蔓に縛られし花
マスター名:鷹羽柊架
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: やや易
参加人数: 6人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/03/31 17:30



■オープニング本文

 日が暮れれば、風に当たらぬように秘め事の如く蝋燭の火を手で守りながら提灯に灯を点す。
 小さな提灯に数多くの火が点れば街全体を照らす灯となる。
 綺麗な着物を着て、白粉や紅で飾った女達が店に降り、男達は線香一本分の時間を買いに来る。
 ここは此隅内にある遊郭だ。

「緋桃?」
 男が杯に口をつけて遊女の言葉を返した。
「ウチの女郎部屋にいる子でありんすが、えらい気を落としてまして、可哀想なんでありんすぇ」
「男か?」
 酒を流し込み、にやりと男が笑えば、遊女はくすりと微笑む。
「よく会いに来てありんすと聞いていんした。身請けするのも時間の問題と噂がありんした」
「その男が消えたから探してほしいか」
 男が結論付けると遊女は一層笑みを浮かべ、頷く。
「遊郭に来て女の時間だけ買うお人なら、これくらいは許せると思いんす」
「俺にとっては当たり前の事だ」
「こなたのわっち、架蓮を抱かない男なんてまことにオツでありんすなぁ」
 疲れて言う男に架蓮と名乗った遊女は袖口を手に当てて笑う。遊女は店でも五指に入る上流遊女。美しい姿と肢体の為に男達は金を払う。だが、この男はそうはしなかった。
「紡げば縄に、編めば袋に、絞れば油に、粉になれば人を惑わす薬となる‥‥」
 唐突に架蓮が呟けば、男は動きを止める。
「わかった。伝えておく」
 負けたと言わんばかりに男は肩を落とした。
「本気なんでありんすね」
 折れると思ってなかったのか、架蓮は驚いたように目を見張と、男は恨めしそうな視線を送る。
「粉の匂いを落としてからの方がいいと思いんすよ。後々が怖いでありんすから」
 人事の様に言う架蓮に男は苦々しい顔をして立ち上がった。

 数日後、鷹来折梅が開拓者ギルドに現れた。緋桃の想い人を見つけ出し、事情を知った折梅は開拓者に向かって貰おうとしていた。
「酒蔵ですか?」
「ええ、そこで春酒を出す準備をしているらしく、手伝いに行ってほしいのです」
 雅な風合いの桃の柄の着物を着た折梅は春を先どった服装をしていた。
「分りました。あら、確かここは‥‥」
 場所を確認した受付嬢は首を傾げた。
「アヤカシが出ます。それと、酒蔵の若旦那に緋桃が待っていると伝えて下さい」
「はい」
 頷く受付嬢に折梅は満足そうに頷き、目を伏せる。
「少しでも状況打破できればいいのですけどね。どっちの恋愛も」
「え?」
 書き物をしていた受付嬢が顔を上げる。
「何でもありませんよ」
 静かに折梅は首を振った。


■参加者一覧
滋藤 御門(ia0167
17歳・男・陰
鷹来 雪(ia0736
21歳・女・巫
珠々(ia5322
10歳・女・シ
輝血(ia5431
18歳・女・シ
御形 なずな(ib0371
16歳・女・吟
劉 那蝣竪(ib0462
20歳・女・シ


■リプレイ本文

「恋の匂いにぃ誘われて〜
 詩ぁ歌う〜春の蝶なずなちゃんが〜
 やぁってきたでぇ〜♪」
 楽しそうに歌いながら現れたのは御形なずな(ib0371)だ。
「ごめん。嘘」
 全員の反応の薄さに素直に謝るなずな。
「別にいいのよ。私は人の恋路を邪魔しようとするアヤカシが許せなかったんだもの☆」
 片目を軽やかに瞑り、長い睫を揺らすのは緋神那蝣竪(ib0462)。
「折梅様、お元気ですか?」
「この間は楽しかったわ。またああいうのがやりたいわね」
 依頼人に挨拶をと思っていた滋藤御門(ia0167)よりも開拓者に会いたいと思った折梅は出発前の開拓者達に人目会おうと姿を現し、白野威雪(ia0736)と輝血(ia5431)との再会を喜んでいた。
「まぁ、今回は華やかなのですね♪ 女性ばかりお受けする事があるのですね」
 年若く華やかな面々に折梅ははしゃいでいるが、開拓者の視線は御門に行っている。
「‥‥僕、男性なんですけど‥‥」
 申し訳なさそうに言う御門に折梅は目を丸くして驚いた口元を手に当てる。
「あらあら、それは失礼しました。お気を悪くされたでしょう。ごめんなさいね」
「慣れてますから」
 謝る折梅に御門が首を振る。
「しかし、春を遮るなんて許せませんね」
「アヤカシはいつだって無粋だよね」
 無表情のまま、怒りを現す珠々(ia5322)に肩を竦めるのは輝血だ。
「ええ、このままだと、春酒が出せませんからね」
 微笑む折梅が珠々に渡したのは桃の枝。だが、その枝に咲く花は緋桜のように紅い。
「そう仰るならば、持って行ってあげなさい」
 珠々は折梅に言われるまま差し出した両手の上に楚々と横たわる桃の枝を見つめ、折梅を見上げてこくりと頷く。
「それでは、皆さん、宜しくお願いいたしますね」
 微笑む折梅を置いて開拓者達は移動した。

●無知は無粋?
 渡された地図を片手に開拓者達が歩いていく。街を過ぎて、少し街道を歩く。此隅へ繋がる大きな街道でもあるこの道は旅姿の者も多くいて、人通りが多い。
 女にしか見えない面子が六人も歩いていると、よく人から気をつけろと声をかけられる。珠々においては金平糖まで貰う始末。
 小さな小道へ折れて進む先は少し薄暗い林の中。
 特に何も変わっていないのにどこか茂みが濃く感じるのは警戒の所為だろうか。酒蔵は此隅郊外よりそんなに離れてはいないが、遠くにも感じる。
「えっらい、陰気やなぁ」
 嫌そうに言葉を出すのはなずなだ。
 春先の外気ではない肌を冷ますそれに気づいている。
「近いんでしょうね」
 人魂を使わずとも御門も感づいている。
「早く片付けましょう」
 きゅっと、唇を一文字に引き締めた雪が言う。

 程なく歩いて、酒蔵の屋根が見えた頃にその二匹は現れた。大きさは珠々同等の高さであるが、幅はその倍。刃の部分も広げたらそれ以上だ。
 即座に動いたのは輝血と珠々だ。シノビ特有の素早さを用いて、動きを撹乱させる。珠々が左に動けば、輝血が二匹の脇を通る。食事にありつけると思っただろうアヤカシは前足の刃を振るう。
 白魚の如くの白い手をたおやかに伸ばし、巫女服の袖を風をはらんで揺らすのは雪の神楽舞。同時に高らかに武勇の曲を吹いて雪の神楽舞と共に味方の志気を上げるのはなずなの曲だ。アヤカシの右前足の刃が雪へ向けられようとした時、その刃を弾いたのは御門が持つ刀だった。
 後衛となる女性陣を護るのは唯一の男性である御門は刀を手にし、アヤカシへ向かっていた。
「女性にまで手を上げようとは無粋の極みですね」
 普段の温和な笑顔を消して厳しい表情で御門が言った。更に刃を下ろそうとするアヤカシの足元に投げつけられるのは那蝣竪の手裏剣だ。
「さぁ、大人しくするんや」
 なすなが奴隷戦士の葛藤をすかさず奏でると、アヤカシが怯んだのを見逃さずに右前足を閃光が走る。醜い液体を迸らせ、刃が一本、アヤカシより離れて地に落ちる。閃光は御門の左手が放った斬撃符。
「一本落ちた」
 確認するように輝血が呟いた。珠々が前足一本落ちたアヤカシの背後に回りこみ、背後を取る。持ち上げると、重量はあったが、持ち上げられない事はなかった。いけると察知し、一気に力を込める。
 小柄な少女に持ち上げられようとするアヤカシに気づいた輝血はもう一匹のアヤカシの横を飛び、そこに弓を持ち、アヤカシの足元を雪が狙う。雪が放った矢はアヤカシの足に当たり、矢の異物感に気づいたアヤカシが後足を上げると、地に付いているもう一つの後足を目掛け、後衛にいた那蝣竪が飛び出して切り落とし、即座に間合いを取る。
 支えるべき足が無くなり、アヤカシは地に落ちた。その連携は珠々が持ち上げるまでの時間で済んだ。
 瞬間、珠々が飯綱落しを決めると、アヤカシ同士がぶつかり、落とされたアヤカシが地に落とされた反動で残った前足でもう一匹のアヤカシの身体を刺してしまった。
「タマ! 離れな!」
 鋭い輝血の言葉に反応した珠々が即座にアヤカシから離れると、輝血が地より炎を疾走らせるように火遁を発動させた。身悶えるアヤカシはそのまま燃え尽きようとしたが、両手が残っているアヤカシが最期の一報いが如くに腕を振り、輝血を狙おうとした。
「輝血さん!」
 狙われた輝血がたまたま気づかなく、先に動いたのは御門だった。輝血を突き飛ばし、御門がその刃を弾いた。
「とどめです」
「イケナイ子にはお仕置きよ☆」
 静かに怒りを顕にする珠々と言葉は茶目っ気はあるがその殺気は戦慄を覚えるに十分な那蝣竪がそれぞれに攻撃した。
 アヤカシの息の根を止めたのを確認すると、なずなが勝利を讃え、蟷螂の歌を唄いだす。
「また失敗や‥‥」
 どうやら気に入る曲ではなく、なずなはがっかり肩を落とす。
 輝血がじーっと、アヤカシを見つめる。
「いかがしました?」
 雪が輝血の様子に気づき、声をかける。
「いや、蟷螂だったから、お尻からハリガ‥‥」
「お食事中だったら危険よーっ」
 最後まで言う前に那蝣竪に止められた。

●春の岩戸ではないけれど
 酒蔵に着き、引き戸を開けようとすれば、つっかえ棒がしてあるような感触がした。
「皆さん、大丈夫ですか!」
 御門が引き戸を叩いて声をかける。
「助けに来たでー!」
「開けてくださいっ。もう大丈夫ですからっ」
 なずなと雪も戸を叩くが戸の向こうでは嘘だだのと何か信じてくれないようだった。
「んー、いっちょ脱ぐ? 昔、引きこもりの何かを引っ張り出すのに女が裸踊りしたんだって?」
「そんなら、実況する」
 輝血の提案になずなが頷く。
「せんでいい!!」
 つっかえ棒を外して男が怒鳴ってツッコミを入れた。
 最初は警戒していたが、アヤカシが倒れた話をし、六人が開拓者である事を示せば、全員が喜んだ。
「嘉月さんはどちらに?」
 尋ねる雪に出てきたのはさっきツッコミを入れた男が嘉月らしい。すっきりとした切れ目であるが、力が強く、鼻筋も通っていて、体躯もしっかりしたものだ。
「嘉月サンって、本当に男前なのね!」
 はしゃぐ那蝣竪に嘉月は驚いて照れてしまう。
「伝言を届けに参りました」
 御門が言えば、珠々が前に出て、差し出すのは緋色の華を咲かせた桃の枝。戦闘にて少々散ってしまったが、まだ花は残っていた。恐る恐る手に取る嘉月は信じられないようだった。
「緋桃様は心配されているとの事です」
 雪が言えば、その後ろでなずなが哀愁漂う唄を歌っている。
「後は出荷だけだよね。手伝うよ」
「助かる」
 輝血が言えば、嘉月は頷く。

 アヤカシの襲撃を恐れ、中断していた出荷作業へと移る。
 基本的には大樽に入れるのだが得意先の要望により、小さめの樽に入れる事もある。
「うわ! 樽が歩いている!」
 男衆が驚いていると、ちょっと樽が方向転換する。見えたのは珠々の横姿。
「あー!ダメダメ! それは腰を悪くする!」
 ほっとする男衆だが、即座にツッコミを入れるのはなずな。
「腰に力入れたろ。そんなんじゃ痛めるんや」
 脇は出来る限りしめるように、で、膝の屈伸を使って持つと楽やなどと珠々に助言している。楽器より重たい物は持てないと言っていたなずなであったが、元は農家の娘であり、加えて開拓者。それなりに力はあるし、疲れないコツを知っている為、珠々に懇切丁寧に教えていて、他の男衆も娘のような年齢の珠々にあれやこれやと助言を始めている。
 そんな姿をほほえましく見ているのは雪だ。
「雪ちゃん、これは黄色の紙に高砂って書いてくれ」
「はいっ」
 彼女は汲まれ、集められた樽に封の意味も込めて水を吸った和紙を貼り付けている。乾いた和紙に得意先の小売店の名前を書いている。
「いやー、まさか、女の子達がアヤカシを倒すとはねぇ。可愛い顔をしているのに、あんなに力があるんだね」
 雪に指示をしておいた男が見るのは、長い髪を結わえ、襷掛けをして樽を運ぶ御門の姿。
「あの方は殿方ですよ‥‥」
 ぽつりと雪が呟けば、これ以上も無く目を見開いて男は驚いた。
「ま、仕方ないよね」
 猫車を押しつつ、輝血がその様子を冷静に呟いた。
「ああっ。いいわね‥‥美男美女が汗を流し働く姿を見るのは‥‥」
 眼下に広がるのは美男美女が袖をまくり、腕を出しては作業に勤し無姿。御門の汗が首筋を通り、鎖骨へと辿り着きそうな時に勢いよく振り返る首筋は後れ毛が幾筋が張り付き、普段の清廉な姿とはかけ離れ、眩しくも艶を出している。駆け寄った先はなずなだ。樽の蓋を沢山重ねて持っており、あと少しで崩れそうだった所を御門が支えて整えている。
 その横では樽を持ち上げようとしている珠々を見かねて輝血が声をかけている。額びっちりに汗をかいた珠々が手の甲で汗をぬぐい、頷く。二人で持ち上げて樽を運び、雪の下へ置く。
 うっとりと目を輝かせて見つめているのは那蝣竪。両手で持っているのは大きな盆に載せられた一口で食べられる俵結びと手軽につまめられるようにと油揚げに具をつめた煮物と玉子焼き。
 早よ持っていってやれ。
「ん、那蝣竪さん?」
 首を傾げる雪の姿に気づいて那蝣竪は正気を戻す。どこかに意識が飛んだとしても料理は手放さない。
「あ、そうね! 皆ー! お疲れ様ーーー!」
 那蝣竪の声に皆が振り返り、食事にありついた。
「おー! うめーー!」
「久しぶりのまともな料理!」
「食ってても食った気がしなかったよなー!」
 がつがつ食らう男衆は今にもむせび泣きそうになりながら食べている。
「ちゃんと噛んで下さいね。はい、お吸い物です」
 那蝣竪の配膳を手伝うのはだ。作り手の希望では蛤だったが、林の中では手に入らなく、三つ葉と刻んだ麩を入れた吸い物となったが、これもまた美味だった。
 賑やかな雰囲気とは裏腹に真剣な眼差しなのは珠々だ。見つめるのは那蝣竪が作った油揚げの煮物。煮物といえば、アレが入ってくるのは先刻承知。とりあえず、訊かないと‥‥
「あの、これ人じ‥‥」
 言い終わる前に輝血が更に珠々の口を開けて油揚げの煮物を放り投げる。
「‥‥‥‥‥‥!」
 もぐもぐ噛み締めるのはあの橙色のアレの甘み。
「‥‥食べられるように千切りにしたんだけど‥‥駄目だった?」
「好き嫌いするから背が高くなれないんだよ」
 遠慮がちに言う那蝣竪に対し、呆れる輝血。その隣では悶絶している珠々を宥める雪の姿があった。
 腹ごしらえが終われば、酒倉を一度片づけをしてから酒を入れた宴会に入る。
 その時には別に肴を用意する。今回用意したのは嘉月だった。大根を細く糸状に切り、茗荷と青紫蘇も細かく切り、水に晒してから水気を切り、さっと醤油と削りたての鰹節をかける。春の七草を採取した天ぷらを添えて。
「さぁ、ウチの酒だ。とくと味わってくれ!」
 嘉月が言えば、全員が大喜びで杯を掲げた。珠々はまだ未成年だからお茶で乾杯。
「ま、もうちょっとしたら飲めるよ。飲めるようになるのは色々と便利だからね」
 慣れた仕草で飲む輝血に珠々はこくんと頷く。
「嬢ちゃんはこれだ」
 渡されたのはほんわか温かい酒の香りが漂う饅頭。兎の形をしていて、耳や目に食紅で色をつけている。
「ウチの酒粕で作った饅頭だ。人参は入ってないよ」
 警戒されているのをわかって嘉月が言えば、珠々は手の平サイズの饅頭を四つに割って確認している。嘉月の言う通り、人参は出てこなく、一口頬張る。柔らかい酒の香りと餡子の甘さが程よく温かく、染み渡るような気がした。
 これが美味しいという物だろうか。
 味を理解できない珠々はじっと饅頭を見つめる。
「美味いか?」
 にかっと、嘉月に微笑まれ、珠々は流されるように頷き、気づいた時には頷いた後。
「そうか」
 嬉しそうに笑う嘉月に珠々はむず痒そうな顔をした。
「そう言えば、見受けさなれるとか」
「ああ、聞いたのか。そろそろ‥‥申し出ようと思う」
 御門の言葉にこくりと頷く嘉月であるが、その表情は曇っている。
「障害でもあるのですか?」
 心配そうに尋ねる御門に嘉月は困ったような顔をしたが、すぐに笑う。
「ま、店が落ち着けば大丈夫だろうよ」
「緋桃ちゃんも、嘉月サンの顔を見たら元気になるわよ♪」
 茶目っ気たっぷりに言う那蝣竪に嘉月が頷く。
「しっかし、暢気に飲める酒って思ったより美味しいんだね。‥‥意外だ」
 確認するように輝血が呟けば、なずなが徳利の注ぎ口を差し出す。
「何も気兼ねなく飲める酒は最高や! 今まで知らなかったのが勿体ないな!」
「うん。そうだね」
 なみなみと注がれる杯を見つめながら輝血が呟いた。杯を口につければ、直ぐに空となってしまうが、砂金の粒ほどの欠片かもしれないがほんの僅かに何か満たされた気持ちになれたのは酒の所為かもしれないと輝血は決め込んだ。
 なずなが歌い、御門が笛を吹けば、雪が舞を披露する、その様子に皆が手を叩いて囃子をたてて、宴会は過ぎていった。

 何人かは酒を持って行き、嘉月を含む半分の男衆が荷台を引き、樽に入った酒を此隅へと持っていく。
 その夜、ようやっと緋桃に会えた嘉月は泣きじゃくった顔の緋桃に迎えられた。

 解散した開拓者達ではあったが、雪は折梅に会った。桜霞を意匠した着物を着た折梅は雪からの贈り物である春酒が入った徳利を手にしていた。
「嬉しいわ、雪さん♪」
「折梅様のお眼鏡に叶えば」
 本当は外の人が行くというなら辞退する予定を口にすれば、折梅はあらっと、心持ち荒げるように声を上げた。
「それなら誘えばいいのですよ」
「それもそうですわね」
 ささ一献と、雪が折梅にお酌をする。一口飲んだ折梅は満足そうに頷いた。
「‥‥心配してくださる方がいるのは嬉しい事ですわね」
 雪の表情が翳るのは記憶のせいだろうか。雪を見て、折梅は静かに笑う。
「私だって、雪さんを心配しておりますよ?」
 意外な言葉に雪は驚き、二人で笑い合った。

 誰の直ぐ傍に春は来る‥‥
 冴え冴えとした月がそう告げるようだった。