【初依頼】アヤカシ刈り
マスター名:龍河流
シナリオ形態: イベント
相棒
難易度: やや易
参加人数: 11人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/11/08 23:09



■オープニング本文

 それは、まもなく初雪が舞い落ちてくるだろうジルベリアの一地方。とある村の牧草地でのことだった。

「いてっ、いてててっ」
「やっぱり、ここの草だけおかしいぞ」

 村で羊を飼っている家の男性陣が集まって、牧草地の一角を棒で突付きまわっている。
 時折悲鳴が上がるのは、手に切り傷が出来るからだ。

「この辺では見た事がない草だし‥‥」
「やっぱりアヤカシじゃないのか」
「こんなにたくさんか?」

 事の起こりは、一月ほど前のこと。
 放牧していた羊が何頭か、足に切り傷をこしらえているのが見付かった。
 何で切ったのかと思うほど、すっぱりと鋭い切り口だったが、深い傷ではない。羊には軟膏を塗って、毎日様子を見ていたが、不思議と何日も同じことが続いた。
 それが一週間ばかり続いたけれど、その後は怪我をする羊もいなくなり、村の人々は安心したが‥‥段々と不自然なことに気付いてきた。

 牧草地の一角に、見たこともない草が繁茂している。
 そこには羊が近付かない。
 見たこともない草は、冬が近い今の時期になっても青々としすぎている。

 羊が怪我をしたのはこの一角だったと覚えているものがいて、何か変な生き物が住んでいるのではないかと皆で確かめに来たら‥‥
 なんと、そこの草は、動くものが近付くと葉で切りつけてくるようなのだ。
 そうして村人達は、そんなアヤカシがいると耳にしたことがあった。

「こんなのがどっから来たんだ?」
「アヤカシってのは、どこからともなく湧いてくるらしいぞ」
「このくらいなら、俺達でも何とか出来るだろう。とにかく刈ろう」
「でも、どこまで広がっているのか、どうやって確かめる?」

 問題の場所から離れて、草に聞かれるのを畏れるようにひそひそと相談していた一同は、安全かつ確実な対策を取ることにした。
 幾ら動かず、農具で退治出来そうなアヤカシでも、数があまりに多いのならば、開拓者ギルドに依頼するのが一番だ。


■参加者一覧
/ 皇 那由多(ia9742) / フェンリエッタ(ib0018) / モハメド・アルハムディ(ib1210) / 手塚 元希(ib4301) / S・ユーティライネン(ib4344) / ぼんた(ib4555) / マルカ・アルフォレスタ(ib4596) / 天城 空牙(ib5166) / 月雷 失姫(ib5171) / 悪人(ib5224) / 風火(ib5258


■リプレイ本文

 牧草地に紛れた植物擬態のアヤカシを退治というか刈る依頼には、十人の開拓者がやってきた。中には他の儀で似たアヤカシが大変な騒ぎを起こした依頼に関わっている者もいたけれど、ここでは依頼した人々もまだのんびりとしている。
「ほら、見るからに色が違うだろう?」
 案内してくれた若者が指したあたりは、確かに枯れた牧草とは色がまったく違う。区別が付けやすいことこの上ない。
「分かりやすくて何よりですが、あの量では安心していられませんわね」
「怪我しないうちに刈り取らねば」
 ただし、マルカ・アルフォレスタ(ib4596)が頬に手を添えて呟いた通りに、その面積がやたらと広いのが問題だ。傍らでは、まったくだと手塚 元希(ib4301)が頷いている。
「あんなアヤカシもいるのか?」
「動かないものは珍しいですね」
 一見すればただの草なので、初依頼の月雷 失姫(ib5171)は首を傾げているが、大分経験を積んでいる先輩のフェンリエッタ(ib0018)でも観察に余念がないのだから、油断は大敵。
「後で他にいないか、確かめないといけませんネ。ミー、途中から調べに行っていいデスか?」
「単独行動は避けたほうがいいので、ご一緒しましょう。人魂の符も使って、怪しい場所があればそこに向かうのはどうです?」
 すでに周囲に目を走らせているぼんた(ib4555)には、皇 那由多(ia9742)がおっとりと声を掛けている。実際に途中で抜けるかは、アヤカシ刈りの進行具合だろうか。
「どうせ一日二日は掛かるだろ。野宿するのに困らない程度に、早く始めようぜ」
「今の時期に野宿は避けたいものです。風もありますし、体調を崩しかねませんよ」
 いい風なのに細かいことに拘るなと顔に書いてあるような天城 空牙(ib5166)と、弓術師の心構えで風向きを気にするS・ユーティライネン(ib4344)とはあまり意見が合わないが、午前中から夜のことでもめる必要もない。だが厚着はしておくに越したことはないと、フェンリエッタが借り出してきた上着や手袋を必要に応じて、皆で着けていく。
「さて。せいぜい頑張るとしましょうか」
「ナァム、はい、気を抜かずに参りましょう。今まで動かなかっただけかもしれません」
 悪人(ib5224)があまり緊張した様子も見せずにもふらの面を付け直すのと対照的に、モハメド・アルハムディ(ib1210)は念入りにリュートの弦を確かめていた。モハメドは植物型のアヤカシが大惨事を引き起こした様子を目撃していて、移動中にも話していたが、なかなか全員がその緊張を共有するにはいたらない。
 そのくらいに、目の前の光景はのんびりとしていて、皆の攻撃を阻害するものも見当たらなかった。アヤカシが一面に広がっている場所を見ると、流石に徒事ではないと実感するのだが。

 五十メートル四方に密集しているアヤカシ。これが動いて攻撃してくるものなら、余程の実力がなければ少数で退治に向かうのは無茶があるが、幸いにして動かない。
「アヤカシ退治が、こんなにジミ〜とは、ミーは思わなかったネ!」
 だから、ぼんたが鎖分銅を投げては引き寄せ、投げては引き寄せするやや単調な行動を嘆くのも致し方ないだろう。間合いが長い武器のおかげで、相手の攻撃が当たることを心配しなくてもよいのもある。
 更に皇が手配してくれ、依頼人達から提供された板を盾代わりに足元に立てておけば、攻撃されても一撃で行動不能になるような傷の心配もない。手間が掛かるのは、ある程度アヤカシを退治して、問題の区画の内部に踏み込む際に板を移動させることくらいだろう。
 ぼんたの手から、鎖分銅が投げられて、アヤカシに刺さる。一撃で消えることもあれば、二度三度と攻撃が必要なこともあるが、言うことやその口調の割に彼は生真面目だった。口ではあれこれと言いつつ、視線は忙しくアヤカシと自分の間合いを計って、鎖分銅を投げやすい立ち位置に細かく動いている。
 加えて、ぼんたは自分の後方で符を操る皇の視界を妨げないようにも気を配っていた。
「この区画の牧草は、アヤカシに駆逐されてしまったようですね」
 斬撃符で、鎖分銅の一撃では消滅しない丈が高いアヤカシを中心に狙っている皇も、ぼんたの攻撃の邪魔にならない位置を取りつつ、アヤカシが瘴気に還った後の地面を観察している。土の色が他と変わるといった不審なところはないが、やはり牧草はアヤカシに呑み込まれて影も形もない。来年以降、放牧に困らないだけの地力が回復するか、いささか心配だ。
「オー、そういう心配も、開拓者の仕事?」
「依頼されていなければ違いますけれど、アヤカシの行動や退治後の対策が分かっていれば、何かと重宝することはありますから」
 実際はかなりの部分『羊さんが可哀想』で占められていたが、皇も万人の共感を呼ぶには難しい理由はとりあえず伏せておく。開拓者をするなら、アヤカシに詳しいのは有利でもあるし。
 なるほどと納得した様子のぼんたは、また地道な作業に集中し始めた。皇も斬撃符を向けるアヤカシを選ぶため、視線を巡らせる。
 一体ずつ相手にする彼らの攻撃方法は、非常に地道で遅々としているが反撃も少なく、確実に進んでいる。

 対照的にざくざくと、実際に牧草でも刈っているかのような動きはマルカだった。手にした長巻「焔」を振るって、一度に数体のアヤカシを薙ぎ払っている。近距離でしっかり踏み込めばもっと大量に刈れるが、当然攻撃も受けてしまうから、怪我をしない間合いでの攻撃を心掛けている。すぐ傍らでは手塚が彼女の狩り残したアヤカシを、一体ずつ斬撃符で瘴気に還していた。
「怪我をしてはいけないので、疲れが出ないうちに休んでください」
「まだしばらくは頑張れますわ。でも退治しそびれたものがあればお願いします」
 アヤカシを確実に刈るには、低い姿勢を取り続けることになる。いかに開拓者でも、大きな武具で腰を屈めて移動しながら、長時間活動するのはあちこちの関節に無理が来るから、手塚は先程から心配そうだ。マルカはまだまだ平気そうだが、そのうちに休憩を言い出すかもしれない。
 マルカにしたら、思いのほか手応えがないと言うか、ごく普通に攻撃すれば滅せる相手で攻撃がしやすいのだ。武器を振るう都合上、盾代わりの板は使えないが、今のところは間合いも十分に取れている。手塚が心配するほどの苦労はしていない。
 とはいえ、不自然な姿勢で集中出来る時間は限られるから、適宜手を止める事はある。少し体を解す合い間に、仲間の進行具合を見て、次はどのあたりのアヤカシを退治するのかも検討だ。
「五十メートルって、結構ありますわね」
「それはそうですよ。周辺からきちんと退治していかないと、取りこぼしに後ろから攻撃されるかもしれませんし」
 よくよく注意してみているけれど、一人で先に行ってはいけませんとか、マルカのじいややばあや並みに心配性なことを手塚が言う。他の者は二人がどういう知り合いなのだかよく知らないが、すでに心配する人される人の関係らしいとは思っていた。なにしろ手塚が甲斐甲斐しく世話を焼いているし、元々貴族令嬢のマルカは慣れた様子で奉仕されている。
 よってこの二人の作業は、適性云々の前にマルカ中心で廻っていたが、それで何の問題も起きてはいなかった。

 アヤカシ退治そのものは、方法に違いはあれど、大抵は大きな問題もなく進んでいた。だが、その中で悪人はいささか仏頂面だ。
「別に陰陽の術が使えないわけじゃないのだが」
 今回の一行の中で図抜けて大きい二人のうちの片方がその表情でちょっとむっとした口調だとなかなかの迫力だが、周囲はまるで動じていない。
「そんな暗くなるなよ、困ってないだろ」
 事前準備の漏れや何かで、依頼先で技能が使えないことは時折あるが、現在の悪人がその状態なのである。失姫は『そんなにいい体格なんだから』とさばさばしているが、人には適性というものがある。仕方なくフェンリエッタに薙刀を借りた悪人は、さぞかし不本意なことであろう。薙刀を構える姿がなかなか似合っていることは、当人には関係がない。
「どういう状況でも、きちんと仕事をするのが大事ですから地道に‥‥でも、そろそろ一度休憩しますか?」
 自分は草刈り鎌よろしく死神の鎌を慎重に使っていたフェンリエッタが、考え方や性格、ついでに技能の違いでどうにも平行線の悪人と失姫の会話にやんわりと割って入った。どちらもまだ平気と言うので、無理には勧めずに彼女も鎌を握り直している。
 フェンリエッタと悪人が長い得物でアヤカシを刈り、その刃からたまにするりと逃れたのを失姫が疾風脚で間を置かず退治に行く。こちらも近くで動く三人の位置がよく入れ替わるので盾代わりの板は使えないが、事前に攻撃されそうな箇所にはなめし皮や布を巻いたり、手袋をしたりと用心していたので、ほとんど怪我はない。どうしてもアヤカシに近付く失姫が何度か衝撃波を食らったが、当人はかすり傷だと平然としていた。実際、ほとんど血も出ていないし、動きも変わらない。
 だが、空気が冷たい中で激しく動いていると、
「なあ、喉渇いたよ。なんか飲もうぜ」
 誰より先に喉をやられてきたようで、突然にこう言い出した。ここまでの道では疲れたもおなかすいたも訊かれるまで口にしなかったが、我慢して疲れてしまうと依頼に差し障るから無理しないとフェンリエッタに繰り返されて、遠慮なく言うようになっている。見掛けより重労働の草刈り染みた行動に体が強張っていたか、悪人も異論はないようだ。
 出来れば暖かいものでも飲めればいいが、自分達だけとはいかない。だが広い区域に散っている仲間を呼び集めるのも時間が掛かるから、本格的な休憩は次の機会として、フェンリエッタは毛布に包んでおいた水筒を二人に回している。熱くした飲み物を入れておいたが、流石にもう冷たくはないという程度。冷え切ったものを口にするよりましだが、次は熱いものを飲まないと体が冷えてしまう。
「まだぐるりと回らないと集合出来ないから、不便ですねぇ」
「それなら、真ん中に道を通すか‥‥幅は三メートルは必要だな」
 今は外側からアヤカシを削っているところなので、フェンリエッタが周囲を見渡して溜息をついたように、アヤカシがいないところをぐるりと巡らなくては集まることもままならない。アヤカシの只中を突っ切れば別だが、それはあまりに無謀だ。
 しかし皆で休憩するにも集まるのに時間が掛かるのでは、進行具合を確かめ合うにも不便だし、ここは一つ、悪人が言うように互いに行き来しやすいように退治場所を選んでいくべきかもしれなかった。
 じゃあとばかりに、失姫が先陣を切ろうとしたので、まずはそれを押し留めるところから新たな作業は始まった。

 アヤカシが動かない上に、攻撃範囲に制限があるのなら、それは遠距離攻撃に徹底すればずっと攻撃し放題だ。個人の技能や性格、得物などの適性で差はあるが、それをさておけばユーティライネンの考えは間違っていない。彼は弓術師だから、攻撃方法は当然遠距離だし。
「さーて、お仕事お仕事、張り切って再開だ!」
 ところが、そんなユーティライネンの前には、休憩して元気を回復した天城が大きな体でうろちょろしている。うろちょろはユーティライネンの主観で、天城は元気いっぱいに最前線で活動中しているだけだ。こちらは志士で、太刀を振るっているので前に出るのも当然。ついでに後方にいるユーティライネンやモハメドに被害が及ばないようにと考えているから、衝撃波を食らっても余程でなければ引かない。流石に一度は手の甲を切って、止血にとモハメドに引き摺られていたが、後は右に左に動くので、ユーティライネンは実のところ少々やりにくかった。
 このあたりは単純に双方の性格のなせる業で、我が道を逸れずに行きたいユーティライネンと突っ走る天城は少々噛み合わないらしい。今のところは合い間にモハメドが入っていて、あまり天城が突出したら止めているので、矢の射線に飛び込んでしまったなんて事にはなっていないが、手前からきっちりアヤカシを退治していくとの方針を実行していると双方の攻撃対象がたまにぶつかるのだ。天城も後ろの様子など気にしないので、どっちもどっち。やる気十分なのは一緒で、日が暮れないうちにと思うと気が急くのだろう。
「全員で行動は効率的ではありませんが、組み合わせは前衛、後衛できっぱり分けても良かったのでは」
「アーヒ、ああ成る程。ラーキン、ですが前衛と後衛が一緒に行動するのも、互いの方法を知るのにいいものですよ」
 そういうものかと納得したかどうか、ユーティライネンは狙う先をしばらく考えて、それからアヤカシの区画の真ん中近くに射る場所を変更した。
「なんだぁ? あ、向こうが頑張ってるのか」
「分断する心積もりでしょう」
 矢羽の音が急に方向を変えたので、アヤカシから視線を移動させた天城が、向かい側から大きく道を拓くように鎌や薙刀を振るっている仲間の姿を見付けて、一つ頷いた。彼我の間で特に大きなアヤカシをユーティライネンが射ているので、そこまで目掛けてやろうと、元気に太刀を握り直していた。
「ヤー、皆さん、支援の呪歌を送りますから」
 吟遊詩人のモハメドはリュートを構えたが、前後の少年達から危ないから右だ左だと移動を言われて、苦笑している。

 一日目の夕方。
「ここまでは他にアヤカシは見付かりませんでしたが、ここから集落までも一巡りして確かめたほうが安心ですね」
「あっちの丘の上なら、俺が行ってもいい」
 近くの集落で依頼人達に指定区域のアヤカシは退治したのを報告して、すっかりと日が暮れて寒くなった中、空き家を借りてアヤカシの再確認方法を示していた皇は、失姫が手まで上げて言い出したので、板に書き付けた地図の丘に彼女の名前を書きつけた。
「俺、どこでも平気」
「私も場所には拘りません」
 大きな体をごろりと横にして、すっかりと寛いでいる天城は場所に拘らず、悪人もこれまた気にしない。多少の起伏がある以外は草原だから、どこでも特別変わりはないのだ。
「ここの人達が後で困らないように見回るとしたら、半日は掛かりますね」
 ユーティライネンはどう巡ると漏れなく、手早く仕事を出来るかと悩んでいる。ぼんたは割り振りより、笛をちゃんと全員が持てと注意を促していた。
「単独行動は避けないと危険ですから‥‥一人で行ったら、また怪我しますよ」
 手塚は転がっている天城の足首に治療符を使ってやっている。大きな怪我ではないが、明日歩き回るのなら、体調も万全の方が良いに決まっている。
 皆でおおまかに計画をまとめたのを見計らったように、フェンリエッタとモハメドが香辛料を効かせた料理を出してきた。香辛料はモハメドが持参していたが他の材料を用意してこなかったので、集落で譲ってもらったものだ。
「さ、明日は冷えそうですから、しっかり食べて備えてくださいね」
「後でお茶も淹れましょう」
 フェンリエッタがジルベリア料理に馴染みのない者に色々教えている。モハメドの料理は彼の氏族独特で、ジルベリアでも馴染みが薄いから興味がある者は調理方法も知りたがっていた。食べたいだけの人が多かったけれど。
「パンプキンパイがありますけれど‥‥明日、仕事が終わってからいただきましょうか」
 結構な料理が並んだので、マルカは持参のパイを出すのは止している。明日の楽しみが残っていたほうが、やはりやりがいもあるだろう。
 翌日の昼過ぎ。
「フィニーッシュ!」
 ぼんたが高らかに叫んだ時には、もう吐く息が白くなっていた。