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■オープニング本文 開拓者ギルド。 飛びぬけた身体能力や特殊能力を持つ人々が構成員として登録し、その構成員達に仕事を斡旋する組織である。 その構成員、つまり開拓者にギルドから斡旋される仕事には、国の明暗を分けるような極秘裏の重要なものから、それこそ子守のような開拓者でなくとも問題ない仕事まで様々。開拓者達は、そうした依頼の中から自分の好みや興味、適性や信念を考慮して、好きな仕事を選ぶことが出来る。 だが稀に、依頼人から仕事を請ける者に条件が付けられる場合もあった。 それは、北国と称されるジルベリア帝国にある開拓者ギルドでのこと。 「この仕事なら、別に玄人さんに来て貰う必要はないわな?」 「玄人とおっしゃるのが、経験豊富な開拓者の意味でしたら、確かにその通りです。力仕事とはいえ、アヤカシが出る訳ではありませんから」 「そうだよなー。玄人さんはきっと報酬もたくさん掛かるだろ? じゃあ、新人さんに声を掛けてくれよ。頼んだぞー」 「報酬は依頼の内容で決めますから、経験者か否かはあまり関係ありませんけど‥‥って、もういないし」 その依頼は、ここ最近の大雪で郊外にある商品倉庫がすっかりと埋もれてしまった商人からのものだ。 話は簡単。埋もれた倉庫の周りの雪かきをして、中の荷物を取り出し、街まで運ぶ。荷物の搬送に必要な馬そりはじめ、雪かきの道具も準備万端、ひたすらに雪かきをすればいい。 ただし、ジルベリア帝国の雪慣れした商人が、わざわざ開拓者を頼もうと考える大雪を舐めてはいけない。 倉庫は傾斜のきつい屋根の頂点までが地上から8メートル近い天井が高い建物で、全部で4棟ある。地上から軒下まででも5メートルあるのだから、そこらの民家とはちょっと高さが違う。 現在、その軒下までがすっぽりを埋まっているのだ。入口扉も窓も、全部が雪の下。更に屋根の上にも雪。 よって、開拓者はまず安全のために屋根の雪を下ろし、それから建物周囲の雪を少し離れた場所にひたすら運んで捨てる作業を繰り返さなくてはならない。手を抜くと、建物が潰れる可能性もある。 明らかな力仕事だが、手順を間違えなければ危険は少なく、開拓者なら難しいことはない。 更に衣料品も商う依頼人は、質素なものだが防寒具と作業中の飲食物を提供してくれると申し出があった。もちろん雪かき道具と馬そりも使って構わない。 「ジルベリアで初めて仕事する時って、防寒具を買うのが大変だって人も多いよね。報酬はちょっと少ないけど、装備にお金使わなくても行ける仕事だよ」 開拓者ギルドの係員は、そう言って登録して間もない開拓者を誘っているらしい。 |
■参加者一覧 / エリス・サルヴァドーリ(ic0334) / ガラード ソーズマン(ic0347) / ジャン=バティスト(ic0356) / ピュイサンス(ic0357) / カルツ=白夜=コーラル(ic0360) / レオニス・アーウィン(ic0362) / 迅脚(ic0399) / リーシェル・ボーマン(ic0407) / 霧島毅臣(ic0409) / ヴァレス(ic0410) / システィナ・エルワーズ(ic0416) / 八坂 陸王(ic0481) / ゾロアスター(ic0508) |
■リプレイ本文 ずぽっ。 じたばた、じたばた。 「「ぁ〜ぅ〜」」 異口同音にか細い呻き声を上げている雪まみれのひょろひょろした青年と、まるまっちいハリネズミ風の着ぐるみが目の前に出現し、迅脚(ic0399)は目をぱちくりさせた。 いや。二人とも一緒に仕事を請け、馬車でやってきた開拓者である。青年がシスティナ・エルワーズ(ic0416)、ハリネズミがピュイサンス(ic0357)という自分より年少らしい女の子だとは承知していた。 ついでにこの二人を含んで、今回の依頼の半分以上は以前からの知り合いで、ジルベリア出身らしいとも察していたが‥‥ 「なんで、そこで雪に埋もれるかな?」 自分より雪道に慣れているはずではないかと訝しく思いつつ、迅脚はまずピュイサンスに手を差し伸べた。着ぐるみの背中の針が雪山に突き刺さってもがいている姿は哀れというより笑いを誘うが、放置しておくのは流石に可哀想だ。システィナも柔らかい雪に腰まで埋まっているのだが、ちょっと迅脚が引っ張りあげるのは大変そうである。 「見る分には綺麗だが、やはり積もると色々難儀だな」 幸い、埋もれた雪から這い上がるのに苦労しているシスティナには、霧島毅臣(ic0409)が左手を差し伸べてくれた。取っ掛かりが出来れば、すぐさまシスティナも皆が歩いて踏み固めた道に戻ってくる。小脇に抱えていた分厚い本から雪を払いつつ、霧島に礼を言おうとしたのだろう。口を開いたところで、 「システィナ殿、あれほど体力をつけるために体を動かさなくては駄目だと言っておいたろう? 自分で雪を掻き分けるくらいの元気は見せてもらわないと」 「ちょっ、レオニス様、なんで突き落とすんですか。俺は本より重いものは持ったことがないか弱い魔術師なんですよ。大体霧島様にも申し訳ないと、寒い寒い冷たいです〜」 同僚だろうレオニス・アーウィン(ic0362)に、再び雪の中に突き飛ばされていた。 ちなみに冷たい思いをさせているのは、迅脚に助け出されたピュイサンスだ。着ぐるみが被った雪を落とすのに、横も良く見えていないようでどさどさとシスティナの上に振るい落としている。 「は〜、びっくりした。あ、迅脚様、お姉さま達に置いていかれちゃいましたよ」 大変早く追いつかなきゃと、自分のやらかした事に気付かず急かすピュイサンスに、迅脚も霧島もなんと言ったものか考えてしまった。そもそも『本より重いものは持ったことがない』と主張していたシスティナも、雪かき道具を背負っている。 だが、 「こんなに積もるのが稀だからと、ふざけていてはいけませんよ」 「レオニス殿、人をからかうのは感心しない」 「世の為、民の為、己の鍛錬の為! さあ、早く雪かきを始めようではありませんか!」 騒ぎに振り返ったエリス・サルヴァドーリ(ic0334)とリーシェル・ボーマン(ic0407)が生真面目に、ガラード ソーズマン(ic0347)が豪快に声を掛けてくるので、いつもこんな調子なのだろうと理解した。 その騒ぎに、先程来た方角を振り返ったのは八坂 陸王(ic0481)とヴァレス(ic0410)の二人だ。どちらも休憩用のテントの柱を、雪中に埋めようとしていたところ。降雪がまだ柔らかいせいで、馬車馬の足が遅れているから先行してきたが、追い掛けてくるはずの仲間まで遅いとは‥‥ 「ここまで積もっていると、仕方ないけどね。俺達ばっかり働かせるなよーっ」 「今までも、一緒に仕事をこなしてきたのか?」 「ん? 俺、割と最近までちゃんと修行したこともなくてね。たまたま訓練受けたところで知り合ったんだ。開拓者ってのも、ついこの間知った感じ?」 ヴァレスの話は珍しい部類に間違いないが、八坂は追求してはこなかった。元来口数が多そうな性格にも見えず、育ちが変わっていそうだからと根掘り葉掘り尋ねてくるほど無遠慮でもないのだろう。ついでにヴァレスの口調も、明るすぎて事実と冗談の境が良く分からない。 分からないと言えば、八坂にはヴァレスが荷馬車に積まれていた寒さ避けの薪の束を見て、妙な具合に首を傾げていたのが記憶に新しい。これだけ寒ければ、薪も必要だし、飲食物もリーシェルが出した希望に沿ったものを道具込みで用意してくれた依頼人に、ジルベリアではこういう仕事もよくあるのかもと想像を巡らせていたのだが。 流石に初対面の八坂には、ヴァレスが途中で薪拾いをしがてら周辺を見て周ろうと、以前の遺跡探しの経歴が好奇心を刺激するのか、単に集中力の問題か、仕事以外のことを計画していたとは分からない。 以前からの仲間でも、他人の心中を事細かに察してはいないだろうが、足が雪に埋まって機嫌が悪い馬車馬を牽いているジャン=バティスト(ic0356)は、違うことには気付いていた。 「これでは、低い木が雪に埋もれているかもしれない。作業中には、よく注意しないと」 加えて、掘り出す建物の周辺、特に入口周りでは地面に近い場所ほど秋に落ちた枝葉が雪に混ざっている可能性もある。暖を取る焚き火に混じっても濡れているから延焼の危険は少ないが、足を滑らせる可能性は高い代物だ。 今回同行した中には雪に慣れていない者もいるし、その辺りにも気を配っておかねばと、ジャンは先程から思案顔だ。 「最初によく言っておけば、事故になるようなこともあるまい。あれこれ気を回しすぎて、自分が疎かにならないようにしてくれよ」 作業効率にも思考を巡らせているジャンに、カルツ=白夜=コーラル(ic0360)が苦笑しながら声を掛けた。豪雪で大変な作業とはいえ、開拓者がこれだけ揃えば、手順さえ間違えなければ危険は少ない。注意力散漫になる方が余程問題だと、知己の性格を鑑みての言葉だろう。 「では皆様、向かって右の棟から順番に作業を行ってまいりましょう。火の世話は、リーシェル殿とヴァイス殿、間違いなくお願いいたしますよ」 「あら。お料理にも期待していただいてよろしいのですが?」 出発時からきびきびとしていたエリスが、なんとなく皆を統率する雰囲気になって、てきぱきと作業の手順を決めていった。 屋根に上がる時には、念のために命綱をつけること。その縄は体に直接巻くと、足を踏み外した際に締まって内臓を傷める原因になるから、革帯をしてそこに結ぶこと。などと始まった注意事項に、迅脚や八坂、霧島に、どういうわけかシスティナまでが『そうだったのか』と納得と感心をしていた。 その間に話は聞きつつ、煉瓦や鉄製の筒で簡易かまどをこしらえたリーシェルは、手際よく鍋を火にかけている。移動の間に野菜の下拵えを済ませていたことからも、確かに料理になれた様子で、味にも期待が出来そうだ。 「さっ、参りますかな、皆の衆! いやはや、これだけ積もっていれば、良い鍛錬になりますよ!」 重い甲冑のせいで、他の者より雪に埋もれる度合いが激しいのに、まったく気にせず道を拓いているガラードには、もちろん力仕事の期待がされている。 雪かきは、まず屋根のどこに登り易いかを観察し、そこの位置に梯子を掛ける。いきなり上までは行かず、梯子をかけた周囲の屋根の雪を下ろして、足場を作ってから作業を始める。もしもつららがあれば、それより先に叩き落すのが大事だ。 後は、屋根の上と下でまめに声を掛け合いつつ、上の者はうっかり人の上に雪を落とさないように、下の者は落ちた雪を邪魔にならない場所に手際よく運んで行くように、ひたすら注意しながら作業をする。 そう、雪下ろし、雪かきとは地味な作業だった。 「ちょっとしかすくえませんよ、どうしてっ?!」 屋根の上で、ピュイサンスが悲鳴をあげている。実は左腕がアーマー技術の転用の義手だと胸を張る彼女だが、相変わらずのはりねずみ姿ではそもそも腕が見えていない。 それでも開拓者らしく体格に似合わぬ力は発揮しているものの、屋根と雪の間にスコップを突き刺しても、たいして雪が取れなくて作業は捗っていないのだ。 「先に、雪を落とす分だけ切り分ければ、楽に落とせるから」 下からジャンが声を掛けるが、雪下ろしはあまり経験がない様子のピュイサンスにはぴんと来ないらしい。 「こう上からスコップをどんどん突き刺して、他の雪と切り離すんですよ。それから下に向かって押せば、勝手に滑って行きますから」 「なるほど、全体から塊を切り出して落とすわけだな。端から少しずつ崩すより楽そうだ」 すぐ近くでは、レオニスが霧島に同じコツを実演付きで説明している。言葉だけでは分かりにくいところも、目で見ればすぐに霧島も飲み込んだ。 「わっはっは! 端は危険なので、私に任せておくのだ。説明は、誰かに任せるがな」 レオニスやジャンは慣れた作業であるらしく、それぞれ屋根の上と下で軽快に作業しているが、それでも説明する時は言葉だけでは難しそうだ。だから実演付きになるのだが、やはり雪下ろし中のガラードは、説明に頭を使うより体を動かしている方が気が楽なのだろう。堂々と『説明は無理』と明言して、屋根の端の雪を力強く建物から離れた場所に飛ばしている。 「ええと、建物の後ろの方に雪かきっと。周りに人家がないから、除けるところに困らなくていいねえ。って、そりが動かない‥‥っ!」 ガラードは大きく掬い取った雪を簡単に投げているが、下で作業する迅脚に同じ真似は出来ない。それで貸し出し品の中にあった小型のそり、彼女が乗って遊べそうなほぼ平らなものの上に雪を積み上げて、引っ張って行くつもりだったが、積みすぎで動けない。 そう思ったが、ちょっと違ったらしい。 「雪が柔らかいからな。皆が歩いた跡を辿れば楽だろう。でも足を滑らせないようにね」 後ろからそりを足で押しつつ、カルツがそりが通りやすいところを教えてくれる。適当に離れたら、そこでそりを横倒しにして雪を放置出来るので、迅脚も動き出せば人の手は借りなくても大丈夫だ。もちろんある程度踏みならされたところを通る限りは、となるが。 単純に雪をすくって除けるだけかと思いきや、案外色々とコツや道具が必要なのかと、八坂が感心しながら、出来るだけ多くの雪をすくいあげるにはどうしたらいいものかと色々試し始めた。ちょっとコツが飲み込めれば、後は今回の開拓者の中でも力がある方の八坂は、手際よく作業が進むようになる。 途中からは迅脚がそりで雪運び、八坂はそのそりに雪を載せると分担して、作業効率を上げていた。ジャンとカルツは、迅脚がそり一台で行き来するところを二台使って、同様に建物前の雪を除けている。 「扉の前だけ避ければ用が足りるとは思うが、横の雪もあの高さになるなら別に捨てに行くべきか?」 黙々と作業していた八坂が、カルツとジャンに尋ねたのは、屋根から下ろされた雪が建物の軒まで届いたからだ。流石にあの高さは危険ではないかと考えたわけだが、尋ねられた二人が何か言う前に、一棟目の雪下ろしを終えたレオニスとガラードがその山を伝って隣の棟の屋根に移動し始めた。元気な声をあげて、ピュイサンスも続いている。霧島は、用心しいしいの移動ぶりだが、まあ問題なく次の棟に。 「雪で崩れるほど弱い造りではないので、時間に余裕があればでよさそうです。急ぐのは屋根と扉周りですから」 その光景を見れば、ジャンの説明がなくても足を滑らせても危険がないのでいいかと分かる。これが居住用ならまた話が別だが、倉庫だし。 そうして雪下ろしが二棟目に入る頃、システィナが四棟目の脇でよろよろしていた。彼と一緒に行動しているエリスの手には長い棒があって、軒先のつららを片端から叩き落すのを終えたところだ。雪かき等より体力は使わないはずなのに、システィナはぜいぜいと肩で息をしている。 「幾らかなりの雪とはいえ、この程度の深さでそんなに‥‥体力がないのにも程がありますよ。まだこの後に、荷物の搬出もありますからね?」 「頭脳労働者になんて無茶を‥‥ちょっと休憩させてくださいよ」 テュールのくせにひ弱なとエリスは厳しいことを口にはするが、声色には棘はない。人家と比べ物にならない高い軒だから、手間が掛かったのは確かなのだ。魔術師としても体力がないシスティナには、ちょっとは大変だったかもしれない。 それに、そろそろ一度休憩をしなくては、他の者も疲れがたまり過ぎてしまう。休憩後には作業担当も変更しないと、システィナは体力作りはせずに焚き火番でも始めそうだ。 彼女の考えを読んだかのように、ヴァレスが歩いてきた。 「リーシェルが、休憩にしましょうって。お茶の準備をしてくれたよ。スープはもうちょっと煮込んでからだね」 馬の世話と荷馬車に荷物を積むための手入れや準備をしてくれていたヴァレスとリーシェルだが、その仕事を終えてからは休憩用のテントの前で焚き火をしていた。昼食作りが一区切りついたので、ヴァレスが休憩に呼びに来てくれたものらしい。 「お昼はポトフにしましたが、午前のおやつはこんなところで」 おやつは、依頼人が持たせてくれた固パンを軽く温めて蜂蜜を塗ったものに、生姜が入ったお茶という組み合わせで、リーシェルが寒さを気遣って用意してくれたものだ。焚き火も大きく熾して、汗をかいた人が寒くならないようになっていた。 「まさか、雪かきでこんなに汗をかくとは思わなかったですよ〜」 寒いから、動いても汗はかかないと思っていたのにと迅脚がぼやくと、カルツが荷物に積んでいた包みから布を何枚か渡してくれた。着替えないまでも、ちゃんと拭いておかないと風邪の元だと準備万端である。 貰った布を、迅脚が他の者にも回そうと振り返ったら、隣に座ろうとしていたはずのピュイサンスが頭を仰け反らせていた。ひっくり返りそうなのを支えているのは霧島だが、少し心配そうに呼吸を確かめている。 「特に問題はなさそうだが、いつもこんな調子か?」 「子供と一緒で」 「良いではないか。それだけ良く働いたということだ」 エリスが少々恥ずかしそうに言いつつ、霧島からピュイサンスの体を受け取っている。その間にもガラードがテントの中に椅子代わりにしていた箱を並べて横になる場所を作ってやっていた。八坂も予備の防寒具を出してきて、掛けてやるなど世話を焼いている。 「そのままだと、風邪をひかないかしら」 リーシェルが心配していると、火の勢いを調整しているヴァレスと、お茶の器を手に指を温めていたシスティナが、異口同音にこう言った。 「「いい匂いがしたら起きてくるから」」 その言葉がすぐに実現したもので、当人以外はついつい笑ってしまった。笑われている側はどうしたのか分からず、 「何のお話をしていたのです?」 「‥‥噂をすれば、ですよ」 ジャンの回りくどい説明ではもちろん通じず、遠慮がない者は更に笑い転げていた。 なにしろ、着ぐるみはりねずみがぷんすか怒っても迫力はなく、可愛い感じがするだけなのだ。 それからしばらくして、そのはりねずみにシスティナとヴァレスが屋根の上に追い上げられ、他の者も仕事の続きに取り掛かった。 「扉周りは、このくらいの幅が開いていれば大丈夫かな?」 「雪解けの頃に避けた雪の山が崩れてまた入り口を塞ぐかもしれませんし、出した荷物を一時的に置けるように、もう少し広く除けましょう」 「鍛錬と思って、時間が許す限り働いておけば、依頼人殿はさぞ満足してくれるぞ!」 細かいところは随時相談し、合間に豪快な意見を拝聴したり、 「頭脳労働者に‥‥」 「それでも開拓者ならそこらの若者の三倍は動けるだろ?」 「なぜ三倍? もっと動けても不思議はないよ、体さえ鍛えれば」 「そこのさんにーん、いいから働くのですよー!」 弱音を吐いたり、容赦なく仕事に駆り立てたり、 「お馬さーん、手伝ってよ、お願い」 「その馬が引くには、ちょっとそりが小さいんだよ。馬の運動がてら、この辺りを均しておいてくれるか」 作業を進めるのに色々知恵を絞ったり、経験を活かしていた彼らだが、 「終わったら、一杯やろう。天儀酒を持ってきているからな」 「こういう仕事では、楽しみになりますね」 「肴は、まあ何とかしましょ」 一部の年少者を除けば、これが一番やる気を出す一言になったかもしれない。体は結構熱いが、手先と足元はやはり冷えやすいので、手っ取り早く体内から温まるのは悪くない。 とはいえ、まだこれから荷物を出して、荷馬車に積まねばならないのだが。 まあ、運ぶ力も、積む技量も、ついでに山と積んだ荷物を崩さない器用さも十分足りているから、困ることはないだろう。 「まだまだ、いけるです‥‥よ〜」 たまに、休憩時間が長い者がいても、きっと大丈夫。 |