【堕花】陰に散る
マスター名:鷹羽柊架
シナリオ形態: シリーズ
相棒
難易度: 難しい
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2011/05/11 21:05



■オープニング本文

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 前回の調査で、開拓者の一人が金子家で飛ばしていた人魂が見つけたのは金子家の周辺にいた男。
 通りすがるわけでもなく、物陰に隠れて立っていた。
 最初気付いたのは金子家の周辺にて見張りをしていた開拓者だ。
 その後、金子家に入っていた陰陽師が飛ばした人魂に見張っていた開拓者が声をかけた。その時点では見失っていたのだが、時期がよく、人魂はその人物を突き止め、方角を突き止めた。
 彼が麻貴に伝えた方角は病に冒されている金子家当主の妻の病状を診ている本多家の方向。人魂の稼動には制限距離があり、それ以上は追えなかった。
 開拓者達が調査したのと、思いがけない金猫の存在で本多家が金子家を使い、杉明や東家の若夫婦を狙ったのも理解できる。
 本多家は羽柴家、金子家、東家とは政敵に当たるものだから。

 あの調査の後、羽柴杉明は柊真と梢一を伴い、金子家へ再び向かった。
 客人がいるとの事で、少々待たされた。
 金子家に侵入した黒猫が言っていたが、違和感を覚えるほどに隙がある。
 黒猫はその違和感を拭いきれなくてむずむずしていたようだが、同じシノビの技量を持つ柊真もその気持ちは理解せざるを得ない状態だった。
「あの金猫が再び出てくるなんて事があれば、お前は正座説教一刻は硬いな」
 ぽつりと梢一が言えば、柊真は「そこまでバカじゃないだろう」と溜息をついたが、超越聴覚を使っていた柊真は家のどこかで動揺する音を聞いた。
「おばかさんのようだな」
 呆れる柊真に杉明はくつくつ笑う。
「それほど、奥方を思っているのだろう」
「優しい方で使用人達や家に入る商人にも礼節を弁えると大層信頼を得ていたようだ」
 赤毛のシノビの開拓者の報告を思い出し、梢一が付け加えると柊真が溜息をついた。
 シノビの厳しい修行の中、心が寂しくなる事が多々ある。それを打ち勝つために精神面を鍛えるのだが、金猫のシノビにとって、奥方は敬愛すべき人であり、護りたいという気持ちと無力である事に感情が昂ぶり、行動を起こしてしまったのだろうと柊真は考察する。
「いかがされましたか?」
 考察を止め、柊真が何だか楽しそうな表情の杉明に声をかける。
「いや、そういや、この間の調査の時にシノビとは道具か否かを聞いたお嬢さんがいてな」
「肯定するものも確かにいますからね」
 溜息をつくように柊真が言うと、杉明は瞳を伏せる。
「彼女は知らないだろうな」
 その昔、武天のある地方を統治する豪族達がシノビにしてきた事に怒りと嘆きを覚え、彼らの為にその豪族の管財人となり、シノビ達を人として扱うようにさせた女傑の事を‥‥

 三人が待っている部屋の障子を挟んだ向こうの床にこつこつと音がした。
 三回の音に三人は合図と気付く。小鳥は羽ばたいて飛んでいった。
 金子家周辺には沙穂と陰陽師の技量を持つ檜崎が見張っている。
 今の音は檜崎が人魂を発動させた小鳥だ。きっと、客人が帰るのだろう。
 その後は二人に任せてある。

 からりと、障子が開いた。
 金子家当主はどこか憔悴した影を見せていた。
 三人はあえてそれを触れずに奥方を真神家が頼っている医師を紹介すると提案した。
 当主ははっとしつつも、頑なに震えて首を振った。
 本多家が何をしてくるか恐ろしいのかもしれない。
「‥‥理穴観察方の事は知っているだろう。そこに属する者も」
 杉明が口を開くと、当主はびくっと、肩を竦めた。
「金子家の情報網ならば知ってて当然だろう」
 静かに言う杉明に当主は言葉を失う。
「‥‥あのような事をしてきたのは本多家の差し金だろう。もう、一人で抱えなくてもいい」
 杉明の言葉に当主は両手を畳につけて肩を震わせた。
「すまない‥‥」
 何度も微かな声で当主は杉明に詫びた。


「護衛と監視に欅と沙穂をつけてます」
 金子家を出て、梢一が杉明に告げる。
 一度、監察方に戻ると、大部屋の方に行っていた柊真が杉明と梢一がいる副主席の部屋に入った。
「羽柴から報告が来ました。東家に潜入していた粧子が本多家の方から言われたと吐いたそうです」
 眉を顰める梢一と杉明に柊真は溜息をついた。
「火宵の名を出したら、引っかかったらしい」
「以前の護衛方襲撃同様、火宵の名を語った者が粧子を引っ張ってきたという事か」
 梢一が言えば柊真が頷く。
「現状の推測では火宵の父親の手の者が火宵の名を語っていたのだろう」
「推測じゃだめだ。確証がなければな」
 梢一の言葉に柊真がきっぱりと言った。
「火宵の名を語り、粧子を引っ張ってきた者が本多家にいれば捕縛したいのですが」
 部屋に入ってきた麻貴が言えば、三人は頷く。
「そういや、私を襲ったシノビは今どうしてる」
「以前のように襲撃防止を兼ねて牢にいますが」
 麻貴の言葉に顔を顰める杉明だが、牢にいる方が無難という事に無理矢理自身を納得させる。
「とりあえず、開拓者には本多家当主の拘束と火宵の名を使い、火宵の手下を連れ去り、犯行をさせた者がそこにいるならその者の捕縛という事でいいですね」
 柊真が言えば、その場にいた全員が頷いた。

 ギルドへ向かおうとした柊真は監察方の他の組の主幹に声をかけられた。
「本多家が違法贈賄? そもそも、貴方達の組は関係がないはずですが」
「私達が追ってる件ではそれが事実である事を証明する事が必要でして‥‥」
「そうですか、ならばそれも考慮します」
 主幹同士の話し合いが済み、柊真が歩き出すと、とある一角で足を止めた。
「本多家当主の拘束の際、お前が証文の確保に行け」
「了解」
 ぽつりと柊真が言うと、陰に隠れていた麻貴が小声で言った。


■参加者一覧
滋藤 御門(ia0167
17歳・男・陰
鷹来 雪(ia0736
21歳・女・巫
御樹青嵐(ia1669
23歳・男・陰
珠々(ia5322
10歳・女・シ
楊・夏蝶(ia5341
18歳・女・シ
沢村楓(ia5437
17歳・女・志
溟霆(ib0504
24歳・男・シ
エルネストワ(ib0509
29歳・女・弓


■リプレイ本文

 自分にかけられる声に少年は気付く。
「いくよ!‥‥!」
 自分と彼の人を合わせてくれた人達が与えてくれた自分の名前は風にかき消されてしまった。


 いつものお日様のような笑顔は消え、硬い表情をしているのは楊夏蝶(ia5341)だった。
「もしかしたら火宵が現れるかもしれない。気をつけて」
 夏蝶の助言に柊真が頷く。
 大部屋には他の面子も集まっているが、それぞれが難しい顔をしていた。
 開拓者の意見もあり、真神家のかかり付けの医師が大部屋にて、開拓者達と一緒に本多家の医師が金子家の奥方に処方していた薬を確認していた。
「白野威様の解毒が反応しなかったのはこの薬が毒ではないという事」
「では、何が原因なのですか?」
 滋藤御門(ia0167)が尋ねると、医師は一度唸る。
「基本的には全て薬なのです。ですが、組み合わせ次第では効果を打ち消したりして大した回復を望むような事が出来なかったりします」
「毒であれば急変の可能性があるのですね」
 御樹青嵐(ia1669)がいえば、冥霆(ib0504)が興味深く薬を見ている。
「薬の性質を見極める事が出来るからこその芸当‥‥という事ですか」
 静かに呟く白野威雪(ia0736)に医師は頷く。
「監察方や護衛方の筋で情報を探ったのですが、本多家の医師は薬の効果をよく理解し、度々詐欺を繰り返していたという話を聞きます」
 御門が調べた事を口にすると、沢村楓(ia5437)は溜息をつく。
「確信犯というわけか」
 呟く楓に御門は頷く。
「医者のする事ではないですね」
 きつい表情で言う珠々(ia5322)は嫌そうな目をしている。
「おいおい絞ればいいさ。医師の確保は頼むぞ、御門君。金子家方面担当は頼むな」
 麻貴が言えば、御門と金子家担当の開拓者達は頷いた。
 皆が出て行く時に、雪が柊真に呼び止められ、振り向いた。
「シノビの事を随分気にしているらしいな」
「‥‥何だか、寂しく思えて‥‥」
 俯く雪に柊真はくすっと笑う。
「確かにシノビを道具と言い放つ貴族や豪族は存在する。いちいちそんな連中に腹を立てるよりも、シノビを人として見ている自分の気持ちを持ち続ける事を大事にしろ。大事なのはそこだからな」
「はい」
 静かに諭す柊真の言葉に雪はこくりと頷いた。

 先に本多家の調査に出向いていたのはエルネストワ(ib0509)だ。
 本多家の用心棒の動きを観察していた。
 ある程度のサイクルを覚えると、屋敷の外に出て行った用心棒の後をつけ、屯している酒場を突き止めた。
 常連らしい所を見ると、屯している酒場と断定し、本多家の方へと戻った。
 もう少ししたら、他の面子が本多家の周辺に現れるだろう。


 金子家に着いた開拓者達はとりあえず、沙穂と欅に会いに行き、状況を教えて貰い、本多家から来た新しい女中が誰か尋ねる。
「前に金子家に出入りしている商人のおばさんが言ってたんだけど」
 きょとんとする沙穂に夏蝶は真剣だ。
「‥‥夏蝶ちゃん、貴女が本多家から間者として入ってきたら、そんな事言う得はどこにあるの?」
「あ」
 はっと気付く夏蝶は気持ちだけがっかりしている。
「今の所、本多家の間者ではないと判断してる。前の勤め先は政治的には中立の立場をとっているし目は光らせてる」
「そうなのね」
 納得した夏蝶は頷いて部屋から出た。
 一方、青嵐と雪は金子家の台所を使って料理をしていた。
「中々スジがいいな」
 料理人らしき男は青嵐の手並みを見て誉めている。
「嬉しいですね。ですが、料理とは食べて喜んでいただけてようやく誉められるものと思います」
 穏やかに笑う青嵐に料理人はその通りだと笑う。
 作っているのは奥様向けの病人食。
 塩分を控えめにし、弱っているだろう内臓にも優しいものを用意した。
「ああ、これではお出しできませんね。誰か毒味を‥‥」
 どこへともなく声をかける青嵐に答えるように少し離れた所で上から短い悲鳴が聞こえた。その割には着地の音も無い。雪が様子を見ると、複雑そうな顔をした金色の髪に不機嫌な紫の瞳の忍装束の金猫‥‥いや、少女が控えていた。
「おう、蔓。仲間に放り投げられたか」
 かかかと笑う料理人の言葉に雪が上を向くと、かたんと天井の板が閉められた。
「もしかして」
「ご好意のようですよ。優しい家のようで何よりです」
 くつくつ笑う青嵐に雪は何だか嬉しい気持ちになった。
「さぁ、蔓さん、主の奥方の毒見という大役ですよ」
「もう食べてるよ」
 もくもくと味見をする蔓は毒がない事を確認した。
「もう少し食べたらどうですか。煮物の中に入っている人参は大丈夫ですか?」
「毒入ってないし、人参美味しいし、そもそも毒味じゃなくなるよ」
 どうやら金猫は人参は平気だ。
「まぁまぁ、こちらの山菜のお浸しなんかどうです。本多家の周囲にいる見張りがいたとか」
「今日もいるよ。捕まえるなら捕まえるけど」
「勝手にお話をしてもいいのですか?」
 蔓の言葉に雪が心配すると、どう反応していいか照れている模様。
「‥‥こんな事態だから、あんた達に便宜を図ってやれって‥‥」
「そうですか。協力を申し出る手間が省けました」
 まだあるからどうぞと言って、雪が毒味済みのお膳を持っていき、青嵐は本多家の方へと向かった。二人が出た後、他のシノビ達がぞろぞろ出てきて美味い美味いと食べていたとか。


 急いで御門と楓の後を追った夏蝶は程なく本多家の方へ到着する。
 前方に楓と御門の姿を見つけると、少し離れているエルネストワに気付き、彼女に肩を並べる。
「もう来たんだ」
「取り越し苦労なのがわかったから、こっちきたの」
 肩を竦める夏蝶にエルネストワが微笑む。
「効率がいいのはいい事。冥霆さんにも状況は先に伝えて、機会を窺がっているわ」
 エルネストワの言葉に二人は機会を見計らう為に物陰に隠れる。
 御門と楓は本多家の門の前に近づくと、御門はどこか切羽詰ったように門番に話しかける。
「金子家の者です。奥方の容態が急変しました! お医者様にどうか、来ていただけませんか」
 御門が言うと、門番の一人が待っていろと言って中に入る。暫くすると、門番と一緒に壮年の男二人が現れた。
「ああ、それでは行きましょうか」
 壮年の男‥‥医者は御門と一緒に行ってしまった。だが、楓は一緒には行かず、そのまま留まる。
「お前は行かなくていいのか?」
 あの子の護衛じゃないのかといわんばかりの言葉に楓は頷く。
「私は別件の使いになる。本多家当主はご在宅か。金子家より書状を持ってきたのだが」
「出かけられている。もうそろそろ戻るが」
 残った壮年の男は使用人の中でも責任者に当たる人物と見受けられた。
「その書状、私が渡そう」
 楓が一呼吸置いて、頷いて渡すと、男は懐に書状を入れた。
「宜しく頼み申す」
 礼儀正しく楓が頭を下げると、男は頷いた。楓が立ち去ると、男は門の中に入って手紙を開けた。中を読むなり男は慌てて手紙を畳み、走り出した。
「慌てているようだな。一目散に医者が出てきた方向へ走っていった」
 鷲の目を使っている麻貴が男の様子を死角になる塀の上より伺っていた。
「医者の部屋でも荒らすのでしょうか」
「私はもう少しここで様子を見る」
 楓が宣言するように言えば、離れた所にいる夏蝶がエルネストワを促した。夏蝶が発動させている超越聴覚が用心棒達の動きを察知した。
「今、用心棒が四人出ました。中にまだ六人います」
 本多家の中に人魂を飛ばしているのは青嵐だった。
 主の部屋に人気がない事を突き止め、超越聴覚を使用している珠々に呟くと、青嵐は楓達と合流した早々に金子家の方へと戻っていった。
 用心棒達が裏口より屋敷から出て、通りに近い道に出ると、遊び人を装った着流し姿の冥霆が用心棒達に話しかけていた。
 飄々とした風の冥霆であるが、どこか憎めない雰囲気と人懐っこい口調で用心棒達は行きつけの店へと案内してくれるようだった。
「へぇ、味噌田楽が美味いのか。どれほどのものか楽しみだよ」
「酒も美味いから安心して酔いつぶれろよ!」
 楽しそうに笑う冥霆に男達は楽しそうに笑う。
 それからは三人の連携だった。
「あら、お兄さん達、随分楽しそうねぇ」
 酒を飲んで上機嫌となった夏蝶が用心棒達に話しかける。
「私も一緒に飲ませて頂けないかしら?」
 二人とも艶っぽく用心棒達に声をかける。
「楽しい酒には美しい女性がいれば完璧だ。ここで断るのは男じゃないよ」
 囃し立てる冥霆が銚子を持つと、猫のしなやかさと言わんばかりに夏蝶がやんわり銚子を手に取り、男の杯に酒を注ぐ。
「さぁさ、飲んでくださいな」
 夏蝶の酒に酔った声に男達はにやにやと笑いながら誘われるままに杯を飲み干していく。


 雪は金子家の奥方と当主の傍に控え、主に奥方の話し相手になっていた。
 奥方とは二度目に会うが、奥方はとても穏やかで自分と似たような年齢の息子がいるとは思えないほど若い美貌を持っていたが、今は病で少し老けて見えている。
 当主は少し老けてはいるが、心痛の事も含めているのだろうと雪は思う。
「蔓の無礼、お許しくだされ」
 どうやら、当主は前回の行動を知っているようだった。
「彼女を責めないで下さい」
「分かっております。あの子の行動あって、我が家の好転となったのですから」
 くしゃりと泣き笑う当主に雪は柊真の言葉を思い出し、笑顔となる。
 門の方から閉まる音がすると、雪は三角縁神獣鏡の位置を確かめた。
 御門は金子家へと医師を誘い、門の中へと入ると、青嵐もするりと急いで中に入る。使用人が門を閉め、御門が歩みを止めた。
 医師が怪訝そうな顔をすると、御門は振り向き、医師に向き合う。
「貴方は医師として恥ずかしくないのですか」
 厳しい表情をと言葉を医師にぶつける御門は懐の紙を一気に広げた。紙に書かれているのは、御門が調べた内で分かった薬の調合物とそれを誰に使ったかの一覧だ。
 医師は記憶にあったのか、目を丸くする。
「金子家の奥方で最後にさせて頂きます。全てを吐いて下さいますね」
 肌に触れていないものの、どこかひやりとしたものを感じさせられるのは背後から青嵐が抜いた自身の名と同じ銘の刀。そして、見えていないのに無数の威圧感と殺気を感じる。
「言う、言う! わ、私は本多家に言われただけだ!」
 悲鳴のように叫ぶ医師に青嵐と御門はほっとし、屋敷から出てきた沙穂に身柄を渡した。
「医師、確保しました。後は本多家当主です」
 御門が金子家の当主夫妻に言うと、硬い表情で頷いた。

 珠々と麻貴は主の部屋へと向かっていた。
 主の部屋の周囲は主がいない所為もあり、易々と侵入できた。
 てきぱきと麻貴が部屋の中を漁る姿を見て、珠々は手馴れてると思った。超越聴覚を使って様子を聞いていると、玄関先が賑やかだ。
 麻貴は用を終わったみたいであり、外に出ようと手振りで伝える。
 珠々が頷いて二人が外に戻ると、楓はまだ待っていた模様。
「何だか、外が騒がしいみたいです」
「先程、年少組が用心棒の迎えを頼んだようだ」
 楓が言う年少組とは椎那と樫伊の事。酒場組は上手く行っている事を知らせてくれている。
「出たのは三人ですね」
「そろそろ当主が戻ってくると思うが」
 様子を窺がう楓だが、珠々がいち早く勘付いた。
「行ってきます」
 珠々が行ってしまった瞬間、心眼を発動していた楓がかっと目を見開き、一気に平正眼を発動させ、上段から紅蓮紅葉を走らせて一気に振り下ろした!

 酒場組には口の上手い冥霆に美女の夏蝶とエルネストワの三人がいる。
 四人の用心棒はあれよあれよと眠ってしまった。介抱するだの何だのと上手い事言って、店の裏で捕縛し、転がして隠す。
 年少組が連れてきた用心棒は店に入らせる前に裏に誘い込んで冥霆と夏蝶と年少組で静かに倒して、身柄は監察方が持っていった。
 用心棒の仲間を装った檜崎が店主に上手く言い、代金を払い、エルネストワを連れて外に出た。
「用心棒達はこっちに任せろ。当主と火宵の偽者を頼むぞ」
 檜崎が言えば、三人頷いて本多家へと向かう。
 向かっている途中、乗物が見えた。その乗物には立葵の紋が彫られてあった。
「お待ちください」
 夏蝶が乗物とそのお付の人間に声をかけると、不躾な視線を受ける事になる。
「本多家のお医師様より言付を承ってます」
「言付?」
 かたんと、乗物の戸を開けたのは中にいる本多家当主と思わしき男。のっぺりとしたどこかのんびりとした印象の顔立ちの男だ。
「貴方様のお命を狙う方がいるそうです。同行をお願いします」
 夏蝶が言えば、全員の様子ががらりと変わり、本多家当主はどこか慌てた風でもあったが、夏蝶を睨み付ける。
「貴様、酒に酔っての戯言にしても程があるぞ」
 従者の一人が軽く刀をちらつかせる。夏蝶が口元を押さえると、周囲を窺がっていた冥霆に視線を向けると、彼は人気が無いという事を伝えるように頷く。
 三人は音も無く従者四人を倒す。
「ひ、な、何者‥‥う!」
 引きつった本多家当主の声は応援に駆けつけた珠々の影縛りで丁寧に拘束された。
「同行願います」
 愛らしい声に本多家当主は言葉を失った。

 一方、楓と麻貴は地に伏した男に刀を突きつけていた。男の肩から胸にかけて焼き切られた黒い傷があった。
「派手にやったようだね」
 冥霆が駆けつけると、麻貴が首尾はと問うと「大丈夫だ」と答え、偽火宵に自決防止にと色々施す。
「奴はお前のような奴を必ず殺しに来るだろうがそうはさせない」
「火宵様はそんなに暇じゃないよ」
 本多家の塀の上から縄に縛られた男を二人落としたのは美女と細身の少年。
「未明だったな」
 じろりと、楓が女の方を向く。
「全く、火宵様の名を汚し、あまつさえ仲間を駒のように使いやがって‥‥」
 舌打ちをし、未明が偽火宵を見下ろす。
「仲間じゃないのかい?」
 冥霆が言うと、未明はフンとそっぽ向く。
「そんな奴、敵だよ」
「逃げられると思ったのか」
 楓が言うと、未明は笑う。
「火宵様の汚名を監察方に晴らす事。それがあたし達が受けた命令さ。それと、金子家行った方がいいよ。いつも金子家を見張ってる連中が奇襲するだろうから」
 はっとなる開拓者達の隙をぬって未明は少年に声をかける。
「行くよ、キズナ」
「うん」
 少年が頷くと、二人は早駆で走っていった。入れ違いで、監察方の役人が現れ、偽火宵達を任せて三人は金子家へと走った。

「いかがしました?」
 無傷の状態で三人に声をかけたのは御門だった。
 確かに、金子家を見張っている本多家の者達の襲撃はあったが、御門、青嵐、雪、監察方、金子家のシノビ達という数の威力の前にひれ伏すしかなかったという。
「奥方は」
 楓が言うと、当主に寄り添った奥方が「ありがとうございます」と三つ指をついた。

 本多家当主は監察方監視下となり、以前、杉明を狙った金子家のシノビは杉明の恩赦で無罪解放となった。
 正しい処方を受けている奥方の容態はよくなっていった。