呂実雄と樹里
マスター名:篁 上総
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/02/14 00:14



■オープニング本文

 こんな理不尽なことがあろうか。
 二人は大きくため息をついた。
 呂実雄と樹里。
 隣り合った商家に住まううら若き男女である。
 この隣り合った両家、互いに商売敵であることにも原因しているが何よりも主人同士の仲が最悪に悪い。
 呂実雄の父、門田屋と樹里の父、伽緋丹屋はともに手広く諸国の特産物を扱った商売をしている。
 二人は生まれた年も月も同じ幼馴染だが、ほんの数日先に生まれたのを門田屋はわが手柄のように誇り、伽緋丹屋はそれに腹が立ってならない。
 幼児の頃から何かにつけ張り合って大人になった二人は結婚した年も同じなら数奇なことに子に恵まれた年も同じであった。
 こんな二人のおかみさん達といえば実に良くできていて、張り合い続ける夫たちに隠れてこっそり友情を育んできた。
 おかみさんたちの友情と機転がなかったら今もこうして二つの店が無事並び立っている、なんてことはなかっただろう。
 そんな母親たちの影響で呂実雄と樹里も互いに気まずくなることも無く成長したのだが‥‥。
 困ったことに二人が年頃になって互いを憎からず想いあうようになったことに気付いた父親たちが猛反対をしだしたのだ。

「いっそ家を出ようか」
 いつまでも内緒でお付き合いという宙ぶらりんの関係に呂実雄の忍耐は限界がきていた。
 自分たちは何一つ悪いことなどしていないのだ。
 お天道様の下で堂々と付き合いたい。
 勝手な父親たちのためになんで自分たちが。
 思いつめる呂実雄に樹里は泣きそうな顔で同意した。
 折から節分が近づいているこの時期、店では何か客を呼び集めるイベントを計画していてまた父親同士が張り合っているのだ。
 跡継ぎである呂実雄も樹里もそれぞれの父から何かいいアイデアを出せと命令されていた。
「知るか、そんなもの」
 呂実雄にしてみればイベントどころの心境ではない。
「でも皆が困るんじゃないかしら」
 樹里に言われて呂実雄は黙り込んだ。
 口ではどうでもいいといいながら実は親思いなのである。
 バカ親父たちに腹は立てていても一人息子と娘が店を放り出すわけにはいかない。
 だけど今の状態でよいアイデアなど浮かぶはずも無く‥‥。
 二人はまた同時にため息をついた。
「そろそろ家に戻らなきゃ」
 母親たちが気を利かせて表に出してくれたもののあまり遅くなっては両家の父に怪しまれる。
 名残惜しげにそう呟いた樹里に顔を上げた呂実雄の目にある建物の看板が映った。
「開拓者ギルドか‥‥」
 色々な相談ごとを持ち込めば解決してくれるところだと聞いているがありがたいことにこれまで利用したことは無かった。
 だが、今こそその時ではないだろうか。
「行こう、樹里」
「え? ど、どこに行くの?」
 吃驚して目を見張る樹里の顔がかわいいなと力が抜けそうになったが呂実雄は気をひきしめてその手をしっかり握ると歩き始めた。
 開拓者ギルドの扉を目指して。


■参加者一覧
天津疾也(ia0019
20歳・男・志
犬神・彼方(ia0218
25歳・女・陰
王禄丸(ia1236
34歳・男・シ
嵩山 薫(ia1747
33歳・女・泰
剣桜花(ia1851
18歳・女・泰
ルオウ(ia2445
14歳・男・サ
ギアス(ia6918
17歳・男・志
与五郎佐(ia7245
25歳・男・弓


■リプレイ本文

●寒風の中
 トンカン、トンカンと景気の良い音が辺りに響いている。
 剣桜花(ia1851)は鼻歌交じりにトンカチを振るっていたが、やがてのんびりと呟いた。
「たまには大工仕事というのも良いものですねぃ」
 懐事情の厳しい桜花としてはおまんまの為に精を出して働いているのだが、そのだいなまいとなばでぃ故に道行く人(主に男性)の注意をかなり引いていることにはあまり気付いていない。
 桜花が担当している伽緋丹屋の隣家である門田屋のほうも櫓作りは順調のようで、互いに高さを競い合うように屋根の上から通りに張り出しているのだった。
「やれやれ、親が仲が悪いと苦労するんは家族やなあ」
 呆れたように首を横に振る天津疾也(ia0019)に手際よく板を打ち付けていた与五郎佐(ia7245)は肯いた。
「互いに思いあう男女が、家の事なんかで結ばれないなんて間違ってます。僕達で何とかして差し上げないと」
「早速門田屋の親父から呂実雄に絶対隣に高さで負けんなっていう厳命が出たらしいで」
「呂実雄殿も大変ですね、家出したくなる気持ちもわかります」
 だがこのイベントを成功させることで現状を変えられるかもしれない。

「ジルベリアって堅苦しい先入観があったけれど、こんな面白そうな行事もあるのね」
 嵩山 薫(ia1747)は生地をかき混ぜながら微笑んだ。
 愛や友情のしるしに贈り物をするというジルベリアの行事はなかなか良いものらしい。
 今回は節分と共にバレンタインのイベントを行うことで両家の融合を図ろうと目論んでいるのだがこれを機にこの街でも流行になればいいのだが‥‥。
 菓子が好きな薫はこの甘い香りを嗅ぐだけで嬉しい気持ちになるのだ。
 愛のための菓子だと思えば一層甘味も増す気がする。
「愛は勝つってね。簡単にいかないのが現実の辛いところだけど、やっぱり最後には必ず勝つものなのよ」
 ねぇ、と傍らの門田屋の女将に相槌を求める。
 女将は「ええ」とはっきりと肯いた。
「あたしたちもいい加減、頭にきてるんです。呂実雄と樹里ちゃんはきっと似合いの夫婦になるというのに」
「なんとか商売上の利点だけでも認めさせましょう。それが第一歩よ」
 そうだと王禄丸(ia1236)も呂実雄を諭す。
「家を出るのは、やめた方が良い。君たちが駆け落ちしても、嫌な予感しかしない」
「そうよ、きっと上手く行くわ」
 薫の励ましに呂実雄は肯いた。
 親父たちの頑固さにヤケになっていたが、実際八人の開拓者たちが味方になって動いてくれているのを見ると何とかなりそうな気がしてくる。
 父親達の目を盗みながらもこうして樹里と母親達、開拓者達が相談し呼吸を合わせて事を進めたため、準備は滞りなく進みつつあった。

「準備はできているのかな」
 丁度そのとき、門田屋が様子を見にきた。
 息子の手腕が気になるらしい。
 イベントの準備に当っては与五郎佐がことごとく親父殿の前で呂実雄を立てて見せたので門田屋の機嫌はよかった。
 若い頃、天儀諸国を旅したことのある門田屋は開拓者に恩を受けたことがあり、今でも開拓者たちに良い感情を抱いていた。
 息子が臨時に雇い入れてきた(と、親父殿は思っている)人材が開拓者であると知って喜んでいる。
 まさかその開拓者たちの力を借りて息子が隣の娘と示し合わせて合同で企画を行おうとしていることなど疑ってもいないらしい。
 薫が自然に聴こえるように呟いた。
「あら、ジルベリア産のお酒はないのかしら? 惜しいわ、せっかく節分と一緒に新しい冬の行事を発表したかったんだけど」
「新しい行事だと?」
 食いついた、と薫は心の中で微笑んだ。
「ええ。ジルベリアの行事で、バレンタインっていうんですよ。好きな人やお世話になってる人に贈り物をする日なんです。節分と半月も違わないんでいっしょにやったらどうかしらって若旦那さんが。きっとすごい評判になりますよ」
「若い娘が好きそうな祭りですこと。天儀中に広まるかもしれないわ」
 女将が興味を惹かれたように言うと門田屋も膝を乗り出した。
「それになんでジルベリアの酒がいるのかね?」
「菓子に入れるのに必要なんですよ。天儀の酒とは香りが違うんですって。材料が違うんですわね。あるとないとはまったく出来が違うようです」
 ジルベリアの酒ならば隣家の蔵に何本もあることを門田屋は承知していた。
 そりゃ、探せば他の店にもあるかもしれないが。
「探すには時間がかかるかしら」
「ううむ‥‥」

 
 一方、伽緋丹屋といえばルオウ(ia2445)の存在自体に食いついていた。
「へぇ、おサムライさん。あんたのおとっつあんはジルベリアのお人なのかい」
 彼の地との商売の拡大を望んでいる伽緋丹屋にとっては願ってもない情報源なのだ。
「神楽の都にジルベリア人は大勢いるし、新しい商品を開発して配るのも名前を売るのにいいかもなー」
「損して得とるともいうしね」
 ギアス(ia6918)の相槌に伽緋丹屋は大きく肯いた。
 ジルベリアの知己は一人でも多いほうが良い。
「新しい商品か、‥‥いいな」
「たとえば節分の縁起物だって銘打って海苔巻を作って配るとか。ジルベリアってとこはここより大分寒い土地柄なんだ。だから天儀風の食べ物を売り出すにしても体があったまるような具を入れると喜ばれるんじゃないか? 見た目も華やかなのがいい。もし定着したらしめたもんだ」
「体が温まるものか‥‥」
「例えば唐辛子とかにんにく?」
 ルオウの言葉に伽緋丹屋は困った顔をした。
 唐辛子もにんにくも伽緋丹屋では扱っていない。
 薬にもなるそれらの食材は巷の健康ブームにのっかった隣の門田屋が契約農家から取り寄せている。
 他の業者を探してもいいが、この辺りで一番手広く取引しているのは門田屋であり他の店では割高になってしまうだろう。
 だが、なんとしてもジルベリア人にうける商品を販売して販路も拡大したい。
「ジルベリアの焼き菓子なんかもいいんじゃないかな? ふるさとの味ってやつ。ルオウ様、海苔巻の開発も俺、手伝うよ」
 ギアスはそう提案すると早速長く美しい髪をくるくる巻きつけ一まとめにした。
「菓子ならちょっとした腕前なんだ」
「ジルベリアの菓子か、じゃ、いっそバレンタインもやるっていうのは?」
「ばれんたいん?」
 ルオウがおおまかに説明する。
「それはいいな! よし、材料は何とかしよう」
 ジルベリア風が大好きな伽緋丹屋は早速、と腰を上げた。
 表では櫓を見上げて樹里があれやこれやと職人たちと相談しながらことを進めていた。
 我が娘ながらなんと良い娘かと伽緋丹屋はにこにこした。
「お宅の娘さんかい? 可愛いねぇ」
 いきなり犬神・彼方(ia0218)に話しかけられても娘自慢の伽緋丹屋はご満悦で肯く。
「俺ぇも年頃の娘がぁいる強気なのが多くてねぇ‥‥」
「おお、あんたのところも娘さんが?」
 長身の犬神を男親だと勘違いしたまま、伽緋丹屋は年頃の娘を持つ親の苦労など親父談義に花を咲かせた。
 これだけ娘を溺愛しているなら親としての心得を諭すきっかけはつかめそうである。
 通行人を装った犬神はしばらく伽緋丹屋と立ち話をしてからちょうど出てきた王禄丸に言った。
「お、牛、そっちの具合はどうだ?」
「順調だ。二人もよくやってる」
「んじゃ、行くか」
 櫓や食べ物の準備は他に任せて犬神と王禄丸は街に繰り出した。
 王禄丸は街中、人中での依頼ということで今日は牛面を外している
 豆まき、巻き寿司やジルベリア菓子の配布の他にもバレンタインという習慣にふさわしく各地の恋愛成就のお守りや土産物を販売してはどうかということになり二人が下見に行くことになっていた。
「まじないなら五行の名を被せれば箔がつくし、お守りは石鏡製のなんか人気出そうだな」
 その外にも天儀諸国の物産をずらりと並べれば賑やかでよい。
 天儀諸国とは門田屋が熱心に商売しているから集めるにもそう苦労はしないだろう。
 伽緋丹屋に潜り込んだ仲間たちがそれとなくその事実を匂わせているはずだ。
「まぁ、あの娘思いな男だ。なんとかなると思いたいが、お、あれ、可愛いなぁ。あんなのなら若い娘が食いつきそうじゃないか。買っていってやるか」
「自分で提案しといて言うのもなんだが、恋愛グッズを欲しがる身内なんかいたか」
(‥‥好きな奴ぁいるが‥‥ま、俺ぇは買っても仕方ねぇか)

「できましたー」
 大きな三枚の布に力強く書かれた文字は『伽緋丹屋・門田屋合同節分豆まき』『恵方巻き各種配布中』『門田屋・伽緋丹屋合同バレンタイン 想い人にジルベリア伝来の高級菓子のプレゼントは如何?』である。
 父親同士がもめないように名前を横並びにし、左右も入れ替えるなどの気配りを確認して桜花は「はう」と墨のついた指で頬を拭った。
 合同という部分を見られないように注意深く隠す。
 ちらしも作った、これで準備は完了だ。
 門田屋のほうでも与五郎佐あたりが同じ物を用意しているはずである。
 菓子が焼き上がってきたと見えて奥のほうから甘い香りが漂ってきていた。
 数をそろえるとなるとまだまだ時間はかかるだろう。
 桜花は何か手伝うことはないかと厨房に向った。

「ううむ」
 門田屋では活気づく皆から離れたところで主人が頭を抱えていた。
 ジルベリアの酒が中々手に入らないのである。
 それというのも隣の伽緋丹屋が買い占めているのだと思うと頭に来る。
 せっかく息子が頑張っているのだ、ここは親として力になって隣家の娘の‥‥いいや、その親父の鼻を明かしてやりたい。
「だが、このままでは‥‥」
 門田屋はまた「ううむ」と唸った。
 同じ頃、伽緋丹屋も顎を懐に埋めていた。
 娘にジルベリアに向けて天儀各地の土産物だのお守りだのを売りたいのと提案されたものの、数と種類をそろえるとなると急には難しい話である。
 大体、天儀諸国に強いのは隣の門田屋だ。
「おとっつぁん? どうしたの?」
 荷物を持って通りかかった樹里にそう聞かれて伽緋丹屋は作り笑いを浮かべた。
「ああ、なんでもないんだよ。準備のほうは順調かな」
「ええ。皆、一生懸命やってます」
「そ、そうか。いいかい隣の息子にゃあ負けるんじゃないよ」
 樹里は肩を竦めるとそれには応えず行ってしまった。
 それを見送って伽緋丹屋はため息した。
「かわいい娘の為に力になってやりたいが困ったな」

●冬越えて
 親父たちの密かな苦悩をよそに日は進み、節分当日となった。
「おお、こんなに人が‥‥」
 前もって開拓者たちが宣伝に励んだおかげで老若男女問わず人が集まっていた。
「うめぇ!」
 巻き寿司を手に持ったルオウが大声で「美味い」を連発している。
「ジルベリア伝来の焼き菓子はいかが? バレンタインにはジルベリア伝来の高級菓子を!」
 ギアスが自慢の髪を靡かせて声を上げるとまだバレンタインと言う言葉を聞きなれない者も興味を引かれたのか焼き菓子に手を出した。
「門田屋、伽緋丹屋合同豆まき、もうすぐはじまりますー」
 桜花の声に釣られ櫓を見上げた二人の親父はまさしく仰天した。
「なんで櫓が繋がってるんだ!」
「しかもなんだ、あの恰好は!!」
 櫓の上では呂実雄と樹里がジルベリア風の衣装を着てとても目立っていた。
「合同‥‥。わ、私は聞いてないぞ」
「俺だって聞いてない!」
 今にも掴み合いを始めそうな親父たちを尻目に天津が声を張り上げた。
「さて、お立会い! 二人が着てるんはジルベリアの婚礼衣装やで!」
 観衆から「綺麗」「いいぞ」という声が上がる。
 この界隈では両家の親父たちの仲の悪さは有名で、それゆえ皆の野次馬根性が刺激されているのだ。
「今から門田屋呂実雄、伽緋丹屋樹里が豆まきを始めます〜。皆さん、福と一緒に愛もたくさん拾ってくださいね!」
 薫がにこやかに言い、合図すると二人が豆まきを開始した。
 撒くのは豆だけではない。
 小さく焼いた菓子や恋愛成就のお守りや根付なども混ざっている。
「さあ、気に入ったら買うていってや〜。恋愛成就のお守りに天儀諸国の土産、珍しいジルベリアの焼き菓子やでー」
 天津が煽ると人々は両家の前に並び始めた。
「焼き菓子‥‥どうやって‥‥」
「土産物もこんなに数が揃っている」
 呆然としている親父たちに薫が優しく説明した。
「どうしたって、決まっています。互いのお店の長所を生かしたんですよ。天儀諸国との商売に成功している門田屋さん。ジルベリアに伝手を持ちこれからどんどん販路を拡大しようとしている伽緋丹屋さん。お隣同士でこんなに補いあえるじゃないですか」
「今後双方が協力すればかなりの成功が見込まれる」
「そやで、商売人ならたとえ親の敵やろうと商売の糧にするぐらいでなきゃあかんやろ。闇雲に目の敵にするんは二流以下やろ」
 飄々とした王禄丸と商家出身の天津の言葉はどちらも二人の商売人の胸に突き刺さった。
「それにあの二人、お似合いじゃぁないか。‥‥お宅の娘さん、いい顔で笑ってるよ」
「あ、あんたは、さっきの」
 伽緋丹屋に犬神が肯く。
「手放したくない気持ちもわかるよ。俺ぇも娘も息子も可愛いからさ。けぇど、子ども達が幸せになれるなぁら‥‥あんたぁならわかるだろう? あんなに娘を愛してるんだ。その幸せだって祝えるだろうぉよ。そうすりゃあの笑顔を向けてもらえるだろぉさ」
 そう言われて伽緋丹屋ははっとした。
 この前樹里が自分に笑いかけてくれたのはいつのことだっただろうか。
 もう長い間娘の満面の笑みを見ていない気がする。
 思い出したように天津が言い添えた。
「そういえば最近聞いた話、親に結婚反対されて駆け落ちした挙句苦労してその夫婦が病死してな、残された子どもが難儀してるらしい‥‥門田屋さん、あんた、自分の孫にそんな思いをさせたいんか?」
「孫‥‥」
「貴方も樹里さんには不足はないのですよね?」
 薫に尋ねられて門田屋はつい肯いた。
 そうなのだ。樹里はいい娘だ。器量も気立てもいいし、良く気のつく働き者だ。
「おまえさん」
 女房が同時に寄ってきて自分の亭主の腕をつかんだ。
「いい加減、意地を張るのはやめましょうよ」
「あの子達は幸せになれます。隣り合った店も互いに助け合えば‥‥」
 門田屋と伽緋丹屋は申し合わせたように櫓の上の息子と娘を見上げた。
 若い二人は時折互いの顔を見合っては嬉しそうに微笑みあっていた。
 親父二人の目にはその光景はとても眩しく映る。
 己の愚かさを自覚して二人が肩を落として肯くのを確認して開拓者たちはお互い合図を送りあう。
「冬越えて芽吹く愛の蕾かな」
 与五郎佐が口ずさんだ。