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■オープニング本文 夏なのです。 暑い夏です。 暑くない夏は困りますが、暑すぎるのも大変です。 特に、夜中も暑いのは、寝苦しくてたまりません。 寝不足で、死んじゃうかも。 そこまでいかなくても、倒れそうです。 あんまり暑かったので、お仕事はさておき、お出掛けした人達がいます。 行き先は、とある湖の近くに点在する小さな小屋。 今の時期は、暑さを避けて来た人達が、泊まっているのです。 この湖の周りはとっても涼しいので、小屋を借りたい人はいっぱいいるみたい。 そんな人気の涼しい場所には、開拓者さん達もやってきます。 お友達と、それとも一人で、とにかく涼みに来ています。 ここは湖の上を通ってくる風が気持ち良くて、他所の暑さが嘘のよう。 湖も、水晶湖と呼ばれるだけあって、綺麗なところです。 ところが。 「人殺しだーっ!!!」 水晶湖の平和は、もろくも崩れました。 あちこちの小屋に泊まっている人達が、何人も殺されてしまったのです。 誰に? 「俺は見た。白い仮面に、のこぎりを持った男が‥‥」 殺人鬼に。 |
■参加者一覧
叢雲・暁(ia5363)
16歳・女・シ
九条・颯(ib3144)
17歳・女・泰
リィムナ・ピサレット(ib5201)
10歳・女・魔
雁久良 霧依(ib9706)
23歳・女・魔 |
■リプレイ本文 夏でも過ごしやすい湖の周りの避暑地。 そこは今、殺人鬼がうろうろする恐怖の世界に変わっていました。 涼しい場所で過ごすのを楽しんでいた人達は、皆さん、怖くてあわあわしています。 でも。 「ただの避暑地かと思いきや、とんだ出し物があったものだな」 中には冷静な人もいました。大きな翼と角が目立つ九条・颯(ib3144)です。開拓者さんなので、死体になってしまった人を見るのも大丈夫。 殺されてしまったのは、湖の周りの小屋に悪い奴が来ないか見回りをする近くの村の人や、小屋を借りていた人達です。最初に村の人が、その後によそから来た人が殺されてしまいました。 不思議なのは、どの人達もカップルさんだったことです。見回りも、仲良く二人でやって来て、人気がないところで襲われてしまったみたい。 「あれま〜、服が脱げてるのは逃げる時に慌ててたから‥‥じゃないわよねぇ」 二人で何してたのかしらと、やっぱり死体を見るのが平気な叢雲・暁(ia5363)さんが、被せてあった布をめくって色々調べているようです。 暁さんが見たところ、襲われた人はのこぎりみたいなものであちこち斬られていて、血が出過ぎたか、大きく斬られすぎたのが原因でお亡くなりでした。 「傷の具合から、相当力がある奴だね。アヤカシでもおかしくないよ」 「ほう。人間の可能性も捨てきれないのか」 「人なら、確実に志体持ち。油断出来ないよ」 油断はもちろんしません。でも向かってくるなら倒すのみと、颯さんはやる気十分です。暁さんも、逃げる気なんか全然ありません。 そんなわけで、このお二人は協力して殺人鬼を探すことになりました。どうやって探すのか、それはこれから相談します。 暑い時には勉強をさておき、涼しいところでのんびりと。 そんなつもりでやって来ていたリィムナ・ピサレット(ib5201)さんと雁久良 霧依(ib9706)さんも、連続殺人から逃げるつもりはありません。 「人間でもアヤカシでも、別に怖くないし」 「のんびりしに来たのに事件なんて、予定外だけどね」 魔の森の大アヤカシでも現れたら別ですが、そこまでいかない悪い奴なら、リィムナさんと霧依さんの二人がいれば、大体なんとか出来てしまいます。ここは魔の森ではないから、何と出会っても怖くありません。人なら捕まえて、アヤカシなら退治すればいいのです。 そんな強いお二人は、殺人鬼に襲われたけど命が助かった目撃者さんから、色々とお話を聞いていました。何人かいる目撃者さんは、皆さん口を揃えて『白い仮面を被って、チェーンソーのようなものを持っていた』と言います。人型なのは、間違いありません。 不思議なのは、一人はとても背が高いと言い、別の一人はそんなに高くなかったと言うのです。 「霧依さん、どういうことだと思う?」 「集団なのかしら。それだと、ちょっと手間が掛かるわね」 湖の周りは広いので、捜して歩くのは大変です。どういうことをしていて襲われたのか、目撃者さん達からよく聞いて、誘き出す方がいいかもしれません。 そうしてお話を聞いた霧依さんとリィムナさんが、亡くなった人達を調べた暁さんと颯さんのお二人と、お茶を飲みながら作戦会議をしたのは、午後の事でした。 殺人鬼さんは恋人同士をよく狙うので、女の人ばかりですけれど、二手に分かれて恋人の振りをする作戦を決行です。 いいんです、今時女の人同士だって。それっぽく見えれば、殺人鬼は本物かどうかはきっと気にしないでしょう。 敵の正体がよく分からない時、単独行動はよくありません。もしもうんと強かったら、危ないからです。 今回は相手がどういうのか、ちょっとだけ分かっています。 「お風呂の最中の人や恋人同士だけ襲うなんて、いじめられっ子が湖に落とされたなれの果てのアヤカシか、その母親がブチキレて犯行に及んだんじゃないの?」 暁さんがお話している犯人予想はアレですが、殺人鬼がお風呂の最中の人や恋人さん達を襲うのは本当です。一人でお散歩の人や家族連れは、今まで襲われたことがありません。 とはいえ、皆さん怖くて仕方がないので、家が近い人はだいたい帰ってしまったみたい。帰るに帰れない人達は、小屋に閉じこもって開拓者さん達が犯人を捕まえるか退治してくれるのを待っています。 小屋の周りには、霧依さんがムスタシュィルを掛けてくれたので、誰かが近付いたらすぐ分かります。助けにも来てくれます。だから小屋の中なら安心なのです。 そんな訳で、夕方の湖の周りをぐるっとお散歩する道を歩いている暁さんと颯さんですが‥‥颯さん、どうしていじめられっ子が出て来るのか、よく分かりません。 「随分とはっきり言うが、誰かそういう話をしていた人がいたのか?」 気になって暁さんに尋ねたら、 「ううん。これは知る人ぞ知る恐怖演劇の連続殺人犯人なのよ。舞台がやっぱり湖の近くでね」 その恐怖演劇では、殺人鬼は子供を苛め殺された母親だったり、その母親が返り討ちされたことを恨んでアヤカシになった息子だったり、また退治されては何かにつけ蘇ったり、別人がそのアヤカシの振りをしたり、とにかく忙しいのだそうです。流石に一回の劇でこんな忙しい訳ではなく、続き物で次々と新しい舞台が上演されるとか。 「そんなに続けなくても、人気があるなら同じものを再演したらよいのに」 「うーん、恐怖物は何度も見ると飽きちゃうから。作る人も大変よね」 お二人がそんな話をしながら事件が起きた辺りを歩き回っても、殺人鬼JVは現われませんでした。 この呼び名は、暁さんが演劇の殺人鬼から借用したものだそうです。 その後、今度は霧依さんとリィムナさんが、日暮れ時に湖に入って水遊びをしてみましたが、やはりJVは現れず。そのまま夜になりました。 一応先に四人で相談して、夜中に時間をずらして見回りもすることにしていたのですが、その予定より随分早いお時間に。 「あ‥‥」 リィムナさんは、なんだか冷たいなーと思って目が覚めました。冷たいはずです。お布団に大きな地図が描かれていました。どうして? それは訊いてはいけません。 「霧依さ〜ん」 「‥‥はぁい? リィムナちゃん、どうしたの?」 お隣のお布団で寝ていた霧依さん、リィムナさんに呼ばれて、目をこすりながら起きてきました。小さい灯りしか点けていませんが、それで何が起きたのか分かったようです。 「まあ、盛大におねしょしたわねぇ」 要するに、そういうことでした。お昼過ぎには作戦会議中に冷たいお茶を飲み、お夕飯にもジュースをいただき、夕方に水浴びしたからってお風呂に入らないで寝てしまったのです。きっと体が冷えていたのでしょう。 何より、寝る前におトイレに行かなかったのがいけません。他所の人に見られたら恥ずかしいです。リィムナさんは、お顔もべしょべしょにして泣いてしまいました。 「いくら夏でも、風邪を引いたら大変よ。敷布を替えたら、お風呂で体も洗いましょうね」 普段なら、リィムナさんが悪戯やおねしょをすると、お尻ぺんぺんするのが霧依さんです。でも流石に、今日は見回りで忙しかったから許してくれるのかも。 なにより、お風呂でさっぱりしましょう。真夜中だけど。 「外道祈祷書も持っていった方がいいよね」 リィムナさん、お風呂に限らず、持って歩くならもっと素敵な本もあるのではないでしょうか。 「そうねぇ。私も武器を持っていくわ」 霧依さんも、殺人鬼退治にごっつい錫杖を持っていきます。お風呂に入るようには、とても見えません。 そんなお二人は、お風呂の中で体の洗いっこを始めました。うふうふきゃっきゃの部分は、大人の事情ですっ飛ばしです。 なぜなら。 『カ、カカ、カカカ‥‥ブ、ブコ、ココココ』 お風呂場の窓の外、何か怪しい影がうろうろし始めたからです。白い仮面に、手にはチェーンソー。 これは間違いなく、殺人犯ですよ!!! しゅこー、かぷっ、しゅるしゅ〜 お風呂場の窓が、からりと開きました。外道祈祷書を持った、リィムナさんです。 「んー、もう何にもいないや。手応えちょっとしかないから、よわっちいよ」 その背中越しに、霧依さんも外を眺めます。暗いので、あんまり見えませんが。 「瘴気の反応があったから、アヤカシに間違いないけど‥‥リィムナちゃん、流石だわ」 どちらかと言うと、明るいお風呂場の中の方が良く見えそうな状態で、お二人は外に首を出してあっちを見たり、こっちを見たり。 霧依さんのムスタシュィルに引っかかったアヤカシは、一体で間違いないようです。それがリィムナさんの黄泉から這い出るものであっさりやられたのも、やっぱり間違いありません。 アヤカシが他にもいる可能性があるので、油断は禁物です。けれども、他のところに殺人鬼が出た様子もないから、まずお風呂の続きをしてもよいでしょう。 「霧依さ〜ん、もっかい洗って。そしたら、胸揉んであげる〜」 リィムナさん、何か色々間違っていませんか? 「あらあら、リィムナちゃんたら。まだ見回りがあるんだから、おいたは駄目よ」 霧依さんも、言うべきことは他にあるはずです。 だけれどまあ、このお二人にはこれがいつもの事なのでした。 同じ頃。見回り時間のはずの暁さんと颯さんは、湖近くでやっぱり殺人鬼JVを退治し終わったところでした。 こちらの相手も、かーなーり弱っちかったのです。颯さんが蹴ると、かすったくらいでもうふらふら。そこに暁さんの太陽針が刺さって終わり。本気の颯さんなら、蹴りでも拳でも、あっさり消し飛ばせそう? 別に颯さんがさぼっていたのではありません。JVが予想以上に早かったので、暁さんを庇おうとしたから力が入りにくい体勢になっただけです。 しかし。 「驚いた。本当に二人でボートを出そうとしただけで、出て来るとは。どういう行動に反応するアヤカシなんだ?」 「ここまで簡単に引っかかると、かえってびっくりだよね〜。まだいるかな?」 こんなアヤカシ、今まで聞いた事あったっけ? あんまり分かりやすい時に出て来るので、お二人とも首を捻っています。確かに、恋人を狙うアヤカシなんて‥‥いえ、どこかにいたかもしれません。白い仮面を被っているかは別にして。 なんにしても、二人がいちゃいちゃしていれば、性別は気にしないのが分かりました。ならば、徹底していちゃこらして、誘き出せばいいのです。 「次は、あっちの茂みでごそごそしてみようよ。大丈夫、僕、どっちの役もいけるから!」 暁さん、颯さんの腕に抱き付きながら、近くの茂みを指しています。お二人とも、見回りなのでかなり燈心が大きい灯りを持っています。だから、茂みの陰に行っても目立つことこの上ありませんが‥‥ 「ちょっと隠れた方が、興味を惹かれて出て来るかな。ところで、どっちの役もって」 「大丈夫! 優しくするし、痛くされても気持ちいいから」 何をするつもりか知りませんが、暁さんはぐいぐい颯さんを引っ張っていきます。颯さんは、仕方ないなぁと言うお顔で引っ張られていきます。 『カ、カカ、カカカ、カカカカ』 茂みの向こうからきゃっきゃと声が聞こえ始めてすぐ、白い仮面のチェーンソーを持ったアヤカシ殺人鬼JVが、ものすっごい速さで走り寄ってきました。 逃―げーてー。 でも。危ないのはどっち? それから夜が明けるまで、四人の開拓者さん達はあっちに行ったり、こっちを走ったり。 退治したアヤカシ殺人鬼は、全部で十体でした。二人ずつ、仲良く五体ずつの成果です。 「弱かったぁ。全然手応えがないの。もっと強くて良かったのに」 「そうだねっ。アヤカシだったから、湖の底に封印も出来なかったし。退治したら、すぐ消えちゃうんだもんね」 リィムナさんと暁さんが、朝も早くからなにやら物騒なお話をしていました。アヤカシが強くなくて簡単に退治出来たのは、とてもいいことのはずなのに、二人とも残念そうです。 そんなお二人の傍では、霧依さんが徹夜した割につやつやしたお顔で、颯さんが大分お疲れのお顔で、それぞれが退治したアヤカシ殺人鬼のいた場所の情報交換をしていました。他にもいないかは、そりゃもう念入りに確かめたので、きっと大丈夫でしょう。 なにしろリィムナさんの瘴索結界にも、霧依さんのムスタシュィルにも、暁さんと颯さんのお肌も露わな早朝水泳にも、何にも反応がないのです。退治しつくしたのは確実。 後は、他の皆さんに知らせて安心させてあげて、それから徹夜でしたからゆっくり眠りたいところです。 でも‥‥? 「寝る? じゃあ、僕がその前に体を揉んであげる。疲れを解してから寝た方が、元気になるよ。任せて、人体には詳しいから」 「その言い方が、なんだか不穏だな」 ぐーっと伸びをした颯さんに擦り寄って、暁さんがにこにこと揉み治療に立候補しています。くすぐるのはなしだよと言いながら、颯さんは大分眠たいようです。小屋の方に戻っていきました。 もちろん、暁さんも一緒です。本当は別の小屋に泊まっていましたが、まあ女の人同士だからいいのです。 それを見て、リィムナさんもにこやかに霧依さんを振り返り、 「あのぅ霧依さん、どうしたの?」 なんだか怖い顔をしているた霧依さんから、慌てて逃げようとしました。 もちろん、逃がしてくれるわけありませんけれど! 「おねしょのお仕置きがまだでしたよね? 事件も解決しましたから、さっ、お尻をお出しなさいっ!」 よーく反省しなさいと、すがすがしい朝日の下でぴしばしやられ始めたリィムナさんの悲鳴が響きます。 「もうしませーん。許してーっ!!」 お仕置きタイムは、まだまだ続きそうです。 そりゃあ、霧依さんが可愛いお尻を叩くのを満喫するまでは終わりませんからね。 |