おもてなししてあげる
マスター名:龍河流
シナリオ形態: イベント
相棒
難易度: 易しい
参加人数: 4人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2014/10/14 05:44



■オープニング本文

 ここはジェレゾの開拓者ギルド。
 時間は正午を過ぎて間もない、普通の午後。
 そのはずだが。

「お父さーん、あのねぇ」
「うちのお母さん、知らない?」
「おーにーいーちゃーんー!」
「お姉ちゃんはお仕事、何時に終わるの?」

 どういう事情か、依頼の受付をするカウンター前には子供達がたむろしていた。
 年頃は一番上が十二、三歳。小さいのは、その背中に背負われている一歳くらい。
 会話から察するに、ギルド職員の子供や弟妹だろう。
 人数は二十人ほど。
 いや、ギルドの外にもちょろちょろしていたのが仲間だとしたら、三十人前後はいる。
 今日は家族の仕事場見学でもやっているのかと思いきや、職員のいずれもが『早く出ろ』と口にしている。
 何をしたくて、この子供達は押しかけて来たのかと眺めていると。

「じゃあ、おかあさん、きょーはおかいものしてこなくていいからね」
「皆で買い物に行ってくれるの? お店に迷惑かけないのよ」
「だいじょーぶ! あと、ごはんもつくっておくからね」
「えっ、誰と料理する気っ!!」
「だいじょーぶー!!」

 まったく大丈夫そうには聞こえない、四歳かそこらの女の子の一声を残して、子供達はあっという間に外に出て行った。
 目の前の通りで、年長者達が年下の子供達を班分けしている。班ごとに、すでに仕事が決まっているようだ。

「よし、買い物に行くぞ」
「「「「おーっ」」」」
「いーい、皆のおうちにお鍋を取りに行くわよ」
「「「「はーい」」」」
「それじゃ、うちでご飯を作る用意をしようね」
「「「「いこー」」」」

 最後の班を連れて行こうとしているのは、よくここのギルドで見る女の子だ。依頼を出したこともあるので、知っている者は少なくない。
 ギルドマスターの長女のカーチャだ。九歳のはずだが、幼児も含めて八人ほどを率いて、堂々と歩き去ろうとしている。
 しかし、流石に自分達がものすごく注目を浴びていることには気付いたらしい。理由がよく分かっていないのは、年齢が近い開拓者ほど世に慣れていないからだろう。
 とにもかくにも。
 どうかしたのかと問われた顔見知りの開拓者は、一体彼女達がどこで何をするつもりなのかを尋ねてみた。

「最近、お父さん達がすごく忙しそうなの。でも、ご飯作ったりしなきゃいけないと、寝る時間なくなっちゃうじゃない? だから今日は、皆でご飯作ってあげることにしたわけ」

 簡潔にまとめると、仕事と家庭の両立に多忙を極める家族の為、子供達が食事の支度を思い立ったということだ。
 調理は台所が広いカーチャの家でやるのはいいとして、買い物の代金はどうするのかとか、そもそもこの子供達が家族の分も含めて何十人分もの料理が出来るのかと、心配になることが幾つもある。
 けれども、子供達は細かいことなど気にしない。気前良く、開拓者達にもご馳走してあげると言い出した。

「一緒に来る?」

 おもてなししてあげると言われたが‥‥
 さあ、どうしよう?




■参加者一覧
/ 十野間 月与(ib0343) / サガラ・ディヤーナ(ib6644) / 春陰(ib9596) / 雁久良 霧依(ib9706


■リプレイ本文

●お鍋回収班
 買い物や料理の準備に向かった人数に比べると、こちらの『お鍋を取りに行く』集団は、いささか年少者が多かった。もちろん集まっているのが子供達ばかりで、春陰(ib9596)から見て年少者なのは当たり前だが、その中でも小さい子供が目立つ。
 そんな彼ら彼女らにご馳走してあげると誘われた春陰は、人や荷馬車の往来激しい通りを移動する注意力散漫な集団の見守り役を自らに任じて、一緒に歩き始めた。十二歳くらい、この中では年長の子供が前後を挟んでいるものの、十五人からいる子供達全部に目配りするのは難しかろう。
 もちろん表向きはお誘いを受けたので、皆の家を回るのに付いてきただけ。子供の安全を守るために見守るのは大切だが、一生懸命に年下の面倒を見ている少年達の頑張りを邪魔するつもりはない。いきなり道の真ん中に飛び出そうとした子供を、小脇に抱え上げるくらいだ。
「いきなり飛び出したら怪我するんだぞ。お兄さんに手繋いでもらえ」
「おじちゃーん」
「この人はお兄ちゃんだってば」
 怪我さえしないなら、ついでに目的が達成されるのに無闇と時間が掛からなければ、春陰は自分がお兄さんでもおじちゃんでも構わない。五歳かそこらの女の子におじさんと呼ばれても不思議はない歳だと自覚しているが‥‥
「お兄ちゃんだってば!」
「おじちゃんなの!」
 それで言い争われるのは、あまりにも気恥ずかしかった。いつの間にやら、子供達は彼の呼び方でやいのやいのと騒ぎ始めている。
 当然だが、一行はまるで歩くことを忘れてもいた。

●お料理準備班
 子供達の自主性を尊重して、買い物から料理まで任せる。しかも台所を自由に使う許可まで与えるとは、なんて懐が深いのだろう。
 こんなおおらかな気持ちで育てられるから、この子達は他人にも優しいに違いないと、料理と聞いて付いてきた十野間 月与(ib0343)は感激していた。
「そお?」
「あれ、そう思わない?」
 料理の手伝いをしようと考えている月与と対照的に、完璧におもてなしされるつもりだけで付いてきた雁久良 霧依(ib9706)の思考は冷徹だった。というより、先程のギルド内でのやり取りを見ていたかどうかの差であろう。
 多分きっと、この子達の家族は誰も、こんな大集団がギルドマスターの家の台所で好き放題しでかすつもりだとは思ってもいない。霧依が数えたところ、よちよち歩きの幼児も含めて三十一人。一番多い年齢層が、ぱっと見たところで八、九歳。まともに料理が出来ると考えるのは、楽観的に過ぎる。
 もちろん月与も子供達の心映えに感激したのであって、料理の腕前まで過信はしていない。単純に親の容認具合の見定めが、霧依と違ってずれただけだ。彼女はギルドの外で声を掛けられたので、これは致し方ない。
 よって、霧依は月与に正確な情報を提供した。子供達は確かに自主性豊かに自ら家族の手伝いに立ち上がったのだが、多分に勢いだけなのだ。料理を手伝う気は霧依にない以上、美味しいものを食べるためには他の三人に頑張ってもらう必要がある。
 否、霧依は子供達が作ってくれたなら、大抵なんでも美味しい。でも子供達も美味しいと思う方が、食事は楽しいに決まっているので、やはり他の三人に頑張ってもらいたい。
「という訳だから、ご指導よろしくね」
「そういうことなら、おうちの方にも喜んでもらえるようなものが用意出来るといいわね」
 ちなみに。
 月与に何を作るつもりかと尋ねられたカーチャ達は、至極当然といった顔で『買物して来た材料で考える』と答えたが‥‥そこまでの腕前なのか、年齢的にも不安である。
 なにはともあれ、到着した台所は個人宅とは思えない広さと調味料、道具の豊富さで、月与のやる気をいや増している。

●買い物班
 誰がお金を持っているのか分からないが、意気揚々と生鮮品を商う店舗が並ぶ通りに到着した子供達は、いきなり計算で大混乱をきたしていた。
「ほらほら、慌てないでください。一人ずつ、おうちの人の数を言えばいいんですよ」
「うちはねー、ごにん」
『あ、この子んちは六人だよ。ワーリャ、自分を数えたのかい?』
「んとんと‥‥ななにん?」
 青果店の軒先でわいわいやっている集団の真ん中には、ギルドから付いてきたサガラ・ディヤーナ(ib6644)がいる。年齢的には周りより少しお姉さんなだけだが、そこは開拓者。計算などお手の物のはずだが‥‥
「ええと、本当は六人ですね?」
「んとねー」
『六人』
 買い物しようと店の前まで来て、そもそも何をどれだけ買うつもりなのか、子供達がまるきり無計画だったと判明した。大体何を作るのかも決まっておらず、それでは買う物も決まらない。子供達は自分の食べたいものを作りたいようだが、てんでばらばらの主張にはまず作れなさそうな料理も結構混じっていた。
 ならば全部で何人分の料理が必要なのかを確かめ、それから子供でも出来そうな料理を検討すべきとしたサガラの判断は正しい。問題は、子供達の中にまだ数を数えるのがおぼつかないのが混じっていたり、この場に来ていない子供の家族の人数が何軒分かはっきりしないこと。
 合間に仙猫吹雪の助言を得ながら、ようやく計算し終えた数はおおよそ百人分。どこの食堂かと思う人数だ。
「お、お金、足りるでしょうか」
 子供達には夜には肌寒いジェレゾの気候を考えて、野菜のスープなど勧めてみたサガラだが、この人数分の材料となると軍資金も相当必要だ。立替払いが必要になった時、財布の中身が心配で仕方がない。
 それと、そんな大量の材料をこの人数で持って帰れるのかというのも、心配の種だった。彼女が頑張っても、持てる量には限りがある。
『ほら、急ぐよ』
 荷運びでは全く戦力外の吹雪が、偉そうにサガラを顎で促していた。

●集合したから、まず
 ギルドで別れてから、実に二時間の後。
「おっそーい!」
「あらまあ、お嬢様もお坊ちゃまも、お疲れ様でした」
 大小様々なお鍋を抱えて来た春陰と子供達、その何倍もの大荷物を担いだサガラを迎えたのは、カーチャの怒鳴り声と月与のおっとりした出迎えだった。前者は子供同士でぶいぶいやり取りし始めたのでいいとして、後者はギルド前で別れた時と様子が違う。
「どうなさったんですか?」
「せっかくだから、お茶をしようかと思って。こういうのも楽しんでもらえそうでしょ」
 買い物班の応援にからくりの睡蓮を送り出していた月与は、荷物の大半をサガラと二人で担いできた相棒から、立派な執事風上下で決めているというのに魚の切り身など受け取っている。似合わないことこの上ないが、子供達でそう思ったのはごく少数派だ。
 なにしろ自分や友達の家から鍋を一つ二つ取り出してくるだけで、二時間掛かった鍋回収班は、何をどうしたものだか疲れている。あちらこちらの台所で、鍋を取るだけでいいはずが色々ひっくり返し、それで何人かが喧嘩を始める、掃除に手間が掛かると、すんなり事が進まなかったからだ。
 これはもう春陰や少年達の尽力だけでは、ちょっと手が足りなかった。途中で怒られた子供達も、しょげかえっている。
 単純に疲れ果てているのは、買い物担当の子供達だ。こちらは荷物をどう運ぶのかまるで考えていなかったものだから、サガラと睡蓮が大半を引き受けてくれたとはいえ、一人ずつ結構な量の荷物を運んできた。道々サガラに励まされながら持って来たものの、流石に慣れない仕事にへたばっている。
 ちなみに支払いはマーシャがジノヴィ・ヤシンの子供だと知っている店ばかりで、後でまとめてそちらに請求してもらえることになった。いわゆるツケ払いで、サガラの財布は無事。もちろん全部の料金は覚書を貰ってきたが、実に十七軒分なのでなにやらとんでもない数字になっている。
 しかし。
「あらぁ、おもてなししてくれるんじゃなかったかしら? 楽しみにしているのに、ご飯作る前から元気がなくなっちゃうなんてひどいわぁ」
「「「「ずるーい」」」」
 霧依が自分だけ優雅にお茶を持って出て来たので、子供達から一斉に非難の声が上がった。それはもうすごい勢いで、今まで来るのが遅い、大変だったんだと言い合っていた子供達がすっかりまとまっている。
「おじちゃん、お水のもー」
「そうだね、手も洗わないと駄目だよ」
 すっかり一部からはおじちゃん扱いの春陰が、料理をするならしっかり手を洗ってと皆を促すと、ひとしきり騒いだ子供達は勝手知ったる他人の家にどやどやと入り込んでいった。サガラも子供達に手を引かれて、一緒になだれ込んでいる。
 楽しげにそれを見送っていた霧依は、春陰にも『早く行かないと、何にもなくなっちゃうわよ』と言い置いて、猫のような足取りで子供達を追い掛けていく。
「なくなる?」
 何のことだろうと思った春陰の耳に悲鳴、ただし嬉しそうな響きのそれが届いたのは、この時だ。
「何を作るか決めていないって言うし、どう聞いても作る分量が多いから、手分けして作りやすいものと思って、まずは試食ね」
 台所にあった材料で月与が作っておいた叉焼包は、あっさりと子供達のおなかに収まった。サガラは仲間扱いで誰かが確保してくれたから食べられたが、春陰と霧依はかろうじて残った一つを半分こである。月与は味が分かっているからと、味見はなし。
 実質的なおやつで気持ちが落ち着いた子供達は、こういうお料理を作るのだと大半は元気になった。けれども幼児の半分は、お昼寝の時間である。誰が子守りをするかでまた言い合いになりかけたが、これは霧依が引き受けてくれた。
「ちっちゃい子の匂いっていいわぁ」
 この言い様について、月与と春陰は聞かなかったことにしている。霧依が寝ている幼児を抱え込んで、頭のてっぺんをくんかくんかしていたとしても、良くある愛情表現だと思えばいい。なんだか目付きがうっとりしすぎだとしても。

●おやつを食べたら、お夕飯を作ろう
 料理にはまず参加出来ない年代の幼児が減って、二十五人ほどになった子供達は、カーチャをまとめ役に作業開始と相成った。叉焼包は誰もが作ってみたいが、必要量の叉焼を買ったら家族が怒りそうだと察して、まず買ってきた材料で作れるものに取り掛かる。
「ええと、このお野菜を切ればいいんですね。誰か、一緒にやりませんか?」
 野菜のごった煮に近いスープ作りを始めた子供達に混じって、サガラが芋の皮むきを始めていた。周りに彼女より少し年下の女の子が集まって、ここは器用に作業を進めていた。
「皮の色が変わっているところも、厚くむきましょうね」
 今日買った芋は、ところどころ傷があるので皮むきの時にそこもくりぬかないといけない。あまりに大量の買い物で、費用が心配になった年長の子供達に、店の人がこれなら安くしてあげるとかなり値引きしてくれたものだ。下拵えの仕方はサガラも一緒に教えてもらったし、味は変わらない。下拵えを丁寧にやれば、味は高いものと変わりない。
 刃物を使うのに心配がないこの一団は、いかに丁寧に仕事をするのかを目標に、黙々と芋の皮むきをやっている。むかれた芋はその弟妹達が回収して、水遊びよろしくごろごろ洗っていた。次は人参の皮むきが続く予定。
 そこは何の心配もなしと判断した春陰は、五、六歳児の集団に付ききりになっていた。ただいまの彼らの仕事は、長く連なった腸詰を一本ずつ切り離していくこと。終わったらそれを大鍋に入れて、水を張る。これだけだ。
 しかし。
「ほら、鋏は人に向けたらいけないよ。ここを切るだけだから、振り回さない」
 腸詰も彼がずっしりと感じる量だから、切り離すのも一仕事。調理用の鋏が三つあったから、三人ずつ、一定量を切り離したら交代と決めたのに、何故だか子供達は順番を争って喧嘩をする。
 多少の衝突は見ていても良いけれど、刃物を持っては駄目だと教えなくてはいけない。これは刃物遣いの基本ゆえ、春陰はぱぱっと全員から鋏を取り上げて、駄目っと一言言い渡した。
「美味しいものを作りたいなら、喧嘩をしたら駄目ですよ。喧嘩しながら作ったものが美味しくなるか、月与さんに訊いてごらんなさい」
 皆で楽しく作ったから美味しいって言いたいだろうと、子供にも分かりやすい言葉を選んで言い聞かせる。子供達も常と違うことに興奮していただけだから、言われれば納得して、順番を決めて作業を再開した。流石に鋏で腸詰の捻じり目を切るくらいは、落ち着いていれば危険なことなどない。
 後は水を入れ過ぎないように、注意しておいたらいいだろう。野菜も入るから、最初は少ないくらいで十分だ。
「あっ」
「いっぱい入れた〜」
 言う前に、かなり鍋には水が入っていた。
 不要な水は鍋から汲み出して、別の鍋に移して、さてどうしようか。
 野菜たっぷりスープ以外の料理もするのだと息巻きながら、野菜を九歳とは思えない手つきで切りまくっているカーチャの希望に応えるべく、月与は買い込んだ材料を眺めている。水は帰る前にお茶を沸かせばいいとして、魚をどう料理するのがいいものか。
「新鮮だから、焼いただけでも美味しいと思うけど‥‥それじゃあんまりだし、手が掛からなくて、火加減も神経使わないのって」
 それぞれの家庭の好みもあるから、天儀風の味付けは今回は遠慮した方がいい。いっそ味付けも各人で出来るようなものはあったろうかと、魚と台所を交互に見て、
「蒸し料理で、冷めても美味しい物だと」
 何か思いついたようで、睡蓮に手伝わせて、魚の切り身から小骨を外す作業を始めた。やがてカーチャや料理好きの子供が加わって、切り身をばらばらにしそうになりつつも、小骨取りを習得していく。
「出来た、と思う」
「そこはね、もうちょっと上方向に引っ張ると、身は崩れないわよ」
 最後の方では、スープを煮込むだけにしたサガラや春陰が覗きに来たが、切り身の幾らかは崩れた状態。これをどうするものかと思っていると、野菜の追加を頼まれた。スープは大振りに切ったが、今度は千切りである。
 刃物遣いの指導が春陰から厳しく飛び、お手本はサガラが見せて、床にバラバラと欠片を落としつつも、千切りはなんとか出来上がった。
 これを魚と一緒に鍋に入れて蓋をきっちり閉め、少しだけ水を加えて弱火に掛ければ、しばらくすると軽く蒸された状態の魚と野菜が彩り綺麗に‥‥なっているかは、詰め込んだ子供の腕前いかん。
「ほほぅ、これを取り皿に受けてから、自分で好きな味を付ければいいのね。皆は何味が好きかしら〜?」
 味見にと、スープや魚と野菜の蒸し物を差し出された霧依は、にこにこと子供達のお勧めを聞きながら、こればかりは月与が作った漬けだれや他の調味料を色々と選んでいた。結局マーシャがこれと出したのに決めて、
「はい、あーん」
「あーんするの?」
 口に入れてちょうだいとやり出した。マーシャは大人なのにと言いつつ、勧められるままに膝によじ登って、漬けだれをたっぷりつけた魚を霧依の口まで運んでやった。
 漬けだれの量が多過ぎて霧依がむせたのは、おふざけの結果だから仕方がない。それでもマーシャが膝から転げ落ちそうになったのを、ちゃんと受け止めたのだからたいしたものだ。ついでにぎゅうぎゅう抱きしめて、子供達にけらけらと笑われていた。
「大人なんだから、一人で食べればいいのよ」
「でもお姉さん、甘えんぼなのよ〜」
 だからもう一回ねと、流石に先程の様子では味が分からなかったらしい霧依が懲りないお願いを今度はカーチャにして、スープも魚と野菜の蒸し物も美味しいと褒めちぎった。凝った味付けではない分、丁寧に下拵えした野菜の歯ごたえがいいとか、スープに腸詰の塩味と出汁が効いているなど、なかなか適切な誉め方だ。
「おうちの人が外でもお仕事するようなら、もう少し塩を足すといいんですよ」
「このお野菜、美味しいですよね。ボクも今度からスープに入れてみよう」
 子供達の貢献度はそれぞれながら、料理が出来ればいずれも満足そうだ。と、そこに月与が声を掛けた。
「ご飯の最後に甘いものがあると嬉しいでしょう? ちょっとずつだけど、パンケーキを焼いて、持って帰りましょうか」
 皆で順番に、おうちの人の分から作ろうと誘われた子供達が、わあと声を上げてかまどの方に向かって行った。
 その様子を見送った霧依は、彼女が味見したスープの匙をおもちゃにし始めた幼児を膝に乗せ直して、しみじみとこんなことを考えた。
 この後、スープが入った鍋と蒸し物入りの容器、パンケーキの乗った皿を持たせた子供達をそれぞれの家まで送り届けるのは、きっと大変だろうな‥‥
 もちろん、おもてなしされるだけと決めている彼女は、それは自分が手伝うことだとは思っていない。
 手伝う三人は、そういう苦労も楽しそうだった。