いきうめ なう
マスター名:龍河流
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2014/01/26 05:26



■オープニング本文

 それは、ある依頼からの帰り道。
 雪がみっしり、みっちみちに積もった山道での出来事でした。

 場所は山道です。
 多分、山から切り出した木材を運んだりするのでしょう。
 山の中にしては、とっても広い道があったようです。
 なんで、『あったよう』なのかですって?
 それは愚問というもの。

 大雪が積もった後に通る人は、開拓者さんと相棒さん達が初めて。
 道なんか埋もれていて、『多分この辺だね』としか分かりません。
 ま、片方がぐんと登っていく土手、もう片方はずんと下がっていく土手。
 おかげで道幅は分かりました、なんとなくだけど。
 だから、その道の真ん中あたりを、一列で歩いていたのです。



 そ う し た ら ! ! !


「雪崩だーっ!」
「逃げろ!!!!!」
「むーりーぃぃぃぃぃぃ」


 雪が崩れてきました。
 そりゃもういっぱい、ちょっと簡単には逃げられません。
 あぁ、開拓者さんも相棒さんも、次々と雪の中に呑まれていきます。
 これは世に言う生き埋め?
 そう、雪の中に生き埋め!


 でもでも、だけど。


「待ってろー、今助けに行くぞー」


 おや、半分くらいが雪まみれでも生き埋めにならずに無事のようです。
 さあ、どうしましょう?



■参加者一覧
皇・月瑠(ia0567
46歳・男・志
海神 江流(ia0800
28歳・男・志
奈々月琉央(ia1012
18歳・男・サ
露羽(ia5413
23歳・男・シ
グリムバルド(ib0608
18歳・男・騎
ネネ(ib0892
15歳・女・陰
二式丸(ib9801
16歳・男・武
宮坂義乃(ib9942
23歳・女・志


■リプレイ本文

 その時、提灯南瓜の天照さんの目は、主の皇・月瑠(ia0567)さんのうさ耳に釘付けでした。
 別に皇さんは兎の獣人さんではありません。防寒用に持ってきた帽子に、うさ耳が垂れていただけ。それがあまりに珍しい姿なので、気になって仕方がないのでした。
 同様に揺れる毛皮が気になっちゃうのか、迅鷹の蒼空君が突きに来ました。見るからに子供さんで、主人の奈々月琉央(ia1012)さんが呼んでいるのにも答えていません。挙句に、何を思ったのか曇天高くに飛び上っていきました。あらら。
 この調子では、まだまだ訓練が必要だと奈々月さんがぼやいた時、それはやってきたのです。



  そ  う    な  だ  れ  が



 雪に流れに巻き込まれて、何メートル引きずられちゃったのでしょうか。鍛え上げた志士の感覚でもさっぱり分からなくなっちゃた頃。
 ようやく体を起こすことが出来た海神 江流(ia0800)さんは、自分が元居た道らしきの所から、十メートルくらいしか離れていないようだと見ていました。背負った荷物の紐が木に引っ掛かったのと、雪の激流の中心から弾かれていたおかげで、もみくちゃにされつつも元の位置からひどく流されずに済んだみたいなのです。
 代わりに、相棒のからくりの波美さんの姿はどこにも見えません。雪崩の音を聞いた時、横合いに突き飛ばされたと思ったのは、波美さんのせいかもしれません。
「人形祓は使うなと、いつもあれほど言っているのにっ」
 相棒さんだけが雪崩に呑まれ、しかもそれが自分をかばったせいではないかと、海神さんがとっても悲しい気分になっていると。
『あーあー、もうネネったら、ぽけーとしてるから』
 海神さんに、体から振り払った雪がびしばしぶつけちゃいつつ、猫又のうるるさんが雪の上で四本足を伸ばしながら、人っぽい溜息を吐いています。その渋〜いお顔から見ると、相棒の陰陽師ネネ(ib0892)さんは居場所を不明にしているところのようです。
 他に誰かいないかと、海神さんが周りをぐるぐる見ると、今度は。
『玄人殿―っ、どこだー!!』
 割と大柄、ただし羽妖精さんの中ではという青年、十束さんが雪まみれで飛び回っていました。あの必死さからして、こちらも相棒の宮坂 玄人(ib9942)さんはどこかに流されて分からなくなっているに違いありません。
『グリムはいるかっ?!』
 元居た道の方から、雪崩の範囲の外の木々の枝を飛び伝って近付いてくるのは猫又のクレーヴェルさん。毛並が綺麗なままなので、雪に巻き込まれずに済んで、無事でいたようです。でも慌てぶりからして、主人のグリムバルド(ib0608)さんはきっと雪の下。
 と、又鬼犬さんの勇ましい鳴き声がします。あれは露羽(ia5413)さんの相棒、黒霧丸さんの声でしょうか。いや、今日は他にわんこさんは来ていませんけどね。
 何はともあれ、皆さん揃ってそちらに行ってみると、黒霧丸さんが一生懸命に雪を掘っていました。とっても必死です。
 もしや?
「あの下に、誰かいるのか?」
 海神さんが一緒に掘ろうと走り寄ろうとしました。ええ、急いでいたのです。
 他の相棒さん達に蹴られたり突き飛ばされたりして、一番最後になってしまいましたが。別にサボっていたわけでも、こんなことを予想していたわけでもありません。

 どばっ、ざざざぁっ

 いくつもの悲鳴が聞こえます。ついでに、今までにない声がします。咆え声です。
 良く見ると、雪の中から甲龍の楽光さんが起き上がったところでした。体の大きいので、上手く雪を跳ね除けて、出て来られたのですね。
 でも残念、相棒の二式丸(ib9801)さんは一緒ではないようです。ということは、どこかの雪の下に埋もれてしまっているのでしょう。
「‥‥おい、人は僕だけか?」
 雪まみれで海神さんががっくりしてますが、まさにその通り。

 ところで。
『うごおお、空を飛ぶ龍が雪崩に引っかかるとは情けな、わわっ、ぬしら、いきなり何をするかっ』
 雪の下から自力帰還を果たした楽光さんは、せっかく振り払った雪をバシバシ四方から投げ付けられて、何をするのかとちょっぴり怖い声を出してしまいました。
 しかし、返ってきた声の方が、もっと怖かったりするのです。
『なによーっ、グリムかと思ったのに、こんなおっさんだなんてぇ』
『貴様、よもや玄人殿を下敷きにしたりはしていまいな? そんなことがあった時には、気合いを入れてなますに刻んでくれる!』
『あーもう、あーもう、期待して損したわ。肉球がしもやけになったら、あんたのせいよ』
『匂いで違うのは分かっていたが、自力で出て来られるならもっと早くに出てこい。さ、露羽様を探す手助けをしろ』
 目の中に火が燃えているのが見えたような、そんなはずはないけどキラキラしているから泣いているのかもな、楽光さんからしたらとっても小さい相棒さん達が、きいきいきゃあきゃあ騒いでいるのでした。なんで言っていることが分かるのかですって? なんとなくです、なんとなく通じてくるの。
 それはさておき、うっかり文句を言ったら、今度は文字通りに噛みつかれてしまいそうです。十束さんは、斬りつけてきちゃうかも。
 もちろん、楽光さんだって二式丸さんがどこにいるのか、探したい気持ちはいっぱいあります。そんなわけで、まずは呼んでみましょう。
『おーい、ご主人、どこだーっ。いくらぼんやりしているからって、雪崩に巻き込まれないでもよかろーぅ』
 周りでも、皆さんが自分の相棒さんを呼ぶのに忙しくしています。結構大きな声なので、聞こえる誰かが位置に居れば、絶対にお返事してくれそうなのですが、
『なんか、雪がずれそうだけど?』
 一羽だけ、全然慌てていなさそうな蒼空君が、また雪崩れるかも的なことを言いだしました。目がいい蒼空君には、小さな動きが見えるのかもしれません。
 何はともあれ、そんなことを言われちゃうと、大きな声で呼ぶわけにもいきません。皆さんで地道に探すしかないようです。
『捜索の術の持ち合わせがないことが、こんなにもむず痒いとは』
『うるっさい。下から呼んでるかもしれないでしょ!』
『そうよ、きっと音が違うところに空洞があるんだからねっ』
 十束さんは、拾ってきた枝を雪にさして、何か引っかからないか探しているようです。あんまり大きい枝が使えないので、ぷりぷりしています。でも愚痴を言ったら、クレーヴェルさんとうるるさんの猫又さん達に怒られたので、だんまりで枝を振り回しています。
 猫又さん達は、あっちこっち叩いて引っ掻いて、時々火を出して雪を溶かして、せっせと掘ったりもしています。あんまり掘れなくて、たまにキーってじたばた足踏みしていたり。
 又鬼犬の黒霧丸さんは、黙々と雪の中を歩いて、ところどころをすごく器用に掘っては、中に向かって低い声で吠えていました。返事がないと、また別の場所を嗅いでいるみたい?
『こんな寒いんだから、先に帰ってもいいんじゃない?』
 蒼空君だけはこんなことを言うので、楽光さんが爪でつんと押そうとして‥‥腰まで埋もれながら、やっと皆さんのところまで降りてきた海神さんに『こいつ』と指し示しました。
「お、蒼空も無事か。お前、空から探して‥‥って僕が言っても、分からないか。凍えてたら、奈々月さんを助けた時に心配かけるから、こっち降りてこい」
 荷物番で袋に入って風を避けてと言われて、蒼空君は悩み中。
 その間も、皆さんは相棒さん探しに忙しいのです。
「だから、僕が心眼で探すから、掘る時に力を合わせて‥‥って、そこ、二頭で先に行かない」
 とりあえず、蒼空君は荷物番になりました。

 同じ頃、雪の中では。
「雪崩とは‥‥しくじったな」
 蒼空君の相棒、奈々月さんが雪の中でじたばたしています。なんとかかんとか顔の周りの雪だけ払って、一応呼吸も出来るみたい?
 よいしょよいしょと右に左に、じたばたもぞもぞしてみたけれど、あんまり自由には動けません。でも骨折なんかはしていないようなので、一安心。とりあえず手を伸ばして、雪の外に出ないか試してみたりしているようです?
「蒼空は、多分逃げただろう。逃げろって言ったのが、ちゃんと通じているといいが」
 やたらと動いていたのは、外に出られないか試しているのと、蒼空君が一緒に巻き込まれていないか確かめていたためのようです。こんなに心配しているのに、当の蒼空君は『逃げちゃおうかな』と考えているのですけれど。ちょっと、いえいえ随分可哀想な奈々月さん。
「しかし‥‥こんなところで埋もれている場合ではない。妻が待つ家に帰れないなんて」
 絶対にここから脱出して、蒼空君を連れて、元気に家に帰って妻の手料理を‥‥とか考えている奈々月さんは、多分とってもしぶといのでしょう。

 そうかと思えば。
「あっはっはっはっはっ、あー、腰が痛ぇ」
 雪の中で海老さんのように丸まって、グリムバルドさんが笑っていました。雪崩にもみくちゃされている内に、頭を抱えて小さくなっていたら、そのまま埋められてしまったのです。手足をつっぱって、少しばかり周りを探ってみましたけど、外には出られる気配もしません。もう笑うしか。
 だいたいどっちが上か下かも分からないのです。周りを掘って抜け出そうにも、どちらを掘ったらいいものやら。外の音も聞こえませんし、腰を据えて脱出の機会を狙うしかありません。
 そのためには、ちょっと楽な姿勢にならないと‥‥結局穴の中で座禅しているみたいになりましたが、まあ座ってみました。
「クレーヴェルは怪我なんかしてないといいがなぁ」
 ものすごく前かがみなので、腰が痛いなあと思いながら、グリムバルドさんは脱出の時期が来るのを待っています。

 雪の中、じっとしていればもちろん寒いに決まっています。
「寒い‥‥しかし、動きようもない‥‥」
 どうしたものだろうと、思い悩んでいるのは二式丸さんでした。修羅の二式丸さんの故郷は、雪がちらちら降ったらそれだけで大事件になるようなところ。今日だって、雪道を歩くのに苦労していたのに、今は埋もれているのです。
 どうしたらいいかなんて、分かるわけありません!!
「武僧の、修業と‥‥まるで、違う‥‥」
 当たり前のことですが、こんな修行をする武僧さんもいないでしょう。何から何まで、二式丸さんの知識にない、困った事態。さあ、どうしたらいいものか、迷いに迷います。
「うむ、体力‥‥温存だ、な」
 そう呟いて、ぱたりと動かなくなりました。‥‥凍えちゃうかも?

 でも、努力をすればいいと言うものでもないようです。
「さむいさむいさむいさむいさむい‥‥」
 雪の中、割と大きな穴の中では、ネネさんがガタガタ震えていました。何故だか足元には水溜り、着ているものはびしょびしょです。
「火輪を使って抜け出そうなんて、やめておけばよかったです」
 雪崩がごろごろ転がって、途中にあった樹の幹の横で止まったネネさん。上の方向が分かるものだから、火輪の術を使って雪を解かそうと思ったのです。やっぱり助けが来るのを待っているだけでは、いけませんからね。
 ところが、少しずつ雪が解けるのはいいけれど、溶けた雪はお水になっちゃうわけで‥‥服が濡れたら、とっても寒い。これも当たり前のことでした。
 このままだと、ネネさんは凍ってしまうかもしれません。

 その頃、露羽さんは前髪が凍ってきたなあと思っていました。雪崩の前からちょっと濡れていたので、うっかり気絶している間に凍ってしまったようです。
 いけません、冷たいところでうっかり寝てしまうと、そのまま体温が下がって目が覚めなくなってしまいます。要するに、死んじゃうのです。
 でも、目を開けても真ん前に雪。手足は痛くないけど、感覚もありません。多分、冷え過ぎ。このままだと、どれだけ運が良くても凍傷は間違いなしです。
 絶体絶命とはこういう時のことですが、露羽さんは慌てたりしません。何故って、地上ではきっと黒霧丸さんが探してくれているからです。大丈夫、きっと助けに来てくれます。黒霧丸さんは雪崩に巻き込まれたりしない、立派な又鬼犬さんなのです。
 だけど、だんだん気が遠くなってきて‥‥
『ちょっと、露羽様! シノビともあろうお方が、気を失うなんて何事ですか!』
 ものすごい勢いで、黒霧丸さんにお説教されている気がしました。黒霧丸さんは今まで人語をお話したことがないはずですけれど‥‥
『露羽様ったら!』
 よく聞いたら、ワンワン咆える聞きなれた黒霧丸さんの声でした。すごーく名前を呼ばれている気もしますけど、とにかく黒霧丸さんの声。
「やっぱり、助けに来て、くれたんだね。ありが‥‥とう」
 当たり前じゃないって顔で尻尾を振る黒霧丸さんを抱きしめて、とりあえず露羽さんはほっと一息ついています。

 このままだと、救助が来る前に体が動かなくなってしまうと、二式丸さんが心配になってきたその時、聞きなれた声が聞こえました。流石に間違えません。これは楽光さんの声です。それにしては、ちょっと小さいですが‥‥雪がかなり厚いのかもしれません。
 しかし、声を出すならここしかありません。
『ごっしゅじーぃん』
 なんだかすごい勢いで呼ばれているせいか、人の声のように聞こえますが、きっとこれが噂の幻聴とかいうのでしょう。早く外に出ないと危ないと、二式丸さんはとりあえず叫びました。なんて言ったか、自分でもよく分かりません。
 それから、えいと体を起こすために腕を突っ張ったら、頭の上から雪がどさどさ落ちてきます。危ない、また埋もれちゃう‥‥って、少しだけ慌てたら。少しだけ、本当にちょっとだけ。
 そしたらば。
「楽光、爪、爪が刺さる!」
 上からばりばり雪を掘っていた楽光さんの爪が、顔の横にずんと落ちたので、二式丸さんはもっと大きな声で叫びましたよ。
 その時には、楽光さんの前足でぶらーんと吊り上げられていましたけれど。
『なんでこんなに冷たいんですのっ!』
「あ、すまない」
『服が濡れてますわ、これじゃあ懐に入っても、ちっとも暖かくないじゃありませんの! 風邪ひきますわよ、早く何とかしなきゃー』
 ぷらんぷらんされて、足元からいきなり怒鳴られたので二式丸さん、うっかり謝ってしまいましたが‥‥怒られていたのは、うるるさんを抱えたネネさんのようです。どちらも寒そうにがちがち震えていて、このままだと風邪どころか肺炎になりそう。
 凍傷なら浄鏡で治ったかなぁと記憶を探りつつ、二式丸さんは下ろしてと合図しています。
 離れたところで、クレーヴェルさんに猫パンチされまくりのグリムバルドさんは‥‥助けたらいいのか悪いのか、よく分かりません。大体猫パンチくらい、グリムバルドさんもたいして痛くはなさそうですしね。
 良く見ると、他の皆さんも案外遠くないところら埋まっていたようでした。でも全然声も聞こえないなんて、雪って怖すぎです。
 何はともあれ。
「ほれ、服の中に入ってろよ、まだ探さなきゃならない人達がいるしな」
 ずぶ濡れぶるぶるのネネさんは、荷物と一緒に離れた場所に移動してもらって、焚火の番をしてもらいましょう。うるるさんは荷物番。他の人達は、捜索に動いて体を暖めるのです。
 さあ、残りは何人ですか?

 大分長いこと雪の中のあっちとこっちで、玄人さんと奈々月さんは考えました。このままだと、寒さで気が遠くなってしまいます。そうしたら、助かりません。
 これはもう救助を待っている場合ではなくて、なんとか自分で助からなくては!
 そんな思いで雪を掻き分け掻きわけした玄人さんは、突然伸ばした腕をずんずん棒で突きまわされました。細い棒だけど、これがまた痛いのなんの。痛いって思ううちは、まあ悪くない状態だとは言いますが‥‥痛いものは痛い。
 この恨みでもこもっていそうな棒は、仲間とは思えない。と、玄人さんがしばし動きを止めていると、遠くから戦闘狂羽妖精さんの声が響いてきました。それと、サクサク雪を掘る音もします。
「意識はありますか?」
「おー、なんとか。湯が欲しいかな」
『何を悠長なことを! 危うく死ぬところだぞ。俺を裏切るつもりだったのか! 強者として、俺と死闘を繰り広げる約束は?!』
 お仲間の皆さんに助け起こされて、安心の余り力が抜けそうだった玄人さんは、相棒の十束さんのせいで本当に力が抜けてしまいました。そんな約束、したことありません。でも言っても聞いてくれません。
 それどころか、です。
『よし、ならば約束だ。貴様を倒すのは誰だとな!!』
 こんな戦闘狂なところは嫌なんです、自分までこんなだと思わないでと、玄人さんは視線だけでものすごーく語っていました。他の皆さんが気が付いたかどうかは、よく分かりませんけど。
 そして、もう一人の奈々月さんです。
 こちらは、なんとか自力で地上に出ました。手だけ。ちなみに左の手です。
 そこから頑張って体も外に出たいものですが、どういう訳かうまくいきません。足元も手の周りにもとっかかりがなくて、力が入らないのでうまく動けない。多分、そんなところでしょう。
 手だけ出しておけば、誰かが気付いてくれるかもしれませんが、とにかく寒いのです。これは危険、今すぐ見付けてもらわないといくらサムライでもとっても危険。
 誰かが近くにいることを期待して、ここは腹の底から大きな声をと考えた奈々月さんが、冷たくなりかけた体に一生懸命に力を入れていたら‥‥
『ぴーっ』
 冷たくなった手にも分かる、がっちりした爪が食い込みました。この食い込み方は、血がだら〜と出そうな感じ?
 でも、蒼空君の爪だってことが分かるので、奈々月さんはその足をしっかり掴み返してあげました。

 まったく身動きは取れません。前も見えません、いや雪なら見えますけれども、目を開けると入ってきます。はっきり言って、邪魔。
 雪崩に巻き込まれて相当な時間が経ちました。でも波美さんは慌てません。何故ってからくりさんは暑さ寒さに強いのです。凍えないから、動けなくても平気。海神さん達が助けてくれるのを待つだけ。
 そういえば、自分は主の海神さんの心眼で見付けてもらえるのだったろうかと、ちょっと心配になった波美さん。だけど考え直しました。自分が術に反応しなかったら、他の皆さんが先に助かります。海神さんは、からくりさんの特徴をよく知っているので、その方が心置きなく頑張れるかも?
 それになんと言っても‥‥動けないで助けが来るのを待つなんて、お伽噺のお姫様のようではありませんか。ちょっと楽しい気分の波美さんでした。寒くないですからね。
 もしも助けに来てくれなかったら? そんなことは、波美さんは考えません。海神さんなら来てくれるのです。大丈夫、なんてことを思っていたら。
「‥‥お前、次に人形祓なんか使ったら、埋まっても助けないぞ」
 雪を避けて現われたものすごーいお顔の海神さんが、木を削ったような板で雪をかきながら、開口一番にそう言ったのでした。
 これで皆さん、相棒さんと再会出来たようです?




 そして、まだ雪の中。
『は? 奥方様ですか?』
「新年早々、わざわざ顔を見せに来るなと、でかい雪玉を投げ付けられた」
『そうですか。それで目が覚めるとは、良い奥方様です』
 どんだけ深いのか分からない雪の下の方で、皇さんと天照さんがなんとか地上に出ようと雪をそーっと掘っていました。
 皇さんの頭のたんこぶは、夢で亡くなった奥様にぶつけられた雪玉のせいではない、はずです。