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■オープニング本文 バクバクとフェトナは、同じ森で育った幼馴染み。 種族は違うが、一番の仲良しだ。 バクバクは足が速くて、森の中なら腕っぷしが強い奴らよりも身軽に動ける。 フェトナは生まれた時から足がなくて動けないが、誰よりも記憶力が良かった。 だからバクバクが色々な話をフェトナに聞かせてやり、フェトナは忘れっぽいバクバクのためにいつも役立つ話をちゃんと覚えていて、必要な時に話してやっていた。 そうやって、バクバクとフェトナは森で楽しく暮らしていたのだ。 けれど‥‥ 「やっぱり、あの怖い連中が来るの?」 「うん、さっきこの近くまで来て、相談しているのを聞いたんだ。森を燃やして、俺達を狩るつもりらしい」 「森を燃やすですって? なんて、ひどいことを」 「親分に言ったら、今度こそ追い払ってやるって叫んでたけど、俺、無理かなって思うんだ」 彼らの心配事は、森の向こうから時折襲ってくる、怖い連中のこと。 奴らは時々近くまでやってきて、バクバクの友達やフェトナの親戚を殺してしまう。 これまでにバクバクも他の仲間と一緒に戦いに出たが、とても敵うものではない。 そんな連中が更に数を増やして襲ってくるのだから、今度こそ自分も殺されてしまうかもしれない。 「ねえ、バクバク」 「なあに、フェトナ?」 「あのね、私のことはいいから、バクバク達だけでも逃げてちょうだい。私は動けないから、もうどうしようもないもの」 「フェトナを置いていくなんて、そんなこと出来ないよ!」 「でも‥‥」 バクバクは必死に考えた。 今までで一番一生懸命考えた。 確かに、敵わないなら逃げるのはありだと思う。 でも、フェトナを置いていくなんて嫌だ。 それだけは、絶対に嫌だ。 だから‥‥ 「そうだっ、俺が背負ってあげる。それで一緒に逃げようよ」 「え、だけど」 「心配しないで。根っこの一本だって傷付けないように、そっと掘ってから、何かで包んで背負うから!」 「ありがとう、バクバク。連れて行ってくれるなら、根っこの一本や二本ちぎれたって我慢するわ!」 器用に枝を動かして抱き付いてくる植物アヤカシのフェトナを、小鬼のバクバクはしっかりと抱きしめたのだった。 彼らが怖れる人の、魔の森への襲撃準備は着々と進んでいる。 |
■参加者一覧
水鏡 絵梨乃(ia0191)
20歳・女・泰
柚乃(ia0638)
17歳・女・巫
天河 ふしぎ(ia1037)
17歳・男・シ
サーシャ(ia9980)
16歳・女・騎
ルゥミ・ケイユカイネン(ib5905)
10歳・女・砲
レムリア・ミリア(ib6884)
24歳・女・巫
何 静花(ib9584)
15歳・女・泰
ジョハル(ib9784)
25歳・男・砂
シンディア・エリコット(ic1045)
16歳・女・吟
ジェイク・クロフォード(ic1292)
22歳・男・騎 |
■リプレイ本文 魔の森のアヤカシ退治。 過去にも何度か繰り返された依頼だから、現地の様子を知っている者も少なくない。例えば天河 ふしぎ(ia1037)は、内部に埋もれたままの神砂船の内部に興味を持っていた。 それを迎えに来たナヴィド(iz0264)に口にしたら、なにやら言葉を濁していたが、別に壊れたとかではないようだ。残念ながら今回の担当地域には神砂船は入らないが、まあうまく仕事を進めれば、姿を見ることも叶うだろう。 後から神砂船の位置が加えられた地図を眺めつつ、進路の相談をしているのはサーシャ(ia9980)とジェイク・クロフォード(ic1292)の騎士二人。魔の森も途中までは進入用の道があり、アーマーを活用するならその先からだ。 アヤカシの居場所は不明だからどうしても臨機応変な部分はあるが、せっかく二体あるアーマーの動きが無為に重ならない程度の打ち合わせは必要だろう。出来れば後日に広範囲を焼き払えるよう、内部の樹木は倒してくれればとも言われていた。 それがなくても、広い道が通じることで、後日焼き払うのも安全に行える。アーマーとは縁遠い遊牧民ながら、効果はすぐに呑み込んでいた。 その割に、救護面ではレムリア・ミリア(ib6884)が手を焼いている。水を節制することが生活の最優先事項の一つである遊牧民達は、傷口もひどかった時だけ洗えばいいよと考えている節がある。魔の森で負傷した時くらい、十分に洗えと主張するレムリアも少々乱暴に見えるが、そこはアル=カマル人同士。しばらく話しているうちに、なにやら通じ合っていた。 遊牧民達とて長いこと魔の森に相対して、瘴気感染を防ぐための諸々の手法は編み出している。だからアヤカシ退治優先だろうが、作戦時間は厳密に決められていて、それを超えての活動はしない。怪我の程度も一定以上は外に出されるなど、細かい決まり事があった。 これらは龍はじめ、相棒達にも同様の決まりがあるのだが‥‥柚乃(ia0638)が連れてきた提灯南瓜はまだ前例がない来訪者なので、一番短い活動時間が割り振られて、様子を観察する手筈に。後はアヤカシと間違われないよう、派手な目印を付けられた。 半ば巻き添えで同じ目印、極彩色のリボンを巻かれた迅鷹の花月は嫌そうに首を振っているが、相棒の水鏡 絵梨乃(ia0191)は楽しく飲酒中で気付かない。酔拳の使い手だからと酒を振る舞われ、言われるままにリボンを巻いたのだから当たり前だろう。 この頃には目的地も地平線の彼方に見えるようになり、何人かは自分の龍や滑空艇で偵察がてら飛び出していった。もうアヤカシも魔の森から人の住む側には滅多に出て来ないが、龍はそろそろ甲板から飛び出したいと言うのもあろう。 久し振りの故郷は乾燥していると零していたシンディア・エリコット(ic1045)も、駿龍アズラクに乗って出掛けていく。炎龍リリと共にジョハル(ib9784)も魔の森の全景を見に、なぜか滑空艇のルゥミ・ケイユカイネン(ib5905)を従えるようにして飛んでいった。正確には後者が前者に付きまとって、魔の森や砂漠の様子を質問攻めにしている最中だが、近付いて見なければそこまでは分からない。 反対に、何 静花(ib9584)がからくり雷花に、話し合いへの不参加振りを叱られているのは、非常によく分かる。なにしろ叱責する声が甲板に響いているからだ。 「単独行動は駄目って言われたでしょ!」 今回の作戦で一番うるさく言われたのは、確かにこの一言だった。 ただ、静花が人見知りだか引っ込み思案なのも見ればなんとなく分かるので、大抵は苦笑して見守っている。今のところ、その位の余裕はある。 この飛空船が着陸すれば、もうすぐにもアヤカシ退治の第一回が始まるが。 その日は、朝からろくでもない日だった。 人の勢力がまた空を飛ぶ船を寄越していたから、確実に何かが起きることは、ちょっと頭が働く奴ならこれまでの経験で承知している。偵察を出してみれば、やはり攻め込んでくる手はずを整えていた。 「ふん、今回はこっちも準備万端だ。奴らを追い帰して、この森から痕跡も残らず消してやろうぜ!」 ひときわ大きな鬼が威勢良く咆えると、集った多様な仲間達の半分くらいが同様の鬨の声を上げた。他の半分は発声器官がないか、あまり知恵が回らない奴らなので仕方ない。 森の支配者たる大アヤカシが倒されてから、彼らの生活は一変してしまった。人の勢力に森を削られていくこと甚だしい日々だったが、それも今日で終わりだとの気概がこの場には満ちていた。 「ようし、手筈通りに行けぃっ!!」 あちこちから寄せ集めた武器を手に、鬼や小鬼が最初に走り去った。動きが今一つ遅いマミーなどは、じわじわと進軍を開始する。 その手筈だった。が、 『あはははははー、見ぃ付けた!』 「散れっ、散るんだ!」 敵の勢力は、予想より素早かった。素早過ぎたと言えよう。 しかし、指揮官たる鬼は滑空艇の上に見える姿が人の子供と呼ばれる年齢なので、さほどの危険は感じなかった。いつでも恐ろしいのは、場数を踏んだ奴と決まっている。 まさか、陽の光で全体が白っぽく見える小さな影が、歴戦の勇者の一人だなどと、誰が思うものか。 『逃げる奴は皆アヤカシだ! 逃げない奴はよく訓練されたアヤカシだ! 組織立って移動する奴らが、一番危険なアヤカシだ! でも、これだけいたら七面鳥撃ちだね!!』 小さな人間は禍々しい笑い声と共に、自分よりよほど大きな銃を手慣れた様子で構えた。上空から狙われるより先にと、我先に木々の合間に飛び込んだモノ達はそのままの勢いで、当初の目的地に向かおうとして‥‥ 『うーん、全滅まで行かないか。指揮官はどれだろ?』 魔槍砲に込められたスパークボムの効果で、多くが消し飛ばされた。残っているのは、瘴気の影響は受けていてもアヤカシには変じていなかった木々の、弾け飛んだ欠片だけだ。地面まで抉れている。 そこまでを見て取った犬鬼が失った両足の痛みを感じるより先に、白い死神の姿を目にして、そこまで。 『シチメチョーなんて、知らねえよ』 もちろん最期に零した疑問に、死神が答えてくれるはずもない。 後方からの衝撃で前に投げ出された集団は、立ち上がっても振り返ることはしなかった。敵勢力がやってきたのは分かる。そしてもう一つ、奴らの主戦力が空中にないことも、理解していた。 「勝手に入り込んできて、暴れまくるなんてろくでなしどもめ」 今頃森の内部入り込んできている奴らに、数倍の被害を返してやらねばならぬと、走り出そうとした彼らを押し留めたのは、白い死神とは別の滑空艇だった。これ見よがしの旗が、また癪に障る。 乗っているのは一人、武器は剣と見た一体が、手にした槍を突き出した。間合いが長い分、自分の有利を疑う必要などない。けれども。 「この卑怯者めぇ!」 人が隠し持っていた短銃の一撃で消し飛んだ仲間の姿に、豚鬼達がけたたましく喚きながら、剣や槍で諸悪の根源目掛けて向かっていく。 『なんだか罵られてる気がするけど、それってこっちがやることだよ』 つるりとした外見の敵が何やら言うが、人の言葉など分かるモノはこの場にはいない。分かったところで、友好的になれるはずもなく、数を活かして押し潰すべくかかっていった。 その時起きたことは、誰にも分からなかったし、他の場所の仲間達が知ることも出来なかった。ただ軋るような音、喉が裂けるような悲鳴を聞いたと感じたモノがいたが、そこまでだ。 『ほんとに強いのは混じってないなぁ』 旗を担ぎ直した襲撃者は、また滑空艇で空に舞い戻って行った。 後方で起きた衝撃に倒れて、集団の何体かが四肢のいずれかを失っていた。しかし、両足が揃っていれば歩くのに問題はなく、なければ這って、こちらの一団はのろのろと移動を続けている。 本来は指揮する鬼がいたのだが、あいにくと先程の衝撃で消されたらしい。よって、この一団はひたすらに前進をしている。侵略者達の気配がすれば、そちらに向かうが、近くにはその気配はない。 そう感じていたところに、上から降ってきた。 『以前は街にいた砂迅騎に頼んでいたのに、自分がこうして対峙する羽目になるとはね』 知能があるモノが聞けば、妙に感慨深いと思ったかもしれないが、あいにくとマミーやアーマースケルトンにはこれといった感想も生まれようがない。ひたすらに本能に従って、降り立った龍と人とに向けて進み、その血肉を引き裂いてやろうと、数で押し包むいつもの戦法を選んでいた。 これで相手が只人なら、もちろん簡単にぼろきれと肉片に裂いてやれたが、相手はどうもすばしこい。特にマミー側を狙ってくるので、幾らか動きが早いアーマースケルトンがマミーを押しのけて攻撃に回ると、少し人の動きが鈍くなった。 『アヤカシがアヤカシを庇う‥‥そんなことがあったかな?』 敵の言うことなど入る耳の持ち合わせがないアーマースケルトンとマミー勢は、続々と目の前の獲物に近付いて行き、押し包もうと動き続ける。 その行動は、四肢どころか胴体や頭が分断されても、容易に止まることはなかったが‥‥効果があったとも言い難い。 派手な衝撃音は、上空を警戒して飛ぶアズラクが鳴くより先に、シンディアの超越聴覚で耳に届いていた。それがなくとも、気配は他の皆も捉えている。 「こんな大きな音をさせるなら、こちらの有利ってことね。心配ないわよ」 「ええ、ルゥミ君の声がします。随分たくさんのアヤカシに出会ったようで‥‥こちらにも向かってきていますね」 足音が入り乱れて、シンディアも正確な数は数えきれないが、それは少なくないということ。レムリアが及び腰になった巫女達を背後に庇うようにして、なんら心配ないのだと繰り返し言い聞かせていた。 巫女達が及び腰な以外は、砂迅騎達も落ち着き払い、絵梨乃など嬉々として花月を竜巻の刃で同化させている。シンディアも冷静に、楽器の音を確かめていた。 「うーん、いい足音がする。これは格闘家の足音だよ。ボクが相手していいかな?」 「やばかったら、勝手に割り込むぞー」 絵梨乃は砂迅騎からの声など耳に入らない様子で、躍るような足取りで前に出た。腰に提げていた水筒から何か飲んでいるが、変に緑くさい中でもつんとした酒の匂いが漂って正体を知らせてくれた。 酔拳の使い手だから当然なのだが、砂迅騎達も何事かという視線をレムリアやシンディアに寄越してくる。 「酔うと使える技があるのよ。だから大丈夫。さ、警戒よろしくね」 上は甲龍ブラック・ベルベットもアズラクもいるから、警戒は任せておける。自分は巫女やシンディアの護衛に集中すると注意を促したレムリアに、砂迅騎達は素直に動き出した。なるほど確かに足音が複数届くようになっている。 こちらの気配に気付いているだろうに、方向を変えるどころか足を速めた気配に、最初に行動したのはシンディアだった。竪琴がかき鳴らされて、剣の舞が皆に付与されていく。 「来た来た来たーっ、大当たりだよ!」 普通は強そうなアヤカシを見て大当たりとは言うまいが、この時の絵梨乃は別。大喜びであからさまに指揮官の一体を目指して、他のアヤカシの真ん中を割って通ろうとし始めた。結果として、ほぼ同時に突っ込んだ砂迅騎達に雑魚をお任せで、歓声を上げて雑魚の一体を踏み台に指揮官に躍りかかる。 いきなり後方にいた指揮官が襲われたアヤカシは浮足立って、砂迅騎達に次々と討ち取られていく。指揮官だけは、絵梨乃の言う通りに体術らしきものを使ったが‥‥ 「おかしい。今一つ手ごたえがない」 「あんた、自分の腕を考えろよ」 おおむね下級アヤカシばかりだと言ってあったろうと、砂迅騎達に呆れられる勢いであっさりと決着をつけてしまい、物足りなさを訴えていた。 おかげで、レムリアの鞭も出番がない。シンディアは剣の舞の効果もあったかしらと、控えめに微笑んでいる。 絵梨乃だけが、まだ不満そうだ。 声なき悲鳴を上げながら、植物型のアヤカシ達が薙ぎ倒されていく。鉄の巨人が手にした武器が、不気味な軋みを上げつつ、次々とアヤカシと植物の別なく立っているものを切り裂いている。 『すごいですねぇ、これなら防火帯もすぐに作れますよ』 後で火をかける時に便利だと、巨人の後ろをついて歩く一陣の敵の中で、ひときわ小さな奴が手を叩いている。人が手を叩くのは嬉しい時や感心した時。そんな話を聞かされたことがあるアヤカシの一本が、最期の力を振り絞って毒の枝を巻き付けようとしたが、そばにいる変な発光体に防がれてしまった。 「森に手を出すなぁ!」 でもそちらに人の注意が向いた隙に、倒れた木々の合間から走り出てきた犬鬼数体が、なんとか巨人の足元に辿り着いた。けれど手にした武器ではその足をへこませることも出来ずにいる。それでも巨大な武器ではかえって攻撃も出来かねて、犬鬼達は何度も足を殴りつけた。 巨人の仲間も巻き添えを恐れて近付いてこないので、犬鬼達は多少なりと動きを鈍らせたら、別方向に逃げ去るつもりだった。けれども、その方角にはいつの間にか石の壁が立ちふさがり、彼らの進路も退路も奪っている。 『あ、下がれって合図です。でも、どうするつもりかしら?』 小さな奴が仲間に言いながら、自分も遠ざかっていく。そこで生まれた隙間目掛けて、犬鬼達は一斉に走り出したが、その大半の歩みは数歩も続かなかった。 「貴様ら、何をしたっ」 振り返った犬鬼が叫んだが、答えは目の前にあった。巨人の足が、同胞がいたはずの場所を踏んでいる。その下に何者もいる様子はないが、転がる棍棒が皆がいたことを示していた。 再び巨人の足にしがみつき、その頭を目掛けて登ろうとした二体の犬鬼は、それまでほとんど動かずに様子を眺めていた大きな敵達に引きずり降ろされ、その一人二人になんとか棍棒を当てることは出来たものの‥‥ 巨人の破壊は、今も続いている。 出来れば開拓者達がいる、少しでも人手があるうちに、森の焼き払いも済ませたい。そうした依頼側の事情も汲んで、ジェイクは特に彼らが手を出しあぐねていた大きな植物アヤカシの伐採に赴いていた。アーマー火竜のラフ・ライダーの武器でいいのかと思ったが、相手は棘を飛ばしてくるので間合いが広いアーマーが向いているらしい。 とはいえ、練力消費の都合があるので、道が通っている部分はアーマーケースを担いでいく。この中からアーマーが出ることに驚嘆しきりのナヴィドは、また出されるところが見たくてすぐ横にいた。 「静花、一人でふらふらしない!」 「べ、別にいいじゃないか。こっちの方を警戒したって」 そちらの方角は植物アヤカシが多いとかで、ナヴィドを含めて砂迅騎もそれなりの人数が一緒だが、その中に混じっている静花と雷花の主従が常に賑やかだ。酒が飲みたいとか、仕事に集中しろとか、遠慮ない物言いが姉妹のようである。仲がいいかどうかは別として。 砂迅騎達は多少変わっていても平気で、周りの警戒を怠らないままで二人の会話を楽しんでいる。そうすると余計に静花が妙なことを口走るが、また面白がられるだけ。 そんなこんなしているうちに、目的地間近になった。ここまでも小規模な戦闘はこなしていた彼らだが、ここからは群れる植物アヤカシの中を突っ切ることになる。 「よっしゃ、じゃあ出しますか。目標までの雑魚は踏み潰していくから、どんどんついて来いよ」 ただし足元に近付き過ぎないように。アーマーで仲間を踏みつぶしたとあっては、騎士の名折れだ。いかにジェイクが貴族としてはちんまり目立たない家系だとしても、騎士の気概はそこそこ持ち合わせている。 そうでなくても、人など踏んだら気分が悪いに決まっていた。静花も雷花も砂迅騎達も、身軽なので心配はしていないが。 していない、はずだったけれども。 「その二人、後ろに縛っとけ!」 「それが出来れば、とっくにやってる。二人ものされたぞっ」 修羅とは言いえて妙。続々と現われるアヤカシを相手取るうちに、静花と雷花が戦闘以外目にも耳にも入らないように変り果て、ラフ・ライダーの足元に飛び込むは、近付いた砂迅騎にアヤカシを叩きつけてしまうはと、暴れ放題だ。我を忘れているわけではなさそうだが、あいにくと互い以外の他者と連携を取って効果的にアヤカシ退治とはいかないらしい。 そう見て取った砂迅騎は、さっさと距離を取ってアヤカシ退治に熱中し始めたので、他人を気にしない連中増加でジェイクばかりが苦労する羽目に。要するに、どいつもこいつもアーマーの怖さを知らないんだと歯ぎしりした彼は、ようやく目的の大樹アヤカシに到達した。 「あー、すっきり」 アーマーで暴れられれば幸せ。なのに大分障害が多かった道行の不満をジェイクが大樹アヤカシにぶつけても、もちろん誰も文句などない。いや正しくは、一人ばかり愚痴を垂れていたが、 「私も当たってみたかった。雷花だっていい経験に」 「他を譲ったからダメ」 静花の希望はばっさり切り捨てられている。流石の彼女も、火炎放射を浴びて火に巻かれて暴れる大樹相手に挑むほど無謀ではなかったのだろう。 大樹アヤカシが炎と槍とで細切れの消し炭にされ、瘴気に還っていくのを見届けて、練力切れでラフ・ライダーから降りようとしたジェイクは、視界の端に木を背負って逃げていくアヤカシを見た。誰かに追いかけさせても追いつくには距離があるし、ここからどの方向に逃げても誰かがいると地図を思い返して、無理な追跡は諦める。 「この調子なら、明後日くらいには大掛かりに火が掛けられるんじゃないか?」 確かにと頷いたナヴィドの様子を見て、静花が明日はもっと強い敵に会いたいと口にして、雷花にまた注意されていた。 それから二日の後。 アーマーはじめ、開拓者達の働きで十分な防火帯が設けられた魔の森の外周部が、これまでで最も広い範囲を焼失した。事前のアヤカシ退治が十分に進み、植物アヤカシの妨害もなかったが、仕留め損ねた幾らかはさらに人里から離れた方角に逃げ延びたかもしれない。 だがそれよりも、皆にとってはようやく魔の森内部ではなく、砂漠の端に姿を現すことになった神砂船の方が興味深かろう。 「もうっ、アヤカシ相手の怪我より火傷の方が多いって、どうなってるのよ」 「休憩のときは、ちゃんと気持ちを落ち着けて、ゆっくりしないと戻してあげられませんよ?」 それに気を引かれて、些細なことで火傷をしてレムリアとシンディアに怒られた中に開拓者もいたのは、ぜひとも報告の際は秘密にしてほしい‥‥と、一部から要望が上がっている。 |