【四月】あなたのそばに
マスター名:鷹羽柊架
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2011/04/14 20:33



■オープニング本文

 ここは魔法が少し忘れ去られた世界。

 中世風な街並みが美しいとある街。
 そこの少し外れた所に一軒の店がある。
 瀟洒な白い小さな洋館。
 誰でも気軽に入れるように扉は開けられている。
 その洋館には姉弟の双子が住んでおり、人形師の仕事をしている。

「麻貴、今日のお客さん、夕方に来店時間変更だよ」
「んー」
「また徹夜か!」
 弟の沙桐が姉の麻貴の部屋に入り、布団の中でぐずっている麻貴を見つけた。麻貴は布団の中に入っていて、カーテンの隙間から差し込む光を嫌がるように布団に包まっていた。
「服は出来ているのか?」
 呆れ声の沙桐が言うと、麻貴が布団の中から指を差す。
「おお、可愛い可愛い」
 早速着せてやろうと服を持って、沙桐は仕事場に向かう。
 明日、来店予定のお客さんの人形に新しい服を着せる。修繕の為に戻ってきて、綺麗になった身体に綺麗な服を着せる。
「ん! 美人!」
 満足そうに笑う沙桐に人形の笑顔が強くなった気がする。
 沙桐は今日の仕事をチェックしていると、ある異変に気付く。
「いない?」
 今日、お迎えに来るお客さんの人形がいない!
 桜色の髪に白い肌。印象的な赤い瞳。
「やべ、またか‥‥」
 呆然とする沙桐には心当たりがあった。
「んぅー  どうした?」
 沙桐の騒がしさに気付いて麻貴が大きなウサギのぬいぐるみを引きずって仕事場に入ってきた。
「今日来るお客さんの人形、いなくなった!」
「またか!」
 沙桐の声に麻貴は一気に覚醒したらしく、目を開けて叫ぶ。
 二人が騒ぐ声にどこかでうふふ、くすくすと笑い声が聞こえてくる。この家には二人しかいないのに。
 二人はなれたものであり、気にしていない。

 あのこ こいを しているのよ


     じぶんが にんげんじゃないって わかってるからね

  せつないよね

 あのおとこのひと かっこいいから しかたないわ

   おもいをつげることも できないのよ

 部屋のどこかで話し声が聞こえる。
 話を聞いた双子は溜息をついた。
 人形は恋をしたらしい。
 気づいてはいたが、まさかとしか言いようがない。
「今日、昼に一件来客が入ってたな‥‥そうだ、あいつらに頼もう」
 麻貴はコマドリの姿をしたぬいぐるみに何かを呟き、沙桐がその鳥に触れる。
 ぬいぐるみだったのに次第にその羽毛は現実を帯びていき、麻貴が窓辺に立ってそのぬいぐるみを手放すと、コマドリとなり、飛んでいった。

 この双子には秘密があった。
 二人は魔法使い。
 二人が作る人形には時折、性格が宿る事がある。


※このシナリオはエイプリルフールシナリオです。実際のWTRPGの世界観に一切関係はありません


■参加者一覧
鷹来 雪(ia0736
21歳・女・巫
御樹青嵐(ia1669
23歳・男・陰
黎乃壬弥(ia3249
38歳・男・志
珠々(ia5322
10歳・女・シ
楊・夏蝶(ia5341
18歳・女・シ
輝血(ia5431
18歳・女・シ
リディエール(ib0241
19歳・女・魔
緋那岐(ib5664
17歳・男・陰


■リプレイ本文

 麻貴と沙桐が放った鳥がまず寄ったのは近所の花屋。
「あのコマドリは」
 ふと見上げたのは店主のリディエール(ib0241)だ。コマドリは見知った顔を見つける。

  にんぎょうがこいをしてしまった。 うちにきてくれ。

 脳内に響くのは麻貴の声。
 よくリディエールの店に花を買いに来る白野威雪(ia0736)が声をかけると、コマドリに気づく。
「ええ、困った事があったようですよ」
 微笑むリディエールが雪に一緒に行こうと誘うと、コマドリは飛び立った。二人はコマドリの主達の家へと向かう。
「双子ん所のコマドリじゃん」
 コマドリに声をかけたのは緋那岐(ib5664)だ。
 使い魔に餌をあげていた緋那岐がコマドリに声をかけるとコマドリが肩に止まり、麻貴の言葉を伝える。
「へ、鯉?」
 きょとんとする緋那岐だが、コマドリは軽やかに飛び立ってしまう。
 次に向かったのは楊夏蝶(ia5341)のところ。窓の桟に止まるコマドリに夏蝶が振り向く。
「あら、またなのね」
 苦笑する夏蝶が後で行くと声をかけると、コマドリは次の目的地へと向かう。
「輝血さん、またいらしたのですね」
 嬉しそうに言うのはこの町に住む緒水。以前、悪党の嫁にさせられそうになった時、旅の途中の輝血(ia5431)が助けた事が縁で友達になった。
「久しぶり。元気そうだね」
 無機質に言う輝血に緒水は旅の疲れを労わり、一緒にいた高等式神の御樹青嵐(ia1669)にも声をかける。
「またお世話になります」
 微笑む青嵐に緒水も頷く。不思議な事に、製作者よりも式神の方が感情に富んでいる。
「ご飯は食べました? 一緒に食べませんか?」
「うん」
「お手伝いいたしましょう」
 三人が楽しく話していると、ふいに青嵐がコマドリに気づく。
 言付けを聞くと、輝血がくるっと、方向転換をする。店へと向かう。
 楽しそうな三人の姿を見てコマドリは次の人物を探す。
 次に見つけたのは東の国をほんのり意匠したようなお店。そこから一人の男が出てきた。
 ばちっと、コマドリと目が合った男はそのままドアを閉めようとしたが、コマドリは急降下してドアの中へ滑り込ませようとする。
「あぶねぇ!」
 空気読めと言わんばかりに突っ込もうとするコマドリに男‥‥黎乃壬弥(ia3249)が反射神経を使ってドアを開けた。
 コマドリが言付けを壬弥に渡すと、何事も無かったように飛び立った。

 コマドリの伝言を貰った町の者達は人形師の家へと向かう。
「おはようございます」
 リディエールと雪に声をかけられたのは一匹の黒猫‥‥珠々(ia5322)。言葉を理解しているのか、ただの気まぐれか、「にゃあ」とだけ鳴いた。
「いらっしゃい」
 外の物音に気づいた沙桐が二人と一匹に声をかける。
「今日は何が起こったのでしょうか」
 首を傾げつつも、興味津々な雪に沙桐は黒猫を抱き上げつつ「中へどうぞ」と誘った。
 中に入ると、丁度よく麻貴が大きな皿にサンドイッチを抱えて現れた。
「いらっしゃい。よく来てくれた」
 麻貴が笑顔で出迎えると、ひょっこり緋那岐が現れる。
「お、うまそー!」
「壬弥さん、お茶頼む」
 緋那岐の後ろにいた夏蝶と壬弥に麻貴が言えば、壬弥が勝手知ったる台所でお茶を淹れ始める。あたりに芳しい香りが漂い始めると、丁度よく輝血達が到着した。
 軽食をつまみながら麻貴は話を始めた。
 何人かは「またか」という感じではあったが、慣れたものである。
「でも、想いは伝えさせてあげたいわよね」
 夏蝶の呟きに全員が頷く。
「探し出してあげたいです」
 リディエールが言うと、沙桐に魚の燻製を食べさせて貰っていた黒猫が床に下りてすたすた歩き出す。
「情報収集は黒猫ちゃんもやるし、私達は告白のお膳立てをしてあげましょう!」
 夏蝶が言うと、告白のお膳立ての会議が始まった。


 黒猫がてくてく歩いていき、猫仲間に声をかける。
 急がなくては人の目に触れられる。麻貴達の人形であるのは明白。勝手に動く人形を作れると知れれば、麻貴達が街を追われる。
「本当に人形が動いているの見たのかよ」
 近所の学校に通う三人組。うち一人が麻貴に好意を寄せているとか。
「皆に見せてやりてぇな」
 好奇心丸出しの少年に黒猫の目がびかーんと光った!
「にゃーー!」
「ごふぅ!」
 見事な猫キックは少年の頬にヒット!
「椎那!」
「大丈夫?! 猫ちゃん!」
 女の子は猫の心配だ。
「そっちかよ!」
 男の子二人が総ツッコミ。
「ニャー!」
 何故か猫の闘争心丸出しで黒猫は三人組を威嚇していた。

 一方、人間の形をした青嵐はこの街に来ると必ず立ち寄る店に入って行った。
「どうも、お世話になってます!」
 元気よく声を上げて青嵐を向かえたのは染め糸屋の火宵。
「お世話様です。少々寄り糸が欲しくてですね」
 すっと、眼を細める火宵に青嵐は家出をした人形とだけ言う。この店で寄り糸と言うのは情報という意味。
 火宵はまたかと言わんばかりに情報を提供する。
「最近は二人の人形に手を出すバカはいねぇよ」
「そうですか」
 それ以上の情報は得られないと感じた青嵐は店を出た。
「あの人は?」
「馴染みだな。それよりキズナ、この間の染め糸綺麗に仕上がってたぞ」
「やった!」
 ぱっと明るくなる少年に火宵は嬉しそうに笑う。
「青嵐、どうだった?」
「盗賊の姿はないようです。きっと、まだ街の中にいるでしょう」
 店の外にいた輝血が言うと、青嵐が端的に回答する。
「よかった、盗難に遭うと色々面倒だから」
「でも、恋をするお人形って、物語のようですね」
 うっとりとしているのは緒水。
「仮初の心でも恋をするんだね」
 ぽつりと呟いたのは輝血だ。自分には分からないのだ。それがどういうものか。知りたいから探している。
「探し物って、すぐ傍にあるかもしれませんよ?」
 ちらりと緒水が青嵐を見て微笑むと、二人は揃って不思議そうな顔をした。

 リディエールは町中を歩きながら、至る所の植物達に声をかける。
 人形を見なかったか、見つけたら行ってほしい場所がある事を。
 もし、ソメイが自分達の誘いに乗る事が出来れば、思いを告げる事が出来る。
 今の自分には出来ない事を。
「いいな‥‥」
 ぽつりとリディエールが呟くと、近くにいたチューリップが心配そうな様子を見せた。
 ありがとうと、礼を呟くと更に歩く。

「折梅様は?」
 少し時間は巻き戻し、皆が用意に出かけた直後、雪がふと思い出した。
「ああ、馴染みの髪結い屋とぐだって酒飲みに出かけてたんだ。多分、まだ店にいるんじゃないかな」
 教えてくれた沙桐の表情はげんなりとしていて、きっと、店の女の子を独り占めして酒を飲んでいた所を想像しているのだろう。
「呼んできてあげて。そのまままた飲みに行って帰って来なさそうだから」
 麻貴が言うと、雪はくすくす笑いながら外に出た。

「ふんふん、向こうか」
 緋那岐が近くの小鳥達に声をかけて人形を探していた。
 人目も気にせずに小鳥と話す緋那岐に顔を顰める人もいるが、緋那岐は特に気にしていない模様。
 ふわりと、一羽の鳥が緋那岐の肩に降りて、身体を少し緋那岐に摺り寄せる。
「あ、見つけた? どこ?」
 ぱっと、鳥が肩を離れると、緋那岐が走り出す。

 街の中でも中心部より少し離れた路地に辻占いが店をかまえた。
 看板を立て、占う人物も身体全体をローブに覆われており、中々にアヤシイ。
 水晶とカードで交わった箇所がここであり、更にリディエールが捜索と誘導してくれる。
 待っていると、からりと乾いた音がした。
 薄紅色の髪に印象的な赤い瞳の人形。
「どうぞ」
 人形はからりからりと音を立てながら座ろうとする。中々に器用だ。
「何か悩み事?」
 少し間をおいて人形は頷いた。きっと、言葉を話そうとしたのかもしれない。だが人形には心はあっても言葉を話すという事が出来ない。
「あなた、恋をしてるわね」
 夏蝶が言えば、ソメイは呆然と占い師を見つめる。
「あなたは何をしてほしいの?」
 水晶を覗きながら言う夏蝶にソメイはそのまま硬直してしまう。
 想いを寄せても告げる事が出来ない。そもそも好きな男は他の女のものなのだ。
 どうする事も出来ないまま、自分は飛び出してしまった。
「何かを明確にしなくちゃ‥‥」
「とりあえずここで打ち切り」
 続きを言おうとした夏蝶に緋那岐が遮った。
「でも‥‥」
 こういう煮え切らない時はキツく言うこともまた有効なのだ。当人に決断させる為に。
「見つけました」
 ほっと、息をつくリディエールにソメイははっとした。
 自分を作った人形師にいつも綺麗な花の小物を納品してくれる小物作家というのを知っていた。
「皆さん、心配してます。一度、戻られてください。お二人は怒っていません。怒っていたとしても、私が庇いますから」
 リディエールが膝をついてソメイの赤い瞳を見つめる。
「想いを伝えたいというのなら、お手伝いいたしますから」
 必死に訴えるリディエールにソメイはこくんと頷いた。
 ほっとするリディエールに見つけた黒猫が身体を摺り寄せた。

 麻貴の言葉に従い、雪は言われたお店へと入る。
 少し薄暗い路地裏にあるけばけばしいランプが灯る店。
 ちくちく刺さる視線に少し眉を寄せて雪は奥へと向かう。
「可愛いねぇ、一緒に飲まないか?」
 男が雪の腕を捕まえて酌に誘うと、雪は断っているが、男は気にせず、自分の席へと引っ張ろうとする。
「私の可愛い友人に何をしているのですか?」
 こつりと、硬いヒールの音がすると同時に凛とした声が響く。
「折梅様!」
 その声の主に男の力が緩み、雪は駆け出す。折梅がお店の女の子達を侍らせて登場。
「いや、可愛いなと声をかけたんですよ!」
「この間も似たような事、あったわよね」
 お店の女の子らしき人物が折梅に告げ口をする。
「そうですか。また、じっくりお酒を‥‥」
 折梅がくつくつ喉を鳴らすと、男は「勘弁してください」と頭を下げる。
「どうされたのですか?」
 店を出て、折梅の質問に雪が状況を伝える。
「私、あまりそういった事に助言できる事ができなくて‥‥」
「人には得て不得手はあります。雪さんのよき所はこの折梅が分かってます」
 ふわりと微笑む折梅に雪もつられて微笑んだ。

 自分の店で特製ハーブティーを精製し終わった壬弥はまた麻貴達の店へと向かう。
 いつも開け放たれているドアが閉まっている所を見ると、来客中だろう。裏口から入ると、丁度いい角度で沙桐と目が合う。
 お茶、宜しくねと沙桐に言われ、壬弥は淹れたお茶を持っていく。
 難なく接客を終えた三人は人形を待つ。
「戻ったよ」
 最終的には輝血達とも合流し、服屋の天南を連れてソメイを連れて戻ってきた。
「麻貴! ソメイに喋れるようにして!」
 麻貴がはいはいと笑ってソメイに言葉を与える。
「ご、ごめんなさい」
 悲しい口調でソメイが喋る。双子はお帰りと微笑んだ。
「わたし、あのひとにすきっていいたい‥‥」
 家に戻る間に皆から色々と助言を貰っていたらしいソメイが自分の気持ちを固めたようだ。
「いいよ」
 双子が微笑む。
「沙桐さんの力でソメイさんを人間にしてあげれませんか?」
 リディエールの言葉に双子はうーんと唸る。
「できるけど、今の俺には効力が短い」
「そんな‥‥」
 諦めムードは二人の帰還で打破された。
「私でよければ、致しましょう」
 朝帰りならぬ、昼帰りの折梅が言うと、皆がわっと動き出す。
 折梅の魔法で人間の姿となったソメイは人形時の面影を残したままの美少女となる。
「ね、このドレスは?」
 薄紅色の小花が散るカシュクールワンピースを夏蝶が引っ張り出す。
「この淡い紫のも素敵です」
 うっとりと、雪がシフォンワンピースを見つめる。
 天南が更に服を出してきて三人がきゃいきゃい服を探している。三人の話を聞きながら青嵐が靴を選別していく。
「髪、本当に綺麗ですね」
 溜息をついて髪を梳るのは緒水。
「肌も陶器のようだね。あ、ビスクドールだったか」
 同時進行で化粧をしているのは輝血だ。
「あれ、リディエールは?」
 きょろきょろしているのは緋那岐だ。
「ああ、花の小物を作りたいと言って上の作業場にいる」
 麻貴が言うと、夏蝶が思い出したように顔を上げる。
「ちゃんと、誘い出した?」
「大丈夫。約束を取り付けた」
 麻貴が言うと、夏蝶は満足して作業に戻る。
「じゃ、俺は戻るよ」
 壬弥がそう言って店に戻った。
 お洒落を終わったソメイはとても美しくなっていた。
「仕上げだね」
 桜の花を指で遊んでいた輝血が立ち上がる。ソメイの前に立ち、手の中の桜が魔力の淡い光を纏う。
「かの言の葉を具現せしめよ」
 光はすぅと、ソメイの中に入っていった。
「綺麗に笑えるよ」
 輝血が言うより早いかソメイは微笑んだ。


 麻貴と沙桐は壬弥の店に行ってソメイの想い人と会っていた。
「妻に秘密の贈り物とは素敵ですね」
 男は嬉しそうに笑う。双子からの提案に男は頷いている。
「ここのお茶、絶品なんです」
 双子が席を立つ時そう言うと、男はお言葉に甘えてと壬弥のお茶を貰う。ふわりと薫るのはヤマザクラのハーブティーだ。
「あの、お話よろしいですか」
「どうぞ」
 初対面ともいえる少女にも男はにこやかに向かいの席を勧める。
「何だか嬉しいな。今日の夕方に君とよく似た人形を迎えるんだ」
 男は分かっていないが、その人形こそが目の前にいる少女、ソメイだ。
「その人形がお好きですか?」
「うん、僕も僕の妻も好きなんだ。家族の一員として迎え入れるのが楽しみでね。彼女の為に妻は大掃除をしているんだ」
 彼には妻の姿が見えているのか、愛しそうに笑う。
「人形もきっと、人形を家族と言ってくれている貴方と奥様を大好きと思います。ずっと、幸せである事を祈って」
 にこっと笑うソメイは人間よりも感情豊かだ。
「ありがとう」
 男が笑うと、ソメイは席を立ち、店を出た。
 ソメイが店を出ると、皆が待っていた。
「大丈夫か?」
 緋那岐がいち早くソメイに声をかける。
「‥‥満足です‥‥ありがとう」
 全員にそう言うと、ソメイはがくりと緋那岐に凭れた。ソメイが人間である事を放棄した。
「戻りましょ」
 夏蝶が言うと、全員が店へと戻った。

 店に入った途端にソメイは人形へと戻った。
「さ、そろそろ来るね」
 ばたばたと全員が用意を手伝う。
 最後の飾り付けにリディエールがソメイに花飾りをつけた。新たな門出を祝うという意味で。
 無事にソメイは若夫婦の家族の一員となった。
 無機質な表情ではあるが、とても優しい微笑のような気がした。


「珠々ちゃん、カツブシ」
 手伝ってくれた「人達」は人形屋から家へと帰った。
 麻貴がカツオブシを渡したのは珠々と呼ばれた黒髪の少女。主の前に立つ時は人の姿でというのが彼女の礼儀。
「量、少ないです」
「道で少年を蹴ったそうですね」
 折梅が言うと、珠々が黙った。

 想いは通じなかったが、お互いがお互いを愛しく想い合う事は幸福な事だろう。