かつらく なう
マスター名:龍河流
シナリオ形態: イベント
相棒
難易度: 易しい
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2012/12/10 03:21



■オープニング本文

 ジルベリアの冬は早いのです。
 とうにあちこちで雪が降り、根雪になるのも時間の問題でありました。
 でも、たまにちょっと暖かくなるこの時期、寒暖の差で道がつるつるに凍りつくのもよくあること。じっとり重い雪が降った後、朝の寒さがきっつい日には要注意!

『わー、つるつる〜』
『歩くのは大変だよ』
『こら、押すなー』

 そんなつるつる道を、賑やかに通っているのは相棒の皆さんです。
 開拓者さん達はいませんが、どうしたのでしょう?
 依頼のついでで、どこかにお出掛けなのかもしれません。
 ま、ちょっとくらい姿が見えなくても気にしません。後で美味しいものを食べさせてくれれば。
 そう、ちゃんとお世話してくれれば、嫌いになったりしませんとも。

『なんかもー、滑って降りたほうが楽じゃない?』
『ぎゃー、転げ落ちるー』
『ひゃーほー』

 つるつる道の片側は土手になっています。
 つるつる道は坂道です。
 つるつる道の反対側は転げ落ちそうな崖っぽい土手でした。

 そう!
 崖っぽい、転げ落ちたら大変そうな土手!!

『いーやー』
『おーちーるー』
『たーすーけーてー』

 あー、やっぱり落ちちゃった‥‥


■参加者一覧
/ 羅喉丸(ia0347) / 礼野 真夢紀(ia1144) / 海月弥生(ia5351) / 明王院 千覚(ib0351) / 无(ib1198) / ロゼオ・シンフォニー(ib4067) / 緋乃宮 白月(ib9855) / 楊・白虎(ic0133


■リプレイ本文

●只今○○中!?
 ごろごろごろ‥‥

『ねぇ、皆。このお花、ご主人様達へのお土産にしようよ〜』
「ぽーちーさーんー、なーにーいーってーるーのー」
「そ〜れ〜は〜、私の羽で〜す〜。しーがーみーつーかーなーいーでー」

 ごろごろごろごろ‥‥‥

『ふん、わしの鱗なら、この程度の岩も雪だるまも痛くも痒くもないぞ』
「おらぁ、雪だるまだーねー」
「あ〜、段々転がるのが楽しくなってきたも‥‥ふえぇぇぇっぷっ」
「こ、こういう時は、落ち着いて体を開くと飛べるって‥‥‥きゅきゃーっ!」

 ごろごろごろごろごろごろごろごろごろ‥‥

 その頃の明王院 千覚(ib0351)さんと、礼野 真夢紀(ia1144)さんと、緋乃宮 白月(ib9855)さんと、羅喉丸(ia0347)さんと、海月弥生(ia5351)さんと、ロゼオ・シンフォニー(ib4067)さんと、无(ib1198)さんは、どこかでお仕事中でした。
 多分、きっと、そうじゃないかな?

 とりあえず、自分の相棒さん達が転がっているとは知らないのですよ。
 しがみ付いたりつかれたり、この世のものではないお花を見たり、雪だるまになったり潰されたり、転がったりぶつかったりして、目を回している真っ最中だなんて、思うはずもないのです。
 あぁっ、誰かが潰されちゃったかもしれないっ?!

●そもそもどうしてこうなった?
 土偶ゴーレムの『縁』さんは、こう語ります。
「はるばるご主人と一緒にジルベリアまで来たんだがや、色々弾みではぐれたんだけども」
 『縁』さんは、お話好きの性格らしいです。一緒に歩いていたり、掴まっていたり、乗っていたりするお仲間さんをぐるぐる見回しながら、あれこれお話しているのです。
 でも、ご主人さん達とははぐれたんじゃなくて、単純に別行動じゃなかったっけーと思っている相棒さんもいるのですが、まあいいや。理由は気にするところではありません。
 それよりは、
「ころんだら、いやよー? つめたいの、きらーい」
 そう、猫又の小雪ちゃんが甲龍の頑鉄さんの背中の上で、みいみゃあ主張しているように、転びたくはありません。だって雪だし、凍ってるし、だから冷たいし、坂道だし、転んじゃったら痛いだけではないのです。
『ふふん、このくらいの坂道は用心しておれば問題ない。心配せずともよいぞ』
「お、自信たっぷりじゃのう。頼りにさせてもらおうか」
「ここ、風が吹くと飛ばされそうなので、助かります」
 頑鉄さんは余裕いっぱいで、のしのし歩いています。その背中には、小雪ちゃんのほかにも羽妖精の姫翠ちゃんと管狐のナイさんも乗っかっていました。小さくて軽いから、このくらいは乗っかっていても、頑鉄さんにはちっとも苦労じゃありません。
 多分、足元や横を行ったり来たりされるほうが、良く見えなくて大変です。
 あと、こういうのも‥‥
「は〜、うらやましいもふ。もふも乗せてってほしいもふよ〜」
『そんなに近くを歩いたら、危ないよ』
 もふらさまのアークスくんは、皆さんの前になったり後ろになったりしながら歩いています。時々踊っているようにも見えます。忍犬のぽちさんが、気を付けなさいよと注意しているようですが、アークスくんには聞こえない時もあるみたい?
 こんな風に、相棒さん達は開拓者の皆さんとは別に、冬の坂道をてくてくしておりました。中にはてくてくしていない相棒さんもいますが、ここまでは坂道をちゃんと下っていたのです。
 ええ、ここまでは。

●じゃあ、何が悪かったの?
 最初のうちは、相棒さん達の坂道下りは、とっても順調でした。
 小雪ちゃんが頑鉄さんの背中から転がり落ちそうになったとか、ぽちさんが突然止まったアークスくんにぶつかってしまったとか、その弾みでアークスくんが『縁』さんの足を踏んじゃって、
「ぴんぎゃらごーっ!!!」
 良く分からない悲鳴が響いたとか、これにびっくりした姫翠ちゃんがナイさんの耳を掴んじゃったとか、それでナイさんが頑鉄さんの背中に爪を立てたけど頑鉄さんは痛くも痒くもなかった‥‥くらいの事は、ありました。
 ちょっと大変だったのは、道が細くなって頑鉄さんが通りにくかったとか、足元がつるつるで『縁』さんとアークスくんが歩くのに時間が掛かったとか、ぽちさんがささくれた氷を踏んで足の裏を怪我していないか皆さんで心配したりすること、でした。
 いっそのこと、頑鉄さんが他の皆さんを乗っけて、何回か下まで往復したら早かったんじゃないのってことはあるかも知れません。が、誰もそんなことは言わなかったので、地道に歩いて降りておりました。
 そう、歩いて降りるのが重要なのです。とりあえず、今回だけは。
『む、この先は大分凍っているようだな。用心せねば』
「あらま〜、つるつるだがね。おめぇさんらも、すべらねえ様に気をつけるだがや」
 相棒さん達の前に現れたのは、つるつる坂道でした。氷がピカピカ輝きそうな、そんなつるつる道です。頑鉄さんが唸り、『縁』さんが朗らかに皆さんにお知らせし、
『おー、平らなところだったら、滑って楽しいのにね。坂道だなんて残念だなぁ』
「だいじょーぶもふ、もふはこんなところで滑らないもふ」
 ぽちさんは尻尾を振りふり、道を前足でとんとんして滑り具合を確かめています。アークスくんは気にせず、とことこ歩き出しました。
「‥‥注意していくのだぞ」
「ちょっと先に行って、様子を見て来ましょうか?」
 頑鉄さんの背中の上からは、ナイさんと姫翠ちゃんがちょっと心配そうに下を覗いています。高いところから覗いても、ぴかぴかの凍りっぷり。これはちょっと心配にもなるというものですよ。
「ちゃんとつめをだしていけば、だいじょうぶよ〜」
 小雪ちゃんは猫又さんらしいことをいっていますが、ご本人は新品の靴を履いていたりするのです。だから頑鉄さんの背中から降りられません。皆さんの応援です。
 結局、姫翠ちゃんも背中の上で、歩いている皆さんがてくてく、とことこと凍った道を歩き始めました。つるつるしているけど、ちゃんと用心しています。ええ、用心していますとも。
 でも、だけど、世の中には用心しても、どんなに気を付けても、どうにもならないことがあるのです。

 つるっ!

 最初に足を滑らせたのは、誰だったでしょう?
 いいえ、もうそんなことを気にしても仕方がありません。そう、それが分かったって仕方がないのです。
 だって、足元の道が崩れて、皆さんは揃って崖っぽい土手を転がり落ち始めたのですから!!!!!

 どうして?
 それが、世の理ってものだからですよ。

●転がる、転がれば、転がれ?
 崖っぽい土手には、雪が割といっぱいありました。しゃくしゃくしていて、半分くらいは凍っている感じです。全部じゃないから、手とか足とか、頭とか胴体とか尻尾とかそれ以外のところとかってどこだか分からないけど、とにかく何かを突っ込むと、べしょってなります。
 べしょっ、です。凍ってないどころか、雪よりお水に近かったところが、よりいっそうお水になるのです。
 そりゃーーーーーーー、もう!!!!

『「つーめーたーいー」』

 いえまあ、もしかしたら、土偶ゴーレムの『縁』さんは全然平気かもしれません。別に冷たかろうが、お水でふやけることもないでしょう。気持ち的には寒いかも知れませんけれど。
 体が大きくて、鱗が丈夫な頑鉄さんも、結構平気かもしれません。ちょっと濡れたくらいで悲鳴をあげるなんて、甲龍さんらしくありませんしね。
 羽妖精の姫翠ちゃんも、飛んで逃げれば濡れないはずです。もちろん、うっかり落ちたらそれは冷たくて寒いことでしょう。でも落ちたら、濡れるより先に潰されるかもしれません。誰に? 誰かに。
 もふらさまのアークスくんは、冷たかったら素直に叫んで訴えそうです。だって冬に雪が混じったお水ですよ、冷たいに決まっています。我慢する理由もありません。
 忍犬さんのぽちさんも、もちろん冷たいのはきっと好きではないでしょう。でも悲鳴はあげないかも? だって、忍犬さんだから我慢強いのです、多分。
 管狐のナイさんも、すぱっと人魂にでもなれば、濡れる事なんてありません。でも、ナイさんだけだと全然無理なんです、無理すぎます。ついでに、やっぱり潰されそうです。
 猫又の小雪ちゃんは、身軽にどこかに逃げていそうです。もちろん普段ならそのくらいささっと出来ますけれど、今日は靴下とお靴があるのです。爪が出せません。飛びあがれません。
 だから、かなりの相棒さんが悲鳴をあげたかもしれません。もうどれが誰の声だか、分かりませんけれどね。なにしろ皆さん、転がり落ちている真っ最中なのです。

 ごろごろごろごろごろごろごろごろごろ‥‥

「『ぐえっ』」

 あ、誰かの変な悲鳴がしましたよ。

 まだまだ崖っぽい土手は続きます。というか、もう崖です。他に言いようがない角度ですよ!
 誰かに聞いた方法で、うまく滑空できるはずが失敗したナイさんが、ずりずり雪と土が混じったところを滑り落ちて行きます。そのうちに、あんまり冷たいのが嫌になったのでしょう。
「きーっ!!」
 一声鳴いて、くるんと丸くなりました。なんかもう、管狐さんだかただの狐さんだか、別の生き物だか分かりません。一応人語を話せるはずですが‥‥そういう気分ではなくなってしまったのでしょう。
『そうもふかっ、丸くなったらいいもふね!』
 くるんと丸くなったナイさんを見て、四本足を踏ん張っていたアークスくんが真似をし始めました。もふらさまが丸くなるのは結構難しいのですけれども、ナイさんがやるならきっといいことがあると思ったらしいです。
 ええ、もちろん、転がる速さがさっきまでの倍よりもっとすごい事になりました。だって、四角っぽいものよりは丸っぽいものの方が、良く転がるに決まっているのです。
「「あ〜〜〜〜れ〜〜〜〜〜〜」」
 なんだか、二人(?)分の悲鳴が響きましたよ。
 そして、すごい勢いで下のほうに向かっていきました。その割に、転がっていく塊が一つなのは、どういうことでしょう? ナイさん、アークスくんにうまく掴まっているのかな?

 ごろごろ、どかん、ごろごろごろ、ずずんっ

 そんな素早く転がっていく塊に続いて、これまた大きなものが二つ、転がっています。
 とっても大きいのが頑鉄さん、それよりちょっと小さいのは『縁』さんです。この二人、時々激突していますけれど‥‥大丈夫なのかしら?
『むうっ、岩でも砕くのは難しくはないが‥‥仲間を巻き込むわけには行かぬ。しかし、踏ん張る場所がないのはどうにも困ったな』
「うおー、冷たいだがやー。ひゃー、また岩があるだがねーっ!」

 ごろごろごろごろ、すぽーん!!!
 ひゅーん、どっかん!!!!!!

 ずりずり滑り落ちながら、他の相棒さん達を踏まないように気をつけていた頑鉄さんは、もちろん上のほうなんて見ていませんでした。だって、そこから何かが来る筈はないからです。
 注意するのは、下のほう。他の転がっている相棒さんを踏んじゃったら、ごめんなさいでは済みませんからね。
 ところが、横のほうを威勢良く転がっていた、しかも楽しそうに色々叫んでいた様な気がする『縁』さんが、どういうわけか上から降ってきたのです! なんで? どうして?
 しかも、雪だるまに偽装しているってどういうこと?!
 『縁』さんにしたら、自分以外の誰かが滑ったのに巻き込まれて、転がる途中で雪だるまみたいになってしまったのです。そう信じていますとも、自分が最初に転げたはずはないって。他の皆さんも、実はそう思っていますけれども。
 ともかく雪だるまです。そんな姿になってしまったら、うまく動けません。もちろん、目の前に現われたいわをよけるなんて、とてもとても。その岩が上の方に向いていて、空を飛ぶ羽目になったのは‥‥ちょっと気持ちよかったかも?
 ええまあ、頑鉄さんとぶつからないで、柔らかいところに着地できればのお話でしたけれどもね。

 ずりずりずーりずり、ぐるんぐるんぐるんっ
 じたばた、どたばた、じたばたじたばた、ずーるずる

 重量級な相棒さん達とは別に、果敢に崖に挑戦している方々もいました。
 いえね、姫翠ちゃんはとっとと飛んでしまえば良かったのです。だって羽妖精さんは、飛べるのですから、何も皆さんと一緒に雪塗れで転げていかなくてもいい、はず。
 だけど、世の中の不条理という奴は、姫翠ちゃんを見逃してはくれませんでした。くるくる転げているうちに、目が回ってしまったぽちさんが、姫翠ちゃんの羽をお花と見間違えて‥‥ぱくんっと。
 落ち着いたら、色々と大変な事になりそうですが、ぱくんとくわえてしまったからです。
『あれぇ、これお花じゃないみたい? うわー、止まらないよぉ』
「きゃー、今度は紐が足に引っかかってますー。なんでー」
「とまらない、とまらないよぅ。なにをしてもとまらないって、どうしてーーーっ!」
 相変わらず目が回っているぽちさんは、日頃の頼りがいがどこかに行ってしまって、しっちゃかめっちゃかになりつつ崖をごろごろと。忍犬さんなので、あんまり寒くなさそうなところだけは羨ましいですね。
 しかし、一緒に転がっている姫翠ちゃんと、その姫翠ちゃんの横で爪も技能もちっとも役に立たないで大慌ての小雪ちゃんはがくがくぶるぶるです。しかも、小雪ちゃんの大事なお靴が脱げそうです。その紐が、姫翠ちゃんに絡んで、二人はぐるぐる巻きに‥‥って、その紐、長すぎやしませんか? もしかして、解けてきているかも?
 相棒さん達の中ではちょっと小さめのこの三人(?)、他の皆さんよりは遅めに、でも雪塗れっぷりはたいして変わりなく、ずりずりと崖を滑り落ちていきました。
「「『あれぇ』」」
 ぐるぐる回りすぎて、段々気持ち悪くなってきていましたけれど、滑り落ちる速さがちょっと遅くなってきました。
 それに、気持ちを落ち着けて耳を澄ませば、他の相棒さんの悲鳴が聞こえなくなっているみたい? これって、どういうことでしょう?
『皆、どこに行っちゃったのかな?』
「うわーん、おいていっちゃいやー。みんなー、どーこー」
「泣かないでー、どこかで止まったら、探してきてあげますからぁ」

 ずりずり、ずりずり、どしんっ

●川面は凍っている、らしいよ?
 ぽちさんと小雪ちゃんと姫翠ちゃんが、お団子になりながら崖を滑り落ちていって‥‥やがて、柔らかい雪の上に勢い良く落ち込みました。
 あれあれ、でも雪は積もっているけれど、その下は固いみたい。しかも、平らですよ!

『やれやれ、これで全員揃ったようだな。怪我はないか?』
「だいじょーぶけ?」
「‥‥‥‥‥‥」
「あー、びっくりしたもふよ」

 そう、平らなのです。もうこれで、落ちなくてもいい。まあ、素敵!

『はぁ、お花畑が見えちゃった』
「誰か、ほどいてください‥‥」
「あー、このしたってかわなのかな?」

 最後に下まで滑り落ちた三人(?)も、ほっとしました。
 平らなところに来たら、後は道を探して、開拓者さん達と合流すればいいのです。ここはもう、飛べる方達にぱぱっと探してもらいましょう。
 それで、暖かい所に着いたら、美味しいものが食べたいですよね。

 みしみし、みしみし、ぱりぱりぱりんっ

 ん? あれあれ?
 なんだか、足元で変な音がしているけれど、これってなに?
 うーん、氷が割れる音みたい?

「「「あーーーーれーーーーー」」」