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■オープニング本文 もうすぐ六月である。 なぜだか知らないが、相棒達がやたらと結婚式とやらで走り回る時期だ。 本人とか身内の結婚式ならいい。 仲のいいお友達のも悪くない。 赤の他人の結婚を羨むようだと、最悪だ。 『あ〜、ヤキモチ焼きは困るね』 『うちのは、去年それでご飯の支度を忘れやがった』 『最低だな、お前の世話係。誰のおかげで飯が食えると思ってんだ?』 だいたい、どうして六月なのか。 なんだか色々といわれがあるとは聞くが、結婚なんぞしたい時にすればいいのだ。 相手探しに苦労するなんて、我らの相棒どものなんと不甲斐ないことか。 『相手探しなんて、春先にこれだと思ったのを口説けばいいんだよ』 『なんで、春先限定?』 『冬は気分が出ないから』 『寒いもんね〜』 とあるの港の一角で、人の側が普段相棒と呼んでいる諸々の生き物達が、井戸端会議に勤しんでいた。 人語を話さないのも輪に加わって、なんだか話が分かったような顔で頷いていたりする。 彼らにも、自分の相棒に色々言いたいことがあるようだ。 |
■参加者一覧 / 柚乃(ia0638) / 礼野 真夢紀(ia1144) / 瀬崎 静乃(ia4468) / 倉城 紬(ia5229) / 菊池 志郎(ia5584) / 和奏(ia8807) / リーディア(ia9818) / フラウ・ノート(ib0009) / エルディン・バウアー(ib0066) / 岩宿 太郎(ib0852) / リア・コーンウォール(ib2667) / レビィ・JS(ib2821) / 杉野 九寿重(ib3226) / シータル・ラートリー(ib4533) / ウルグ・シュバルツ(ib5700) / 暁 久遠(ic0484) |
■リプレイ本文 この日、港では何かが行われていたのかもしれない。 なぜなら、龍にもふらに忍犬、人妖に羽妖精、管狐に猫又までが、ぐるりと車座になって話し、鳴き交わしていたからだ。 見たところ、井戸端会議。 でも‥‥ 「もふもふ! 冷たい抹茶をもう一杯いただくもふ〜」 井戸端会議にしては、妙に豪勢そうである。 車座と言っても、なにしろ大きさに違いがある彼らのこと。 一部の人妖や管狐は、他の者の背中の上でくつろいでいたりする。乗せている方も普段の相棒に比べたら、たいして重くもないからいいようだ。それどころか、駿龍のヘイトなど、何体か上に乗っているのにぐうすか熟睡していた。でも相棒のフラウ・ノート(ib0009)にしたら、毎度のことである。緊張感のないこと、この上ない。 そんな輪の一角で、もふらの百八が器用に前足で器を持ち上げて、なにやら飲んでいた。本当に冷たい抹茶だとしたら、相棒の倉城 紬(ia5229)の愛用品でも持ってきたのかもしれない。 他にも誰かが持参したと思しき菓子や飲み物が広げられ、様相はもはや井戸端会議からお茶会に移行中。 「こゆき、あったかいのがいいな〜」 「油揚げなどあればありがたいですねぇ」 その証拠に、猫又の小雪や管狐の白房が、それぞれの好みを言い立てていた。相棒の礼野 真夢紀(ia1144)と瀬崎 静乃(ia4468)がいれば、またかとため息でもついたろう。 「神父様のおやつ、持ってきたもふ。みんなで食べるもふ」 もふらのパウロも、何か色々と持参したようだ。その量たるや、相棒のエルディン・バウアー(ib0066)が怒るか呆然としそうな大荷物。食糧庫を空にしてきた気配である。 「わーい、おやつ〜」 もちろんもふらは難しいことなど考えないから、出てきたお菓子にもふリルも喜んで飛びついた。 ところが。 『いただきまーす』 『おいおい、一人で食うのか?』 一足先に甲龍のほかみが、鋭い爪で一番大きなパンを串刺しにして、あーんと口に放り込んでしまった。多分食事前の挨拶はしていたが、迷わず一番大きなものを狙う態度に、同族のシュティンが咎めるような目を向けていた‥‥ように見える。 きっと相棒の岩宿 太郎(ib0852)がいれば、食い意地が張り過ぎだと怒ってくれたろうが、あいにくといない。もふリルの相棒のリーディア(ia9818)が同席していればなだめてくれたろうが、こちらも不在である。シュティンの相棒、リア・コーンウォール(ib2667)の鉄拳制裁も期待できない。 『ちょっと、一人で食べたらいけないんだよ!』 『え、一人で食べるつもりなの? それはずるくない?』 『いただきものは分け合うのが、正しい姿だと思うのです』 わんわん、ワンワン。 人耳にはそれしか聞こえないが、間近にいるとなんとなく主張が伝わってくるのは忠司さん、ヒダマリ、初霜の三頭。年頃も似通っていそうな、忍犬達だ。 さほど激しく吠え立てているわけではない。このあたりは、それぞれの相棒であるシータル・ラートリー(ib4533)、レビィ・JS(ib2821)、菊池 志郎(ia5584)の仕込みが良いのか、彼らのもとに来る前の修業が良かったか。 まあ、結局主張しているのは、『おやつの一人占め禁止』なのだけれど。 これで、おやつが皆に回って一安心かと思えば、もちろんそんなことはない。 なぜなら。 「ちょっと、もうっ。食べ物の話していたんじゃないでしょ」 人妖の朱雀が、足をだんだんと踏み鳴らして主張したからだ。踏みつけにされた形のヘイトが、寝ぼけ眼で顔を上げていた。相棒の杉野 九寿重(ib3226)がいれば、礼儀作法がなっていないとたしなめられるところだろう。が、朱雀には援軍までいた。 「そうよ。六月に結婚したカップルが幸せになるなんて、どういう謂れだかちゃんと聞かないと気になるじゃないの」 こちらも人妖の光華が、おやつの分け前に気を取られた一同にぷりぷりと怒っていた。そんなに気になるなら、相棒の和奏(ia8807)に教えてもらえばいいのだろうに、そうはいかないのが娘心なのである。 「そうか? そんなの、知らなくても別に」 「あぁ、もうっ。人の恋路話を聞くのは、古今東西変わらぬ楽しみなんだからねっ。邪魔しないの!」 男なので娘心はわからんとばかりに口を挟んだ羽妖精の藍音は、横合いから管狐の伊邪那に叱り飛ばされた。双方の相棒がいれば、柚乃(ia0638)が暁 久遠(ic0484)に平謝りに謝っているところだろう。 「ふむふむ、楽しくなりそうじゃ」 主がいたら、向後の参考に聞かせてやりたいものだと、自分は関係ないような顔でちゃっかりと場に紛れている管狐の導がほくそえんでいる。主と呼ぶウルグ・シュバルツ(ib5700)に、何を参考にさせたいものだが分からないが‥‥ いつの間にやら、皆に飲み物とおやつが行き渡っていたので、人妖のお嬢さん方が主張する話題が蒸し返されるのだろう。 恋愛談義、最近では恋バナ。 それは、当人がしゃべればのろけ話か愚痴で、そうでなければちょっと覗き趣味の噂話である。 「六月って雨ばっかりでせっかくの衣装も濡れちゃうし、せっかく整えた髪も湿気ですぐに崩れちゃうしで、蒸し暑くてやーな時期だと思ってたけどそんな言い伝えがあるのねぇ」 もとはジルベリアの土着習俗から来るのだろうが、とにもかくにも六月に結婚すると特に花嫁は幸せになるのだそうである。天儀の六月は梅雨の印象だが、ジルベリアなら夏を前にした過ごしやすい良い季節。結婚式には最適だろう。 なんて話を、誰かに説明してもらった光華が、至極納得した風情でふむふむと頷いていた。 「結婚すると、ずーっと仲良く暮らせるって神父様が言ってたもふ」 心得顔でパウロも口を挟む。彼の相棒は神教会の神父だから、この手のことには詳しいのだろう。 「ずっと仲良くねぇ。でもそれって、相手がいてこそじゃない?」 もふもふと語りたそうなパウロをさえぎって、伊邪那がそれは深く溜息を吐いた。 「おんや、そちらは何かすごいお話でも?」 同族の白房に突っ込まれて、じろりとそちらを睨んだ伊邪那だが、すぐにくわっと口を開いた。ちょっと白房が『食いつく気か』と身構えそうになった勢いだ。 『なんだか賑やかだな』 こちらは、そんな二体が足を踏ん張っている背中の持ち主、ヘイト。細かいことは気にせず、皆に背中を貸し出し中だ。 「柚乃はね〜、鈍い、疎い、関心が低いの三拍子で。先行きが心配なのよね‥‥」 ヘイトの鳴き声など意に介さず、伊邪那が語り始めた。滔々、朗々、なんだかもう止まらない感じ。 いわく、相棒の柚乃はもてないわけではない。彼女が気になっている殿方の一人や二人、いやいや、もっとたくさんいるようだ。でも、当人は箱入り娘で育ったから、周りの男性はみんな兄弟親戚と大差ない扱いで、進展する要素が‥‥ 「ないわ、ないのよ‥‥」 「分かるわ〜、和奏もね、蜘蛛の巣に引っかかってたところを助けてくれた時には王子様に見えたのに‥‥」 種族は違えど同性だと感じ方が似ているのか、光華が伊邪那の肩を叩いて自分語りに突入した。こちらもまあ、止まらない。 聞けば、光華が相棒と出会ったのは雨の日、蜘蛛の巣にとらわれて難儀していたのを助けてもらったのだとか。それは確かに素敵な相手に見える出来事だが、相棒・和奏は残念な青年らしい。 「ぼくねんじんって、なあに?」 「この話だと、気の利かぬ男という意味でよかろう。気が利かぬというのは、分かるか?」 「やってほしいことをしてくれないって意味かの」 握り拳を振るわせて語り続ける光華の姿を見上げて、忠司さんや初霜、もふリルはぽかんと口を開けている。小雪は知らない言葉が多かったようで、首を傾げていたが‥‥藍音や導の説明も、まだちょっとわからない。 「まったくもう、どうしたらいいかしら」 「ほんとよねっ」 光華と伊邪那が理解しあっているのだが、なんだか勢い付いて他の皆が微妙についていけていない。主にもふらとか忍犬とか猫又とか。龍族は、全般的にどっしり構えている風情だ。 いや、ほかみはなんとなく落ち着かない。 『色恋沙汰かぁ。私はまだまだそんな柄じゃないけど、乙女心では憧れるなぁ』 『そういうもの?』 『ふふ、若いのう』 うっとり、多分楽しい想像に身を任せているだろうほかみの横顔に、ヘイトとシュティンは割とそっけなかった。きっと龍族の恋の季節が過ぎているので、何事にも動じないのだ。 だが、実は彼らの相棒達には色々あるようで。 『うん、フラウはいい子だよ。僕が猫の王様にされそうになった時も助けてくれたしね』 『私の主も身形は強面だが、優しい所がある方でな。ただ、従妹と言われる幼子が主の心配の種でな。主の身体に差し障るのでは、とハラハラしているのだ』 猫の王様って何? 体に障るほど大変な従妹ってどんな? ほかみが自分の耳がおかしいかなーと思っている間に、ヘイトとシュティンの相棒談義は続いていく。 人が聞いても、唸ったり泣いたりしているだけだが、もちろん彼らの間では意思疎通ばっちりだ。 ついでに、ほかみのところの岩宿と違って、こちらの二龍の相棒達には夫や恋人がいるそうで。 『二人でいると、時々変な声がするんだよ。がはっとか、ぐふっとか。覗いてみると、フラウが変な格好してて、恋人さんが血だまりに寝てるんだ‥‥あれ、何の儀式なのかな?』 『むぅ、我が主の夫君はものすごく初心でな。覗いていると、それはもう主に甘えているので、すぐさま場所を離れるからよく分からんのだが‥‥そんな声はしないように思うぞ』 フラウの変な格好が、丈の短い泰国服だったり、ウサギっぽいが露出が大きい仮装だったりすることは、ヘイトは口にしていない。シュティンも具体的にどう甘えているのかは、わざわざ言わない。 足元で、そこが大事なんじゃないかとぶいぶい騒いでいる一派がいるが、龍語会話中の彼らは、そうした主張を察知する能力が下がっているようだ。他の種族達の聞き耳能力は、相当なものなのだが‥‥残念。 そして、こちらでは忍犬語会話が展開していた。 『うちのお姉ちゃんにそんなのはありませんよ。私のお姉ちゃんには絶っっっ対にそんな話なんてありません。えぇありませんともっ』 『ご主人様はねー、好きな男の人はいるみたいなの。でも一緒には住んでいないみたい? だからかなぁ、たまに寂しそうな顔をするのが気になるんだよ』 『え、恋人さんが出来ると楽しいばかりじゃないんですか? 私の主はそんな風になったことないです‥‥ということは、恋人さんはいないのですね、きっと』 忠司さんと初霜が、好きな人がいても楽しいばかりではないらしいと、いきなり哲学的な思案にくれている。腹這いで並んで、『好きなら楽しいのがいいよね』と頷きあっているが、ヒダマリだけはそんな二犬に対してきゃんきゃんと少し違う主張を繰り返していた。 『ヒダマリさんのご主人も、好きな人が出来て楽しいならいいのでは?』 『うん、僕のご主人様ねー、その人に会うと嬉しそうなんだよ。僕も楽しくなっちゃうな』 『いけません! そんな人、いらないのです!』 そういう大事なことは相棒本人に選ばせてやれよとは、忠司さんと初霜は言わない。ヒダマリがこんなに言うならいらないのかもと、なにやら納得しかけている。 だが、そこににこやかに割り込んだものがいた。 「主はいつぞやの。ウルグが世話になって‥‥それとも、世話をしているのだったかな?」 ぐるぐる、グルグル。 ヒダマリが喉の奥で唸るので、初霜と忠司さんもなんとなく耳がピンと立ってしまったり。でも割り込んだ導は全然気にせず、忍犬達の耳を尻尾でふわさと撫でてしまう。 「別にウルグは不満もなさそうだが、そんなに唸るなら主のがそそっかしいのを直せばよいのだ。そうなるのに、これまた時間がかかりそうだがな」 なんだか楽しい遊び相手を見付けちゃった顔で、導がヒダマリにあれこれ言っている。傍で聞いていると、ヒダマリの相棒がそそっかしくて、導の相棒になにかと世話になっているらしいとか、その二人がもしかすると普通より仲良しかもと分かってくるが、ヒダマリはそれが楽しくないらしい。 『おねえちゃんだってがんばってるだから! だいたいね、あんたのとこのが来て、私がお姉ちゃんと一緒にいる時間が減っちゃったのよー!』 「それは我の責任では‥‥なんだ?」 『ご飯作ってくれたり、一緒にお風呂入ってくれる時間が減っちゃう? いつも僕のこと洗ってくれるのに、それもなし?』 『駄目です、駄目ですよ。お散歩したり、抱っこしてくれる時間が減るのは駄目です! 恋人さん反対です!』 ばうばう、うぉんうぉん。 「導さん、どうしたんで?」 白房が、突然忍犬達を敵に回した風情の導に問いかけたが、自分に責任がないことで吠えられている導も説明のしようがない。 『恋人さんは程々に!』 忍犬達は、急きょ同盟でも結んだようで、互いの前足をせわしなく打ち付けている。 「と、言うことらしいですよ。ま、結局は相棒さんの気持ちに逆らうほどとは思えませんがね」 しばらく後、やれやれと休憩に入った導から事情を聴きだした白房が、ばうばうと語り合っている忍犬達を横目に、何事かと注目していた皆に伝えている。 今は興奮している忍犬達だが、相棒の希望に逆らった主張を続けるとは思えない。なにしろ犬族、きっと相棒の真剣な気持ちにはほだされてしまうに違いないのだ。 こういう点では、猫又ならまた話が別なのだろうが、今ここにいる猫又は小雪のみ。先程から、朱雀に毛並みを梳かれて、ついでに色々に結われたりしても、きゃっきゃと喜んでいるようでは、気がきついとよく言われると猫又気質とは無縁らしい。 「こゆき、まゆきのしたいこと、はんたいしたりしないよー」 「あ、こら、まだ動いたら駄目だよっ。猫又の毛皮をもふもふする機会なんて、そんなにないんだからっ」 「あのね、こゆきのことね、まゆきがいつもきれいにしてくれるの」 相棒自慢を始めた小雪は、朱雀を振り落としそうな勢いで伸び上がって話している。朱雀が背中でわたわたしているが、気づいていない。 「降りたらどうだ?」 「こんなもふもふを‥‥あー、満喫し足りないけど、仕方ない。帰ったら、ワンコを愛でようかな」 「もふ? おうちにわんこもいるもふ?」 「アタシの相棒ワンコは、それはもういい毛並と耳としっぽの持ち主だよ!」 それって、忍犬ではなくて、ワンコの神威人とか猫族とかアヌビスのこと? 周りがきょとんとしているのも気にせず、朱雀は相棒・九寿重のことを語り始めた。となると、小雪と自慢合戦になる。 「まゆき、こどもだからこいびといないけど、ごはんもおいしーのつくってくれるよ。いらいでいないときは、しらさぎがよういしてくれるの。それでね」 「耳裏の毛が髪に繋がる感じ、丁寧に撫でで楽しむと最高でね。耳たぶにちょっと力を入れるとへにょっとするのがまた‥‥握りつぶしたくなるけど、じっと我慢で」 後者のそれには、どこか危険なものも含まれているが、聞いていた皆がうずうずしてきたのは、そこではない。 「むぎも、お料理上手もふ! 料亭で修業したくらいもふもふっ。最近はお酒のおつまみに凝って、いろいろ食べさせてくれるもふ」 百八がむふむふと自慢げに笑いつつ、うずうず発散中。 性格にもよるが、他人の自慢を聞かされたら、負けじと自慢したくなるのだ。自分の相棒だって、結構すごいんだから! 尻尾のふさふさは、ギュっとしてもすぐに戻ってこれまたたまらない。 たまに厳しいこと言うけど、美味しいもの食べさせてくれる。 恋愛感情が発達してないけど、まあいいや。 などなど、途中から自慢だか何だか分からなくなってきたのを眺めていた白房と藍音だったが、 「ふたりは〜?」 小雪に『なんにもないの?』と尋ねられて、口を開くことになった。 ないわけではない。単に、皆の聞き役に回っていただけなのだ。何にもないと思われるのは、流石に心外。 「姐さんは自分のことはあんまり話さねえからねぇ。あっしが聞かないのもあるんだろうけどさ。でもあっしの世話はよく見てくださるから、何の問題もありゃしねえよ」 「我の主もとても真面目で思いやり深く、かつ勤勉な方である。我が暮らしやすいように細やかな配慮もしてくださるし、深く感謝しておるぞ」 でも、直球で相棒自慢が始まって、ついでに言葉遣いが少し難しいものだから、小雪は口ぽかん。百八は抹茶に集中で、朱雀はその背中の毛を三つ編みし始めた。 「お嬢さん方、それはあんまりだ」 白房がぼやいたが、彼らの話を割と真剣に聞いていた者もいる。 「みんなのご主人、幸せもふ?」 もふリルに尋ねられて、白房もちょっと気分が上向いた。もちろん彼の姐さんは、たいそう仲良しのお相手がいて、常々自分もあやかりたいものだと思っているのだ。語ることに不自由しない。 聞いているのがもふらだと、やっぱり今一つ通じているのか不安にはなるが。 「開拓者も案外と結婚している者が多いのだな。我が主は信仰の関係で女人を娶ることはないのだが、我がおる限りは支え手に不足などさせまいて」 幸いにして、ちゃんと細かいところまで通じる藍音が、しみじみと頷いてくれている。 と、そこで突然。 「結婚はいいものでもふ。僕ね、前からもふリルのことが好きなのでふ。あのね、僕と結婚して欲しいでふ〜〜!」 パウロがやおら叫んだ。流石にこれには、龍語会話も忍犬語会話も人語会話も、しばし止まる。 突然何を言い出したの、このもふらさん? であった。 しかし、言われた側ももふら。 「結婚もふ〜? う〜ん…結婚したら、一緒に暮らすもふ〜? リーディアちゃん達と離れ離れはさびしいもふ〜」 いきなり何事かなんて言い返すこともなく、相棒と離れるのは嫌だから困ったなと悩んでいる。ほのぼの、と。 周り中から注目されても、全然気にしない。多分注目されていることも分かっていない。 ちなみにパウロも同じく。 「結婚するとずっと仲良くできると神父様が言ってたもふ。僕、もふリルとずっと一緒に遊びたいもふ! だから、毎日遊びに行ってもいいもふ?」 この時の周りの声。 「もぶぅっ」 「それって、今までと何か変わるの?」 「毎日ってところが違うとか?」 『ご主人と遊ぶ時間が減っても平気?』 「ねえ、なーにー? どうしたの?」 もちろん、もふリルとパウロは聞こえちゃいない。 「はっ! それじゃあ婚約はどうもふ〜? 結婚の約束をしたふたりは婚約者って言うそうもふ〜。何かかっくい〜もふ〜♪ 婚約してる間に、ご主人と離れなくてすむ結婚を考えるもふ〜」 そろそろ、皆も見守り方が分かってきた。 『めでたいこととして祝えばよいのかな』 『結婚する時も、儀式なかったっけ?』 「あ、いい。髪の毛、結んであげる。だからもふもふさせてね」 「ふうむ、残念だが我が主とは宗派が違うしな」 「なあに、仲睦まじきことはよきことかな」 そう、たまたま立ち会ったものとして、祝ってやればよいのだ。彼と彼女の相棒達がどう思うかは、この際考えない。 「わーい、婚約でふ〜。もふリルとこれからも仲良しでふ〜」 言動が微妙な点は、聞き流す! 「ご当人達が幸せなのが、一番ですしな」 『お姉ちゃんも、このくらい成長したら‥‥ううん、前に比べたら全然いいけどさ』 『いいなぁ、やっぱり一緒がいいよね〜』 パウロはちゃんと腕輪を用意していた。もちろん豪華なものではなくて、しろつめ草で編んだものだ。だが、ゆるゆると崩れかけていたものだから、朱雀と光華が編み直している。足りない分は、藍音や白房、導が伊邪那に急かされて採ってきた。 『私がシスターになってあげるー!』 ほかみの熱烈主張は、龍語でもしっかり通じた。正しくは、その視線と頭の動きで示すとおりにしないと食いつかれそうだったのだが、まあ事故もなく通じ合えた。 そんなわけで、誰かが目撃していたら、相棒達が整然と並んだ中で、もふらが二頭、うふうふきゃっきゃしている不思議な光景を目にしたことだろう。 目撃者が何人いたのかは、よく分からない。 そして。 「お祝い事には、お酒もふ。でももったいないから、子供にはあげないもふ」 百八がどこからともなく出した酒と、もとからあった飲み物とおやつがまた分配し直された。結婚式と言えば、後には宴会と相場は決まっている。 酒を飲んだのか、シュティンとヘイトは早々に伏せて、皆の会話を聞く態勢に。上から眺めているより、その姿勢の方が楽しめるのだろうか。小雪がその背中に上って、ほかみとなにやら談義中。 相変わらず、独自の結婚観を披露しているもふら達の周りでは、ヒダマリ、忠司さん、初霜の忍犬同盟がわいわいと賑やかに鳴き交わしている。彼らの結婚観がどのくらい変わったか、よくよく聞いてみるのも楽しそうだ。 やがて。 日が暮れると港から帰り始めた一同は、毛並があれば編み込みで、なければ花の輪で、妙に飾られた姿になっていた。 迎えた相棒達がその理由を知らされたかどうかは、互いの絆がものを言った‥‥かもしれない。 |