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■オープニング本文 秋です。 ジルベリアではだいたいのところで晩秋に差し掛かり、アル=カマルならまだ初秋の場所もあり、天儀や泰国では紅葉を楽しむのに最適と言われるにはほんのちょっと早いかもしれない、秋がやってきました。 秋と言えば、落ち葉です。 街の中では、そのままにしておくと雨の後に滑って転んでしまいます。 森の中でなら、来年の栄養になるのかもしれません。 畑があるところでは、集めてたい肥にしたりします。 木の葉も落ちると、その後の運命は場所によるのですね。 そして、今。 「芋って、いつ入れるの?」 「直火に入れたら、炭が出来るよ」 「火を落とした灰の中に入れるんだって、言ってるそばから投げ込むな!」 「あっ、だれかお肉焼いてるでしょっ」 「えー、じゃあ、干物も焼いてもいい?」 とある場所で、落ち葉の掃除がされているはずでした。 いえいえ、さっきまではちゃんとお掃除だったのです。 でもでも、だけど、お掃除が終わったら、落ち葉焚きが始まります。 そう、落ち葉を燃やすのです。 そうと決まれば、何を焼きます? |
■参加者一覧 / 御陰 桜(ib0271) / 蒼雀姫(ib7475) |
■リプレイ本文 ご近所で落ち葉集めをするというので、蒼雀姫(ib7475)ちゃんはしっかりと準備をしました。 手には使い慣れた箒、もちろんちり取りも忘れてはいません。後で落ち葉焚きをするから、桶も提げてきました。火を焚く時には、お水がたくさんあるのが安心です、 「姫がささっと集めて来るから〜」 焚火は時々するけれど、落ち葉焚きはほとんどやったことがないので楽しみだと、姫ちゃんはうきうきしています。落ち葉焚きのために、お掃除もやる気いっぱいですが‥‥その頭の上で、なにかが唸っています。 『そんな簡単に終わるなら、わざわざ皆ではやらんのだ』 他の皆さんと手分けして箒を使い始めた姫ちゃんを、相棒の甲龍さんの煙葬さんが眺めているのでした。きっと難しいことを考えているのだと皆さんは思っていましたが、多分お掃除のことを考えているだけでしょう。 もしかすると、姫ちゃんに頼まれて持って来た籠の中身が気になっているのかもしれません。姫ちゃん、それはもう大きな籠を煙葬さんに持ってもらって運んできたのです。 皆さんも中身が気になりますが、煙葬さんに見せてと言える人はいないのでした。煙葬さんはおじさん龍なので、なかなか迫力がありますからね。 とある場所で、皆さんが落ち葉集めをしているのと同じ頃。 わんこ好きの御陰 桜(ib0271)さんは、相棒の忍犬さんの桃さんと雪夜くんをつれてのお散歩にお出掛けしていました。 「ちょっと涼しいけど、お散歩にはいい季節よねぇ」 『そうですね、暑い時は地面からの照り返しが大変でしたから』 本当は桃さんは忍犬さんではなく、闘鬼犬さんと言います。ものすっごい進化して、人の言葉だってお話し出来てしまいます。いきなりお話しすると知らない人がびっくりするので、おうちの外ではたまにしかしゃべりませんが、いつものお散歩道なら大丈夫。 まだお話が出来ないので、わんあんと鳴いている雪夜くんも一緒に、一人と二頭がご機嫌に歩いています。だけどずんずんは歩きません。 どうしてかというと。 「あらぁ、そろそろ冬毛に変わる季節ね」 『わん』 『あんっ』 いつものお散歩道には、いつも会うお友達わんことその飼い主さんがいて、お話が弾むからです。これ大事、とっても大事。 そうやってお散歩している内に、なんだか人がたくさんいるところに出てきました。あれあれ、皆さん、何をしているの? 『なんだか乾いたふかふかした匂いがします』 「乾いたふかふか?」 ふかふかしているものって、そんなに乾燥していない気がするけどと、桜さんは桃さんの言い分に首を傾げてしまいました。 それなら、見て確かめればいいのです。 落ち葉焚き。それは秋の風物詩。 ただ枯れた葉っぱを集めて、火を付けるだけでしょなんて、言ってはいけません。 特に今回は、皆さんで頑張ってお掃除して集めた落ち葉です。おかげでこのあたりはすっかり綺麗になりました。 後は、このふっかふかの落ち葉で焚き火をしながら、美味しいものを食べたりできれば完璧です。多分、きっと、ほとんどの人には完璧。 「甘いものは正義なのっ!」 せっかくだからぜんざいを作っておいたと、ご近所のおばさんが大きなお鍋を出してきてくれて、姫ちゃんは目をきらきらさせています。 甘味、なんて素晴らしい言葉でしょう。この言葉に、姫ちゃんの心はわしづかみされてしまいました。そう、彼女は甘党なのです。 それも、相当重度の甘党。甘いもの大好き。家に甘いものがないと、とっても悲しい気持ちになることもあります。もちろん、よほどのことがなければ常備してありますけれども。 しかし、世の中には甘い正義と縁がない存在もいるのです。 『うむ、匂いだけでも甘い』 誰が聞いても、グルグル唸ったように聞こえますが、多分これは煙葬さんがぜんざいの匂いを避けようとしているだけです。残念なことに、煙葬さんは甘いものが好きではないのでした。 その証拠に、よいしょと立ち上がって移動し始めました。 「煙葬さんは、甘いものが食べられないの。可哀想ねー」 まあなんてことと、皆さんとお話ししていた姫ちゃんが、それに気が付いたのはたまたまです。ぜんざいのお鍋の向こう側、落ち葉焚きをしている火の近くに、見慣れないわんこがちんまりと座っています。背中部分が黒くて、おなかの辺りは白のまだ小さいわんこ。しっぽがぱたぱた、人懐こいわんこのようです。 だけど、飼い主さんはどこでしょう? それに、煙葬さんがいても平気でしょうか? 「君、どこの子かなぁ?」 ぜんざいに心惹かれながらも、姫ちゃんはわんこを抱き上げました。迷子だったら、おうちを探してあげなくてはいけません。ぜんざいは後です、後。 そんな姫ちゃんを、煙葬さんがなんだか心配そうに見ていますが、親切は甘味と同じくらい大切です。それに家族と離ればなれだなんて、可哀想すぎます。 けれども黒白わんこが自分のおうちを言うことは出来ないので、姫ちゃんがどちらから来たのかなと辺りを見回したら、凛々しいお顔の柴わんこがこちらを見ていました。しかも、姫ちゃんを見て頭を下げるではありませんか。 「もしかして、忍犬さん?」 『わう』 なんとお返事もしました。これは相当賢い忍犬さんです。姫ちゃんも実はシノビなので、忍犬さんにはちょっとは詳しいのです。まあ、ちょっとくらいなら。 「もしかして、兄弟なのかな?」 今度は忍犬さんが首を振ります。けれども知っているわんこさんのようです。飼い主さんのことを訊いたら、上手く教えてくれるかもと思ったら、 「あらぁ、落ち葉焚きしてるのね。雪夜ったら、あんまり火に近付いたら駄目なのよ」 向こうからやって来てくれました。どうもお散歩していただけで、迷子ではないようです。 夢ちゃん、ほっとしてにこやかにご挨拶をしました。飼い主さんの桜さんも、にこにことご挨拶を返してくれます。わんこさん達も、頭を下げたり、尻尾を振ったり。 わんこさん達、あんまりお行儀がいいので、落ち葉集めをしていたお子さん達に構われ始めました。雪夜くんは、追いかけっこに早くも混ざっています。 こうなると、桜さんも雪夜くんを置いて帰るわけにはいきません。桃さんが一緒なら帰り道に迷ったりしませんが、お散歩に出掛けたのに一人だけ先に帰るのはおかしいのです。 「いっそ桃も混ぜてもらう?」 ふるふると桃さんが首を振ったのは、お子さん達がうっかり落ち葉焚きの火に飛び込んでしまわないように見ている必要があるからです。大人の皆さんや煙葬さんもいるから、そうそう事故になんかならないでしょうけれど、うっかりなんてことになったらいけません。 だから、ちょっとだけ火にあたらせてもらって、お子さん達の気が済んだら帰ろうと考えた桜さんに、皆さんは優しかったのです。 「じゃあ、一緒にお茶でも飲んでいくといいよ」 よければぜんざいも食べて行けば。 落ち葉集めはしていませんが、せっかくなのでとお誘いしてくれました。火はよく燃えていますし、休憩するのも悪くありません。 けれども、手土産なしにご馳走になるのは、ちょっとかっこ悪いかも。 「だったら、八百屋さんは近くにないかシら? こんな火を見たら、焼き芋が食べたいもの」 ちょっとお買い物に行くわと、桜さんは桃さんと一緒に八百屋さんに行きました。 焼き芋も、秋の魅惑の食べ物の一つ。これを欠かしては、落ち葉焚きの魅力も減ってしまうというものです。皆さんと楽しめるように、気前よくどーんとお芋をお買い上げ。 ちょっとおまけをオネガイする時に、夜春を使ったかもなんてことは、内緒なのです。しー、ですよ、しー。 そうして、ご機嫌に落ち葉焚きをしているところまで戻ったら、雪夜くんはお子さん達は何か別のことをしていました。何か丸っこいものを、踏んだり転がしたりしているような? 「あ、姫はこのいがいがとげとげを持って来たのー!」 火で焼いて食べると美味しいって聞いたから、やってみようと姫ちゃんがお子さん達と踏んでいたのは、栗のいがでした。いがいがとげとげしているから、踏んでこじ開けて、中の栗を上手に拾うのです。 確かに焼き栗も美味しいわよねと、楽しく眺めていた桜さんですが、お子さん達が取り出した栗をそのまま火にくべようとしたので大慌て。 「栗は切れ目を入れないと、すっごーい勢いで飛び出してきちゃうのよ。当たったら、痛いなんてもんじゃないんだから」 もしかして、当たったことがあるのでしょうか。桜さんの説明は、本当にとっても痛そうです。栗は皮が固いから、火に入れると弾けて飛び出してしまうのでした。 姫ちゃんや同じくらいのお子さん達は、苦無や刃物を使って、栗の皮に切れ目を入れていきます。それより小さいお子さんは、お芋を濡らした紙で包みましょう。 お芋も、こうして濡らした紙で包んでから灰の中に埋めて蒸し焼きにすると、焦げ焦げしなくてふっくらとなります。要するに、とっても美味しい。 問題は、 「焼けるまでに、三十分は掛かるのよ」 これです。 時間が掛かって、待つのがとっても辛いことが大問題! とはいえ、今日は強い味方がいました。 「そーれ」 雪夜くんと桃さんに、鞠を投げて取ってこいをするのです。時々、姫ちゃんやお子さんとどっちが早いか競争もしましょう。 桃さんも取ってこいの時は、煙葬さんが火の回りを尻尾で囲います。誰かが飛び込まないように、用心しなくては。 そんなこんなしているうちに、お芋と栗が焼けました。あっつあつなので、拾う時には厚い手袋をするか、火ばさみで取るようにしましょう。 「桃、雪夜、まだ熱いから待て、よ」 ちょこんと座って、早くちょうだいとじーっと桜さんを見ていた雪夜くんが、『待て』にがっくりしてしまいました。でも本当に熱いから、冷めるまで食べてはいけません。わんこだって、猫舌なのです。 煙葬さんにも姫ちゃんがお芋と栗をくれましたが、実はぜんざいと一緒に用意してある酢漬けの方が気になっているみたい。甘いもの大好きではない煙葬さん、姫ちゃんが苦手な酸っぱいものが大好きなのです。 それに気付いたのでしようか。それとも偶然? ぜんざいを作ってくれたおばさんが、桜さんや姫ちゃんに美味しそうなお漬物なんかも出してくれました。もちろん皆さんと一緒に食べるのです。一人占めなんかしませんとも。 更には、なんと。 「ぜんざいに、芋と栗も入れてみる?」 すでに白玉が入っているぜんざいに、お芋と栗まで! 「「もちろん!」」 いいお返事をしたのは、二人だけではありませんでした。 お芋は一口大、栗は半分に、桜さんと姫ちゃんがサクサクと切っていきます。包丁ではなく、苦無とかを使っているのは気にしたらいけません。 ちゃんと他の皆さんの分も切って、自分で好きにお椀に入れられるように大き目のお皿に盛りました。そのまま食べても美味しいけれど、小さく切って、ぜんざいにいれたら。 「は〜、美味しいわぁ」 桜さんが言う通り、美味しくない訳がありません。 小さく切ったので、冷めやすくなったお芋を、最初の分は食べてしまった雪夜くんが狙っています。ぜんざいにも興味津々ですが、残念、たくさんのお砂糖とちょっぴりのお塩が入ったぜんざいは、雪夜くんには食べさせられません。 おなかを壊したらいけないので、桃さんが『めっ』としています。味付けが濃いものは、わんこには向かなくて残念でした。 龍さんも味付けが濃いものはたくさん食べ過ぎると、やっぱり体に悪いかもしれません。けれどもちょっとくらいなら食べてもだいたい平気でしょうに、煙葬さんはぜんざいに見向きもしません。 「もー、煙葬さんがお漬物食べ始めたら、皆の分がなくなっちゃうよ」 そう。酢漬けが美味しいので、ひたすらもぐもぐやっています。たまにお芋や栗を食べて、自然の甘みを満喫すると、また酢漬け。 酸っぱいものは得意ではない姫ちゃんが、そんなところを見てしまい、しっぶーいお顔になりました。だけど姫ちゃんも、たくわんはせっせと食べています。他の人の倍くらいは、ぽりぽりとやっているのではないでしょうか。 もちろん、ぜんざいの合間です。ぜんざいの方が、いっぱいおなかに入っていきました。お芋と栗も、負けていません。どんどん、おなかに突撃です。 「はぁ、食べすぎちゃったかも」 しばらくして、先に音を上げたのは桜さんでした。だけど、姫ちゃんも苦しそう。 美味しすぎるものは、ついつい食べ過ぎてしまうので、危険かもしれません。うんとお若い姫ちゃんと、ぼんきゅっぼんが自慢の桜さんは気にしませんが、お洋服がきつくなる副作用も存在しない訳ではありません。 「よーし、雪夜くん、鞠なげしよう!」 おなかいっぱいになってしまったら、動けばおなかがまたすいてくるはず。 そうしたらまた食べてやると思っているのか分かりませんが、姫ちゃんが立ち上がって、雪夜くんと追いかけっこを始めました。 「今走ったら、大変なことになりそう」 『シノビともあろう者が、そんなことでどうしますか』 一緒に走り出せない桜さんは、桃さんに叱られています。でも、今日はお仕事がないので、桃さんもそれほど厳しくありません。 やはりお休みだからでしょうか、煙葬さんは色々食べてから、気持ちよさそうに寝始めました。 「桜さーん、鞠投げてー」 「はいはい、また煙葬にぶつけないように、気を付けてねー」 そう。さっきはうっかり煙葬さんに鞠をぶつけました。ついでに雪夜くんもぶつかりました。 今度はそんなことがないといいのですが‥‥ 『こらっ』 『わんっ』 また、何かが起きたようです? 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