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■オープニング本文 場所はジルベリアはジェレゾの開拓者ギルドの受付カウンター。 その、上。 はっきり言って、邪魔で仕方がない。 『中止しなさい』 右の前足でだんだんとカウンターを叩いて主張するのは、真っ黒けの猫又。 名前は外見を裏切って、吹雪という。 自称、裏開拓者ギルドマスター。まあ、自称である。 実際は顔馴染みの相棒達と徒党を組んで、あれこれとやらかしている。 得意は子守りと鼠取り。特に後者でご近所にも頼られる有名猫又なのだ。 『中止しやがれと言うのよ』 そんな吹雪が、前足だんだん、ダンダンダン。 やかましく中止を要求するのは、すぐ近くの食堂で行われているお菓子教室。 本日はギルドの職員も数名、時間をやりくりしてお出掛けの場所だ。 多分今頃、皆で楽しくあれやこれやと作っていることだろう。 『毒薬作りなんか、続けさせるなーっ!!!』 『そうだそうだ!』 『俺達を殺す気にゃーっ』 そんな楽しげなお菓子教室を目の敵にするのは、吹雪ばかりではない。 人語を解するのは開拓者の相棒の猫又、仙猫か又鬼犬。 ついでに外見に即した鳴き声で、忍犬を加えた一同が騒ぎ立てる。 いやまあ、騒ぎ立てる理由はあるので、気持ちは分からなくもないのだが。 『とにかく、チョコレートをギルドに持ち込ませるんじゃないよ』 『そうだ、バレンタインデーがなければいいよな?』 「おぉ、じゃあ、バレンタインデーを中止しよう!』 「いいぞー、頑張れー」 待て待て。 確かに犬猫のチョコレート嫌いは仕方ない。 でも、今尻馬に乗っかって、変なことを言ったのは誰だ? |
■参加者一覧
北條 黯羽(ia0072)
25歳・女・陰
朝比奈 空(ia0086)
21歳・女・魔
奈々月纏(ia0456)
17歳・女・志
皇・月瑠(ia0567)
46歳・男・志
奈々月琉央(ia1012)
18歳・男・サ
露草(ia1350)
17歳・女・陰
菊池 志郎(ia5584)
23歳・男・シ
からす(ia6525)
13歳・女・弓
御陰 桜(ib0271)
19歳・女・シ
宮坂義乃(ib9942)
23歳・女・志 |
■リプレイ本文 ●無差別ちょこれぃと攻撃 騒がしかった開拓者ギルドの建物から人々が出ていくのを、迅鷹の蒼空が足元に、鷲獅鳥の黒煉が胸下に眺めて我関せずを決め込んだ時。 建物の中では、黒煉の主たる朝比奈 空(ia0086)が深く溜息を吐いていた。 「騒ぎを大きくせずとも、じゃんけん大会くらいで良かったでしょうに」 「いいじゃないか、人様のお役に立つんだから。しっかし、あの顔付きと言ったら」 『いささか笑いすぎではないか?』 腹を抱えて、が比喩でも何でもなく、大笑いしている北條 黯羽(ia0072)の有様に、人妖の刃那が少し呆れ顔を見せていた。 『よいではありませんか〜。皆さんが幸せなら、なによりです』 この時期に雪かき人員増加は素晴らしいことと、提灯南瓜の天照はギルドに突如発生した人手不足には気付かない。手には可愛らしい布張りの籠を提げて、中には愛らしい袋入りの菓子がぎっしりだ。 『ねーねー、これもくれるよね?』 その傍らでは、すでに今にも落としそうな量の菓子を抱えた羽妖精の天詩が菓子をねだっている。しかし、それを貰ったら確実に菓子の大半が落下するだろう。 流石にそれはあんまりだと思ったのか、それとも天詩を甘やかしているだけか。皇・月瑠(ia0567)が手拭いを裂いて菓子を包みはじめた。 ちなみに天詩の相棒であるはずの菊池 志郎(ia5584)は、只今他の相棒達のお世話に忙しく、天詩が更に次のお菓子を狙うのを留める余裕などない。 そして。 「あらまぁ、きみも欲しいんやね。一つずつやで?」 奈々月纏(ia0456)からも、ちゃっかりせしめてご満悦。もう一人、お菓子を持っていそうな奈々月琉央(ia1012)にも視線を向けていたが、こちらは何がどうしたのか机に突っ伏して動かない。 そんなこんなで、ギルドの中にはお菓子の香りが充満していたが。 「お疲れ様。ちょうど人も途切れているし、一服どうだね?」 『美味しいもの、いっぱいアルヨ!』 仕事にはメリハリが必要だと、からす(ia6525)がどこから取り出したのか分からない茶器一式で薫り高いお茶を淹れ始めた。相棒の提灯南瓜キャラメリゼは、これまた山を為す荷物を示して、超ご機嫌である。 「チョコの菓子はほかのと別の器にシてね」 ごろにゃん状態の裏ギルドマスターを思う存分もふもふしていた御陰 桜(ib0271)が頼むと、 『大丈夫です、見ておきますから』 そこらの人間よりしっかりしていそうな闘鬼犬の桃が、お任せあれと声を返していた。 もちろんからす達だって、その辺りは抜かりない。 ●お菓子教室 〜女子会模様〜 相棒のからくり桜花が作業机をばんばん平手で叩くので、宮坂 玄人(ib9942)は彼女に気付かれない程度に小さく他所を向いた。うっかりよそ見をしたのが分かったらもっと怒るので、主に視線だけ。 しかし、そこは相棒。相手が集中しているかどうかはお見通しだ。 『玄人様、ちゃんと聞いてますかっ。いいですか、犬や猫に害があるのは、チョコレートばかりではなく!』 忍犬や猫又を相棒にしているわけではない玄人だが、珍しくお菓子教室など参加したのを機に他の相棒にも菓子を作ってやろうと思い立った。その相棒達に持っていく前に、開拓者ギルド前にたむろしていた猫又などに味見してもらおうかと口を滑らせて‥‥ 『ネギもいけませんよ!』 なぜか叱られる羽目に。 玄人が無口なわけではないが、矢継ぎ早に話し続けられる桜花の勢いに、口を挟むことなど出来はしない。最終的に、玄人が作るチョコレートの数は師匠と兄と桜花の三つになった。 『玄人様の分は、私が作って差し上げます』 だから私の分をしっかり作って。言外にそんな希望が滲んでいる桜花の宣言に、周囲からはくすくすと笑いが漏れている。 バレンタインデーは、家族や友人、要するに大事な人達と贈り物やカードを交換するような日だと聞いた気がする。特に恋人同士が目立つのには理由もあろうが、露草(ia1350)には関係がない。 『チョコとケーキ、きゃ〜』 陰陽寮で研究する合間にお菓子を食べ、相棒の人妖とお茶の時間を楽しみ、たまには友達と一緒にお菓子限定宴会をしたり出来れば、今の露草は満足だ。よって、世間の浮かれた雰囲気とは無関係に、今まで作ったことがないお菓子を習うのに夢中だった。 相棒の衣通姫は、目をキラキラさせながら食べたいものを連呼している。 クッキーにプリン、ケーキ各種と、衣通姫はあちらこちらが気になって仕方がない。親切な人が味見させてくれないかしらと、そんなことを考えていそうだ。 「研究の合間につまみやすい一口チョコと、お腹が膨れるチョコチップクッキー、それに分けやすいカップケーキも作ってみましょうか」 かたや露草の頭にあるのは、あくまで陰陽寮はじめ女友達との集まりで食べること。 せっかくのお菓子、男子に食べさせるなんてもったいないのである。 相棒の人妖と一緒は、黯羽と刃那も変わりない。こちらは難しいことに挑戦するより、一緒に作業してたくさん作るのを楽しんでいるようだ。 「削って溶かして、型に入れて固めるだけだもんなァ。これは作るの簡単でいいや」 『妾はもう少し凝ったものも拵えてみたいのう』 鼻歌交じりに大量のチョコを溶かして、色々な型に流しいれ、固まったものを外して楽しんでいる黯羽に、刃那は少しばかり不満そうだ。と、隣の卓から干し果物のお裾分けが。 『其方が型入れ、妾が飾り付けでよいな?』 もちろん黯羽に否はないが、仮にそう言ったところで譲らないよなと、彼女は相棒の気質をよく呑み込んでいた。ついでに、黯羽自身は一緒に作るのが楽しいから、今のところなんの問題もない。 猛烈な勢いで出来上がりの山が高くなっていくことに、二人とも全く気付いていなかった。 参加者が次々とお菓子を作れるようになっていることに、菓子職人であるキャラメリゼは大変満足していた。提灯南瓜でありながら、この教室の講師の一人(?)でもある自己申告彼女は、更なる皆のお菓子作りの発展を目指して室内をふよふよ移動していたが、ふとあることに気付いた。 なにやら外が騒がしい。しかも犬猫の鳴き声がする。 もしや誰かが困っているのではと、ちょびっと心配したキャラメリゼは様子を見に行って。 『からすサン、からすサン』 一人でびしばし手の込んだ菓子を作っているからすに、ご注進に及んでいる。 ●中止だ、中止! 開拓者ギルドが妙にざわざわしているのを上空から見咎めた空は、何かよほどの依頼でも出たのかと黒煉を道端に降ろして確かめに向かった。 ところが、そこで起きていたのは事件でも何でもなく。 『とっとと中止してこーい!』 ぺしこーん。 菊池が黒猫又に猫パンチを喰らっているところだった。 『しーちゃん、弱〜い』 「バレンタインって、お世話になっている人にチョコレートを贈る日でしたっけ? なんか違うような‥‥」 黒猫又はじめ猫科相棒達にやいのやいの責め立てられている菊池の横では、犬科相棒達を手懐ける桜の姿がある。自身も闘鬼犬と忍犬を連れて、なんとなく犬族の主張が分かるらしい。 「包みのまま置いていたら、うっかり犬や猫が食べちゃったなんて聞いたコトあるし。危険だって知らない人も、結構いるのかもねぇ」 飼い主さんがそうだったら心配よねぇと、こちらはわんこ達の背中や腹をもふもふと、それは手際よく撫でまくってめろめろにして、わんこ達の信頼を一身に得ていた。 ついでに、その向こう側で奇声を発する妙な連中の期待も担っているようだが‥‥そちらは、桜の眼中にない。 これがどういう事情かを聞いた空は、やれやれとお菓子作り教室に足を向けていた。 とある思案のもとに空がギルドを後にしてからも、菊池と桜の動物相談室は終わるどころか更なる騒動に発展していた。 どちらも犬科相棒と暮らしているから、彼らが害のあるチョコレートを忌避するのは理解出来る。当然生活の中では、うっかり彼らの口にそうしたものが入らないように用心だってしていた。 しかし、世の中には『子供がせがむので犬猫を飼い始めた』というご家庭だって多い。そういうところでは、もしかしたら開拓者だって、彼らに食べさせたらいけないものがあるなんて知らない人もいるかもしれないのだ。 「バレンタインは楽しみにシてる子もいるし、中止ってのはヤり過ぎよねぇ」 そこは理解するが、もちろん人間側にも理解がある桜の発言は、荒ぶる相棒達と甲斐性なしの一部人間達にぶうぶう文句垂れられた。前者はともかく、後者は五月蠅い。 「そんなじゃ、もっと運が逃げるかモね?」 困ったちゃん達ねと『めっ』されてわんこ同然になった連中はさておき、菊池は生真面目に対策を考えていた。 もうバレンタインがどういう日かは、この際脇に避けよう。興奮した相棒達に、筋道立てて道理を説いたって聞いてくれるはずがない。猫パンチが増えるだけだ。 だから、バレンタインはお世話になった方に感謝して、食べ物を贈る日。つまり。 「そういうわけで、いつもお世話になっている相棒の皆さんにも、少しばかりご馳走させてもらえますか?」 『うたも? うたもよね?』 自分もご馳走食べると主張する天詩と、そんなもので誤魔化されないぞと喚く相棒達がギルドの中で騒ぎまくったが、わんこは桜に懐柔された。にゃんこは、 「食べながら、今後の相談しましょう?」 『そういうことなら、食べてあげる』 菊池の計画に頷いたので、彼がギルド内の台所を借りて、料理することになった。買い物は、チョコレート他動物により有害な食べ物に注意しましょう啓蒙を売り手側に頼むついでと、桜達が出掛けていく。 これで、人間はまだ納得していないが、相棒達の気は少し静められたと菊池が安心したのもつかの間。 『ご馳走って聞いたもふ』 呼んでもいない相棒達集結の気配が、濃厚にする。 ●孤高の世界と、二人(?)の世界 チョコレート作りは、四十年を超えて随分とある皇の人生でも初めてだ。 和菓子作りなら慣れているから大差あるまいと、糊もぴっちり利いた割烹着着用で乗り込んできた筋肉質中年親父は、明らかに教室内でも浮いている。 『お嬢様へのお土産にぴったりですわね』 天照が簡単なチョコレート菓子の作り方を聞いたところでこう言ったので、周りも彼が娘可愛さに参加した、見た目よりはほのぼのした感性の持ち主らしいと納得したのだろう。加えて、彼が干した棗や杏、林檎などをチョコレート掛けにするため、刻み始めた手付きを見た参加者達は、彼の料理上手も理解した。 皇自身はそうしたことを気に掛ける素振りもなく、干し果物を綺麗に一口大に切りそろえ、余った部分は細かく刻んで干葡萄などと合わせて飴掛けの棒状菓子に仕立てている。 『旦那様、これ、先に一つ味見してもいいですよね?』 チョコレートに浸す前に味の具合を確認と、天照はもっぱら試食役。それに構わず、皇は今度はチョコレートを細かく刻み始めている。天照がその固さに苦労している周りの女性陣の分まで机に積んでも、平然と刻み続けた。 天照は、そのお礼にあちこちから材料の分け前を貰ってほくほくしている。 作業机の一つで、椅子に踏み台を重ねてなんとか高さを合わせた人妖の道明が、固まったチョコレートを型から外す作業を続けていた。多彩な型にチョコレートを流しいれているのは、道明の相棒である奈々月纏だ。 和菓子好きの纏が型抜きを選ぶのは不思議でも何でもないが、どうして動物型に集中するのかはよく分からない。特にとぼけた顔立ちの狸の型を多用していて、道明が出来上がりの籠に入れた分だけでも三十はあるようだ。他のもあるから、一口大とはいえチョコがこんもりしている。 「纏、こんなにたくさん、どうするんだ?」 尋ねたのは、味見以外はほとんど手を出さないと言うか、纏があまり出させない夫の琉央だった。道明が手伝い始めたら、琉央の仕事がなくなったともいう。 その纏は完璧に彼の味覚に合わせているのだが、琉央は量が多すぎると思っているのだろう。なにしろ、材料から察するに作業はまだ道半ば‥‥まで至ったかどうか。 すると、纏がてれてれと顔を赤らめながら、こう答えた。 「お待たせしてごめんな〜。ほら、ギルドの人達にもお世話になっとるし、お礼かたがた甘いものって思ったんよ」 つまりはギルドの職員達に差し入れしようと、大量のチョコ作りを敢行。なんとなく琉央の表情が渋くなったのは、道明の気のせいではあるまい。 続いて、自分の相棒の様子を見るためか窓の外に目をやった琉央は、なにかの様子を見にギルドの方に向かったが‥‥ 「今のうちに〜、狸さんだけ選り分けとかな」 纏は纏で、やることが色々だ。 教室の端では、後から加わった空が一番簡単なチョコ菓子を次々作って、可愛らしい皿に盛りつけていた。 自分も一つ貰えれば、吹雪達の尻馬に乗った人間達はとりあえず満足するだろうとの、彼女の読みは間違っていない。見栄えは良くしておこうとの作戦も良い。 近い将来の出来事が、ちょっとひねくれているだけだ。 ●ちゅーしってば! 買い物に出掛けた店には、案の定チョコレート菓子が置いてあって、ふんふん鼻を鳴らした桃と雪夜の姿に、おかみさんが相好を崩した。 「やっぱりワンちゃんもチョコレートが気になるのね」 「そうねぇ、人とは別の意味で気にシてるかも」 必要なものを買い整えた桜が合図すると、雪夜が何か食べた真似をして、こてんと倒れた。いきなりのことで、おかみさんや他のお客がぎょっとしたが、桃が鼻で突くと起き上がったので一安心。 「犬猫はチョコやネギがどういう訳か毒でね、食べるとこんなコトになるのよ」 だから用心してあげてと伝えれば、わんこ達の芸達者ぶりもあってよくよく覚えてくれた様子。桜はこれを行く先々で繰り返し、ギルドに戻ってきた。 「何をシてたの?」 「飼い主さんにお手紙を書いてました。お子さんだと自分が食べているものをあげたりしそうなので、注意喚起ですね」 菊池はその手紙を飼い主が開拓者ではないわんこにゃんこの首に紐で下げてやっていた。うっかりしていると、天詩がそれを引っ張るから、あちこち目を配るのに忙しい。 ちなみにこの間に、『ご馳走食べられるって』の噂が暇していた相棒達の間を駆け巡り、ギルドの前には食いしん坊系相棒達が続々集結していた。手紙作戦を終了した菊池の肩ががっくりと下がり、桜がなんでこうなったと首を傾げていると、異変を感知した琉央が事情を確かめにやってきた。 そして、バレンタイン中止要請を耳にして。 「あのなぁ、そんな理由で人様に迷惑をかけるなよ。中止になったって、自分達も得はしないだろ?」 『気が済む、チョコレートなんかこの世から消え失せればいい』 尻馬に乗ったギルド職員達を説教していたら、吹雪に言い返されてしまった。猫又はそうだろうが、琉央は人間に分別を付けてもらいたかったわけで。 「まあそこは、見えるところに出さないとか注意するよ。でもチョコが嫌だって騒ぐより、自分達でまたたび入り菓子でも作るとかしてみたらどうだ?」 全く悪気はない、どうせなら別方法で楽しめばいいとの琉央の提案に、返ってきたのは猫パンチ。しかも大量に。 『猫が料理できると思うか!!』 『またたびあったら、そのまま齧るわい!』 「皆さん落ち着いて。ほら、すぐにミートパイ作りますから、暴れない!」 そのまま勢いで、いっそお菓子教室に乗り込んでやると息巻いた一部相棒を、自分のせいで妻の邪魔はさせまいと言う琉央が必死に留め、菊池と桜が気をそらすべく肉や魚に手を入れる暇なく配ろうとしていたら、突然金属を打ち合わせる音が響いた。 見れば、キャラメリゼがフライパンの底をお玉で叩いている。 「今、誰でも食べれるお菓子作りの真っ最中ネ。騒ぐとおやつタイムに遅れるヨ」 だから邪魔したらいけない。特に自分が食べられないものはいらないなんて言うと、キャラメリゼの厳しい相棒からすが、『人間が食べられない相棒食事もいらないから取り上げる』とか言い出して‥‥実行してしまうのだ。 そうならないように、またうんと美味しいものを請求するためにもしばしの我慢と言い置いて、キャラメリゼは料理教室に戻って行った。この頃には教室でも、相棒達がやいのやいのとチョコ撲滅を叫んでいたことが知られてきている。 「犬猫も果物くらいは食べられるだろう」 『お肉の用意もしておけばよかったですね。こちらの晩餐一式‥‥わ、素敵』 皇が動物愛護精神も見せてなにやら始め、 「琉央はどうしたんやろ? そこの魚屋に良い鰤があったさかい、買うて来てくれると助かるんやけど」 夫の状況を知らない纏は、焼き魚を思い浮かべ、 「博愛は、こういう時に特に必要だな」 からすは哲学的な呟きを漏らしていた。 ●無差別ごちそー攻撃 バレンタイン用お菓子教室開催日の夕方近く、開拓者ギルド。 そこには、数名の親切な人と若干の悪戯者が訪れていた。 「まったく、チョコ一つで大騒ぎなんて困ったもんだね。そんなに欲しいなら、今作ったのをあげるよ。ただし」 隣の商店が並ぶ通りの積雪がひどくて難儀しているから、雪かきしてあげるような頼りがいがある人に〜と、黯羽がにこにこ申し出でいた。 『そういう殿方は好ましいのぅ』 刃那も調子を合わせて、黯羽に頬ずりなどしている。頑張ってきますよと飛び出していった連中は多いが、別に雪かきしたって黯羽達が頬ずりまでしてくれるわけではなかろう。 その証拠に、黯羽は腹を抱えて大笑い中。 横目にそれを見ていた空が、いい加減黒煉を置いたままでは危ないと帰り際、チョコ菓子を盛り付けた皿を置いていった。綺麗どころからの差し入れと言っておきますと言われれて、貰う人達のためにそうしてあげてくださいとは謙遜なのか、天然なのか。 でも、じゃあ同じくそんな感じでと追加されたのは、可愛い包みだが作り手は皇のお菓子。これはもう、事情は説明しないが吉だろう。ちなみに、チョコ成分なしで相棒用の干し果物もある。 これには天詩が、せっせと二つ目以降を貰っていた。 「全員貰えば、世の中は丸く収まる」 「そうですねぇ。その分、量が大変でしたけど」 からすの悟りきった発言に、なんでこんなに相棒増えたのかと一時顔色を失っていた菊池がようやくミートパイを拵えてきて、まあなんとかなって良かったと胸をなでおろし、 「うふふ、もふれる相棒がいっぱいで楽しいワね」 愉しみ満喫の桜を見習って、貰った焼き魚を食べ終えた吹雪と握手していたりする。 同じ頃、通りにはお菓子教室から帰る人達の姿も見えていた。 中には新しいお菓子を覚えて大満足の露草がいて、大事なお菓子の包みを衣通姫と分け合って抱えている。暴走した相棒達に襲われなくてよかったなんて話しながら歩いていたら、目の前でもふらさま数体になんかくれとねだられている人達がいた。 『普段、料理とは無縁の玄人様が家族と師匠のために、慣れない手つきでせっかく作ったものを取り上げるんですの!?』 「待て桜花、俺だって自炊くらいする」 『たまにじゃありませんか、たまにじゃ!』 まあ、どう見てももふらさまに何か強奪される勢いではないので、速やかに通り過ぎた。 そのままの勢いで追い抜いた二人連れも知っている顔だが、挨拶もしなかったのはほんのり赤い顔で腕をからませて歩いている夫婦への気遣いというものである。 「帰ったら、ちょっと遅いけどおやつにしましょうね」 『うん、チョコ食べる〜』 皆で食べても美味しかろうが、大好きな人と一緒に食べるのが、チョコだって他のものだって、一番美味しいに決まっている。 |