走る勇気
マスター名:鷹羽柊架
シナリオ形態: ショート
危険
難易度: 普通
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2011/07/31 20:46



■オープニング本文

 理穴首都より一日歩いた所に三茶という街がある。
 その街は大きな流通経路の通り道なのと、首都に近いという事でとても賑やかな街だ。
 華やかな街な分だけ治安が低くなる。治安の低下を防止する為、この街では任侠一家‥‥雪原一家が護っている。

 夏本番となり、暑い日が続いている。
 雪原一家の最年少家人である赤垂が街中を走っている。向かった先は八百屋。
「あら、赤垂、どうしたの?」
「大根ちょうだい!」
 おかみさんの声に赤垂が元気よく言う。
「大根? それならウチの人に届けるように言うよ」
「ありがとう。でも、皆が熱で疲れているから、食べやすいものを作ってあげたいんだ」
「それなら、梅干がいいよ。ウチで去年つけたのがあるから、持って行きな!」
 おかみさんがぱたぱたと奥へ引っ込んでいき、梅干が入った壷を渡す。
「ちゃんと紐で括ってるから、ある程度は大丈夫だけど、気をつけるんだよ」
「ありがとう」
 代金を払って赤垂が家路につこうとすると、諍いの声がする。
「神輿のところに勝手に入っちゃだめなんだよ」
「うっせーな、ちょっとさわるぐらいだよ」
 赤垂が見たのは数人の子供達が神輿の事で言い合っている様子。
 乱暴な言葉を言っているのは街のガキ大将とその取り巻きで、赤垂も随分いじめられていたが、今は勝てるほどになった。
「何してるの?」
 赤垂が言えば、子供達があっと気付く。
「うるさい、お前には関係ない!」
 ガキ大将が嫌そうに赤垂に言い放つ。
「御神輿の所に行くってきかないんだよ!」
「何で言うんだよ!」
 ぼかりと、ガキ大将が女の子の頭を殴りつける。
「自分よりちっちゃい子殴っちゃだめだよ。それに、神輿の所に行くのはダメだって言われているでしょ」
 ため息をつきつつ、赤垂が女の子をあやしてガキ大将にきっぱり言い切る。
「なんだよ! お前、行くのが怖いんだろ、自分が怒られるのが怖いんだろ!」
 ガキ大将の取り巻きの男の子の一人が言うと、赤垂はじとっと、男の子の方を見る。
「怖いより言われた事を破る方がダメだろ」
 泣きやんだ女の子が赤垂の後ろに隠れこんでしまう。
「うるせい、ちょっと強くなったと思っていい気になりやがって!」
「‥‥」
 息巻くガキ大将に面倒くさそうな顔をする赤垂。確かに、前はいじめられては兄に泣き付いていたが、今は勝てるほどになったというか、志体が判明したので、うかつに本気が出せない。
 今の鍛錬は陰陽師としての修行というよりは、一般人相手の力加減の対応が主だ。
 街を守るための力であるが、全力で使ってはいけない。
「見てろよ! 俺の方が強いんだからな!」
 ガキ大将が言えば、取り巻きを連れて走って行ってしまった。
「‥‥行って来る」
 赤垂は呆れつつ、荷物を子供に見てもらうように言って、走り出した。
「え‥‥だめだよ‥‥アヤカシがいるって‥‥」
 他の子供が呟くが、赤垂の耳にはもう届いていなかった。
 子供達が勇気を振り絞って雪原一家に行くと、夏バテ気味の睦助が顔を出した。
 つたない言葉で子供達が現状を伝えると、睦助は一気にダレた顔を引き締め、血相を変えて奥へと走った。屋敷の中でどよめきが走ったが、すぐさま、雪原一家当代の緋束が現れる。
「よく伝えてくれた。こうしちゃいれねえな。睦助! ギルドに行って開拓者呼んでこい!」
「へい!」
 子供達を誉めた緋束が睦助に叫ぶと、睦助は着物の裾を上げてギルドまで走っていった。
「ったく、しょうがねぇな」
 緋束が溜息まじりに呟いた。


■参加者一覧
北條 黯羽(ia0072
25歳・女・陰
滋藤 御門(ia0167
17歳・男・陰
劉 天藍(ia0293
20歳・男・陰
御樹青嵐(ia1669
23歳・男・陰
弖志峰 直羽(ia1884
23歳・男・巫
九法 慧介(ia2194
20歳・男・シ
輝血(ia5431
18歳・女・シ
オドゥノール(ib0479
15歳・女・騎


■リプレイ本文

 依頼に応じた開拓者が三茶についた時、睦助が出迎えてくれた。
 詳しい事情を聞き終わり、最初に口を開いたのは北條黯羽(ia0072)。
「あぁ‥‥ガキだな。どうしようもなくガキだ」
 冷たくも穏やかに感想を纏めた。
「全くだね。本当に子供って人の話し聞かないし」
 続いて言った輝血(ia5431)のコンボに数名の開拓者は自身過去の反省心を思いださせる。
「‥‥ええ、子供ですからね‥‥」
 過去を思い出す九法慧介(ia2194)にどこか遠い目をした弖志峰直羽(ia1884)が頷く。何かが傷むのは別件で受けた傷だろうか。
「うん、危ない事、禁じられた事を行えられるのは子供の特権だよね」
 それが勇敢である事であるかを今の彼らには判断は出来ないだろう。
「放っておけば更にひどい事になっているに違いない。判断は正しい」
 オドゥノール(ib0479)が小さい声で言えば、御樹青嵐(ia1669)がちろりとオドゥノールを見下ろすが、それとなく視線を外した。
「ともあれ、早く知らせてくれてありがとな、睦助」
 砕けたように微笑んで礼を言うのは劉天藍(ia0293)だ。
「いえ‥‥当代も街の皆の気持ちを押さえに行ってます。子供達を‥‥大事な家族の赤垂をどうか助けてくだせぇ」
 腰を落とし、膝に手を置いて睦助が頭を下げる。
「必ず、必ず連れ戻します」
 確りと滋藤御門(ia0167)が頷き、開拓者達はその方向へと走っていったが、直羽は睦助に馬に乗れと止められた。


 子供達は難なく奥へと走っていった。
 明るい道ではあるが、両方には草木が茂り、少々怖そうだ。
 茂みから音がした。三人が立ち止まると、その方向を凝視した。
 ゆっくりと女が近づきた。三人が動きを凝視する。女が茂みから出てくると‥‥
 足がなかった。
 悲鳴を上げる三人だが、足が動かない。恐怖で動けない。
 女が近づいていくと、女の腕に何かが当たった。女の腕は幻のように揺らめき、何事もなかったようにそこにあった。
 赤垂が斬撃符を発動させ、アヤカシに投げつけるが、痛覚がない幽霊に効力は分からない。
「うわあああ!」
 後ろにいる取り巻きの一人が叫び、赤垂が視線をよこすともう一体いた。
 何とか逃げ出させないとと思案していたら、幽霊達に炎の玉が浮かび上がっていた。
 直感で危険に気付いた赤垂が顔を青くする。
「三人とも、アヤカシは僕がひきつけるから逃げて!」
 瞬時に覚悟を決めた赤垂が叫ぶ。
 赤垂の気迫に負かされようとしたが、ガキ大将は引かなかった。
「お前だけじゃダメだろ! 俺も残る! お前ら、行って来い!」
 叫ぶガキ大将に幽霊が呪声をあげ、四人が立っていられないほど苦しめだした。動けない四人に鬼火が近づこうとする‥‥
「その意気やよし、その無謀悪かない」
 怜悧な皮肉の声が響き、ガキ大将に近づこうとした鬼火に情け容赦ないカマイタチのような手裏剣のような何かがが繰り出され、鬼火が切り裂かれる。
 はっと、赤垂がその声の方向を見やると、長い刀が子供達とアヤカシの中に割って入る。
「間一髪ですね」
 その間合いを利用し、慧介が子供達の壁となる。
「戦ってる最中によそ見するな。鉄則だよ」
 呪声を上げている幽霊にカマイタチに似たような何かがいくつも叩き付けられる。赤垂の前に立ち、厳しく忠告したのは輝血だった。
「輝血さん!」
 ぱっと、赤垂の顔が明るくなる。
 何かに捕らわれたかのように動けなくなった鬼火や動きが鈍くなったようにも見える幽霊がいた。
「無事でよかったです」
 発動させたのは先ほど斬撃符を繰り出した黯羽と無事だった赤垂に安堵の笑みを浮かべている御門だ。
「人を守るという意義を通す君はよき騎士だ」
 オドゥノールがさらっと、誉めると、呪声の呪縛から逃れた赤垂がよろよろと立ち上がる。自分も戦う為に。
「赤垂、無茶をするな」
 天藍が赤垂を支える。
「俺達に任せてくれ。怪我はないか」
 さっと、赤垂を見たが、別段、怪我をしているというものはなく、呪声で少しやられたといった所だろう。
「その通りです、そろそろ弖志峰さんが合流する頃でしょうか」
 威嚇に殲刀を振りかざす慧介がちらりと、自分達が来た方向を見る。
 馬の蹄が地を駆る音がした!
「天ちゃん! 青ちゃん!」
 馬に乗っている直羽が現れた。馬に乗った時の振動で直羽の様子が少し苦しそうではある。
「赤垂‥‥」
 天藍が赤垂を呼ぶと、赤垂は首を振る。
「僕も逃げますが、弖志峰さんのしんがりを守りますから乗りません」
「わかった」
 ここで揉めても仕方ないと判断した天藍が取り巻きの子供を抱き上げる。
 直羽が来たのを分かった慧介が引き付けの為、アヤカシの中に飛び込んだ。
「頼みましたよ、直羽!」
 青嵐が子供達を馬に乗せ、直羽は即座に馬を駆け出させた。
「道を開けます!」
 御門が叫び、馬の前に出ようとした鬼火を斬撃符で弾いた。
「皆さん、お願いします!」
 馬の後を走り、叫ぶ赤垂に御門が微笑む。
「赤垂君も気をつけて」
「はい!」
 顔を強張らせ、赤垂が頷き、走り出した。
「強くなりましたね」
 ぽつりと、青嵐が呟いた。
 瞬間、黒い壁が道の真中に現れた。
「さて、邪魔立てするものはいなくなった」
 くつり‥‥と黯羽が言えば、彼女の手より符が消耗されていき、新たに符が取り出される。それは赤垂から鬼火を守ったカマイタチだ。風の刃は呪縛符から逃れかけた幽霊の額を貫いた。
「一気に決着をつけようか」
 穏やかな物言いだった慧介から少しずつ穏やかさが消えうせる。紅焔桜をで自身の命中力、攻撃力を上げる。ふっと、目を瞬く瞬間、足を踏み出し、長い刀を物とせずに美しく月を描くようにカマイタチの杭を打ちつけられた幽霊を一気に流し斬った。
 残りの鬼火二体がかっと、火を大きくすると、天藍が即座に氷の彫刻のような式を呼び出し、その式が大小様々な氷柱を呼び出し、鬼火の火力を下げると、青嵐の黒い羽の小鳥と御門の両翼の小鳥の翼がそれぞれカマイタチの刃となり、威力が弱まった鬼火に止めを刺す。
 オドゥノールは自身の獲物である疾風をアヤカシ達に向けた瞬間、彼女の瞳と同じ色のオーラが現れ、彼女を纏う。
 幽霊の動きを止めるように輝血が風神を発動させると、幽霊の端々が小さな風の刃に揺らめいてしまう。
 風の中に飛び込んだオドゥノールが疾風を突き出し、幽霊に一気に止めを刺した。

 三人の悪ガキ達を連れて行った直羽は社の中に子供達を押し込んだ。
「‥‥もう大丈夫だから‥‥」
「兄ちゃんは大丈夫なのか?!」
 苦しみを堪えて直羽が言うが、負傷の苦しみは騙せないようだ。
「妙な意地を張ると後で大変な事になるんだからな。無茶ダメだぞ」
 にこっと笑う直羽に子供達は心配そうに直羽を見る。
「直羽さん、怪我をしてるんじゃないですか。僕が壁になります」
「それは俺の台詞」
 中に入ろうとしない苦笑する直羽が扉を開く。
「開けちゃだめですよっ」
 驚く赤垂に直羽が微笑む。
「皆が信じられない? 皆なら大丈夫だよ」
 にっこりと直羽が言えば、赤垂は張り詰めていたものが涙となって零れた。
「皆が来てくれなかったら‥‥どうなることか‥‥」
「あたし達が助けてとっととアヤカシを倒してるよ」
 呆れた輝血の言葉が聞こえる。
「終わった?」
「誰だと思ってるのさ」
 じとりと輝血が言えば、直羽が「輝血様〜♪」とおだてる。
「あんた達、さっさと出てきな」
 他の面子が来ていない所を見ると、輝血が先行して迎えに来てくれたようだ。
「さっさと戻るよ」
 輝血が踵を返すと、赤垂がその背を追う。


 子供達が開拓者に連れられて戻ると、親と開拓者からがっつり怒られた。
 怒り役じゃないからと輝血はのんびりと西瓜を食べている。
 輝血の隣でふーっと、煙管の煙を吹いている黯羽が同じく叱られている所を眺めている。
「何で青嵐って叱るのが様になっているんだろう」
「青ちゃんはお母さんなんだからしかたないよ」
 赤垂を叱る青嵐を見て輝血がぼんやりと呟くと、直羽が楽しそうに笑う。その様子にぎろりと、青嵐の冷たい視線が直羽に突き刺さる。
「アヤカシがいる事は赤垂だってアヤカシがどんなものか聞かされていただろう」
 天藍にも叱られて赤垂はしゅんとしている。
「残されたお友達がとても心配してたそうですよ。最後まで話は聞きましょう」
 慧介が言えば、赤垂がはっとなってしまう。
 心配を取り除く人でありたいと思っているのに心配をかけさせてしまい、悲しそうに顔を俯かせる。
 ガキ大将たちは親に叱られ終わっているが、赤垂の説教が意外と長かった。説教している人物が多かったというのもあるが、赤垂が志体を持っているからというのがある。
 一家の皆もはらはらと説教を遠巻きに見ている。
「ちゃんと自分で守ろうと行動したのは偉い。子どもなりの面子はあるだろうけど、君が一人前になるまでは大人に頼っていいんだ。その為に彼らは君を家族と思っているんだ。それを忘れてはならない」
 粗方赤垂の説教が終わると、オドゥノールが赤垂の目線より下に屈んで見上げる。
 ぎゅっと、赤垂の手を握るのは鍛錬で硬くなったオドゥノールの手。戦士の手ではあるが、繊細な細さがとても優しい。
「ごめんなさい‥‥」
 ぽろぽろと、赤垂が泣き出すと、緋束がそっと赤垂を抱き寄せ、背を撫でてやる。
「当代、ごめんなさい」
「いいさ、今度は頼むぞ」
 緋束が言えば、何度も赤垂は泣きながら頷いた。
「さて、ガキ大将君達」
 御門の視線が向いたのはガキ大将達。
「強さをひけらかす為に女の子を泣かせるのも苛めるのも男として恰好悪いと思います」
 ぴしゃりと綺麗な人に言われて三人が黙ってしまう。
「人に優しく、守る事の出来るというのは無茶を敢行するよりも勇気があってより強い事と思います。赤垂君が強くなった事を認め、友達になってあげてください」
 やんわりと口調を柔らかくした御門に三人は何だか申し訳なさそうに目を配らせあう。
「きっかけが見つからないなら四人で仲良く神輿磨きをして、互いを知り合うといいですよ」
 あっさりと言う慧介に悪ガキ達と赤垂がぎょっとなる。

「さぁさ、頑張ってー」
 直羽が四人を励まして手を振る。
 四人は言いつけを破った罰として神輿磨きを命じられて実行している。
「神輿が汚れていては街の祭りが台無しだからな」
 逃げ出さないように開拓者達が見張っ‥‥いや、見守っている。
 悪ガキ達もいつもなら逃げ出すが、今回の件は少しだけ後ろめたいのか、黙って磨いている。
 こっそり御門も手伝っており、更に悪ガキ達は従順だ。
 高い所は手が届かないのか、赤垂が思いっきり背を伸ばしているが届かない。
「そら」
 黯羽が赤垂を抱き上げて磨きやすいようにする。
「わ、ありがとう!」
「抱き上げるくらいなら手伝ってやるさ」
 嬉しそうに赤垂が喜ぶと、黯羽も穏やかに微笑む。皮肉を好むの黯羽も一家の姐さんとして赤垂くらいの子も年上も一緒に暮らしているので子供の無邪気さに癒される事もある。
「さって、俺もいこうか。後で、雪原さん家に行くといいよ。いいもの貰えるよ」
 片目を瞑って直羽が言うと、街の方へと戻った。

 雪原一家の台所では天藍、青嵐、オドゥノールが料理に勤しんでいた。
「これはよい梅干ですね。大根があるなら卸して食べやすくしましょうか」
「俺はそうめんのつけ汁に梅肉入れようと思う」
「卸すなら手伝う」
 壷の中の梅干を見て青嵐が満足そうに頷く。
「お願いします」
 金おろしと洗った大根を手にしたオドゥノールが気合を入れて大根をおろしている。
「さっぱりしたものもいいですが、食べたいと思うような味の濃いものも用意するのもいいかもですね」
 三人が料理やら手伝いをしていると、直羽がひょっこり戻ってくる。
「直羽、お前、負傷してるんだからちょっと大人しくしてろよ」
 呆れる天藍に直羽は笑って誤魔化す。
「天ちゃんに心配してくれるのってうれしーなー‥‥ほ、包丁は凶器なんだよ!」
 ぎろりと天藍に睨まれ、直羽が怯える。
「ったく、氷作ってくれよ」
「はいはーい☆」
 直羽が大きな盥の中に大きな氷を氷霊結で作る。
「あ、睦助さーん!」
 ちょうど通りかかった睦助に氷を砕いてもらう為に呼び止める。睦助はひんやりとした氷を砕くという任務に涙ながらに受けてノリノリで氷を砕いている。
 暫くすると、冷たい料理が出来上がり、彩と保冷に砕いた氷を入れる。
「戻りましたよー」
 慧介の声が響き、天藍が出て、四人の他に、雪原に事情を伝えた子供達も一緒に来た。
 手を洗って戻ってきた子供達は強面の一家にちょっと怯んだが、よれよりも魅力的な美味しそうな料理の数々が卓に所狭しと並んでいた。
「いただきまーっす!」
 全員が揃って食べる前の挨拶。
「さ、青嵐と天藍のご飯は美味いぞ」
 オドゥノールが言うよりも早く、子供達はそうめんに手をつける。
「うまーい!」
「おいしー!」
 雪原一家にも負けず、子供達がぱくぱくご飯を食べている。
「赤垂、炒め物食ったか?」
「まだ」
「ほらよ。早く食べないとなくなっちまうぞ」
 ガキ大将が赤垂に声をかけ、まだ食べてなかった炒め物を赤垂の皿の上に置く。
「うん、ありがとう」
 どうやら、神輿磨きで打ち解けた子供達に開拓者は目を細める。
「なんで子供ってあんなに面倒なんだろ、あたしも頭抱えたりするのかな。青嵐は、どう思う?」
 輝血がお酌をする青嵐に尋ねると、彼は優しく微笑む。
「輝血さんならきっと良い子を育てられると思いますよ‥‥で、できれば私も協力して育てて‥‥」
「赤垂、ホッペにごまがついてるよ! あ、青嵐ごめん、最後の方なんだっけ」
 はっと、赤垂に声をかけた輝血が青嵐に向き直る。
「‥‥いいえ、何でもありません‥‥」
 雪原と開拓者全員が青嵐頑張れッ!と心中で泣いた。
「あまり食べ過ぎるなよ。カキ氷があるからな」
「えー!」
「ホント!?」
 天藍の言葉に子供達が目を丸くする。
「睦助さんが削ってくれるよー☆」
 直羽が言えば、子供達が喜ぶ。
「そうだ、赤垂、後で呪縛符を教えるよ」
「呪縛符?」
 天藍が声をかけると、赤垂は首を傾げる。
「呼んで名の如く、相手を動けなくする術だ」
 黯羽が説明すると、天藍がさっと、札を出してそろ〜っと逃げ出そうとしている睦助に投げ飛ばした。見事、睦助は呪縛符に捕まった。
「あんな感じだ」
「便利だね!」
 きらきら目を輝かせる赤垂に全員が彼の将来を案じた。
「ま、赤垂も随分と成長したね。一家のアクにも負けてない。ちょっとは安心したかな」
「ホント!?」
 輝血が誉めると、赤垂は嬉しそうだ。
「ええ、強くなりましたよ。強さに溺れず、使い方を考慮するのは素晴らしい事です」
 御門も誉めると、赤垂は俄然やる気が出たようだ。
「後で睦助さんに的になってもらおう!」
「なにー!?」
 睦助の叫びに皆が笑う。

 夏の眩しい太陽と同じほど、三茶の未来も眩しく明るいものになりそうだ。