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■オープニング本文 その依頼が入ったのは、海沿いの港町からだった。 件の町は漁港と商業港が混じった、さほど大きな町ではないのだが、今の時期なら良質の魚があがり、航行の途中で立ち寄る中型輸送船もそこそこに存在する活気のある町だ。 ところが、その港がある湾の入口にアヤカシが出るようになって、漁民も商人も住民も揃って困っている。 アヤカシは、蛇の姿をして海中を泳いでおり、目撃証言による差異は多少あるが全長は三メートルから四メートル程度。海上を泳いでいることもあって、得物になる船が通りかかると飛びつくように襲い掛かってくる。 これまでの被害は小型の漁船が多いが、中には喫水が三メートルもある中型船の甲板まで躍り上がってきたこともある。この時は海中から飛び出してきたので、水の中でも上でも、ある程度は飛び上がることが出来るのだろう。 すでに湾の入口は船が通ると憶えたようで、そこを離れる気配はない。港では船を出さないようにしているが、知らずに入ってこようとする船が被害にあう可能性は残っている。またアヤカシに居座られたままでは町の人々も生活の糧を失ってしまう。 この蛇型のアヤカシ退治が、依頼だった。 |
■参加者一覧
高遠・竣嶽(ia0295)
26歳・女・志
皇 輝夜(ia0506)
16歳・女・志
四条 司(ia0673)
23歳・男・志
鴇ノ宮 風葉(ia0799)
18歳・女・魔
乃木亜(ia1245)
20歳・女・志
キース・グレイン(ia1248)
25歳・女・シ
滝月 玲(ia1409)
19歳・男・シ
辟田 脩次朗(ia2472)
15歳・男・志
水月(ia2566)
10歳・女・吟
煌夜(ia9065)
24歳・女・志 |
■リプレイ本文 港町に船が入れないのは、営業妨害もいいところと、往路でキース・グレイン(ia1248)が口にしたが、事態は十分に死活問題だった。港町にいる人々のほとんどが、生活の糧を得る道を文字通り閉ざされてしまっているのだ。 アヤカシの話が広がれば、退治した後も港に寄る船の数が減ってしまうと辟田 脩次朗(ia2472)が示した懸念は、港の人々こそ感じていた。おかげで滝月 玲(ia1409)やキースが願った銛や大型の浮きは、大型の鮫などを獲るためのものがすぐに用意される。 辟田が上空からの合図用に用いるつもりだった松明や手鏡は、騎乗で火を扱うのは難しいのと、太陽の方向で使えない可能性に合わせて、船員達が慣れている方法がいいからと旗になったが、これも竜を使う人数分があっという間に揃った。 後は港周辺の地図があれば、開拓者達には分かりやすかったが、そんなものを悠長に眺めていたら座礁する船員や漁民達はもとより用いる習慣がなかったようだ。非常に簡素な図を描いてくれたが、それよりはよほど見える範囲を指差して説明してもらったほうが分かりやすかった。海底近くまでアヤカシの有無を調べるなら干潮がよいと言えば、もちろんそれに合わせて出航の準備を整えてくれる。 そこまでしても、当然海中にいるアヤカシを捜して、狙うところに誘き出し、退治するのは困難を極めるだろうが、相手は一体だ。目撃者達に高遠・竣嶽(ia0295)が尋ねて回ったところでは、襲われた船の共通点はどれも一隻で航行していたことだけだ。ただしこの港には、船団を組んで航行してくる船の方が珍しいので、絶対とは言い切れない。 けれども現在は他の船が動いていないのだから、他所からここを目指してくる船さえなければ、他が襲われる心配はない。水月(ia2566)がそうした船の入港を防ぐのに、湾の入口から合図を送ってくれるように頼むと、港でもさすがに手は打っていた。だが入港不可となっている場合でも、伝染病などでなければ港から船が出向いて事情の説明をするのが通例だそうで、そこは龍に乗る開拓者達に任されることになる。 今回は十名の開拓者が出向いてきているが、その中で龍を連れてきたのは皇 輝夜(ia0506)、四条 司(ia0673)、煌夜(ia9065)、滝月、辟田、キース、高遠で七人。鴇ノ宮 風葉(ia0799)は人妖、乃木亜(ia1245)はミヅチ、水月は猫又だ。当然龍以外を連れて来た三人は、港が仕立ててくれる船に乗せてもらうことになる。 足場が不確かなのはやや心配だが、アヤカシが海中ではこちらから出向くしかない。まずは近付かれるより前に発見することを目的に、見付けたら甲板上に上がってきてもらい、皆で海中に戻らないうちに退治する。簡単に言えば、そういう作戦である。 出てくれる船の船員達が志体持ちだから言える無茶な部分もある作戦だが、先方は先方で、船に乗る三人がアヤカシが飛び込んできた衝撃で海面に転落しないか心配していた。元々船倉も甲板も空で出るから、掴まるところが限られるのだ。船に慣れていなさそうな少女達では、心配になっても致し方ない。これには乃木亜の希望もあって、命綱が用意された。 「海中に居る相手となると厄介ではありますが‥‥人の生活を脅かすアヤカシを見逃すわけには参りませんからね。速やかに退治しましょう」 高遠が、日頃戦うアヤカシとは異なる、あまりない不利さを指摘はしたものの、それで躊躇うのなら、そもそも依頼を受けはしないわけで。 速やかに退治という、その一言を実現するために、まずは龍に騎乗した開拓者達が出発した。 茶や赤、緑に白。その他諸々の色を加えた体躯の龍が七頭、群れを為すように飛んでいる姿は、何事もないときであれば見応えがあるものだ。それも船の上から眺めるとなれば、満足感もよりいっそう高まるだろうが‥‥あいにくと船上には、それをのんびりと眺めていられる者はいなかった。 甲板上には猫又、ミヅチに人妖と、また変わった朋友がいるのだが、ある程度湾の入口に近付かなくては出番もないと、それぞれの相棒の近くに陣取っていた。それでも、海中深いところから船目掛けて上がってこられる可能性があるから、油断はしていない。 今もまさに風葉と水月が交代で瘴索結界を使い、海中のアヤカシの気配を探っている。すでに湾の入口に到着した煌夜と船の先を行く辟田が、心眼で辺りをうかがったが、それで感知出来る範囲には目立つ反応がなかったのだろう。発見の合図の旗は、鞍の脇に留められたままだ。 正確には、他と比べて魚をはじめ生き物の気配がないか極端に薄いところがあれば、アヤカシがいる可能性が高いとみていたのだが、ものの見事に生き物の気配がないので、予測のつけようもなかったのだ。逆の見方をすれば、アヤカシを畏れて逃げ散っているわけで、近くにいるのは間違いないとも言えよう。 この頃になって、乃木亜がミヅチの藍玉を海中に向かわせた。アヤカシが現われた際に、船の真下から突き上げてくるようなことがないよう、ある意味囮として引き付けを担うようにと命じてある。少しでも気を逸らして、こちらが迎撃する準備時間を稼いでくれれば十分だ。もちろん、怪我をするほどの無理は、乃木亜でなくとも望んではいないけれど。 だが騎乗で周囲を巡っている他の六人も、同様に不審な影も、湾の外に別の船影も見付けてはいなかった。船は必ず来るわけではないから、見えないのはかえってありがたい。けれども、アヤカシの気配が欠片も感じられないのは困る‥‥というより、怪しかった。 これは、突然下から躍り上がってくる可能性が高いと、航行する船の甲板から少しばかり上を飛んでいるキースは、アヤカシが聞いた情報どおりに飛び込んできた場合の様子を、かなり詳細に思い描いていた。船舶の操船に知識と経験があってのことだが、それゆえにアヤカシを近付けてはいけない場所も分かる。 四条が、瘴索結界でアヤカシが見付かったら、船員は巫女二人の傍に移動してくれればと申し出て、それでは船の制御が失われてしまうと返されていたが、確かに甲板で暴れる生き物がいて、舵をとる人間がいなかったら転覆か座礁の危険がある。それを考慮して、巫女の二人には舵の近くに陣取ってもらったが、アヤカシを引き摺りあげる場所にも気を配る必要があった。 アヤカシが暴れて困る場所は、全員が船員から聞かされていたが、乗船の経験と当人の性格によっては緊迫感を感じていない場合もある。風葉はまさにその典型で、腰に命綱をしっかりと結ばれていたものの、『この方向に引っ張った時だけ解ける』と言われた方向にもうぐいと力を入れている。 『なにをしている』 「もしもの時に解けなかったら困るでしょ」 そのもしもの時の前に船から転がり落ちそうだが、幸いにまだ命綱は解けなかった。気付いていたのが人妖の二階堂ましらだけだったから、風葉も怒られずに済んでいたが、船員の誰かに見付かったら拳骨の一つくらいは飛んで来ていたかもしれない。 この間は水月が瘴索結界でアヤカシの気配を探っていたのだが、不意になにやら奇声じみたものを上げた。元来口数が多くない少女で、まったく見えていない方向を示す言葉に途惑ったのかもしれないが、指し示すことは出来た。 船の進行方向右、ものすごく下。 甲板上では、改めての水月の説明を聞く前に、帆柱の見張り台にいた船員が示し合わせてあった旗を振り出す。同時に、七騎の龍が船を中心に集まってきた。どの方向からアヤカシが飛び出してきても、逃げ道を塞げるような位置取りだ。 海面にその騎影が映っただろうが、アヤカシは小さなものは気に留めなかったらしい。狙い済まして飛び上がってきたのは、わざと甲板の端に姿を晒していた乃木亜がいる位置だった。 アヤカシが予想以上の速度で飛び出してきた時、水月と風葉はすぐに何かしらの対応が取れたわけではなかった。そもそもが前線で戦う技能の持ち合わせがないのだから、これは致し方ない。 代わりに、ましらと猫又・猫さんが動いた。どちらも相棒の頭と肩に足を踏ん張って、アヤカシが飛び込んできた衝撃を避けたが、甲板の揺れで二人が姿勢を崩した後の行動は素早い。とっとと甲板に降り立ち、猫さんが鎌鼬を放ち、ましらは床を蹴って鋏で切りつける。 アヤカシに飛び掛られる形になった乃木亜は、かろうじて直撃は避けたが、甲板上にひっくり返っていた。藍玉も海中から戻ってきたが、こちらはどうやってもまだ動けない。甲板に上がったアヤカシも、のたうって乃木亜を海面に叩き落して、自分も戻ろうとするように動いたが‥‥ 「瓏羽、邪魔なぬめりや鱗は燃やしてしまえ!」 滝月と炎龍・瓏羽が、アヤカシの頭が向いた方向に合わせて、甲板に降り立った。滝月は銛を手にしているが、それが放たれる前に瓏羽が両前足を踏ん張った。その口から、一瞬だが炎がアヤカシに向けて吐き出される。 確かに滝月が瓏羽に叫んだ通り、ましらの振るった鋏はぬめる体表で思ったような効果を上げていなかった。瓏羽の炎でも、それが当たった箇所を全て焼き焦がしたわけではないが、至近距離で叩き込んだ銛が滑ることはなく。返しのついた銛は、がっちりとアヤカシの鱗の下に潜り込んでいる。 ただそれに付随する浮きという名の樽が甲板上に転がって、猫さんが邪魔と言いたげに唸ったが、水月のところまで来ないと分かれば興味がなくなったらしい。 身を捩るアヤカシの尻尾が大きく振り回されるのを、高遠が操る甲龍・常盤が、器用にスカルクラッシュで弾きあげた。それを高遠が刀「泉水」で叩き斬る様に甲板に落としている。しばし手綱から手が離れたが、常盤は慌てずに姿勢を保っていた。だが、流石に両者とも姿勢を正すために、一旦離れて上がっていく。間をおかずに、また下降してくるのだが、跳ね回るアヤカシの尻尾に打たれるようなことはない。 アヤカシは変わらず暴れているが、それが自分に向いてこないので、甲板の開拓者三人は姿勢を正して、すでにそれぞれの役目に戻っている。いつでも精霊砲をぶちかましてやろうと身構えている風葉と、神楽舞・攻の機会を伺っている水月を背後に防御を固めている乃木亜の配置となるが、その前に割り込んできたのは四条と甲龍・茶々雀だ。 アヤカシがもう少し彼女達や船員が集中している場所から離れて飛び込んでくれていればよかったが、そう思ったとおりにはいかないもので、より大きな盾として一人と一体で跳ね回るアヤカシを押し返している。盾に徹していないのは、茶々雀がアヤカシの体が前に来ると爪を立て、四条が懸命に長槍「羅漢」で甲板に縫いとめようとしていることでも明らかだ。滝月達も同様に、狭い場所でなんとかぶつからずに、アヤカシを相手取っていた。 しかし、やはり体表がぬめると動く蛇体に刃を潜り込ませるのはなかなか難しく、雷鳴剣を使いたいがその機会が捉えきれずにいる。ましてや、相手はめちゃくちゃに暴れているのだから、それに当たらずに攻撃を当てようとするのだけでも一苦労だ。 それでもアヤカシが甲板から飛び出せないのは、辟田と甲龍・止来矢、キースと甲龍・グレイブが大きく揺れる船の両舷に沿うように飛びながら、退路を塞いでいるからだ。甲板に上がれないので、どうしても止来矢やグレイブの攻撃が主になるが、二人はどちらも現在の位置を離れないための手綱捌きに集中していた。攻撃の手は他にあるのだから、アヤカシの有利な海中に逃さないことに徹している。 「わざわざ御出で頂いたんです、折角ですからゆっくりしていってください」 「船体には傷を付けない様にと思っていたんだが‥‥」 船の両側だから、辟田とキースの呟きは互いに聞こえていないし、他の誰にも届かなかった。せいぜい相棒の耳に入っただけだろう。気付かないままに、ものの見事に反対のことを言いつつ、二人がやっていることは同じだ。頭と尻尾の別はあるが、跳ねようとすれば甲板に叩き付け、横様に滑ろうとすれば動きを鈍らせるべく斬りつけ、殴りつける。 当然、アヤカシはゆっくりなどという気分ではなかろうし、甲板は傷だらけ、帆柱にもアヤカシが何度も激突したので、見張り台にいる船員は必死の面持ちで柱にしがみ付いていた。まだ折れる心配はないが、船員達が志体持ちでなければとうに命綱で宙吊りか、海面に投げ出されているかのどちらかだろう。船自体も、相当揺れている。 おかげで、舵がある船尾にいる開拓者五人も相当攻撃や行動に手間取っていたが、船首部分に回った皇と炎龍・誇鉄、煌夜と炎龍・レグルスとは、近付くことにも苦労していた。船尾側と違って広さがないので降りることも出来ず、高度を揃えようにも舳先の縁が高くなっているので、位置取りが難しい。アヤカシもこの方向から海に飛び込むのは困難だが、攻撃も出来ないのはもどかしい。ついでに狭い空域を二騎で飛んでいるので、互いの位置把握も怠るわけには行かなかった。 レグルスも誇鉄も、厳しい条件で細かい動きによく対応していたが、どちらも炎龍。周りがアヤカシ相手に全力を振るっているのに、自分達が手をこまねいているのには不満だったらしい。鼻息も荒く飛び回っていたが、あちらこちらからの攻撃に耐えかねて、大きく飛び上がったアヤカシ目掛けて、まず誇鉄が急降下を掛けた。続くように、レグルスが爪を煌めかせて追う。 皇と煌夜の指示と、二体の炎龍の動きとのどちらが早かったかと思うほど、瞬時の反応だった。 飛び跳ねて、頭が船首に向いたアヤカシの、その頭を抱え込むようにした誇鉄が、そのまま甲板に落下する勢いで突っ込んだ。続いたレグルスは、首の辺りを押さえ込んでいる。それだけでも相当甲板上はみっちりと塞がって、皇や煌夜はほとんど振り落とされて、アヤカシの上に転がる羽目になった。 どちらも、体を起こすより先に刀を突き立てたのは見事なものだが、それがずぶりと入ったのは、そこまでに加えられた攻撃の成果だ。すでに皇の刀は炎魂縛武の炎が纏われていて、煌夜は突き込むと同時に雷鳴剣を放っていた。 そうして、次の瞬間には、更に暴れたアヤカシに跳ね飛ばされて、二人共に甲板から縁を飛び越えて海面に落下している。二体の炎龍は、それを追わずにまだアヤカシの体を甲板に押し付けていた。 見張りの船員が何か叫んではいたが、残った八人も落ちた二人を助けの回る余裕はない。この時とばかりに、四条もアヤカシの胴体ど真ん中を甲板に突き刺して、雷鳴剣を食らわせる。滝月は銛で尻尾を貫きとめていた。高遠、辟田、キースも騎龍から飛び降りるように甲板に来て、最後の仕上げとばかりに動けなくなったところを攻撃していたが、止めは意外な人物が飛び出してきた。 「あたしに任せなさい!」 これまで推移を見守っていたはずの風葉が、意気揚々と宣言して、精霊砲をぶちかましたのである。ドラゴンロッドから放たれるそれは、たいそう見栄えがよく、迫力もあったが‥‥ 「船が壊れたらどうする!」 船員が思わず叫んだくらいに、意表をついた一撃であったのは間違いない。誰が止めを刺してもいいのだが、ちょっとこれは予想外だろう。当人は虎視眈々と機会を狙っていたのかもしれないが。 もう一人の巫女である水月は、アヤカシが瘴気に還りだしたのを確認するや、藍玉に落ちた二人を探すように指示して、自分も甲板から身を乗り出し、うっかり落ちそうになっていた。命綱でかろうじて縁に留まっているが、乃木亜に引っ張り上げてもらっている。 落ちた二人が、藍玉を浮き代わりにしばし海面を漂い、それぞれの騎龍に妙に重そうに引っ張りあげられたのは、それからしばらくしてからのことだった。 「ミヅチって、触り心地がなかなかいいですねぇ」 「‥‥可愛い」 当然藍玉と乃木亜は礼を言われたが、藍玉は乃木亜に構ってもらえればそれでいいらしい。彼女が他の者の心配をしているので、しまいには助けた二人に恨みがましく見える視線を向けていた。 開拓者達は、アヤカシが消えた後に露わになった、甲板に数え切れないほどに刻まれた傷に気を取られて、ほとんどが気付いていなかったが。 アヤカシ退治の翌日。港に久し振りに商船が入ったが、その船員達は祭りのように浮かれている港の様子に首を傾げることになった。度々立ち寄る港だから、今の時期に祭りがないことも知っていての反応だが‥‥アヤカシが出ていたと聞けば納得する。ついでに積荷の中の珍しい飲食品がどっと売れたので、自分達の運の良さに笑みも零れようというものだ。 そんな船員達の目を楽しませた中には、湾を囲む山や港の空き地にいた龍達の姿もあった。見た目も色々で、中には足を投げ出して昼寝だの、日向ぼっこだのを楽しんでいるのもいたから、眺めるのに苦労がない。だが港町の人々はそれどころではなく、漁船は連なって海の様子を確かめると同時に、開拓者達にご馳走しようと漁にも精を出している。 「言いたいことでもあるのか、茶々雀」 賑やかな港の一角では、四条が茶々雀と睨みあっていた。正確には、四条が一方的に睨み、茶々雀は龍にあるまじきせせら笑うような目付きでいる。どうもこの一人と一体は、最初もこんな会話を繰り広げていた。多分日常なのだろう。 他の九名は、それぞれに好きなように過ごしていたが、乃木亜はやることがなくて、少々困っていた。わざわざご馳走してくれるというので手伝おうとしたのだが、人手が足りているからと丁重にお断りされてしまったのだ。持て成されるのに慣れていないから、意味もなくうろうろしている。 そうかと思えば、滝月と水月、皇と風葉は漁が終わらないうちから、人々が持って来てくれた料理などを遠慮なくいただいている。風葉だけは習慣で野菜や果物しか食べないが、珍しい果物の砂糖漬けを巡って、皇と熾烈な所有権争いを繰り広げていた。合間に手を伸ばして掠めるように分配しているのが滝月で、 「食べ、ます?」 水月は分け前をもらって、更に猫さんとましらにいるかどうかを尋ねている。ましらはともかく、他の朋友は大半が魚待ちで、甘いものには興味がないようだったが。 やがて、いつもに比べたらほんの僅かだというが漁を終えた船が幾らかの魚を持ち帰って、気前よく皆で食べるのと朋友達に提供してくれた。 辟田が止来矢にぺろりと自分の分まで食べられたり、誇鉄が食べさせろといわんばかりに皇に口を開いて見せたかと思えば、常盤は高遠に言われたのか漁船のほうに礼を言うように一声鳴いたりしていた。レグルスも、煌夜が何度も言うので、貰った魚を食べてから鳴いている。いずれも、戦っている姿を遠目にでも見ていた人々にしたら、予想外に可愛い龍の一面を見たといったところだろう。もしかすると、常盤やレグルスの鳴き声はもっとという催促だったのかもしれないが。 その中で、唯一キースのグレイブだけは、昼寝に出向いた湾の入口の山の上に転がったまま、ご馳走の気配にも気付かずにまだ寝ていた。 |