純白のジスーセイゲーン
マスター名:龍河流
シナリオ形態: イベント
相棒
難易度: やや易
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2013/01/23 23:05



■オープニング本文

 ジスーセイゲーン。
 この名前を聞いた開拓者には、時に常とはひどく異なる攻撃性を生じさせる者もいる。
 だが、それも致し方ない。
 この谷には時折、これという原因も見当たらないのに、どういうわけか、アヤカシが大量発生するのだ。
 格別に強力なアヤカシではない。どちらかと言えば、弱いものが多い。
 けれども、数が異常に多かった。

 ジスーセイゲーン。
 ただの枯れ谷のはずだが、時折大量のアヤカシに埋め尽くされる土地。
 今回のアヤカシは、白くてふわふわしていて、小さくて真ん丸で、ころころもしている。
 個体により目のようなものが付いていて、見ようによっては可愛いかもしれない。
 けれども、どれだけ真っ白で、小さくて、ふわふわしていて、可愛く見えても、結局はアヤカシだ。
 そう、時に一部の開拓者の人格すらも変えてしまう存在なのである。

 純白のジスーセイゲーン。
 それは雪ではなく、アヤカシによる白に埋め尽くされていた。




■参加者一覧
/ 礼野 真夢紀(ia1144) / 瀬崎 静乃(ia4468) / リエット・ネーヴ(ia8814) / フェンリエッタ(ib0018) / 椿鬼 蜜鈴(ib6311) / 緋乃宮 白月(ib9855) / 沙羅・ジョーンズ(ic0041) / 櫻井 悠貴(ic0294


■リプレイ本文

 白くてふわふわ。
 小さくて真ん丸。
 ついでにもっこもこ。

 目の前の谷は、そんなアヤカシで埋め尽くされていた。
「ジスーセイゲーン、行動不足? ちょっと違う?」
 うーんと首を傾げているのは、自称が砲科傭兵の沙羅・ジョーンズ(ic0041)だった。
「こんな光景は初めて見ますが、なんだか以前にも何度も体験した気持ちがしてきました」
 こちらも悩んでいる様子なのは緋乃宮 白月(ib9855)。
 二人の前には、アヤカシに埋め尽くされたジスウセイゲーンの谷がある。いや、あるはずだが、何しろみっしりとアヤカシで埋められているから、どこが谷底だか斜面だか、それとも谷を見下ろす高台なのか、さっぱり分からない。
 そんな光景を、二人以外にも五人の開拓者達が眺めやっていた。
「次があれば、範囲魔法でどかんとやりたいと思っていたのに‥‥」
「それはわらわに任せい。しかし、年の初めに大掃除か。いや、どんと焼きの季節でもあるのう」
 妙に力が入った声は、フェンリエッタ(ib0018)のもの。以前にもこの谷での依頼を受けたことがあるそうで、手間の掛かる大量のアヤカシ退治を効率的に進める術を持たないことを嘆いているらしい。その割に、恨み節がぴりぴり利いているが。
 反対に、範囲魔法でどかんが実行出来る椿鬼 蜜鈴(ib6311)は余裕がある態度だ。大量のアヤカシを前に油断が過ぎると言えなくもないが、谷を埋めたら身動きもままならない様の真っ白アヤカシなど脅威ではないと考えているのかもしれない。
「これだけいると、背後を取るのは無理だね‥‥そもそも何で周りを認識しているのやら」
「目があるのとないのといるもんね。振動か風の動きなら、試してみれば分かるかな?」
 しかし、やはりアヤカシ退治であるなら相手の索敵手段や移動方法の確認が重要と、瀬崎 静乃(ia4468)とリエット・ネーヴ(ia8814)が観察を続けている。とはいえ、現状はもぞもぞしているだけで、かなり近くまで来ている彼女達にも反応が薄い。リエットが試しに遠方に石を投げてみたが、その落下に反応したのもごく僅かだ。
「一回は休憩しないときついって聞いてたけど‥‥これじゃあ、削り切るまでにどれだけ掛かることか」
 いきなり遠い目をしているのは、礼野 真夢紀(ia1144)である。荷物には軽食の類に火を起こす燃料から一式揃っているが、もっと持ってきても良かったと思っているかもしれない。
 アヤカシは、見るからに弱そうだ。けれども谷のどこも見えないほどに大量発生中となると、短時間でどうにかなるものではないだろう。
 挙げ句に。
「「「「「「「‥‥見えにくい」」」」」」」
 一行が異口同音に口にしたように、積雪が少ないとはいえまったくないわけではない光景の中、真っ白けのアヤカシは見えにくいことこの上なかった。

 範囲魔法で、どっかん。
 続いて、炎が一直線。
 合間に、銃声が間断なく響く。
「あああぁぁぁ‥‥」
 一行に被害が及ばないよう、念のためにアイアンウォールを立てた後ろから、蜜鈴のメテオストライクがアヤカシの群れの只中で爆発した。
 あっという間に雪も含めて何もなくなった枯れ谷の底に、続いて姿を見せるのは静乃の火炎獣だ。こちらも炎の通った後には、アヤカシは消し飛んでしまっている。
 更に加えて、沙羅の銃から最短の時間で立て続いて吐き出される銃弾が、そうした術範囲から零れて逃げようとするアヤカシ達を、谷を囲む崖の途中からぽろぽろと落としていく。うまくすると雪崩のようにどさっと落ちてくるが、それ以前の攻撃で大半が瘴気に還っているから、まれなことだ。
 その一方的な展開に、自分も加わりたかったと身悶えしそうな態度でいるのはフェンリエッタだが、最前線での攻撃が基本の彼女の出番は緋乃宮と共にもう少し先になる。今は真夢紀が力の歪みを使うほどでもないと見定めて、弓で取り零しを攻撃しているところだった。
「うーん、向こう側の奴らをこっちに引っ張ってくるのと、こっちから攻めていくのと、どっちがいいかなぁ?」
 相変わらず数が多い、正確にはほとんど減った気がしないアヤカシの群れを前に、落ち着き払って観察しているのはリエットだ。あまりに簡単に退治出来るので、一箇所に追い込んだり、囮役を引き受けて分断したところを攻撃といった計画が必要かどうか、その辺りから悩んでいる。
 しかし、全員の結論としては。
「普通の攻撃でも十分に対処出来そうですし、手前に転がっているアヤカシは出て行って倒しても大丈夫では?」
 緋乃宮のこの言葉に尽きた。
 なにしろ、ちょっと見ていれば分かるが、アヤカシが小型で移動速度もたいしたことがない。谷の上から転がり落ちてくるなら別だが、こちらに向かってこようとする一団も遅々とした歩みで、まるきり脅威には見えないのだ。
「ふふ、たまには最前線で武器を振るうのも楽しかろうて」
 蜜鈴も含み笑い付きで同調して、魔術師には余り似合わぬアゾットを抜いた。真夢紀も巫女らしからぬ、というか体格にまるで合わない刀を抜き放ち、結構やる気のようだ。
 静乃はそうした直接攻撃武装の準備はなく、僅かの時間だけ首を傾げていたが、
「では、戦線を前に押し上げるということで」
 どんな遠距離攻撃が可能な武器や技能にも、やはり射程というものは存在する。沙羅の銃はこの中では飛び抜けて長い射程を持つが、倒せる敵は一度に一体のみ。どちらかと言えば、敵の撹乱に使用するほうが適切だろう。
 程度のことは、一々説明されなくても全員が承知していて、速やかに移動を開始した。アヤカシの方は、その動きに気付いたとしても逃げる動きに移るまでがまた遅い。
「単体では弱いとはいえ、あの数で圧し掛かられたらどうなるか分からないからね」
 中に取り込まれたら、簡単には攻撃も出来ないから飛び出しすぎないで欲しい。谷の一方から攻撃を開始した現在、挟撃の危険はないものの谷の上の敵の見落としはあってはならないと念押ししたのは沙羅だが‥‥ちゃんと聞いていない者もいたようである。
「一年経って、一味違う私を見せてあげるわ!」
 その『違う』は、技の切れとか経験とか、はたまた戦いに対する姿勢とかではなくて、気持ちが斜め上に突っ走っていることではないのか‥‥と、フェンリエッタに指摘する者はいなかった。
「ええまったく、せめて三百体くらいには減らしたいですね」
 こちらもちょっと方向性が違う同意を示した緋乃宮も、アヤカシが三百体もいたら普通はとてつもない脅威だということを失念しているらしい。
 そもそも、風が吹いたら本当に飛ぶ様なアヤカシでも、三百体も取りこぼしたら大変なのである。でも飛び出していった背中にそう叫んだとして、聞こえるものかは分からない。
「あれが‥‥ジスーセイゲーンの不思議なところなんですね」
 時間制限に間に合わないと、季節問わず真っ白になったりするのですと、これまたよく分からないことを言い出した真夢紀も大振りの刀を抱えて二人に続く。
「もー、あんまり飛び出したら駄目だじぇっ!!」
「あちらの移動速度を考えたら、こちらから向かうのが手っ取り早いのですけれどね」
 どうしてこんなに落ち着かなくなってしまったのかしらと、不思議そうな顔でリエットと静乃が見落としがないかどうかと周囲を警戒しながら進んでいく。
「踏み躙っても倒せそうじゃが‥‥どのあたりが、撃つに有利じゃ?」
「短銃も持ってきているけど、奥を狙うならあの辺りかな」
 他に比べると少しゆっくり、ゆったりした雰囲気で、新たな壁を作るとしたらどの位置が適切かと相談しながら、蜜鈴と沙羅が仲間を追いかけていく。
 すでに前方では、相変わらず群れすぎて身動きもままならないアヤカシ達を、皆が蹂躙しているようだった。

 真夢紀が、刀を振り回しただけでも、当たれば瘴気に還る。
 そんなアヤカシだから、蜜鈴の理穴の足袋でも、力一杯ぐりぐりと踏み躙ると潰れて跡形もなくなる。
 流石にそればかりで攻撃していると、いかに移動がどんくさいアヤカシでも群れ寄ってくるから、
「静乃〜、行くじぇ〜!」
 合間合間にリエットがアヤカシの群れを引っ掻き回して、一部を静乃の式の攻撃しやすい位置に引っ張ってくる。その最中にも、リエットの飛翔の靴で踏まれたアヤカシが悶絶したり、静乃が足元に来たアヤカシを蜜鈴の方向に蹴飛ばしたりしていた。後者は集中を乱したくないのか、たいそう楽しげな蜜鈴に譲ってやっているのかは謎だ。
 そうかと思えば、
「毎度しつこく邪魔してくれてもうっ、どれだけ苦労していると思っているの!」
「まだまだ削り足りないですね。でもどこを削れば‥‥」
 それぞれの技能で、前線における問答無用の大量退治を実行中のフェンリエッタと緋乃宮は、変わらず少し斜め上の方向をいっているようだ。口にしていることの多くは他人には分かりがたいが、少なくとも緋乃宮には他の全員が同じ事を言うだろう。
「目に付いたところを、片端から削ればよい。普段はどうでも、今日ばかりはな」
 誰かが普段はそれが出来ないのよとかなんとか叫んでいるが、蜜鈴の言い分に間違いはない。どこからどう削るかより、どう取り零しなく削るかが、本日の重要課題だ。
 なにしろ、白いので積雪に混じると見えにくい。そんな理由で何体か取りこぼしましたなんて、報告書に書かれたら‥‥恥ずかしいではないか。
 だが、しかし。
「あのぅ、すぐに逃げる様子もありませんし、一度休憩しませんか?」
 真夢紀の言い分も、もっともであった。
 かれこれ五時間は潰して回っているのに、半分にも減った気がしないのはどういうことだろう?

 動き回っているうちに乱れた装備や防寒具を直し、一応戦闘中なので立ったままで真夢紀が用意してくれたお茶と軽食を摂る。
「酒が欲しいのう」
「それは終わってからです」
 ついでに一服やっていた蜜鈴が、煙管を片手にぼやいて、真夢紀に叱られていた。
 沙羅と静乃は、この機に銃弾や符の充填を行っている。銃弾はそれほど消費しなくても良さそうだが、符はやはり大量のアヤカシ相手には有効だろう。
「あの上に群れているから、撃ち落として雪崩にしてくれるとありがたい」
「了解。雪まで落ちると危ないから、誰も出ないうちにやろうか」
「雪崩になりそうなら、私が行ってもいいんだじぇ?」
 ついでにアヤカシの群れをどこにどう追い落とすかと相談している。リエットが自分が先に立ってアヤカシをひきつけてもいいと身を乗り出したが、谷を囲む崖の上からの追い落としは一緒に落下すると危険だから、ある程度数が減ったところで出ることになる。
「雪崩れるなら、押し返してやる」
 やたらとやる気が溢れ出しまくっているフェンリエッタが、無茶なことを口にしているが‥‥いきなり実行しようというわけではないから、まあいい。もしも本当にアヤカシの群れが雪崩れのごとく押し寄せてきたら、その時は誰かが襟首を引っ掴んで避けないといけないかもしれないが。
「まだまだ三百体にも遠いですね」
 そして、なぜだか三百に拘る緋乃宮が、谷の中程から向こう側でもそもそしている真っ白けアヤカシを眺め‥‥さあ、また頑張るかとゴーグルを掛け直した。

 どさどさどさどさっ。
 ざざざさざああぁぁぁっ。
「うわー、雪崩になったぁ! 皆さん、避けてくださいーっ!!」
「あら、巨大雪だるま化するかと思ったのに」
「矢の補填が大変‥‥ですっ」
「ほれほれ、とっとと壁の後ろに入るが良い」
「どこでも撃てば当たるとはいえっ、こういうのはちょっとね」
「横に回るのがいたら、しとめ損ねないようにね」
「誰に言ってるじぇ?」
 更に四時間。
 前線を押し上げる形で、自分達が持つあらゆる方法で、次々と真っ白けアヤカシを退治していた一行は、最後の最後で崖部分に固まっていた群れに雪崩れてこられるという出来事に遭遇していた。
 これに潰されては、流石に窒息か怪我の一つも免れないと、揃って用意していたアイアンウォールの陰に隠れて、滅多に出会えないアヤカシ雪崩をやり過ごした一行は、その奔流にアヤカシ達が対処できなくてじたばた、もぞもぞしているのを目撃した。
「よしっ」
 雪崩の時には大変な速度だったが、結局は真っ白けの毛玉である。勢いが減じれば、転がっているだけの様子を目にして、また直接攻撃だとばかりに飛び出したのは何人いたことか。
「こらーっ、私の足を蹴飛ばしたのは誰だー!」
 脚絆が白い兎の毛で出来ていたばかりに、アヤカシと間違われたらしいリエットが叫んだが、もちろん実行者はアヤカシ退治に夢中。
「ぶつけるなら、アヤカシに」
 友人静乃のもっともな助言に従って、リエットも走って行き‥‥壁の後ろから支援するのは静乃だけになった。
 その視線の先では、緋乃宮とフェンリエッタがまとめて何体もを薙ぎ払い、それを逃れた少数を蜜鈴や真夢紀、沙羅が早足で動き回って潰している。
 もちろん静乃も、リエットの後を追いかけて、皆の仲間に入ったのだった。