黄色い頭のアイツ
マスター名:鷹羽柊架
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 7人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2012/03/30 19:32



■オープニング本文

 神楽の都の開拓者ギルドには色々な依頼が持ち込まれてくる。
 アヤカシ退治だって様々だ。
 神楽の都開拓者ギルド受付嬢、北花真魚は呆然と依頼人を見ていた。
 相手は三十代ぐらいの普通の男性。
 いたって真面目な口振り。
 その男性は神楽の都で硝子の鉢をなんかも扱う職人との事。
「魚ですか」
「魚と申してました」
 魚が人語を話すわけではないだろう。魚型のアヤカシでも上級アヤカシなら喋っても問題はないとは思うが、そんなのは迷惑だ。
「実際は綿屋の鈴木さんなんですけどね」
「ああ、あの綿屋さんの? でも、どうしてですか?」
「彼は元々、色んな魚を集めるのが趣味な人でして、よく私に注文をくれていたんですよ」
 その魚‥‥もとい、綿屋とは面識があったようだ。
「ある日、彼は私の元に忍んで来られましてね」
「堂々とではなく? 常連さんなんでしょう?」
 首を傾げる真魚に職人は困ったように笑う。
「魚の着ぐるみを着ていたんだ」
「へ」
 ぽかーんと、真魚の間抜けな声が上がる。
「なんだか黄色い頭に胴体から尻尾にかけて白くなっている着ぐるみでね。まぁ、あの人の髪とよく似た黄色だったよ」
 その鈴木さん、元から髪の色が黄色いのだ。面白い構図ではあったが、なかなかに作りはよかったそうだ。
「彼はその姿でこう言ったんだ。「私と仲間が泳ぐための鉢がほしい」と」
「いや、無茶でしょ!」
 即座にツッコミを入れる真魚に職人は頷く。
「勿論無理だよ。気になるのは自分だけの問題のように言わなかったんだ」
「え?」
 職人の言葉に真魚が首を傾げると、思い出す。
「同じ嗜好の方がいるのでしょうか?」
 自分にも心当たりがあるので、イヤな予感しかしない。
「いや、どうにも違うようなんだ。彼はよく神楽の都の外れにある堀へと行くんだが、そこには奇妙な魚がいるんだ」
「どんなですか?」
「鈴木さんが着ていた着ぐるみそっくりの魚が三匹。かなり大きいよ」
 頭が黄色くて尻尾が白い魚らしい。
「そんな魚‥‥も、もしかして!」
 叫ぶ真魚に職人が頷く。
 アヤカシの可能性がある。
「とりあえず、依頼にしますね。あのお堀あまり人が来ないから万が一があったら大変」
 慌てて真魚は依頼書に筆を滑らせた。


■参加者一覧
櫻庭 貴臣(ia0077
18歳・男・巫
神凪 蒼司(ia0122
19歳・男・志
三笠 三四郎(ia0163
20歳・男・サ
珠々(ia5322
10歳・女・シ
リィムナ・ピサレット(ib5201
10歳・女・魔
ムキ(ib6120
20歳・男・砲
和亜伊(ib7459
36歳・男・砲


■リプレイ本文

「かみなりのかみさまですね。わかります」
 頼むから珠々(ia5322)の虎縞パンツの着用はやめてくれと真魚が只管心の中でひやひやしている。
 面妖な魚好きの男と面妖な魚の話を聞き、開拓者達は首を傾げるばかり。
「頭が黄色くて着ぐるみによく似た尻尾が白い魚‥‥って、それ魚でも人でもねえだろ」
 呆れるように言うのはムキ(ib6120)。
「電撃を使ってくるっていうから、雷魚‥‥みたいな感じ?」
 うーんと、頭の中でイメージしつつ小首を傾げるのは櫻庭貴臣(ia0077)だ。
「しかし、雷魚は雷は出さぬぞ?」
 即座に神凪蒼司(ia0122)が言えば、そっかと貴臣が納得する。
「魚型アヤカシですか‥‥きちんと始末してないと厄介ですね」
 溜息をつくのは三笠三四郎(ia0163)。
「水の中に居られちゃ何かと面倒だな」
「陸まで上ってこないなら、鈴木とらやを連れて近くで本性を見せねば目は覚まさんだろう」
 悩む和亜伊(ib7459)に蒼司が意見を出すと、真魚が一歩前に出る。
「もし連れて行くのであれば、私が鈴木さんを守ります」
「ショック療法だね〜。でも、鈴木さんって、本当にお魚が好きなんだね〜。もしかしたら魚の神様の子孫で今に魚のような顔に‥‥」
「わ、わ! リィムナちゃん! 深いアイツらのお話は色々と危険すぎます!」
 大慌てで止める真魚にリィムナ・ピサレット(ib5201)はごめんごめんとてへっと笑う。
「雷撃は頭を狙ってくるのかぁ」
 ギルドの下調べの走り書きを見つつ、貴臣が呟く。
「ええ、志体持ちの耐性を考えられるなら死に至る事はないと思いますが‥‥」
「だが、髪や皮膚の殺傷は考えられると」
 真魚が答えると、ムキが補足し、真魚が頷く。
「蒼ちゃんは髪の毛が大変になってもカッコいいから何とかなるけど‥‥」
「え!」
 ちらっと、貴臣が言うと、真魚がぎょっと振り向く。
「その可能性が否めないだろう。雷で打たれて髪が大変なことになろうと知ったことではないが」
 真魚の驚きに悟りきったかのように言い切る蒼司に貴臣が苦笑する。
「僕としてはそのままでいてほしいな」
 わかったわかったと溜息をつきつつ、従兄を貴臣に頷く蒼司という美形二人に真魚がうっとりと見ていた。
「とりあえず、鈴木さんに会って見たいです」
 まだイマイチ、イメージが出来てない珠々は鈴木の面会をミーハー丸出しの真魚に頼んだ。



 綿屋の鈴木は丁度仕事中で、客と話をしていた。仕事中なので、普通に着物に前掛けをしている。
「まっ、きいろ‥‥」
 少し離れた所にて見ていた珠々が素直に感想を述べる。
 そう、穣の髪は黄色だった。
「うん、黄色いねぇ。金髪よりもちょっと濃いかな」
 おっとりと頷くのは貴臣だ。
「天儀は色んな髪の色が居るからそう珍しくはないけどな」
 確かに色味は鮮やかだと亜伊も納得している。
「あれ〜? 鈴木さんは着ぐるみ好きじゃないのかにゃー?」
 首を傾げるのはリィムナ。穣がまるごとシリーズが好きだと思ってか、お揃いになるよう、まるごとねこまたを着ていた。
「そろそろ、話が終わるな」
 様子を見ていたムキが行こうと皆を促す。
「開拓者ギルド受付員の北花真魚と申します」
 まず、真魚が状況を説明すると穣は困惑していた。お堀の魚達はとても大人しく、話に聞くアヤカシとは全く違う。自分の方にはまだ寄って来たりはしていなかったが‥‥
「あのお堀の魚が‥‥」
「信じるかどうかはまず、その目で見た方がいい」
 きっぱり言うのは蒼司に穣は見極める為、店を他の店員に任せて開拓者達に付いて行った。


 堀の近くはやはり、人気はなく、戦いやすそうでもあった。
 水の中を見てみると、水面下でゆらゆらと何かが気持ちよさそうに泳いでいた。
「んー。数はしっかり見えないですが、確実にいますね」
 三四郎が確認すると、ムキは配置の確認をする。珠々は真魚から槍と槍を立てる金具を借り受けていた。
「あの、いいのですか?」
「私は今日、扇を持ってきてるから」
 真魚の言葉に珠々はこくんと頷き、珠々は槍を金具に差し込んで立てた。
 その間、貴臣と真魚が手分けして神楽舞「抗」で仲間に加護を与える。髪の保障まではできないが。
 蒼司が珠々の避雷針を立てた事を確認すると、小石を投げ込んで様子を見る。

 ぽちゃん  ぽちゃん

 二つの波紋が揺らいで水面を乱す。
 水面の乱れに魚がぱしゃんっと、尾鰭で水面を叩く。確かに、その尻尾は白かった。
「まだ頭は見えないですが、あんな大きいとそれっぽいですね」
「うーん、釣り師としては大物は釣ってみたいのにゃ」
 三四郎の見解にリィムナは悔しそうに呟く。釣り師は釣ってなんぼではあるが、アヤカシは速やかに倒すのが一番。次の機会の獲物を狙うしかないだろう。
 三四郎が前に出て、咆哮を使う。
 咆哮で水面が再び揺らめき、少し経ったその瞬間を珠々の超越聴覚は聞き逃さなかった!
「来ます」

 ばしゃん!

 大きく鰭を水に叩きつけて魚が三匹飛び出してきた。
「こいつは大物です!」
 一切の出し惜しみは必要なし! とばかりに珠々が散華を付与した苦無「獄導」を、ムキがマスケット銃「バイエン」、亜伊が二丁拳銃の白羽と黒羽の幻影で先制する!
 見事魚に命中したが、奴等は身悶えするだけで、一度、水中へと落ちると、反動で跳ね上がったのは二匹。
 口を大きく開け、歯並びが悪い牙を剥いて目の前の珠々に喰らいかかろうとする!
 珠々はシノビの軽やかさで跳び退り、珠々の跳んだ後、魚の牙を口ごと粉砕したのはリィムナのウィンドカッター。
 肌で感じる事しかない風の刃は音もなく魚の口を切り裂き、牙を砕いた。びちゃりと、一匹の黄色い頭がもげ落ちたが胴体はまだ動いている。
 一瞬、胴体に火花が走った瞬間、雷撃が発動された!
 全員がタイミングよく下に伏せると、雷撃は珠々が立てた槍へと落ちた。
 下調べの通り、槍は少しこげている程度で
「上顎を無くしてまでの人間への渇望ですか」
 溜息と共に呟いたのは三四郎だ。槍を低く構え、槍の長さを活かし、魚の胴体を刺し、そのまま振りきって地に斬り落とした。
 貴臣の炎魂縛武を刀身に纏わせ、二刀の珠刀を構えるのは蒼司だ。
 もう一体も地上目掛け飛び出してきた。色鮮やかな魚は苦無と弾丸に身を傷つけられても動く様は無様なだけだ。
 黄の頭を青嵐で斬りおとし、阿見で斬れた首より一刀両断に真っ二つにした。
 一度、静まると、更に攻撃で攻め立てるのはリィムナだ。
「矢だけど、針は一本で!」
 そう言って発動させたのはホーリーアロー。一本釣りを信条とするリィムナらしい心意気だ。
 祝福を受けた光の矢は一匹に当たり、該当した魚はびちびちと身体をくねらせ、水を跳ね飛ばした際、大きな飛沫となり、開拓者全員にその飛沫がかかってしまった。
「くっ、雷撃を食らっては危険です」
 三四郎が注意を促すのも虚しく、魚は雷撃を発動させる!
 高く高く跳ね上がった魚が狙ったのは後衛の亜伊!
「危ねぇ!」
 ムキが走り出し、亜伊を突き飛ばして庇おうとしたムキの手が亜伊の肩に触れた瞬間‥‥
 バチッっと亜伊に雷撃が当たってしまった!
「うっ」
 呻く亜伊。だが、その問題はそこでは終わらない。

 二人は確実に水を被っている。
 水は雷を通すもの。

「ぐ‥‥」
 ムキにまで感電が伝わり、威力は低くても二人の動きは止まり、更にもう一匹魚が飛び出してきた!
 その雷撃はもう一人の被害者であるムキに直撃した!
「ぎゃぁあああああああああっ!」
 流石に二連撃はキツかったのか、ムキの絶叫が響く。亜伊も必死に衝撃を堪えている。
 その際、骨真での痺れが透けて見えたがきっと、彼の悲痛な悲鳴が悲惨だったからきた幻影だろう。
 がくりと、二人が電撃から離されると、真魚が絶句。
 渋カッコよくワイルドに決まっていた亜伊の髪型が見事に縮れあがる!!
 勿論、ムキの髪もチリチリヘ!
「わ‥‥わりぃな‥‥火ィつける手間が‥‥省いたもんだぜ‥‥」
 やせ我慢をして雷撃の火花で少し髪が燃えている火で
 雷撃二連に流石によろめいた二人だが、まだ戦える!
「‥‥へ、この髪型だって悪かぁねぇぜ‥‥」
 ヨロめいているが、やっぱりちりちり。
「‥‥恐ろしいね」
 ぽそりと貴臣が呟いた。
「おのれ‥‥!」
 三四郎が真空刃を発動させ、魚を真っ二つにし、宙を飛ぶ首をすかさず槍の穂先で刺し、地に叩きつける!
「きゃははははは! へーんなあったまー!」
 けらけらと笑い飛ばすのはリィムナ。
「お子様にはまだわからんか」
 にやりと笑う渋オヤジ系の亜伊の実年齢が二十二歳である事は受付員の真魚しか知らなかったりする。
 余裕の亜伊にリィムナがむぅっとなる。
「後衛だろうが容赦はないんだね‥‥」
「守りましょう、神凪さんの髪を!」
 ぐっと、拳を握りしめる真魚に貴臣が頷いた。
 もう一度、貴臣が神楽舞「抗」を蒼司に発動させる為、舞う。
 まだ魚は二匹残っている。
 二匹は待つこともなく、跳ね上がり、一匹の身体に一瞬火花のように雷が走る。即座に雷撃が落とされ、その先は蒼司だ!
「く!」
 あわや、蒼司がちりちりに! と思われたが、蒼司に淡い光が包み込む。
「え?」
 蒼司以外がきょとんとしたが、彼はそのまま突き進み、桔梗を発動させる!
 舞うが如くの美しい蒼司の刀が振るわれると、炎を纏った風が魚を切り裂き、炎が魚の身体を燃やした。
 最後の一匹はまだ生存している。
 前にでたのは珠々だ。
「こっちですよ!」
 珠々が最後の一匹の相手をしようし、気を引かせるが離れていた。
「ご指名だ!」
「さっさといってやれ!」
 己のダメージを省みず、ムキと亜伊が銃を撃ち、ダメージを与えるのと同時に弾丸の威力を使い、忍刀を構える珠々の方へと押しやる。
 魚は撃たれた衝撃で身悶えし、雷撃を珠々に落とした!
「これしきのこと‥‥っう!!」
 覚悟は完了している珠々はそのまま雷撃を受けた!
 当然、珠々の緑がかった美しい黒髪はちりちりに‥‥!
「わざわざ受けに‥‥魚は大人しく銛に突かれるものにゃー!」
 珠々の潔さに驚き、リィムナが再びホーリーアローを発動させ、魚の胴体を突き破る!
「その通りですね」
 三四郎も自身の槍で魚を突き刺した!
「料理は得意だが、貴様のような魚を捌くきはしない。切り落とすのみだ」
 冷徹な声は蒼司のもの。
 あっけなく、最後の一匹は皆の手によって倒された。



 戦闘終了後、離れていたところで見ていた穣が疲れて座り込む開拓者達の方へと向かう。
「み、皆さん‥‥だ、だいじょうぶでしたか‥‥」
 一番無傷なはずなのに一番死にそうな顔をしている。
「うーん、衝撃強かったかな」
 白霊癒を発動させて、ムキの治療をしている貴臣が苦笑する。
「そうだろうな。俺達開拓者は慣れていても、そうではない者にとっては衝撃ではある」
「好きな魚と戦ってますからね」
 ため息混じりに三四郎が呟く。
「なぁに‥‥気にする事はねぇよ。イカした髪型になったしな」
 にやりと笑うムキだが、やはりダメージは残っている模様。
「鈴木さん、あの魚がどんなのかわかったかにゃー?」
 首を傾げるリィムナに穣はこくこく頷く。
「今まで、口を開けたところを見たことがなくて‥‥あんな、あんな牙があっただなんて可愛くありません‥‥」
 がっくり肩を落とす穣に全員がそこかとツッコミを心の中で入れる。
 確かに、目はくりくりとしてて可愛かったが、アヤカシはアヤカシ。
「人類にはまだ早すぎる願いだと思います」
「そうだな。せめて、何か異なる方法を模索すると良いと思う。如何しても魚と共に泳ぎたいと願うのならば」
 珠々が言えば、蒼司が更に諭せば、穣は静かに頷いた。

「しかし、思い切ったね」
 リィムナが珠々に言えば、彼女はこっくりと頷く。
「若いんですからまだ取り戻しがききます。やれることはやっておいた方がいいと師匠の一人が言ってました」
 勤勉な珠々らしいコメントにムキが「真面目だな」と感想を呟く。
 ちりちり髪が真面目かどうかはさておいて。
「いい師匠だな」
「やりすぎて青空にキラっと決めてた師匠でした」
 やりすぎは厳禁です。
「でもよ、さっきのあれって‥‥」
 次に治療を受けている亜伊が言った言葉に全員が思い出す。
 今、貴臣は三つ目の術を亜伊に発動させている。
 だとすれば‥‥
「おーい?」
 首を傾げるムキに該当者が「だって、だって!」と該当者が声を上げる。腐った女子としては見目麗しい殿方がちりちりになるのは耐えられなかっただろう。ムキと亜伊は意外にも似合っていたという印象だったようだ。
「僕としては、蒼ちゃんの髪が無事でよかったけどね」
 にこっと、貴臣が笑い、その場が治まる。当の蒼司はそんな従弟を横目でちょっと呆れつつも困ったような視線をよこしている。


 ともあれ、開拓者の皆の説得もあり、穣は魚への愛はほんのり収まり、魚を小さな鉢に入れて愛でる方へ戻ったようだ。

 髪が大変になった開拓者達の髪の行方だが、真魚が椿油で髪を延ばし、髪を厚い布で少量ずつ包み、熱した平らな火鋏で火のしの要領で髪を痛めないように丁寧に戻してくれたようだ。
「もうちょっと楽しみたかったのですが‥‥たくさん髪飾りも挿せますし‥‥」
 残念がる声を無視し、真魚は三人の髪を戻していった。