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■オープニング本文 相棒とは、色々なものがいる。 性格、性質、見た目はもちろん、もっと大きな区別で言うのなら種族とか呼ぶものだ。 たとえば人間。これは沢山いる。どこにでもいる。 たとえば獣人。神威、猫族、アヌビスと、土地によって呼び方が違うがたいして違いはないらしい。 たとえば修羅。角がある。でも獣人とは違うようだ。あまり沢山はいない。 たとえばエルフ。砂漠の土地にいる。耳がとんがっている。他は人間とかなり似ている。 これだけ種族がいる中で、これまた色々な事情で出会った相棒が、ただいま自分が苦楽を共にする間柄。 中には世話をしてやっているだの、単なる召使だの、相棒がいないと生きていけないだの、いつか食ってやるだの、あれこれ考えていたりするのもいるのだが‥‥ さて、目の前のこれはどうしたことだろうか。 相棒は、なにゆえ死にそうな顔をして、のた打ち回っているのだろう? もしやこれは、助けの手を差し伸べるところ? |
■参加者一覧
皇・月瑠(ia0567)
46歳・男・志
柚乃(ia0638)
17歳・女・巫
海月弥生(ia5351)
27歳・女・弓
澤口 凪(ib8083)
13歳・女・砲
スチール(ic0202)
16歳・女・騎
紫ノ眼 恋(ic0281)
20歳・女・サ
暁 久遠(ic0484)
22歳・男・武
島原 左近(ic0671)
25歳・男・サ |
■リプレイ本文 ●土偶ゴーレム『縁』の驚愕 人種は土偶ゴーレム、性別はなんとなく男性? 多分、当人はそんな細かいことはどうでもよいと考えているだろう『縁』は、ご主人と呼ぶ海月弥生(ia5351)が受けた依頼先で、これまでの土偶人生?最大級の驚愕に襲われていた。 『あぁ、いやいや、ちゃんと聞いていただがよ。今回は色々危ないことが起きそうな依頼やって』 『縁』がうろうろぐるぐる回っている円の真ん中になる地面には、満身創痍の単語が正しくあてはまる弥生が、意識をなくして転がっている。なんとかここまで歩いてきて、精根尽きて失神した風情だ。 弥生を主人と呼び始めて幾月経ったかはど忘れしたが、物資輸送の任を任されて別行動している最中に、ここまでの重傷を負ってきたのは初めてではなかろうか。 『おっ、おおう』 よって、あまりの驚きに一時的に円周運動土偶と化していた『縁』が正気付いたのは、弥生の周りをたっぷり三十周はしてからだった。その間、弥生は時々痛そうに呻いていたが、気付いてもらえていない。 『こういう時は、とにかく手当だがよ。幸い、そういう道具はおらぁ預かってるだ』 おもむろに担いでいた荷物を降ろし、まずはその荷物に引っ掛けていた手拭いをくるくると巻いて紐状に。 それから、その紐で自分にしっかりとねじり鉢巻きをして、荷物から応急手当に用いる道具を丁寧に取り出して、広げた風呂敷の上にきちんと並べる。 『間違えたらいけねぇだ。よーちゅーい、よーちゅーい』 ここで慌ててはならぬと自分に言い聞かせている『縁』には、あいにくと地面に転がったままの弥生が痛そうにうんうん言っている声は聞こえていない。 道具を揃えるのがようやく済んで、さてこれからは。 『足は平気そうだがや。じゃ、足袋はこのままで大丈夫だがよ。上は全部取らないと駄目だがね』 負傷箇所を確かめて、そこを洗って消毒して、止血や薬の塗布など致しましょうと、大変しっかりした手順を思い浮かべつつ、『縁』は弥生の装備や着衣を足袋以外は片端から引っぺがして、ポイポイと周囲に投げている。 『縁』はまだ、慌てているようだ。 ●白銀丸の苛立ち なんとなく本調子ではないとは、白銀丸も思っていたのだ。誰のと言って、紫ノ眼 恋(ic0281)である。 『調子悪ィ? どうせまた腹出して寝てたんだろお前。それとも拾い食いか?』 「五月蠅い。狼がそんなことで体調を崩すものか」 『‥‥まさか、マジでなんか拾って食ったのか? あ、それとも依頼の後に、止せって言ったのに、あの川で水飲んだのか?』 寝冷えや拾い食いをまず否定しろと、普段の白銀丸なら言い募るところだったが、見るからに今の恋の様子はおかしい。いつでも自信のよりどころにしている狼獣人の印の耳と尻尾が妙にしょぼくれているし、顔色もさっきまで白かったのが急に真っ赤になってきた。 これはもしや、自分が知らぬ間に変なものを食べたか、それとも依頼直後にさっきまでアヤカシが毒を垂れ流していたから飲むなと言った川の水を飲みやがったか。 普通の人ならそんなことをしないのは、からくりの白銀丸もよく承知している。しかし、相手は世間知らずが服を着て歩いているくせに、それを指摘しても認めない無駄な誇りの持ち合わせが潤沢で、常識が足りなくて、好奇心は猫並みの恋である。 ついでに、あんまり頭がよくない。そこまで揃うとある意味可愛いかどうかは、この際別問題だ。 『とりあえず、水でも飲め。ちょっと頭を冷やすと、楽になるかもよ?』 きっとこいつが馬鹿やらかして、それでこんなことになったんだろうとは思いつつ、からくりらしい献身ぶりを発揮した白銀丸だったが、恋の方はずんずん上がる熱を自覚しているのかいないのか、ガタガタ震えながらも虚勢を張っている。 「いらぬ。このくらい、どうということもない」 『お前、もちっと賢くなれよ』 水筒の水で手拭いを湿して、頭のてっぺんに置く。それを払いのけようとする恋に、白銀丸は我慢した。手拭いは押さえつつ、虚勢張りの恋の相手をしていたのだが、 『そんなに言うなら、一人で治しやがれ! 俺はもう知らねぇぞ! 熱さましなら、荷物の一番下の包みに、他の薬と一緒に入ってるからなっ、間違えんなよ!!』 自分一人でちゃんとやってたんだもんと言われて、ぷちっと何かが切れた。 そして、白銀丸は長い捨て台詞を残して、『先に帰る』と歩き出したのだった。 もう知らないとか言ってはみたが、家に帰る気は満々である。 ●藍音の焦燥 武僧の暁 久遠(ic0484)を主と仰ぐ羽妖精の藍音は、この日の朝、いつもと違うものを感じていた。何かおかしいと思えば、常なら自分より早起きで、朝のお勤めに励んでいるはずの暁の姿がない。 『はてさて、主が寝坊とは、天変地異の前触れか?』 それとも突然の用向きで、外出でもしているのだろうか。それにしては、自分に一言もないのが不思議だと、何はともあれ暁の寝所を覗いた藍音は、宙から落下するほど驚いた。 「あぁ‥‥藍音か。すごい、音がしましたが、無事ですか?」 『主っ、一体どうされましたか! あぁあっ、この熱さはなんという高熱か。咳までされて、一体どんな病に取りつかれたものかぁっ!』 ごほごほと咳をして、熱を出している暁の姿は、どこからどう見ても夏風邪。彼が少し前の依頼で海上漂流生活をしばし営む羽目になり、その時に左手を傷付けたことも考え合わせると、傷が化膿して余計に熱が出ていることもありうる。 ちなみに、暁本人も咳の合間に藍音にそう説明しているのだが、彼の耳に入ったのは自分に対する労りの言葉だけだ。 『隣から、薬を分けてもらってきます。主、それまで気をお確かに!』 先に水の一杯もくれれば、自分で置き薬を探せると暁が訴えているのは耳を素通りさせた藍音が隣家に飛び去り、しばらくして、蒼い顔で、なぜか内股になった姿でよろよろと飛んできた。何かと問いたい暁だが、咳がひどくて声が出ない。 『主、甘夏の蜜煮を水で割ったものです。水分を取らねば駄目だそうですよ』 甲斐甲斐しい藍音が、隣家で貰った蜜煮の瓶と一緒に、器用に湯呑を持ってきた。なみなみと入った蜜煮の水割りをありがたいと暁が一口含み、 『主っ、どうなさいました。こんな重病に襲われるとは、武僧の修業の何と厳しいことっ! あああーーーっ、血がぁ!』 猛烈な咳に襲われた暁は、蜜煮入りの水がどうしてしょっぱいのか、藍音に尋ねたかったが‥‥もちろん果たせない。熱で乾燥していた唇がちょこっと切れて出血し、それでまた藍音が慌てふためくので、会話にもならないし。 ●朱令の誠実 その日、人妖の朱令の朝はいつもと変わりなく始まっていた。 つまり、今日も今日とて主たる島原 左近(ic0671)が朝寝坊をかまし、前夜はもちろん深酒三昧、起こしたところで二度寝するのは間違いなし。そのくせ、いきなり起きてくると、やれ喉が渇いたと茶をがぶ飲みし、二日酔い知らずだからさっそく大飯を食らうのだ。 まあ、朱令ももういい加減、こんな島原の行動には慣れている。だから今朝も苦ぁいお茶を煮だしていた。これが酒飲みにどう効くのか知らないが、買い物に出た時に貰ったのだ。体にいいらしいから、島原に飲ませる。 自分の分は、別に沸かした湯を湯冷ましに移して、新茶を淹れているところ。 平和な朝だった。隣の家から、羽妖精の藍音が飛び込んでくるまでは。 「ふむふむ。高熱で咳がひどい。腕が痛そう? 左だったら、この間の傷だなぁ」 藍音の主が怪我をした依頼には、島原も一緒だった。もっと言うと、島原が溺れかけたのを助けてもらい、家まで連れ帰ってもらった恩人である。怪我をしたのはそのせいばかりではないようだが、まあ、島原の恩人だ。 となれば、いつまでも寝かせておくわけにはいかない。 『おーい、旦那ぁ! くぅの旦那がぶっ倒れたらしいんだが、旦那のせいじゃね?』 何度か呼んでも生返事だった島原だが、義弟と呼ぶ隣人がぶっ倒れたと聞くと流石に跳ね起きたらしい。二階のふすまを蹴倒したらしい音がして、階段に影が見えたなと思ったら‥‥ 階段の上から、島原が転がり落ちて来た。階段に置きっぱなしの箱や籠、壁に掛けていた絵まで一緒で、最後に妙な金属音がしたような。 『旦那ぁ、いっくら丈夫に出来てっから‥‥藍の字ぃ、そこの瓶、甘夏の蜜煮が入ってるから、水で薄めてくぅの旦那に飲ませてやんな。あと、汗がいてたら、ちょっとしょっぱいもんも用意してやって』 階段の最後の数段に引っかかり、血の気の失せた顔でぴくぴくしている島原を見て、朱令も藍音も、ちょっと内股の前屈み。慌てていた藍音も余計なことは言わずに、蜜煮の瓶を抱えて飛び去った。 その背中に、後でおかゆを持っていってやると付け加え、朱令は島原に近付いた。 『生きてっかい? 『とんとん』してやっから、起き上がんな?』 島原は、白目をむいて、まだ身動きもままならないようだ。 ●岳の動転 相棒の、正確には相棒の忘れ形見であり、過去から現在に至るまで手のかからないことがあったためしのない妹分の澤口 凪(ib8083)は、色々なものが好きだった。当人は機械大好き、砲術師最高とのたまっているが、他の大抵の生き物も大好きだ。 特に猫。港の甲龍仲間から、岳は『あんたのとこの相棒、猫に誘拐されるよ』と失笑されたくらいに猫が好き。言われてみれば凪が幼児の頃、猫の後を付けまわして迷子になったのを、岳も捜し歩いた気がする。 そんな岳は、自分が『相棒に激甘、一緒になって猫追い回してる』と苦笑されていることは知らない。そもそも一緒になって追い回しているのではなく、凪に付き合ってやっているだけなのだ。 この時も、猫には目敏い凪が移動中、しかもとっとと帰りたい依頼の後だというのに、岳の背中から猫が見えたと騒ぐから、低空飛行をしてやっていた。岳の飛行中に見える大きさは、もはや猫ではなくて豹とか虎とか、そういう類の生き物だろうが、どちらもそこには気付かない。 「あー、隠れちまったい。もうちょっと、右だけ下げて」 『へいへい、猫馬鹿も大抵にしろって』 凪にはグルグル不機嫌な鳴き声しか届かなくても、律儀に返事をした岳は少し体を傾けて‥‥背中の重さがすとんと消え失せたのに、慌てて振り返った。自分まで落ちそうだが、気にしちゃいられない。 『なんで落ちるーっ』 だから猫馬鹿は大抵にしろと言ったばかりなのにと、叶う限りの急降下。見れば、下の草地に凪が大の字で伸びている。じたばたしているから、意識はあるようだ。 ただし、岳が傍らに出来るだけそうっと降りたら、途端に血を吐いた。 「やっちまったー」 『こら、動くな。ええと、咥えて‥‥いやいや、それじゃ危ないから、そうだ、毛布で包んで提げていけば』 幸いにして凪は『しぇあはうす』とかいう長屋に住んでいて、同居人が多数いる。連れて帰れば十分な手当てもしてもらえると、岳は背中に括られた荷物から毛布を取ろうと必死に首を伸ばし‥‥勢い余ってその場でくるくる回っている。 「岳、おかしくなったか?」 『うっせえ、黙ってろ』 ぜいぜいしつつ、憎まれ口をたたく凪に咆えた岳は、近くから虎だか豹だかが逃げ去ったことなど気付かず、引っ張り出すのに鉤裂きだらけになった毛布でもって、凪をどう包もうか思案している。 前の相棒だった凪の母親の亡くなった時を思い出して慌てふためく岳は、勢い余って凪を爪でぶすっとやらかしそうだ。 ●黒兎の満足 駿龍の黒兎は、友達からはおしゃべりだと言われる。言うのが龍族井戸端会議友達では騒がしさなど変わるはずもないのだが、皆が口を揃える。 いわく、あんたは誰よりおしゃべりだ。 『失礼しちゃうわよねー。でもあたしがおしゃべりなのはさ、旦那が無口すぎるからなのよ。あたしが何か言わないと、毎日お通夜みたいでしょ』 もちろん彼女が何を言い立てても、人間の皇・月瑠(ia0567)に龍語を解する特殊技能があるわけではない。だが黒兎は相棒たる者、気持ちは通じ合うものだと考えているし、思ったことを言いあうのも大切な交流だと信じていた。 それ以外に、おしゃべりが加速する理由には、皇が縁側で一杯やっているのを見付けて寄越せと啼きまくり、ご相伴に預かっている酒がたいそう旨いのと、こちらは勝手に皿から貰っている肉の焼き具合が最高でご機嫌なこともある。 『あ〜、相棒と酌み交わす旨い酒、それを引き立てる肴。も、サイッコーよねぇ。あら、旦那、湯呑が空よ。さ、ぐっとおやんなさい、ぐっと』 一応黒兎は庭にいるのだが、縁側を前足でバンバン叩いて、皇にもっと飲めと勧めている。龍がお酌は出来ないから、もちろん皇は手酌。ついでに黒兎用のでかい盃にも酒を注いでくれた。 黒兎の機嫌は、さらに上向く。酔いが回る。 『も〜、旦那ったら気配り上手ぅ』 身をくねらせ、尻尾を振り回す駿龍、年齢層はおばちゃんで、ブイブイ啼きまくりでは、駆け出しの開拓者など腰が引けそうだが、皇は慣れたもの。自分の湯呑を取り上げようとして、 「ぐわっ」 らしくもない、悲鳴を上げた。 『あら? 旦那ったら、この程度で酔ったの? 縁側から落ちるなんて、らしくないわぁ。やだ、おっきなたんこぶ』 尻尾で跳ね飛ばされ、庭の立ち木に激突させられて意識がない皇を見て、ほろ酔いの黒兎は考えた。たんこぶは冷やした方がいい。 『これでよしっ』 縁側に皇を引っ張り上げて横にし、たまたまあった布巾を池の水に浸して、その顔に被せてやる。たんこぶが後頭部だったとか、そういうのは頭にない。皇の体が苦しげに震えているのにも気付かない。 満足して、更に気を利かせてまめに布巾を濡らし直していた黒兎だが、面倒になって皇を池に漬けるまで後ちょっと。 ●モットアンドベリーの勘違い 甲龍のモットアンドベリーは、本日も主人のスチール(ic0202)の趣味で重い重〜い龍鎧を着けさせられていた。そもそも自分は鱗の硬さに定評がある甲龍。その分駿龍ほど素早くは飛べないのに、そこに重量どっしりの鎧。 特注、一点ものとかスチールはご満悦だったが、モットアンドベリーは自分にもっと適した防具は別にあるのではないかなーと思っていたりする。まあ今は背中にスチールがいない待機時間なので、まだ軽々と飛んでいられるが。 なんて思っていると、スチールがやってきた。合流予定に随分遅れている。 「まさか聞いていた範囲で最悪の規模のアヤカシが出て、作戦がすべて裏目、鎧が壊れて、刺されて噛まれて矢も浴びて、仲間にはぐれて、毒が回ってきて、目がかすむから道に迷って‥‥あ、おおい、モット、ここだー」 なにやら苛々と呟いていたスチールが、モットアンドベリーを見付けて手を振っている。しかし、モットアンドベリーは知っていた。不機嫌な時のスチールは、いつも無茶だがその数倍駄目ちゃんな突撃をかまそうとする。 だから、ゆっくり、離れたところに降りてみる。でも低空飛行。 よく見ると自慢の鎧もずたぼろで、足ともがフラフラしているが、 「こらー、降りてこぉい!」 いつものように、無謀で元気のようだ。 「ええい、破廉恥な盗賊に二度も絡まれ、物取りに食料は盗まれ、田んぼと溝と落とし穴に立て続いて落ちた飼い主に、なんて所業だ。こらー!」 いやいや、我々の関係は相棒で、飼い主と下僕じゃないから。そんなこと言うなら、降りるにしても遠くにしちゃうよ。 「はぁはぁ、目が霞んできたのに、なんでそんな遠くに‥‥あ、声を荒げたのは悪かった。虫の居所が悪くてな。ほら、こっちを向きなさい」 向いた。いいでしょ、顔が向いてれば。 「人に尻を向けおって‥‥まあ、仕方ない。とりあえず街まで載せていって」 いつも主張してるけど、重いんだって。ついつい、前に動いちゃう。もうこれ反射だから。 「お前、飼い主が死にそうな時に‥‥げほっ、駄目だ、途中で落ちる。モット、街まで行って、人を呼んできてくれ。ほら、前に龍の公用ジェスチャーを教えたろう?」 はいはい、街まで行くのね。 「ちょっ、最後まで聞かずに行く奴があるかー! ぐえっ」 なんだか妙な呻き声がして、いつもの重量過多に反抗気分だったモットアンドベリーもスチールをしげしげと観察した。全身返り血まみれと思っていたが、どうも本人も怪我しているらしい。あんなに叫んでいたけれど。 さて、こういう時はどうすべきなのだろう? ●白房の自失 忍犬の白房は、相棒の柚乃(ia0638)とお出掛けで超ご機嫌だった。 それも依頼ではない。柚乃が下宿している呉服屋さんから頼まれたお使いで、今は帰り道。届け物が済んで、急いで帰らなくてもいいからお散歩しましょうと言われては、もう尻尾をちぎれんばかりに振りまくり。 しかも優しい柚乃は、人通りが多くて、固い地面からの照り返しが厳しい大通りではなくて、遠回りだけど草もいっぱいの路地を通ってくれている。暑い時間だからか人通りもなくて、誰はばかることなく行き来出来るのが白房には嬉しくてたまらない。 だから柚乃の足元と、その先を行ったり来たりしていたら、突然柚乃が立ち止った。何か楽しいことがあるのかなと、白房も周りを見渡して、虫がいたので前足で弄ろうとしたら、 『柚乃〜、どうしたのっ!』 他人にはきゃんきゃんとしか聞こえなくても、普段の柚乃なら白房が言いたいことは大体わかってくれる。だから突然倒れてしまった柚乃に尋ねたのに、今日に限って返事がなかった。 『ダメだよ、柚乃、こんなところで寝たらっ』 「夏祭りの‥‥約束が」 なんだか苦しそうに寝てしまった柚乃の顔を舐めるが、見当違いの反応しか返ってこない。前足でとんとんしてみるが、今度はうんでもすんでもない。 これは一大事だと、幼いながらに白房も考え至った。 異常があったら開拓者ギルドに報告とよく言われるが、あれは依頼を受けている時だから、今回は関係がない。呉服屋さんは忙しいから柚乃にお使いを頼んだので、呼んでくるのはきっとよくない。 ならば、頼りになる他の相棒達をと思うが、そもそも呼びに行くには柚乃を置き去りにしなくてはならないし、一番頼りになりそうな管狐は白房が呼んでも出てこない。 『誰か、その辺を通った人に‥‥でも悪い人だったらどうしよう?』 いい方法が浮かばなくて、白房は弱り果ててしまった。考えても考えても、何にもいい考えが出てこないので、しまいには‥‥ 『わーん、どうしたらいいか、わからないよう』 何を思ったのか、炎天下で自分の尻尾を追いかけて走り始めた。追いかけるのが自分の尻尾だから、柚乃の傍らでグルグル回っている。 しばらくして、白房も急に止まった。 『あれ?』 暑いところで走り回れば、気分が悪くなってくる。白房はようやく柚乃が倒れた原因が分かったが、今分かっても、もう遅い。 ●そうして、その後 『なんで殴られるがや』 『縁』は気付いた相棒に服の所在を問うついでに怒られ、 『夏風邪? 馬鹿しかひかないってあれか? この馬鹿!』 白銀丸は息も絶え絶えの相棒を怒鳴りつけ、 『さ、主、塩もいっぱい入れましたから!』 藍音は主の健康を熱烈に気遣い続け、 『ごめんなぁ、俺の『とんとん』じゃ力が足りねーか』 朱令は悶絶した相棒に謝り、 『もーお前、猫馬鹿は程々にしよ?』 岳は無駄と知りつつ、言わずにいられず、 『これでよし』 びしょ濡れの相棒を布団に押し込んだ黒兎はご満悦で、 『装備を考えようぜ。重すぎて攻撃が避けられないって本末転倒』 モットアンドベリーは街まで咥えてきた相棒に説教をたれ、 『きゅー』 白房は柚乃と一緒に、帰りが遅いのを心配した呉服屋さん達に保護された。 皆、いつもの生活ぶりである。 色々あっても、おそらくは。 |