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■オープニング本文 魔の森が、大アヤカシが、それが一区切りつけば旧世界がどうしたと話題が尽きない日々の中。 ふと思い付いたのが、相棒達のこと。 走り回りたいものは、広い場所に連れて行き。 飛び回りたいものは、邪魔するものがない場所に。 泳ぎたいものは、水がきれいなところへ。 のんびりしたいものは、とりあえずそのまま。 食いしん坊には、お財布が痛まない程度に美味しいものを。 それから、あれもこれも。 これで一通り、相棒達の日頃の苦労には報いたかなと思った矢先。 物言わぬ相棒の事を思い出した。 駆鎧と言い、アーマーと呼び。 グライダーと呼び、滑空艇と言い。 飛空船とて、人によっては含まれる、物言わぬ相棒達。 それぞれに個別の名前があるものだが、あいにくと他人に呼んでもらうことはなかなかない。 たまには存分に、彼らのために時間を費やしてやってもよいのではないか? そう思ったのは、そろそろ秋の声を聞く九月のある日のことだった。 |
■参加者一覧
リィムナ・ピサレット(ib5201)
10歳・女・魔
ルゥミ・ケイユカイネン(ib5905)
10歳・女・砲
八塚 小萩(ib9778)
10歳・女・武
ウルイバッツァ(ic0233)
25歳・男・騎 |
■リプレイ本文 アーマー「人狼」、名前は赤城山五十號。それが八塚 小萩(ib9778)の愛機の名前だ。故郷に威容を誇る山と、そこを通る街道の名前を冠している。小萩にとっては、たいそう愛着もあり、いい名前だと思っていた。 そもそも武僧でありつつ、駆鎧を持つのだと決意したのだから、愛着はあって当然。整備も自分でやろうと決意して、専門家の指導を受けつつ、赤城山五十號の外装を外して磨いているところだった。 「あちこちへこみがあるのう」 本来は成人した騎士のために設計されたアーマーを、操縦席だけ小萩の体格に合わせて調整した以外、まったく改造も特別な改装もしていない機体である。整備も外見を変化させることは考えず、稼働性能の維持を第一としていたから、自分が思っていたより傷んでいた。 これは念入りに整備して、外装も立派なものを検討してやらねばと、小萩は磨き布を持つ手に力を込めた。色々と彼女なりに考えてはあるのだが‥‥希望を聞いたアーマー整備士達は、なんとも微妙な顔付きになっていた。 何はともあれ、ようやく駆鎧との付き合い方も分かってきた。この機に大規模な整備と改装をと願う小萩は、整備士達が自分の伝えた外装の模型を作って来てくれるのを待っている。 「これ、どうよ?」 「本人に見せたら、首傾げるんじゃない?」 別の部屋では、整備士達が困惑もありありと、出来上がった型を眺めている。 アーマーにも幾つか種類があって、ウルイバッツァ(ic0233)が相棒としているのは「人狼」改のスメヤッツァだ。先だってもアル=カマルで、瘴気をまき散らすナックラヴィーとの戦いで活躍してくれた。 生物ではないから瘴気の影響は些少だろうが、ジルベリアでは体験することがない砂漠地域で稼働させている。しばらく本格的な整備もしていなかったからと、スメヤッツァを機械ギルドの専門工房に預けたのは数日前のことだ。 今日のこの時間には、整備が完了しているからと言われていたので訪ねてみると、預けた時には空いていた区画に、別のアーマーとグライダーが置かれていた。やはり整備中なのだろうが、どちらも持ち主らしい子供しか近くにいない。 一人でアーマーやグライダーの重い部品を持ち上げているところと工房の人と異なる服装を見れば、持ち主の開拓者だろうと察しはつくが、どちらもどう見ても子供だ。ウルイバッツァの半分くらいの年齢に見えるのだから、子供と呼んでもいいだろう。 「ふぅん、自分で整備するとはたいしたもんだ」 片方は随分手慣れた様子だし、もう片方はなにやら整備以外のことを考えているらしい。他人のアーマーやグライダーを依頼で見ることはあっても、その造りや外装のこだわりなどを話し込む時間はほとんど持てた試しのないウルイバッツァは、興味を惹かれて、そちらに近付いて行った。 毎日、大変に忙しい。 アヤカシを退治したり、友達と遊びまわったり、アヤカシ退治に出掛けたり、おねしょの後始末を画策したり、アヤカシを打ち払ったり、美味しいものを食べ歩いたり、アヤカシを殲滅してみたり、姉におねしょを怒られたり。 今日は珍しくゆっくりと時間が取れたので、リィムナ・ピサレット(ib5201)は愛機の滑空艇・改弐式マッキSIを本格整備することにした。実は自宅でやっても、整備士に負けず劣らずの仕上げをする自信があったりするが、部品の予備を一通り抱えているわけではない。 「あー、やっぱりこっちで良かったみたい。すごいすり減ってるや」 原型が分からないくらいにバラバラにした部品の真ん中で、リィムナが幾つ目だかの部品を、傍らの籠に投げ込んだ。摩耗が激しくて、新品と交換した方が早い代物を入れておく籠だ。 外装は何度か手を入れているから、鍛冶師に頼んで特別に直してもらわねばならない傷などはない。問題が一つあるが、慌てるほどのこともなかった。 最大の問題は、合流するはずの友人が姿を見せないことだが‥‥ここまで派手に店を広げて、そのままで様子を見に行くわけにも行かない。リィムナは、時折首を工房の入り口に向けつつ、手際よく作業を進めていた。 胡坐をかいて座り込んだ膝の上には、交換する部品の名前を列挙した紙が広げられている。それだけで、ここの整備士達なら素早く新品を差し出してくれるだろう。 機械ギルドの工房にいる人々は、全員が整備士という訳ではない。中には会計を担当する数字に強い人間や、工房によっては料理人を抱えているところもある。後者は、そこの整備士達が食事に出る暇も惜しんでアーマーと戯れていたいような連中で、真っ当な生活をせずに倒れるのを防ぐためだと噂されるが、多分その噂は真実だろう。 それはそれとして、別の珍しい職種に造詣師がいた。新たな機体の開発に際して模型を作るのから始まり、外装を既存のものから変更したいこだわり派に実物大の模型を作って見せるなど、仕事は多岐に渡る。 本日、工房を訪れたウルイバッツァは、たいそう珍しいものを目にすることが出来た。整備士や作った当人も苦笑しているのだから、自分の感性が一般と著しくずれているわけではないと言い聞かせる。 「これは、どうするんだ? 随分可愛らしい代物だが」 「換装したいって希望があるんで、試しに作ってみた。どういう風になるか、興味があってね」 あんたが言ったら、頭を冷やせと言うところだと示されたのは、たいそう可愛らしい仕上がりの小馬の頭風のアーマー頭部。もう一つは子豚だろう。遠目に見れば可愛く見えなくもないが、アーマーに着けたらどうなるものか。 これは、先程入ってきた時に見掛けた二人の片方が頼んだと聞いて、ウルイバッツァもあの年頃なら喜ぶかもしれないと思い直した。出来はいいのだ、巨大なだけで。 ちょうどいいから運んでくれと頼まれて、ウルイバッツァが頭部を持ち上げてみると、布製の張りぼてだ。もっと確実に実行しそうなら、木製の小型模型から作り始めるようだが、まだ悩んでいるようだから布で作ったとか。細い木材で骨組を組んで、割としっかりしたものではある。 「あ、出来上がったか?」 「僕は運んできただけだがね。一つ、訊いていいかい?」 騎士のウルイバッツァには、馬を模した頭部はまあ納得が出来る。兜に動物をあしらうのは、良くある話だ。しかし、それに豚は珍しいから、何かいわれがあるのかと、胸を張って名乗ってくれた小萩に尋ねてみた。もちろん、その前に自分も名乗り返している。 すると。 「この機体は、赤城山五十號。我の故郷の名峰からその名を付けたのだが」 滔々と故郷解説が始まり、山麓では畜産が盛んだと多種多様な家畜の名前が列挙された。その中から、仔馬と小豚を選んで、頭部を挿げ替えてみようと思ったらしい。 「今までも色々考えはしたのじゃ。しかし我のような駆け出しが、姿形だけこだわるのも見苦しい。最近、ようやく駆鎧の何たるかが見えてきた気がしてきたから、少しばかりの改造も良いかと思ったのだ」 面白がって付いて来ていた整備士達が、案外しっかりした子だったと小萩を見る目を変えている。ウルイバッツァも理由は違うが、話し相手によいと考えた。 なぜなら、彼も愛機の更なる改装を計画はしている。「人狼」改から「戦狼」への改装だ。しかし自分の技量にまだ足りないところがあると、未だ修業中の身である。実際は先に改装を済ませてしまうと、機体へ慣れるために技量を上げる余裕がなくなるのが理由にしても、気の持ち様が似ている相手との会話は悪くない。 けれども。 「ふっ」 「‥‥‥‥馬の方が、勇ましいんじゃないか」 大半は整備士達が行ったが、小萩が磨きに磨いた部品を再度組み上げる中で、子豚の頭部を赤城山五十號に乗せてみた。思わず当人が失笑したくらい、違和感がすさまじい。 改めて、仔馬の頭部に挿げ替える。だが、こちらも可愛らしく作ってあるのが災いして、違和感では大差なかった。 「うぅん、この頭に合わせて全身を変更するとしたら」 悩み始めた小萩に、誰も止せとは言わない。当人がそれでいいなら、工房には珍しい発注でいい経験だし、そうでなくても自分が悩んで決めた方がすっきりするだろう。 その間、つぶらな瞳が可愛らしい仔馬の頭が載せられた赤城山五十號は、かわるがわる覗きに来る工房の面々の笑みを誘っていた。この様子に、とうとう愛機の整備を途中の切りがいいところで休止したリィムナが見に来て、 「うっわ、これ組み立てるの? すごい斬新だね!」 これならどんな戦場でも、誰の機体か一目で分かると大笑いしながら、こう口にした。 小萩は笑われたのは気にならないようだが、リィムナの感想は何か引っかかったらしい。 「そうか、我の駆鎧と一目で分かるか」 「そりゃぁ、分かるでしょ。あれ、そのつもりじゃなくて?」 「違う。理由は後で聞かせようが‥‥うむ、今回はこの改装は見送ることにしよう」 自分の力量で目立ちすぎる機体に乗るのはおこがましいと言い出した小萩だが、やはり何かしらの変化は欲しいのだろう。 「強化の定番はツノじゃないか? 見た目なら、僕は鬣を付けるよ」 「グライダーでも付ける時あるもんね。たてがみは見ないけど」 人狼に角を付けるとこんな感じと、ウルイバッツァの言葉に応じた整備士の一人が、手持ち黒板に白墨で絵を描きだした。小萩は真剣な面持ちでそれを見詰め、故郷の山に通じるものがあるかと考え込んでいる。 そうしたこだわりはないリィムナやウルイバッツァは、もう少し呑気かつ見た目重視の変更について話し込んでいたが、途中でリィムナが自分のグライダーが外装を外したままだと思い出した。 「あたしも作業しなきゃ。キルマーク、どうしようかなぁ」 キルマーク、撃墜数表示と聞いて、興味を持ったのはウルイバッツァと小萩の二人だけ。整備士達は何を示しているものか知っているから、今より赤く塗るのは難しいねとからからと笑っている。 愛機の外装変更を検討している二人は、グライダーと種類は違うがどういう模様かと見に行って。 「これ、何個あるのじゃ?」 「途中から、分かんなくなった」 範囲攻撃を多用するようになってから、数えようがなくなった。確かにその通りだが、小萩が大雑把にどのくらいかと尋ねたのに、五桁と返ってきたから二人ともしばし呆然とする。小萩など、まだまだ外装変更など出来ないと妙に高い目標を持ってしまったかもしれない。 しかし、キルマークも結局アヤカシには通じないのだし、数を競いたい訳でもないと、リィムナはさばさばしたものだ。ではどうして描き始めたかと問えば、舌をぺろりと出してこう言った。 「だって、友達やお姉ちゃんがすごいねって言ってくれるもん」 「なるほどな。人に喜んでもらえるのは悪くない」 「うん、いいことだな」 やはりアーマーやグライダーは自分が好きなのはもちろん、人の役に立つことも大切だと、三人は意見の一致を見た。そうなると話も弾むというもの。 ウルイバッツァもアーマーケースから愛機を取り出し、いずれと考えている外装変更の計画を語りはじめる。そこに容赦なく二人が『それは今ひとつだ』と駄目出しをしたり、誉めてみたりと忙しくなった。 鬣に追加宝珠の力を流して、機体が浮いているように見せたいというのは、確かに意見が分かれるところだろう。世の中には見た目より性能重視の人も、反対の人もいる。 角は反対意見もなかったので、割と真剣にどういう形状が良いかと絵が達者な整備士も巻き込んで、ひとしきり皆で騒ぐ。その間にも、リィムナは少しばかり、小萩はかなり整備士達に手伝ってもらって、機体整備を終えた。 リィムナの機体は結局ほとんど変わりなく、小萩は悩んだ末に大幅改造をして動きにキレがなくなっては本末転倒と、胸部に機体名を刻印することに決定した。 ただ、残念なことに刻印出来る整備士が他の機体に掛かっているので、それが終わるまで一時間は掛かると言い渡された。整備に夢中になっている一時間はあっという間だが、待っている一時間は長い。 「もしよければ、模擬戦をしてくれないか? 僕もスメヤッツァの調子がどうか、確認したいからね」 「ふふん、我が得意技は赤城山キックだ。アルズヴィズを着けた赤城山五十號の動きを舐めるなよ」 アーマー乗り同士で盛り上がっていると、リィムナが至極残念そうな表情を見せた。 元々ウルイバッツァはグライダーの動きにも興味があったので、撃墜数五桁の飛行術も見たいとお世辞でも機嫌取りでもなく頼んだが、彼女の残念はそこにはない。 「黄泉から這い出る者で模擬戦なんて、やっぱり無理だよね?」 それは小萩もウルイバッツァも、謹んで辞退した。 リィムナは審判しながらの飛行術の披露が、最も適役だろう。 |