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■オープニング本文 ジルベリア帝国の帝都ジェレゾの下町に分類される地域の、ある集合住宅で。 「クラーラ、おいこら、いるのは分かってるんだぞ!」 「とっととここを開けろ! 聞こえないのか!」 家賃が最も安い屋根裏部屋の扉を叩く男が二人いた。 どちらも厳つい顔付きで、大変な剣幕で部屋の住人を呼んでいる。 「またあいつらだよ、この間も来てたじゃないか」 「隣の旦那がうるさいって言ったら、怒鳴り返されてさ。おっかないねぇ」 「クラーラも、仕事の給金が入るたんびにこんな騒ぎじゃねぇ‥‥困ったもんだ」 屋根裏部屋に通じる狭い階段の下では、集合住宅三階の住人達がひそひそと噂話に花を咲かせている。 「クラーラ、居留守使ってんじゃねぇぞ!」 とうとう一人が扉の取っ手を掴んで揺さぶり始め、簡素な屋根裏部屋の扉が外れようかという勢いだ。 「あぁ、また大家さんに怒られるよ」 「大家さんは何してるんだろうねぇ」 住人達は、早く家主が来てくれないかと、階段下から様子を見ながら、やはりひそひそと囁きあっている。 問題の屋根裏部屋に住んでいるのは、クラーラという名前の看板画家の女性だ。先月二十一になったという一人住まい、恋人なし、仕事の腕は優秀な、まあまあ美人。おそらく綺麗に化粧して、いい服を着れば美女に化けるはずだが、当人は自分の顔を綺麗に塗ることに興味はなく、いつも着古した服を着て、滅多に外出もせずに仕事をしている。 彼女は看板画家を名乗ってはいるが、風景画も人物画も、なにより細かいものを描くのが上手だったから、結構色々な絵の依頼がやってくる。それを真面目にこなして、結構な給金を貰っているはずなので、本来は屋根裏部屋に住む必要などないのだが、 『絵を描くのには、広い部屋がいいし〜』 と言って、たまに外出するのは絵画の工房の親方のところと、建物一階の食堂だけという生活を続けている。 そうして、彼女に給金が入ると、今まさに部屋の扉を壊して入り込もうとしているおっさん達がクラーラの名前を叫んで、扉を叩きまくる光景が繰り広げられるのだった。 「クラーラ、お前、給金いらねぇのか!」 作業中は寝食忘れて自室に引きこもり、絵が完成すると扉の外に出して取りに来て貰うという、どこの大御所のつもりだ生活を送っている弟子をどやしつける親方の声が、いよいよ喉も裂けそうな音量になった時、三階に昇ってきた人がいる。 「親方、扉壊す前にうちに寄ってくれって、いつも言ってるでしょうが」 「ルスラン、お前が留守だから悪い」 「へえへえ。鍵開けますから、ちょっと退いてくださいよ」 大家の青年が登場して、合鍵で扉を開け、内側の閂はクラーラの兄弟子が薄い剃刀を使って外して、ようやく親方が部屋に突入し。 「だからお前は、工房で仕事しろって言うんだよ!」 「あ〜〜れ〜〜〜」 か細い悲鳴を上げるクラーラを担いで、一階の食堂に向かっていった。 「相変わらず、女の部屋とは思えない」 大家の青年は、嵐が去った後の部屋の惨状に、いつもの台詞を呟いて‥‥やはり食堂に下りていく。 しばらく後、麦粥の器に顔を突っ込みかけつつ、クラーラはすやすやと眠っていた。 親方衆と大家とは、放置しておくとこのまま食堂で熟睡しかねないクラーラをどちらが部屋まで担ぎ上げるかでもめている。 ちなみに、起こして一人で帰らせようとすると、階段の踊り場で疲れ果てて座り込み、そのまま寝てしまう上に、 「あの部屋、真剣になんとかしないと、この冬に凍死しますよ。親方が面倒みてください」 「部屋のことは大家の仕事じゃねえのか」 「あんたの弟子だってばよ」 「お前の店子なんだよ」 部屋まで戻ったところで、寝台の上には服が積みあがっているし、使い方のよく分からないよその国の家具が乱雑に放置されているし、床には仕事道具が散乱しているし、クラーラは部屋の隅に座り込んで動かなくなることが分かりきっているしで、放置するのが怖い女なのである。 結局集合住宅の住人達も集まって喧々囂々やった挙げ句に、開拓者ギルドに頼んでしまうことになったらしい。 |
■参加者一覧
ラヴィ・ダリエ(ia9738)
15歳・女・巫
リディエール(ib0241)
19歳・女・魔
明王院 未楡(ib0349)
34歳・女・サ
ティア・ユスティース(ib0353)
18歳・女・吟
白 桜香(ib0392)
16歳・女・巫
天霧 那流(ib0755)
20歳・女・志
モハメド・アルハムディ(ib1210)
18歳・男・吟
朱鳳院 龍影(ib3148)
25歳・女・弓
レジーナ・シュタイネル(ib3707)
19歳・女・泰 |
■リプレイ本文 看板描きの女性の部屋を綺麗さっぱりと片付ける依頼。わざわざ開拓者に頼むものかはさておき、これを受けたのは女性八名、男性一名の合計九名だった。これに部屋の主クラーラの師匠と兄弟子二人、それから部屋の大家の男性と、クラーラも忘れずに加えると十四名の大所帯だ。 これはちょっと多いのではないかと思っていた者もいたけれど。 「あらあら、物凄い状況ねぇ」 天霧 那流(ib0755)の呆れ半分の感嘆は、レジーナ・シュタイネル(ib3707)には豪胆な台詞に聞こえた。 「なるほど‥‥こうならないようにということですね」 なにやら昔を懐かしむ表情になっているのは、ティア・ユスティース(ib0353)。何か想起するものがあるのか、妙な安堵を浮かべている。その傍らでは明王院 未楡(ib0349)が額に手をやって、深ぁい溜息をつき、リディエール(ib0241)がたすきを握り締めている。 「クラーラさまったら収集上手さんですのね?」 呑気に構えているのはラヴィ(ia9738)。先ほどまで、室内を見渡してはモハメド・アルハムディ(ib1210)と『あれが、これが』と散らかった品物の出所を見極めていたが、ものの見事に国内外の家具と服と布が取り揃っているのを見て取ったらしい。 ただし、散らかり放題の状況を『収集上手』と言っていいものかは、人によって迷うところだろう。それ以前に、 「どこから手を付けたら?」 非常にもっともな、白 桜香(ib0392)が提示した疑問が存在する。足の踏み場もない状況が、今まさに目の前に広がっているのだから。 「掃除じゃろう、掃除」 あっさり断言した朱鳳院 龍影(ib3148)の言い分が事実だが、掃除をするにもどこから手をつけるかが大問題。そういう散らかり方だが‥‥とりあえず、寝台の横で大量の洗濯物らしい衣類に埋もれてじたばたしているクラーラの救出が最初だろうか。 依頼されたのは、部屋の掃除に整理整頓、衣類の洗濯だが、埃っぽく、散らかり放題の部屋で最初にすべきことはもちろん掃除だ。全員がそう思っていたけれど、これまた予想外のことが一つ。 「使えるところは、後でぬいぐるみにでもして差し上げますから」 「あ、あの‥‥はさみ、出てきましたよ」 「これがお気に入りって、全部穴が開いてるじゃないの」 モハメド始め男性陣にはお湯の手配と運搬を頼んで、一旦退室してもらい、肘は抜け、膝があたる部分は擦り切れているといった服でうろうろしていたクラーラを着替えさせるところから始まったのだ。ラヴィと那流が宥めすかし、幾らでも出てきそうな新品の服の中から、普段着を選んで着せている。 「雑巾が、これで足りるといいのですけれど」 「家からも持ってはきましたけど、ここまでとはねぇ」 その間にはレジーナが画材周りから発掘した鋏で、リディエールと未楡がぼろ服をどんどん裁断している。部屋の埃の溜まり具合からして、ぼろ服を転用した雑巾が真っ黒になるのは間違いない。継ぎ当てを考えないのは顔料で汚れているのと、全体に布がくたびれているからだ。他に山ほど服があるのだから、クラーラにはそれを着せればよい。 この隙に、ティアと桜香が部屋中の服を掻き集め、龍影が反物や布地を巻いたものをまとめて、部屋の外に出す準備をしていた。重い家具以外は一度全部外に出して、空気を入れ替えつつ、天井から床まで全部掃除したいのだ。 「いちいちこの細い階段を上り下りも大変だし、籠で上げ下げする?」 「たいした重さでなし、下で受け止めてやれるのじゃ。中を零さぬように降ろしてくれれば大丈夫じゃろう」 物の多さに辟易していた那流の提案は、龍影が身長と腕力を活かして時間短縮をしてくれることになった。階下に降ろせば、後はリディエールやティア、桜香、レジーナで十分に運んでいける。画材はそろそろ親方がまとめに来てくれるはず。 「行李を開けさせていただきますね〜‥‥この四角いものはなんでしょう?」 「あら、それ石鹸ですわね。こんなにいっぱい、クラーラさんが買われたものですか?」 「お兄ちゃんが、あ、兄がくれたか、母が帰郷した時に買った?」 降ろす前に、せめてあるものを確かめてと、中身不明の木箱を覗いていたリディエールが掌に乗る灰色の四角い物体を見付け出していた。ティアがジルベリア産の石鹸だと当てたが、持ち主はその出所の記憶が不鮮明らしい。まあ、身内がくれたか買ったものならば、遠慮なくこの状況を打破するのに使わせてもらえる。 「ヤー、それは上質な石鹸ですね。アーヒ、ああ、こちらが洗濯向きですよ」 ごろごろ色々な石鹸が出てきて、『こんなあるのに使わないなんて』と一部の女性陣が頭痛を覚えた頃、まずは雑巾を湿らせる分のお湯を持ってきたモハメドが、石鹸を用途別に仕分けてくれた。他にも未使用日用雑貨が出てきたので、洗濯石鹸以外はひとまとめにして箱に仕舞い直し、階下に。 衣類も空で放置されていた行李や借りた籠に詰め込んで室外に。画材も親方、兄弟子が箱詰めして運び出し、それから‥‥ 「家具も動かしたいところですが、置き場の床を磨いてからでないと黴が生えます」 「寝台は端に寄せたほうが寝やすいと思いますよ」 あれこれやっているうちに、部屋の汚れ具合に我慢の限界が来た様子の未楡が掃除を取り仕切り、桜香が部屋の模様替えの許可を取り付けて、ようやく本格的に掃除と洗濯が開始となった。 掃除の場合、特別なことはない。天儀人が多いから、未楡が持ってきた茶殻を湿らせて床に撒き、持込の箒やはたきがちょっとジルベリアの物と造りが違うが、やることは同じ。 窓を開け、風を入れながら、とにかく埃を集めて、袋に入れる。梁まで磨くのは無理だが、とにかく埃を落として、手が届く範囲は水拭きを。 「端の方は辛いのう。悪いが、誰ぞやってくれんか」 「はーい。任せてください」 ありがたいことに、一番高いところも普通の踏み台だけで龍影がはたきを掛けられるので、埃落としは快調だ。彼女の背丈では低すぎるところは、レジーナがこまごまと動いている。床をひたすらに掃いているのは未楡だ。 この三人に限ったことではないが、全員が前掛け、ほっかむりに口まで布で覆って作業中。人によっては眼鏡付き。龍影はせっかくのエプロンドレスだけで済まなかったのが、ちょっと残念そうだ。ジルベリアでは掃除の時にはこの服だと聞いたと張り切っているが、それは偏った知識だと今のところ誰も教えていない。そんな暇などなかった。 「この壁の汚れを落としたら、家具を動かしましょうか」 未楡が荒縄をまとめたものでごしごし汚れを落としつつ、反故紙に描かれた家具の配置予定図をひたすらに雑巾を洗うぬるま湯を運び上げ、雑巾を洗っていた兄弟子達に示した。皆で考えた結果、扉に近いほうが仕事場、奥に寝台を配置して生活の場と分けることになっている。合間は衝立と家具でうまく区切って、可能なら天窓にカーテンをつけたり、部屋の壁や天井に飾りと防寒を兼ねて、すぐに使う予定がない布地を張ったらどうかとか、色々と案が出ていた。 それを実行するまでが大変なのだが、兄弟子達と龍影とで家具を動かしてからははかどる。後は真ん中を掃いて、拭いて、磨くだけで先は見えたと、龍影とレジーナは思っていた。 未楡が糠を出して、『家具も磨かなきゃ』と言い出すまでは。 「もしや、これで床も磨くのか?」 「天儀の、お掃除って‥‥大変です」 「普段からちゃんとしていれば、こんなに苦労はしません」 未楡はきっぱりしていたが、苦労するのはこの場にいない人のせいだ。 建物の外では、ティアとモハメドが運び出した寝具や布類を広げるのに苦労していた。全体に湿気っぽいので、からりと干してから片付けたいところだ。 「子供の頃、習う事が多くて嫌だと思ったこともありましたけれど‥‥こんな風に役立つとは予想もしませんでしたわ」 手際よく敷布と掛け布を分け、薄いものは洗濯することにして、厚い敷布は日当たりがいいところに運んでいるティアは、子供の頃の厳しい躾を思い起こしていたらしい。その時には、まさか自分が将来他人の部屋の大掃除を請け負うことになるとは考えてもいなかったろう。 モハメドは一階の食堂から借りた木箱を積んで、厚地の絨毯を乗せて広げている。梱包されたままに放置されていたこれも、床に敷けばさぞかし暖かいだろうと思わせる。 「ヤッラー、やれやれ、品物を見る目はある一族のようですが」 いい物が置きっぱなしで活用されないとは残念なと、どちらもそれなりに見る目があるモハメドとティアの感想だ。更にまったく片付ける能力がなくて、自分の部屋のどこに何があるのかさえよく分からなくなっていたクラーラの、残念すぎる生活にも溜息が出る。 二人がせっせと干している布地の中には、包んだ外布に『外出着を仕立てなさい』といった家族からクラーラへの書付もある。だが着たきり雀だったクラーラは、袖を通していない服もいっぱいで、仕立て屋に持ち込まれる日は遠そうだ。『こんなのもありましたねぇ』とお抜かしあそばした彼女のために、モハメドは出てきたものを一つずつ書きとめている。 部屋の品物で、画材は保管方法や仕分け方が素人では分かりにくいから、親方がまとめて引き受けてくれた。それ以外の散らかっていたものも、ある程度仕分けてから降ろしてきたはずだが、行李や箱を開いて見ると、服と化粧品と筆記用具が混在していたりと、やはりしっちゃかめっちゃかだ。 中にはどう見てもクラーラが使わないものもあるが、他人の持ち物を勝手に処分するのは駄目との意見と、当人納得の上で整理しないとまたすぐ散らかるから、リディエールと那流が、服をはじめ、あれこれとクラーラに手伝わせて品物を整理していた。 「こういう板は、絵を描く道具ですね?親方さんにお渡ししますよ?」 箱や行李を一つずつ開けて、中身を確かめつつ、埃を払う。それをしながら、すぐ『疲れた』と繰り返すクラーラを宥めすかして、中の物を一つずつリディエールが示していた。最初は当人にも手伝わせていたが、あっという間にへたばったので、とにかく要不要の別を言えと那流が厳命したのだ。 その那流は、山為す衣類の中からクラーラのものではない物を選んでいた。洗濯に廻っているものも多いが、棚や行李の中で眠っていた衣類の中にはクラーラの身丈に合わないものもある。 「それは両親の」 「古着屋に回す物はあんまりないのねぇ。でも、今度から服を送ってもらうのはお止めなさいよ」 普段は他の儀や遠方で商売している親兄弟が泊まりに来た時に使う部屋着の類は干してしまうことにして、季節毎に送られてくるらしい服は別のものにしろと那流が肩を落としていた。着ない、片付かないではあまりに勿体無い。更にクラーラの生活を維持するのには、これ以上の品物はどう見ても不要だ。 すぐ使う冬物は棚にしまうことにして、夏物と家族の服は行李に入れて、リディエールが中身を書いた札を付けていた。那流は作業用の上っ張りを作るための布を物色している。 山為していた衣類の半分強は洗濯を要したが、最初のうちに洗濯に従事していた開拓者は桜香とラヴィの二人だけだった。お湯は一階食堂がどんどん沸かしてくれるし、洗濯場も物干し場も十分開いている。 「これは肘に布を当てて、作業用の上着にしたらいいですね。洗うと縮みますし」 「継ぎ当ては、さっき破けたスカートの布が良さそうですよ。あ、そろそろお昼のことも考えないと」 「それはうちの店で用意するよ」 そして、発掘された石鹸でせっせと洗濯に勤しむ彼女達の周りには、なぜだか同じ建物のおばさん達が洗濯を手伝ってくれていた。クラーラを心配して出てきたらしい。 おかげでラヴィと桜香は大きなものを中心に、普通の衣類はおばさん達が洗うように手分けして、途中からは日当たりがいい場所にラヴィがどんどんと干していく。見た目は小柄でも、開拓者で主婦。えいやと毛布を一度で広げて干したりするのはお手の物だ。 桜香は嘆かわしいといった顔で、天儀の反物を使った服を洗い張りしている。綺麗になっていくのは気持ちがいいが、時々哀れな使われようの衣類が出てくるのは切ないことだ。 だが幸いにして天気がよく、薄手のものは乾きも早い。厚手のものは二人で両端を持ってぎゅうぎゅう絞って、日当たりが一番いいところに干しておく。 洗い終えたら、今度は日干ししておいた服を畳む作業が待っている。 掃いて、拭いて、磨きまくった。 洗って、干して、畳んだ。 ある物を確かめて、仕分けて、一覧表を作った。 保管場所を決めて、しまったり、つるした後、家財全部に中身の札をつけた。 更に床には絨毯、壁には壁掛け、天窓にはカーテン、天井には防寒の布を配置した。 加えて、作業場の端にも、休憩用に余った寝具を長椅子風に置いた。 そして現在、クラーラに部屋の中の物の配置を教える人と、彼女の作業用上っ張りなどを作成する人とに分かれて、追い込みに入っていた。天窓は本業大工の大家が、邪魔だった家具を動かした後に歪みを直してくれたので換気はばっちり、後はカーテンを付けるだけだ。 あまりの室内の変わりように、クラーラがちゃんと生活できるのかと心配になるほどだったが、当人は寝台で眠れると喜んでいる。これを聞いての一番大きな溜息は針仕事中の未楡だが、くじけなかったのは那流で。 「せっかくだから、自分も綺麗にしなさい」 クラーラをめかしこませるべく、棚の一段に収められた化粧品や装飾品を引っ張り出していた。じたばたするクラーラは龍影が面白がって押さえている。 仕事熱心な針仕事要員達は、余り布でリボンも作ろうかと相談中。なまじラヴィも桜香もティアも未楡も腕に自信があるので、時間が許す限りは手を動かすつもりのようだ。 そして、まだ抵抗したいが体力が続かないクラーラには、レジーナが少しは外に出ましょうと勧めている。両親が天儀にいるのだから、一度は訪ねてみたらどうかと、ジルベリアとの違いを語っていたが。 「港から始めるのが良さそうですね」 たいして歩いてもいないのに足が痛いと訴えつつ、龍やもふらさまは見たい様子のクラーラにリディエールがまずは近場でと教えている。 それからしばらくして。 別人のようになったクラーラに女性陣は満足だったが、席を外してお茶の用意をしていたモハメドは女性の身なりをあからさまに誉める習慣がないのか軽く頷いただけ。一緒に上がってきた親方や兄弟子、大家は言葉も出ないほど驚いた後に、『いつもこうだったら』と、溜息をついた。 クラーラは港に行く時には、先に開拓者ギルドに寄ると言っているので、時間が合えば一緒に出掛けつつ、色々仕込むしかないだろうかと考えた者は‥‥彼らの言葉に心ならずも同意しているのだろう。 |