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■オープニング本文 夏。 太陽は燦々と輝き、空はどこまでも澄み渡ります。 空気はこれでもかと熱を含み、でも爽やかな風が吹くこともあります。 海。 夏にこそ輝きを増す青や蒼や碧で色分けられた水が、波となって打ち寄せます。 そこは真っ白な砂浜、その所々に大きな岩が突き出し、まるで絵の中のよう。 別の場所には岩場が広がり、くぼみに残った海水には小魚の姿もあります。 中には、入り組んだ岩場や土手に隠されて、知る人も少ない秘密の場所も。 盛夏。 そんな海のあちらこちらに、様々な人が集います。 特に家族連れとか、友人連れとか、恋人同士とか、恋人同士とか、恋人同士とか。 さぞかしたくさん、弾けていたに違いありません。 別に羨ましくはないですけれどねっ。 しかし、もう夏は過ぎました。 残暑がどれだけ厳しかろうが、海の似合う夏はもう終わりです。 終わりだと言ったら、終わり! それでもまだ遊び足りないというのなら‥‥ 山に行きましょう! |
■参加者一覧 / 皇・月瑠(ia0567) / 礼野 真夢紀(ia1144) / 和奏(ia8807) / 无(ib1198) / ネロ(ib9957) / ルース・エリコット(ic0005) |
■リプレイ本文 山。 一言で山と呼んでも、色々なお山があるものです。 子供だって登れちゃうやさしいお山から、普通の人にはとっても登れないような難しいお山まで、山の数だけ色々なのです。 でも、開拓者さんにはあんまり関係ありません。 「ご来光は、いつ見てもいいものですねぇ」 とあるお山のてっぺんで、和奏(ia8807)さんがのほほんとあくびをしています。 お隣には、相棒兼護衛兼お守っぽいの漣李さん。鷲獅鳥さんです。夜も明けないうちからお隣でごそごそされて、あんまりご機嫌がよさそうではありません。 和奏さんと漣李さんがいるのは、とっても登るのが難しいお山の上。どのくらい難しいかというと、和奏さんがほけ〜っと座って日向ぼっこしているのは、人が断崖絶壁と呼んじゃう崖の上というくらい。 もちろん高いですとも、うんとうーんとうーーーーーーんと! 「良いですよねぇ、綺麗なご来光が眺められて、周りには大木がどっさり‥‥」 そう。この山は、たくさんの開拓者さんやそうでないけど戦うのがお仕事の人達が、体を鍛えたりするためによく登ってくるところでした。でも、なかなかてっぺんまで登れる人はいません。 だって、道がないのです。自分で道を作らないといけません。大変すぎて、なかなか上までは来ないみたい。 だからきっと、和奏さんはうんと頑張って登ってきたに違いありません。これからとってもすごい修業とかしちゃうかも。 「なんかとっても、お昼寝にも向いていそうなところですねぇ」 和奏さ〜ん、まだ朝になったばっかりですけれど? 断崖絶壁で足をプラプラさせて、和奏さんは本日ののんびり予定をなんとなく考えています。 漣李さんは、もう一眠りすることにしたようですよ。 断崖絶壁。 それは簡単には登れない、勇気ある人だけが向かえる場所。チカラもなくてはいけません。 力とか、能力とか、気力とか、胆力とか、色々とそういうチカラ。あれもこれもあると便利です。 だってほら、上から石が落ちてきたりしてます。当たったら痛いです。それどころか、死んじゃいそうなおっきいのも混じってます。 そんな断崖絶壁さんの下の方を、皇・月瑠(ia0567)さんがよじよじと登っていました。頭には手拭いを巻いて、着ているのはなんだかやる気一杯のものです。どの辺がやる気一杯かと言えば、腰にしっかり結んである籠とか、背中の包みからひょっこり顔を出す鎌とか、肩に掛けちゃってる丈夫そうな縄とか。 どこからどう見ても、『れっつ食糧調達!』と、大きな背中が語っています。もうもう口を開かなくても、後ろから見ただけでやる気たっぷり。 これで食べたらおいしい動物を見付けたら、多分殺る気も満々になるに違いありません。 ついでに、断崖絶壁に命綱なしで登っていくのは‥‥自分を大事にするのをお忘れかもしれません。大事なことです、忘れないようにしましょう。 もしかすると忘れんぼの皇さんは、命綱なしでどんどん断崖絶壁をよじ登っていきます。 そして。 崖の途中で何かを見付けて、むしって籠に入れています。なんだかキノコっぽいものでした。秋でなくても、食べられるキノコを見付けたのかもしれません。 時々同じようなものをむしって籠に入れて、皇さんは登ります。たくさんありそうなところでも、全部は取りません。半分くらいです。 むしむし、よじよじ、むしむし、よじよじ‥‥ 皇さんは登っていきます。でも、断崖絶壁のてっぺんは、ずーーーーーーっと上にありました。 ‥‥無事に到着出来るのでしょうか? ケモノ。 そこらの動物さんのことではありません。 だいたいはすごく大きくて、頭も良くて、たまに人の言葉でおしゃべりまでしちゃうという、素晴らしい動物さんのことです。山や川なんかの主さんと呼ばれていることもあります。 「ああ、こんにちは。ちょっと道をお尋ねしてもよろしいですか?」 『マジですかー?』 とあるお山のとある場所で、无(ib1198)さんは久し振りに出会った『人』に道を訊いているところです。一緒に来たのは家族みたいなナイさん、尾っぽのない狐さん。 『あっちかなー? たぶん、きっとー?』 道を教えてもらった无さん、丁寧にお礼を言って、ナイさんよりちんまりした『人』が指した方向に歩き始めました。 小さかったです。ついでに体の向こう側が透けて見えていた気もしました。羽根とかありませんでしたが、羽妖精さんとかの親せきの方ではないでしょうか。向こうも話し掛けられて、それはもうびっくりしていましたしね。 でも无さんは全然気にしません。このお山では、お祖父さんが若いころにケモノさんを見たと日記に書いていたのです。それはもう早く、見に行かねばいけません。 それにお空は青くて、お日様もいい感じにぽかぽかで、山の中はキラキラしています。木漏れ日とかいうやつです。なんとも素敵な光景で、歩くのに向いた日ではありませんか。 『おい、上ばかり見て茂みに突っ込むのはいい加減にしておけ』 相棒のナイさんが、何か色々言ったりしていますが、口やかましいのはいつものこと。気にせずに无さんは歩きます。山奥の滝に棲んでいたケモノさん、今もお元気だといいのですが‥‥ 「あ、こんにちは。ちょっと道を」 『‥‥』 今度の『人』は樹から生えていますが、无さんは気にしていません。人の姿をしていれば、アヤカシ以外は皆お友達なのかもと、ナイさんは溜息を吐いています。 そうして、无さんはどんどん奥へ。人はこういう状態を、遭難と呼んだりするのです。 避暑。 それは暑いところを離れて、涼しいところでのんびりする楽しい生活です。あんまり暑いので、礼野 真夢紀(ia1144)さんは、妹さん達と一緒に山の中の川辺まで遊びに来たのでした。妹さん達と言っても、からくりのしらさぎちゃんとか猫又の小雪ちゃんとか空龍の鈴麗さん。 あれ、でも鈴麗さんがいませんね。 『とんでったよ〜、あっちにたきがあったんだって』 『こゆきもあっちであそんでくる〜』 鈴麗さんと小雪ちゃん、涼しいので元気が出たようです。真夢紀さんが止める前に、すたこらお出掛けしていきました。残っていても、かまど作ったりのお手伝いは出来ないんですけれどね。 『マユキ、コノミとかとれない?』 「まだもうちょっとね。キノコは、このあたりの今の時期のはよく分からないし」 代わりに食べ物はいっぱい持ってきたから大丈夫。真夢紀さんは、さっそく果物を川で冷やしています。後はお魚を取れば、きっと楽しくておいしいご飯が食べられるに違いありません。 そのはずなんですが‥‥ 『ばーべきゅー、しよーよー』 「だからね、あれは人数がいないとね」 しらさぎちゃんが、小さいかまどではつまらないから嫌だと膨れてしまいました。でも、そんなに大きなかまどを作ったって、たくさん煮炊きなんかしないのです。 でも、しらさぎちゃんは納得していません。全然です。 「鈴麗は、焼き魚じゃなくてもいいんだけどな〜」 真夢紀さん、仕方がないので大きなかまどを拵え始めました。 大は小を兼ねる、でしょうか? 川べり。 高いお山の下の方、どこから流れてくるのかよく分かりませんが、幅の広い川の水は随分と冷たいのでした。きっと山の上はさぞかし涼しいのでしょう。 「ここなら良さそうだね」 「‥‥うん。誰もいないし」 川はあんまり波が立っていなくて、それほど深くも流れが急でもなさそうです。川遊びをするには、とっても良さそうな感じに見えます。他に誰もいないのが、不思議なくらい。 そんな素敵なところを見付けたネロ(ib9957)さんとルース・エリコット(ic0005)さんは、周りをきょろきょろ見回しています。 しばらく見てみたけれど誰もいないので、ネロさんは持ってきた荷物を降ろしています。ここで涼むことにしたようです。ネロさんは、しっかり被っている黒猫のお面を外したら、それだけで結構涼しいような気がしますけれども。 その間に、ルースさんは拾った長い棒で川の深さを計っていたみたい。底が見えるほど浅いところばかりで、棒で突いた真ん中の方も泳ぐには全然深さが足りないようです。 でも、二人とも泳ぐつもりはなかったので、それがちょうどいいのでした。 「魚がちょっといるのかな。浅いから小さいね」 「え‥‥どこ? 見えないよ」 お面をしていても、ネロさんは目がいいのでしょう。お魚がいたのをちゃんと見付けています。ルースさんは気が付かなくて、きょろきょろし始めました。 「入ってみようか」 川の真ん中あたりの方が、もうちょっとお魚がいそうだからとネロさんとルースさんはよいしょと川に入っていきました。滑ったらずぶ濡れになってしまうので、ゆっくり歩いていきます。お魚を驚かせると、見られませんしね。 涼しい川の中で、お魚が来ないかなと静かに立っているのも、二人だと楽しいものです。しばらくすると、確かにお魚が近付いてきました。 「あ、いたね」 ルースさんが見付けたのは、今までの中で一番大きなお魚でした。二人がじっとしていたら、ゆるゆるとネロさんの足元までやってきて‥‥ 「ひゃっ」 お魚は、空を飛びました。 ネロさんがうんと素早い動きで、ぴしゃっとお魚を跳ね上げたのです。ルースさんが、目を真ん丸にしています。開拓者さんでも、なかなか簡単にはお魚を捕まえられないのに、ネロさんすごいです。 お魚は、浅いところで動けなくなって、びしゃびしゃしています。 「うっかりやっちゃった。戻してあげよう」 「うん、それがいいよ」 お弁当なら持ってきたのです。お魚まで食べるのは、多分無理。だから、二人はお魚を捕まえないで、離してあげることにしました。 それなのに、お魚と来たら、離してあげた途端にルースさんの足をビシバシとひれで叩いてから逃げたのです。まあ、お魚もびっくり仰天で慌てていたのでしょう。 でも、ルースさんもびっくりです。いきなりだったので、ひっくり返りそうになってしまいました。危ない、着替えは持ってきていないのに。 「あ‥‥ごめんね」 「このくらい大丈夫だよ。あんまり濡れなくてよかったね」 いやいや、危ないところでした。ネロさんが抱えてくれたので、ルースさんは無事です。ネロさんは支える時に、しっかりまくり上げていたはずのズボンの裾が濡れてしまいましたが、その位は遊んでいるうちに乾くことでしょう。 幾ら残暑が厳しくたって、ずぶ濡れになったら風邪をひいてしまいます。だから、裾が濡れたくらいで済んで一安心。 びっくりして、安心したら、ちょっとおなかがすいてきたかもしれません。お昼にはまだ早いけど、休憩にはいい時間かも。 お山や周りの森を眺めて、のんびりお茶でも楽しみましょう。 なんで、こんなことになったのか。 真夢紀さんは、とても不思議に思っていました。確か今日は、しらさぎちゃんと小雪ちゃんと鈴麗さんと、皆で避暑に来たはずです。 それも、川のそばに。 『マユキ〜、ごーはーんー』 なのにどうして、なんとも立派な滝のそばで、ご飯を作ることになっているのでしょうか。 『手間を掛けて、申し訳ない』 おなかがすいたと訴える小雪ちゃんの隣で、本当に申し訳なさそうに頭を下げたのはナイさんです。人間だったら、額の汗でも拭っていそうな感じ。 でももちろん、謝っているのは小雪ちゃんのことではありません。无さんのことです。 その无さんは、滝つぼに足を突っ込んで、底の方をじっと見詰めています。とても真剣です。お隣で同じ姿勢の和奏さんは、のんびりしていますが。 この滝つぼには、その昔、ケモノのなんとかさんが棲んでいたそうです。无さんのお祖父さんの日記によれば。でも、今日は鈴麗さんが水浴びしていました。无さんはそこに到着して、ケモノさんはいないのかと探しているところです。 和奏さんは、お空も十分眺めたので、漣李さんのおねだりで山から降りている途中でした。実はお昼を食べるのに、焚火をしてもいいところを探していたのです。安全に火を使うにはお水がいるから、滝を見付けて降りてきました。 そして、ケモノさんのお話を聞いたので、興味津々で覗いています。 鈴麗さんがばしゃばしゃしていた時に出てこないなら、もういないんじゃないかなと真夢紀さんは思いますが、とりあえず黙っていました。 なにより、なんだか忙しいのです。どうしてでしょう、こんなにご飯を作るはずではなかったのに‥‥だけど、かまどはさっき作ろうとしていたのより、うんと立派なものが出来上がっています。 突然暗くなったので上を見ると、漣李さんが首を傾げて立っていました。くちばしに立派なお魚をくわえているのは、もしかして採ってきたくれたのでしょうか。漣李さん、器用です。 だけど、そんな漣李さんよりすごい人が、実はいたのでした。 「こんなことなら、次と言わずに娘もつれてきてやればよかったな」 あれれ、この人お話し出来たんだと、真夢紀さん以外は眺めています。 もちろんお話し出来た、でも全然お話ししない皇さんが、たくさんのお肉を真夢紀さんに持ってきてくれました。さっきまで、猪さんの姿をしていたものです。 どうもこの方、崖をよじ登っていって和奏さん達に出会い、降りてくる最中に猪さんを倒し、川を下ってきて无さん達と鈴麗さんに出くわし、その間に食べられるものを片端から採って歩いて、真夢紀さん達とも合流したのでした。 そして、小雪ちゃんや鈴麗さんやしらさぎちゃん、漣李さんのおねだりで、皆でご飯となったのでした。だって、ご馳走がそこにあるのですもの。ナイさんも、ご馳走についてはまんざらでもないようです。 お手伝いしないのほほん組には、ナイさんが色々言っていて‥‥先ほど諦めたところ。 真夢紀さんと皇さんは、テキパキご飯を作ります。美味しそうな匂いがしてきました。 さあ、そろそろ皆さんで、美味しいお昼ごはんといきましょう。湖を覗いていた二人は、途中から網でのお魚取りに変わっていたので、それは漣李さんや鈴麗さん用でしょうか。 では、皆さんで揃っていただきますをしましょう。 『ほほぅ、美味そうな魚だな。わしの縄張りだから、もちろん分けてくれるのだろうな?』 あれれ、誰か来たみたいです。 ‥‥熊さんに見えますけど、この方はどなた? お弁当の残りをまいてみたら、鳥が寄ってきました。向こう側には、小さなもこもこした動物が見えます。あれはなんでしょうね。 ネロさんとルースさんは、おなかいっぱいでのんびりと木の下に寝転がっていました。川はすぐそこだから、涼しい風が来て、お日様の当たり具合は程々で、とても気持ちよく転がっていられます。 周りの鳥は二人に慣れてしまったのか、ご飯を食べた後もままそのちいちいと何かお話しています。他に誰もいないから、世間話の真っ最中なのかも。 人の気配が全然しないので、ネロさんはお面を引っ張って外しています。仲良しのルースさんでも、なかなか外したお顔は見られませんが、今は横にいるからやっぱりよくは見えません。 でも、ルースさんの方を見てくれれば、そんなことはありません。ネロさんは、ご機嫌よく、にっこり笑っています。 「ねえ、ルース。歌を聴かせてくれない?」 いきなり言われたので、ルースさんはちょっと考えてしまいました。でも、歌は大好きです。人がいると、とっても緊張して、あんまり歌えないだけなのです。 「うん」 歌を歌うのによいしょと起き上ったルースさんにびっくりして、鳥やもこもこはどこかに隠れてしまいました。 でもネロさんは知っています。歌を聞いているうちに、動物達はまたやってくるのです。 そうしたら、また皆で、今度はお菓子を分けることにしましょうか。 |