【暗追】堕捕からの逃亡
マスター名:鷹羽柊架
シナリオ形態: シリーズ
相棒
難易度: やや難
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/09/28 22:00



■オープニング本文

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 開拓者達が火宵に斬られた柊真を保護し、山を降りた後、四組達の意思で開拓者達を迎えに行った監察方四組副主幹である檜崎はすぐさま麻貴に手紙を出していた。

 柊真の怪我は塞がってはいるものの、まだ体力は完全に回復しきってはいない。
 体力の回復を待っていたいが、柊真当人が少しでも体力が回復すれば理穴首都郊外にある上原家別邸に身を隠したいとの事。
 現在も追手は滞在中の町周辺にいるらしく、診療所の老人夫婦に迷惑をかけたくない為らしい。
 町で騒ぎを起こすのは得策ではないから開拓者を呼んでほしい。

 つか、俺じゃあの人を止められない。
 誰か呼んでくれ。


 最後の痛切な部下の叫びに麻貴は頭を抱えた。
「まぁ、仕方ないだろうな。表沙汰にするわけにもいかない」
 真神副主席が言えば、麻貴は溜息をついた。
「檜崎さんが可哀想だから依頼出します」
「そうしてくれ。襲撃の方はどうした」
「つなぎ役を沙穂が探してます」
 襲撃者達を捕まえ、話をした所、弓使いは確かに火宵の手下であるのだが、火宵の命だと言った仲間から言われたものだと言っていた。
 流石に仲間の事は口を割らなかったが、沙穂が弓使いと火宵の命だと告げた者を繋ぐつなぎ役がいるような事を調べたようだ。
 花街にある弓使いが通っていた店にそのつなぎが遊女としている可能性があった。
「また分けるのか」
 尋ねる副主幹に麻貴は首を振る。
「どちらかと言えば、あっちに行ってもらいたいです。町を脱出するとしても逗留するとしても、檜崎さんだけじゃ無理です」
「中間管理職ってのは大変だな」
 きっぱり言う麻貴に副主幹は溜息をついた。


■参加者一覧
滋藤 御門(ia0167
17歳・男・陰
御樹青嵐(ia1669
23歳・男・陰
紫雲雅人(ia5150
32歳・男・シ
珠々(ia5322
10歳・女・シ
輝血(ia5431
18歳・女・シ
沢村楓(ia5437
17歳・女・志
フレイア(ib0257
28歳・女・魔
溟霆(ib0504
24歳・男・シ


■リプレイ本文

 依頼に応じ、理穴監察方の役所へ向かった開拓者達は半数が何とも言えない顔をした。
「困った上司だが、宜しく頼む」
 涼しい顔で言い切った麻貴にその場にいた全員が『お前が言うな!』と心を一つにした。
「まぁ、羽柴さんを見ます限りは、気合を入れないとならない職場なんでしょうね」
 優しく言う御樹青嵐(ia1669)に紫雲雅人(ia5150)が肩を竦める。
「檜崎さんもカタナシさんが相手なら仕方ないでしょう」
 カタナシこと、柊真は麻貴にとって、幼少の頃は幼馴染で兄貴分との事。そのまま職場の上司ともなれば影響を受けるのは仕方ない事だ。
「困らせるだけ元気になられたのは良い事です」
 安心したように頷くのはフレイア(ib0257)だ。柊真の傷については良好な経過である事は雅人にとっても安心できるものだった。
「後は、少しでも安心できる場所へ移す事だね」
 監察方の役人の一人から胃薬を受け取った冥霆(ib0504)はそのまま珠々(ia5322)に渡す。
「麻貴様、いないからって頑張りすぎちゃ駄目ですからね」
 差し入れの月見饅頭を渡しつつ、釘を刺すのは滋藤御門(ia0167)。
「ああ、分かっている。おお、月見饅頭か」
 はしゃぐ麻貴に御門は苦笑してしまう。
「名月の時期ですからね。皆様もどうぞ」
 自分達というか、麻貴が持っている月見団子に視線が注がれている事に気付き、御門が全員に声をかける。
 そんなやり取りを見て珠々があれっと、首を傾げている。
「全く仕方ないな、さっさと迎えに行ってくる」
 行こうと言う輝血(ia5431)に他の面子は従う。
「カタナシさんと檜崎さんを助けに行きますか」
 ずばっと、言い切った雅人に全員が『言っちゃったー!』と心の中で絶叫する。
 波紋を残しつつ、たが、麻貴は沢村楓(ia5437)を捕まえる。
「あの人の渡してほしい」
 楓に渡されたのは麻貴が今ほどまでつけていた首飾りだ。楓が初めて見た時は柊真の首にかけられていたもの。
「それはあなたの物ではないのか?」
 楓は同じ首飾りを武天の双子の弟が掛けているのを知っている。
「‥‥自惚れさせてくれとだけ伝えてくれ」
「わかった」
 さっと頬に赤みが走る麻貴の顔を見て楓は素直に頷いた。

●どこかで見た光景
 理穴首都を出て、診療所についた開拓者達は小部屋にてもりもりと食事をしている柊真を見た。
 どこぞの主幹のように頬袋一杯にして食べてはいなかったが。
「おう、来たか。もう少ししたら出ようと‥‥ごっ」
 茶を飲み干した柊真が開拓者に声をかけ、言い切る前に珠々が柊真の脳天に軽く手刀をかます。
「‥‥どいつもこいつも‥‥なのです」
 柊真の視線に気付かない振りをして珠々が檜崎を探す。
「随分と元気なものだね」
「その調子なら大丈夫でしょう」
 呆れた輝血と余裕気に微笑むフレイアの言葉に柊真はにやりと笑う。
「まぁな」
 楓が忘れないうちにと、柊真の眼前に麻貴から預かった首飾りを渡す。
「麻貴殿からの伝言だ。『自惚れさせてくれ』と」
 楓の伝言に柊真は目を丸くしていたが、いつもの不敵な笑みではなく、柔らかい微笑みへと変える。
「俺の方がそうさせられるのだがな」
 柊真の微笑みを見た楓はやれやれと肩を落とした。
 一方、雅人と冥霆は檜崎と医者夫婦から近況を教えてもらっていた。
 檜崎は随分と疲れていて、それを見た冥霆から「後でいいことがあると思うよ」と思わせぶりな予言を貰っていた。
「特に不審な人物がいたわけじゃないのですね」
「ああ、診療所近辺ではないが、シノビの者らしい連中はいたな」
 檜崎が人魂で見た事を言えば、二人の顔が曇る。前回撒いた連中の可能性がある。
「早く出た方がいいようですね」
「そのようだね」
 柊真も出たがっているようだし、幸いなのが、そのシノビ達が目標以外には手を下さないから医者夫婦の命は保障される。
「檜崎さん、お疲れ様です。とりあえずは休んでください」
 珠々がひょっこり現れ、檜崎に胃薬と飴を渡す。何の事かと思ったが、冥霆の予言である事をすぐに理解し、檜崎は笑う。
「ありがとうな。あの人は一人だと突っ走るのが悪い癖でな。現役で部下がいた時はあんな無茶はしなかったんだが、羽柴は守るべき部下がいても突っ走るから大変でな」
 どうにしろ大変なのかと雅人達は呆れる。

 檜崎を一度休ませている間、楓はフレイアと一緒に柊真から話を聞いていた。
「今までの流れを見る限り、火宵は組織の幹部と見た。その幹部たちの下に個々の役割をもった各班が複数独自につき動いているという体制のような気がする。今回の制裁部隊のように」
 楓が自身の考えを柊真に言えば、彼はあっさり頷いた。
「その通りだ。あのシノビ部隊は火宵お気に入りの諜報部隊でもある。付け加えれば奴はその組織では次席に値する。頭はその父親だが、実子としては認められていないようだが」
「では、どこかの由緒正しき家という事ですか?」
 フレイアが合いの手を入れると、柊真は軽く頷く。
「父親は豪商でな、理穴内でも大店なんだ。本拠地にしているのは陰殻近くの街で殆どの店が火宵の息がかかっているし、街の流通を握っているのは火宵だ」
「だから、雪原一家を狙ったのか」
 理穴の流通のよさで栄えた街は幾つかある。三茶という街もその一つであり、火宵はそこの流通を狙っていたのだろうと楓は思案した。
「表向きの評判はどうなんだ」
 楓が言うと、柊真は目を伏せる。
「表向きに火宵はでてこない。あくまで後ろで糸を引っ張っている」
「厄介ですわね」
 呆れるように溜息をつくフレイアに楓も同意した。
「今後の動きはどうする予定だったのだろうか」
「あいつはあまり人には話さないんだが、奴は奏生の方へ腕利きを動かすとだけ言っていた。何かしらの動きを考えているようだった」
 溜息交じりに柊真が言うと、楓が渋い表情となる。
「俺もそれなりに取り入っていたが、武器製造や雪原の件は人知れずに部下に伝えて動かせていた。その後で、武天で石炭を運ばせていた商人の動向の監視と、雪原の当代が入れ替わった後の連絡とかを俺が請け負っていた」
「武器職人達の武器は火宵の所にあるのか?」
 楓が更に言えば、柊真は頷く。
「予定数には到達していたようだからな。武器製作は暫くないだろう。あの炉があった土地は監察方が管理しているからな」
 言葉を途切れた瞬間、楓は少し呆れたような表情になった。
「やはり、背中は見られているものなのだな」
 きょとんとする柊真に楓の視線は彼がかけている首飾りに注がれた。

●山を抜ける
 檜崎が起きてから出る事になり、柊真は御門が用意した着物に着替えた。
「お世話になりました」
 礼儀正しく頭を下げる御門に医者夫婦は笑顔で応えてくれた。
 御門が用意した着物で変装した柊真は十分目くらましになっていたのか、街を抜けても尾行はなかった。
「泳がされているのでしょうかね」
 雅人が呟く。
「それでも今、襲われるよりはいい」
 戦えない者を護衛するという事は不利な事だ。戦闘に慣れた開拓者でも難しい事だ。
 先行隊であるシノビ組はもう山の中へと入っている。
 まだ夕方の時点であるのだが、随分と暗い。
「随分深いな‥‥」
 超越聴覚を使いながら冥霆が呟く。
「とりあえず、この辺にはアヤカシはいなようですね」
 くるりと辺りを見回した珠々が二人に同意を得るように言う。
「奴等もね」
 輝血の言葉に残りの二人は後発隊を待つ事にした。
 程なくして後発隊が山の麓についた。
「歩く分には回復してるようだね」
 輝血が柊真を見て山越えが可能と判断した。
 暫く歩いていると、完全に暗闇となる。これ以上進むのが危険と感じた開拓者達は野営をする事にした。
 フレイアがストーンウォールで奇襲を防ぐ壁を作成し、風よけにする。檜崎が野営用の火を熾し始める。
 柊真、檜崎を含め、十人いる中、女性が三人いるが、そそくさと調理を始めたのは青嵐だった。
 野営だというのに随分と手際がいい。ついでに輝血や珠々が食べられる茸や山菜を採ってきたので、鍋の中身が豪華になっていた。
「寒い夜に温かい鍋は身体に沁みますね」
 味噌が効いた汁を飲んで雅人が感想を述べる。
「檜崎さん、随分と火の準備が手馴れてましたね」
 青嵐が珠々におかわりの椀を押し付けながら檜崎に話しかける。
「ああ、遠くに出張る事もあるからな。適当な街につけなかったら野営もある事だ。羽柴なんか嬉々として山鳥なんかを捕まえてくるぞ」
「え、そうなのですか」
 ぎょっとする御門であったが、全員が麻貴が狩りをしているのを容易に想像できるのも事実であった。
「チビの頃から鍛える為に山に篭る事が多々あったからな。動く動物は弓術を鍛えるには丁度いいし」
 けろっというのは柊真だ。雅人お手製握り飯を食べていたが、珠々にもと一つ分けている。
 その他、柊真と檜崎が知る昔の麻貴の話を輝血が一番熱心に聞いていた。
 麻貴の弱みの為とはいえ、そんな輝血の姿を見て青嵐が悔しそうな雰囲気を醸し出していたりした。

●壁を叩く迎撃の音
 交代で休むという事で最初の番は輝血と青嵐と雅人だ。
 輝血は壁に背を預けている。壁があっては超越聴覚を発動させても少々鈍ってしまう。壁に触れるだけでも外の様子を少しでも探るためだ。
「そろそろ、交代ですかね」
 雅人が呟くと、青嵐が頷く。
 草の茂みが大きく揺れた音を輝血が確信した。
「全員起こして」
 すっくと立ち上がり、輝血が武器を持つ。
 青嵐と雅人が全員を起こしている間、茂みを揺らす正体はフレイアを作った壁に体当たりを始めている。
「来ましたか」
 すぐに起きたのは珠々と冥霆と柊真だ。
「女性が多い班だから少しは楽しみだったんだけどね」
 肩を竦める冥霆のいつもの戯言。
「上原様はご無理をせぬように」
 御門が柊真の肩をそっと押さえる。
「そろそろだな」
 楓が澪の刃の輝きを閃かせる。壁が崩れ、四方が闇に堕ちた。
 開拓者達を囲むように三匹の大蜘蛛がその場にいた。先に跳躍したのは輝血だ。
 動いた得物に蜘蛛達が反応する。時間差で珠々と冥霆が跳躍する。輝血から意識をそらさせる為だ。更に動く得物に蜘蛛は糸を吐くが、珠々はそれを避けた。
 その隙に開拓者達は蜘蛛の横を抜けて、蜘蛛を囲むようにした。
 楓と御門、檜崎が柊真を守るように立ち、御門が結界呪符を発動させ、四方の白き壁が柊真を守る。
 檜崎が白狐を発動させ、白き狐は鋭い爪を立てて一匹の蜘蛛を地に押し倒した。角度に気付いた雅人がさぁっと、手を振り舞い、珠々に神楽舞・攻を付与する。
「黙って食われる蜻蛉や蝶ではありません」
 枝に止まった珠々がその好機を逃さずに刀を振り上げ、体重と重力をかけて血雨の刀身を蜘蛛に突き立てる。びくりと、蜘蛛の身体が上下し、蜘蛛は動く事をやめた。
 一匹が倒れた事を気付かず、残った蜘蛛は木から木へ飛ぶ得物に興味を示す。蜘蛛が吐く糸は粘着性があり、糸が付着した細い枝は糸から離れずしなっている。
 蜘蛛の糸から逃げた輝血はもう一匹の蜘蛛の糸に捕まりかけたが、上着を犠牲にし、輝血は逃げた。
「美しい女性を狙う気持ちは分からないでもないがね」
 くすりと笑う冥霆が輝血を庇うように蜘蛛を引きつけるように跳躍し、吐かれた糸を交わす。
 散開した開拓者に気付いた蜘蛛は柊真を守るように立つ者を視界に入れ、蜘蛛は糸を吐く。前に出たのは楓だ。刀を振い、糸を払うと、紅葉のような燐光が散る。
 蜘蛛の背後からフレイアがアークブラストを発動させ、蜘蛛の背に稲妻を走らせ、動きを止めた所でカマイタチのような式が蜘蛛に飛びつくように切り裂いた。青嵐が発動させた斬撃符だ。トドメとなったのか、ばたりと、蜘蛛が倒れた。
 最後の一匹になった蜘蛛を見て、輝血と冥霆が木から飛び降り左右の足を折る。死期を感じ取ったのか、蜘蛛が何本も糸を吐く。
「好きにはさせません」
 盾となったのは御門が放った白狐だ。美しい毛並みが糸に塗れ、それでも少量の光源で闇に輝く爪が蜘蛛に食い込み、離そうとしない。
 雅人の拳に溜められた白霊弾が発せられると、更に蜘蛛に衝撃を与える。
「蜘蛛如きが蛇を喰らうと思うな」
 低く虚ろな声が響けば、輝血と冥霆がとどめを刺した。
 蜘蛛達が消え失せるのを見届けてから全員は野営の後を消してこの場を後にした。散霧したアヤカシがいるところで身体を休めたくはないという理由もある。
 いつ、火宵の追っ手が来るかも分からない。山を越えれば、奏生郊外に出るが、柊真の容態を考えて明け方になるまで休む事にした。

 夜が明ける前にまた出発し、山を降りた。
「この調子なら昼につくだろう」
 柊真が言えば、終わりが見えた事で全員がほっとしつつも、更に気を引き締めた。
 昼前に上原家の別宅に到着した時、柊真は疲れが出ていたのか、少し顔色が悪かった。
「大丈夫ですか」
 心配そうに御門が言えば、柊真は休ませて貰うとだけ言って、珠々と御門に支えられて中へ入っていった。
「思ったより手入れが行き届いているのですね」
 フレイアが感想を述べる。
「真神副主席の奥方がやってくれたのだろう。ここを隠れ家によく使っていたらしくてな」
 檜崎が言えば、雅人が反応する。
「羽柴さんの姉に当る方と聞きましたが、その方もカタナシさんの動きは存じていたのですか」
「ああ、知らないのは俺達監察方の下っ端だけだ。羽柴を少しでも危機から回避させたいという想いからだろう」
 肩を落とす檜崎に雅人は納得した。

●首尾
 珠々と輝血は上原家別邸を抜け出し、監察方へ向かっていた。
 四組の大部屋に麻貴はいて、うどんに油揚げと半熟卵を入れてずるずると啜っていた。
「あれ、どうした」
「カタナシ、目的地につれてきたよ」
 輝血が簡潔に言えば、麻貴は張り詰めていたものを消し、まるで迷子の子供が親を見つけたような表情を見せた。
「‥‥一息ついた?」
 ぽつりと、輝血が言えば、麻貴は今にも泣きそうな笑顔で頷いた。
 とくり。
 輝血が自分の鼓動に気付く。
 自分にはそんな風な顔にさせられるほどの人間がいない事にちくりと、胸の痛みに気付かされながら、楓が首飾りを柊真に渡した時の事を言わなかった。
「あの、襲撃の方は」
 珠々が言えば、麻貴は少し思案してから話し出した。
 花街の一軒に繋ぎ役の遊女がいる事。今は沙穂が張り込みをして他の繋ぎ役との接触を待っているという事。
 襲撃は開拓者が柊真を迎えに行ってから一度もなかった。
「だが、他にも襲撃者がいる。油断は出来ない」
 麻貴が言うと、珠々も輝血も少し硬い表情となる。