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■オープニング本文 ※このシナリオはエイプリルフール・シナリオです。 オープニングは架空のものであり、ゲームの世界観に一切影響を与えません。 武天は此隅の開拓者ギルドに一人の老婆が現れた。 受付員は老婆の為に入り口近くの受付席へと案内する。 「いやですね。確かに老婆でありますが」 くすくす笑う老婆は鷹来折梅という。よくこのギルドで依頼を出していた者だ。 最近は筋力も衰え、外出も侭ならなかったようだが、今日はかなり調子がよかった模様。 しかし、胆力だけは衰えなく、背筋もぴんとしていた。 「今日の依頼は何でしょうか?」 受付員が尋ねると、温泉宿に行こうとしていると言い出した。 「湯治ですか?」 「ええ、古くからの友人が女将をしている温泉館でしてね。皆で行こうとしているのですが‥‥」 折梅の表情が曇ると、受付員は首を傾げる。 「温泉宿の近くでアヤカシがでるそうです」 「そうでしたか、では、護衛というところですね」 「ええ、お願いします」 折梅の様子を見た受付員はじっと、彼女を見つめる。 「私に何かついてますか?」 オウム返しよろしく折梅が受付員の方向を見つめると、受付員は「すみません」と謝った。 「折梅様、なんだかとても楽しそうで」 理由を告げる受付員に折梅はにっこりと微笑む。 「開拓者に会えますから」 その笑顔はとても無邪気なものだった。 初めて開拓者ギルドに依頼を出したときのように‥‥ 温泉宿には団体客が入っていた。 とはいえ、住んでいるところが別々なので日にちを変えて続々到着する。 「よう、久しぶり」 「元気そうね」 「老けたなぁ」 「人の事は言えないだろ」 そんな話し声が聞こえる。 「折梅様、まだなのよね」 「先にやってていいってさ」 「開拓者達を連れてくるんでしょう?」 先に着いた連中が宴会を始めちゃっているようです。 皆さまも宴会へお待ちしてます。 |
■参加者一覧
玖堂 真影(ia0490)
22歳・女・陰
鷹来 雪(ia0736)
21歳・女・巫
御樹青嵐(ia1669)
23歳・男・陰
珠々(ia5322)
10歳・女・シ
輝血(ia5431)
18歳・女・シ
溟霆(ib0504)
24歳・男・シ |
■リプレイ本文 その日、溟霆宅ではつつがなく依頼への準備をしていたが、溟霆(ib0504)は少々戸惑っていた。 戸惑いの原因とは、妻の紅霞。 今回の依頼人である折梅は武天の繚咲という土地の領主の妻をしていた。 領民から慕われ、香雪様と呼ばれている。 紅霞は彼女に仕えるシノビの娘、折梅に敬意を捧げていた。 折梅の護衛とあれば、真っ先に飛んでいくのに今回は「道中、香雪様をお願いします」と託される。 三人目の子供も無事に生まれ、子育てに忙しいのだろうと自身を納得させた。 「行ってくるよ」 「行ってらっしゃいませ、旦那様」 妻と子供達に手を振られ、溟霆はは武天の開拓者ギルドへ向かう。 武天のギルドでは嬉しい再会もあったようだ。 「真影様!」 「元気してた?」 久しぶりの再会に玖堂真影(ia0490)と鷹来雪(ia0736)は笑顔となる。 二人で折梅の姿を探すが、今の所は見当たらない。 言葉が落ち着くと、真影がくすりと笑みを零す。 「真影様?」 ふと、雪が首を傾げる。 「初めておばあちゃまの依頼を受けた時も一緒だったなって」 「そうでしたね」 雪が頷くと、折梅がゆっくりと姿を現した。 はじまりはここ、此隅開拓者ギルドからだった。 開拓者達も小さな変化があった者や大きな変化があった者がいる。 「あやめさん、ご懐妊おめでとうございます」 折梅の祝福にあやめはまんざらでもなく嬉しそうだ。 開拓者、輝血(ia5431)の名でいた時とは違う柔らかい笑顔を見せている。 「無理は禁物だよ」 「分ってる」 溟霆が声をかけると、あやめは応じる。 今、彼女の胎内では新しい命が育まれていた。 「ゆっくりと行きましょう」 御樹青嵐(ia1669)があやめの手をとる。 「タマ‥‥は、何だかそれどころじゃなさそうだね」 あやめが珠々(ia5322)の方を見やれば、切羽詰った様子を見せてなんだか近寄り難い。 アヤカシの様子を探ろうと周囲を見やった真影の視界に飛び込んだ景色が記憶と結びつく。 「ここ、変わってないですね」 「ええ。覚えてますよ。開拓者の皆さんの雄姿を」 折梅が見つめるのは過去の自分達だろうか。 「開拓者の力は姿はとても自由だと思いました」 繚咲が閉鎖的な血筋であるのを知る者は多い。それゆえ、折梅は羨望を抱いたのかもしれない。 「その中でも真影さんはとても元気で可愛らしかったですよ」 「嬉しいですけど、照れちゃいますね」 真影の金の瞳を見て真正面から感想を伝える折梅に真影は照れ隠しに笑顔となってしまう。 「真影さんから見て、私はどう思えました?」 「おばあちゃまの事は『粋で素敵な方だな』って♪」 質問を返された真影は即座に返す。 「あたしの中の理想のおばあちゃまが折梅おばあちゃまだったんです」 「あら、理想ではなく、私は真影さんの事を友人であり、可愛い孫と思ってますよ。勿論、旦那様も弟君も、いずれは曾孫も抱かせてくださいね」 更に告げる折梅の言葉に真影は照れて頬を朱に染めてしまう。 「真影さんともそうですが、雪さんとも長い付き合いになりますね」 友人であり、名実共に孫となった雪に折梅は話しかける。 「そうなりますね。お付き合いが長ければ共にする話も増え、お酒は進みますから」 折梅の酒好きを知ってても心配するのは身体のこと。 「心配性であるのは心得ております。おばあさまを想っておりますのよ」 「いつもありがとう、雪さん。陽香さんも繚咲に慣れてきたと窺っております。雪さんは慣れましたか?」 「はい、皆さまのお陰です」 雪の言葉に折梅は安心したようだった。 折梅の胆力が体力を上回っても、体力は体力。少しでも長く生きて欲しい、二人の曾孫をかわいがってほしいと雪は願うばかり。 「見えてきましたね」 青嵐があやめの手をとって見たのは今回の宿だった。 ● 開拓者達を迎えてくれたのは溟霆にとって驚きの顔だった。 「皆さま、お疲れ様です」 「おつかれさまですー」 神楽の都で留守番中であった愛妻と子供達がそこにいた。 「紅霞!? 子供たちまで!」 驚く溟霆の姿はとても珍しい。当人は差し金だろうかと言わんばかりに折梅の方を見やるが折梅は何食わぬ顔で紅霞と溟霆の子供達、曾孫達の出迎えに目尻を下げて応えている。 「折梅に狐の耳や尻尾が生えてても驚きはしないかな」 「折梅さんですから」 青嵐、あやめ夫妻にそう言われ、溟霆はため息をつく。 「旦那様、黙ってて申し訳ありません。折梅様よりこっそり来るようにと言われておりまして」 「驚いたけど、嬉しいよ。子供達の移動は大変だっただろう」 素直な感想を伝えると、紅霞は「子供達は繚咲のシノビ達がおんぶして早駆で連れてってくれた」と答えた。なんとも手筈のいいものだと溟霆は呆れる。 「あやめ、大丈夫か?」 「ん、まぁね」 身重のあやめを気遣いつつ、麻貴が座椅子に座り心地よい座布団やひざ掛けを用意する。 「まー、あたしまでも母親になるとは思いもよらなかったけど、何とかなるものだね」 「葛先生も来ていらっしゃるので大丈夫です」 温かいお絞りを渡してくれたのは緒水。 「定期健診もあとでやるからね」 葛が開拓者と折梅の分のお茶を用意している。 「キズナなら、火宵様達と庭に居るよ」 淹れられたお茶を配りつつ、未明が珠々に声をかける。言われた当人は身体を硬直させている。 「いい加減、決着をつけたらどうだ」 なんかもう色々と諦めた柊真が珠々に声をかける。 珠々当人は色々と唸っている。 間接的接吻事件よりキズナの接近率は微妙にあがっている。 そもそもキズナは火宵の母と共に上原家に身を寄せているのだから、理穴に居れば顔を合わせる事もある。 自分より小さいキズナの印象しかなかったのに、いつのまににゅうにゅう背が伸びて一人前のシノビとなっている。 奥義を編み出したシノビという自負が珠々の中にある。 彼は逃さないと言ったのだ。 「う、受けて立ちます‥‥」 おお! と皆の声が上がる。 「おとうさん、おかあさん! 白無垢をお願いします!!」 「そこまで許してない!」 柊真の即座のツッコミは珠々には聞こえてない。窓から飛び降りて珠々は目標へと突き進む。 目的の人物は中庭にて季節の花を楽しんでいて、珠々は足を止めた。 まるで、幸せそうな家族の姿で話しかけるのに戸惑ってしまう。 「よぉ」 振り向いたのは目的の標的の父親‥‥じゃなく、養い親の火宵だ。 「お疲れ様、大変だったでしょう」 火宵に寄り添うように立つのは満散。 「はい‥‥」 いつかの日には見れなかった光景。 「珠々、来てたんだ」 嬉しそうに笑う標的もとい、キズナに珠々は複雑そうな顔をしている。 「キズナ、あまり喜んでないぞ。何をしたんだ」 「火宵様に言われる事はありませんよ」 しらを切るキズナが何をしたのか身をもって知る珠々はびしぃとキズナに指をさした。 「勝負です。キズナ‥‥!」 一方、大人達は子供の話で大盛り上がり。 育児の話はどの家でもある話のようで、医師もいるので意見交換会と化していた。 「長男は美形に育つな」 真影持参の子供の絵姿に麻貴と沙桐が絶賛する。 「あーい」 「ありがとー♪」 麻貴の子供である柊誠が真影に一口饅頭を渡す。 女好きは折梅か、柊真の父親か意見が分かれるらしい。 「顔立ちはお父さん似ですけど、瞳の色はお母さん似なんですね。やっぱり、麻貴さん達が羨ましいなぁ‥‥ウチ、顔は似てても髪の色が違ってて‥‥」 ため息混じりの真影に沙桐は弟くんの様子を尋ねる。 結婚後、子供を儲けて幸せに暮らしているという話を聞き、元気そうでよかったと嬉しそうにしている。 隣の部屋ではあやめが葛の健診を受けていた。 「良好。でも、油断は禁物。特に貴女は」 心配の眼差しにあやめは頷く。身重というだけではないのはあやめも分っている。 「本当は、葛先生に取り上げて欲しい‥‥青嵐の仕事もあるからうまくはいかないだろうけど」 あやめの言葉を聞いていた葛は「気にしなくていいわよ」とだけ言った。 「伝を頼ってそっちの診療所で出産までの間、そっち行くわよ」 立ち会う気満々の葛にあやめは安心したように頬を緩める。 「よかったですね、あやめさま」 あやめの定期健診の手伝いをしている雪が言えば、あやめは嬉しそうに頷いた。 広間に戻れば、火宵と満散が戻ってた。 「珠々来なかった?」 「今、大騒ぎしてる」 耳を澄ませばシノビ同士の追いかけっこが行われている。 「だ、大丈夫でしょうか‥‥」 「窓から顔を出したら危ないよ」 雪が窓の方を向くと、沙桐が止める。 心配であるが、二人の関係がよい地点で決着をついてほしいとは思う。 「あんたとしてはどうなの?」 あやめの言葉に火宵はとても楽しそうであった。 「つれて来た頃からお前達の話してた。会って見たいとよく言ってたぞ。特に珠々の話は食いつきがよかった」 原因はお前かという視線が火宵に注がれるが、当人は全く気にしてない。 若い人たちに任せて‥‥ということで、温泉に入ったり酒飲みをはじめてしまう。 溟霆が子供達をつれて温泉へ向かう姿はとても微笑ましい。 「子供達は溟霆様の事が大好きなんです」 「慕われているのがよくわかります」 紅霞が言えば、雪が頷く。 「雪ちゃん、陽香頼むね」 「わかりました」 当の陽香はあやめが気に入ったのか、彼女の傍にいる。 「何で? 好かれてるの?」 「あやめ様が好きな私の娘ですから」 納得したあやめは陽香を撫でる。 「あなたに託したのが間違いだったのか分らなくなりますね」 ため息混じりに火宵の杯に酒を満たすのは青嵐が手にした銚子。 「いい男に育っただろう?」 にやりと笑う火宵に青嵐は「全く」と言って火宵の杯を受ける。 「相当無茶しやがったな。もう、動けねぇだろ」 火宵が示唆するのはあやめのこと。 もし、あの五年間、何をするか告げれば彼は手を貸す可能性を否定しない。 彼女自身、彼女が背負う罪と共に自身も背負うと決めたのだから。 火宵は待たなかった。 待てずに人の道から外れた。 彼女を探し出すという選択肢に目が眩むも、踏みとどまった。 それが火宵との決別とも思えたから。 「お前は、強いからな」 火宵が青嵐の杯を満たす。 「それほどあります」 あやめを迎え入れ、共に生涯を歩んでいるのだ。 強くなければ出来ない事。 「火宵、いたいた。キズナ君、頑張ってるようだね」 シノビ達は超越聴覚を使ってキズナと珠々の追いかけっこというか、戦いを聞いている。シノビじゃないもの達はシノビ達から聞いて盛り上がっている。 「ああ、もう夕暮れだからな、そろそろ来るだろう」 宿に着いたら驚かせようとしていた溟霆だが、火宵はキズナの様子の変化に気づいて問いただしたらしい。 「抜け目ないな」 「あいつも一丁前に恋が出来てるんだ。それに勝る喜びはねえよ」 穏やかな目をする火宵を見なくても彼がキズナをどれだけ大事にしていたかはキズナを見ればわかる。 「キズナの事は開拓者と約束したからな」 そう言って火宵は杯の中の酒を飲み干した。 外の二人は主に珠々が一方的にキズナを追いかけてきた。 珠々がキズナを捕まえようと考えており、交戦している。 「捕まえてやります!」 歴戦の開拓者である珠々の様子は凄い気迫であり、逆上しているようにも思える。 今では監察方では上位に入る武力を持つキズナにとっては珠々の動きを見極めるのが精一杯。珠々に怪我をさせたくない、その一心だ。 「二人とも、いい加減にごはんですよ」 折梅が顔を出すと、キズナは止まり、勝利を確信した珠々がキズナの胸ぐらを掴む。 「私の勝ちです。おとうさんとおかあさん、柊誠と私の家族みんなと、ちゃんと家族になるなら‥‥」 「柊真さんと麻貴さん、柊誠と家族のようだったし、本当の家族になりたいと思うよ。けど、珠々は兄弟の意味での家族になってほしくない。奥さんじゃないと嫌だ」 言葉を遮り告げるキズナの言葉に珠々は目を見張る。 「ぼくは、珠々の事をずっと好きだったんだよ」 彼は胸ぐらを掴む珠々の手を解き、自分の手の中にすっぽり納まらせて立ちすくむ珠々の前に片膝をつく。 「ぼくと夫婦になってください」 見上げるキズナは初めて見た少年の時を思い出すほどまっすぐだった。 自分の胸はドキドキして止まらないし、頭もぼうっとする。 「‥‥して‥‥してあげます‥‥」 自分の言葉を聞いてキズナは嬉しそうに笑って指先に口付けを落とす。 「じゃ、折梅様や火宵様に挨拶しないとね!」 「え」 言うやいなや、キズナは珠々を抱きあげて折梅の方までかけ上がる。 「折梅様、珠々さんを頂きたいです。承諾をいただけますか」 あれ、自分が報告するはずなのに何故、キズナが言う? 珠々は言葉を出そうともテンパって声が出ない。 「ええ、自慢の曾孫です。よしなに」 キズナは珠々を抱きかかえたまま、火宵に折梅から結婚の承諾を貰ったと自慢をして、柊真に「これからだ!」と息巻かれた。 自分がしようとしてたのに何だか上手く出来なくてキズナの腕の中でじたばたする。 「話が纏まってよかったわね。渾身の祝いの舞を踊るわ!」 「真影様、一緒に舞っても?」 「勿論!」 真影と雪の舞が始まろうとすると皆が楽器を持ち寄り、伴奏を始める。 句倶理の舞は更に華やかさと厳かさが増して見事だった。 舞が収束しようとしたが、二人の舞は別の舞へと繋がげていく。 二人の動きを察知し、音を変えていく。 春の舞い散る桜を表現し、華やかかつ、儚く舞い踊る。 夏の前の梅雨を真影が舞傘を使い、雪が千早を使って川のせせらぎの涼しさを表現する。 秋の侘しさを二人で寄り添い支えあう。 冬の雪の白さは雪がキズナと珠々の前に舞い寄り、加護結界を発動させる。 千早の効果で白い燐光が舞い落ちる。 二人を祝福するように。 「ありがとうございます」 「‥‥ありがとうございます」 祝福に二人は雪達に礼を告げる。 「お幸せに」 真影と雪の声が仲良く重なった。 「おばあちゃま、舞は如何でしたか?」 「よい舞でした」 喜んでくれる折梅に真影は感激して折梅に抱きついた。 「あたし、おばあちゃまに会えて嬉しかった! 本当に大好きです!」 「私も大好きですよ。真影さんも皆さんも」 折梅もぎゅっと抱きしめる。 皆の心が幸せになるような舞の中、抜け出したのはあやめと青嵐。 「楽しいけど、疲れるね」 「今日は楽しかったですね」 「親って大変だねって、蹴ってきた」 「きっと、楽しんでいたと思いますよ」 青嵐があやめごと包むように後ろから慈しむように腹を撫でる。 「名前、何にしようか」 二人の会話は優しい夜風がさらっていく。 遊び疲れて眠る陽香を沙桐に抱かせた雪が視線を巡らせば、やはりいた。 「おりましたのね」 時を刻み、時が過ぎてもそれは変わらず、可憐に咲く白い葛の花。 変わらぬ夢の思い出を見守るように――。 |