【誘架】燻りの火種
マスター名:鷹羽柊架
シナリオ形態: シリーズ
相棒
難易度: 難しい
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2012/06/20 23:52



■オープニング本文

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 キズナを襲ったのが有明側の人間というのが判明した。
 というか、自白したのだ。
 用意されたのかのようにあっさりと。
 理由は有明がいない今、火宵はいつでも有明の地位に成り代われる。自分達を雇っている者達の地位が奪われては困る。
 キズナを殺す事で火宵の動きを封じようとしたと‥‥

「と、いうわけだ」
 副主幹室で報告しているのは上原柊真だ。
「鵜呑みにするのか」
 馬鹿かお前はという呆れの表情を見せるのは副主幹の真神梢一だ。
「そんなわけないだろ」
 更に呆れて柊真が言葉を返す。
「だろうな。で、どうするつもりだ」
「一応は旭さんにキズナを返す。心配しているだろうからな」
 柊真の言葉に梢一はそうした方がいいとだけ言った。
「お前が行くのか?」
「いや、麻貴に行かせる」
 人選に問題ないと梢一は納得し、開拓者の手配をする打ち合わせを始めた。
「じゃぁ、こんな感じでいいな」
 柊真が纏め終わると、梢一が思い出したように顔を上げた。
「火宵からの手紙ってどんなのだったのだ?」
「ああ、戦いを仕掛けるらしい。繚咲の近くで、何に対してかは書いてない」
「戦いだと?」
 その話に梢一が顔を顰める。
「香雪の方に繚咲には一切刃を向けないようにする。だが、飛んでくる火の粉だけは防ぎようはないからその辺は天蓋の連中に防いでくれるように頼んでくれとな」
「随分、ムシのいい話だな。それ聞いて腹立てる者もいるだろうに。だが、問題があるな。火宵は戦闘能力も指揮能力もある。それなのにそんな事を頼むだなんて‥‥」
 秀麗な顔を曇らせる梢一に柊真がそうだなと、呟く。
 手紙の文末には「もし自分に何かあればキズナと母親を頼む」とあったのだ。


 開拓者達を護衛に、キズナは奏生を後にした。
 三茶も挨拶がてら寄って、進む先は旭がいる里‥‥偲登。
 理穴の東部にある里。
「しかし、このまま俺達が行くと怪しまれませんか?」
「途中まででいいとは思うが」
 開拓者の言葉に麻貴が悩むと、別の開拓者が口を開く。
「こっそり送ればいいじゃない?」
「そろそろ次の町に着きますね。一泊して、朝から丸一日歩けば偲登に着きます」
 キズナが言えば全員が頷いた。

 食事を済ませ、開拓者達は部屋で休んだ。
 宿は大きい宿で、あてがわれた部屋は一番広い部屋を衝立で男子女子で分かれている。
 キズナは男子の方。
 ぱちりと目を覚ましたのはキズナだ。
 隣で眠っていた開拓者が「どうかしましたか?」と尋ねる。
「‥‥誰かいるようだよ」
 別の開拓者が呟いた。その隣で眠る開拓者も気付いて目を開いている。
「女子の方も気付いているようですね」
 全員がこっそり着替えたとき、物音が外から聞こえた。
 ここは二階‥‥シノビだ。
 


 全員が起き上がり、迎撃を始めた!


■参加者一覧
滋藤 御門(ia0167
17歳・男・陰
鷹来 雪(ia0736
21歳・女・巫
御樹青嵐(ia1669
23歳・男・陰
紫雲雅人(ia5150
32歳・男・シ
珠々(ia5322
10歳・女・シ
輝血(ia5431
18歳・女・シ
溟霆(ib0504
24歳・男・シ
御簾丸 鎬葵(ib9142
18歳・女・志


■リプレイ本文

 志体持ちとはいえ、まだ未熟な子供一人に何人もシノビを使うだなんて大仰と評したのは輝血(ia5431)だ。
 さっと輝血が書いた紙には脱出経路を麻貴と御簾丸鎬葵(ib9142)に見せ、その場で輝血が紙を飲み込んだ。
 火宵の有明配下のシノビの力を知る溟霆(ib0504)は今回のシノビの質の低さに疑問を持たざるを得ない。
 立ち上がった青嵐はすでに臨戦態勢をとった輝血を見つめる。

 どうか、ご無事で

 きっと、輝血なら「あたしを誰だと思ってるの?」と自信に満ち溢れて言うことだろう。そう思うと御樹青嵐(ia1669)は不謹慎と感じつつも口元を緩めてしまう。
 シノビ達はそっと窓の障子を外して中に入った。
 取り外した障子をずらした瞬間、戦輪が視界に飛び込んできた。
 一人の肩をかすめ、別のシノビが入った瞬間更に手裏剣が飛んできた。
 彼らの視界に入ったのは数名が脱出する姿。中にキズナの姿はない。
 出口を珠々(ia5322)が塞いだ。
 相手は小娘一人。簡単だとシノビ達が珠々に突貫し、自分の間合いに入ろうとした瞬間、横から白い光がシノビに激突する。
「絶対に通せません」
 白野威雪(ia0736)が厳しい声で宣言した。
「その通りです。女子供だからって油断するな、は鉄則でしょう」
 忍刀を構えて珠々が言えば、シノビ達はその小さな壁を壊そうとする。
「やれるもんならやってみな」
 血にまみれた蛇が微かな隙間をかいくぐり、珠々に近い男の首の喉仏を繊手の力とは思えない力で押し上げる。
 シノビの見せた一瞬の緩みを逃さなかったのは紫雲雅人(ia5150)。早駆で間合いを詰めた雅人はシノビの左膝間接に忍刀を差し込み、軟骨を取り出すように抉った。
 肉を断ち更に痛覚を更に刺激されてシノビは声は出さなかったが、怒りの表情に変えて痛みを堪えているようだった。
「やはり質が違うね」
 冷静な言葉と共に頭巾で隠されていない唯一の部分にして急所である目を狙って溟霆の戦輪が掠めた。
 やりすぎたかと溟霆は雪を見たが、彼女は気丈に珠々と共に出口を守っている。戦闘という非日常の気の高ぶりからは分からないが、肝が据わり始めたような気もし、微かに目を細める。
 雪の様子は他の仲間も気付いた。
「負けてられませんね」
 くすりと微笑んだ雅人が他のシノビの拘束の為走り出す。
 雪が殿を守ってくれるようなので、交代して貰って珠々も駆けだした。


 木の幹に傷をつけて目印としていた鎬葵が振り向くと、キズナは平静であったが随分と息が上がっているというか、息が深い。
「休みましょう」
 鎬葵が言えば、キズナは大丈夫と慌てた。
「無理は危険です」
 青嵐の言葉にキズナは黙って従った。
「もう少し歩いて休むのに適した所で一度休みましょう」
 滋藤御門(ia0167)の提案に五人は足を進めた。
 見つけたのは道なりにあった廃屋。
 夜光虫に手拭いを被せて防ぐ。
 符水を飲んだキズナは随分と落ち着いたようだった。
「あの‥‥私は此度初めて関わる事になります。掻い摘んでもいいので、経緯を聞き問うございます」
 どこか控えめに口にしたのは鎬葵だった。足手まといにならない為、少しでも役に立ちたいという強い意志を感じる。
「わかった」
 頷いたのは麻貴だ。
「麻貴様」
 はっとしたのは御門だ。キズナがいる前でいいのか‥‥という感情も含めて。
「全ては数年前の事だ」

 話の全ての始まりはとある文官と理穴の地方豪商の密会が確認された事から。
 地方豪商は手腕はあれど、いくつかのキナ臭い話があったのと、個人的に開拓者崩れ、シノビを擁している為、王への反逆の芽を潰す為もあり、監察方でも遊軍にあたる四組主幹、上原柊真が単身潜入調査に乗り出した。
 二年の潜伏で柊真は火宵の直属の部下までになっていた。
 そろそろ監察方を動かそうと柊真はある行動に出た。
 当時、緑茂の戦いが行われており、ある者に文を書かせて礫を投げさせた。
『森による利穴の混乱は全てお前の所為』
 何も知らせていなかった麻貴は開拓者と共に礫を投げた者を見つけた。賭博の借金で困っていた者だ。
 賭場の連中は柊真とは違う火宵の部下の手によって始末されていた。
 荒らされた風を装い、自分達と関わっていた証拠は全て持ち出して。
 その後、移動芝居小屋を使い、違法取引の運搬の摘発、三茶の雪原一家当代成りすました者を暴いた。
 当代が柊真に敬意を顕にしているのは偽物の当代に敗れて崖から落ちた際に助けて匿ったのが柊真だからだ。柊真は監察方復帰後、当代緋束に正体を話し協力を得てもらっている。柊真や麻貴のの正体を知るのは雪原でも緋束のみ。
 それからも柊真は影で監察方と開拓者を見守ってきた。
 火宵もまた、柊真を密かに調査してきた。
 柊真曰く、その調査を言ってきたのは火宵の母である旭の可能性。そこで旭の幼馴染である美冬の息子である事と理穴監察方の者である事を知った可能性があるとの事だった。
 火宵の性質は自分についてくる者は徹底的に護り、導く。裏切り者には死があるだけ。柊真もそれに該当し、死に掛けた。
 この時点で柊真が知ったのは火宵は武力を欲しているという事。
 わざわざ大きなたたら場まで作り、娘達に強制労働をさせて目的を欲する武器職人を甘言で武器を作らせてきた。
 儀弐王への反旗が考慮されていたが、最近の動きで有明とは別行動であった事が判明し、武器は有明達も知らない所にあるらしい。
「キズナ殿は里の子で?」
「ぼくは武天の出身です。火宵様と開拓者の皆さんとの縁で里の方に住んでます」
 鎬葵が言葉を挟むとキズナは首を横に振った。
「上原殿に宛てた文を読むに当たり、何だか不思議な人物と思えます」
「火宵は柊真と似ていると公言してるようだ」
 断片的だろう話を聞き、鎬葵が感想を述べると麻貴が答えた。
 青嵐はそっと息をついて外に視線を向けた。彼は火宵という人物に反発心を抱いている。口を挟まなかったのは鎬葵の判断を鈍らせる為の気遣いだ。
 まだ、夜は明けそうもない。


 シノビの戦いはすぐに決着がついた。
 どうにも襲撃してきたシノビ達は諜報が得意な者達だったようだ。
「‥‥そのまま襲撃してくるのもどうかと思うけど」
 仕事の話になると厳しい口調になるのは輝血だ。
「誰の差し金ですか?」
 シノビに言ったところでどうしようもない話なのは分かっている。依頼人が誰か主が誰かを口外しないように訓練されているから。
「有明側の者だ」
 またかと、開拓者達が顔を見合わせる。
「‥‥前にキズナさんを襲った連中も同じ様な事を言ってました。あなた達の仲間ですか」
 次は雅人が質問するとシノビは頷く。
「そうとらえても間違いではない」
 シノビがこんなにすらすら答えを述べるのは何かあるとしか言いようがないとまで思わされてしまう。
「何故、キズナを殺すのですか。生かして火宵の足手まといにさせた方が早いのでは」
 珠々がもっともな事を口にした。誰もがそう思うだろう。奴らが立ててたのは殺気だった。迷う事なく殺そうと近づいてきていたのだ。
「見せしめだ」
「見せしめ?」
 きゅっと柳眉を寄せたのは雪だ。
「そうだ。火宵に見せる為のな」
 同じ事を先日捕まえた剣士達も言っていた。
 火宵の動きを封じるための。
 それからシノビ達は何一つ話さなかった。
 鵜呑みにしたら相手が短絡的すぎる。
 嘘と拒否するのは容易にして振り出しに戻る。
 他の手がかりはキズナ頼みだが情報が乏しい‥‥
 暗い闇の中で出口を探しているようだ。
 ふと、輝血は麻貴との会話を思い出す。

「女が使う手だな。義姉上が柊真に好意を持っていた女に狙われた事がある」

 本当にそうなのだろうか‥‥
 色事には強いが恋事には疎い輝血は雪を見る。
「輝血様?」
 雪が振り向くと、輝血は「なんでもない」とだけ言った。


「では、現在は火宵は武天に‥‥」
 鎬葵の言葉に麻貴はため息をついた。
「‥‥その可能性は大いにある」
「彼の敵はどこにあるのでしょうね‥‥」
 御門の心のどこかでは火宵と折梅、沙桐が対峙するわけではない事に安心している。
 話が途切れ、しのぎが心眼を発動させると、気配が四つ。
 話に気取られていたかと鎬葵が顔をしかめた。
 鎬葵の様子に青嵐が即座に人魂を発動させる。
 仲間ではない。確実に敵だ。
「私が盾になろう」
 前に出たのは麻貴だ。
「ですが‥‥!」
 はっとなる鎬葵に麻貴は優しく微笑む。
「君がキズナの為に剣を振るいたいと思うならば、この状況を君の剣で払ってくれ」
 麻貴の言葉に鎬葵ははっとなり、そのまま頷いた。
「きっかけは私と御門さんの斬撃符で」
「頼む」
 青嵐が更に言えば、麻貴は頷いた。その奥でキズナが悔しそうに表情を歪めている。
「‥‥キズナ殿は必ず強くなれます」
 静かに麻貴の背を見つめる鎬葵がキズナの方を一度も見ずに言った。

 影は廃屋の入口付近にいて、一人が周囲を見回っている。指で人数の確認をしている。一人が出した指は五だ。こくりと頷いて自信があるようだった。
 戸は多分、立て付けが悪そうなので、このまま突入しようと四人が駆け出そうとした。
 戸が奥から蹴破られて一人が戸に直撃。間髪入れずに飛んできた風の刃が二人の肩に走る。
「ぐぉ!」
 痛みを堪える男達を置き、残りの二人が中へと走ると、横に大きく払う刃に男達は間合いを取るために飛び退る。
「これ以上は進ません」
 麻貴が戸より二歩離れた所で剣を構える。
「子供はどこだ!」
 いきり立つ男の声に麻貴は答えない。男達が麻貴を斬らんと前に出た瞬間‥‥
「子供一人に大勢の暴力を振るう者達に渡すわけには参りません」
 静かな声が奥から響き、閃く刃は一人の刀を弾き飛ばした。
 くるくると刀が重力に従い、地に落ちた。
 他にもいるやもしれないと鎬葵は即座に刀に炎を纏わせる。これ以上ここに留まるのは危険すぎる。
 一人が鎬葵を狙うと、彼女は青白く身体を発光させ、素早く刀を弾き飛ばす。弾き飛ばされた隙を見抜いた御門が斬撃符で男の右肩の間接に命中させる。
 麻貴と交戦している男は麻貴との鍔迫り合いの隙に青嵐の呪縛符によって動けなくなった。
 戦闘が終わると、鎬葵が心眼で辺りを見回し、更に青嵐と御門が人魂で周囲を確認する。
「いないようです」
 御門が言えば、開拓者達は襲撃者達へと向き直る。
「顔を見せるという事はキズナとは会った事ないな」
 麻貴が言えば、男達は黙る。
「誰の差し金ですか」
 お決まりの確認を御門がするとやはり、「有明の者だ」と答えた。
 それ以上は言う気がないらしい。
「キズナさん、見た事は」
 確認の為、青嵐が言えば、キズナはふと、思い出す。
「あります。有明様の屋敷で見ました」
 開拓者達に緊張が走る。


 鎬葵がつけた木の傷に気付いた迎撃組は合流するべく急いでいる。
「少し速度を緩めましょう」
 気を使ったのは珠々だ。シノビ達も雪が巫女である事を思い出して速度を緩めた。
「‥‥すみません‥‥」
「甘いものもあります。少しでも食べてください」
 珠々が取り出したのはキャンディボックスだ。中には色とりどりのキャンディが入っている。
「甘いものは大事ですよね」
 くすりと、雪が微笑むと、珠々は頷く。
「輝血君、紫雲君、先に行っててくれ。僕と珠々君は雪君と共に向かうから」
 溟霆が言うと、二人は頷いて先を急いだ。
「‥‥火宵さんは不思議な方ですね。知れば知るほど分からなくなってきます」
 開拓者達から見れば火宵は悪という立ち位置にいるだろう。それが知るにつれて悪い面もよい面も見えてきた。
「人間だからね」
 くすっと、諦観に似た微笑を浮かべたのは溟霆だ。
「僕等だって人によっては正義の味方かもしれないし、悪党かもしれない。それが人間なんだよ」
 穏やかに諭す溟霆の言葉に二人は静かに聞く。
「‥‥私が今、出来る、と思う事は‥‥感情になるべく左右されぬよう、事実を受け入れ、その上で折梅様、沙桐様を信じる事です」
 まだたどたどしい決意ではあるが、決意は決意。溟霆は雪の様子を見て、ここに居ぬ人物を思い出す。


 麻貴達がキズナと首実験の確認を取っていると、更に気配が二つ近づいていると鎬葵が警告した。
 臨戦態勢をとると、現われたのは輝血と雅人だ。
「もう少ししたら来るから」
 それが雪達の事であるのは明白。
「そうですか」
 無事そうな輝血の姿に青嵐がほっとした。
 ほどなくして雪を気遣うように珠々と溟霆が現われた。

「で、キズナはこの人達を知ってるのですね」
 珠々が確認を取ると、キズナはこくんと頷いた。
「有明様の屋敷で見た事があるんだ」
「言ってる事は本当だったのですね」
 誰もが偽りだと思っていた事だが、キズナの言葉に誰もが呆気に取られてしまう。
「でも、本当に有明様の部下か分からないんだ」
「どういうことですか?」
 雅人が尋ねると、キズナは自分が行ったのは有明主催の酒宴で、部下や有明の奥方の実家の者も集めた大層な酒宴で、お付の用心棒なんかも多かった。
 誰が誰の部下かわからないほどに。
「相手は豪商、嘘は言ってないけど、辿り着くのは大変だなぁ」
 ふむと、呟いたのは溟霆だ。
「有明の部下達の動向が気になるところですね」
 雅人が言えば、御門が頷く。
 現在開拓者達がいるこの廃屋は麓のすぐ近く。
「キズナさん一人で大丈夫ですか」
 雪の言葉に口を開いたのは麻貴だ。
「私が送ろう」
「部外者が行って大丈夫ですかね」
 麻貴の身を案じる雅人が言えば、当人は懐から割れた鏡を出した。
「柊真から預かった。いざとなったら旭さんに見せろと」
「会えるかが問題だけどね」
 溟霆が言えば、麻貴は苦笑する。
「ま、何とかなるさ」
 善は急げといわんばかりに麻貴がキズナを促すと、彼は鎬葵の方へと向かう。
「‥‥護ってくれてありがとう。ぼく、強くなるよ。ぼくが好きだと思う人たちを護る為に」
「強さへの道は長く険しく、焦燥に駆られやすいものです。それを忘れずに」
 穏やかであるが、厳しさを含めて鎬葵が諭すと、キズナはしっかり頷いた。
「みなさんもありがとう。それじゃ帰ります」
 キズナが言えばそれぞれが見送る。
「麻貴様、お気をつけて」
 一抹の不安を拭い去る事が出来ない御門が麻貴に声をかけた。麻貴もまた、警戒しているようで真摯に頷いた。

 麻貴達を見送った開拓者は夜が明けてから動く事にした。
「御門さん?」
 雪が声をかけると、御門は一度「今行きます」とだけ答え、またキズナ達が向かった方向を見た。
 願わざるを得ないだろう。


 どうか、どうか 何も起きませんように。