冬将軍の、その前に
マスター名:龍河流
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 4人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2014/12/21 02:09



■オープニング本文

●夢のあと
 護大を巡る戦いは終わった。
 夢見るものは他者を知り、護大であることをやめた。
 世界は変わった――そう感じた者たちは多くは無い。それは当然だろう。目に見える変化は小さなものだからだ。
 アヤカシや魔の森が消えた訳ではないし、街をうろつく悪党が一掃されるでもない。お祭り騒ぎをしていたギルドも、業務を放って遊んではいられないし、事件も知らずに過ごしていた人々には、変わらぬ普段どおりの日常が続くのだ。
 それでも、世界は変わった。
 かつて護大と呼ばれた存在、護大派が神と呼んだ存在の占有物であった世界は、人の――いや、人だけではない。この世に存在するあらゆる者たちの手へと移ったのだから。
 神話の時代は終わり、英雄の時代は過ぎ行き、それらはやがて伝説となる。伝説を越えて命は繋がり、記憶は語り継がれて物語を紡ぐだろう。それがどこへ向かっているのかはわからない。だがそれでも、物語は幸福な結末によって締めくくられるものと相場が決まっている。
 夢が終わっても冒険は続く。
 さあ、物語を始めよう。


●生活は続いている
 多くの人にとって、知らないうちに世界は変わったかもしれない。
 しかし、ジルベリア帝国の帝都ジェレゾの一角では、起きたことの大半は承知していて、なおごく普通の生活の維持に邁進している人々がいた。

「やっほい、これで物資が動かせる〜」
「黙れ、手を動かせ、計算しろ。根雪のないうちに、各地に再分配するぞ」
「非常用物資の集積地の地図はどこぉ?」
「輸送経路の安全情報を貰って来い、最新版だぞ!」

 夏から秋にかけての収穫期に、国内各地から租税や商業流通で首都に流れ込んだ食料のかなりの割合が、帝都に留め置かれていた。
 何事もない年なら、各地の冬期の蓄えに改めて流通し直すものだが、今年は護大派との戦いがいつまで掛かるか分からないとの判断で、戦時物資として確保されていたのだ。
 それが不要になったと分かった今、各地の緊急備蓄倉庫に送り込んだり、物価が上がらないぎりぎりで流通量が減っていた市場に流したり、忙しい人々が存在した。

「浮島対策の兵糧があるから、ここの倉庫は去年の三割増しで」
「東部が倉庫の修繕作業が遅れているから、追加の荷物は後期出発にしてって」
「港の使用許可が取れないって? 軍用優先枠をかっぱらって来い!」
「また商人ギルドに嫌われる〜」

 彼らは、帝国軍の兵站担当。
 物資や人員の輸送や手配に勤しむ、いうなれば縁の下の力持ち。彼らがいなければ、どこの戦線でもまず物資不足に見舞われる。
 今回の護大派との戦いでも、目立たなくてもせっせと前線に物資を送り続けた人々なのだ。
 そして今、今度は冬期備蓄の輸送を開始しようとしていた。

「ところで、今年に限って各地の街道で治安が悪化してて、地上輸送の護衛が足りませんよ」
「皇子方が二人戻ってるだろ。まずそこに掛け合って、人手を借りる。それから、帝都内にいる貴族に、片っ端から『皇子も参加してる』ってまくしたてて、人を引っ張ってこい」
「はいよー」

 ジルベリアはすでに冬。
 各地の街道が本格的に雪に埋もれるにはもう少し間があるが、そうなってからの物資輸送は時間も手間もお金も余計に掛かる。兵站部では、余計な出費など認めない。認めたくない。
 なにしろ軍と言うのは金食い虫だ。節約出来るところはしないと、あっという間に干上がってしまう。
 軍やスィーラ城の偉いさんや有力貴族には、これが分かる人と分からない人とがいて、いつも苦労するのも彼らだった。

「それでも足りなかったら、どうする?」
「あー、その時は仕方ないから、開拓者ギルドに頼もう。えーと経費は‥‥」
「飛空船の輸送荷物の割り振りをやり直して、一便減らせばなんとか」
「それで増える地上輸送分に護衛が必要だと、かえって危ないぞ。先に現地状況を確認してからな」

 結局、色々やりくりした彼らは、開拓者ギルドに依頼を持ち込んだ。



■参加者一覧
羅喉丸(ia0347
22歳・男・泰
ラヴィ・ダリエ(ia9738
15歳・女・巫
クロウ・カルガギラ(ib6817
19歳・男・砂
サライ・バトゥール(ic1447
12歳・男・シ


■リプレイ本文

 そうして、世界は護大の脅威から守られたのです。
 めでたし、めでたし。

 と終わっていいのは、吟遊詩人の話だけ。
「霞を食って生きるわけにもいかない以上、働くことを止めることは出来ないからな」
「そりゃそうだけど、開拓者はもっと浮世離れしていると思ってましたよ〜」
「ひどいな。俺達だって、食うもの食わなかったら役に立たないぞ」
 食べなかったら、動けない。確かにその通りだが、飛空船に積むための荷物を軽々と運んでくれる羅喉丸(ia0347)とクロウ・カルガギラ(ib6817)の姿は、周囲から驚きの目で眺められていた。
 人の出入りが多い港だから、働く者達も開拓者を見ることは珍しくなかろう。けれども、重労働に慣れた港の力自慢の三人分を軽々とこなす様子など、目にする機会は少ないに違いない。だから驚くのだ。
 兵站部の士官も、運ばれる荷物の表書きと書類の内容を忙しなく確かめつつ、最初はその身体能力の高さに舌を巻いていたが‥‥
「この船の荷積みが終わったら、他も手伝ってもらっていいですか?」
 やがて、この素晴らしい働き手をとことん使いまくろうと、満面の笑みでこう言い出した。
「調子いいなぁ、おい」
 クロウが呆れたように言うのは平然と見えない振りで、士官は羅喉丸を拝みだした。
「わかったわかった。ただし、地図と情報が届くまでだぞ」
 羅喉丸が苦笑交じりにそう応えたのは、彼が並はずれてお人よしだからでも、相手が若い女性士官だったからでもない。ちょっぴりは、ただ突っ立って出航を待っていても寒いからで、残りの大半は自分達も少しばかり無理強いをした覚えがあるからだ。
 その無理強いの結果、同行者のもう二人はこの場にいない。

 こちらの二人には、別に無理強いをしたつもりはない。依頼人と開拓者ギルドからの事前情報と目的地の気候を考えて、ラヴィ・ダリエ(ia9738)とサライ(ic1447)は、至極当然の結論に至っただけだ。
「今の時期の畑の中の道なんて、風があったら吹きさらしですもの。本当は、うんと防寒対策しなきゃいけないと思いますの」
 急ぐ旅路だし、携わる人の大半は地元の住人だから、相応の服装で来てくれるだろうが、休憩時の保温対策は大切と、ラヴィは同行のサライと今回の任務の責任者である士官とに訴えていた。その背中には、けして大きくない彼女には不釣り合いな大きい箱が器用に背負われている。
 箱の中身は、幾種類かのチーズと日持ちがするパン。サライは右肩に似たような大きさの箱を、左手に大きな麻袋を提げつつも平然と、ラヴィの言葉に頷いている。
「昼食で体を温めると、午後の行程も稼げると思います。もうちょっと時間があれば、色々作れるのですけど」
 士官は二人と並んでいると、まるで親子のような年齢の男性だったが、重そうに籠を一つ提げて歩いている。無口なのは籠の重さに辟易しているのと、二人の相談の進みが早すぎて、口を挟む隙がないからだ。予定の行程のどこでどう準備をすれば、大人数に振る舞う昼食を効率的に作れるか。行ったこともない土地の簡素な地図と、何度かその行程をこなした士官の話で、二人は的確に相談を進めている。
 しかも、昼食予算を遠慮なしに尋ねて来て、その金額と人数なら、これだけのものが作れると滔々と語ってくれた。士官の二人とて、予定通りの行程消化のためなら粗食も平気とはいえ、温かいものが食べられることを嫌う訳ではない。そこまで言うならと、昼食は任せることにして、この二人を買出しに出したところだ。士官が付いてきたのは、支払いと今後の参考のため。
 参考にするには、野外で調理することに慣れた人物がいないと、やはり難しいのではなかろうかと、士官は二人の会話を聞きながら思っている。

 何はともあれ、輸送される荷物は無事に帝都を出発し、翌日の行程を昨年より半時間ほど早く終えていた。例年になくいい昼食を出された雇人達が集中力を途切れさせることなく、荷馬車を進ませたおかげである。
 もう一つは、馬の扱いに慣れたクロウが、まめに馬車の間を行き来して、馬の調子を見てくれたこともある。この日の荷馬車は十台で、間を移動すれば結構な距離のはずだが、当人はけろりとしたものだ。
「これが砂漠なら、大変かもしれないけどな。この程度で音を上げてたら、遊牧民は出来ないぞ」
 足元がしっかりした地面で歩き回るのに、何で苦労するものかと、平然としている。元々護衛だから、呑気に荷馬車に乗っていられるはずもなく、隊列の前後を行き来するのは他の三人も同様だ。でも、いずれも平気な顔をしている。
 夜間の見張りは、完徹の技が使えるサライが主に担い、士官二人と開拓者三人が交代で見回りをすることにしていた。それで日中に馬車の中で少し休んだサライは、夜遅くなっても元気なものだ。そうでなければいけないので、当人もしっかり体調管理している。
「そんな薄着で、風邪ひかない?」
「寒くないように、砂迅騎のスキルを掛けてもらったので大丈夫です。軽装でないと、いざという時に動けませんから」
 もこもこに上着を着込んだ女性士官が見回りに起きて来て、よろよろしながらサライの後をついて歩いている。この調子では、不審者がいても追いかけられないだろうと思わなくもない。その時は自分が走ればいいかと、サライはあまり気にしないことにした。
 見ているだけで寒々しい格好だからと、マフラーを押し付けられるのには閉口したが。普段しなれないものを着けると、動きが鈍る気がするけれど、行為をむげに断るのも気が引けるから、とても困る。
 それ以外は、四日目までは昼夜ともに何事もなく、過ぎていった。

 四日目の朝、その事実は明白になった。
 実はそれ以前から、分かっていたのだ。特に昼食を担当したラヴィは、読みが甘かったことを二日目の時点で痛感していた。
 牛乳が、あと僅かしかないのだ。
 単なる紅茶よりは、牛乳入りの方が力が出るし、スープにも使う。その分も考えた仕入れだったが、例年よりよい待遇に雇人達が大喜びして、彼女や士官達の目が届かないところでほんのちょっとずつ贅沢をした。一人ずつにしたら咎めるのも可哀想な程度だし、そのおかげで日程は順調に消化され、仕事ははかどっている。馬の疲れも見られない。
 食事予算を全部ではないが、かなり使った自覚があるラヴィは悩んだが、買い足すより他に道はない。仕事の前半と後半で待遇が違ったなんて知れたら、兵站部の信用はがた落ちだ。
 という訳で、申し訳ないと思いながら責任者に申し出たところ。
「あ、そう。じゃあ、昼に通る村で買い足そう。あそこは牧場があるから、ここより安く買えるはずだ」
「‥‥お金、足りないかもしれませんわよ?」
 ちゃんと予備費もあるからと、責任者が予想外にあっさりと請け負ってくれたので、ラヴィは意気揚々と四つ目の村で買い物交渉に臨み、見事な仕入れ手腕を披露してみせた。
「ちょっと‥‥頑張り過ぎたかもしれません」
 ラヴィには別の悩みが生まれたが、こちらの解消はいかようにもなるだろう。

 美味しいものを食べると、人は饒舌になりやすい。食事面の改善著しい今回の輸送に雇われた地元の住人は、兵站部の二人よりは開拓者の方に親しみを感じるらしい。物珍しさも手伝うのだろうが、色々と当地の情報を寄越してくれるのはありがたいことだ。
 羅喉丸は、兵站部が事故との官憲から入手した情報を全部頭に叩き込んでいたが、地元住民の反応も気になる。魔術師もいると言うし、短期間に十件も事件を起こしているのだから、相当怯えているかと思いきや、狙われるのは商人ばかりと大抵の者は結構平気でいる。流石にこの輸送は規模が大きいので心配だが、クロウが『賊が来たら身を守るの優先』と言うので、更に安心したらしい。
 賊は魔術師を含む八人で、魔術師以外は武装している。襲撃場所は山と平原の境目の、山寄りが多い。山の方で襲撃して荷を奪い、平原に出て一目散に逃走する。
 それでいて、荷を置いて行けば逃げるのを追ってはこない。雇人達が安全優先と言われて、安堵したのはこのためだろう。
「盗賊側も、犠牲者を出さないことで追っ手が必死になるのを避けている節があるな。搦め手の攻撃を使うからと、攻撃魔法が使えないとは限るまいが」
 そう、護衛がいれば魔法で眠らせたり、動きを鈍らせる、阻害するといった方法で奇襲をかけ、相手が浮足立ったところを他の仲間で取り囲む。抵抗して大怪我をさせられた者はいるが、死人は出ていなかった。
「だとしたら、よほどの手練れだぞ。統制も取れているんだろう。こちらの倍の人数で、荷物も人も抱えている分、奇襲だけは避けたいな」
 地域の詳細地図を前に、有事となれば前線に立つ羅喉丸とクロウが警備体制の確認をしていた。
 今日で五日目。馬の性格を掴んだクロウが、より従順で落ち着いた馬を先頭の荷馬車に繋ぎ、御者も他の雇人から信頼がある壮年男性にした。超越聴覚が使えるサライは奇襲の警戒に集中してもらうべくこの馬車に、二台目には全体の様子を見る男性士官を、最後の四台目に女性士官とラヴィを乗せてある。最後尾の二人は、戦闘時に荷物の持ち逃げに警戒してもらうことにもなっていた。
 その上で、クロウと羅喉丸は徒歩で前後を警戒して回ることにして、問題の山の中に入ってしばらく。
 おかしいと思ったのは、クロウが最初だった。山の中のことで、野生動物の出現にも注意を払っていた彼は、その気配が消えたことにも敏感に気付いたのだ。

 右側から、鳥の声がしなくなった。
 おかしいと、そちらの方角に移動しながらサライに合図して、音を探ってもらう。合わせて、馬車の歩みを落とさせて、四台の間を詰める。
 この時には、サライが馬車から飛び降りて、クロウと羅喉丸の近くまで走り寄っていた。
「人の声がしました、三人までは聞き分けましたが」
 先方もこちらに気付いたようだと、囁く。つまりは黙ってしまったということ。
 これで相手が襲撃を諦めると、先々も警戒し続ける必要があって面倒だと、クロウが考えた時。
「やはり攻撃も出来るな」
 三人を狙ってだろう、大量の石礫が飛んできた。それぞれに視界を塞がないように庇いつつ、相談の必要もなく三方に飛び退った彼らは、背後でラヴィが的確に避難誘導をしているのを聞いて、迷わず迎撃に専念し始めた。
「ぎゃーっ! どろぼーっ!!」
「持ち逃げは許しませんよ!」
 途中、なんだか悲鳴みたいなものが聞こえたが、助けを求めていないので後回し。
 そもそも、すでにクロウが林の中に見えた影の中で目立つ武器を持たない者に向けて、一発撃ち放った後だ。馬のいななきや人の騒ぐ声が入り乱れて、ラヴィの声も切れ切れにしか聞こえなくなっている。
 魔術が続けて飛んでくることはないが、護衛が三人、しかも一人は少年と侮ったか、五人ほどが駈け込んで来た。魔術師を含む残り三人は、木々の向こうに影がちらちらと見える。
「油断してくれているなら、有難いな」
 気合一閃、気功波を放った羅喉丸は、相手が軽々と吹っ飛んだのを見て、二度は使わなかった。多少鍛えていても、相手がどうも一般人で、それこそ息の根を止めてしまいそうだと気付いたからだ。背後関係なども調べるなら、やはり生け捕りが必要だろう。
 そう思って手加減できる程度の実力と、相手の力量があっさり読めたのは、クロウも同じだった。足を打ち抜いていた魔術師が、音もなく駆け寄ったサライにねじ伏せられていると、近くにいた二人が逃走に移る。
「仲間を見捨てるとは、随分と上等な関係じゃないか」
 グルグル巻きにされていく魔術師はもう危険はないと見て取り、落ち着いてネルガルを構えたクロウは、次々と二人の足を撃った。少し狙いが外れたと反省しているものの、走る相手に当たれば十分だろう。
 この時には、もう四人が羅喉丸に叩きのめされ、もう一人は投降の意思を示していた。一人一撃で倒されていけば、降参しても不思議はない。
 半数が気絶、三人が怪我で唸り、もう一人は抜け殻のような八人を縄でグルグルと巻き、荷を移して作った隙間に放り込むのには、雇人の皆もほとんどが手伝ってくれた。
 一人だけ、女性士官の荷物を抱えて飛び出した青年が、持ち主にぼこぼこにされている。この機に悪心を起こしたというより、単なる慌て者だと皆が言うのだが、それでも女性の荷物に手を掛けたら怒られるのは仕方がないと、誰も取り成さない。ラヴィも大した力ではないしと眺めているので、もちろん開拓者男性陣が口出しするところでもなかった。
 この怪我人は、盗賊とは別の馬車に乗せられて、次の街まで痛い思いをすることになった。そこでラヴィに散々注意されてから、怪我を癒してもらう。盗賊は、そのまま官憲に引き渡した。他に仲間はいないことは聞きだしてあるから、この先は少し楽が出来るだろう。
 街からは、特産の羊肉がかなり大量に届けられたが、これを見てクロウとサライが思わずといった調子でぼやいていた。
「どうせなら、捌かせてくれればいいのに」
「頬肉、こちらの人は食べるんでしょうか。あそこは美味しいですよね」
「あら、どうやってお料理するんです?」
 ここからアル=カマル料理の話でラヴィも一緒になって盛り上がりながら、手際よく切り分けている。大分細かく分けているのは、ここで仕事が終わる雇人達にもお裾分けがされるからだ。この分配を手伝っていた羅喉丸は、土産話にするからとあれこれ訊かれて、なかなかに忙しかった。
 夜間の見張りはサライと、今夜はラヴィだったが、盗賊捕縛したばかりの開拓者がいるところに、盗人が出るはずもない。代わりに物見高い酔っ払いがちょくちょく立ち寄って、二人を見ると必ずこう言った。
「なんで子供を働かせてるんだーっ」
「「子供じゃありませんっ」」
 酔っ払いに正論は通じないので、途中からは、クロウと羅喉丸が見張りを交代した。

 六日目は、途中で馬車が轍にはまって動かない騒ぎが何度かあったが、開拓者も加わって押せば動き出すまでそうは掛からない。土質のせいか悪路で、大きな馬車ほど時間が掛かる道を予定より早く進み、明るいうちに最後の目的地に荷物を降ろすことが出来た。
「荷物はどうだった?」
「綺麗に数も内容も合ってました〜」
 荷下ろしを手伝ったクロウに尋ねられて、本当に安堵の表情で女性士官が応えた。ラヴィとサライもそれを耳にして笑みをかわし、倉庫まで荷物を運んでやっていた羅喉丸も一安心と表情を和ませる。
 翌日の飛空船では、一晩では寝たりなかったらしいサライがうとうとしている近くで、士官二人が死んだように熟睡していたのを目にした三人は、毛布を取りに行ってやった。