黒き爪痕
マスター名：蛸壺帝
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| ■オープニング本文 ● 穏やかな日差しが降り注ぐ村。 人々が農作業に勤しむ傍らで、子供達が駆け回る。 平凡で、幸せな日常の空間があった。 その平穏な光景に、黒い影が飛来した。 「オラオラオラ！」 「ははは、どかねえと怪我するぜェ！」 「農作業なんてだっせぇなぁオイ！」 「ギャハハハハ！」 突如現れた黒い影、龍に乗った男達は好き勝手に騒ぎ、人々を追い立てる。 慌てた村の人々は悲鳴をあげながら家に逃げ込むが、すれすれの所を飛んでいる龍の羽ばたきで家が揺れ、その度に身を縮こめていた。 外の声が聞こえなくなった頃、村人達が恐る恐る外へでてみると、酷い光景が広がっていた。 ●ギルドにて 「それで‥‥どうなったんでしょうか」 「ええ、村中の壁という壁に、『超暴走最強最悪最速龍軍団☆参上』などと墨でラクガキされていまして‥‥」 他の被害としては物損もなく、転んだ子供が擦り傷を追った程度らしい。 墨は落ちにくいのに‥‥と、悔しそうに唇を噛む被害者の村人。 それに対し、予想よりも軽い被害にほっとしつつも、犯人の男達に対して哀れみの感情を抱きながら、落書きの犯人をこらしめるという依頼を受理するギルド員なのであった。 |
■参加者一覧
川那辺 由愛（ia0068）24歳・女・陰 
胡蝶（ia1199）19歳・女・陰 
シエラ・ダグラス（ia4429）20歳・女・砂 
からす（ia6525）13歳・女・弓 
只木 岑（ia6834）19歳・男・弓 
ルエラ・ファールバルト（ia9645）20歳・女・志 
无（ib1198）18歳・男・陰 
神鳥 隼人（ib3024）34歳・男・砲 |
| ■リプレイ本文 ！？ 奇妙な配色の巻き布が付けられた龍。残念ながら事前情報通り、誠にセンスの無い配色である。 龍の操者と思われる男達は‥‥全身真っ白な袴や、変な丈で切り詰めたれた大紋。おまけにやたら髪形が立体的だ。 そして廃屋の壁には黒き爪痕‥‥『超暴走最強最悪最速龍軍団☆参上』と殴り書き。 「ちょう〜ほし団参上。と読めばいいのだろうか」 「超暴走、最強、最悪、最速、ねぇ。まぁホシは読まないんじゃ‥‥」 「そうなのかい？ ハハ、いやいやそれにしても随分と元気の良い若者達だ」 无（ib1198）、そして神鳥 隼人（ib3024）の声は少し距離を置いた物陰から。現地到着とほぼ同時に対象を発見した開拓者は、様子を見つつも身構える。あとはいつ、踏み込むか。 「『過信は我が身を滅ぼす』‥‥その元気も、方向性を違えているとあれば、感心は出来ないな」 「うむ、その通りだ。いやぁ、これではきみの方が連中よりも大人に見えるよ」 「少なくとも、連中よりは子供じゃない」 からす（ia6525）は口調穏やかに、その面（おもて）には感情らしい感情を浮かばせぬままに言う。 一方、シエラ・ダグラス（ia4429）や胡蝶（ia1199）は対照的。その情動を面に漂わせていた。 「‥‥理解不能です。こんな行為をして、何になるのでしょう。何より、龍がこんな事に用いられるなんて、可哀想に‥‥」 「馬鹿が馬鹿騒ぎをしているだけ‥‥とは言え、ここまで迷惑を振りまいているなら正直救い様は無いわね」 シエラは疑念と困惑、憤懣さえ浮かべそれを隠しきれない様子。胡蝶は最早完全に相手を見下している、見下されて当然の連中だから。 「ただ真面目に平穏に、そうやって日々暮らしていただけなのに‥‥それを乱すなんて、許せない」 心情を吐露するのは只木 岑（ia6834）。その声その表情には珍しく、怒りが淡く滲んでいる。無理も無い。事件の『被害者』の存在は二つ。一つは勿論被害にあった村人達、そしてもう一つは‥‥男達に使われている、駿龍。龍はただ、主人に対して忠実に従っているだけに過ぎない。 （とはいえ相手は一般人。どうするかな。本気で行けば大怪我は必至だし、できるだけ怪我をさせたくないし） 「では‥‥きっちりお灸をすえますか」 「じゃ、気張って行きましょ」 （まぁ程度は‥‥こわ〜いお姉さんお嬢さん方にお任せしてもいい、かな） ルエラ・ファールバルト（ia9645）の言葉に否定は無い。今更、悪漢達に同情を向ける必要も無い。かと言って過ぎた侮りに浸る事もなく、川那辺 由愛（ia0068）は連中達の方向へ歩いていく。 「なんだテメェは？」 お決まりの台詞に、返す由愛は辟易気味だった。 「わからないの？」 ！？ 「素行だけじゃなくて頭も悪いのね。愚か者がどんな痛い目を見るか、徹底的に教え込んであげるわ」 ピキ。連中から何か変な音が出た‥‥気がした。 「龍乗りをナメるんじゃねーゾ‥‥女ァ！」 「それはこっちの台詞です」 「な――」 男達が語尾を詰まらせるのも無理は無い。シエラ、そして彼女が乗る駿龍のパトリシアは瞬く間に男達との距離を詰め、その眼前で力強く羽ばたいている。 「どうしました？ 怖じ気ついて気力も失せたなら降参なさい。体罰は私の趣味じゃありません」 「上等だぜコラァ！」 男達は駿龍に騎乗して、舞台を空に移す。その数、六。 「じゃあ‥‥始めるわよ。舞いなさい、毒蛾っ」 ！？ 胡蝶の毒蟲とその効果に驚嘆する男達。陰陽術へのリアクションから判断するに、本当に彼らは一般人の様だ。 「何でもかんでも驚くのね、あなた達って」 「奇妙な術を使いやがる！ あの女から仕留めるぜ！」 派手な色の布をはためかせながら、直線的な動きで悪漢とその駿龍は突っ込んでくる。 「向こうの龍は勢いだけ‥‥ポチ！ 避けて回り込みなさい！」 ポチは大きく頭を振るとその直後、弧を描きながら両眼を天空へ向け急浮上。対象を失った悪漢と龍は、急制動を掛けようとするが勢いを殺しきれずに前のめりになる。バランスを崩しながら男は、顔に苛立ちの色を滲ませた。 その顔の鼻先を、一閃の矢が掠める。 「おっと其処で制止だ」 「！？」 「（本当に何にでも驚くな‥‥）お互い此処から落ちたくはないだろう？」 隼人の威嚇射撃に動きを制され、男は歯がゆさから更に苛立ちを濃くする。 「よし、動くなよ。大人しくしてくれると、嬉しいのだが。こちらも不幸な事に、騎乗射撃に心得は無い。次に弦を引けば今度は当ててしまうかもしれんぞ」 「‥‥るせぇ！」 「こらこら、動くんじゃあないっ」 「黙りやがれ！ 俺の――」 上空から、駿龍のキック。胡蝶が乗るポチのそれだ。直撃を食らった男とその龍は、錐揉み状態で地上へ落下していった。ポチは――あくまでも『気がする』レベルだが――申し訳なさそうな顔をしていて、一方胡蝶は特に悪びれている様子は無い。むしろ「何よ、文句あるの？」と目が語っている‥‥様な気がする。 「‥‥まぁ、そう言う依頼だからいいか」 隼人は気を取り直して、別の敵へ視線を向けた。 そして地表で響く、大きな音。 「うわっ、危ない」 悪漢が落下してきた位置にいた由愛は、反射的に身を翻してそれを避ける。危ないところだった。 「空を飛んでても迷惑、墜ちてきても迷惑。本当、どうにかしてほしいわ」 ピキピキッ！ 本当に、何の音なのか。 「一人でズイブン余裕じゃねーかよ、てめーの様なガキがよ！？」 「‥‥ガキ？」 地上に残っている開拓者は由愛一人。男達はまるで砂糖菓子に群がる蟻の様に、まるで無秩序に彼女へ攻め入る。そう、自分達が禁句を言い放った事にさえ気付かずに。 「木偶が、野放図な台詞吐いている暇（いとま）があったら自身の命を心配なさい！」 由愛の式、御出でるは悲恋姫。 「ぐあああああ！ こ、この叫びは何だぁ！？」 「死して具現を成すその恨み、その身を以って知るが良いわ！」 「あ、あの女から離れろ！」 「鬼鴉、降下」 ！？ 「地上は、一人じゃあなかったのかよ！」 漆黒の髪を靡かせ、赤眼を光らせ――急角度降下で迫るのは、からす、そして彼女が操る鬼鴉。からすは、既に弓を番えていた。 「誰もそんな事は言っていないな」 勢い良く弦を弾く。地上に降り注ぐ矢、矢、矢。それらは男達には当たらず――否、当てていないのだ。この射撃の目的は殺傷では無く、敵の足止め及び撹乱。男達は、視野に収めていなかった場所からの攻撃に、当たらずとも千々に乱れる。 「そうね、誰もそんな事は言っていないわ」 由愛は既にジライヤの神薙を召喚し終えていた。ぶつを浮かべる土色の皮膚に、立ち上がれば十尺は有ろうかと言う巨躯。おどろおどろしい面容に、幾人かの男は戦わずして遁走を図る。 「毎度お馴染みで慣れっことは言え、こうも見た目だけで引かれると流石のあっしも傷付くっす」 「何を今更言っているのよ、あんたは」 しかし、そう易々と見逃す開拓者達では無い。 「仲間を見捨てて背を向けるとは情けない‥‥そう思わないか？ 鬼鴉」 鬼鴉は、そう呟く主の意図を感じ取ったか、男達の逃走方向へ赤眼を向ける。そして力感漲る大翼を広げたかと思えば次の瞬間、それを対象へはためかせ突風を巻き起こす。 「相手は一般人だ。加減をしなよ？」 「神薙っ、あんたもからすのトコの相棒を見習いなさい！ １人でも逃がしたらお仕置きよ！」 「相変わらず蝦蟇遣いが荒いっすよ、由愛様ぁ！」 地上戦は数の劣勢さえあるものの、統制が皆無の相手。由愛とからすが遅れを取る事はないだろう。 「あれ、一般人と開拓者の力ってそんなに違うんですか？」 「大丈夫ですよ、程度さえ心得ていれば」 （未熟な私じゃ加減できないンじゃ） 一般人と開拓者、その力量の開きを目の当たりにした无は、声色に吃驚を含める。ルエラにそう言われるも、経験を積んだ手練の彼女が言うような要領を、自分も出来るか‥‥无自身、自信は無い。そんな心配を浮かべている无を見た時、悪漢の一人は思った‥‥いや、錯覚したと述べた方が正しいか。 「おいコラ‥‥隙ありだぜコゾー！！」 相手は尻込みしている‥‥とでも思ったのだろうか。 「待っていたぜェ！！ この瞬間をよォ！！」 甚だしい勘違いではあるが農具らしき何かを片手にノリノリで、男は无へ驀進して来る。 （待てと言って待つ相手にも見えないが、斬撃符を直撃して怪我をしない相手にも見えない‥‥ん？） 相手の心配に思慮を巡らす无は、風天が大きく身体を捻らしたのに気が付いた。 （臨戦態勢‥‥やる気か風天？ そんな好戦的な性格、お前らしくないぞ！？） 无は手綱を引き風天を抑えようとする。 「風天、落ち着くんだ。相手は‥‥おわ！？」 翼をはためかせ、飛翔した風天‥‥その片目が瞑っていたのを見て、彼は安心した。なるほど、やる気はやる気でも‥‥いつもの調子で、无を驚かす為のやる気。全く、悪戯好きで仕様が無い。 「あぁ‥‥そういう事なら、付き合うさ。風天っ」 ！？ 駿馬の様な力強さで相手に近付いたかと思えば、絹衣を思わせる柔らかい動きでクルリと旋回。悪漢の周囲を取り付いたかと思えば、次の瞬間には離脱。男の視覚は、その動きに反応しきれていない。 「隙有りっていうのは、こういう時に言うんじゃあいかな？」 无の言葉が、果たして男の耳に届いていただろうか。慌ただしく目を動かす様を見るに‥‥まぁ、どちらでもいい事か。 斬撃符。 「‥‥すまない、後で治療はしっかりするから」 式が風の刃を成し、相手駿龍の翼を切り裂く。龍の、ひきつれた叫びに无は顔を曇らせる。 （趣味では有りませんが、聞きわけが無いなら致し方が無いですね） 胸中のみで呟きながら、シエラは手綱を強く握った。すると瞬間、彼女の駿龍、パトリシアは翼を大きく開いたかと思えばそれを勢い良く羽ばたかせ、勢いを直線の運動力に変換させる。 パトリシアとシエラは、風を切る。操者と龍との間の意思通達タイムラグ、加速力、それに耐えうる膂力と胆力、同じ直線運動でも先程の悪漢のそれとは質が違い過ぎる。男が姿勢を直す前にシエラは接近する。男は慌てて手に持つ粗末な鎌を構えようとする。 鈍い、鈍過ぎる。 既にシエラの剣閃は走っている。彼女は左手で手綱を握り、横へ伸ばした右上腕を一気に敵方へ引く。剣筋は横薙ぎ、分かってはいるが男には避けるも防ぐも出来ない。刃は碧の光を乗せ、男へ迫る。斬られる？ 死―― 打撃音。 「別に斬り合い目的ではないので」 すれ違いざまに、シエラが男に峰打ちの一撃を放つ。そう、一瞬の出来事であった。 空戦は地上戦以上に、開拓者の優勢が色濃い。 「何だ、あいつらは！？ マジヤベェぜこりゃぁ！！」 「よ、よし。このまま逃げるぜ！ あの女も追って来れねぇみたいだ！」 シエラは、特に男達を追う様子を見せない。 何故か？ 理由は明白。 「『追えない』のではありません、『追う必要が無い』んですよ」 男達が必死に逃走して広げた間合い、確かにこの距離で刀の刃は届かない。 ならば。 ならば烈風で出来た刃なら、どうか？ 「試してみますか。パティ、タイミングを合わせて！」 「え‥‥」 「何だこの突風――」 桔梗、そしてソニックブーム。連中の背中に目はついておらず、当然直撃、二組はそろって墜落していった。 （さて。ここまで空戦が劣勢なら、残りの駿龍二組も、逃げ出すはず） 岑の読みは正しい。連中の蛮勇など、集団意識の中で増長した偽りの気勢に過ぎない。数の優勢が崩れれば後は保身しか頭に残らない。 「だからボク達でその退路を遮る。扶風、飛ぼうか‥‥」 扶風が岑に対し、特にリアクションを示さないのは何時もの事。 「不満を示さないなら、それが応諾の証って捉えるよ‥‥よし、行こう扶風！」 羽ばたき、最短距離で逃げ足の敵に接近すると、今度は直線から打って変わって弧の動きで急旋回。進路を塞ぐ様にして敵の眼前に出る。 「ガキがチョロチョロと‥‥ネズミかてめぇーは！？」 「そうやってチョロチョロと飛び回ってきみ達に取り付くのが、僕の仕事だから」 岑は別の敵を視野に収めながら。一体は扶風の飛翔で撹乱し、そしてもう一体は岑の弓で牽制しながら、その動きを止める。 「退きやがれガキが！」 注意を絶やさないまま、岑は話し出した。 「もう、止めにしたらどうかな」 「何ぃ？」 「何となく‥‥何となくだけど、きみ達は無理をしている様に見える。武器の構えも武器そのものも‥‥戦闘がきみ達の本懐じゃないって事くらい、僕でも分かるよ」 「ナメやがって！！」 岑と扶風がいかに意識が合っていようが、流石に二組の操龍者を止める事は叶わないか。男は扶風の進路妨害を掻い潜って抜ける。 「ギャハハハー！ 龍の扱いは俺の方が上みたいだなぁ〜！！」 「どっちが上かなんてどうでもいいけど‥‥ルエラさん、そちらに向かいました」 ！？ 「流石です、只木さん」 逃げきったと思っていた男のその視界、目の隅に何かのシルエットが映った。その知覚から、一瞬も間隙があっただろうか――衝撃。その衝撃の正体は駿龍のキック、そしてそのシルエットの正体はルエラと彼女が乗る、絶地。 組み付いた両者間の距離はまさに白兵戦の間合い。 その男はこの時、右手を振り上げていた。その手に握られているのは、鉞。怒り、焦燥、凡そ冷静とは真逆の感情を顔に浮かべながら。鉞はルエラの顔面を目掛けて今、振り下ろさんとされている。 ルエラはこの時、刀剣を振り払っていた。早い、男の動作がまるで粗略な児戯に見える程に早い‥‥いやそれ以上に美しい。赤髪は風に打たれつつも紅玉の輝きを放ちながら流れ、刃は太刀の軌道に銀光を乗せながら、一閃の光になる。一撃は男の脇から入り、直撃。 男の手から力が抜け、鉞はルエラの顔の横を素通りして地上へ落ちていった。 ルエラは更に相手の龍にも一撃を加え、無力化させる。 「安心なさい、峰打ちよ。全く‥‥只木さんの説得に応じていれば、こんな痛い目をしなくて済んだと言うのに」 気を失っているので聞こえていないだろうが、ルエラは呟かずにはいられなかった。加虐は彼女の趣味ではない。ただ、反省をしてほしかった。彼女は、青の瞳に厚情さえ浮かべてそう言うのだった。 彼女は絶地に命じ、彼等を抱えて場所に下りた。どこか安全そうな場所を‥‥そう思って辺りを見渡す。 地上戦は最早、決着がついたも同然の状態であった。元より由愛の悲恋姫で、連中は致命的なダメージを負っていた。更に空戦では最後の一人が降伏。駿龍乗り達が地上戦に以降し、次々に悪漢達を無力化、捕縛していく。 （地道に暮らしている人達を嘲り、傷つけて‥‥やっぱり、ただ許す事なんて、出来ないよ） 静かな憤慨を鏃に込め、岑は矢を放つ。風を裂き対象へ迫り、そして心毒翔が相手を仕留めた時、全ての悪漢達は開拓者に征伐され終えていた。 「何が体罰は趣味じゃないだ！」 「あ、あれは戦闘中の不可抗力ということで‥‥駄目ですか？ とにかく、自分達の道具の様に好き勝手に使って、人に迷惑をかけるのはいけません。龍だってこんな格好になる事は望んでいませんよ」 少し言葉を濁らせながらも説教はしっかりと、シエラは龍の気持ちを考える様にと、男達を戒める。 戦闘が終った後、開拓者は敵全員の捕縛を済ませていた。 「この後、村の方々へ謝罪に行って貰います。そこでせめてもの償いに務めて下さい」 「誰がそんな事するかよ？」 ルエラが柔らかく言っていると言うのに、男達はまるでぞんざいに返す。あれだけ痛い目を見た直度だと言うのに。全くどうしてこの男達は強情なのか、ルエラは青眼を細めながら溜息をつく。 「へぇー、そうなの。反省する気がないのね〜」 「！！」 声こそ明るいそれだが‥‥由愛が男達に向ける視線には鮮明な感情――とりわけ、殺気の割合が多い――が込められており、男達は誰も、由愛に目線を合わない様にしていた。ジライヤの神薙も手で視界を塞いでいる様子から鑑みるに、どうやら彼女は『本気』なのだろう。 「まぁ、反省するにも満身創痍では頭も働かないだろう。どれ、傷を診せて御覧」 からすは包帯を片手に、男の傷口を診る。 「は、誰も反省するなんて言ってねーぜ？」 「そうか、なら治療も手っ取り早くさせて頂いてもいいんだが？」 「！？」 からすが包帯と、もう片手に持つのは‥‥げぇっ、ヴォトカ！ 「いやー、しかしそれにしても」 割って入って来たのは、随分と穏やかな口調。 「どうしたものか、若い活気をこんな形で使われるというのは見ていて悲しくなるよ」 「‥‥るせーんだよ、テメーが知ったことじゃあねえだろ」 諭すような口調で隼人は連中に話すが、当人達は敵意を滾らせた言葉を投げ返す。 「ハハハ、ご挨拶だね。だが気になるんだ、きみ達の目的が。強盗の様な真似をする訳でもなく、ただ己の存在を顕示する為だけに事件を起す‥‥何かきみ達は訴えたい事があるんじゃないのか？」 「農作業なんてダッセー事している連中に、嫌気がさしただけだッつってんだろーが！！」 「農作業を馬鹿にしちゃイカンよ。君達や私が食べているものなのだからね」 「ンな事は分かってんだよ！」 「では何故？ その尊さを理解しているのなら、尚更きみ達の行動は不可解だ」 无の言葉。 「‥‥」 それに一同は、押し黙る。何か言いたそうで、言い出せない表情。まさか、と无は思った。 しかし、无が考えた事は、岑がまさに同じ事を思っていた。 「お兄さん達、以前はその『農作業』に従事していたんじゃないかな？」 「何！？」 「鉞とか鎌とか‥‥武器がどれも日常利用されたものばかりだ」 「そういえば、さっき駿龍を撫でに行った時も、目立った古傷も見当たらなかったな。普通、戦闘利用された龍なら傷がもっとあっても不思議じゃない」 顎に指を這わせながら言い、からすは岑の見込みの後押しをする。 「派手な巻き布は、その辺の事情を隠す為‥‥という事でしょうね」 ルエラの言葉に頷きながら、岑は続ける。 「運搬量の低い駿龍とは言え、工具運搬、人員移動に割り切れば戦闘以外の利用だって考えられない話じゃありません。それが、農業とかだって――」 「ああ、そうだよ！」 連中の一人が、叫ぶようにして言い、岑の言葉を遮った。 「俺達は元農夫や林家だった連中さ！ それがアヤカシの出現で土地は荒れて全てがパーだ！ だから、そんな事の愚かさを示す為に俺達は農村を襲ったんだよ！！」 「ボク達が、守ってみせる」 岑は呟く。まるで、自分へも言い聞かせる様に。 「ボク達が、そういう『普通に暮らしている人々の生活』を守って見せる。信じて、欲しい」 「‥‥‥」 「か、開拓者様？」 「何よ呆けた顔しちゃって。私がここにいる事に、何か文句があるの？」 「いやいや、そういう事ではありませんが‥‥」 場所は変わって、『黒き爪痕』の被害にあった村。村人は、突如村に姿を現した胡蝶に当惑気味であった。 「一体どうして開拓者様が、こんな辺鄙な所へ？」 「例の落書き、消しに来たの」 「そんな！ 件の依頼だけでも尽力して頂いているというのに‥‥これ以上、開拓者様にご迷惑をかける訳には！」 「いえ、消すのは私じゃないわ」 胡蝶は言いながら指を指す‥‥その先には、自ら付けた墨を掃除する男達。 「ま、あいつらも反省しているみたいだから。自分達で清掃を済ませるって言う事だし、それで許してあげて」 「開拓者様‥‥本当に、本当にありがとうございます‥‥っ！」 「か、勘違いしないでよね！ あいつらが勝手に反省しただけなんだからね！？ 私達は別に、退治依頼をこなしただけなんだからね！？」 日が落ちる前に、概ねの落書きは消し終えていた。からすが茶を運び、それを喉に通す男達の表情は、生新なそれであったと言う。 （代筆 ： はんた） |
