーっ」 これまた抵抗にあった。ミヅチの子供が『おまえら馬鹿』と言ったものだから、また泣き出す。この調子では、泣き声でアヤカシが戻ってきてしまいそうだ。 ここで鎧阿が奮起した。 「よし、ワシが二人背負えば何とかなろう」 老骨に力が漲るようだとか気合を入れていたのだが、他の人々ははっきり聞いた。 ぐきっ 代表したわけではないが、フレイヤが鎧阿の腰に治癒の術を掛けつつ、諌める。 「無理は駄目よ、無理は。若い時とは違うんだから」 流石に今の『ぐきっ』は効いたようで、鎧阿も器用に腰を擦りつつ、やっぱり一回に一人かと考えている。グライダーと龍の子供達の四人に、ろんろんと鎧阿がいれば、誰かが二人を運べれば一度で逃げられるのだが、その算段をするよりはせっせと避難を開始したほうがよさそうだ。流石に今ので、泣き虫四人組も黙ったし。 そんなこんなで、フーガと光華が鬼火玉とミヅチの子供と一緒に地上とその近くを移動。鎧阿はもふら、ろんろんはジライヤの子供を乗せ、グライダーと龍の子供達が忍犬、人妖、猫又の幼馴染み達を乗せてそりまで移動する。鎧阿とろんろんは取って返して、アーマーの双子を連れ、二人だけ置いていくと可哀想だと居残ることにした龍の最年長に雪白、フレイヤが乗せてもらって追いつくことになった。 「人魂を使ってると、もしもの時に対応が少し遅れるからね。でも危ないって言ったら、全速で逃げていいよ」 「俺だけ逃げたら、父さんが怒るしぃ」 悪いけど乗せてねと頼んだ雪白に、居残った龍の少年はなかなか頼もしい発言だった。が、分かる人は分かっている。もう二人の龍は女の子で、どちらもなかなかの器量よし。男の子だから、かっこつけたいのだ、きっと。開拓者と一緒なら安心と、そういう考えはあるのかもしれないが。 こんな時でなければ、微笑ましい気持ちが保てるが、流石にそれは一瞬だ。先んじて小鳥の形を取った光華が周囲にアヤカシの姿がないのを確かめて、フーガが方向を示すのに走り出す。続けてグライダー、龍の子供と続き、鎧阿とろんろんが間をおかず飛び上がった。各種族混じって暮らしている村の子供達は、なかなか器用に飛んでいる幼馴染みや開拓者の背中に掴まっている。 それを屋根の上から見送りつつ、雪白が辺りに警戒の視線を投げていた。幸い、アヤカシと仲間の戦いは徐々に離れていったようで、百メートルは離れた場所で雪煙が舞い上がっている。空を飛ぶ影が見当たらないのは、うまい具合にハーピーを退治してくれたものか。 すぐさま龍の二人が取って返してきて、居残った龍にしがみ付いていたアーマー双子をそれぞれの背に乗せ、人妖二人を乗せた子供と一緒にそりに向かった。 「ほらほら、御者席に誰か付きなさいよ」 子供達と人妖開拓者を乗せたそりは、ジライヤが操って動き出す。大型なので、御するのも相応の体格が必要だからだ。開拓者にしたらちょっと不安だが、操縦方法はすぐ横で忍犬が指示している。 幸い、さほど心配する時間は長くなく、心配した親達が山の入り口まで迎えに来ていたのでそりごと子供達を引き渡し、一同はアヤカシ退治に取って返したのだが。 「ええい、助けなど必要とはしておらんぞ!わはははは」 「子供達は無事か?ならよい。おぬし達も一暴れするか?」 「汝らの取り分があればよいのだがな」 そこで見たのは、ぷんすか怒っている藍玉と、暴れたい放題に暴れている三人のアーマーの姿だった。 「僕もちゃんと頑張ってるのに!」 彼の支援を気付いているのかいないのか、手強いアヤカシをなんとか退治してから勢いに乗りまくった三人が、楽しくアヤカシ退治に勤しんでいるところだったのだ。 まあ、ちょっとは取り分があったので、皆して暴れて、憂いを取り払い、満足は出来ただろうか。 戦いで満足できなかった分は、村の人々が振る舞ってくれた食事の際に、助けた子供達やその友達と歌や踊りに誘われたので、楽しむことで晴らせたろう。 |