死守! シメキーリ
マスター名:龍河流
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 易しい
参加人数: 10人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/08/30 05:07



■オープニング本文

 開拓者ギルドに、壮年の男が飛び込んできたのは、明け方のことだった。
「うちの村を助けてくれ!」
 聞けば、彼の住む村がアヤカシの群れから度重なる襲撃を受けており、近くの街から退治に来た兵士達も疲労困憊。今にも村に攻め入られそうだという。
 アヤカシの種類は、スノウゴブリンではないかと思われるが、夏の季節に合わせたのか、どいつもこいつも上半身裸の短いズボン姿。アヤカシだから暑いはずもないのだが、村の近くの滝周辺に陣取って、ちょくちょく滝にうたれているらしい。
 村の人々は暑い最中に家から出るのもままならず、いつアヤカシが攻めて来るかと恐怖しながら過ごしている。
 依頼人は、村で一番速い馬でなんとかアヤカシを振り切ってジェレゾに到着したが、村人全部を移動させる乗り物はないから、どこかに避難しようにもアヤカシの追跡があったら危険だ。
 ともかく一刻も早く村に来て、アヤカシ達を蹴散らして欲しい。
 それが依頼だった。

 現地に行くには、もちろん知らねばならない重要な情報があって。
「貴方の村のお名前は?」
 開拓者ギルドの係員の質問に、依頼人は一言答えた。
「シメキーリ」


■参加者一覧
秋霜夜(ia0979
14歳・女・泰
乃木亜(ia1245
20歳・女・志
由他郎(ia5334
21歳・男・弓
からす(ia6525
13歳・女・弓
ルーティア(ia8760
16歳・女・陰
西中島 導仁(ia9595
25歳・男・サ
ジルベール・ダリエ(ia9952
27歳・男・志
エルディン・バウアー(ib0066
28歳・男・魔
ライオーネ・ハイアット(ib0245
21歳・女・魔
阿野次 のもじ(ib3243
15歳・女・泰


■リプレイ本文

「スノウはいらないだろう、夏だし」
 からす(ia6525)のこの一言で、アヤカシは簡素に『ゴブリン』と呼ばれることになった。
 シメキーリ村では、駆け付けた十人の開拓者を諸手を上げて迎えてくれた。特に疲労困憊の兵士達は拝まんばかりだったが、そんな彼らの隊長の手を取り、エルディン・バウアー(ib0066)が慈愛に満ち溢れた笑顔でこれまでの苦労を労わっている。
「いやしかし、隊長が女性の方とは」
 男だったら、そんなに熱心に語り掛けないんだろうなとは、皆気付いているが男性兵士達が可哀想なので言わない。
 そしてなにより、シメキーリは切実に守らねばならないと、ほとんどの開拓者が思っていた。それも切実に、熱心に、胃が痛くなるような思いまで追加して。
 依頼を受けてから、そわそわしてたまらなかったという乃木亜(ia1245)や、何かにおいたてられているようだったと話すジルベール(ia9952)、シメキーリ防衛を果たすのが自分のためでもある気持ちにとらわれた秋霜夜(ia0979)、命懸けで守ると断言した西中島 導仁(ia9595)、それらの言い分にいちいち頷いている由他郎(ia5334)と、あまりの気合の入り方に村人達も感涙に咽ぶ寸前だったのだが、
「死守するぜ!シメキーリボール」
「必ずシメキーリは守って見せましょう」
 阿野次 のもじ(ib3243)とライオーネ・ハイアット(ib0245)の言葉には、とうとう涙が溢れ出した。ボールが何のことか分からなくても、隊長がライオーネの手を取って感謝の言葉を述べている。エルディンがものすごく残念そうな顔になったのだが、まあいいだろう。
 そういう感動の輪の外では、
『なんで俺?なんで?!龍だろ、ここはっ!』
「フォートレスはお疲れ気味だったから、仕方ないだろ」
 出発以来の言い争いを、ルーティア(ia8760)がもふらさま・チャールズとしつこく展開していた。
 チャールズがグライダー・舞華を蹴飛ばしそうになって、からすに睨まれたけど気付かない振りをしたのも、開拓者しか気付いてないからそのままに。
 何はともあれ、速やかにゴブリンを退治するのだ。
 ちょっと遠いとはいえ、涼しげな滝の周りでゴブリンどもがぎゃいぎゃいしている姿はそれはもう恨めしいのだから。

 ゴブリンどもは、滝の周りでうろちょろしている。
「つまり敵は滝つぼの中、上から丸太を落としてやりましょう!」
 村側からの奇襲は難しいが、大量の丸太が落ちるように細工した後、ゴブリンどもが水に入ったところを狙って奇襲。慌てたゴブリンどもへ、龍やグライダーで上空からがしがし攻撃。
 霜夜の発案から立てられた作戦は、村人の了解と協力も得られて、さくさくと進んだ。大分大回りだが、滝に繋がる川の上流に行って、丸太を切り出すこと半日。それを川に縄を張って塞き止め、結び目を解いたら落ちていくようにするのに一時間ちょっと。
 流石に霜夜の忍犬・霞は丸太の切り出しも運搬も無理だが、周囲の警戒を言われてまめまめしくあたりを回っていた。霜夜の意気込みが乗り移ったかのようだ。
 そうかと思えば、滝の上から這うようにして下を覗いているのは、乃木亜とミヅチの藍玉。丸太落としの際、滝つぼからゴブリンどもが逃げ出さないように藍玉に水柱をあげてもらうため、今のうちに様子を確かめている。寄り添っている背中だけ見ていると微笑ましいが、どちらも真剣そのものだ。
 ルーティアのもふらさま・チャールズだけは労働拒否をしているが、これも修行、更なる成長のための一仕事と容赦ないルーティアと、ひそやかな攻防を繰り広げている。
 からすは当人の体格も、乗機グライダー・舞華もこういう作業には向かないから、上空から皆の様子とゴブリンの状況を確かめていた。ゴブリンも上空に何かいるのは気付いただろうが、グライダーなど見たこともないせいか、気に掛けたのは少しの間だけ。
 それでもそちらに気を取られていた合間に、炎龍三頭、駿龍二頭が滝つぼの上に回って、丸太の運搬で活躍していた。それぞれ開拓者の言うことはよく聞いているが、時々『なんでこんな仕事‥‥』とでも言いだけな態度に見えるのは、ゴブリンの気配を感じているからだろうか。
 だが、エルディンだけは村人の不安解消のためと言って、忍犬・ペテロと一緒に村に居残っているのが、ちょっとばかり問題があるようなないような。まあ、美人隊長にあんまり親しげにして兵士達から睨まれていたので、その隊長が丸太の切り出しに参加しているから別行動がいいと思った開拓者は何人かいる。
 なんにせよ、準備は万端。あとはもう、機を計って攻撃するのみ。

 相手はゴブリンだ。ちょっと短縮してあるけど、そんなに強いアヤカシではない。
 なにしろゴブリンだ。いっぱいいたって、一体ずつなら強敵ではない。
 そしてなにより、ゴブリンどもが涼しい滝つぼを占領しているのは、非常に不愉快だ。
「己が醜い欲望のために、人々の平和を脅かす者共よ!例え天が見逃そうとも、心有る者現れ必ずその悪は裁かれる‥人それを『人誅』という! 」
 滝の水が落ちる横で、炎龍・獅皇吼烈を傍らに従えた西中島が、大音声でのたまった。咆哮の技能を加えての叫びだから、ゴブリンどもも色めき立つ。
 これに前後して、由他郎が炎龍・苑梨、ジルベールが駿龍・ネイト、ライオーネが炎龍・アリスターで空に上がっている。からすと舞華は更に急角度で上空を目指していた。
 もちろん彼らは、相手が届かない上空からの攻撃が目的なのだが、その前に。
「我こそは、晴天大聖☆阿野次のもじ!」
 のもじも、西中島の隣で名乗りを上げている。
「晴天大聖☆阿野次のもじ!」
 曇っているのだが、そこは気にしていないらしい。
「のどかな村の平穏を脅かす妖怪変化ども、我々が来たからには残らず神妙に縛についたら叩き斬るぃ」
 のもじのこの言い分には、聞こえる位置にいた乃木亜が『結局退治するってこと?』と悩まされるのだが、深く考えている暇は誰にもない。そもそも丸太を落とす役割の霜夜は霞と一緒に、丸太の塞き止めをしていた縄を解くのに必死。

 どんがら、ざばざば、どーん!

 色々な音がして、丸太が景気よく滝を落ちて行った。
「藍玉、当てなくてもいいですかね」
 乃木亜の指示で、滝つぼの周りに次々と水柱があがる。

 だばー、どばー!
 ぴーぎゃー!

 そして、楽しそうに飛び出していこうとして、
「いけませーん。まだ上から来ますよーっ」
「ここだって上だろー!」
 滝つぼ目掛けて飛び込もうとしたのもじが、霜夜に後ろから抱きとめられていた。そのまま転がっていこうとするのを、金闘雲と霞が二人の服を咥えて、足を踏ん張って止めている。

 そんな騒ぎをさておき、西中島は獅皇吼烈に跨って地上に降りていた。もちろんシメキーリと滝の合間、ついでに言うならゴブリンと彼の間には、のもじか兵士達に頼んでばらまいてもらったともだち球がある。
 咆哮の効果で彼目掛けて突撃したい気持ちのゴブリンが沢山居たのだが、なにしろ藍玉も頑張っている。滝の上ではのもじと霜夜がきゃいきゃいやっている。
 なにより、滝つぼから出るとジルベールと由他郎がびしばし矢を射てくるのだ。ネイトなど、ソニックブームまで放ってくる。
 これを潜り抜けたら西中島に辿り着くかといえば、ライオーネのサンダーが落ちる。これで倒れなくても、ともだちを踏んで転げる奴が出る。
「なんや随分順調やけど‥‥余裕や思って油断すると、予想もせんかった障害が出るかもしれん。気合入れていくで、ネイト」
 弓「神緑」を引き絞りつつ、語りかけてくるジルベールにネイトが一声鳴いて返したが、承諾の返事というよりおまえこそ頑張れよとでも言いたげだ。
 由他郎は無口に攻撃に専念しているが、視線は油断なく広域を見渡している。いかに西中島の咆哮の効果があるとはいえ、ゴブリンの全てが西中島やシメキーリの方角にまっすぐ向かったとは思えず、迂回路を取られていつの間にかシメキーリが危ういなんてことになってはいけない。なにしろシメキーリは遠のいてはくれないからだ。誰かが偶にはあると言っていた気が由他郎にはしなくもなかったが、きっと気のせいだろう。
 このシメキーリは、絶対に遠ざかって行ったりしないのだ。距離を詰められたら危険すぎる。
 実際、この心配が実体化したように、ゴブリンの一団が激戦っぽい地域を迂回してシメキーリに向かっていたのだが、
「ここより涼しい場所に招待しよう」
 こちらもそれを見越していたからすが、急降下での射撃準備を終えているところだった。鳥かと思った機影に気付いて、宙を振り仰いだ時にはもう遅い。
 ジルベリアで、曇天で、水場の近くより涼しい場所といったら、もうこの世のどこでもない場所くらいしかなかろう。小柄な体に似合わぬ機械弓はソウルクラッシュ、どこまでも殺る気十分だ。
 それでも何体かいるのを短時間に始末するのは、弓術師には少々難しいが、その点はからすは気にしていない。
「相変わらず、賑やかなことだ」
 矢を番える合間に漏れた呟きの対象は、ルーティアとチャールズの一対。前線離脱を狙うチャールズを、ルーティアが守っているか引きとめているのか怪しい様子で、ゴブリンと戦いまくっている。
「チャールズ、その図体なら相手を潰せる!」
『こんなもふもふに無茶言うもふっ』
 いつもよりもふもふ感が増したチャールズが、ともだち球を踏んで転げて、ゴブリンの只中に突っ込んでいる。もちろんルーティアもそれを追いかけて、やめればいいのにゴブリンのど真ん中。
 からすがやれやれとソウルクラッシュを構え、ぷすぷすと射倒していく。
「いやっほぅい!行くぜカッパパー!」
 そこにのもじも突っ込んできて、大乱戦。
「カッパパーってなんだっ」
「しもべの名前?ひゃっほぅい」
『誰がしもべもふっ』
 ま、ここは大丈夫だろうとからすが思ったのは、金闘雲が会釈して寄越したように思ったからだ。ちゃんとゴブリンの数と仲間の技量、連れている朋友の実力も瞬時に判断しての『大丈夫』だが、見ていると疲れるってのもある。
 なんとなく、ゴブリンとふざけているように見えるのはなぜだろう?特にのもじはとっても楽しそうだ。歌声まで聞こえてくる。
 この頃には、やはり滝つぼ近くまで降りてきた霜夜や乃木亜が、せっせと近辺でまごまごしているゴブリンを退治しまくっていた。その割に、数がなかなか減らないのが不思議だが。
 今では、西中島だってゴブリンの只中に突っ込んでも不安がない装備と攻撃力で、ずんばらりんを繰り返している。これだとあっという間に次々退治されるのに、やはり数が減らない不思議。
「おかしい‥‥偵察の時と数が違いすぎます。どういうことか‥‥」
 この不自然な状況には、ライオーネもアリスターの背で首をひねっていたが、じっくりと悩んでいる時間はなかった。眼下を通り過ぎる一団目掛けてサンダーを食らわせ、滝つぼ周辺の様子を再確認と思った時に。
 辺りに、霜夜と乃木亜の驚愕の叫びが響いたのである。

 シメキーリの防衛線では、兵士や村人達が、万が一にも打ち漏らしたゴブリンが来たら数に任せて叩き潰してやると警戒をしていた。その真ん中で、にこやかな笑顔を絶やすことなく状況の解説をしていたのはエルディンだ。
 そのエルディンも、この出来事には咄嗟に声もなく、
「‥‥シメキーリを破られるわけにはいきません。ええ、これは私への試練でしょう」
 しばし立ち尽くしたと思えば、いけしゃあしゃあとまた満面の笑顔でそんなことを言ってのけた。
 なかなか数が減らないと、開拓者達が揃って疑問に感じていたゴブリン勢、どういうわけだか滝の中から大増殖である。この一団は霜夜と乃木亜、霞と藍玉の第一防衛線を驚異的な速度で走り過ぎ、のもじの作った妨害地域のともだち球を問答無用で蹴散らし、ライオーネ、からす、由他郎、ジルベールの上空攻撃には何体かの犠牲を出しつつもそれを潜り、
「「ぎゃーっ」」
 のもじとルーティアを踏み越え、飛び退いたチャールズには目もくれず、金闘雲には後ろからばりばり攻撃されつつ、シメキーリを目指して何かに取り憑かれた様に走り続けていた。
「追い込まれると、普段出さない本気も出易くなる‥‥か」
 由他郎が苑梨の背で呟いた言葉は誰にも聞こえなかったはずだが、開拓者達は同様のことを感じていた。シメキーリ防衛、やはり簡単には済まなかったかと。
 だが、ここでシメキーリにゴブリンを到達させるわけには行かない!
「俺はここだぁっ!」
 シメキーリまでの最後の防衛線になってしまった西中島が、再度咆哮をあげる。流石に至近距離のこれを無視できず、ゴブリン達が速度を緩めたところに、まずはライオーネから魔法付与されたアリスターの爪が突き立った。そのまま一体を掴みあげて、他とは距離を取る。
 空いた隙間には、ジルベールと由他郎の矢が降る様に浴びせられた。からすは舞華を地上に下ろして、跨ったままの射撃を続けている。地上に降りた彼女はいかにも攻撃対象になりそうだが、ゴブリンが近づくことなど出来はしない。
 なぜなら、霜夜と乃木亜が駆けつけて、こちらに向かってきたゴブリンどもを迎え撃っているからだ。
「麦畑を踏み荒らしたら、次の農期に影響が出るですよ!」
 秋蒔きの麦の準備をしている村人が聞いたら、泣いて拝んでくれそうな霜夜の弁だ。農期は大事。
 時々霞と藍玉も加わって、からすがしっかり狙い定めて矢を放てるくらいの余裕がある戦闘がこの一角では行われていた。途中から、三人掛かりで身動きできないように追い込んで、どんどか攻撃している。

 そうかと思えば、こちらでは雪辱戦が。
「よくも踏んでくれたな〜!」
「ウッキー!」
 勢いづいたゴブリンに踏まれるという、ある意味稀少な体験をした二人が、ざくざくどこどことゴブリンに仕返しをしていた。攻撃というより、どう見ても仕返し。勢いあまって、西中島にぶつかったりしている。
 ルーティアが刺す、のもじかそれを蹴り外す、まだ息の根が止まっていなかったら金闘雲が噛み付く。そういう攻撃を逃れたゴブリンは、西中島がずんばらりん。
 獅皇吼烈だけが攻撃する相手があまりおらず、きょろきょろしている。
 そして村の防衛壁では、エルディンが。
「シメキーリを何かなんでも守らねばという、我々の気概がお分かりいただけることでしょう」
 動かしているのは口だけだ。

 ま、ゴブリンなので、途中の増員にはちょっとばかり驚かされたが、一時間ちょっとで全部退治出来た。
「滝の奥も確認しておかないと駄目だ」
 からすのもっともな主張に、西中島とルーティアがざんぶと滝つぼに飛び込んで覗いてみたところ、
「洞窟があって、奥まで五メートルくらいかな。そこにいたみたいだぞ」
 突然増殖した理由は判明、もういない事も確かめたので、
「うっきー、滝で修行ですよー!」
 楽しそうにのもじが滝つぼに飛び込んで、流れ落ちる滝目掛けて拳を突き上げ、皆の笑いを誘ったが‥‥

 どーん!

 なぜだか今頃落ちてきた丸太に直撃され、一緒にどんぶらこと流れていった。
 彼女を救助したら、本当に依頼完了だろう。


 アヤカシは退治されると死体も残らないので、シメキーリ周辺はすっかりと平穏な光景を取り戻していた。村人達も久し振りに家畜を外に出したり、畑を見回ったりして、ほっとした様子だ。大きな怪我をした者もない。
 そういう光景を見ると、依頼完了の満足感があるというものだが、開拓者達には一つ二つ困っていることがあり。
「あっついですねぇ」
 霜夜が言う様に、暑い中で走り回ったので、汗びっしょり。水に入った二人と流された一人と村にいた一人以外は、じめじめとあまり気持ちがよろしくない状態にある。
 龍達も流石に暑そうだし、忍犬二頭も舌を出してはあはあしている。ともだち球とたわむれているもふらさまはさておき、暑さを感じさせないのは藍玉と舞華くらいだ。
 それでも最初は村の防衛壁の片付けをしたり、村人の仕事を手伝ったりしていたが、人によってはゴブリンに踏まれたりしているので、大分汚れてもいる。滝の裏の洞窟の様子も確かめておきたいしで、村人に許可を貰って、男女別に水浴びをさせてもらうことになった。明るいうちは間違って遠目にでも見えたら困るので男性陣、夕暮れから後は女性陣。その後、村人も交えて楽しい夕餉の席を設けようと、なかなか素敵な計画だ。
「家からトマトとスイカを持って来たんや。皆で食おうか」
 ジルベールの申し出もあって、珍しいものに村の子供達が大喜び。これは川で冷やしておくことにして、まずは男性陣がお先に滝を楽しませてもらうことにした。由他郎が苑梨を洗ってやるのを見て、ジルベールもネイトを振り返ったら、もう勝手に水に浸かってのんびりしていたりもしたが、平和なものだ。獅皇吼烈もざんぶと飛び込んで、涼をとっている。ペテロはその水しぶきを浴びて、ぶんぶんと水滴を払っていた。
 龍と忍犬はそれでいいが、人間は身だしなみを調える必要があるわけで、それなりに小奇麗にした後、西中島とエルディンが滝に打たれてみると言い出した。西中島が言うのはごく自然だが、エルディンは天儀っぽい修行形式に倣ってみたとか、軽い感じ。
 でもまあ、好き好きで滝に打たれて雑念を払ったり、願掛けをしていたのだが‥‥
『彼女が欲しいです』
 滝に打たれるのは、そういう願い事をするためではないだろう。

 かたや女性陣の水浴びは、非常に賑やかだった。張り切って霞ごと飛び込んだ霜夜とのもじが潜水の勝負をしたり、ルーティアが嫌がるチャールズを引きずり込んだりしているからだ。金闘雲は、滝つぼの下方に陣取って、のもじが流れていかないようにしているのだろう。
 滝つぼの真ん中には、藍玉に掴まった乃木亜がのんびりと浮いている。ミヅチが一緒で、乃木亜に危険があるはずはない。
 からすはグライダー・舞華を洗っていて、それが終わったら洞窟の中をよく調べてみるつもりだ。ちゃんと水着も持参で、泳ぐ準備も万端。先程はゴブリンが残っていたら危ないからと他人に譲ったが、本当に危険が去ったかは自分の目で確かめてみなくてはなるまい。
 と、舞華をぴかぴかに洗って、気持ちよく洞窟確認に向かおうとしたら、
「一緒に行くのー、お師匠様っ」
 よく分からない一声と共に、のもじがついてきた。こんな弟子を取った憶えはからすになく、何か教えてもらった憶えはのもじにもないだろう。霜夜が、
「あれ、そうなんだ」
 と納得したのを、ルーティアが、
「そんなの聞いたことねえ。な、チャールズ」
 と否定しているが、訓練だと散々沈められたチャールズは知らん振り。
 滝の裏の洞窟は奥行き五メートル程度、高さが一メートル半くらい、幅は三メートル程。もはや危険なことは何もなく、涼しくて過ごしやすいのだが、騒ぐと声が反響するのでやれやれと出てきたのかからすや霜夜だ。他はまあ、中にいたり、滝で遊んでいたり。
 さて、そんな騒ぎの中、しっかりと全身磨いて、濡れた髪も綺麗に結いなおしたライオーネが大荷物を取り出していた。
「それ、なんですか?」
 こちらはざっと髪を結んだだけの乃木亜が問い掛けたら。
「せっかくお祝いの席ですから、多少は綺麗にしませんと」
 香水や化粧品を持参しているので、他の人にも『少し』お化粧をしてあげましょうとのライオーネの申し出を喜んだ者と逃げ腰になった者とがいたが‥‥
 結果。
「日が暮れたが、大丈夫だろうか」
「騒ぎになっとるわけでもないしなぁ」
「‥‥‥」
「女性のお支度に時間が掛かるのは、どこの儀でも同じことですよ」
 村人と男性陣は一時間以上、何か起きたろうかと気をもむことになったとか、もっと時間が過ぎていたとかなんとか。