どくろの進軍
マスター名:龍河流
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 10人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/12/31 18:56



■オープニング本文

 がしゃどくろ。
 多数の骨が巨大な人骨を組み上げている姿のアヤカシは、大きいものなら身の丈五メートルにもなるという。
 幸いというべきか、今回現れたものは四メートル程度。
 ただし、数は四体だ。

「数字が綺麗に揃っても、こういうのは嬉しくないな」
「それ以前の問題だわよ。どうすんの、うちの住民じゃ太刀打ち出来ないわ」
「うちも無理だな。後詰めなら引き受ける。他に有効な策は?」
「俺らだけじゃ、手が足りない。つうか、こういう時こそ主君にアーマーでも出してもらおうぜ。龍騎兵でも魔法使いでもいいけどさ」

 ほとんどのアヤカシは人を喰らうものだから、人里目掛けて移動しても不思議はない。
 どこで発生したものだか知らないが、件のアヤカシもすでに旅芸人の一座を襲おうとしている。襲われた人間達は、巨体が通れない山道を辿って逃げたが、代わりに商売と生活の道具のほとんどを失った。
 連れていた馬のことは諦めるとしても、荷物を探しに行くことすら叶わない状況だ。

 そして、このがしゃどくろ達の進路に当たる村々では、それぞれを領地とする貴族達が寄り集まって対策を練っているところだった。
 迎え撃つなら、ぜひとも人里離れた放牧地にいる今のうちに。
 人員には、各領にいる限りの志体持ちと戦地経験者を出すのは当然。
 ただし、現在集まっている四つの領のうち、二つには志体持ちがおらず、一つは主家に当たる貴族に仕官して留守。結局傭兵稼業で稼いでいる村の十人全員が出てくるものの、弓術師と砲術士のみでは心許ない。

 この四領は、揃って同じ高位の貴族と主従関係にあり、古い契約で危急の際には武力支援が受けられることになっている。
 すでに主家には風信術で事態を連絡し、支援を要請しているが、主家の武力は皇帝の下にいることが多い。地元に残っている分からどれだけ回してもらえるか、じりじりと返事を待っていたのだが。

「うちの息子を戻してくれるそうだ。もちろんアーマー付きで」
「ちょっと、それだけじゃ足りないわよ」
「落ち着け。後は開拓者ギルドに依頼して、人を揃える。費用はあちら持ちだが、春麦の徴税減額で調整。シテ村には、別に報酬が出る」
「ちょい待ち。うちは傭兵団の予備まで総出陣だぞ。その分も出るのか?」
「出なかったら、来年の作物取引でそちらの利を考えるよ」
「あー、染料の工房紹介してあげる」
「心配するな。ちゃんと出るように掛け合ってある」
「なら、開拓者ギルドに連絡しようぜ」

 ジェレゾの開拓者ギルドに、至急の依頼が入ったのは、早朝のことだった。
 依頼は、依頼人側戦力と共闘の上で、がしゃどくろ四体を退治すること。



■参加者一覧
朝比奈 空(ia0086
21歳・女・魔
酒々井 統真(ia0893
19歳・男・泰
キース・グレイン(ia1248
25歳・女・シ
ルオウ(ia2445
14歳・男・サ
ブラッディ・D(ia6200
20歳・女・泰
リューリャ・ドラッケン(ia8037
22歳・男・騎
サーシャ(ia9980
16歳・女・騎
アレーナ・オレアリス(ib0405
25歳・女・騎
針野(ib3728
21歳・女・弓
袁 艶翠(ib5646
20歳・女・砲


■リプレイ本文

 二十五の銃声が、一斉に轟いた。
「やれやれ、とんでもない音だな」
 戦時では珍しく、小さく首を振った甲龍・グレイブの首を軽く叩いて、キース・グレイン(ia1248)は眼下に動く巨大な頭蓋骨を改めて見やった。
「やることはいつもと変わりありませんけれど‥‥随分騒がしいことになりそうですね」
 炎龍・禍火で常の依頼より高い空に舞い上がった朝比奈 空(ia0086)の呟きは、地上どころか、キースにも届かないが、今更相談することなどない。
『あ〜、うるさっ』
「余計な口を利いてるんじゃないよっ」
 地上でも、銃撃音で気を散らさないのと耳を保護するためか、耳栓をした白峰傭兵団と一緒に射撃に袁 艶翠(ib5646)が土偶ゴーレム・七星揺光を蹴飛ばしていた。耳栓はしているのだが、自分の相棒が何か言った事は気配で察したのだろう。
 その間に、今度は風切音が幾重にも響いて、多数の矢が飛んでいく。
「ハチ、まだ出たらいかんよ!」
 こちらも傭兵団に混じって、一際大きなレンチボーンを構えた針野(ib3728)が、相棒の忍犬・八作に声を掛けていた。視線は前方を向いているが、心得たものか、八作の尾が彼女の足をはたいている。
『はぁ、ボクらの体格で相手になるアヤカシじゃないよね』
『何時ものことじゃよ、何時もの』
 なぜだか酒々井 統真(ia0893)と竜哉(ia8037)の人妖、雪白と鶴祇が、まだ距離はあるのに二人には仰ぎ見るしかない巨大な人骨を眺めやり、互いを慰めるように言い合っている。それぞれの相方は、当の昔に戦場に走り出ていた。
 がしゃどくろ四体。浮遊する一体以外には、それぞれに二人ずつの開拓者が足元に駆け寄って、足止めを開始している。
「誰かの遺骨というわけでもないようだし、憂いなく行かせてもらいましょうか」
 アーマー・ミタール・プラーチィの中では、サーシャ(ia9980)が一人ごちていた。出会ってみれば、問題のがしゃどくろは多数の人骨が組み合わさっているようにも見えるものの、凶骨を取り込んで動くものではなかった。更に依頼人の話を信じるなら、骨も人骨にしては大きなもの、歪なものが多く、どこかの戦死者の骨というわけでもなさそうだ。
「倒せばただの骨っころだ!行くぞ、黒緋っ」
 威勢良く鬼火玉・黒緋に叫んで飛び出したブラッディ・D(ia6200)が言うように、よほど気楽な相手というものだろう。彼女は気にした様子もないが、中には人の遺体に手を上げるのは心が痛むというものもいたかもしれない。
 大抵は、後方に控えるのが志体のない者も多い中、気を抜くことなどないが、
「雪、ちゃんと背後にいろよ!」
『じゃあ、動く方向くらい教えて欲しいものねっ』
 ルオウ(ia2445)と猫又・雪の会話には、極端な緊張感はなかった。どちらも、もう片足に絡んだ鎖をアーマー・ヴァイスリッターを駆るアレーナ・オレアリス(ib0405)が引っ張っている間、アヤカシの注意をひきつけるべく小刻みに動いて、攻撃を繰り返している。
「まったく、ろくでもない奴だこと!」
 余人が聞いたら、印象にそぐわないと思ったかもしれないアーマーの中の気合は本人以外の耳には入らなかったが、渾身の力を込めて引いた鎖がじわじと前進していたがしゃどくろの足を止め、
「二人巻き込まれてないか?」
「志体持ちだから死にゃしないさ」
 地響きに紛れた依頼人二人のほとんど身振りと唇の動きで交わされた会話は、もちろん開拓者のところまでは届かない。


 がしゃどくろ四体を退治するための戦力が欲しい。
 そんな依頼に駆け付けた開拓者十人は、人妖と龍を連れたものが二人ずつ、他に猫又、鬼火玉、土偶ゴーレムに忍犬と来て、アーマー持ちも二人と、依頼人の一人が『豪勢な』と評した人々だった。サムライ三人、泰拳士と騎士が二人ずつ、巫女に弓術師、砲術士と前衛を勤められる者が多かったのが、別の依頼人には安心材料となったようだ。
「これだけ人がいると、ちょっとした合戦みたいさー。うおっ、アーマー初めて見た。あれが、この箱になるんかー」
 依頼人へ堅苦しい挨拶は仲間にお任せして、集まった人々を眺めていた針野が、少し離して置かれたアーマーに、興味津々で視線を注いでいる。先方は、開拓者達が連れている龍や土偶ゴーレム、鬼火玉などに視線が集中しているから、おあいこだろうか。
「お久し振りですわ。アリョーシャ様もおいでとは存じませんでした。オリガ様はお元気でして?」
「今頃、自分のところで避難の指揮をしているよ。このまままっすぐ行くと、最初にシューヨーゲンに行くからね」
 以前の依頼で、依頼人のうち三人と面識があるアレーナが、この場に欠けている一人の名前を挙げつつ挨拶を交わしていた。もちろん一人ずつ自己紹介くらいはするが、一人がまとめて簡単に全員の説明を済ませてくれれば話に入るのも早くなる。それで面識があるアレーナにその役が回ってきたのだが、別の場所では。
「先日の分まで、実力を見せてくれるだろう?時間があれば、村も寄らせてもらいたいな」
「うちの村?あの山の中腹なんだけど」
 キースが、やはり以前に依頼で一緒だった銃使い、弓使いだけの白峰傭兵団の面々と言葉を交わしている。傭兵団は皆同じ村の住人だと聞いていたし、今回の依頼人の一人が団長だしで、近いのかと思いきや、かなり離れた山を指されてしまった。
 その傭兵団の一部に囲まれているのは、艶翠と竜哉だ。
「寒いに決まってるでしょー!この時期に首を晒して歩かない!」
「それは分かったから。自分でやるってば。誰だい、首が絞まるだろ」
 両親はジルベリア人だが当人は泰国生まれ育ちの艶翠は、これが初の両親の故郷立ち寄りで、地元の女性陣いわく『服装が隙だらけ』なのだそうだ。この場合の『隙』は、『寒さが忍び寄ってくる隙』のこと。
 分厚い上着は銃の取り回しに困るという砲術士に、同じ砲術士や銃士の女性陣が寄ってたかって、襟巻きだ、手首と足首に巻く毛皮だと着けまくっている。
 かたや竜哉は男性陣に、兜と襟巻きを外せと詰め寄られている。諸々の事情で顔を出したくない彼だが、相手もまるきり顔を出さないのを危ぶんで、ちょっとでいいから顔を見せろと押し問答になっていた。
「よし分かった。副団長一人にでいいから、確認させろ」
「‥‥開拓者ギルドから来てるんですから、勘弁してもらえませんか?」
 過去にもめた相手でないのが分かればよいとしつこいので、ちょっと顔を見せる羽目になっていた。その昔、仕事で捕らえた盗賊が村にお礼参りに来て大変だったと聞けば、竜哉も納得である。もう何年もアヤカシ退治専門でやっているとかで、確認も本当に一人で済ませてくれたし。
 そんなことをしている者はいいが、残りは注目の的だが近くに寄ってこないので、ある意味退屈だ。この後、作戦のすり合わせが始まればなんということもないのだろうが、緊急性が高いはずなのにたまたまぽかりと空いた時間というのは気の持ちようが難しい。
「早く始めようぜー。どうせ一体ずつ集中攻撃だろー」
 ブラッディは置きっぱなしの荷車に腰掛けて、足をばたばたさせている。別に我侭を言って暴れているわけではなく、少しは動いておかないと身体の動きが悪くなるからだ。近くでルオウも手足が強張らないように屈伸などしている。
「なあ、これ鎖だぜ。こんな太いのもあるんだなぁ」
 そのルオウが、ブラッディが腰掛けている荷車の箱の中が太い鎖を束ねて積んだものだと気付いた。轍が深いから重そうだとはブラッディも思っていたが、結構長そうだ。アーマーで振り回すものでもないらしい。
「こんなの振り回していたら、間違いなく短時間で力尽きます。が、アレーナ殿が言っていた策には使えるかもしれませんね」
 太い縄があれば、アーマーが両端を持ってがしゃどくろの足を掬えるのではないか。そんなことをアレーナは言っていたのだが、なにしろ人より稼働時間に制約があるアーマーのこと。サーシャはそれほど乗り気ではないようだ。泰拳士のブラッディやサムライのルオウではもっと使いようがないし、龍でもどうにもならない。
 はてさて、何に使うのやらと三人が思っていたら、どう見ても戦闘向きではない領民と思しき面々がやってきて、鎖を運び始めた。様子を見に来た酒々井も気になるのか手伝って、荷車の動き出しを押してやっている。志体のない面々には、相当重いものらしい。
 だが、志体持ちが傭兵団に十人いるからか、開拓者が手伝うほどのこともなく、がしゃどくろが通るだろう樹の間に、えっちらおっちら鎖を結び付けて戻ってきた。
「外れそうだよな、あれって」
 ルオウがこそっと囁いた言葉に、開拓者は揃って同感だったが‥‥進行を遅らせる狙いで仕掛けたようなので、少しでも効果があればよいと思うに留めた。一体でも引っ掛かってくれれば、それだけで全体が楽になる。
 ただ、その頃。
「多少の傷が後々響くこともありますから、早めに言ってくれて良かったんですけれど。出来た龍にちゃんとお礼してください」
 常より厳しい口調で、空がキースに言い聞かせていた。グレイブがしつこくキースに何か急かすので、おなかでもすかせているかと思いきや、キースの怪我が治りきらないでいるのを知ったのだ。慌しく治癒の術を掛けて、流石に一言注意した後、甲龍を労ってやっている。炎龍、甲龍の間で平然としている姿は、開拓者以外からは物珍しそうに見られていた。
 その半ば見物客と化している後詰めの領民は見える範囲で出来るだけ後方に下がらせて、傭兵団と針野、艶翠で主要な攻撃線を作る。その攻撃間合いに入る前から、龍に乗るキースと空が、依頼人側のアーマーと協力して宙を飛んでいるがしゃどくろを他から離すように努め、他の三体には開拓者が二人ずつ付いて、進行を遅らせる。
 後は、ともかくも遠距離攻撃で浮遊型を退治した後、戦線に近いものから順番に戦力集中して退治というのが、割とあっさりまとまった作戦だった。
 そうして、決めた通りに自分の仕事を果たすべく動き出した一堂は、がしゃどくろの浮遊が地上二メートル程度と攻撃が届く範囲であったのを幸い、銃と弓で間断なく攻め立てる方式を取っていたのだが、
「あっさり倒れて来るなよ、危ねえなっ」
「これが起きてしまっては、せっかくの好機がふいになる」
 仕掛けた鎖は足首に引っ掛けたまま、あっさりと樹を引き抜いたがしゃどくろも、アレーナが足留めを狙って鎖を引き続けた結果、転倒。しかも隣を進んでいた仲間を巻き添えにし、酒々井と竜哉が下敷きにされかかる羽目に陥った。

 もちろんそうした光景が目に入っていないわけではないが、艶翠、針野は手を止めることなく、弾込めや矢を番え、撃つのを繰り返していた。傭兵団も気付いたはずだが、やはり手は止めていない。となれば、二人とても仲間の身を案じている場合ではない。
 狙う場所は、人間なら肩甲骨にあたるあたり。ちょうど大きな骨があって狙いやすいし、上空の二人は頭蓋骨へ、アーマーは胸より下への攻撃と決めてある。仲間を誤射する危険を避けるためにも、他に気を取られている場合でもなかった。
 ただ、それまで針野の足元にいた八作が、指示されて倒れたがしゃどくろが振り回す腕の指先に攻撃を加えに走り、盾代わりによい場所へと時折動いていた七星揺光が腰を据えて、ビーストクロスボウでの攻撃に専念し始めたのが変化だろう。
 射撃手が弓と銃とで五十人弱の陣営に、上空からは姿勢を崩させるような移動で交互の、アーマーも届くを幸い、腰骨の辺りを斧で斬りつけている。体の造りが違うからか、どんな一撃を喰らっても痛そうな素振りなどありはしないが、最初は攻撃の勢いをものともせずに進んでいたのが、時折立ち止まるようになり、
「よっしゃー、ハチ、アーマーさんの応援に行けっ」
「あー、流石に効いてきたかね」
 徐々に高度を下げてきたのを見て、針野も艶翠ももう一息と狙い定めることに集中し直している。

 別の個体が転倒したので、なにやらそちらは足止めではなくなっている気配は感じたものの、空も誰か巻き込まれたかなどと気にはしなかった。そんなことを今考えたところで、この場で何が出来るわけではない。更に、射撃手達の戦線を突破されたら、彼らが陣形を立て直す前に後詰めで控えている人々が危険だ。
 彼女と禍火は斜め前から、キースとグレイブは後方から、大まかに攻撃を行なう方向を定めて飛ぶ二組は、何度か振り上げられた腕に掛けられそうになりつつも、前者はかろうじて回避を続け、後者は幾度かキースが長柄斧で押し合って、攻撃を加え続けていた。普通の生き物なら、攻撃を受けた痛みで一瞬動きが止まったりするのがないところが、時に間合いを見誤らせ、どちらの龍も皮翼の裾が避けたが、痛そうな素振りは一瞬だけだ。
「おまえには迷惑掛けるな」
 後でちゃんと治療してもらってから帰ろうと、キースは聞こえる状況にないがグレイブに話しかけた。視線は骨だけの後頭部、思い切り広い標的に打ち込むのは払い抜けだ。更に間が合えば、そこにグレイブの龍尾が入る。
「どうやって私達を見ているのか、分かれば攻撃もしやすいのでしょうけれど」
 眼球がないから、どこに注意を抜けているのか気配が掴みがたく、それまでより少し距離を離して位置を取った空は、精霊砲に攻撃を切り替えた。間断なく攻めるに越したことはないが、キース以外にも射撃やアーマーの攻撃がある。それなら攻撃力が大きい技で攻めたほうが確実だ。それに、離れて攻撃出来る利を活用しないと、足がない分予想外に間を詰めてくる動きに巻き込まれかねない。
 銃声に続いて、弓弦の音が響き、アーマーは見えないが、キースが果敢に後頭部に突撃するのを視界に入れつつ、空も精霊砲を放つ。
 姿勢を崩したがしゃどくろが、倒れていく最中にも瘴気に還り始めたのを確かめた一団は、速やかに次の攻撃対象を定めて動き出した。

 流石に一瞬潰されるかと思ったと、酒々井の感想はその程度だ。憎まれ口を叩こうと、雪白が盛大に悲鳴を上げつつ追いついてこようと、うっかり勢いに負けて転倒したものの、動けるなら攻撃続行。雪白が悲鳴を上げてすっ飛んできたが、ちょっとこめかみが切れたくらいで、いちいち治療してもらっている場合ではない。
「そっか、血が結構出るんだよな」
 目に入らなきゃいいがと、そんなことを呟いている酒々井の足元で、雪白は大変に不満気だが‥‥ここで何を言っても無駄なことくらいはよく承知している。
 人妖に小言を喰らっているのは、竜哉も同様で。鶴祇に背後からぶつくさ言われつつ、速やかに起き上がって、あろうことかがしゃどくろの腰骨に足を掛けた。
「目立ちたいのかって、なんでそんな話になるかな」
 単にここの骨がなくなれば動きが阻害出来るだろうから、上から叩き割りたいだけなのにと、その竜哉の意思を汲んだか、鶴祇は人魂で鳥に変化した。倒れたがしゃどくろの顔の周りを飛んで、気を散らすためだ。もう一羽いるのは、雪白も気を取り直して同じことを始めたからだろう。人妖が直接相手取るには、なにしろ大きすぎる相手である。
 竜哉や酒々井が取り付いても巨人と小人のようだが、泰拳士の二人は倒れた巨体への攻撃手段に事欠かない。起き上がれないようにと、相談した訳でもないのに腰から下半身の関節や大きな骨を狙って、次々と技を繰り出していく。
 ちょっと危うい思いをさせられた恨みもあってか、何度も伸ばされてくる手を掻い潜っての攻撃は熾烈を極めている。

 アヤカシの仲間意識がどれほどか知らないが、一体が集中砲火をくらい、二体が転倒したことで、残った一体の足はいきなり速まったようだ。それまでは加えられる攻撃に対抗しようと、しばし足を止めることもあったのが進むことに集中している。
 だが。
「そうそう行かせるもんかよ」
 せっせと走る猫又を従え、足元の積雪を蹴散らしつつ走ったルオウが、がしゃどくろの横を抜けて背後に出た。それも大分行き過ぎたところで、ようやくもと来た方向に振り返る。
 その喉から上がったのは『咆哮』だ。敵をひきつける効果があるそれは、確かにがしやどくろを振り返らせたが、彼我の距離はあるようでいて相手には一歩かそこら。
「棍棒という感触ではありませんが、重いに変わりはなしと」
 振り下ろされた棒を、クラッシュブレイドで受け流したサーシャが、その感触を冷静に分析していた。まっすぐ受けたら衝撃は大変なものだろうが、アーマーなら体格差も大分縮まって、打ち合いが出来ないほどではない。
 だが相手は咆哮の効果か、ルオウが視界から離れないらしい。サーシャのミタール・プラーチィは邪魔な何かでしかないようだ。
 ルオウにしたら、両者の間で迷ってくれれば交代で攻撃を決めてやるのにと思うが、ここは雪の閃光で目晦ましに頼りつつ、移動を重ねて行くのがよいようだ。攻撃はサーシャが念入りに、多分無視された怒りも加えて続けている。
 もちろん、少しでも注意が逸れたら、その瞬間にも反撃に出てやると決心を固めたルオウと、自分から見ると隙だらけのうちに攻撃を加えてやろうとするサーシャの間で、がしゃどくろはふらふら歩き回っている。

 危うく仲間をアヤカシの下敷きにしたかと心配したのも一瞬。自力で動いている姿を確かめて、アレーナは自分が足止めするがしゃどくろへの攻撃に戻った。
「ひゃっほー、こりゃいいや。攻撃し放題だ」
 アーマーの足元を潜り抜けて、ブラッディが歓声をあげている。転倒した相手に攻撃し放題なのはもちろんだが、物凄く嬉しそうだった。自分の台詞に従って、起き上がろうと地面に着かれた掌を殴り付けている。攻撃は最大の防御を、地で行っていた。
 もちろんアレーナも躊躇うことなく、ヴァイスリッターで鋸刀を振るっている。骨を挽くのは難しいが、打撃だけでも動きを止めるなら十分だ。
「迷惑を掛けてしまった分、ここで取り戻しませんと」
 口にした願望の中身と口調の上品さがやや合わないが、ブラッディと示し合わせたようにやっていることはもっと似合わない。ブラッディがせっせと腕を攻撃して、行動を妨げている間に、背骨の下を切り落とそうというのだ。元はブラッディがせっせと蹴り飛ばしていたのだが、流石に蹴り折るのは難しそうなので交代したもの。
 しばらく後に、上半身と下半身が分かれたがしゃどくろは、それでもまだ蠢いていたが‥‥その頃には、順番に一体ずつ潰した最後の順番が巡ってきていて、頭蓋骨への集中攻撃でがしゃどくろは全てが瘴気に還ったのだった。
 痛覚がないような動きと、時折確かに回復したと見える行動速度の改善はあったものの、攻撃の集中は効果的で、思いのほか早く済んだというのが、開拓者達の感想だった。一部、早過ぎるとの心の声が口から漏れていた者もいるが。
 けれども、それで後は怪我の具合を医者に診てもらって、空か人妖二体に治して貰えば終わりかといえば、そんなことはなく。
「荷物が取りにいけてないんだろ?ついでに拾ってこようか?」
 まだ何かいたら危ないからと申し出たキースに、念のために複数でと同行を申し出た者がいて、
「まだいたら俺が殺るーっ」
 元気に手を上げた者も最低一人。
 後程、一部破損していたものの荷物を回収し、すでに凍てついていた馬を埋めて来てくれた開拓者に対して、旅芸人一座はその一芸披露で礼としてくれた。