【大会】獅子奮迅
マスター名：蛸壺帝
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| ■オープニング本文 ●武闘大会 天儀最大を誇る武天の都、此隅。 その地に巨勢王の城はある。 城の天守閣で巨勢王は臣下の一人と将棋を指していた。 勝負がほぼ決まると巨勢王は立ち上がって眼下の此隅に目をやる。続いて振り向いた方角を巨勢王は見つめ続けた。 あまりにも遠く、志体を持つ巨勢王ですら見えるはずもないが、その先には神楽の都が存在する。 もうすぐ神楽の都で開催される武闘大会は巨勢王が主催したものだ。 基本はチーム戦。 ルールは様々に用意されていた。 「殿、参りました」 配下の者が投了して将棋は巨勢王の勝ちで終わる。 「よい将棋であったぞ。せっかくだ、もうしばらくつき合うがよい。先頃、品評会で銘を授けたあの酒を持って参れ！」 巨勢王の求めに応じ、侍女が今年一番の天儀酒を運んでくる。 「武芸振興を図るこの度の武闘大会。滞る事なく進んでおるか？」 「様々な仕掛けの用意など万全で御座います」 巨勢王は配下の者と天儀酒を酌み交わしながら武闘大会についてを話し合う。 「開催は開拓者ギルドを通じて各地で宣伝済み。武闘大会の参加者だけでなく、多くの観客も神楽の都を訪れるでしょう。元よりある商店のみならず、噂を聞きつけて各地から商売人も駆けつける様子。観客が集まれば大会参加者達も発憤してより戦いも盛り上がること必定」 「そうでなければな。各地の旅泰も様々な商材を用意して神楽の都に集まっているようだぞ。何より勇猛果敢な姿が観られるのが楽しみでならん」 巨勢王は膝を叩き、大いに笑う。 四月の十五日は巨勢王の誕生日。武闘大会はそれを祝う意味も込められていた。 ●斬って叩いて潰して壊して 都に点在する大会会場の一つに、大量の彫像が並べられていた。造形は荒いが、どうやらアヤカシを模して作られているようだ。 それぞれの大きさも成人男性の膝くらいの小さいものから見上げるほどに大きなものまで様々である。 また、小さいものは木製のようだが、大きいものはところどころ金属で強化されている。 この会場で行われる競技はこの彫像群をどれだけ早く破壊しつくせるか、というものだ。 六人から八人で構成されたチームが順番に彫像を破壊していく、ただそれだけの競技である。 一見単純に見える競技ではあるが、いかに効率よく壊すかという事前の作戦が重要であり、個々の力の分析やチームワークも必要になってくる。 開催時間が近づき、観客達が集まり始める。 誰しもが、群れをなすアヤカシをものともせず破竹の勢いで突き進む開拓者達の勇姿を垣間見ようとしているのだ。 |
■参加者一覧
朝比奈 空（ia0086）21歳・女・魔 
クノン（ia0545）18歳・女・サ 
滝月 玲（ia1409）19歳・男・シ
辟田 脩次朗（ia2472）15歳・男・志 
珠々（ia5322）10歳・女・シ 
アーシャ・エルダー（ib0054）20歳・女・騎 
アルフィール・レイオス（ib0136）23歳・女・騎 
一ノ瀬 彩（ib1213）17歳・女・騎 |
| ■リプレイ本文 ●試合前 観客席から賑やかな声が開拓者達の耳に届く。 「ん、巨勢王主催の武闘大会か、酔狂と言うべきかいいお祭り騒ぎになって流石というべきか」 選手入場口の幕を僅かに捲り、アルフィール・レイオス（ib0136）が呟く。言葉に楽しげな色が混じっているのは、彼女も乗り気だということだろう。 「本当に、お客さん多いですね‥‥特に男性が‥‥」 アルフィールが開けた幕を覗き込んだ一ノ瀬 彩（ib1213）だったが、すぐに顔を引っ込めた。どうやら、男性に苦手意識を感じているらしい。 「このような場所で腕試し‥‥ですか、偶にはこういう物も良いのでしょうね」 穏やかな笑みをたたえた朝比奈 空（ia0086）がさりげなく彩と男性陣の間に入る。 「ただの腕試しだからって手は抜かないよ、お客さんも本気の俺達が見たいんだろうからね」 答えた滝月 玲（ia1409）は笑顔だったが、目には、確固たる闘志が宿っていた。 「それに、巨勢王の前ですから。座興のようなものとは云え、無様な真似は出来ませんね‥‥」 辟田 脩次朗（ia2472）は腰に差した真新しい刀、ソメイヨシノの柄を強く握りしめる。 （帝国騎士として、負けるわけにはいきません！） 後方では、アーシャ・エルダー（ib0054）が軽く身体を動かし、競技にそなえている。先ほど見物していた他チームがかなりの好成績を収めていた所為か、余計に気合がはいっているようだ。 その横で、珠々（ia5322）が無言のまま装備の点検をしている。表情はかわらないが、その所作から、静かに闘志を燃やしているようにも見える。 出番が近づくにつれ、彼らの間にも緊張感が漂い始める。その中で、自身の前髪を弄っていたクノン（ia0545）だけが、別の感情を抱いていた。 「マジ、やべぇ‥‥何かの拍子に誰かと目が合ったら‥‥うぅ‥‥」 人に目を見られると考えがよまれるという考えから、人と目を合わせることを恐れる クノンには、この狭くて人の多い待機場所は恐ろしい場所だったのかもしれない。 程なくして、係員から開拓者達に出番を告げられた。ちょうど、アルフィールと玲が事前にルールの確認をした時に応対してくれた者だったようだ。係員は二人に笑顔で会釈した後、入場口の幕を一気に開く。 そして開拓者達は、大歓声に包まれた。 ●前半戦 開始の合図と共に、開拓者達が弾けるように散開する。事前にしっかりと打ち合わせをしていた為、動きに迷いがない。 「それでは、演武開始とまいりましょう」 珠々は真っ直ぐに、会場の中心に据えられた最も巨大な彫像に向かっていた。小柄な体にそぐわない巨大な手裏剣、大風車を構え、走る。 「足元を、崩します！」 走る勢いを利用し、体全体を使って大風車を放つ。鍛錬を重ねてきた確かな投擲技術によって、大風車は風を巻き込み、吸い込まれるかのように巨大彫像の足に深々と突き刺さる。 それと同時に身を翻し、次の標的へと向かう珠々の背後から、どう、と重い音が聞こえ、遅れて、歓声が沸き起こった。 「この剣と、磨きし技の冴え。力の限りに振るわせて頂きます」 彩は、自身の身長とさして変わらない大きさの大剣を構え、小さな彫像群の前に立つ。 「たあっ！」 試合前の態度が嘘のように、堂々と剣を振るう。 構え、突きからの払い、そのまま切り返して薙ぐ。大剣の刃が二色の輝きを放ちながら、流麗に、軽やかに、舞い。次々と彫像が砕け、欠片が宙を舞う。 彩の顔には、笑みが浮かんでいた。 アルフィールは着実に彫像の数を減らしている。会場の端にあるものから順番に攻撃し、堅実に小さな彫像群を削っていく。 「ん、順調にいっているようだな」 彫像を蹴り、食い込んだ巨大な斧を引き抜きながら、自分と同じ小さな彫像を担当する面々を観察する。軽装を選んでいたこともあり、その立ち回りは俊敏で無駄がない。 （この調子なら、もう少ししたら他を手伝ったほうが良いか） こうして自分の行動に修正をかけながら、アルフィールは鋭い刃を持つ斧を振り下ろし、薪割りでもするかのように、彫像を真っ二つにしていった。 クノンは河内善貞の銘が入った刀を振るい、手近な小さい彫像の首を破壊していく。 「諸羽流青眼崩し」 刀を彫像の首に食い込ませないよう、絶妙な力加減で振りぬくと、スパン、と小気味良い音をたて、彫像の頭部が切り落とされた。 「なんちゃって‥‥なんちゃって‥‥」 格好良い技名を口に出したのが気恥ずかしかったのか、誰に聞かれるというわけでもないのに誤魔化しの言葉を呟きながら、それでも、刀を振るい続ける。 黒い刀身が、小さい彫像の首を一閃する。少しの間をおいて、首に入った線に沿うように、彫像から頭部がすべり落ちた。 脩次朗は名刀ソメイヨシノを手に、我流の剣法で、確実に彫像の首を落としていく。 （事前の順序通り‥‥いえ、少しあちらの方へ予定を変えましょう） 彫像の首を確実に狙いながらも、仲間を目の端に確認し、事前の計画を臨機応変に変更していく。攻撃と計算を同時にこなし、仲間が破壊しそこねた彫像の首をおとしていく。 小さな彫像群は、四人の活躍で、みるみるうちにその数を減らしていった。 「我こそはアーシャ・エルダー、偉大なるジルベリア帝国の騎士なりィィィ！」 ジルベリア式の装備で身を固めた騎士が、人間大の彫像を目指し、突進する。 「どぉりゃぁぁぁーーー！」 アーシャは、彫像が自分の間合いに入ると、突撃の勢いを殺さず、体ごとぶつけるように斧を横殴りに振り回した。 手前の彫像は胸部が深く抉れたが、他の彫像はまだ破壊判定されるほどの傷はない。 「アヤカシめぇぇーー、この私に立ち向かうとは１００年早いわーーー！」 鬼のような形相で、破壊しきれなかった彫刻に何度も斧を叩きつける。その姿を見れば、本物のアヤカシですら怯むかもしれない。 （こんな姿、夫にはみせられませんね‥‥） 頭の片隅でそんなことも考えたが、アーシャはすぐに頭を切替え、アヤカシを模した彫像に本気をぶつけた。 精霊の小刀を腕の前に構え、空は精霊力を溜めていた。横一列に並ぶ人間大の彫像、その端にあるものを吹き飛ばし、まとめて破壊する。そのような作戦だった。 僅かな時間でも、惜しい。だが、焦りは禁物。空は落ち着いて、精霊力を溜めることに集中する。 「‥‥行きます」 空が、精霊の小刀を正面へと突き出した。 刹那、目に見えぬ力で、正面の彫像が吹き飛び、それに巻き込まれる形で並んだ彫像がふきとばされ、さらにいくつかの小さい彫像が押しつぶされた。 即座に彫像の傷の具合を確認すると、正面の彫像は前面が大きく抉られ、そのすぐ隣にあったものは衝撃で頭部が折れていたが、他のものはまだ無事なようだった。 空はすぐに次の行動に移り、準備していた手裏剣を取り出すと、吹き飛ばされた彫像へと放った。 「はっ！」 珠々が彫像を地面に叩きつける。飯綱落としは、流石に像相手に関節技はかけられないが、それでも彫像の頭部を砕くには十分な威力を持っていた。 確実に倒せるが、一体一体狙っていては時間がかかる。珠々が次の彫像の背をとり飛び上がった時、視界に玲の姿が入ってきた。 玲は笑みをたたえたまま、まだ手のつけられていない彫像に金砕棒を振りおろした。 そして、そのまま隣の彫像へと金砕棒をぶつける。炎の色をした髪が、玲の動きに合わせて踊っている。 「色んな舞が絡み合ってこそ観客も喜ぶってもんだ」 玲は、そういいながら、勿論手を休めることなく、笑っていた。 ●後半戦 それぞれの活躍で、かなりの速さで彫像が壊されていった。 小さい彫像と人間大の彫像は、ほぼ同じくらいの時間に掃討され、最後に残ったのは、珠々によって横倒しになった巨大彫像だった。 倒れているおかげで、全員で一気にとりかこむことができる。 「もう一踏ん張りです‥‥一気に片を付けてしまいましょうか‥‥」 クノンは刀を握りなおす。 空は、小刀を霰の絵が描かれている扇子に持ち替える。 脩次朗はソメイヨシノを大上段に構えると、そのまま振り下ろす。竹林という技だ。 「これは‥‥竹林のいい練習になりますね」 確かな手ごたえがあったものの、像の内側に相当固い木材を使っているのか、切断するには至らなかった。 彩も巨大彫像に渾身の一撃を叩き込む。アルフィールや珠々もそれぞれが攻撃をくわえている。しかし、徐々に傷がついてはいるものの、かなり丈夫につくられているせいか、破壊扱いになる程の傷はまだつけられない。 「じゃあ、炎なら‥‥どうだ！」 先ほどまで、彫像のつなぎ目部分を狙っていた玲が、作戦を変えた。己の武器に炎を纏わせる。それを見て、クノンも同じように刀に炎を纏わせる。 「これならば、如何です‥‥？」 「瘴気の藻屑となり、消えうせるがいい！！」 その間に、空が空間をねじり、アーシャがすさまじい気魄とともに斧を叩きつける。 「炎砕‥‥龍牙ッ！」 直後、玲が炎を纏った金砕棒を振るった。回転と捻りを銜えた平突きは、彫像に食い込み、そこから炎が燃え広がる。 更に、クノンのダメ押しの一撃が彫像に浴びせられ‥‥。 ●仕舞い 「これにて破壊と認定！ 競技終了！」 会場に、係の声が響く。 固唾を呑んで見守っていた観客達からも、大歓声が起こった。 「終わり‥‥ですか、結果はどうなるでしょう‥‥ね」 空は扇子をぱたりと畳むと、呟いた。 「この勝利、我が祖国と皇帝陛下に捧げます！」 アーシャが全員にハイタッチをしてまわる。 まだ結果はでていないのだが、彼女の中では、『アヤカシ』を倒した時点で勝利なのかもしれない。 「まあ、結果はどうであれ、全力はだせました‥‥良い経験になりましたよ」 脩次朗はソメイヨシノの刀を拭いて鞘に戻すと、懐から岩清水を取り出し、喉をしめらせる。天然の湧き水が、戦闘で熱くなった体に優しく染み渡った。 ●表彰式 全てのチームの競技が終わった頃には、すっかり日が傾いていた。 夕焼けの中行われた表彰式にて、開拓者達は準優勝の栄誉に輝いた。 優勝したチームには僅差で敗れたが、十分健闘したといえるだろう。 巨勢王より賞品を賜った後、玲が笑顔で仲間達に声をかけた。 「やっぱり、協力し合ってこそ、大きな結果がでるもんだよな」 こうしてまた、一つの大会の幕が下りた。 |
