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■オープニング本文 世の中には、流氷というものがあるのです。 りゅうひょう。 流れてくる氷。 どこから? なんか、うーんと北の方から。 いつ? さむーい冬の真ん中くらい。 どうして? そんなの、流氷に訊いて。 流氷は、どこにでも流れては来るわけではありません。 ジルベリア帝国の中でも、とっても寒い北の海にだけです。 そう。 流氷は、北の海岸線に、海の遠いところからやってきます。 海岸に流れてきた流氷は、重なって、繋がっていきます。 そのうちに厚さも増して、人が乗っても全然平気になるのです。 海岸から、ずうっと遠くまで歩いていけることもあるとかないとか。 ごつごつしているから、歩きにくいこと、この上もありませんけれどもね。 流氷が来ると、色んな生き物も一緒にやってくるそうです。 たいていは氷の下。 中には、とっても美味しいお魚もいるみたい。 で。 只今、氷の上です。 岸が見えません。 これって‥‥ なーがーさーれーたー!! |
■参加者一覧
ルオウ(ia2445)
14歳・男・サ
フェンリエッタ(ib0018)
18歳・女・シ
杉野 九寿重(ib3226)
16歳・女・志
ルース・エリコット(ic0005)
11歳・女・吟
多由羅(ic0271)
20歳・女・サ
エリス・サルヴァドーリ(ic0334)
18歳・女・騎
レオニス・アーウィン(ic0362)
25歳・男・騎
システィナ・エルワーズ(ic0416)
21歳・男・魔
八壁 伏路(ic0499)
18歳・男・吟
メリエル(ic0709)
14歳・女・吟 |
■リプレイ本文 ●どうして、ここに? お空は、とても青かったのです。 「きゃー、流されてるー」 そんなお空に向かって、フェンリエッタ(ib0018)さんは叫んでいます。 淡々と、ええ、淡々と。 ここにも一人。 「ふわあん! ここ、はどこ‥‥でしょう、か」 右を見たり、左を見たりしながら、ルース・エリコット(ic0005)ちゃんは困っています。 不思議です、迷子になる予定なんてなかったのに。 こちらはなんと三人です。 「なんとなく動いている気はしたんだが‥‥」 「ああもう、早く真っ直ぐ帰っていれば、今頃ぬくぬく読書三昧だったのに」 「そもそも、私はなぜこんなところに‥‥?」 妙にのんびりとした感じでレオニス・アーウィン(ic0362)さんが、とっても残念で嫌そうにシスティナ・エルワーズ(ic0416)さんが、なんだかすごく困ったお顔でエリス・サルヴァドーリ(ic0334)さんが、三人それぞれ、別々の方向を向いてお話しています。 ちゃんと三人でお話しないと、いけないのではないでしょうか。 向こうにも、また一人いるようです。 「はっ」 メリエル(ic0709)さんが、ハープを抱えてじっとしています。これは呆然としている、というのかもしれません。 まだ、じっとしていますよ? お空は、やっぱり青いのです。 「空は、故郷と変わりありません‥‥さ、寒くなどありませんからっ」 釣竿片手に、空を見上げているのは多由羅(ic0271)さんでした。お空になにか見えないか、とっても探しているようです。 龍なんて飛んでいませんよ、ええ、甲龍なんて。 海はどこまでも‥‥白っぽいのです。 「ふっ、まあこんな姿を見る人がいないだけまし、とでも」 迅鷹さんのまるごとを着た杉野 九寿重(ib3226)さんが、ふふんと何かを鼻で笑っています。なんだかとっても残念そうです。 ジギャクテキって、こういう時に使う言葉? ここは、海の上なのです。 「あれ、ここどこだ?」 でっかい氷を頭の上まで持ち上げて、そのままルオウ(ia2445)さんは首をかしげました。自分がどこにいるのか、よくわかっていないようです。 どこからここまで、一直線に走ってきたのでしょうか、この人。 そして。 ここには、釣りに最中にうたた寝をして、目が覚めたらあることに気付いてしまった八壁 伏路(ic0499)さんがおりました。 「陸に戻らねば!」 ええ、まったくその通り。 それにしても。 皆さん、ここで何をしていたの? ●人生、色々 ちょっと、もしかしたら結構、まあ何はともあれ、時間を逆回転してみるのです。 皆さん、ここに来る前は何をしていたのでしょう? 「よし、俺は旅に出る! ロート、行くぞーっ」 炎龍さんと一緒に、突然思い付いたので旅に出たのがルオウさんでした。勢いです。ほかには何もありません。 あちこち行きまくっている最中に流氷を見付けて、面白いから乗っかって、気が付いたら‥‥ 「ロート、どこだー?」 心頭滅却すれば火もまた涼し。同じく氷もまた暖かし。 「暑い寒いなど、己の気持ち次第です」 お友達と一緒に楽しくお食事していたはずが、何の弾みか多由羅さんは寒いところに行くことになりました。 何故? 多由羅さんが大抵いつも薄着でいるのを、お友達が暖かいところ育ちで寒さを知らないからだと言ってしまったからです。 「土産の氷でも持ってきてあげましょう」 言い返した多由羅さんを、お友達はどうして止めてくれなかったのでしょう。 ついつい、一つのことに夢中になるのです。 「なにか、いいもの‥‥」 ルースちゃんは先日お誕生日でした。だから親御さんが、贈り物をしてくれたのです。あんまり嬉しかったので、早速お礼がしたくなったルースちゃんはいいものがないかと探しに出たのでした。 外はまだ寒いから厚着をして、途中で喉が渇いてもいいように水筒も持って。 うっかり、ずんずん歩き回ってしまったのです。 釣り道具に、つったお魚を捌くための刃物に、まとめて括るのに細い荒縄。氷の上の穴釣りは寒いから、水筒の中身はお酒で、寝袋もないといけない。 釣りの合間にちょっと釣果をつまめるように、持ち運べる大きさの七輪と小鍋と油もあると完璧。 「そんなにかさばらんと思っていたが、なんだか大荷物になったのう」 八壁さんは準備万端、釣りにお出かけです。 釣竿はじめ、たいていの荷物が同居人さんからの借り物ですけれども。 もともとはお仕事でした。騎士団のお仕事で、こんなに寒いところまでやってきたのです。 それが早く終わったので、そのまま帰ることも出来ましたが、レオニスさんがこんなことを思い出しました。 「たまには旨い魚が食いたいとおっしゃっていた」 誰が? 騎士団のお偉い方が、です。 「それなら、せっかく遠方まで来ましたし、このあたりならではの魚をお土産にしましょう」 すぐに気を利かせたのはエリスさん。寒いところのお魚は、身が締まっていておいしいと噂ですよ。それは手に入れていかねば。 「それで、どうして釣り?」 寒いのも力仕事も嫌いなシスティナさんが、いやそーに言ってはみたのですが‥‥生真面目なお仲間達は、まるきり聞いちゃいなかったのです。 市場で買って帰れば、簡単でしたね。 お守りも持ちました。家内安全のを。 喉にいい飴も、箱にいっぱい入れて荷物の中です。 上着もしっかり着込んだので、これでどこまで行っても大丈夫です。 「さ、人がいないところを探すのです」 ハープをしっかり抱えて、メリエルさん、さあ出発です。 目的地は人がいないところ。だって、歌の練習を人に聞かれると恥ずかしくて仕方がありませんからっ。 修業は大切。時には自分を不慣れな状況に追い込んで、心身ともに鍛え上げるべくこれ務める‥‥そう、時には極寒に自分をさらしてみよう。 「しかしこの装備はやはり‥‥いえ、普段は使わぬ道具でも動けることが肝要なのです」 色々難しいことを考えて、おうちの中からいっぱい道具を持ち出してきた九寿重さんですが、準備が出来たのに出発しようか迷っていました。 まるごとさんが恥ずかしいなら、別のにすればよかったのです。でも恥ずかしいのに耐えるのも、きっとせーしんしゅーよーです。 別に何かがあって、最果て極寒の海が見たくなったわけではありません。よく人はそう言います、特に悲しいことがあると北の海がとか言い出しますが、ジルベリア人の何割かにとっては、北の海はおうちの近くなのです。 「一冬に一度は流氷も見に行かないと、気持ちが悪いわよね」 だからフェンリエッタさんは、鼻歌を歌いながらお弁当を作って、水筒にお茶を入れて、お菓子も用意して、寒くない格好でお出掛けしました。 ええ、流氷漂う北の海へ。 で。 流氷を見たら、乗るしかないでしょ! ●さあ、どうしよう? ふと気が付いたら、流氷に乗って漂流していました。 そんな時、あなたならどうしますか? 「こんな時のためにも、刃物が黙苦無でよかったのう」 素早く我に返った八壁さんは、持っていた荒縄に黙苦無を結びつけました。それを近くを漂う、多分岸に近い方向の流氷に投げて、引き寄せるのです。乗り移って移動して、少しでも岸を目指さねばなりませんからね。 もちろん大事な荷物も、一緒に持っていくのです。特に釣果は忘れてはいけません。いつ何時、おなかがすくか分からないのですから‥‥ 「緊急時ゆえ、土産がなくても許してもらおう」 大事なお魚と七輪と鍋と調味料、それからもろもろの荷物を抱えつつ、八壁さんは大きな流氷を選んでたったか移動中。 「歌が聞こえるが‥‥まさか幻聴か?」 なにやら聞こえてきたので、そちらに向かう八壁さん。 釣竿を忘れていますが、誰もいないのでお知らせしてもらうことは叶わないのでした。お友達の釣竿、さようなら。 そして。 「ひゃーーーーーーーっ」 しばらくして。 「ぴーーーーっ!」 あっちとこっちから、変な声が響いたのです。女の子の声っぽいです。 こ の こ ろ 。 さくさくさくさくさくさくっ。 ざくざくざくざくざくざくっ。 どかどかどかどかどかどかっ。 流れる流氷の上で、流氷だから流れていて当たり前なんですが、とにかく人が乗っている場合にはろくでもない結末に一直線っぽいどでかい氷の上で、暴れている人たちがおりました。 「うっかりしているうちに、岸から離されているとは油断も甚だしい」 「これぞ噂に聞くりゅーひょーなう‥‥って、知っているのですか多由羅っ、ああもうっ」 「ちっきしょーーーーーーっ」 三人が三人とも、あっちやこっちで大した意味もなく暴れています。これはそう、八つ当たりとかいうものかもしれません。 他に誰もいないし、自分がやらかしたことで漂流中だし、岸に戻るいい方法も思い付かないから、とりあえず暴れているのです。九寿重さんはまだ足で氷を蹴飛ばしているだけで、でもぐりぐり抉ってます。多由羅さんは一人ボケつっこみとか言うのの真っ最中で、氷と一緒に頭もがりがり掻いてます。ルオウさんは‥‥大暴れ真っ最中。 そんなところに、変な声が聞こえてきたのでした。 「「「誰かいたっ」」」 大体同じ頃。 「流氷に乗って流されるだなんて‥‥開拓者にはよくあることよね。って、納得するのもがっかりな人よ。でも何度も尋常ならざる状況に遭遇すると、流石に慣れるというか麻痺するというか‥‥もしかして、こうしてみんな大人になるの? ‥‥なんか、やだ。‥‥泳ぐ? 冷えて鈍った体で、海流を泳ぎ切る自信がないわ。そもそもテイワズでも無茶よね、あぁ‥‥私、結構長生きしたかもしれない‥‥」 フェンリエッタさーん、かえってきてー。 ほら、何か聞こえましたよー。 更に、ほぼ同時刻のことでした。 「氷の上と言えど、それほど寒くはないのが救いですね」 「とりあえず流されていても釣りはできるだろうし、そのうちに岸につくだろう」 「儀の端の滝に流れ着かなきゃい〜ですけどね」 とある騎士団の三人の方々は、気を取り直して釣りを再開しようとしていました。ごつごつしている氷の群れは、見渡しても他の人がいる様子もないのです。 当然陸地は見えませんから、もう釣りでもするしかありませんよ。釣ったお魚を食べて、元気を出すのです。 「そういや、火の準備なんかしてましたっけ?」 「ありません。私の調理の腕前が試される時ですね」 「あ、この魚は踊り食いでいけないこともないよ」 システィナさんが、すごーくいやんな笑顔になっています。 そんなことに気づかないエリスさんは、真剣に釣糸をたれています。 レオニスさんは、にこにこと十五センチはあるお魚を指していました。それ、踊り食いしない、絶対しない。 でももしかして、この三人の騎士団ではそういう習慣があるのかも? この時。 メリエルさんは、心寂しくお歌を歌っていました。一人で物悲しいのですが、ちょうど誰もいないので練習中なのです。 別にお歌が下手なわけではありません。単にきんちょーしぃなのです。人前で歌うなんて‥‥そんな恐ろしいこと、考えただけでぷるぷるしてきます。 「こういう気分って、歌にも出ちゃうんですね‥‥」 メリエルさん、お歌が暗いです、暗いですよー。 実は元気が出ない人は、もう一人いました。ルースちゃんです。 「進も、進もぉ〜私‥‥は元気♪ どんどん進、むよ‥‥地平線、の果て‥‥までど、どん‥‥ど‥‥どん‥‥どぉ‥‥」 それでも最初は、お歌で元気を出そうとしておりました。声はちっちゃいけど、お歌はまあまあ元気‥かな? 多分元気です、ええ。「ど‥‥ど〜な‥‥どなどなどなどな‥‥どーな、ひぅ‥‥どーなぁー子猫‥‥ひぐ‥‥を乗せて。どなど、ななんなどーな‥‥流氷揺れるぅ〜』 段々つっかえつっかえして、暗い気持ちになった時になぜか歌ってしまうお歌っぽくなってきました。ルースちゃん、そんなお歌はいけません。 なのになぜ、そういうお歌だとちょっと大きな声が出てしまうのでしょう? そんなお二人のどちらかにのお歌に、八壁さんが気が付いて、後ろから声をかけたのです。 「ひゃーーーーーーーーっ」 びっくりした悲鳴です。 「ぴーーーーっ!」 悲鳴にびっくりした悲鳴です。 あらまあ、氷がごつごつしているからよく見えませんでしたが、まあまあ近いところに人がいたみたいですよ。 次々、あちこちから、わらわらと集まってきました。 おやおや、うっかりさんが十人も。 ●じゃあ、まあ‥‥ 流氷の上で出会った皆さんは、お知り合いもそうでない人もいましたが‥‥ 「そうかぁ、誰も帰り道は知らないのか」 「ルオウ、そもそも道なんてない」 ルオウさんががっくりしている通り、岸の方角がわかる人は一人もいませんでした。多由羅さんが当たり前じゃないかと言いますが、大人がいっぱいで迷子はちょっと恥ずかしいかもしれません。 「まあまあ、ここはひとつ落ち着いて相談するとして、食事はいかがです? うちの奥が弁当をこしらえてくれていてね。ちょっと凍ってますが」 立派な重箱弁当を出してくれたレオニスさんに、ルオウさんや多由羅さんも大変嬉しそうでしたが‥‥凍っていては、食べたらおなかを壊しそうです。 ところが。 「じゃあ、あぶって温めようか。七輪があるから、魚も焼ける」 「それはありがたいことです。では私の持参の品も提供いたしましょう」 色々持ってきて良かったと、八壁さんと九寿重さんとがこの場では大変ありがたいものをたくさん並べ始めました。 「あ、茣蓙があるから使って。私も色々持ってきたのよね。お菓子とかもあるわよ」 「釣った魚はここで食べるがよいと思うのだがっ」 「そうですね、お土産にする分はまた釣ればいいですから」 フェンリエッタさんが広げた茣蓙の上に、食べ物を並べるとずいぶんいっぱいありました。 システィナさんが気前よく、生でも食べられるらしいお魚とかも出してくれます。エリスさんの様子だと、お土産にしないといけなさそうですが、まずは元気を出して帰らなくてはならないのです。ご飯、とっても大事。 ついでに、お土産は市場で買ってもいいとシスティナさんは思っていました。ええ、もう釣りはこりごりですとも。 「え、えと‥‥お水なら」 「あ、飴なら」 合流できたのはお歌のおかげと、寒くないように七輪の近くに皆さんに譲ってもらったルースちゃんとメリエルさんも自分が持っているものを慌てて出しています。ご馳走になるばかりじゃいけないと、ちゃんと考えたのです。 それで、どれも冷たくなっているのを温める間に、皆さんは飴を舐めようと手を出して‥‥うっかり誰かの手が、キャンディボックスを弾きました。 「「「「「「「「「「あ」」」」」」」」」」 ぱらぱらと落ちた飴が、氷の上から転げ落ちていきます。 大変っ、拾わなきゃ! つるっ お ー ち ー た ー 。 全部で何人? 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