夫殺しの医者の逃避行
マスター名:龍河流
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: やや易
参加人数: 9人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/09/12 19:42



■オープニング本文

 その日、ジェレゾの開拓者ギルドにやってきたのは喪服姿の一団だった。
 中心に二十代半ばと思われる女性、もう一人二十歳前後の女性もいる。年配の男女三人ほどもいるが、こちらは揃いの服装だから使用人だろう。
 受付の職員が思わず注目したのは、喪服姿のせいもあるが、その五人が一様にさばさばとした表情だったからだ。近親者の逝去で喪服を身につける期間は、地方や氏族で色々だが、馴染みのない場所にも着て出かけるからには喪に服してそれほどではないはずなのに、あまり悲しそうではない。
 どころか、若い方の女性は依頼を掲示した掲示板に寄って行って、興味津々で覗き込んでいた。
「お姉様、お姉様、これ面白いですわよ」
「イーダ、少しおとなしくしていてちょうだい」
 二人の女性に外見での相似点はまったくないが、どうやら姉妹らしい。義理の姉妹かもなどと様子を眺めていた職員のところに、姉がこう声を掛けた。
「夫が亡くなって、今居る家を引き払うことになったの。転居の手伝いをしてくれる人を頼めるかしら?」
 まったく似ていないが同じ両親から生まれたという姉妹の姉はエカテリーナ、妹はアデライーダというそうだ。姉が二年前に結婚し、そこに妹も同居して暮らしていたのだが、姉の夫が先日亡くなったので家を夫の子供達に引き渡すことになったという。
「夫は私との結婚が三度目で、最初と二度目の夫人との間に、二人ずつ子供がいるの。私も結婚は三度目だったけれど、子供はいないわ」
 こういう家にありがちな事で、エカテリーナと亡夫の子供達の仲は良くない。子供達はエカテリーナを財産狙いと言うし、エカテリーナは長患いの老人の見舞いも来ない人に罵られてたまるかと強気である。
 よく聞くと、エカテリーナの夫は相当高齢で、どう聞いても子供達の方が彼女より年長だ。結婚した二年前にはすでに死病を患っていて、もう長くはないと言われていたのが二年永らえたので、十分天寿を全うしたと言えるだろう。
 ただ、話を聞いているうちにあれと思うのは、姉妹が二人とも医者で、エカテリーナは最初は偏屈な老人の我侭に付き合うのに辟易した他の医者の紹介で夫の主治医になったこと。主治医など雇うくらいだから、もちろん亡夫は相応の財産家だ。そして主治医から妻になって、現在遺言にある財産分与でもめている。
 それだけでも、どこかの劇場の下世話な笑劇のようだと思ったのに、
「財産分与に妹は無関係だし、私の取り分も二年の間に調えた衣類と装飾品と邸内で育てていた薬草類だけよ。それとは別に、毎月主治医の手当ては貰っていたし、看病の合間の気晴らしに多少の贅沢はさせてもらったけれどね。後は使用人達の引き受け先に心付けをしたり、辞める者に手当てを出したり、夫の指示でこまごました物を形見分けしたりしているところだけれど‥‥それを邪魔しに来るから、追い返して欲しいの」
「‥‥転居のお手伝い、ですよね?」
「夫の遺言を実行せずに、あの家を出るわけには行かないの。昼夜問わず、当人達やその命令を受けた連中が嫌がらせに来るから、追い払って」
 どうやら事態は、殺人事件が次々起きるような殺伐した推理劇染みているらしい。
 こういうのは転居の手伝いとは言わないと返してみたかったが、使用人達が縋るような目で見てくるので、護衛の一言を追加して、依頼は掲示されたのだった。


■参加者一覧
恵皇(ia0150
25歳・男・泰
美空(ia0225
13歳・女・砂
柚乃(ia0638
17歳・女・巫
大蔵南洋(ia1246
25歳・男・サ
水津(ia2177
17歳・女・ジ
斉藤晃(ia3071
40歳・男・サ
雲母(ia6295
20歳・女・陰
和奏(ia8807
17歳・男・志
メグレズ・ファウンテン(ia9696
25歳・女・サ


■リプレイ本文

 遺産相続でもめている依頼人の邸宅は、広くて立派なものだった。訪ねてきた開拓者を出迎えるのもお仕着せを着た使用人と、金満家振りが見て取れる。
 ただ、注意しなくても分かる程度に高齢者が多く、人手が少ない。これでは確かに力仕事も依頼に含まれるだろう。と納得したのは、男性陣、恵皇(ia0150)、斉藤晃(ia3071)、大蔵南洋(ia1246)、和奏(ia8807)の四人と、細かい作業よりは力仕事が性に合うと考えているメグレズ・ファウンテン(ia9696)だった。
 柚乃(ia0638)と水津(ia2177)は門をくぐったところで、早くも薬草園はどこかときょろきょろしているし、無闇と重装備の美空(ia0225)は門の閂を触っている。
「門番小屋があるとは、随分羽振りがいい家なのだね」
 ざっと門から見える範囲を一瞥した雲母(ia6295)が使用人に声を掛けると、亡くなった主が元気だった時には商用で毎日人が訪ねてきたものだと教えてくれた。今は来客もあまりないし、若い使用人もいないので空いていると聞いて、恵皇、斉藤、大蔵の三人がここを使おうと考えいる。
 とはいえ、幾つか打ち合わせや確認事項もあるので、まずは依頼人姉妹と面会となった。
「ほほぅ、なかなかの美女だなぁ」
 顔をあわせて開口一番に口を滑らせたのは恵皇で、色々小難しいことは考えていなさそうな和奏があっさり、
「そうですね」
 と頷いた。斉藤まで尻馬に乗ってというか、多分に性格なのだろう、あっけらかんと、
「うーん、一緒に飲んだらきっと楽しいのう」
 などと言い放っている。大蔵はそんな仲間に言うべき言葉が見付からないといった風情で、メグレズがやや表情を引き攣らせ、水津と柚乃はきょとんとしている。美空は兜を目深に被って、ちんまりと座ったままだ。
 それでも流石に、雲母の一瞥を向けられて、男性陣も軽口を噤みはした。一部の、眼福だと顔に書いてあるのは、どうにも直らないが。
 ちなみにエカテリーナは気にした様子もなく、アデライーダはうふふと照れ笑いをしている。
「いきなり失礼つかまつった。ところで仕事に掛かる前に、幾つか確かめさせていただきたいことがあるのだが、よいだろうか」
 大蔵が先の仲間の発言もあるので低姿勢に尋ねてみると、とことん気にした様子のないエカテリーナは、皆に椅子を勧めながら頷いた。
 それで大蔵が口火を切ったが、皆がまず確かめたのは、亡夫の子供とその伴侶達の名前や外見の特徴だ。間違えて弔問客を追い払ったりしては大変。ついでに近隣で狼藉を働く連中で、特徴が分かる者も聞いておく。
 それと、使用人への形見分けの一覧表もすぐ確認出来るようにしたい。これがちゃんと分からないと、話が混乱するからだ。
 これは大蔵の要求だったが、エカテリーナも了解して、形見分け一覧の覚え書きを出してきた。正式の遺言は亡夫の兄弟達が持っていて、エカテリーナが持っているのは写しだそうだ。彼女が勝手に書き換えたなどと言われないための用心らしい。
 そんなに仲が悪いのかと思ったり、金持ちの家にはよくある話と納得するかは人それぞれだが、とにかく子供達はエカテリーナを嫌っている。写しを見ると、形見分けの品物はささやかなものばかりで、残った邸宅や家財、土地に商売の様々な権益がちゃんと四人の子供に分配されるように指定されているのだが、生前にエカテリーナが色々持ち出したのではないかと疑っているとか。
 ついでにエカテリーナへの反感で手を組んでいる子供達だが、彼女が亡夫と結婚するまでは病気の父親の枕元で掴み合いの喧嘩をしたほど仲が悪い。
「お話し合いをするのは、難しいのでしょうか」
 美空が首を傾げて訊いてみると、エカテリーナは『まず無理』と即答した。関係者全員が揃うと、些細なことで衝突が発生するらしい。
 殺気立つとこじれるばかりなのにと美空は思っていたが、すでにこじれているものを解す方策はすぐには思い付かない。本人達を見て、糸口でも見付かればよいのだが。

 何はともあれ、転居が滞りなく済むようにせねばならない。荷物の整理は使用人がしてくれるとはいえ、転居で大切なのは荷物をどう運び出し、入れるかだ。和奏が双方の家の見取り図を作ったので、衣装櫃と医者の仕事用道具の入った箱とをこちらから運び出し、向こうで部屋に納める順番を決めれば良かった。
「荷物は布で包んだほうがいいでしょう。街中とはいえ、移動中は揺れますから」
 大振りの家具はないので、運び出すのもたいした手間はなさそうだが、メグレズが荷物に細かく目配りをしている。万が一に移動中に暴漢に絡まれでもしたら大変だとは言わずに済ませているが、それがなくとも貴重品が多かった。医者の道具や薬草の個々の価値などなどメグレズはよく知らないが、他の者の姿を見ていればある程度察しがつく。
「これはジルベリア産の薬草ですよね。何に効果があるんでしょう?」
「これはやりがいが‥‥やりがいがありすぎ‥‥うふふふふ」
 柚乃と水津が天儀物の薬箪笥にしがみ付く勢いで、中身を検めていたからだ。アデライーダが加わって、若い娘が三人、話に花を咲かせているにしては手に取っているものが乾燥した草や木の根。色気のいもないものの、医薬品の取り扱いは特に注意を要するだろう。三人とも、手袋をしているし。
「妹さんはあの二人に任せて大丈夫だろう。私は依頼人に付き添っておくが‥‥後は門番と力仕事でいいのか?」
「大丈夫であります」
 転居までの流れも決まり、分担も大体希望が出揃ったので、雲母が適当に仕切ったら、美空が元気に返事をした。力仕事は出来ないが、邸宅周りの警備なら大丈夫と言い張っている彼女は、装備の重さで時々転げそうだ。
 その美空と斉藤、和奏、大蔵、メグレズ、恵皇の六人は、おおまかに三交代で邸宅内外の警戒にあたることにしていた。二度ばかり、深夜に庭に松明を投げ込まれたので、警戒しておくに越したことはない。
「というわけだからな、放火犯はいかんぞ?」
 斉藤が水津に余計な一言を投げかけたが、幸いにして依頼人姉妹の耳には入らなかったようだ。肝心の水津に、柚乃も含めて薬草談議に集中していたので。
 そして、仕事を本格始動である。

 とは申せ、門番は来客がなければ仕事などない。最初にその役目になった大蔵は、金砕棒こそ持ってはいたが、のんびりとしていた。邸宅周りは、これまた重装備のメグレズが、先程一巡りしてきたところだ。
 はっきり言って、自分達はこの家の雰囲気にそぐわないなと二人とも思っていたのだが、
「性根が悪い女には、ろくな男がつかないわね」
 長女だろう女性が馬車でやってきて、開口一番そう言い放ったのには閉口した。メグレズは背を向けていたから、鎧で男性だと思われたらしい。
「こちらは転居作業に追われ十分なおもてなしも出来ませんので、お引き取り頂きたい」
 ゆらりと立ち上がった大蔵の、当人の性格とは無関係に悪く見える人相と遠慮のない態度に、長女はぎょっとしたらしい。流石に御者が出張ってきたが、こちらはメグレズが体格と態度で威圧している。
「夫人の転居は明後日ですので、その後にお子様方の遺言の執行をなさって欲しいとご伝言です」
 エカテリーナのことを大蔵が夫人と呼んだのに、長女は不満を露わにしていたが、二人掛かりの威圧には耐えられなかったらしい。結局、門をくぐることなく帰って行った。
 この二人が出会ったのは、長女だけ。
 夜間の見張りになった斉藤と和奏は、使用人のお仕着せで仕事に当たっていた。斉藤が何事も形からと執事服を着たがったのだが、この家の執事は小柄な老人でまったく体格が合わない。それで身の丈が合うお仕着せを借りているのだ。斉藤は全員にこの『形から』を徹底したかったようだが、付き合ってくれたのはあいにくと和奏だけ。
 ともかくも、どう見てもお仕着せが似合わない斉藤と、よく似合う和奏の二人は、交代で邸宅の周りを回ったりしていたが‥‥この晩にやってきてしまった狼藉者達は、斉藤の見回りにかち合った不幸を後で嘆いたことだろう。
「心配するなっ、医者はすぐ近くにおる」
「でも、こんな真夜中に自分達が起こしに行ったら、いけませんよね」
 この日は石でも投げ込むつもりだったか、随分大きな石まで抱えてきていた五人の男は、斉藤に誰何もされずに殴り飛ばされた。ものの見事に、ぼろぼろである。
 和奏は、深夜に女性の部屋を自分達が訪ねたら失礼だから、誰か女性に行ってもらおうと言ったつもりが、斉藤はそうは受け取らず、翌朝まで狼藉者は放置となった。
 厳密には、美空に雇い主のことを尋ねられたりしていたが、金が入ればなんでもするという連中なのが判明しただけだ。反省もなく、治療したエカテリーナに脅し文句を投げ付けたので、斉藤と和奏と大蔵が担いで官憲に突き出しに行っている。
「あの力で、打撲だけで済ませるなんて、たいしたものねぇ」
 エカテリーナは怪我の度合いが見た目ほどひどくなかったと感心していたが、単に全員一撃で吹っ飛んでしまったせいだとは気付いていない。
 その後は美空と恵皇とが門番や周辺の警戒をしていたが、狼藉者の襲撃はなく。
 代わりに、子供達が馬車を四台連ねて、一度に押し寄せてきた。長女の入れ知恵か、御者の他に体格が良い男性使用人も付き従っている。力尽くでも中に押し通ろうと、そういう目論見だったようだが。
「依頼主さんは転居の準備でお忙しいのですよ。だからとりあえず、美空がお話を聞くのではいかがでしょうか」
 奇態な格好はしているが、美空は一見子供。恵皇の前には使用人を押し出して門を無理やり通った子供達も、彼女を押し退けるのは躊躇した。で、応接間に入れられて、しばらく後。
「私の娘に、ろくでもない言葉を吹き込んでいるのは誰だい?」
 狼藉者や欲の皮が突っ張った子供達本人なら脅かすのも平気な恵皇も、命令だからと顔面蒼白で立ち塞がる人達を千切っては投げたり、膂力を見せ付けて脅かすのはちょっと気が引けた。それで子供達が美空に案内されて入るのを止めるには到らなかったが、エカテリーナの悪口を延々と並べられるのはあまりに聞き苦しい。割って入ろうとしたら、その前に執事から様子を聞いた雲母がやって来ていて‥‥
『あんな肝が冷えることは、しばらく遠慮したいね』
 と、後に恵皇は語った。
「まったく、金がないわけでもないのに、餓鬼のように遺産に群がるとは見苦しい」
 年齢が倍ほどはある人達を前に、堂々と、この上もなく偉そうに、正論を吐き、目付きは蔑みに満ち溢れ、威圧感は背後で様子を伺う使用人達を抑えている恵皇より冷たく染みとおるようだった雲母の気配に、押しかけてきた者達は恵皇以上に肝が冷えたらしい。雲母が顎で帰れと示したら、それは悔しそうだったが文句は言わずに帰って行った。
 そんな騒ぎが起こっている中、薬草園と姉妹の仕事部屋とでは。
「むっ、これは量が減ってますよ。補充はどちらでなさるので?」
「この薬湯の配合は、症状が同じなら男女同じでいいのですか?」
 荷物をまとめているのか、それとも漁っているのか分からない勢いで、水津と柚乃が薬箪笥や処方の書付をあちらからこちらにとやっている。患者の治療記録は姉妹が手ずからまとめているが、それ以外の治療法の本などは柚乃も水津も読みながら作業している。水津は写本したいと言い出しそうだったが、さすがに時間がないので読んでいる。いっそう時間がなくなるのだが、こればかりは止められない。
 それでも、四人で薬草類はきっちりと梱包を、薬草園から移植する植物は枯れないように処置して、箱詰めするものはしてから、いずれも勝手に開けられないように厳重に封をする。運んでいる最中に零れたら、物によっては大損害、または大被害が出るから、四人ともそこはしっかりと。
「トリカブトの根っこは、向こうに着いたらすぐに処理しないと〜」
 思い切り毒草の名前をアデライーダが口にしているが、処理次第では神経痛の軟膏になるので、水津も柚乃も気にしない。気になったのは、成分抽出の設備も置ける家に移るなんて羨ましいとか、そういうあたりだ。
 更に診療所と薬草を植える庭もあるようだし、ここの家もそうだったが、ぜひとも転居先にも可愛いもふらさまと一緒に訪ねてみたいと、柚乃は思っていたらしい。もしかすると、口にしていたかも。
 この四人は、幾ら広い邸宅とはいえ、同じ屋根の下で恵皇が十人近くのいささか哀れな男性陣を捌ききり、美空と雲母が亡夫の子供とその伴侶計八人の相手をして、途中からは官憲から戻ってきた斉藤、大蔵、和奏の三人も加わって、彼らをお見送りしたことなど、まるで気付いてもいなかった。一応邪魔が入ったら追い払うつもりは、柚乃も水津もあったのだが、興味があることに夢中。
 これは、子供達の態度から姉妹が面会しても状況が悪化すると踏んだメグレズが、薬草類を運び出すのに専念しながら騒ぎを遠ざけていたためもあるが‥‥執事さえ来訪を後で伝えるのだから、皆が同じ事を考えたのだろう。
「私の娘や妹は、聞き分けがいい子だといいのだがなあ」
 さしもの雲母も、嵐が過ぎ去った後にはこうぼやいたが、
「使い切ってしまえばいいのですわよ」
 アデライーダの言い分には、多くの仲間同様に苦笑だけ返していた。

 開拓者がばっちりと周辺を固めていると判明したからか、移動の際には何の問題も起きなかった。荷物は順序良く運び出され、転居先にきちんと運び込まれて、指定の場所に収まる。
 その二階家の一階が診療所になっていて、庭には小規模だが薬草園があったりして、一部が見学を主張したので、一同はそこで茶菓の提供を受けたのだが。
「仕事も大体終わったことだし、のう?」
 斉藤の求めに恵皇も如実に反応してしまい、疲労回復効果のある薬酒も供された。率先して手を出すのは、効果がどうだろうが飲むのが好きという者ばかりだから、ぐいぐいやっている。
「このお茶、珍しい味ですねぇ」
 たまに、お茶と薬酒が混じってしまったものを飲んでも不思議に思わない和奏もいるが、当人が幸せなので他の者も気付かない。
「今後はこちらで本業に専念できると良いですね」
「そんためには、あんまり情にほだされんようにせんとな」
 メグレズの手向けの言葉と、斉藤の豪快な笑いと一緒の一言に、エカテリーナは『まったくだわ』と笑い返した。
「大変ですぅ」
 まあ、和やかに仕事が済もうとしていたところ、庭を見物していた美空が戻ってきて、水津と柚乃が何かの穴にはまってしまったと訴えた。
 助けに出向いたのが、たまたま扉に近かった大蔵と雲母。きっと怪我はしていないが、薬が欲しいとか、診療所がよく見たいと言い出しそうな二人のために、他の者も立ち上がった。
 庭からは、薬草の名前を連呼している声がする。