寄り添い逃げる者
マスター名:鷹羽柊架
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/01/07 16:26



■オープニング本文

 武天のとある町に一組の仲のいい夫婦がいた。
 男は腕のいい畳職人で、女は縫い物の内職と家事に勤しむ主婦。
 周囲の誰から見ても幸せそうな夫婦。男は風早といい、女は桔梗と言う。
 だが、男には秘密があった。元盗賊という過去だ。
 腕もよく、体術に優れた男であり、盗賊団内では誰からも慕われる存在だったが、夫婦となる事を決めた女の為に盗賊団を抜けた。
 離れた場所で二人は夫婦となり、幸せに暮らしていた。
 だが、風早の前に一人の男が現れた。
 もう一度盗賊をやらないかと。
 風早は固辞した。女房の為に盗賊をやめ、幸福な暮らしを手に入れたのに、何故今更。
 一度目はそのまま去ったが、何度も男は来た。
 断る度に纏わりつく視線が強くなる‥‥


「引き抜きか‥‥」
 溜息をついた鷹来沙桐は壁に背を凭れていた。
「ええ、俺が聞いたのはそんだけです」
 以前捕縛した佐治が自分に情報を引き渡そうとした者が他の盗賊にも声をかけているという話を聞いたのは先ほどの事。私事で頭を痛めていた沙桐にとって丁度いい気分転換だ。
「了解したにしろ、断ったにしろ、奴等なら殺しに行きそうだな」
 先日、命を狙われた佐治が神妙に頷く。
「‥‥あの、旦那?」
「ん?」
 恐る恐る佐治は沙桐に話しかけるが、当人はお前も食べるかと、豆大福を差し出す。ありがたく頂いた佐治は慌てて話を戻す。
「旦那までここに入るのはどうかと思うんですが‥‥」
 沙桐は牢の中に入っており、奥の方の壁に凭れて話を聞いていた。
「面倒くさい仕事を押し付けられそうになってさ。ちょっとかくまってくれよ」
 お願いというように沙桐が片手を上げる。
「‥‥まぁ、いいですが‥‥」
 疲れたように佐治は溜息をついた。


■参加者一覧
北條 黯羽(ia0072
25歳・女・陰
雪ノ下・悪食丸(ia0074
16歳・男・サ
水鏡 絵梨乃(ia0191
20歳・女・泰
犬神・彼方(ia0218
25歳・女・陰
月城 紗夜(ia0740
18歳・女・陰
御神村 茉織(ia5355
26歳・男・シ
輝血(ia5431
18歳・女・シ
ルーティア(ia8760
16歳・女・陰


■リプレイ本文

●守るが為の不信
 目標が住んでいる街は小さいながらも賑やかで治安もよさそうな街と行商人の格好をした御神村茉織(ia5355)はそんな感想を思った。
 大きな通りを進んで行くと、長屋が並ぶ場所にたどり着く。子供達が楽しく駆け回り、井戸前で幼子を背負った母親が声をかけていたり、何人かが集まって井戸端会議を行っていたりして、至極普通の光景を横目で見て、更に奥に進む。
 目的の場所を見つけた茉織は家の周囲を一度見回ると、茉織は溜息をついた。空き長屋に隠れているのだろうが、影が見張っている事を告げていたからだ。とりあえずは一人確認したと思い、戸を叩く。
 開けて来たのは茉織とよく似た体格の男だった。彫りの深い顔立ちに鋭い瞳は素人ではない事を伝えるのには十分な眼光を持っていた。確かに、男前と言われて当然の外見だ。彼こそが風早当人だ。
「行商か?」
「へぇ、入用なものがございましょうと思いましてねぇ」
 にこやかに断言する茉織に風早は顔を顰める。
「特に入用なものはないが‥‥」
 風早も影に気づいてはいる模様で、茉織を仲間と思ってか警戒している。
「あの影から逃がす事が出来ますぜ」
「何者だ‥‥」
 すんなりと通してくれると思っていたが、警戒の念は解けない風早の疲労感を茉織は感じ取って溜息をつく。
「開拓者だ。鷹来という人物よりお前さん方夫婦を守るように言われた。もし何だったら、開拓者ギルドにでも、依頼人の所でも行こうか?」
 剣呑とした風早の瞳が伏せられる。
「入れ」
 そう言われて茉織はようやく入れた。中にいたのは妻と思われる桔梗だ。確かに別嬪だと茉織は心の中で頷き、目礼だけした。
「あの‥‥ウチの人は‥‥」
 恐る恐る尋ねる桔梗に茉織は少々困ったような笑顔を見せる。
「安心してくれ。少々窮屈な思いはするかもしれねえが、俺達が守るからよ」
「鷹来家って言えば‥‥」
「別に、アンタをどうこうするって話じゃねぇよ。恋女房と幸せに暮らしてるお前を守りたいだけだって」
 風早が口を出そうとすれば、茉織は違うと言わんばかりに手を振る。
「‥‥信じるしかないようだが、こいつに傷一つつけるもんなら容赦はしねえ」
「しねえよ。そっちも分かっているだろう?そろそろ痺れを切らせそうだって」
 茉織が見据える先は戸の向こうにある影。風早もまた、ゆっくりと頷いた。

「風早ってぇやつぁ、随分やられているようじゃぁねぇかぁ?」
 ぷかりと、紫煙の輪を浮かべたのは犬神彼方(ia0218)。茉織は静かに頷いた。
「でも、怪我の類がなくて何よりだよね」
 安堵の表情を浮かべた水鏡絵梨乃(ia0191)は、好物の芋羊羹を頬張る。
「とりあえず、手順は伝えたんでしょ?」
「ああ、明日は水鏡と俺が行く」
 輝血(ia5431)が茉織に確認を取れば、彼が家に向かう仲間を指名した。
「それじゃ、後から入るよ」
 口に出したのはルーティア(ia8760)で、月城紗夜(ia0740)が同意と頷く。
「で、鷹来の家の別邸の確認は?」
「とりあえず、使えるみたいだな。でも、鷹来は家の者はいないが、気づいたら楽しむ者がいるからとかなんとか言ってたな」
「何の事でしょうね」
 首を捻る北條黯羽(ia0072)と雪ノ下悪食丸(ia0074)。話によれば、面倒な仕事に捕まってしまっていたらしく、連れてってほしかったようだが、二人は別邸の許可の確認だけしてきた模様。
「鷹来‥‥楽しむ‥‥」
 ぽつりと輝血が言えば、思いついたのはあの凛とした容貌の老婦人。苗字が同じである事から、可能性は否めない。

●欺く道筋
 翌日、医者に扮した絵梨乃と茉織が風早の家の前に現れた。出てきた風早は二人を中に入れた。
 建物から様子を伺っている男は医者が家の中に入っていくのを見て、首を傾げていたが、その後に女が二人入っていくのを見た。
 暫くして、笠を被った男と女が出てきた。着物は先ほどの医者の物であり、遠目からは先ほどの二人のような気もする。遠くで彼方達が隠れているのには気づかなく、追おうとも思ったようだが、役目を思い出して男は妙な医者達の後姿を見ているだけだった。

「‥‥出し抜けたぁとは思えはぁしねぇがぁ‥‥」
「追っ手はないようだな」
 遠くに忍んで医者達の姿を見つめているのは彼方と黯羽。その少し向こうには輝血がいる。道は鷹来の別邸に続いており、別邸には悪食丸が詰めている。
 道はそれなりに人通りがあり、大きな背丈に市女笠を目深に被り医者の格好をした者に襲い掛かると言うのは人の目に残るだろう。
「とりあえず戻るよ」
 追っ手はいないと確信した輝血が二人の近くに寄り、切り上げを言うと、二人も頷いた。
 その道辺りに輝血達がいなくなったのを悟ったかのようにひらりと、季節外れの蝶が舞い、横道へ消えて行った。
 襲撃に遭う事もなく、医者達は無事に鷹来の別邸に辿りついた。
「こんにちは、風早さんと桔梗さんですね」
 悪食丸が出迎えると、風早が頷く。戸を閉めると、彼はようやっと市女笠を外した。桔梗はそんな風早を見て噴出して笑っている。
「桔梗‥‥笑うなよ‥‥」
「だって、お前さんたら可笑しいんだもの」
 それはそのはず、医者の格好をしていた茉織の着物だけを借りる予定だったのだが、紗夜が黙々と白粉を塗り、唇に紅を塗り、市女笠を被せた。白粉を落とすべきと思った者はいたが、時間がないという事でそのまま出させてしまったのだ。
 ここの所、緊張感を隠せなかった風早に気づいていた桔梗がようやっと笑顔を見せた事に少々ほっとした所もある。
「なぁんだぁ? 楽しそぉだぁな」
 続いて勝手口から帰ってきた彼方と黯羽が笑い声に気づき、玄関の方へ歩いてくると、彼方も風早の様子に噴き出してしまう。
「随分と‥‥別嬪になっているよぉだな‥‥」
 笑う彼方に黯羽がよせと言わんばかりに裏手で彼方の二の腕を叩く。
「今の所は大丈夫みたいだけど、油断は禁物だよ」
 傍から見ていた輝血が呆れて見ている。
「どこで見られているかわかんねぇだろうし、中に入るとするかねぇ」
 黯羽が両手を広げて皆を中へを入れる。その様は一家の奥方のようだった。

 一方、残った茉織達は微妙な雰囲気を持っていた。
 それは勿論、見送った風早の事。
 先に入った茉織達が着物を取替え、鷹来の別邸の道順を教えていた頃、ルーティアと紗夜が入ってきた。紗夜は白粉を風早に塗り始め、紅を差し出した。茉織がぎょっとしたが、紗夜は敵の目を欺く為と言う。時間も押している事もあり、二人を出すしかなかった。
 桔梗が病気をしたと言う事にして、風早は数日間、親方より休みを貰っていた。勿論それは嘘だ。合理的に風早が世間と隔離できる上手い口実だ。
 道中は彼方達がいるから大丈夫だろうが。
 夜に入り、病気の桔梗がいる事を前提としているので、明かりをすぐに落とした。
 じっと、息を殺していると、外で物々しい気配に気づく。ルーティアが立ち上がれば、茉織が戸の前に張り付き、一気に戸を引く。目の前には三人の男が匕首やら刀を持って立っていた。
「たぁ!」
 戸が開くと同時にルーティアが飛び出し、槍を横薙ぎに振るう。男の一人が槍から逃げるように後退するが着地地点を想定していた茉織に取り押さえられる。
 もう一人がルーティアの槍をすり抜け、家の中に入り込めば、目指すは布団の中にいる桔梗へ。匕首を振りかざした時に布団が上がり、男が虚を突かれ、驚いている所に絵梨乃の踵落しが布団より決まる。
 最後の一人はルーティアの攻撃より何とか逃げていたが、目の前に黒い蝶がゆったりと男の視界を奪っていく。
「ぐ‥‥っ」
 男は崩れ落ちた。黒い蝶は紗夜の白い手の中にある式より生み出されたものだ。
「情報、吐いて、もらう」
 ぽつりと、紗夜が呟いた。
 荒縄で男達の腕を縛り上げて、紗夜が口を開く。
「盗賊は、誰なの‥‥」
「し、知らねぇ」
 首を振る男に紗夜は静かに口を開く。
「人間、には、鍛えられない場所、ある‥‥」
 ひやりとした匕首が男の爪と指の間に当てられる。その匕首は男が持っていたもの。ひやりとしたそれが当たれば、男は目を見張る。
「はい、そこまでー」
 暢気な男の声がした。紗夜の手より匕首が取り上げられる。その声の主は沙桐だった。
「だめだよ。こんな事しちゃ」
「盗賊が誰か聞くべきだろう?」
 ルーティアが言葉を返すと、沙桐は首を振った。
「ここはどこ?」
「風早と桔梗の家」
 沙桐の問いに答えたのは絵梨乃。
「情報を引き出すのもいいけど、場所を考えようね。見た所、赤茶の髪の男がいないね」
 はっと、気づくのは茉織だ。主犯と思わしき男は赤茶の髪の男の姿がなかった。
「向こうに報せてくる!」
 早駆を使って、茉織は別邸へ向かった。

 鷹来家別邸にいるもう一班は外を警戒しながらも和やかな雰囲気でいた。
 外に出られない窮屈な生活ではあるが、鷹来の別邸は普通の家よりは広く、かえって二人を恐縮させていたが、彼方の気さくな気遣いは特に桔梗を和ませていた。
 よく見れば、彼方は女性なのだが、一見は男のように見えるので、こっそり風早が妬きもちを妬いていたのは悪食丸が知っていた。
「桔梗、疲れただろう。風呂に浸かるといい。護衛は私がつくが了承してくれ」
「はい」
 幾分か慣れた桔梗は笑顔で頷き、立ち上がる。殿を守るように黯羽も立ち上がり、彼方もそのままついていく。
「‥‥旦那、何でついて来る?」
「そりゃ、おめぇ、俺も一緒に」
「入らんでいい。ち〜嬢と一緒に待ってなさい」
 ごく当然に言う彼方にきっぱりと言い捨てる黯羽。二人の掛け合いを見て桔梗がまたくすりと笑う。打ち捨てられたように彼方はしょげた表情となる。
「ケチー。いーよーだ。輝血に抱きついて癒してもらうしー」
 言った早々に輝血を膝抱っこしする彼方に輝血より非情な台詞を一つ。
「二千文」
 輝血の事だから、本気で取るだろう。
 それを聞いた悪食丸が高いと思ったかは定かではない。

 風呂を終えて早々に夫婦を休ませているが、開拓者達はまだ起きていた。夫婦の護衛なので夜襲も考えられるからだ。
「向こうは大丈夫ですかね」
「相手が裏をかかない限りはぁ、大丈夫だろぉなぁ」
 悪食丸が呟けば、胡坐をかいて煙管を咥える彼方が答えた。
「裏ねぇ‥‥」
 溜息をつき黯羽が窓の外を見れば、聞こえるのは鳴子の音。悪食丸が仕掛けた罠に引っかかった者がいる。
「気づかれたか!」
 悪食丸と輝血が音の方向に向かうと、人影を確認する。敵と理解できたのは瞬時の事。人数は二人。
 一人が踏み出し、輝血の懐に飛び込み、背負い投げるが、いつの間にか起きていた風早に輝血は受け止められ、間合いを取る。
「‥‥志体持ち‥‥」
 輝血が呟くと、赤茶髪の男は刀を抜き、風早に斬りかかる。
「させるか!」
 横から出てきた黯羽の呪縛符が赤茶の男の左腕を絡める。
「ぐっ!」
 赤茶髪の男は右腕を動かして懐の匕首を出そうとするが、輝血に止められた。
 隼人を使った悪食丸は俊敏さをが上がったのを利用し、左右の反復運動を使って相手の目を眩ましていた。相手はそのまま悪食丸に突っ込み、刀を突き出す。悪食丸は右に回りこみ回避し、相手の刀は彼方の槍が弾いた。男は悪食丸が取り押さえた時に茉織が現れた。
「そっちも気づかれていたか」
 苦虫を噛むように茉織が侵入者を見やる。
「そっちもかぁ」
「今、鷹来が来るだろうから」
 彼方が言えば、茉織が言う。役人が来るならそっちに引き渡せばいいという判断だ。茉織の言葉に誰も否定はしなかった。

●誘いの撃
 暫くしてから沙桐達が現れた。風早の家に押し入ってきた者達は牢の中に入らせてから来たらしい。赤茶髪の男を見てから風早を見る沙桐。
「大丈夫か?」
 ルーティアが風早に声をかけると、彼はこっくりと頷く。
「桔梗さん」
 絵梨乃が廊下の柱にしがみついて腰を抜かしている桔梗の姿を見つけた。風早が慌てて桔梗の傍に向かう。
「桔梗」
「お前さんっ」
 ひしっと抱きつく二人は仲良し夫婦。
「抱きつくかぁ、黯羽」
「仕事中」
 誘いかける彼方であるが、黯羽はつれなく断る。
「ホント、仲良いね」
「大切に、する、事は、悪い、事じゃ、ない」
 対照的な二組を見て輝血が呆れて、紗夜が呟いた。
「ま、とりあえずは無事でなりよりだ」
 にっこり笑顔で沙桐が言った時、閃光が走る。不意の攻撃であり、誰もが動けなかった。その閃光は赤茶髪の男に命中し、男はぐらりと上体を揺らし、倒れた。
「砕撃符か!」
 黯羽が叫び、誰もが閃光の方向を見たが、庭向こうの道をひた走る音が聞こえる。
「逃がすか!」
 茉織と輝血が走り出した。
 明かりもないが、暗視を使って走ってはいるが、二つ目の角を曲がった所で姿を見失ったしまった。土地勘を持てない二人は辺りを見回してもそこには人の姿はなく、茉織は苦々しく顔を顰める。輝血は無理を悟り、茉織に戻る事を促した。

「すまねぇ‥‥逃した」
 茉織が素直に言えば、沙桐は首を横に振った。
「ううん、仕方ないよ。追ってくれてありがとう」
 労るように沙桐が茉織の肩を叩く。
「いいの? 逃がしたままでいても」
 首を傾げる絵梨乃に沙桐は頷くと、月は雲に隠れてしまう。
「とりあえず、護衛は遂行できたんだからいいとしよう」
 沙桐が事を締めた。茉織は急ぎで遺体を運ぶ為の板と人手を連れてくる。手早く悪食丸と沙桐が手伝いつつ、遺体は回収され、残った男も無事に連行した。
 一番後ろを歩くのは沙桐だ。
 夜目の利く茉織と輝血が少し前を歩き、周囲を警戒している。
「闇ってのは厄介だよね」
 溜息をつくのは輝血。
「一回抜けても追ってくる。野暮な話だ」
 茉織も同意して嫌そうな顔をしている。
「大事な奴が居んなら、地べた這いずっても生き延びないとな。覚悟持って逃げたんだ。俺は護ってやりてぇよ」
 二人が低い声に驚いて振り向けば、冷笑する沙桐の表情を垣間見た。輝血にはへらへらした青年なのに赤の他人を大事に想う老婦人が見せた冷笑と似ていた。
「三人とも、急ぎましょう」
「今行くよー」
 悪食丸が急かせば、沙桐はいつもの表情となり、にっこり微笑む。

●摘まれた不安
 翌日、風早夫婦は開拓者達に何度も礼を言った。それほどまであの目は不安の芽だったとも思えた。家に戻っても風早夫婦を襲う目はなかった。
 再び訪れた幸福な日々に夫婦は深く感謝をしている。