現れたアヤカシ
マスター名:田中あお
シナリオ形態: ショート
無料
難易度: 普通
参加人数: 10人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2009/07/23 23:45



■オープニング本文

 丸い月が空に浮かんでいた。
 今日は満月。だが、雲が多く時折月の光が見える程度の晩だった。
 真下に広がる深い森――その場所に一軒の小屋があった。その家を外から見た者がいたとすれば、黒い影が覆うようにして集まってきているというだろう。
 小屋に夜の闇よりも黒い影が忍び寄っていた。

 そのおんぼろ小屋に男たちが五人集まり会話をしていた。夜を少しでも楽しいものにするために、彼らは集まっていた。
 部屋の中央にはろうそくが一本。薄暗く炎が揺れるたびに男たちの顔に影をおとし、微妙な炎のうつろぎがお互いの恐怖を増長させていた。
「次はお前の番だ」
 隣の男の前にろうそくを移動する。
 影が揺れ動き、額に汗が浮く顔を照らす。
「ふぅ‥‥これで3巡目か。そろそろ月も消える。村に戻らないか?」
 男は帰り道のことを心配していた。夜になればろうそくの光と月の光を頼りに森を抜けなければいけない。いくら一本道とはいえ、迷う心配がある。
「今更何をいうんだ。5巡目までは話さないとな」
 ろうそくの熱を真下から感じている男は溜息をつく。
 すると、プスプスと火が揺れ黒い煙が立った。
「気をつけろ。消えちまうだろう?」
「消えるかよ、まあいい。早く帰りたければさっさと話しをすればいいだけだ」
「わかったよ」
 男は静かに、暗く、陰湿的に話し始めた――。

 男たちは、肝試しをするためにこの小屋に集まっていた。
 本当に霊がいるとは思っていない。だが、平凡な毎日の中に少しでいい刺激を求めた。その刺激が怪談をし恐怖を覚えることになったのは、満月を覆い隠すほどの雲が空を覆い怪しくか細い光が流れる雲の隙間から見えたからなのかもしれない。

 男が話し始めると突然雷雨を伴った雨が降り始めた。これではすぐに外に出るわけにもいかない。男は話しを続けた。
「むかーしな、ここいらにアヤカシがいたことは知っているか?」
 光った――雷の音が響き、大地が揺れる。
「‥‥落ちたな」
 誰かが呟いた。
「森が燃えなければいいがな。この雨だ、大丈夫だろう」
「そうだな」
 男たちは賑やかな声を上げた。
「さ、続き、続き」
 皆が抱く不安を消すために、話しの続きを始める。それ以外の方法を男たちは思い浮かばなかった。
「そのアヤカシと戦った舞姫という巫女がいたらしくてな」
 男たちは食い入るように、話しの世界に入り込めるようにいつになく真剣に耳を傾けた。
「一本の木の根元で自分の命も尽きてしまった。それが悔しくて悔しくて、自らもアヤカシに落ちてしまい今もなおこの辺りを彷徨っているらしいぞ」
「まさか!」
 男たちは一笑にふす。まさかここでこの森の話をされるとは思ってもいなかった。
「いや、これが本当の話しらしくてな。夜な夜な森からかすれるようなうめき声が聞こえるらしいんだ」
 しーんと静まり返る。普段であれば笑って終わらすところだったが、雨が降り出したからだろうか。笑うに笑えない。
「‥‥帰ろう」
 重苦しく男たちは立ち上がり、あばら屋の扉を開ける。
 そこには大きな猪の形をした――はっきりと形が整っていない――存在がいた。
 それは笑うはずがないのに、男たちは猪が笑ったように見えた。猪が口を大きくあけ扉近くにいた男の体にかぶりつく。
「逃げ、ぎっぐぐぐぐ!!」
 すぐ後ろにいたもう一匹はのっそり部屋に入り込み、別の男にかぶりついた。
「うわあああああああ」
「ぎゃああああああああああ」
 男たちの悲鳴が上がり、鮮血が飛びちる。逃げようとする男もいたが、逃げきれない。突進され体の骨が砕ける音がする。動けない、そこに現れたモノは頭から食べた――。

 昼になっても戻ってこないと心配になった村人は探した。
 ほどなくして、男たちの無残な死体を見つけられた。
 村人はアヤカシが近くにいることを知り、開拓者ギルドへと依頼をした。


■参加者一覧
北條 黯羽(ia0072
25歳・女・陰
湊(ia0320
16歳・男・志
柚乃(ia0638
17歳・女・巫
葛切 カズラ(ia0725
26歳・女・陰
天寿院 源三(ia0866
17歳・女・志
小路・ラビイーダ(ia1013
15歳・女・志
桐(ia1102
14歳・男・巫
雷華 愛弓(ia1901
20歳・女・巫
久坂 宗助(ia1978
17歳・男・志
凛々子(ia3299
21歳・女・サ


■リプレイ本文

●村にて

 さびれた村だ。家々の扉は固く閉ざされていた。
 凛々子(ia3299)と天寿院 源三(ia0866)は村長を目指し、久坂 宗助(ia1978)と小路・ラビイーダ(ia1013)、桐(ia1102)は協力してくれる村人を探すことにした。

 村で一番立派な家の扉を凛々子が叩く。
「こちらは村長のお宅だろうか?」
 反応がない。天寿院も凛々子を見習い同じように扉を叩き自分たちの身分を明かす。
「この村に派遣された開拓者、拙者は天寿院と申します! どうか我々の話を聞いてください」
 かた、と中で動く音がした。それから扉が開き、中へ入るように促された。
「村長殿、私達はアヤカシを無事退治してみせようぞ」
 凛々子は強く言い切った。そして、天寿院がその後を受け継ぎ村長に頼みこむ。
「物は相談なのですが‥‥、村人の御協力を頂く訳にはいきませんでしょうか?」
「危険なことをさせるわけには‥‥」
「私達の腕は確かです」
 凛々子は迷いのない眼で村長を見つめた。
「危険な目にはあわせません」
 天寿院もまた言い切り、村長は無理強いをしなければという約束のもと許可を出した。

「私でもコレぐらいの力があるんですよ? 問題ないですよね?」
 疑う言葉をかけた村人に対し桐は爽やかな笑顔を浮かべ、開拓者の能力を使用する。だが、村人はひきつった笑みを浮かべ扉を閉めた。
「これで五軒目か。別に倒してくれーとは言ってないのに」
 ぶつぶつと文句を言う宗助。
「みんな、かぞく、だいじ。しかた、ない」
 ラビイーダの言葉に宗助は小さく笑った。
「実は私気になっていることがありまして‥‥」
 先ほどから一人の男がついて来ていた。それが気になっていた。桐は叫んだ。
「おびき寄せる為、協力が必要です。お願いできないでしょうか?」
 続いてラビイーダも叫んだ。
「おねがい! あやかし、村、くるまえに、たいじしたい」
「お、俺。怪談が嫌いなんだ。だから、あの日もアイツらに付き合わなくて」
 男は犠牲者の友人だったらしい。協力者を求めていると知り駆けつけたが、怪談となると足が竦んでしまっていたというわけだ。
「お願いできますよね?」
 きらきらと輝かせた瞳が四つ。
「おねがい、できる?」
 ラビイーダも桐を真似るようにして、きらきらと瞳を輝かせた。大の男であろうと、可憐な少女に頼まれれば否とは言えない。宗助は気がつかれないように男の背後に回り、彼が逃げられないように腕を掴む。
「生贄捕獲完了、と」

●仕掛け

 小屋が村から少し離れた場所にあった。一面の壁が壊れ部屋の中には血痕、血肉が飛び散ったまま惨状を色濃く残されていた。
「この小屋におびき寄せるのがいいと思いますが、村人は座っていられますかね」
 湊(ia0320)は清々しい表情で柚乃(ia0638)に語りかけた。
「辛いとは思いますが、アヤカシを誘い出すには好都合かと思います。けれど、今の状態では失神されるかもしれませんね」
「では、少し部屋の中を変えてしまいませんか?」
 湊の提案はこうだ。
 壁に隙間を作り、風が鳴るように仕掛ける。また、水が一滴、二滴と滴り落ちてくる仕掛け。
「怪談が盛り上がると言うものです」
「僕個人としてもう一つ仕掛けが欲しいのですが、まあ今はいいでしょう」
 二人は早速とりかかり、皆が来る前になんとか仕掛けを完成させた。

●森にて

 小屋の周辺、今夜戦闘が行われる場所を北條 黯羽(ia0072)、葛切 カズラ(ia0725)、雷華 愛弓(ia1901)は歩いていた。
「すごい木ですねー! どこにでも隠れることができそうです」
「そうね。私はあの茂み辺りで見張りをしようかしら」
 愛弓とカズラは見張る場所を概ね決定し、視界の邪魔になりそうな木々の枝を取る作業を簡単に行った。
 少し離れた場所で黯羽は小屋周辺の戦闘に邪魔になりそうな、木を倒す。
「木だらけで自由に戦闘できずに、負けました。なんて言い訳しないようにしておかないとな」
 黯羽は周辺の様子をくまなく探りをいれた。

●夜〜怪談

 夜も更けた頃、黯羽は語り始めた。
「とある村長の娘と貧しい男の愛から生まれた悲劇だ」
 桐が目を細め淡々と呟く。
「聞いたことがあります。愛が野心に変わったとか‥‥」
「そうだ。娘を愛していた男は、溺れ女を囲うようになった」
 女は嫉妬に狂い、毎夜行われる宴会と称した浮気の場にて毒殺を図り、成功したとみるや家の池に飛び込み死んだ。
 村人は乾いた笑い声をあげている。
「だが、男は生きていた。女は黄泉の国から現世に戻り髑髏となり、夜な夜な男の枕元でカチカチと歯を噛み合わせたそうだ」
「なぜ、怨念となり呪わない?」
 凛々子が黯羽に疑問をぶつける。
「喉を食いつぶしたかったと言う話です。血肉をはぎ取り、何も残すまいとしたとか」
 桐が答え、黯羽が村人に向い笑いかける。
「あんたにも気をつけろ。女の業は深く醜く捻れている」
 かた‥‥かたかた。扉が揺れる音が男の息を止めた。
「ひ‥‥に、逃げないと‥‥」
 村人は真っ青な顔をした状態で、音がした方へ顔を向ける。が、そこで凛々子が松明を下から自身の顔を照らし首を傾げながら現れた。
「ひぃ!!!」
 村人の様子ににやりと笑みを浮かべる。
「こちらを見てください」
 桐の優しげな声に安堵したのだろうか、躊躇いなしに前を向く――と、髑髏が男の目の前に突き出されていた。
「ぎぃやあああ!!!」
 パタリと倒れる村人。
「今ので村人は失神した」
 凛々子は村人の体を壁に寄り掛け、隣に立つ。
「もう、いいだろ‥‥」
 壁にぴたりとくっついた状態の宗助が悲鳴混じりに訴える。
 柚乃は首を振り、話しを切り出す。
「うーん、こんな話はどうです? 何年もの間、古井戸の蓋は閉じられたものがありました。偶然立ち寄った旅人が、夜中水を汲もうと蓋を外したら、髪の長い女がニタリと笑っていたそうです」
「見間違えだ‥‥」
 宗助は柚乃から離れながら、小屋の入口へ向う。
「井戸は深いものですよ?」
 湊は肩をつかみ、宗助の動きを止める。
「そうですよ。旅人は行方不明‥‥井戸の蓋も閉じられていたとか。それでも、夜になるとカリカリ‥‥という引っ掻く音がするそうですよ?」
 慌てる宗助の肩にぽたり、と何かが落ちてきた。
「な、なんだ‥‥何かが‥‥」
 ぽたっ、と頭上から何かが落ちてくる。それは宗助の頭に落ち、ひんやりと冷たい。
「ちちち、血!!!」
 宗助は湊の腕を振り切り、扉へと向かう。
「い、今のは私のおちゃめです! 水にぬらしたお手玉ですよ?」
 柚乃は止めに入るが、宗助は聞く耳を持たず入口へと走っていく。
「あ、上からこんなものが」
「え?」
 湊の言葉に一同が上を見上げる。入口周辺に木の枝が雨のように落ちてきた。
「なななな! 何が起きた!」
 宗助は歩みをとめ、入口から逃げるように仲間の元へと戻ってくる。
「すみません。獲物もとい恐怖を抱かせる対象が逃げないように作ったんです。紐を間違えて引っ張ってしまったようです」
「くくっ。宗助の負けだな」
 黯羽は半ばあきれたように呟いた。だが、すぐに外に目をやり、静かにするように皆に呼び掛けた。
 外で火が灯った。

●夜〜待機 見張り

 小屋は盛り上がりを見せているようだった。
「ぶるぶる、する。なか、すごい」
 握っている石をカチカチとならしながら、中の様子が気になるようだ。
「ふふ、そうですねー。‥‥ねえ、ラビイーダさん」
 愛弓は身を乗り出し、小屋の奥に浮かぶ闇を指さした。
「あの場所。人が‥‥立っているように見えませんか?」
「みえ、ない。みえない!」
「あちらの茂みの中にも。ねえ、こんな話聞いたことあります?」
「わ、わ‥‥、おはなし、いらない。しなくて、いいの。いらないの。めえぇ‥‥」
 ラビイーダが持つ石がカチカチと震えているのかなり始めた。
「ほら、見張りも怖がっていればアヤカシが一層気が付くと思いまして」
「うう、こわい。こわい‥‥」
 ラビイーダは一度深呼吸をする。落ち着いたのか、目を伏せ心眼を使用した。

「昔のことなんだけど」
 そう前置きし、カズラは語り始めようとした。
「‥‥あ、あの拙者達は見張り班です! 怪談は必要ないと思いますが‥‥」
「退屈しのぎよ。アヤカシが現れるまでよ?」
 カズラがにっこりと笑うと、それ以上は何も言えない。
「それでね、昔アヤカシと対峙したとき触手に襲われてしまったの」
 一旦ここで話をきり、周辺を見渡す。まだ何の異常も感じられない。
「ど、どうなったのですか」
「それでね、突然触手の様な式を操る全裸の天狗面男に助けられたの」
「ぜっ、全裸!! な、なぜそのような格好で」
「分らないわ。本人に聞いてちょうだい。場所を教えるからね?」
 ほほ笑みながら申し出るが、天寿院は首を振り断った。
「あら、そう? いい体験なのに残念だわ」
 カズラはくるり、と煙管を回転させようとしたがひたっ、と森奥を示すように動作を止めた。天寿院もその様子に気がついたのか緊張を走らせた。

●戦闘

 突然、小屋周辺の空気が変わった。心眼を使用していたラビイーダはその変化が手に取るように分かっただろう。
「いる」
 愛弓はその一言を聞き、松明に火を灯す。
 その呟きを聞いたわけではなかったが、カズラと天寿院もまた火を灯した。

●護衛

 松明の火が灯った――瞬時に緊迫した空気が流れ、桐は松明に火を灯し凛々子は扉から外の状況を確認する。
「ん‥‥な、何が」
 村人が目覚めてしまった。桐は膝を落とし視線を合わせる。
「大丈夫です、今はお静かに」
 凛々子は自分の松明の一本を村人に渡す。
「光があれば心やすらぐだろう。――行くぞ」
 猪は仲間が相手をしている。その隙に小屋から出て村へと向かう。
「ひぃ‥‥」
 村人は悲鳴を上げる。それも仕方ないが、アヤカシが好む感情を抱いて欲しくはない。
「大丈夫。しっかり守るから、今は前を見て歩いてくれ」
 励まし移動させようとするが、膝が震えて歩けないのか、小屋の前で立ち尽くしている。仕方ないと、二人が肩を貸そうと村人に顔を向けた。
「ちっ。悪いが松明と村人を頼む」
「分かりました。さ、頑張りましょう」
 アヤカシが突進してくる――凛々子は右に飛び、後方へと下がり咆哮を上げる。アヤカシは突進方向を転換させ、凛々子目がけて進む。が、そこで桐が力の歪みを使用しアヤカシの動きを止める。
 その一瞬で十分だった。他の仲間がアヤカシを引き受け、二人は無事に森をぬけ出すことに成功する。
 村に着くと男は女性二人に担がれていたのが、恥ずかしくなったのか謝ってくる。が、二人は気にすることはないと励まし、感謝の意を伝える。
「ご協力感謝する。ゆっくり休んでください」
「夜が明ければ、もう怖いものは何もありません」
 二人は、小屋へと向かう。

●戦闘

 外に光が灯ったのを皮切りに各々持ち場へと散っていく。

 アヤカシは二体。それらが一直線にカズラと天寿院めがけ突進した。カズラはすぐに呪縛符を放ち、一体を捉える。もう一体はといえば天寿院が囮となり、もう一方の班に引き渡せるように、誘導する。途中何度もアヤカシの攻撃があたりそうになるが、受け流しとフェイントを巧みに使用した。
 その間に柚乃と宗助が中から出てくる。宗助は松明に火を灯し大地に突き刺す。柚乃も宗助と同じことをする。明かりが小屋周辺を照らし、アヤカシの動きが見てとれる。
 天寿院を追うアヤカシに対し、柚乃は矢を放ち気を引き付ける。アヤカシは突っ込みながら進んでくる。柚乃はカズラが捕縛しているアヤカシへと向かう。突進するアヤカシはそのまま別班が引き受ける形になった。
「必ずここでアヤカシを倒してみせます」
 柚乃は技、神楽舞・攻を使用し攻撃能力を上げる。
 駆け付けた天寿院もまた大地に松明を突き刺し、戦闘場所を照らす。そこには体を蔓で捩り上げられているアヤカシがいた。
「無念、晴らさせていただきます」
 そういい、天寿院はアヤカシの体に斬りつける。刀傷の痕が線となり刻まれていく。
「自分もやる。幽霊に殺されるのならいいけど、アヤカシは勘弁だからな」
 宗助も横から斬りつけ、攻撃を繰り返す。
「獣には獣の良さがあるわよね? 良い感じに縛ってあげるから啼くなら可愛く鳴きなさい!」
 カズラは吸心符を使用し、軟体動物の足のような技でアヤカシの体を包み体力を奪う。
 アヤカシの動きが弱る。
 宗助はアヤカシの体に全体重をかけるようにして斬りつける。アヤカシの体に深く突き刺さった刀。すぐには動けるはずもない。そこでアヤカシが突進しようと足に力を込めるが、柚乃が足に矢を射る。物理的に動きを一瞬封じられたアヤカシに、もう一度呪縛符を使用する。そして、頭を叩き割るように天寿院が刀を振るった。

 黯羽、湊はラビイーダと愛弓がいるすぐ近くへと寄る。
 ラビイーダは深入りすることなく、左右に翻弄しその隙を狙い愛弓が矢を射る。そのようにしてアヤカシを引き離していた。
 愛弓は巫女の技神楽舞・攻を発動させ、前衛での攻撃を得意とするラビイーダと湊の士気を高める。
 前衛二人は互いの邪魔にならないよう、連携し攻撃をしかける。
 アヤカシもまた黙って攻撃を受ける気はない。己の体が傷つくことをためらわず、ラビイーダめがけ突進する。そこに風を切る音が響く。
「後衛は任せてください」
 愛弓が放った矢はアヤカシの鼻に突き刺さる。
 アヤカシの動きが止まった。傷を負ったのか――そう思い各々攻撃を仕掛けるがアヤカシは違うものを見ていた。それは怯えた村人。
 突進するために前足に力が入る。そのまま大地を蹴りアヤカシは前に進む。まさか攻撃されているのに村人を襲うとも思っていなかった開拓者達は出遅れた。すぐに後を追うが瞬発力でかなうはずもない。
 が、凛々子の咆哮と桐の力の歪みでアヤカシの動きが止まる。
 黯羽はその隙を逃さず呪縛符を放つ。愛弓も矢を立て続けに足を狙い射る。
「ちっとばかし体力が余っているみたいだな」
 吸心符を使用し体力を奪い、更に動きを封じるために呪縛符をかける。動きを封じられたアヤカシは咆哮を上げる。
「さあ、僕を楽しませてください。あなたの最後の音色聞いてあげますよ」
 湊は炎魂縛武を発動させ、アヤカシの体に斬りつける。
 アヤカシは唸り声をあげながら攻撃をしかけようとする。だが愚鈍な動きだ。ラビイーダは地面を蹴り、怒り任せのアヤカシの懐に入り込み下から上へと斬りあげる。
「‥‥さようなら」
 アヤカシはそれで動きを止めた。

 小屋には倒れたアヤカシと折れた松明が転がっていた。それでもアヤカシの体はいつか消え失せ、松明は自然へと戻るだろう。
 凛々子はまっさらな松明を小屋に投げいれ燃やす。その炎を見て各々は今回の討伐で思うことを浮かべた。