【魔法】剣狼保護依頼
マスター名:龍河流
シナリオ形態: ショート
危険
難易度: 易しい
参加人数: 4人
サポート: 2人
リプレイ完成日時: 2013/10/28 22:44



■オープニング本文

※このシナリオはIF世界を舞台としたマジカルハロウィンナイトシナリオです。
 WTRPGの世界観には一切関係ありませんのでご注意ください。


 とある山のその裾野にて。
 今日も今日とて、開拓者達はよくある依頼に勤しんでいた。

「この地域に多数生息するアヤカシは‥‥剣狼か。ちょっと面倒だなぁ」
「そんなことを言ってはいけません。アヤカシレッドデータブック記載直前の、重点保護アヤカシですよ」
「でもぉ、剣狼って、守ってあげてるのに攻撃してくるから、ちょっと嫌」
「ま、人間を襲うのは獣型アヤカシに多い習性だからね」

 彼らの主な仕事と言えば、アヤカシの保護。
 人の生息域拡大に伴い、急激な勢いで数を減らしている各種アヤカシの棲む地域の見回りや密猟者の逮捕、時には害獣指定されたアヤカシの退治などを、開拓者達が担うようになっているのだ。
 今回は剣狼の最大生息地域を騒がせる、密猟者集団の摘発が目的だ。

 ところが。

「その密猟者って、情報届いてなかったっけ?」
「ジャック・オ・ランタン」
「は? あのかぼちゃって、都市部に生息するんじゃ?」
「なんでか分からないけど、奴らが徒党を組んで押し寄せてくるんだってさ」

 アヤカシ剣狼の密猟に姿を見せるのが、なんとジャック・オ・ランタンだという。
 かぼちゃのような頭に目鼻口が付き、帽子とマントを身に着けているが、体はあるんだかないんだか。そのくせ、器用に道具を使いこなし、人語まで話しちゃったりする。
 なにより強力なのは、大多数が愛らしいと認めるあの外見を元に繰り出される魅了。駆け出しの開拓者なら、ほぼ一目で操られるという、相当とんでもない効果の持ち主なのだ。

「なんと、剣狼もいちころらしい」
「そんな密猟者、いらない‥‥」

 いらなくたって、多分今日も来る。



■参加者一覧
皇・月瑠(ia0567
46歳・男・志
ルオウ(ia2445
14歳・男・サ
フランヴェル・ギーベリ(ib5897
20歳・女・サ
葛切 サクラ(ib9760
14歳・女・武


■リプレイ本文

●姉さん、大変です
 剣狼の保護活動。いかにアヤカシであろうと、世の決まりとして保護するとなっているのだから、開拓者たる者、依頼は遂行しなくてはならない。
 だがしかし、自分に敵対的行動を取る存在を、それでも好きになれる者なんて、なかなかいるはずもないのだ。
「あ〜、なんで出てくるかなぁ」
 半眼になって睨みつけちゃう目付き、苛々と地面を蹴っている右足、時折聞こえる舌打ちの音と、ご機嫌最低を分かりやすく表現しているルオウ(ia2445)は、只今剣狼と睨めっこの真っ最中だった。
 あからさまに放たれる殺気に、剣狼の大半はしっぽがまるまる寸前なのだが‥‥群れのリーダーやその側近辺りは、気合いの入った威嚇を寄越してくる。今うっかりと背中を向けたら、それっとばかりに飛び掛かってきて、出来上がるのは骨の山だろう。
 つまり、『お前ら喰ってやる』『出来るもんならやってみやがれ』と耳には聞こえない会話が繰り広げられているところなのだ。
「なんで、こっちと出会っちゃうかねぇ。ジャック・オ・ランタンと会えれば、話が早いのに」
 負のオーラを垂れ流すルオウの後ろで、一応盾を構えて警戒する姿勢は取っているフランヴェル・ギーベリ(ib5897)が、非常に緊迫感のない声音で話している。基本的に話し掛ける相手は葛切 サクラ(ib9760)のみだ。
 仮にも四人組であるのだから、他の二人にも話しかけたらいいとサクラは思うが、気持ちが分からないわけではない。なにしろ一人はとうとう剣狼の群れを後退させ始めたルオウで、もう一人は、
「‥‥‥‥よーし、怖くない、怖くない」
 こんな土埃まみれの依頼にバラージスーツを着用し、何故だかその上に割烹着という超独自スタイルの皇・月瑠(ia0567)。話し掛けても単語の返答しかないような無口な相手に、サクラも『どうして割烹着を?』とは尋ねられずにいるから、フランヴェルの気持ちも分からなくはない。
 それでも剣狼の居場所を探ろうと、縄張りを示す痕跡を捜したりしている時は、生真面目に仕事しているなぁと思っていたが‥‥
「そんなん手懐けて、どうしたいんだよ!」
「相手がアヤカシであっても、信頼は築けるかもしれん」
「なかなか難しいと思うよ。挑戦者だね」
 剣狼保護も、密猟者探しも難しいのではなかろうかと、サクラはがっくりと項垂れてしまった。
 ルオウの負のオーラ倍増、それをまったく気にしない皇、その二人を傍観する立場でのほほんとするフランヴェル。
 こんな三人と一緒の剣狼保護依頼なんて、
「姉さん‥‥困難がいっぱいです」
 サクラは、遠い空の下にいる姉に、ついつい泣き言を口にしていた。
 引き際を見誤った剣狼の群れは、まだ目の前にいちゃったりする。

●姉さん、南瓜です
 剣狼の群れと睨みあったり、戯れてみようとしたりして、嫌気がさしたあちらが逃げ去ったのは更に一時間半も後のこと。
「剣狼なんかと仲良くしたいって、意味分かんねー」
 見回りの途中ではあったが、保護対象の無事は一応確認したので、四人はいったん休憩に入っていた。
「本当はジャック用なんだけど、まあいいよね」
 甘いものは気持ちを和らげてくれるよと、フランヴェルが荷物から大量に取り出したのは、かなり上等な菓子類だった。
「やっぱりあいつら相手だと食いもんだよなぁ」
 自分も色々持ってきたのだと、ようやく平常心に戻ったルオウも荷物をごそごそやり出した。ジャック・オ・ランタンと言えば、お菓子が大好きで有名だ。サクラも開拓者ギルドに用意してもらえる範囲で買い込んできていたから、広げられた菓子軽食の類は四人分の軽く数倍はある。
 一人だけ菓子は用意していない皇は、なぜか正座で緑茶を淹れていた。お茶を淹れる時には正座と、そういう躾でも受けたのだろうか。割烹着は、こんな時のための準備‥‥とでも思っておこう。
 晴れた空の下でお茶、食べ物がたくさんだと気分もまったりしてくるもので、四人は少しのんびりとしていた。ちゃんと地図を広げて見回った地域や、ジャック・オ・ランタンを見付けた時の対応などは確かめているが、見晴らしがいい場所で何の姿も見えないから、まさかそんなことが起きるとは思いもしなかった。
 そう、こんなことは予想外。
「む」
 低く唸った皇が、突然敷いていた茣蓙を素早く畳み込んだ。乗っていた三人は、弾き飛ばされている。ついでにお菓子類は茣蓙包み状態。
 そんな中でもお茶碗を取り落さない三人も大したものだが、皇の行動に文句を言ったのは別の口だった。
『むー、お菓子をくれなきゃ、みつりょーするぞー!』
『妾は誇り高きジャック・オ・ランタンなるぞ! さあ、高貴なる妾にお菓子を捧げるのじゃ!!』
 駄々っ子のように甲高い声を上げているのは、オレンジ色の頭の、
「ジャックさん、どこから降ってきたんですか?」
 ジャック・オ・ランタン達だった。
 サクラの疑問には、まだ誰も答えられないでいる。

●姉さん、事件です!
 どっかんどっかんと音を立てて、はるか上空から降り注いでくるのはジャック・オ・ランタン。一見すると、オレンジ色の南瓜が続々落下中。
 その中でも最初に落ちてきた二体が、皇に向かってお菓子を寄越せと訴えていた。
『お菓子ぃ』
『貴様、妾を無視するのかっ。寄越せと言うに!』
 魅了能力が高いはずの南瓜達だが、皇は揺るがない。
「寄越せではない、くださいと言うのだ」
「皇のおっさん‥‥子供の躾じゃないんだって」
「いやぁ、あんなお父さんだったら、行儀のいい子になりそうだね」
「‥‥娘さんがいるって言っていましたよ?」
 大量の南瓜に取り囲まれて、菓子を寄越せと叫びまくられ、あるかないか判然としない手足でボカボカやられても平然と仁王立ちの皇の姿と、世のお父さん像が結び付かないのだろう。ルオウとフランヴェルの動きが一瞬止まった。
 サクラだって、たまたまそんな話を聞いた時には、自分の耳がおかしくなったかと心配したのだ。これまた割烹着同様に、ちゃんと確認は出来ていないのだけれど。
 そんなこんなで、残り三人がうっかり様子を見守っていると、
『ミーリエのお菓子〜』
 南瓜達にも名前があるのが分かってきた。分かっても、今一つ見分けはつけ難いけれど。
 皇にお菓子を死守されている南瓜達は、しまいには『アヤカシ操って食べさせちゃうぞ』などと言い出した。となれば、流石に三人も眺めてばかりはいられない。
「そんなに興奮するものではないよ、ジャック達。ボク達に協力したら、そのお菓子は全部あげたっていいんだけど?」
 人型ではない相手にどこまで有効か不明ながら、フランヴェルが甘い笑顔で南瓜達の気を引き始めた。南瓜達もその言葉に耳を傾けているが、これはもちろんお菓子をくれる発言の効果だろう。
「そうそう、皆さんに密猟をさせていた人達の名前や居場所も教えてくれれば、街に戻ってから更にお菓子をお渡し出来ますよ? やっぱり、お菓子で雇われていたんですか?」
『うん、そうだよ』
 自分の懐を傷めるわけではないし、事前にちゃんと予算額を確かめていたサクラも気前のいい言葉を上乗せした。質問の一つが即答されたのは驚きだが、話が早くて助かるというもの。
「よしよし。じゃあ、もう剣狼を捕まえたりしなくていいからな。それでお菓子がもらえるなら、そっちの方がいいだろ?」
 ルオウも南瓜達に剣狼密猟は止めるよう説得に入った。
 ちなみにここまで、当然のことながら四人とも南瓜達とは目を合わせていない。相手は抜群の魅了能力があるのだ。うっかり目を合わせたら、何をされることか。開拓者としては、当たり前の用心である。
 だが、しかし。
『ええい、このリンスガルドに菓子を捧げるのが嫌だと申すかっ!!』
「え、リンスガルド?」
 南瓜の一体が、オレンジ頭で皇に頭突きを繰り返し始めた時に、フランヴェルがその言葉に反応した。そして、あろうことか振り向いたそのリンスガルド南瓜と、ばっちりと目があったのだ。
『ふふふ、よし、貴様は今から妾の犬じゃっ!』
 自分で油断したら駄目だって、あんなに言っていたのに。
 フランヴェルに今からそんなことを叫んだところで、他の三人の目に映る彼の表情は魅了されたと明白なものだ。
『リンスガルドちゃんの魅了はねー、その人の理想の相手の姿が見える、優れものなんだよー?』
 ご丁寧なミーリエ南瓜の解説に、当のフランヴェルがばっちり反応した。四つん這いで。
「ボクの理想の相手? それは勿論、幼い少女(以下略)!!!!!!!」
「「「あー‥‥」」」
 ルオウと皇の『あー』は不機嫌さを示す語尾上がり、サクラの『あー』はもう嫌感満載の語尾下がり。三人とも、何か見てはいけないものを見たかのように、酸っぱい顔をしている。
 そして。
『ギャー、なんだこやつっ』
 剣狼ならぬ四足状態のフランヴェルに追い回されて、南瓜達は右往左往。もはやお菓子のことなど忘れ果て、必死に逃げ惑っている。攻撃したのに喜ばれては、流石に混乱もしようと言うものだ。
 その有様と来たら(開拓者ギルド倫理委員会により削除)
「魅了解けよ、って、こら逃げるなーっ!」
 ピーピー泣きながら、リンスガルド南瓜がものすごい速度で飛び離れていく。それを追いかけようとしたフランヴェルが、ミーリエ南瓜にしがみつかれていたサクラの方向に走ってきて‥‥
「いーーーーーーーっやーーーーーーーーーーっっっっっ!!!!!」
 素晴らしくいい勢いで、来た方向のはるか彼方まで飛んでいった。

●姉さん‥‥
 武僧の渾身の蹴りは相当な威力だったようで、フランヴェルは全く目を覚ます様子がない。
「ごめんなさい」
「これしき」
「荷物も気にすんなー」
 南瓜達は脅威が去ると同時に、また元気を取り戻した。が、流石に『お菓子ください』と、態度は殊勝に変わっている。
 でも中にはちゃっかりしたのもいた。
『案内したら、ミーリエのお菓子増える?』
 お菓子欲しさでも、密猟組織のアジトまで案内してあげるとは開拓者側にも有り難い申し出だが、今すぐ行こうと主張されるのはちょっと大変だ。なにしろ一人伸びている。
 しかし、南瓜達の気分が変わると、また一から説得なので、フランヴェルは皇が、荷物の大半はルオウが背負い、サクラが事情に明るそうな南瓜数体を紐で繋いで、お菓子をちらつかせつつ道案内させる現在が出来上がる。
 そうして到着した密猟組織のアジトに、ようやく気付いたフランヴェル共々突撃したら。
「あの蹴りを食らっても解けてないって、すごい魅了だなぁ」
「魅了の効果なんでしょうか、あれ」
「‥‥‥‥」
 まだ建物の中では悲鳴や助けを求める声がしているが、ルオウとサクラと皇の三人は扉をぎっちり閉めた上で、何事もなかったような顔をして日向ぼっこに勤しんでいた。今はもう、青い空でも眺めながら、たった今見てしまった光景を記憶から洗い流したい。
 周りでうきゃうきゃとお菓子をむさぼっている南瓜達が、なんと可愛く見えることか。いや、原因はその仲間なんだけれど。
「俺、剣狼は案外可愛かったんだって、今頃わかったよ」
「そうか」
 そして、ルオウは『あれ』よりは剣狼がよほど可愛げがあると考えるに至り、皇と何か通じ合っている。あのまま、二人で剣狼を捜しに行って、仲良くなれるまで追い回しそうだ。相手はアヤカシなのに。
 いやいや、南瓜達を連れて行けば、あっという間に仲良くなれるかもしれない。正確には、魅了で言うこと聞かせちゃうわけだが‥‥きっかけはなんでもいいじゃないか。
 もう、そんな気分。今なら、ちょっとくらい噛まれたって笑って許せそう?
「姉さん、動物の保護活動というのは‥‥命懸けです」
 サクラの零した呟きは、多分色々なところが間違っている。