光雪の防衛
マスター名:鷹羽柊架
シナリオ形態: ショート
危険 :相棒
難易度: 普通
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2011/11/30 00:15



■オープニング本文

 三茶から奏生へと向かう事になった赤垂は首都の大きさに目を瞬かせた。
「麻貴さん、どこへ向かうのですか?」
 赤垂に合わせて歩調をゆっくりにしている麻貴を見上げた。
「私の家だ」
「急に押しかけておうちの人にご迷惑かかりませんか?」
 心配そうに問う赤垂に麻貴は微笑む。
「気にすることはない。君のような賢い子は大歓迎だよ。義姉上がきっと厚く歓迎してくれる」
「僕にできる事があれば、言ってくださいね」
 健気な赤垂の言葉に麻貴はくすくす笑う。

 そうして着いた羽柴家を見た赤垂は呆然とした。
 多分、雪原一家の屋敷より大きい。
「ここですか?」
「そう、ここ。義姉上、只今帰りましたー! お客人を連れてきております」
 麻貴が声を上げて客人の事を告げると、いくつかの足音が聞こえた。
「お帰りなさい、麻貴。お客様は?」
 少し早歩きで現れた葉桜に赤垂は呆然と見上げる。
「おひめさま?」
 確かにお姫様といっても過言ではない身分ではあるが、葉桜はもう結婚している。
「まぁまぁ、うれしい事を仰られるお客様ですわね。私は真神葉桜、麻貴の義姉になります」
「義姉上は結婚されててな。旦那様と一緒にここに住んでいるのだ」
 麻貴の説明に納得すると、慌てて自分も挨拶をする。
「ここで話をするのもなんですし、お疲れでしょう? 食事はどうしたの?」
「まだ食べてません。何か残ってますか?」
 実を言うと、現在はかなり遅い時間だったりする。
 葉桜は任せてとだけ言って台所へと向かう。
 他のお手伝いさんが赤垂の部屋に案内された。
 とても掃除が行き届いた広い部屋。
「ぼく、ここにいてもいいのですか? 何でもお手伝いします」
「あら、お客様ですもの。何かあれば私めどもに声をかけてください」
 必死そうに言う赤垂にお手伝いさんは優しく微笑む。
「葉桜様が食事を用意しております。荷物を置いたらご案内致します」
「はぁ‥‥」
 まさかの待遇に赤垂は戸惑っている。

 いつもの癖で食事の用意をしようとした赤垂に葉桜達は微笑ましくも何もしなくていいと言ったが中々聞いてくれない。
 どうにも赤垂は落ち着かないようだった。
「わぁ、おいしい‥‥誰が作ったのですか?」
 赤垂が言うと、葉桜が名乗る。
「義姉上の料理は格別だからな」
「ぼくに料理を教えて下さい!」
 麻貴が褒めると、赤垂が葉桜に志願する。
「私の料理でよろしければ」
 葉桜が笑顔で頷いた。
「でも、赤垂さんは今回、陰陽師の修行の一環で来られたのですよね」
「はい」
 ふと、思い出した葉桜が言えば、赤垂はこっくりと頷く。
「開拓者の皆さまをお呼びして、赤垂さんの修行のお手伝いをして頂いたらいかがでしょう? 修行が終わったら温かい食事を作り、皆さまを持成してはいかがでしょうか?」
 葉桜の言葉にそれはいいと麻貴は頷く。
「ぼくなんかの料理で大丈夫かな‥‥」
 心配する赤垂に葉桜は微笑む。
「大丈夫ですよ、心を込めればきっと」
「はいっ」 
 葉桜の言葉に赤垂が頷いた。


 移動の疲れもあったのか、赤垂は風呂に入った後、直に眠ってしまった。
「健気で可愛らしい子ね」
 ふふっと、葉桜が麻貴に言えば麻貴は頷く。
「雪原一家の為に身を粉にして奮闘していると聞きます。しかし、無粋な連中も居るもんだな」
 麻貴が向いたのは塀の向こう。
「‥‥強くなるには実戦で磨くのが一番ではありますが‥‥」
「彼らが見せたくないのは抗争の恐ろしさ。人数は三人のようです。開拓者に聞いてみるかな」
 心配する葉桜の言葉に首を振った麻貴が呟いた。


■参加者一覧
北條 黯羽(ia0072
25歳・女・陰
風雅 哲心(ia0135
22歳・男・魔
紫雲雅人(ia5150
32歳・男・シ
楊・夏蝶(ia5341
18歳・女・シ
和紗・彼方(ia9767
16歳・女・シ
オドゥノール(ib0479
15歳・女・騎
緋那岐(ib5664
17歳・男・陰
丈 平次郎(ib5866
48歳・男・サ


■リプレイ本文

 羽柴家に集まった開拓者達は麻貴、葉桜、赤垂に迎えられた。
 開拓者を迎えた赤垂は見た事ある顔に更に笑顔を大きくして出迎えた。
「覚えてくれてましたか」
「はいっ」
 一年も前の事だし、覚えていないかもしれないと思っていた紫雲雅人(ia5150)だが、赤垂はきちんと覚えていた。
「男子三日会わざれば刮目して見よを体現しているか楽しみさね」
 一年前に会った事がある北條黯羽(ia0072)が赤垂の見た目の成長振りを見て、楽しく言葉で遊ぶ。
「その通りだな。後で見るのが楽しみだ」
 オドゥノール(ib0479)も赤垂の成長に驚きつつも楽しみにしているようだ。
「麻貴様、お久しぶりです♪」
「お久しぶり〜♪」
 和紗彼方(ia9767
と楊夏蝶(ia5341)が麻貴に声をかける。
「元気だったか」
 久しく見る知った顔に麻貴に笑みが零れる。
「俺もいるって」
「来てくれたのか、助かる」
 緋那岐(ib5664)が手を上げると、麻貴は嬉しそうに笑う。

「しかし、穏やかではないな」
 溜息混じりに呟くのは丈平次郎(ib5866)だ。
「そうね。三茶の街って本当にいい街なのよ。それを護る雪原一家だって本当にいい人達なのよ。『誘拐』して人質だなんて許せない」
 ぐっと、拳を握るのは夏蝶だ。
「ああいう連中はサッとやるのが一番いい。早く赤垂の成果が見たいからな」
 きっぱり言い切る。オドゥノールに雅人が頷く。
「先に調べてきますよ」
 先に雅人が出て行き、続けて出ようとした夏蝶が出て行った。

 一方、赤垂修行班はいきなり実地ではなく、話し合いから始まっていた。
「術士というのは基本は後方からの攻撃や支援が主な仕事だ。だがそれをわかっている奴は、真っ先に潰そうとしてくる。そうなったら、お前はどう動く?」
「呪縛符で足止めします。至近距離だったら武器で戦います」
 風雅哲心(ia0135)は赤垂の言葉に頷く。
「そういう手もありだろう。近接に対する術や武器を手に戦うのも覚えて悪い事はない。武器は使えるのか?」
「今は当代より教わってます。我流だそうです」
 赤垂が答えると、木刀で合わせようという事で、哲心が相手をつとめる。太刀筋は悪くない。
「だが‥‥」
「わ!」
 くるっと、手を返した哲心が少し強く赤垂の木刀に打ち込むと、赤垂は驚きと、意外な痺れに驚く。
「例え、木刀でもしっかり打ち込まないと本来の戦いの場であるなら怪我どころではない」
 赤垂の優しさの隙を哲心が見抜いて叱咤すると、赤垂はうっと、唸ってしまう。
「さぁ、しっかり打ち込んで来い」
「はいっ」
 哲心の言葉に赤垂は頷いて思いっきり哲心の木刀に木刀を打ち込んだ。


 羽柴家を出て、街の聞き込みをするべきかと思っていた雅人だったが、あっさりと羽柴家近辺に張っている無法者達を見つけた。
「麻貴さん、わざと付させましたね」
 ぼそりと雅人が呟くと、無法者達の方へとすたすた歩きだし、前を通り過ぎる。
 無法者達も羽柴家に入ってきた者達の一人と見ていて、様子を見ている。
「楊さん、私は残りの面子をさがします」
 普通ならば他者に聞えないほどの小さな声で雅人が言うと、街の方へと歩いていった。まだ羽柴家の敷地内にいた夏蝶は超越聴覚で雅人の声を拾って無法者の様子を窺がう。
 一人が雅人を付け出すと、もう一人が残る。
 雅人も尾行には気付いており、付かず離れず歩いている。尾行者の後ろから更に夏蝶がつけている。
 その間に尾行の者の姿をさりげなく確認し、宿辺りを当たっていると、宿の軒に外套がぶら下がっていた。
 今、雅人を尾行している男が着ている外套と同じものだ。
 宿の軒に目印を吊るしているという事は待ち合わせという事だ。
 雅人はちょうど出てきた女中に道を聞く振りをしつつ、珍しい笠だと話をしつつ、連れが後から来るのかを聞き出した。
 この距離で相手に聞かれる事はないだろうと判断した雅人は難なく女中と別れて大通りに出た。
 雅人は大通りでふらふらと物色しつつ、羽柴家へ戻った。
 一方、夏蝶はそのまま宿に忍び込んで部屋の確認。
 現時点では部屋にいるのは二人のようだ。
 羽柴家にいたのは二人だったので、今の所は計四人のようだ。
「親分、今頃緋束を倒してますかねぇ」
「大丈夫だろ? 危険なら連絡で三人まわすって言ってるんだから」
 部屋で暇そうに将棋を打っている二人の会話を聞いて、夏蝶はその場を気付かれないように辞した。

 戻ってきた雅人と夏蝶の報告を聞き終えると、黯羽がさっさと終わらそうと立ち上がる。
「夜も見張ってるのかねぇ」
 麻貴に尋ねると、麻貴は否と答えた。
「様子見中なのかもしれん。三茶を狙う本隊から応援が来るという話ならば、援軍を待って襲撃とは思うが」
「援軍か‥‥厄介だな」
「私の知り合いが今、三茶の方に手を貸している。他にも開拓者を集めているからな。大丈夫とは思うが、今の所は情報が来ていない」
 考え込む平次郎に麻貴が状況を口にする。
「便りがないのは良くやっている事という事で早くやりに行こう」
 オドゥノールが言えば、全員が頷いた。


 一方、修行組の先生は緋那岐となっていた。
 同じ陰陽師という事で、赤垂が現在練習中の人魂のお手本を緋那岐が見せる。
「まずは定番の小鳥だな」
 符から呼び出された小鳥の羽は緋那岐と同じ髪の色だった。
「鳥は便利だけど、夜に小鳥が飛ぶのは違和感があるし、室内だと鼠が一番いいかな」
 勉強場所は羽柴家の中庭であり、葉桜が縁側で赤垂と開拓者のやり取りを微笑ましく眺めている。
「秦国のとある島に住むやつ」
 つるんとした不思議な形の生き物を形成し、赤垂が珍しそうに目を輝かせる。
「だけど、大きさはコレよりもっとでかい」
「え」
 きょとんとする赤垂に緋那岐は大きさの限界を教える。
「そうなんだ」
「基本、人魂の用途は偵察だからな。ちっちゃい奴の方が何かと小回りが利いてていい」
 しょんぼりする赤垂に緋那岐が助言をするとこっくりと頷く。
「とりあえずは呪縛符が出来るんなら基本は同じ、気持ちを落ち着かせる事。召喚が完了するまで集中直は途切れさせるな」
「途切れたらどうなるの?」
 傍らで彼方が尋ねると、緋那岐は目線を逸らす。
「とんでもない謎生物になる」
 どうやら経験済みのようだ。
「とりあえずはやってみろ。失敗だって経験のうちだからな」
 精神を集中して赤垂が呼び出して行く。符が燐光を帯びて姿を変えていく。
 召喚に成功したその姿は真っ白な小鳥だ。瞳だけが赤の。
「上出来だな」
 緋那岐が誉めた瞬間、塀の外で音がした。
 勘付いた哲心が彼方に目配せをすると、彼方が笑顔で赤垂に話しかける。
「赤垂君、ボクを追って、見つけるんだよ」
 にっこりと彼方が言えば、赤垂はこっくりと頷くなり、彼方は塀の音とは逆の方へと走り出し、屋根に上り、伝っていく。
 小鳥とシノビの速さは歴然ではあるが、彼方は式神の様子を見ながら移動している。

 塀の向こうでは麻貴の姿を見た男達が慌てていた。
 足元に投げられる手裏剣に男達が声を上げる。
「うわ!」
「ちょっと、静かにしてよ。修行中なのよ」
 注意は塀の上から降ってきた。
 視界に入るのは揺れる赤の髪。
 男は抵抗する暇もなく地に組み伏されてしまった。
 もう一人は麻貴に刀を喉元に突きつけられて固まってしまっている。
「先行ってるぜい」
 黯羽が言えば、麻貴が了解と答える。


「どうやら猫が暴れていたようだ」
 様子を見に行った振りをした哲心が言えば、赤垂はほっとして、そのまま人魂の修行へと意識を向ける。
 何度かやっていると赤垂も動かし方のコツを覚えてきたようで、より小鳥のようにスムーズに飛ばせるようになっていた。
「次はちょっと難しくするよ」
「がんばる!」
 ぱっと、彼方がまたいなくなると、時間をずらして赤垂が小鳥を呼び出そうとすると、緋那岐がこっそり「リスにしてみろ」と言葉をかける。いたずらっ子のような笑みを浮かべて。
「慣れてきたからちょっとしっかり隠れないとね」
 彼方が物置小屋の中に入り込み、赤垂の式神を待つ。
 少しだけ戸が開けてあるが、一見するだけでは彼方がいるかどうかは分からないように隠れている。
 暫くすると、小さな足音が聞えた。
 超越聴覚を使っていないからどんな音かは分からないが小動物のようだ。
 よく見れば、リスだ。
 可愛いと心の中で心を和ませる。
 暫くリスと遊んでいると、がらっと、物置小屋の戸が開いた。
「みつけた!」
 赤垂が元気よく言うと、リスはふっと消えてしまった。
「あーーー! 騙されたーー!」
 頭を抱えて叫ぶ彼方に緋那岐がこっそりニヤニヤする。
 悔しがる彼方に哲心が肩を竦める。
「それだけ再現が出来れば上出来。他の皆が戻るまで料理を教えよう」
 彼方を宥めつつ、赤垂が次の修行へと移る。


 さて、大通りから少し離れた所にある宿の裏道で黯羽が人魂を形成し、再度確認をする。
「中にはまだ二人だな。楊の話通り、部屋は二階の奥部屋だ」
「では、さっさと入ろうか」
 黯羽の言葉にオドゥノールと平次郎がスタスタと中へ入っていく。雅人がシノビの身軽さを使い、窓からの奇襲をするようだ。
 女中に開拓者である事と、中に営利誘拐を企む無法者がいる旨を伝えると、どうぞとあっさり通してくれた。
 部屋では何だか笑い合っていて楽しそうな様子であったが、そんな事は関係ない。
 思いっきり戸を開けた無表情に更に不機嫌で磨き上げたオドゥノールが槍を構えた瞬間、槍と自身に淡いオーラが纏われ、一気に一人を薙ぎ払った!
 手加減はしているので、押入れの襖を壊す事はなかったが、背中を思いっきり打ったようだった。
「なん‥‥うお!」
 窓から戸から手裏剣と斬撃符を投げつけられ、男がバタバタと足を上げて慌てふためいていた。
「命までは取らない。しかし、手加減はせん。覚悟しろ」
 抑揚のない声の平次郎が言えば、男は窮鼠の如く、腰の後ろに隠していた匕首で平次郎に襲い掛かる!
「愚か」
 その一言と共に直閃を発動し、男に攻撃を喰らわせた。
「が‥‥は‥‥っ」
 がくりと、男が膝をついて昏倒してしまった。
「あっさり片付いちゃったのね」
 窓から雅人と一緒に追いついた夏蝶が声をかける。
「ああ、志体持ちではなさそうだが、後は援軍か」
 オドゥノールが雅人より荒縄を借りてせっせと無法者を後ろ手に回して手を縛っている。
「援軍は来ないぞ」
 階段を上がってきた男が言い、廊下にいた黯羽が警戒をする。
 夏蝶と雅人が声に気付き、廊下へと顔を出せば、そこにいたのは旅姿の上原柊真だ。
「知り会いか」
「ほら、三茶の方に手伝いに行っているっていう麻貴の仲間よ」
 平次郎の言葉に夏蝶が説明をすると、オドゥノールと黯羽も納得した。
「では、三茶の防衛には成功したという事か」
「そうだ」
 平次郎の問いかけに柊真が頷くと、オドゥノールがほっと息をついた。
「さぁ、良い知らせを受けた事だ。さっさと戻って、赤垂の修行の成果でも見ようぜぇ」
 黯羽の言葉に全員が頷いた。


 料理は哲心と緋那岐の二人の先生がついていた。
「ほう、野菜の切り方は知っているのだな」
「雪原一家は大所帯だから、一人じゃやりきれないから、切って貰うのは他の人にお願いしてるんです。ぼくは基本的に水の調整と味付け係なんです」
 哲心の言葉に赤垂が説明をする。
「赤垂君、上手になったねー」
 食べる専門の彼方は慣れているとはいえないが、去年より上達した赤垂に感心している。
「でも、まだ量は出来なくって」
「家で作る料理ならそんなに気張らなくてもいい。基本が出来ているならば、食材の組み合わせを教えようか」
 意外にも基本が形成していた赤垂に哲心が煮物について相性の良い野菜を赤垂に教えている。
「今、旬なのは蕪だな。一品だけで炊き上げてもいいが、肉と似てもいい」
「今日はがんもどきがありますよ」
 葉桜が言えば、哲心がそれはいいとがんもどきを受け取る。
「今日は蕪とがんもどきの煮物と長芋と蓮根の金平、御飯物には蕪の葉の混ぜ御飯を教えよう」
「わ、初めて作ります。宜しくお願いします」
 哲心が言うと、赤垂が気を引き締めて頭を下げる。

 羽柴家に戻った開拓者達は醤油のいい匂いが薫る。
「いい匂いだな」
 オドゥノールが言えば、出迎えてくれた葉桜が微笑む。
「良い先生達に教えて貰い、どんどん手際が良くなっております」
「それは楽しみさね。食後の運動に術でも見てやるぜぇ」
 戦闘があっさりと終わったので、黯羽の中で高揚感が燻っているようでもあった。
「ふふ、まずは腹ごしらえよね♪」
 夏蝶が配膳の手伝いに入り、その間に麻貴と雅人が戻ってきた。
「あれ、柊真さんは?」
 一人足りない事を夏蝶が言えば、仕事に戻ったと答えが帰ってきた。
 全員が戻り、食事が始まる。
 ほっくりと甘い蕪に醤油が染みたがんもが良くあう煮物に美味しいと夏蝶が誉める。
「ああ、美味いな。よく出来ている」
 更に黯羽も言えば、赤垂が嬉しそうに笑う。
「結構、上手かったぜ。教えるのは調味料の配分だよな」
 緋那岐が御飯をかき込みつつ、次の課題を教えると、哲心も同様らしく、頷いている。
「お味、どうですか?」
 黙々と食べている平次郎の御飯茶碗が空になりかけていたので、赤垂がおかわりはと尋ねるついでに聞いてみた。
「‥‥料理には詳しくはないが、俺には美味く感じる。もう一杯頼もう」
「はいっ」
 元気よく赤垂が頷いてお櫃の方へと向かう。
 そんな様子を見ていた夏蝶が隣に座る麻貴に声をかける。
「ね、麻貴。柊真さんにお料理とか作ってあげた事ある?」
 男装で普段から仕事尽くしの麻貴が料理を作れるというのは知っていたが、何となく想像がつかないらしい。
「ああ、作ってるぞ。筆記作業だと気分が詰まってくるから、役所に台所があるから夜食とか作って柊真だけじゃなくて皆に振舞ってる。それに、私に最初に料理を教えたのは柊真なんだ」
「えー。そうなの?」
 衝撃的な言葉に夏蝶が目を丸くする。
「子供の頃、山に修行に行ってたからな。無人の庵とかで宿にして、囲炉裏で鍋とか兎や猪の捌き方とか教わった。その後、義姉上に仕込まれた」
「うーん、そうなんだ‥‥じゃ、じゃぁ、柊真さんの事を特別って思い始めたのっていつぐらい?」
 矢継ぎ早に質問されて、麻貴は記憶を辿る。
「成人する前に闇討ちに遭って、身体を狙われてな。一応は未遂であったが、その時に柊真に助けられたのがきっかけかな。で、どうかしたのか?」
 麻貴が首を傾げると、夏蝶はふるふると首を振る。俯いて赤い髪で顔を隠しているが、麻貴にはその頬の色に気付く。
「夏蝶ちゃん。今日はとっておきの酒を用意してたんだ。付き合ってくれよ?」
「え、ちょ‥‥麻貴!?」
 いいオモチャ見っけと言わんばかりににやりと笑う麻貴に夏蝶は悪寒を感じざるを得ない。


 その翌日、「無法者、開拓者に敗れる」という瓦版が奏生と三茶に発行されていた。