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■オープニング本文 ※注意 このシナリオは舵天照世界の未来を扱うシナリオです。 シナリオにおける展開は実際の出来事、歴史として扱われます。 年表と違う結果に至った場合、年表を修正、或いは異説として併記されます。 参加するPCはシナリオで設定された年代相応の年齢として描写されます。 天儀歴1015年 弥生の神楽の都では梅が散り、桜の花の蕾がぷっくり膨らんできた頃。 護大をめぐる戦いが終わってもやはり開拓者ギルドという存在は必要だ。 今日も開拓者ギルドには依頼人になろうと来る者、依頼を受けようとする開拓者達が現れている。 「沙桐様」 依頼を見繕っていた沙桐に声をかけてきたのは開拓者仲間のミカドだ。 「麻貴の祝言、あの子が来ていたよ」 「すみません」 沙桐が言えば、ミカドは申し訳なさそうだ。 「分ってるよ。俺も麻貴も。だから、あの子が来てくれた事が嬉しかったんだ」 彼女の事をほめられて彼は嬉しそうだった。 「柊真に麻貴をやるのは納得いかないが仕方ない」 朗らかな表情から険しい表情を見せる沙桐にミカドは困った表情を見せてしまう。 そんな日から五年の歳月が経過した。 風のウワサでは沙桐が当主としての仕事を全うする為、繚咲へ戻る準備をしているとか。 それでも開拓者ギルドはまだまだ存在している。 開拓者をしている者がいれば、そうではない者もいるだろう。 時は秋。 きつい日差しが和らぎ、穏やかな天気となる今日この頃。 あなたはどこで何をしていますか? |
■参加者一覧
鷹来 雪(ia0736)
21歳・女・巫
御樹青嵐(ia1669)
23歳・男・陰
珠々(ia5322)
10歳・女・シ
輝血(ia5431)
18歳・女・シ
溟霆(ib0504)
24歳・男・シ
フレス(ib6696)
11歳・女・ジ |
■リプレイ本文 理穴首都奏生にある上原家の屋敷に娘が帰ってきた。 「お帰り、珠々」 麻貴が柊誠を伴い、珠々(ia5322)を迎え入れようとすると珠々は動かない。 「どうかしたのか?」 「おかあさん、どうしましょう‥‥」 困り果てた顔をする麻貴は座って話そうと促した。 歴戦の開拓者としての実力を持つ珠々であっても抱えている問題は難解。 事の発端は今年の春の花見で珠々が結婚に興味を持っていると冗談めかした事から始まった。キズナが珠々に近寄る男達を片っ端からなぎ倒していると口にした。 キズナが珠々に好意を持っている事がようやく珠々に伝わった。 半年の間、自分の生活を第三者的に見れば確かに、多分、所謂「虫」が寄ってきていた。 キズナは影で睨みを利かせており、キズナの洗礼を受けた後は珠々に近寄る事もない。 逃げに逃げ回った珠々はこの半年間、キズナと会ってなかった。半年以上会わない事もあったのに長い任務に入ったような感覚というか、どんな顔をしていいのか分らない。 いつも困った時は相談していたおとうさんには聞けない。 逃げ道を塞ぐように問われるのは必死。 葛や折梅、開拓者仲間に話を聞いたが全くもって答えは出なかった。 「おかあさん、こまってます‥‥」 心細く呟く珠々はとても可愛らしかった。 ● 溟霆(ib0504)は妻と子供の様子を見つつ、繚咲への道を歩いている。 子供達はいつもいる街から離れて別な景色が見れることをとても喜んでいた。 「紅霞、大丈夫」 「大丈夫です」 現在、紅霞の胎内には第三子がいる。 男でも女でもいいから無事に育ってほしいの一言につきる。 一度目は双子だったのもあり、出産の時はとても大変だった。 双子を生んでからも母子共に元気健康。 「香雪様に会えるのは嬉しいですね」 「折梅殿、管財人の役職を緑萼殿に引き渡すようだからね」 紅霞が浮き立つのは此隅に在住する折梅が繚咲にいる事だ。 繚咲にいる両親や緑萼にも会いたいが、折梅にも会えるのはとても嬉しいようだ。 鷹来の本屋敷に行けば、折梅、緑萼、両親が待っててくれた。 「大きくなりましたね」 折梅が双子を可愛がっており、紅霞は「失礼のないように」とハラハラしている。 「我々にとってもそなた達の子は孫も同然。気にすることはない」 緑萼が穏やかに言えば紅霞は胸をなでおろす。 「しかし、時期が少々悪かったな。あと数日ずらせば雪殿達に会えるのに」 「それは残念、また機会はあります。今回は挨拶に来たのは、開拓者業をやめようと思いまして」 溟霆の本題に皆が目を見張る。 「その後はどうするのだ?」 「麻貴君より誘われまして、理穴に行こうかと」 「なんだ、繚咲に来てくれないのか」 少々残念そうに言う緑萼に折梅は「溟霆さんが気を使うでしょう?」とやんわりと遮った。 「溟霆殿の実力あらば、監察方でもやっていけるだろう」 そういうわけではないのだが、溟霆はやんわりと笑って過ごす。 客室にて子供達が眠ってしまった後、溟霆は妻を抱き寄せる。 秋の夜長は冷えが忍び寄る。 溟霆の腕の中に収まった紅霞は夫の温もりに安堵と共にもたれ掛かる。 「理穴に行ったら、小料理屋でもやろうか」 「いいですね」 「僕が作るより、紅霞が作った方がいいね。いい女将になるよ」 男の料理といえば、別の料理上手を思い出す。 今はどこにいるのだろうか。彼女とうまくやっているのは知っている。 「まぁ、溟霆様の料理もいいと思いますよ。古来より、刃物仕事は男の役目ともいいますから、一緒に作りましょう」 溟霆が思っている事を察した紅霞が返す。 「そうかい? そうだね、一緒がいいね」 「はい」 仲むつまじい夫婦は楽しく未来の姿を紡いでいく。 ● フレス(ib6696)は子供を連れて上原家へやってきた。 五年前、麻貴の祝言に現れたフレスはまだあどけない少女であったが、今では珠々同様に大人の女性へと美しく成長を遂げている。 「麻貴姉さま、珠々姉さま、ご無沙汰しております」 そっと三つ指を突いて流れるように礼をする姿はため息を溢さんばかりである。 「ちゃんと、お作法もできるようになったんだよ」 はにかんで言う笑顔は昔のままとても愛らしい。 「旦那様も来る予定だったんだけど、都合が合わなくて、二人できました。さ、ご挨拶しましょう」 「こんにちは」 母に促されたフレスの子供はぺこんと頭を下げる。 「みせい、です」 当人が名を名乗ると麻貴も珠々も「しっかりしている」と微笑ましく見つめる。 「旦那様と私のこちらの方での漢字を当てはめたんだよ」 漢字だと「御星」となる事をフレスが伝えた。 「私の方は柊誠という。残念ながら、父親似でな」 「かわいいんだよ」 フレスに微笑まれて柊誠は嬉しそうに声をあげた。 「麻貴姉さま‥‥って、この呼び名を直したいけど、中々‥‥」 直そうとしていても中々直る事のないのがクセである。フレスがうーんと、顔を顰めると麻貴は笑う。 「姉さま呼びがあってもなくても、私はフレスちゃんと呼ぶし、上も下もない。好きに呼んでくれ」 麻貴の言葉にフレスは照れ隠しに笑ってしまう。 「旦那様、麻貴姉さま達に会いたがってます。いずれ、必ず行くと言ってます」 「待ちきれなくなったら会いに行くよ」 頷く麻貴にフレスはいつもの麻貴姉さまだなと思っていると、柊誠が御星の所にやってきて、中庭へと誘う。 中庭には秋の花が咲いており、子供たちは声を上げて喜んでいる。 「次の世代が楽しみだな」 目を細める麻貴にフレスと珠々は頷いた。 ● 春の花見の時、沙桐は妻である鷹来雪(ia0736)に繚咲に戻る旨を伝えた。 雪は沙桐と共に在り、娘の陽香と共に繚咲へ行く事を決意している。 妻の想いに沙桐はとても喜んでいた。 旅立つ前、雪は娘を伴い、開拓者ギルドへと向かう。 受付で待つと陽香が母の傍から離れていった。 「いけません、離れてしまいます‥‥」 雪が娘を追うと、その向こうで男が娘を抱きとめる。 「目元が雪さんによく似てますね」 微笑むその陰陽師は雪もよく知っている。死線を共に駆けた開拓者。 「 」 雪がその名を口にしたが、ギルドの喧騒に紛れてしまう。 会わせたかったのだ。 彼に。 三領主は雪と陽香の来訪をとても喜んでいた。 泉は無事に貌佳の領主となり、今も奮闘中。 「おばあさまにもお会いできて嬉しいです」 今回、雪達の挨拶は鷹来家管財人の任を緑萼に譲る打ち合わせも兼ねていた。 「沙桐さんも雪さんも繚咲にいるのですから、安心して譲れますよ」 「是非、次の子も抱いてください」 「まだ死ぬ気はありませんよ」 雪の胎内には次の新しい命が宿っている。 三領主達の会合も終えて雪は屋敷の最上階に上がっていた。 ここから繚咲が一望できる。 日が傾き、夕日が繚咲を染めていた。 沙桐が雪に羽織を着せる。 「ここに住むのですね‥‥」 「うん」 「‥‥私は繚咲の皆さんと家族のようにいたいです」 なくした記憶の向こうには家族がいたのか思い出せないが、今は触れられるほど近くに家族がいる。 膝に眠る我が子同様にこの街に住む人々を守りたい。 「領地の皆は俺達の事を喜んでるって。有権者は程良くあしらっていいから」 「家族ですもの、つきあいます」 微笑む雪に沙桐は「凄いなぁ、雪ちゃんは」と笑う。 「俺、雪ちゃんと子供達がいるなら、この街が好きになれる」 麻貴を見放し、有権者が己の利の為に命のやりとりをするようなこの地を何より憎んでいた。 沙桐のシスコンも落ち着いたと思いきや忘れた頃に出てくる。 焼き餅でも妬くべきかと思案しても「雪ちゃんが好きだよ」と必死に伝える沙桐がおかしくてつい笑ってしまう。 「雪は、沙桐様を愛してます」 ぽつりと雪が沙桐の目を見て囁く。言われた当人は、はにかんで「俺もだよ」と陽香を起こさないように囁き、そっと雪の唇に自身の唇を重ねる。 「沙桐様、お腹の子の名前、考えてくださいましたか?」 「うん。男なら「藤哉(とうや)」ってどうかな」 沙桐の提案に雪は嬉しそうに頷いた。 ● 御樹青嵐(ia1669)とあやめは二人揃って武天某所にある葛の診療所へ向かった。 「輝血ちゃん‥‥」 「輝血様‥‥っ」 葛と緒水はあやめの前の名である輝血(ia5431)で呼び、葛は彼女を抱きしめる。 「葛先生、緒水、あたしはもう輝血じゃない。本当の名前はあやめっていうの」 「‥‥あなたに変わりないわ。はじめまして、お帰り、あやめちゃん」 生まれたばかりのわが子に話しかけるように葛は呼びかける。 葛の腕の中であやめはゆっくり頷いた。 今回の来訪に関して、此隅在住の緒水も一緒に呼びつけていた。 「緒水、祝言挙げてたんだね‥‥駆けつけてあげれなくてごめん」 あやめの謝罪に緒水は首を振る。 「また会えて嬉しいです」 「緒水さん、高篠さんは?」 青嵐の問いに緒水は「水入らずで楽しんでおいでと言ってて、席を外してます」とだけ言った。 「あやめちゃん、あなた、その背中‥‥」 葛の表情は青ざめており、あやめはさっきの抱擁で気づかれたと察した。 「五年間、姿を眩ましていたのは一族の人間達に輝血をやめたい事を納得させる為なんだ」 彼女はシノビだ。母体となる里と一族が存在する。 全員を納得させない限り輝血からは逃れられない。 戦う事でしか納得させることは出来ないだろうと彼女は考えてずっと旅をしていた。 歴戦の開拓者といえる彼女ですら勝てるか分からないようなシノビもいる。更に修行をして強くなって戦いを挑み、負かせていた。 「それでもしつこくてね‥‥」 蛇の一族とも言える里の者達は納得してくれなかった。 頭首の名を体現するようにしつこい。 「‥‥里の頭首は必ず蛇の刺青を入れるようになっている」 「え」 きょとんとしたのは緒水、今まで知らなかったのだ。 一緒に温泉に入った事もあるのに。 「まー、一部はあたしか背中を隠して入っているのに気づいてたようだけど。本当は一緒に風呂にも入っちゃダメなんだ」 だから、見ようとしなかったし、彼女自体がヘマをしなかった。 どんどん葛の顔から血の気が引くのがわかる。 「だから、あなたは‥‥」 「皮膚ごと蛇をこそげとった」 彼女の言葉に緒水は言葉を失った。 皮膚が裂けるだけでも少なくとも痛みを伴うのに皮膚が肉より剥がされるのは壮絶な痛みだっただろう。薬を使って感覚を麻痺させる事などはしなく、そのまま剥ぐと察するのは容易。 今は彼女の人妖が輝血となっている。二人で名前を入れ替えたのだ。 明るく前向きなあの子は一族を変える事に息巻いている。 「その背中は‥‥」 心配する緒水に彼女はゆっくり頷く。 「あんまり上手く動けなくてね。開拓者業はもう引退だよ」 ふと、あやめが葛の方を見やれば、彼女は固まっている。 怖がらせたと思って口をあけようとすると、葛はあやめの頬を両手を包み込む。 「駆けつけてあげたかった‥‥」 志体を持たない自分が何も出来ないのはわかっている。葛の想いにあやめは目を伏せる。 「痛くて喋れなくて、心の中で青嵐の名前を、皆を呼んでた。また会いたいと思ったよ」 生死の境目‥‥混濁した意識の中、それだけがあやめを支えていた。 ゆっくり、葛の瞳から涙が零れた。 「葛先生‥‥恥ずかしい話、あやめさんを幸せにすると断言できません。ですが、彼女と共に歩き、支えて生きたいます」 青嵐がゆっくりと葛に声をかけた。 「ええ‥‥お願いね‥‥」 何度も頷く葛は彼女の母親のようだ。 「私達の門出を見送ってほしいのです。勿論、緒水さんにも」 「それって‥‥」 はっとなる緒水と葛に二人は頷く。 「あたしと青嵐は結婚することになりました。二人とも、式には出てもらえますか?」 あやめの言葉に二人は即快諾してくれた。 「おめでとうございます、あやめ様。是が非とも行きます」 「白無垢の準備は大丈夫? 私のお下がりがまだあるけど‥‥なんだったら、兄さまに強請れば泉様と予定組んで、新品の白無垢用意してくれるに違いないわ」 盛り上がる緒水と現実的な葛の言葉に二人はつい、笑みがこぼれる。 「白無垢は考えとくよ」 折角だから泊まっていけと葛に言われて二人は甘える事にした。 青嵐の料理もよいのだが、今日は葛が手料理を振舞う。 ご馳走が並ぶ宴会ではないけど、ささやかな団欒は二人にとって心に残る夕飯だった。 「沢山食べましたね」 「うん、戻ってこられて半年は経ってるのに、こんな夕食ってなかったね」 「ええ」 戻ってきてから青嵐の仕事はあり、婚姻に関する手続きや開拓者業の手続き諸々の事で二人で奔走していた。 ゆっくり食事を取る事があっても、二人だけであり、皆で食べるという事が少なかった。 あやめはそっと窓を開けて夜空の月を見上げている。 「戻ってこられてよかった‥‥」 しみじみ呟くあやめに青嵐は彼女の隣に座り、手を握り締める。 「前を歩きましょう、明るい日の下で。いつか、家族が増えるかもしれませんし、ゆっくり歩いていきましょう」 「葛先生を年寄り扱いして怒られてね」 「孫は仕方ないことでしょう?」 くすくすと二人は笑いあって煌々と輝く月を見つめた。 ● 半年前の通り、珠々に求婚者がよく来ていることを実感した。 戸籍上は中の上の家の娘だが、母方は理穴国老中、羽柴杉明の孫。 逆玉の輿狙いを考える輩がいてもおかしくはない。 珠々の容姿に惹かれているものも男女問わずいるが当人は気にしてない。 そして、現在彼女の目の前にはキズナがいた。 若い士官に声をかけられている所に遭遇し、キズナが珠々を奪取した。 「珠々、嫌なことされなかった?」 「今されてます」 必死に平静を装う珠々だが、心中はいっぱいいっぱい。 誰か助けてと泣きたいレベル。 「離さない」 人目に付かない屋根の上に連れてかれてキズナは珠々を抱きしめる。 キズナより心臓の音が伝わり、こっちまでも心拍が高くなってしまう。 「婚期、遅れたら、責任とっ」 ぽかぽか叩き、叫ぼうとすると、キズナの手のひらで口を押さえられる。 「珠々、火宵様覚えてる?」 こくこくと珠々は頷く。 「満散さんの事、ずっと好きだったんだって」 知ってる。 その為に犯罪を犯したのだから。 「僕はそんな火宵様に育てられたんだ」 なにが言いたいのだろう。キズナは手を離していた。 「逃がさないからね」 珠々の唇を封じていた自身の手のひらを唇に合わせて不敵に笑うキズナはとても火宵に似ていた。 「にゃーーーー!!!」 顔を真っ赤にさせた珠々が自身が奥義、天津風を発動させた。 そのままで珠々は一目散に監察方へと駆け込み、五組の母の所に泣きつく。 黒猫と茶猫のおいかけっこは始まったばかり。 ※※※ フレスは御星を連れて神楽の都に戻った。 「おかえり」 彼女達を迎える穏やかな声にフレスは「ただいまなんだよ」と返す。 三人で帰ろう。 家へ―― |