感謝を貴方達に
マスター名:鷹羽柊架
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: やや易
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2011/12/31 21:33



■オープニング本文

 師走に入ると夜の冷え込みは酷くなる。
「寒い‥‥」
「腹減った」
「ここに来ると落ち着くな」
 理穴監察方の役所より出てきた三人が近くの夜鳴き蕎麦の屋台に入る。
 蕎麦を茹でる湯の湯気を顔にかかるのが気持ちいい。
 それぞれに出された蕎麦は、海老天三本、油揚げ二枚、天かすと豚肉がそれぞれ乗っていた。
 ふうふう息を吹きかけつつ、三人が無心に蕎麦を啜る。
「羽柴、お前これ食ったら帰れよ」
「帰ったとしても直戻るから仮眠室で寝ます」
 柊真が麻貴に言えば、麻貴が反抗する。
「お前、この間から一週間仮眠室が部屋だろ。着替えやら、お茶とか持ち込んでいただろ」
 檜崎に言われて麻貴がうぐっと、肩を竦める。
「沙穂は兎も角、欅が真似するから帰れ」
 柊真の言葉に麻貴は渋々了承した。
 年少組の欅は麻貴にとって妹のように可愛らしい存在だ。勿論、柊真や檜崎にとって護り、育てたい人材だ。
「そういえば主幹、そろそろウチの連中の志気が下がってきてますよ」
 思い出したように檜崎が言えば、柊真が顔を顰めた。
 柊真が追っている理穴地方の豪商と役人の不正がひと段落した。
 だが、監察方は他にも仕事を抱えている者だっている。
 年越し前の追い込みということで、捕縛の仕事も多々ある。
 四組は遊軍でもあるので、他の組の手伝いにも借り出される。
「そろそろとは思っているんだがな‥‥うーん、今度、他の所から受けた盗賊の捕縛があるんだがな‥‥」
「主幹、それは私達三人でやりませんか?」
 麻貴の言葉に柊真が頷く。
「檜崎はどうだ?」
「俺は大丈夫ですよ」
 柊真の言葉に檜崎が答える。
「ですが、俺達がいないと気を使う連中もいますから、開拓者を呼んでみてはいかがかと」
「今年一年、開拓者には世話になったからな。是非来てほしいものだ」
 組員を思案する檜崎が提案すると、柊真が頷く。


■参加者一覧
滋藤 御門(ia0167
17歳・男・陰
鷹来 雪(ia0736
21歳・女・巫
御樹青嵐(ia1669
23歳・男・陰
紫雲雅人(ia5150
32歳・男・シ
珠々(ia5322
10歳・女・シ
楊・夏蝶(ia5341
18歳・女・シ
溟霆(ib0504
24歳・男・シ
緋那岐(ib5664
17歳・男・陰


■リプレイ本文

 開拓者を出迎えた麻貴は少々困惑顔だ。
「麻貴様、いつもいつも水臭いですよ」
 しょんぼりとした顔をしているのは滋藤御門(ia0167)。美人がしょんぼりする姿が苦手な麻貴には戸惑ってしまう。
「いや、私達だけでも十分出来る事だから、手伝ってもらわなくても‥‥」
「それを水臭いというんですよ」
 麻貴の言い訳を穏やかな口調でずんばらりと斬り捨てるのは紫雲雅人(ia5150)。
「同じ事件を追ってきた私達なんですから、どうぞ、頼ってください」
「大体、三人がいてこその忘年会なんだから、手伝うわよ」
 更に白野威雪(ia0736)と楊夏蝶(ia5341)の押しもあり、麻貴はぽっきり折れてしまった。
「では、行ってらっしゃい」
 御樹青嵐(ia1669)の一言もあり、麻貴は御門、雅人を連れて行ってしまった。


「さーって、さっさとやるわよー」
 夏蝶が腕をまくって宴会の準備をしようとしたが、買出し組みがいるので、彼らが戻ってきて下拵えをしてからになる。
「夏蝶さん、何を作っているのですか?」
 珠々(ia5322)が首を傾げると、夏蝶は「差し入れ」とだけ言った。
 米を炊いている間に具の用意をする。
 梅や昆布は買ってきたもので出来るが鮭は焼かねばならない。鮭の焼き具合を見つつ、天むす用の海老天を作る。
 先に砂糖醤油で軽く蒸し焼きした海老に衣をつけて天ぷらにする。
 麻貴は濃い目の味が好きだと前に聞いた事があった。
 少しずつ、釜の中が騒がしくなってきた。
 

 御門と雅人を連れてきた麻貴は柊真と檜崎に白い目で見られて頭を抱える。
 意外にもあっさり許す柊真が地図を広げた。
 場所は理穴でも高級とも言える住宅地。ここの盗賊の頭が監察方の他の組が担当している事件の参考人‥‥理穴の役人と昔なじみのようであり、今は使っていない愛人に与えた別邸らしい。
 家の間取図も監察方で入手済み。
「ま、細かい指示を言わなくても分かるだろ。後は任せる」
 放任よろしく柊真が言うと、二人はくすくす笑いつつ、立ち上がる。
「少しでも休んで下さいね」
 三人共、志体はあれども、どうやら随分と無理をしてきたらしく、疲れの色が見え隠れしている。
 付き合いがもう三年近くなる御門と雅人だから信頼して指示を出さずに自分達は暫しの休息がとれるのだ。

 盗賊達がいる屋敷に着いた御門と雅人は目で合図をして、周囲に見張りがいないか確認する。
 いない事を確認した雅人がさっと中に忍び込む。いつもの着物に袴姿ではなく、闇色の忍び装束の姿。
 塀から屋根に飛び移り、様子を伺う。中は静かに談笑をしているようだ。
 柊真達から話を聞けば、平素は慎ましやかに街で暮らしているが、一度お勤めに出ると、畜生働きを行う一派らしい。
 中には幾多の修羅場、刃をくぐり抜けた者もいる少数精鋭ばかりとの事。
(「それにしたって、三人でやるには分が悪いが‥‥あの三人だからこそやれるのか」)
 遊軍である四組は武術に優れる者が多く、その中でもあの三人は抜きん出て強いらしい。
(「とりあえずは抜け道の確認でもしましょうか」)
 屋根裏を通り、雅人は探索に動いた。
 一方、外で人魂を召還し、周囲を見回っているのは御門だ。
 役人への警戒の為、中で大人しくしているのだろう。
 無闇に見張りを立てるよりは踏み込まれた時に踏み込んで来た奴らを全員殺した方が都合がいいと判断しているのだろう。
(「危険ですね‥‥」)
 ふと、式神から見える視覚より雅人の姿を確認した。
 彼が御門の前に降り立つのを見計らい、御門は感覚を戻す。
「抜け道はありましたよ」
「こちらは一応見回ってましたが、中にいるのは柊真様の話通りでした」
 二人が得た情報を交換し終えると、揃ってため息をつく。
「志体持ち居なさそうな事を言って、結局いたじゃないですか」
 気を使っての言葉というのは分かっているが、志体居る事は言ってほしかった。
「というか、全員志体持ちですよ‥‥シノビでしょう」
 更に雅人が言えば、二人はとりあえず、三人の元へ戻った。


 買出しは冥霆(ib0504)と緋那岐が荷物持ちで、白野威雪(ia0736)と夏蝶が青嵐から手渡された覚書を手にしていく。
「雪君と買いだしか。沙桐君が聞いたらどんな顔をするかな」
 くすくす一人ごちる冥霆に雪が首を傾げる。
「君はとても沙桐君に大事にされているからね」
 そう一言言えば、雪が思いっきり顔を赤くしてしまう。
「そそそそそのようなことはっ」
 慌てふためく雪に冥霆は堪えきれず、笑いながら意地悪しすぎたと謝った。
「よ、鍋組も買い物か?」
 甘味物の買い物をしている緋那岐(ib5664)が声をかける。
「はい、青嵐様のお料理がどんなものになるかとても楽しみなのです」
 嬉しそうに雪が言えば緋那岐が確かにと頷く。
「緋那岐君は何を作るんだい?」
 溟霆が言えば、緋那岐は「柚と生姜の蜂蜜煮」と応えた。
「お湯で溶かして飲めば直に温まるし、クッキーとかと挟んでも美味いし」
「カステラに挟んでも美味しそうです」
 うっとりする雪の様子を見た溟霆がくすくすと笑う。
 甘味好きの雪がそういうのだからきっと美味しいのだろう。
 三人で手早く買い物を終えて会場へと持っていく。
「夏蝶さん、いかがされましたか?」
「うん、三人に差し入れいれようと思って」
 おにぎりを握っている夏蝶が応えると、雪がお茶を入れると手伝ってくれた。
 緋那岐も握るのに参加し、溟霆と珠々が三人分に分けて包む。
「行ってきます」
 駆け足で夏蝶が走り出してしまった。 


 三人はもう動ける支度をしており、雅人が簡潔に情報を伝えると、十分だと言った。
 そこから正面と裏口に分かれて中へと入る。
 賊達は突然の襲撃者にも動じていない。
「改方代理として参った。大人しく縛につけ!」
 正面組で押し入った柊真の鋭い声が響くと、賊達が次々と刀を抜いた。
 手近な一人が柊真に切りかかる。手にしていた刀で柊真が軽く受けたまま手首を返して力の勢いを転換する。
 力の流れが変わり、その重力に逆らえずに男は壁に激突する。
「怪我だけはするな」
 柊真と檜崎の後ろで援護をしている御門に柊真が配慮すると、御門は頷く。
 時間をずらして雅人と麻貴の裏口組が入ってくる。
 麻貴が今回手にしているのは刀だった。
 一見すれば、優男二人組であったが、麻貴の力は男の力を優に越えていた。
 賊の一人と切り結び、即座に刃を離して上段から男の肩に一太刀を入れる。
「‥‥人の事を言えませんね‥‥」
 肌を刺すヒリヒリとした殺気と殺す為に迷いのない太刀筋に苦笑いを浮かべていたのは雅人だ。
 相手は同じシノビ。細かいものはあれども、癖はそれなりに分かる。
 狭い室内戦でシノビが有利なのは小回りが利く事。
 雅人はフェイントをかけつつ、相手と切り結ぶ。
 相手も雅人の出方を様子見をしており、雅人は相手の視線に気づきつつ、懐に隠している苦無を相手の利き手に刺してその手を掴み、背負い投げた。
 はっと、雅人が麻貴の方を向けば、彼女は三人目‥‥御門が投げた呪縛符で動けなくなった相手を投げ飛ばしていた。
 ふと、御門は檜崎が戦っている姿を始めてみるかもしれないと頭の隅で思う。
 同じ陰陽師であるが、その体術は麻貴にも劣らない。
 気がつけばもう、最後の一人を柊真が仕留めた。
 圧倒的な強さを見せる三人を目の当たりにした御門と雅人はどこか不安さを心の中に見つけた。

「えー、もう終っちゃった?」
 差し入れまで用意して来た夏蝶が駆けつけると、麻貴達は賊を駆けつけてきた役人に引渡しし、もう帰り支度をしていた。
「だから言っただろう」
 苦笑する麻貴に夏蝶は拗ねた顔をする。
「皆で用意したのよ」
 差し出したのはまだ温かいお握りとお茶。
「いや、それは嬉しい」
 柊真が言えば、お礼を言うが早いか三人に包みを渡す。
「え、鍋用意しているのよ!」
 驚く夏蝶に三人はもう食べ始めている。
「むぐ、んま。むぐーっぐっふ」
 食べながら話す麻貴に夏蝶がお茶を渡すと、大丈夫と言い直す。
「腹減ってるし、一度軽く入れた方が更に飲み食いできるからな。天むすは温かい内が一番だ。美味い!」
 笑顔で頬張る麻貴に夏蝶は絆されるように見つめていた。


 時間は巻き戻って、夏蝶が出た後、四組でお仕事中毒と噂される珠々は今回はお料理に挑戦。
 青嵐が簡潔に野菜の切り方を教えると、珠々はあっという間に覚える。
「切り方は大丈夫です。美しい切り口は引き際にあります」
 横でどこをツッコミを入れたらいいのか悩む緋那岐は無言のまま茹でた柚の皮を千切りにしている。
 珠々の野菜の切りっぷりは見事なもの。
「具は大きい方が喜ばれます」
 きっちり白菜の芯は食材に使う。
 緋那岐の柚と生姜の蜂蜜煮に挟むカステラを買ってきた雪が珠々の見事な切りっぷりを誉めている。
「珠々さん、野菜の切り終わりが終われば、肉も切ってくださいね。今回はつみれにしますから」
 青嵐が細かい香味野菜を切って珠々に声をかける。
 会場で卓や食器の準備をしている溟霆を見かけた年少三人組が手伝いに出る。
「何だか悪いね」
「私達にとっては皆様も私達に近しい方々。使って下さいませ」
 溟霆が謝れば、欅が首を振る。
 さぁ、少しずつ、温かい匂いが漂ってくる。
 集まってきた組員も誰が作ってくれているのか直に分かり、楽しみだと皆が笑顔になる。

「やはり、まだ戻りませんね」
 仕方ないと青嵐が始めようとすると、他の組員が「待っても構わない」と声をかける。
「いえ、皆様のもてなしがメインです。先に頂いた方がきっと、麻貴さんが慌てて駆けつけますよ」
 青嵐が笑うと、皆もつられて笑う。
 組の中でも年長の人物が祝杯の言葉を挙げて全員が宴会を始めた。
「つみれうめぇーーっ」
「ぶつ切りのお肉が蕩けそうです〜」
「欅、早くしないとなくなるわよ」
「舞茸の香りが高いなー」
「樫伊、肉ばっか食うな!」
 組員達の会話を開拓者達が微笑ましく見ている。
 ピクリと動いた珠々が立ち上がる。
「珠々ちゃん?」
 欅が声をかけると、珠々は一目散に玄関へと向かった。
 玄関には麻貴達が戻ってきていて、珠々は正座で三つ指をする。
「お帰りなさいませ、まずは風呂に入って温まってください」
「先に主幹と副主幹どうぞ。私はこの子で温まります」
 珠々が言えば、麻貴が珠々を抱きしめ、しっしっと手で追い払っている。部下が言う台詞ではない。
「にゃーー!」
「ちっ、手が早い奴め。檜崎、入るぞー」
「後でちゃんと入って来いよ」
 舌打ちをする柊真と檜崎が風呂場へと向かう。
 待つ麻貴は珠々が足湯を用意しているという事で珠々を抱えたまま自分で足湯の用意をしようとしたら、夏蝶が用意してくれた。
「ん、この香りはカミツレか、温まりそうだな。美冬様がこの手の薬草を乾かして香の物にするのが得意なんだぞ」
「そうなんだ」
 麻貴は珠々を抱っこしたまま足湯に浸かり、夏蝶も向き合って足湯に入っている。
「お疲れ、これ飲んで温まって」
 麻貴達の帰りを知った緋那岐が麻貴と夏蝶に柚の蜂蜜生姜湯を渡す。
「おお、これ好きなんだ。ありがとう」
 ふぅふぅ冷ましつつ、麻貴が柚の蜂蜜生姜湯を飲む。
 柊真達が上がると、麻貴が珠々を抱っこしたまま入ろうとしたが、柊真に奪われてしまった。
「羨ましいんだか、そうじゃないんだか」
 そんな様子を見ていた御門が苦笑すると、雅人はそうじゃない方がいいと応えた。
「早かったね」
 溟霆が雅人に酒を注ぐと、頷いた。
「三人が恐ろしい程早く片付けてましたよ」
「夏蝶君、急いで行ったんだけど」
 意外と言わんばかりに溟霆が言えば、雅人から返盃を貰う。
「柊真さん、今年はお疲れ様でした」
 青嵐から酌を貰って柊真は「今年も世話になった」と礼を言う。膝の上には珠々がいる。
 風呂から戻ってきた麻貴も色んな人達から酌をもらっている。
 ある程度食べ飲みすると、誰かが「何かやれー!」と叫びだすので、夏蝶が立ち上がる。
「じゃ、舞うわ。みかどん、お願いね」
 夏蝶が言えば、御門は心得たというように笛を取り出した。
「沙穂さん、欅ちゃんも!」
 隣の席の麻貴の手を引っ張りつつ、柊真から珠々を強奪し、夏蝶が声をかけていく。
 明るい笛の調べに色とりどりの華が咲き誇る舞はとても綺麗であった。
 舞を終えて、雪がお酌に来た。
「やぁ、雪ちゃん。沙桐は元気だったかい?」
「ええ、この間もお会いしました。女装をされてて、とても麻貴様そっくりでお綺麗でした」
 雪の言葉に麻貴は本当に本当に嬉しそうな笑顔で微笑む。離れて暮らす片割れを麻貴は誰よりも愛しているのを分かる笑顔だ。
「でも、折梅様には内密だったでしょうか‥‥?」
「何を言う、私に言っても沙桐はシバくよ。そんな楽しい事を私に言わずに‥‥」
「けんかはいけませんっ」
 慌てる雪に麻貴はカラカラと笑う。
「沙桐様はお仕事忙しいのですね。それでも会えるのは嬉しいのですが、その嬉しさをどう伝えていいのか、触れたりしていいのか分からなくて‥‥」
「すまないね。沙桐は今、火宵の件で色々と動いてもらっているんだ。ばーさまにもね。奴が、鷹来家の近くを調査しているから、その件で洗って貰っているんだ」
「そうだったのですか」
 はっとなる雪に麻貴は「沙桐には嬉しい気持ちを素直に声を出せばいいんだよ」とだけ言った。

 御門が柊真の所にきて、お酌をする。
「お役に立てなくてすみません」
「いきなりどうした。お前はいつだって麻貴を支えている」
 謝る御門に柊真が驚く。
「ですが、麻貴様を悲しませました」
「それは関係ない」
 ぴしゃりと言い切る柊真に御門は困ったように微笑む。
「来年こそは麻貴様と祝言を挙げてくださいね。柊真様、どこに行くか不安で」
 御門の言葉に柊真は苦笑してしまう。
「それこそ麻貴を泣かせる事になるぞ」
 きょとんとなる御門に柊真は何故、麻貴が悲しんだか思い出せと言った。
「俺が祝言を挙げようと思えばいくらでも出来る。それをしないのは麻貴が沙桐と共にありたいと強く願っているからだ」
「惚れた弱みですか」
 笑う御門に柊真も笑って杯を差し出した。

 溟霆とのんびり酒を飲んでいた雅人に麻貴が声をかける。
「二人とも今年はありがとう」
「何もしてないよ」
 麻貴の言葉に溟霆が笑う。
「来年もありがとうと言われるように手伝ってくれ」
 ああ言えばこう言うの麻貴に二人が笑いながら酌を受ける。
「また、来年も開拓者として記者としてありたく思います」
 雅人が言うと、麻貴は微笑む。
「君は私の筆にして声だからな。時間がかかっても私はいつでも待っているさ」
「そうでしたね」
 強欲な片翼に雅人は微笑む。


 沢山の笑顔と温かい料理は何よりも美味い酒は何度重ねても楽しいもの。
 百度だけではなく、二百、三百とあり続けたいと誰かが願うだろう。
 夢の夢の、更に夢の向こうにもあるようにと溟霆は微笑みと共に杯の酒を飲み干した。