淑やかに果たし愛に恋!
マスター名:鷹羽柊架
シナリオ形態: ショート
危険
難易度: 普通
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/12/07 21:59



■オープニング本文

 鷹来折梅が自宅に開拓者を呼んで夜更かしをしていた頃、孫である鷹来沙桐と鷹来家の専属シノビである架蓮は呉服問屋三京屋に訪れていた。
 その場には主である三京屋店主天南と橘永和がいた。
 卓の上にはつまみやら酒やらが並んでいて、酒を飲んでいたが、三人の顔はあまり楽しそうではない。
 架蓮以外の三人は、幼少期から道場に通い、剣の腕を磨いていた幼馴染だが、成人となってからはそれぞれの道を歩んでいる。
「はー。御幸にも好きな子かー」
 思いっきり溜息をついたのは天南だ。
「お前はいないのか」
「仕事が想い人」
 空になった天南の杯に酒を注ぐのは永和だ。
「そんなんでいいのか、お前は」
「人の恋愛ごとで十分。あんたの惚気話でお腹いっぱいよ」
 さらっと言ってしまう天南に永和は何も言えない。
「でも、相手も酷いよね。御幸に淑やかなんて無理だなんて、あたしでもできるのに」
「お前は仕事だろ」
 苦笑する沙桐に天南はばれたかと舌を出すと、架蓮はくすくすと笑う。
「いくら何でもあの言い草はないとは思うけどな。御幸が好意を寄せているのは分かっているだろうし」
「何とかしてやりたいなー」
「真正面きって言われたら誰だって傷つくだろうに」
 はーっと、三人は溜息をつく。
「ねぇ、沙桐。おばあさまに相談してみたら?」
 天南が提案すると、沙桐は苦そうな顔をする。
「女の子にそんな事言った奴と仲を取り持つような人じゃないよ。そいつを再起不能にしかねない」
「いいオモチャって事か‥‥あの方ならやるな絶対」
 永和の言葉に三人が思い切り頷く。
「きっかけって、あの試合だよね」
「御幸がその男を好きになったきっかけか?」
 永和が言えば、天南が頷く。
「翠光様が捕縛された後に開催された試合ですよね」
「そ。その試合にそいつがいて、励まされたらしい。御幸だけじゃないけどな」
 架蓮が沙桐を見やれば、頷いた。
「嬉しいですよね。あまり評判が良くないだけに」
 微笑む架蓮に三人は苦笑した。

 その夜は適度にお開きになったが、そのまま三京屋で休んだ。
 翌日、非番の沙桐は架蓮を連れて道場へ訪れていた。
 沙桐達が見たのは、今にも瞳から涙が零れ落ちそうな御幸の顔。
「どうしたんだ、御幸」
 沙桐が御幸に目を合わせて屈み込むと、御幸はしゃくりあげて涙を堪えている。
「敦祁に果し合いを申し込んじゃった‥‥」
「は?」
 ぽかんとする二人に御幸についていた男の子達が説明した。
 昨日の稽古の帰り道、ばったり敦祁に会ったという。
 生傷の耐えない御幸を見て、敦祁は「弱い奴がどう頑張ったって強くなれないんだ。乱暴なお前はおしとやかもできないし、どうしようもないな」と冷やかしたとの事。
「で、頭にきた御幸が果し合いを申し込んだんです‥‥」
 頭を思いっきり抱えた沙桐と架蓮は、とりあえず、御幸を宥め、慰めた。

「敦祁って子、結構強かったよね‥‥」
「そう聞いております‥‥御幸ちゃんでは力で敵わないかと‥‥」
「だよね‥‥」
 稽古をつけた帰り道、二人はとぼとぼと家へ向かっていた。
 どうしてくれようか本当に悩む。
「もう、折梅様にご相談した方が‥‥」
 架蓮が恐る恐る言えば、沙桐はげんなりとして頷く。
「只今帰りました」
 沙桐が戸をあけて言えば、折梅がそれは上機嫌で迎えてくれた。
「ご機嫌ですね」
「ええ、夕べは開拓者の皆さんが泊まりに来ましてね。とても楽しかったのですよ」
 にっこり微笑む折梅に沙桐は自分のタイミングの悪さに愕然とし、思いっきり肩を落とした。
「その手があった‥‥」
「いかがされました?」
 首を傾げる折梅に沙桐は御幸の話をした。
 藁を掴むしかないのだ。
「そうですね。では、淑やかさを仕込んでみてはいかがでしょう」
「へ?」
 きょとんとする二人に折梅は話を続ける。
「剣で勝てないのは仕方ない事。ならば、付け焼刃でもいいので、淑やかな御幸さんを見せるのは如何でしょうか? 開拓者の中には淑やかな方もたくさん居ります。御幸さんは恋をされているなら必ずや淑女となりましょう」
 はっきりと宣誓する折梅に二人は顔を見合わせる。
「まぁ、いかなる理由があるとはいえ、女性を傷つける言葉を容易に使うのはあまりよい傾向とは思えませんけどね」
 くすりと微笑む折梅の微笑みは絶対に開拓者には見せられない凄絶かつ極上な笑みだった。
「ギルドへ行ってきます‥‥」
 よろりらと、架蓮が逃げるようにギルドの方へ向かった。


■参加者一覧
滋藤 御門(ia0167
17歳・男・陰
鷹来 雪(ia0736
21歳・女・巫
珠々(ia5322
10歳・女・シ
楊・夏蝶(ia5341
18歳・女・シ
輝血(ia5431
18歳・女・シ
沢村楓(ia5437
17歳・女・志
ブラッディ・D(ia6200
20歳・女・泰
劉 那蝣竪(ib0462
20歳・女・シ


■リプレイ本文

●つんでれってなぁに?
 初めて沙桐を見たブラッディ・D(ia6200)はきょとんと目を瞬かせた。
 事のあらましを聞いた沢村楓(ia5437)の身体はびみょーに傾いたようだ。
 胸のどこかで心当たりのあるのか、楓はほんのり挙動不審だが、平素の冷静さからなのか、あまり気付かれてはいなかった。
「御幸の気持ち、すっげ分かる。俺だって果たし合い申し込む‥‥つか殴ってるか」
 ぐっっと、拳を握るのはブラッディだ。
「わかってくれますか!」
 御幸が言えば、ブラッディは頷いてくれる。
「一緒に頑張ってみるか!」
「はい!」
 どうやら、共同戦線が出来たようだ。
「確かに、女の力は男には敵わなくなりますよね。だから、技で‥‥不意打ちで勝つと‥‥」
 シノビ思考の中にあるのは珠々(ia5322)だ。
「話が物騒になってますよ珠々さん」
 そっとツッコミを入れる滋藤御門(ia0167)だが、珠々の言葉よりも折梅の本気が気になって仕方ない模様。
「初恋かぁ」
「可愛いわねぇ」
 想いを馳せているのは楊夏蝶(ia5341)と緋神那蝣竪(ib0462)コンビ。
「前に相手したときはそこそこだったわね。あれから上達したとなると、色々経験するとイイとこまでいけそうなんだよね」
「かがちっちのは現実味がありすぎなんだけどー」
 輝血(ia5431)の独り言に夏蝶がツッコミを入れるが、輝血は久々の磨き甲斐がありそうな素材にありつけて色々と思案して聞こえてない。
「出来る事なら、御幸さんのよい所を伸ばしつつ、お淑やかな所も身につけてほしいものですね」
「敦祁君に御幸ちゃんのいい所を分かってくれたらいいですね」
 にこやかに笑い合う白野威雪(ia0736)と御門だが、夏蝶は何か色々と燃えていた。
「さー、特訓頑張るわよ!」
「お願いします!」
 勢い込む夏蝶に御幸が言った。


●被害者AとB
「コイって楽しいのですか?」
 首を傾げる珠々は真顔だ。そもそも表情筋が動いてないともいうが。
「珠々さんの発音ですと、旨煮にしたら美味しそうですね」
「美味しいのですか?」
「美味しく感じるときもありますし、苦くも感じます。そうですね‥‥御節みたいなものでしょうか」
 折梅の例えに珠々は分からなくて首を傾げる。
「御節は沢山の料理が詰まっているでしょう。甘い栗きんとんや伊達巻は珠々さん、嫌いではないでしょう。ですが、紅白膾にはよく人参が入れているから嫌でしょう。好きも嫌いも嬉しいも楽しいも悲しいも沢山詰まっているのが恋なのですよ」
「にんじんはいやです‥‥」
 近くにいる沙桐の影に珠々が隠れる。本当に人参が嫌なようだ。
「沙桐さん。やっぱり、お手本があると分かりやすいと思うの」
 胸の前で両手を組んできらきらと上目遣いでおねだりモードの夏蝶に沙桐はじっと夏蝶を見る。
「雪ちゃんや那蝣竪ちゃんだっているじゃないか」
 今回の参加者には妙齢の女性が多くいる。
「身近な人じゃないと、ね」
 後一押しの夏蝶の笑顔にも沙桐は肩を落とす。
「御幸にとって俺がどんな奴かわかって言ってる?」
「兄貴分って奴でしょ。さ、やるわよ夏蝶」
「はーい」
 ひょいっと、団子を雪に返した輝血が沙桐を引っ張っていく。壁を取り払われた珠々がおろおろしだすと、夏蝶が珠々を抱える。
「にゃー! 何で私まで!」
「タマ。アンタだってもう十二だよ。そろそろそういう修行も手につけておかないと」
「禿くらいはできますー!」
 嫌がる沙桐を引っ張る輝血が横目でタマに言う。
「まだまだだよ」
 先輩は厳しい。

 二人の支度が終わるまで御幸とブラッディは御門と那蝣竪と雪による講釈を聞いていた。
「淑女の基本とは、忍耐と平常心です」
 静かに言ったのは御門だ。御門は元服まで女として育てられた為、淑女の嗜みを一通り仕込まれている。
「決して怒らず騒がず、笑って受け流せる位の気持ちのゆとりが必要です。難しい事ではありますが」
「何だか、武道の修行と変わらないんだな」
 意外そうに言うのはブラッディだ。
「似たものはあるわね」
 にこっと、那蝣竪が言えば、御幸は真剣に頷いている。
「言葉を発せずとも動作だけでも静かに滑らかに行えれば十分だと思います」
「袴姿でもやる事はあまり変わらないの」
 平素、袴姿の御幸にもでき易いように三人は生徒二人を庭へを向かわせる。
 小春日和のこの日は、昼間ならとても暖かい。
「そう、歩幅を狭めて‥‥」
 御門が御幸に手を差し伸べて御幸を庭へ降ろす。
「なんか、凄い事になってる?」
 奥の方で沙桐と珠々の悲鳴を耳にしたブラッディが眉を顰める。
「楽しいことになってるんでしょう」
 奥ゆかしく袖口を口元に当てて折梅が笑っている。楽しそうという言葉に反応したブラッディが立ち上がる。
「見に行ってくる」
 実戦は他の三人に任せたとばかりにてこてこと気まぐれわんこは奥の方へと向かった。
 庭の方では那蝣竪指導の下、池の鯉を覗く為に御幸はしゃがむ練習をしていた。
「対象に対して平行に身体を向け、上半身だけ軽く物に向けるの。そっと膝を曲げるのよ」
「はい」
 普段の剣の修行の型からか、御幸の動きは中々いいものだった。
「姿勢も綺麗だな」
 師匠のよさが偲ばれるなと、楓が頷く。
「膝は開かないように。体勢が辛いなら、石に指先をついてもいいですよ」
 御門が助言を加えると、折梅が御幸の傍に膝を屈め、地に着きそうな御幸の袂をそっと指先で掬い取り、曲げられた御幸の膝の上に置く。
 流麗な折梅の仕草は完璧なものであり、誰もが目を奪われる。
「さすが折梅様‥‥」
 うっとりとする雪と那蝣竪の視線を受ける折梅は笑顔で返す。

 一方、珠々と沙桐には新たな敵も現れた。
 てきぱきと輝血がブラッディの手を借りて沙桐を綺麗にしていく。
 何度かオモチャにされ慣れている珠々は夏蝶の手によりメイド服姿。
「葉桜のメイド服じゃないんだ」
「貰っても使いどころがないですっ」
 あのメイド服は小さい子用であったので、自分以外に着せる相手がいないことが悔しいらしい。
「まぁ、いいけどね。こっちも終わりだし、行くよ」
「やっぱり、沙桐さんったらよく似合うー」
「嬉しくない」
 むっすりする沙桐は自分が妹分の前で女装をしなくてはならない事が不満らしい。
「美人なんだから笑ってー」
 宥める夏蝶の言葉も聞こえない。
「何か、ゴキゲンになるなんかがあればいいんだけどな」
 ブラッディの言葉に珠々が思い出す。
「おしゃれした麻貴さんにそっくりです」
 勤勉な珠々は沙桐が麻貴と似ているという言葉を言われると不機嫌だった沙桐の顔が普通に戻ったのだ。
 珠々に言われ、不貞腐れていた沙桐の表情が段々柔らかくなる。
「ありがと‥‥」
 ポツリと、礼を言う沙桐の頬は少し朱に染まっていた。
「麻貴って、理穴に似た役人がいたよな?」
「双子のお姉さんです。離れ離れで暮らしていて、とても仲良しなのです」
 ブラッディの言葉に珠々が答える。
 合流した一同は夏蝶、輝血達を中心にバトンタッチ。生徒が増えたりした。
「鷹来の兄さま‥‥」
 見事美女に変身を遂げた御幸はどうやら妙にショックを受けていた。

 教育は残りに任せた楓は御門と架蓮を連れて鷹来邸を出た。
 架蓮の案内で向かったのは敦祁が通っている道場だ。
 先に鷹来家のシノビである架蓮が入り、中を見せてもらう手筈をつける。
 
 打ち合いが終わり、休憩時の時に敦祁に御門から声をかけた。楓は少し離れた所で様子を窺がっている。
「お強いんですね。真の強さとは力のみならず心も強くあらねばならぬ…そう聞いております」
「‥‥何が言いたいんですか」
 開拓者なのは気付いているのか、敦祁は素っ気無くとも最低限の礼儀は踏まえている。
「言葉は時に剣より深く人を傷つけます。あなたはありますか?」
「何を」
「か弱き女子供を言葉の刃で傷つけた事を」
 敦祁は黙った。御門も敦祁の言葉を待った。
 認めて引く事も、嘘をついて押し通す事も敦祁には出来なかったのだ。
「人とは弱さあって強くなるもの。女性は殊更、傷つきやすいのですよ」
「だから、あいつはいつも強い兄弟子達に守ってもらって笑ってるじゃないか‥‥あんな奴らより、俺の方が‥‥」
 ぎゅっと、拳を握り締める敦祁に御門は微笑む。
「真の強き漢たらんとすれば、全てを受け止めるべきです。そこから強くなりましょう」
 敦祁にそれだけ言って御門はその場を辞した。
「いかがされましたか?」
 ぎょっとする御門が見たのは木に額を当てて立ったまま突っ伏した形になっている楓の姿だった。
「い、いや‥‥見てて色々と心当たりがな‥‥焙烙玉をぶつけたくなる気持ちはこの事かとな‥‥」
「楓さん?」
 頭の上に疑問符を浮かべる御門ばかりが置いていかれるばかりであった。

 一方、御幸の方は夏蝶の熱い指導が続いていた。
 熱く、そして淑やかな指導は意外に辛く感じるし、頭に乗せた皿が怖くて目が回りそうだ。
「うう‥‥なんで私まで‥‥」
 珠々もまた、参加させられており、夏蝶より厳しい輝血先生が目を光らせている。シノビの先輩ともあり、目から光線がいつ出てくるか分からず、珠々はびくびくしている。
「何かすげぇ」
 ブラッディもその様子に少し引いている。
 休憩時、練習ではあまり上手くいかなかった御幸が少し、悔しそうな顔をしていた。
「御幸様、ご自分を責めなくとも、よいのですよ?」
 微笑んで話しかける雪に御幸は俯いて唇を噛む。
「何かを進む時は止まってしまう時がおありかと思います。剣を学ばれている御幸様なら心当たりがございましょう。先ほどの講釈でも武の道と似ていると感じたのなら、きっといつかは道が開けますよ」
「はい‥‥頑張ります。先生、もう一回お願いします!」
 俯いていた御幸が夏蝶に声をかける。
「え、もう?」
「はい、少しでも淑やかな動きを会得したいです」
 驚く夏蝶に御幸は気合十分。
「ならば、剣の道の流麗を教えようか」
 からりと、障子が開いて楓達が入ってきた。
「御幸、楓君の剣は見ておいた方がいい。綺麗な型をしているんだって」
 沙桐の言葉もあり、場所を移動する事にした。
 鷹来家の離れには小さな道場があり、楓はそこで剣舞を見せる事にした。
 静と剛を組み合わせた楓の剣舞は自身の姿のようで、幼少の頃は淑やかであった動きが動きに投影されている。
 凛々しき姿と短き髪の毛先の滑らかさまで伝わるような流麗さは剣を手にしているものならば誰にもその美しさが伝わるだろう。
「凄い‥‥」
 御幸はその美しさに胸を打たれた。

●緋乙女と剱の舞
 対決の時を控えた御幸は那蝣竪の勧めで禊をした。
 冷たい水は身体に堪えるが、自分には味方をしてくれる人達がいる事を思えば、これからの果し合いに恐れはない。
「御幸、皆で選んだんだ」
 ブラッディが差し出したのは一重の白山茶花と桃紅色の千重の山茶花の柄の着物。ふわりと、薫る沈水香木。
 山茶花を選んだのは折梅の助言。
「ありがとうございます‥‥」
 淡い薄桃色の着物に若草色の袴。遊び心で色鮮やかな半巾帯を巻き、髪は綺麗に結い上げられ、華やかに簪で黒い髪を彩る。化粧は紅を一指しだけ乗せただけだ。
 鏡を見た御幸は呆然としていた。
「凄く綺麗よ、御幸ちゃん。誰もが目を奪われる淑女よ」
 微笑む夏蝶の言葉は何だか呪いのようと御幸は思う。夏蝶先生が言うからこそ、信じられる。
「皆様、ありがとうございます。御幸は負けません」
 流石に緊張している御幸に珠々が御幸のほっぺをつねて頬を揉む。
「笑えるお呪いです」
 里のある師匠がしてくれたお呪い。でも、珠々には効かなかった。もしかしたら、御幸には効くかも知れないと思いながら。
「大丈夫だよ。珠々ちゃん」
 笑う御幸に珠々は目を見開く。効果が出た事に驚いた。
「いってらっしゃい!」
 皆の声援を受け、御幸は果し合いの場所へと向かう。

 敦祁は足早に果し合いの場所へと向かう。
 果し合いをするという事はどういう事か師範達に教わっている。
 どっちが勝っても罰を受けるのだ。
 でも、御幸が満足してくれるなら‥‥
「きゃぁあああ!」
 女の子の悲鳴が聞こえた。御幸にそっくりな声だ。
 敦祁が走り出すと、そこには可愛らしく着飾った御幸がいた。
「み、御幸!」
 自分より少し年上が三人。逃げ切る事は出来る。
「たぁ!」
 敦祁は手にしていた木刀を振り上げ、御幸の手を握っていた男の手に当てる。驚いた男達の隙をついて敦祁が御幸の手を握り走り出す。
 振り切った敦祁と御幸は肩で息をしていた。
「えと、敦祁‥‥助けてくれて、ありがとう」
 微笑を湛えた御幸が敦祁に礼を言う。
 本当にいつもより綺麗な御幸の姿に敦祁は絶句した。仕草も女らしくて、御幸ではないようだ。
「な、何で女らしくしてるんだよっ」
「女らしくなったってこと? 敦祁が無理って言うから、頑張ったの」
 笑顔を崩さない御幸は珠々から教えてもらった理論武装がついている。見よう見真似で覚えた御門や那蝣竪、雪の仕草。ブラッディや楓の心の強さ、綺麗にしてくれた夏蝶や輝血の飾りや化粧。
 付け焼刃であるが、今御幸を支えているのは開拓者のお陰。
「うう‥‥」
 真っ赤になって頭を抱える敦祁に御幸は首を傾げる。
「大丈夫? 近くにお団子屋さんがあるから、休もう?」
 何も分かってない御幸にいいようにされる敦祁はもうどうでもいいとばかりに御幸に手を繋がれて団子屋へと向かう。

「一件落着って事ねー」
 始終を偵察していたシノビ集団が鷹来家にて待っている仲間達に報告した。
「御幸の勝ちってとこかなー」
 にやっと笑うブラッディが大福を頬張る。
「二人とも仲良く出来そうだから良かったわ」
 湯飲み片手に笑う那蝣竪。
「らぶいくうきはおちつきません」
 そう言うのは珠々だが、更に落ち着かないのは折梅の膝の上だからだろう。
「何で折梅まで?」
「麻貴さんからお手紙で知りました」
 呆れる輝血に折梅が種明かしをする。
「ばあ様、俺にも」
「ダメです」
 さらっと折梅に言われ肩を落とす沙桐。
「じゃ、御門君を膝に」
 冗談で言う沙桐だが、全員から凄絶な冷ややかな視線を浴びる。
「じょ、冗談だよ!!」
「御門さんは麻貴さんの仲良しとの事、手を出せば来年の夏が恐ろしい事になるでしょうね」
 折梅の脅しに沙桐の顔は青くなる。
「あいつらはまだいいよな‥‥」
 いつも平常心を忘れない楓がどこか暗いオーラを纏っている。
「楓様も不安なのでしょうか?」
 首を傾げる雪は鋭い所を突いている。
「恋い慕う気持ちは見ない事にしてしまう事が可能なのですよね‥‥」
「雪ちゃんは見たくないの?」
 沙桐の言葉に瞳を伏せる雪は言葉を続ける。
「私で良いと言って下さる方がいらっしゃるのかと不安に思います」
「雪ちゃんは鷹来折梅の友達だよ? ここにいる皆もね。だから自信もって」
 笑顔の沙桐に雪は驚いたように目を見張り、微笑んだ。

 あと少ししたら、小さな淑女が顔を赤くした剣士と笑顔で戻ってくる。