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■オープニング本文 空は、とっても蒼いのです。 雲が、あちこちに見えています。 薄い蒼に、白くてやっぱり薄い雲。 なんとなく、寒そうな感じです。 海も、とっても碧いのです。 波が、あちこちで弾けています。 深い藍に、白くてとっても高い波。 見るからに、寒そうな感じです。 感じ、ではありません。 寒いのです。 五月だっていうのに、この気温は何としたことでしょう。 寒い、とっても寒いです。 風がぴゅうぴゅう吹いています。 空には、鳥の一羽も見えません。 海にも、魚の一匹も見えません。 周りは白い砂浜です。 その向こうに、林のような森のようなものが見えています。 真夏だったら、どんなに楽しい場所でしょう。 今は、風が寒くて仕方がありませんけれど。 さて。 ここで、大事なお話をしなくてはいけません。 とってもとっても大切な、大事なお話です。 あなたの将来にも、関わることになるでしょう。 ここは、一体どこですか? どうして、ここにいるのでしょう? |
■参加者一覧 / 羅喉丸(ia0347) / 玖雀(ib6816) / ラグナ・グラウシード(ib8459) / ジョハル(ib9784) / 草薙 早矢(ic0072) / 小苺(ic1287) |
■リプレイ本文 ここは無人島のようです。 とても綺麗な島ですけれど、誰も住んではいないのです。 どうして分かるかと言えば、 「暴れオオトカゲだーっ!」 「むうっ、ここは私に任せろ」 「わーい、二人とも頑張るにゃっ」 一昨日から、島のあちらこちらで篠崎早矢(ic0072)さんとラグナ・グラウシード(ib8459)さんと小苺(ic1287)ちゃんが大暴れしているのに、誰も出て来ないからです。 ちゃんと言うなら、羅喉丸(ia0347)さんと玖雀(ib6816)さんとジョハル(ib9784)さんの三人も、島にはいます。 でも、開拓者ではない人はいないのです。無人島なのです。 代わりに。 「ふう、おっ、向こうにあるのは椰子の実ではないか?」 かーなーりー寒いところにある島だと思うのですが、オオトカゲさんが出ます。たった今、ラグナさんと早矢さんがお肉の塊にしましたが、オオトカゲさん。 それに、椰子の実もあったようです。 実はここ、南の島かもしれません? 「二個しかないよ、もうちょっと何か探さなきゃね」 「そうだな。荷物は私が担ぐから、寄越しなさい」 素早く砂浜を駆けて行った小苺ちゃんが、椰子の実を二つ拾い上げました。それをラグナさんが袋に入れて、手足を縛ったオオトカゲと一緒に背中に担ぎます。 親切です。お芝居だったら、早矢さんと小苺ちゃんが『まあ素敵』と言ってくれそうなところでしたが、ラグナさんはもう一つ背負っているものがありました。 うさぎさんのぬいぐるみ。名前はうさみたんです。 なんとなく‥‥まあ、いいですね。 「何か木の実とかあるかにゃ?」 「探しに行ってみるか。しかし、昨日のように食人アリに行き合っては困る。周りの警戒は怠ってはいけないぞ」 食べ物はたくさんあるのがいいに決まっています。だから小苺ちゃんが頑張って探そうと言うのに、もちろん早矢さんも反対なんかしません。 しかし、昨日は午前に食人アリ、午後は噛まれたらあの世逝きの毒蛇と、色々なものに出会いました。気を付けなくてはいけません。 ここは、無人島のようです。 そして、とっても危険な島に違いありません。 ここにいる三人がそう思っていなくても、間違いなく危険な場所なのです。 ここは、無人島です。 それはまあ、もう仕方ないのでそれでいいでしょう。 本当はいいと言いたくありませんが、どうこう言ってもどうにもなりません。 問題は。 「どうして、ここに来たのだろうな」 「いや、まったくだ」 枯れ枝を拾ってきた羅喉丸さんと、寝泊まりしている洞窟で番をしていた玖雀さんが、大真面目なお顔でお話しています。 そう、問題はそこなのです。 この島にいる開拓者さん達は、全部で六人。一緒に依頼を受けていた‥‥訳ではありません。お出掛けして、同じ船に乗っていたのでもないです。 なんだか、ふっと気が付いたらここにいたのでした。いやもうびっくり。 羅喉丸さんは、夢かと思って自分の手を反対の手で抓ってみました。痛かったようです。 玖雀さんも、なにがなんだかわからないうちに島にいて、一緒にいたお友達のジョハルさんに『何事だろう』って訊いていました。 ちなみにジョハルさんのお返事は、『アル=カマルじゃないよね』という、分かり切っていて、なんの役にも立たないものだったそうです。そうじゃない感がいっぱいでした。 そのジョハルさんは、洞窟の奥でお休み中。 どうして一人だけ寝ているのか? それは、可哀想に風邪をひいてしまったからです。 風邪をひいて、すごーく高いお熱が出たり、咳がひどかったり、ぷるぷる震えちゃったりしているのです。時々元気になって、おなかがすいたとか言い出します。 要するに、食べて寝るだけ。病気だからだけれど、そういうことです。 何はともあれ、最初に洞窟を見付けた玖雀さんとジョハルさんは、食べ物を探していた羅喉丸さんと出会い、それから今食べ物を探しにお出掛けしている三人と合流して、なんとかかんとか三日目を迎えたのでした。 帰りたいけど、そもそもここはどこ? 『まだいるのか』 「あぁ、すまないな。主殿の分も食べ物を探してくるよう、言ってあるから」 『魚が食べたい、昨日のあれ』 「煮魚のことか? おまえさんには味が濃いめだと思ったが」 『たまに食べるのは、旨い』 くーすーぴーと洞窟の奥で寝ているジョハルさんの横に、どっこらせと座り込んだのは、この洞窟の主さんです。 見た目は狸。どう見ても狸。でも、大きさは二メートルくらい。もこもこの毛皮で良く見えませんが、ものすっごいごっつごつの筋肉がモリモリとついてます。 多分このたぬきさんは、いわゆるところのケモノさんでしょう。それにしたって大きいですけど。 開拓者さん達は、ジョハルさんを外で寝かせるのも可哀想なので、大狸さんのおうちに間借りしているところです。大狸さんと六人の開拓者さんが寝ても、まだ場所が余るくらいに広い洞窟なので困りません。部屋代は、玖雀さんが美味しいご飯を作って、一緒に食べるのでいいことになっています。 ケモノの大狸さんがいて、オオトカゲもいて、食人アリや毒蛇、毒蜘蛛もうろうろしていて、更にどこからか椰子の実が流れ着くのに、なんだか寒い。 「どこの島が、こんなことになっているのかなぁ」 玖雀さんが、昨日採ってきたどう見ても南国っぽい果物を切りながら、首を傾げています。羅喉丸さんは、まだ夢か現実かと疑っているみたいです。 どうしてこの六人が、この島に辿り着いてしまったのか? それは、まったくの謎なのです。 ところで、六人はどう合流したのか? それぞれにはっとなって、島にいるらしいと思って、開拓者さんらしくへこたれることなく、食べ物や飲み水を探して歩き回っていたら、順々に合流したのです。 細かいことは、気にしたらいけません。 洞窟を見付けた時に、狸さんと出会ったジョハルさんが、あまり大きさに『熊だ、熊』と叫んだとか、ジョハルさんが『いや、狸だ』と応えた後に『多分』と言い足したとか、その後に倒れちゃったジョハルさんを見て実はものすごーく慌てたとか、そのくらいはまあ人に聞かれても大丈夫。 羅喉丸さんが、かなり長い時間『なんで?』と考えていて、動き出すまでに熟練の開拓使者さんにしては時間が掛かったのも、別にいいのです。 小苺ちゃんは、果敢に『自給自足〜』と走り回っていて、ラグナさんにいきなり出くわしました。その時に、『一人で怖かったろう、可哀想に』とか色々と言われたけれど、実は全然平気だったことは、ラグナさんに秘密にしておけば問題にならないはず。 ラグナさんは他の男の人達に合流した時には、『あ、そんなにいるのか』とあっさり。小苺ちゃんは『やっほー』と喜んでいましたが‥‥この時の二人の頭の中は、覗かない方が幸せです。 いえ、ラグナさんの『どうせなら女性の方が良かった』は、まあ他の男の人にも通じるかもしれません。 でも小苺ちゃんの『もしや、これは熱い男の友情が』と期待したのは、その方向性がものすさまじくずれていて、俗に腐っていると言われる分野に足を突っ込んでいるらしいので、知らない方が絶対に幸せです。特にジョハルさんと玖雀さんは。 そして、最後に合流した早矢さんは、『誰もいないなら今のうち』と、服が最低限にちょっと足りない状態で走り回っていたのを見付かったので、蒸し返されたくありません。見られても減りはしませんが、それで平気になったら慎みとか恥じらいとかが足りなくなっているのです。 まあ、そんなわけだから、追及してはいけません。だいたい、それどころではないはずですしね。 いつになったら、帰れるの? それ以前に、そもそもどうしてここに来たのかわからないのに、帰る方法ってあるの? そして、島に到着して五日目になりました。 は? 四日目のこと? 別に変ったことがあったわけではありません。 ジョハルさんは、やっぱり風邪が治らなくて、うんうん唸っていました。こればかりは、とても可哀想な気がします。 でもまあ、起きると玖雀さんを捉まえて、『喉が渇いた。ジュースが飲みたい』なんてお願いして、それはもう怒られていました。いえ、これだけなら玖雀さんだって怒りませんが、『病人なんだから、早く〜』なんて一言余計だったのです。 「まったく、嫁も子供もいる奴が、こんなことでどうする。とっとと治せ」 それでもお友達の玖雀さんは、厳しいことばかりは言いません。慰めたり、励ましたりもしてあげます。しかし、ジョハルさんはお嫁さんとお子さんがいるのですね。 「「ふーん、結婚してるんだ」」 なぜか、そのことにラグナさんと小苺ちゃんが嬉しくなさそうな口振りでした。しかし、この二人の頭の中は、面白くないことだけが一致していて、後は全然別方向に走っています。もう、細かい説明など、必要ないはずですけれど。 羅喉丸さんと早矢さんは、一日食料探しに忙しくしていました。小苺ちゃんとラグナさんが、ちょっと乗り気でないものですから、こちらの二人が忙しかったのです。 ついでに。 「あ、これは暴れウミガメ!」 「なんでたいして広くもない島で、こうも攻撃的な生き物にばかり出会うんだ?」 早矢さんは、動物を見付けるのが得意でした。 けれどもどういう訳か、早矢さんが見付ける動物は、毒があったり、やたらと強くて暴れたりと、なかなか簡単には倒せないような動物ばかりなのです。いえ、羅喉丸さんが本気の半分の又半分くらいの力で殴れば、どれもキュウっとなってしまうのですけれども。 とりあえず、大狸さんの分もちゃんとご用意出来るくらいの食べ物は昼過ぎまでに見付けられたので、四日目はそこそこにいい日でした。 でも帰る方法が見付からないので、五日目になったのです。 「暴れカモメだーっ!」 早矢さんが叫びます。 なんで、今日も怪しい危険動物と出会っているのでしょう。暴れカモメは、眉間に傷があるキリリとした顔付きでした。 多分、今日のお昼は彼の丸焼きです。 「ふっふっふっ、聞いて驚け。トラを退治してきた」 ラグナさんが、妙なことを言い始めました。と思ったら、虎みたいな模様の魚を釣ったようです。 大狸さんが、背びれに毒があるよと教えてくれて、ラグナさんは背びれがうさみたんにあたったかもって心配し始めましたが‥‥ぬいぐるみのうさみたんは毒には強いことでしょう。 このお魚は、大狸さんが狙っているようです。 「ふふーん、塩が出来たにゃ」 小苺ちゃんは、海水を沸かして真水と塩を作っています。湧水も見付けてはあるのですが、たくさん汲むと島の動物達が困ってしまうので、足りない分は海水から作っているのでした。 塩は大切ですが、小苺ちゃんは荷物の中にある節分豆のことを今日も忘れているようです。 「うーん、やっぱり熊」 ジョハルさんは、少しは風邪が治ってきたような感じです。なぜって、ちょっと起きている時間が増えてきたから。でも、大狸さんのことをどうしても熊さんだと言い張るので、目が悪くなっているかもしれません。 そんなジョハルさんは、お昼に焼き魚が食べたいとかのたまっています。 「お前、実は仮病じゃないのか?」 玖雀さんは、ジョハルさんが寝込んでいるので、ずっと洞窟にいます。看病と言うやつです。あんまり変なこととわがままを言う病人なので、たまに叩いて小苺ちゃんにじーっと見られてしまいますが、心配しているからついつい怒るのです。 今は、大狸さんからもお昼ご飯の注文が来て、忙しくなりました。 「やはり、うつつか‥‥」 羅喉丸さんは木の実や枯れ枝を探して歩いていましたが、今日だけで何度目か分からない呟きを漏らしました。 そう、これは現実です。夢ではありません。 そして、今日も島から出る方法は、見付からない模様です。 そもそもここはどこなのでしょう? |